WHITE PAPER|鉄鋼 × サステナビリティ
高炉を止められない中で、
脱炭素の道筋を
描けているか?
鉄鋼メーカーのための
電炉転換・水素還元製鉄に向けたロードマップ策定の実践フレームワーク
35% 2026年度 10万トン
製造業のCO₂排出量のうち、鉄鋼業が占め 排出量取引制度 制度の対象となる
る割合 (GX-ETS)の本格運用が始まる 年間CO₂直接排出量
本稿の内容 製造業の業種別CO₂排出量の構成(2020年度・%)
1 鉄鋼の脱炭素が「経営課題」になった理由
鉄鋼 35
2 カーボンプライシングと規制対応のロードマップ
化学 16
3 転換を阻む投資・技術・市場の壁
窯業・セメント 16
4 脱炭素ロードマップの4層フレームワーク
出典:資源エネルギー庁(国立環境研究所「日本の温室効果ガス排出量データ」を基
5 セルフ診断と次のステップ に経済産業省作成)
アクセンチュア株式会社 2026年 外部公開版
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EXECUTIVE SUMMARY
鉄鋼の脱炭素には、設備・調達・販売を同時に組み替える長期の経営判断が必要
鉄鋼業は、日本の製造業のCO₂排出量の35%を占めています。2026年度には、年間の直接排出量が10万トン以上の事業
者を対象に、排出量取引制度(GX-ETS)の本格運用が始まりました。排出にコストがかかる時代に入り、高炉を中心とした
製鉄プロセスの転換は避けて通れないテーマになっています。
本稿では、電炉転換や水素還元製鉄といった技術の選択肢を、投資・原料調達・顧客への供給を含めた経営ロードマップに落
とし込むための考え方と、段階的なアプローチを整理します。
Why 1
鉄鋼の脱炭素は「技術の課題」から「経営の課題」に
高炉は鉄鉱石を石炭由来のコークスで還元するため、工程そのものからCO₂が発生します。省エネや排熱回収といった従来の取り組みだ
けでは、CO₂排出量の大幅な削減は難しいのが実情です。
電炉への転換、水素による還元、CO₂の回収・貯留(CCS)は、それぞれ投資額・実用化の時期・原料の制約が異なります。どの製鉄
所で、いつ、何に転換するかは、製品構成と顧客への供給責任を左右する経営判断です。
図1 鉄鋼のバリューチェーンとCO₂排出のホットスポット
原料調達 製銑 製鋼 圧延・加工 出荷・顧客
コークス
鉄鉱石 転炉 加熱炉 物流
製造
高炉での 自動車・
原料炭 電炉 熱間圧延
還元 建材向け供給
使用後の
鉄スクラップ 焼結 二次精錬 表面処理
再資源化
CO₂排出:大 CO₂排出:中 CO₂排出:小
図1:CO₂排出の多くは、コークス製造と高炉での還元工程に集中しています(概念図)
35% 300~400社 約6割
製造業のCO₂排出量に占める鉄鋼業の割合 GX-ETSの対象と GX-ETSがカバーする
見込まれる事業者数 国内排出量の見込み
※出典:資源エネルギー庁(国立環境研究所データを基に経済産業省作成、2020年度)、経済産業省・各種公表資料。GX-ETSの対象事業者数とカバー率は見込み値です。図
1は概念図です。
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図2 鉄鋼の脱炭素を阻む3つの構造的な壁
第1の壁 第2の壁 第3の壁
投資 技術・原料 市場
巨額投資 ・ 回収期間 ・ 既存設備 水素 ・ スクラップ ・ 電力 価格転嫁 ・ 品種 ・ 顧客
・転換に巨額の設備投資が必要 ・水素還元は実用化の途上 ・低炭素鋼材の価格転嫁が難しい
・高炉の残存価値が高い ・高品位スクラップが不足 ・電炉で作れる品種の制約
・投資回収期間の見通しが立たない ・安価な脱炭素電源の確保が難しい ・顧客の要求水準のばらつき
投資の判断ができない 道筋が1つに定まらない 削減が収益につながらない
図2:投資・技術と原料・市場の3つの壁が重なり、転換の判断を難しくしています
Why 2
規制の流れを軸に、脱炭素への転換時期を見極める
2026年度から、排出量取引制度(GX-ETS)では、年間の直接排出量が10万トン以上の事業者の参加が義務となりました。対象は
300~400社、国内のCO₂排出量の約6割をカバーすると見込まれています。欧州でも炭素国境調整措置(CBAM)が2026年から
本格適用され、輸出品に炭素コストがかかります。
脱炭素への転換を先送りすることは、将来的なコスト増につながります。そのため、規制動向を踏まえ、設備ごとの転換時期を計画する必
要があります。
図3 鉄鋼の脱炭素をめぐる主な動き
2020年 2021年 2023年 2023年 2023年 2026年 2026年
1 2 3 4 5 6 7
2050年カーボン グリーン GX推進法 GX-ETSの EU CBAMの GX-ETSを本格導入 EU CBAMの
ニュートラル宣言 イノベーション が成立 試行開始 移行期間開始 本格適用
基金の創設
制度の整備 運用開始
図3:制度の整備が進み、2026年からCO₂排出にコストがかかる段階に入りました
脱炭素への転換の先送りが、将来的なコスト増につながる
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Why 3
脱炭素の転換は「製鉄所単位」では最適化できない
電炉への転換は、原料を鉄鉱石から鉄スクラップへ、エネルギーを石炭から電力へと変えることを意味します。製造できる品種も変わるため
、生産・調達・販売を横断して計画する必要があります。そこには3つの課題があります。
転換シナリオの比較評価
1 電炉・水素還元・CCS(Carbon Capture and Storage)の組み合わせを、投資額・削減量・実現時期で比較します。
原料と電力の確保
2 高品位スクラップや脱炭素電源について、長期調達計画を策定する必要があります。
顧客との価値の共有
3 低炭素鋼材の価値を顧客と共有し、価格と供給の条件を設計します。
図4 従来の脱炭素対応と目指す姿
従来の脱炭素対応 目指す姿
省エネルギー・排熱回収の積み上げで対応 製鉄プロセスの転換を計画的に進める
設備投資は製鉄所ごとに判断する 全社で転換の順番と時期を最適化する
スクラップは市況で都度調達する 原料を長期の調達戦略で確保する
CO₂排出量は年次で集計する 製品別のCO₂排出量を継続的に把握する
低炭素の価値を価格に反映できない 低炭素鋼材の価値を顧客に訴求し、販売につなげる
アプローチ
転換シナリオを比較し、全社のロードマップに落とし込む
技術ごとの投資額・削減量・実用化の時期を比較し、製鉄所ごとの転換シナリオを描きます。それを原料・電力の調達計画と顧客への供
給計画に結び付け、全社のロードマップとして管理します。それを支えるのが次の4層の仕組みです。
図5 鉄鋼の脱炭素ロードマップ 4層フレームワーク
Layer 4 経営・投資判断
投資配分 転換時期 資金調達
転換の順番・時期・投資配分を全社で決定
Layer 3 供給・販売の設計
低炭素鋼材 価格設計 顧客契約
低炭素鋼材の品種・価格・顧客との契約
Layer 2 原料・電力の調達
スクラップ 還元鉄 脱炭素電源
スクラップ・還元鉄・脱炭素電源の確保
Layer 1 排出量の可視化
工程別 製品別 排出枠
製鉄所・工程・製品別の排出量を把握
図5:排出量の可視化を土台に、調達・販売・投資判断を積み上げます
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図6 鉄鋼の脱炭素 実行ロードマップ
STEP 1 0~6ヵ月 STEP 2 6~18ヵ月 STEP 3 18ヵ月~
排出量の可視化と 全社ロードマップ 転換の実行と
シナリオの比較 と調達計画 継続的な見直し
工程別のCO₂排出量の把握 製鉄所別の転換計画 転換投資の実行管理
転換技術の比較評価 原料・電力の調達計画 CO₂排出量のモニタリング
排出枠の影響試算 低炭素鋼材の販売計画 計画の定期的な更新
転換の優先順位の明確化 投資・調達計画が明確になる 脱炭素を競争力に
図6:可視化・計画・実行の3段階で、脱炭素を経営のロードマップに変えます
STEP 1 CO₂排出の実態と選択肢を把握する
工程・製品別の排出量を把握し、排出枠の不足が収益に与える影響を試算します。電炉・水素還元・CCSなどの技術を、投資額・削減
量・実用化の時期で比較します。
STEP 2 転換の順番と調達を計画する
製鉄所ごとの転換時期を全社で最適化し、スクラップや脱炭素電源の長期調達計画を立てます。低炭素鋼材の品種構成と、顧客への
価格・供給の条件を設計します。
STEP 3 実行し、計画を更新し続ける
転換投資の進捗とCO₂排出量を継続的にモニタリングします。制度や技術の動向に合わせて計画を定期的に見直し、脱炭素を競争力の
源泉に変えます。
期待する成果
段階ごとに得られる成果
短期(0~6ヵ月) 中期(6~18ヵ月) 長期(18ヵ月~)
→ 工程別のCO₂排出量の把握 → 全社の転換計画 → CO₂排出量の計画的な削減
→ 排出枠の影響試算 → 原料・電力の調達計画 → 低炭素鋼材の収益化
→ 転換技術の比較 → 低炭素鋼材の販売計画 → 脱炭素による競争力の強化
※成果の時期は目安であり、対象範囲や状況により異なります
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セルフ診断
あなたの会社では、脱炭素に向けた経営ロードマップを描けているか?
以下の項目に1つでも当てはまる場合、転換の遅れによるリスクが潜んでいる可能性があります。
図7 鉄鋼の脱炭素 セルフ診断チェック
製品別のCO₂排出量を把握できていない
要対応レベル
→ 早急な対応が必要な可能性があります
排出枠の不足が収益に与える影響を試算していない 0
→ 早急な対応が必要な可能性があります 現時点では大きな懸念なし
電炉・水素還元などの転換技術を比較していない
1~2
→ 早急な対応が必要な可能性があります
注意が必要
製鉄所ごとの転換の時期が決まっていない
→ 早急な対応が必要な可能性があります
3以上
スクラップや脱炭素電源の長期調達計画がない 早急に着手
→ 早期の見直しをおすすめします
当てはまる項目の数
低炭素鋼材の価格・販売の方針が定まっていない
→ 早期の見直しをおすすめします
図7:紫の背景は早急な対応が必要な項目、灰色の背景は早期の見直しをおすすめする項目です
1つでも当てはまる場合 3つ以上当てはまる場合
転換の遅れによるリスクが潜んでいる可能性があります。まずは 脱炭素のロードマップ策定に早急に着手すべき段階です。転
、工程・製品別の排出量と、排出枠の影響を確認してください 換シナリオの比較から始め、調達と販売を含めた全社の計画
。 を立てることをおすすめします。
次のステップ
脱炭素ロードマップの現状診断から始める
鉄鋼の脱炭素は、すべてを一度に決める必要はありません。排出の実態と転換の選択肢を正しく把握することから始まります。アクセンチュ
アでは、排出量の可視化から、転換シナリオの比較、原料・電力の調達計画、全社ロードマップの策定まで、段階的に支援しています。
鉄鋼の脱炭素の進め方を、まずは相談してみませんか?
現状診断のご相談を受け付けています。お気軽にお問い合わせください。
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本稿のデータは公表情報・統計資料に基づきます。図は概念図を含みます。個別の投資・経営判断については、当社の専門家にご相談ください。
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