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進歩する有機化学

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酵素触媒は次の時代へ

生体触媒である酵素は、環境に優しく、工業用重金属触媒の代替としても非常に優れています。酵素触媒は多くの特長を持つ「グリーンケミストリー」と言えます。生分解性があり、再生可能な原料の発酵により製造可能1、または組換え技術によって大量生産も可能です2。
さらに穏やかな温度(20℃~40℃)・pH 条件(pH 5 ~ 8 )で化学反応に触媒作用を及ぼすとともに、水系溶媒下でも良好に作用します1。工業規模の酵素触媒を用いた有機反応の例としては、加水分解・酸化・還元・付加脱離・ハロゲン化・脱ハロゲン化・エステル交換などがあります。
ReactIRTMは、容易かつ迅速に化学反応に関する包括的なデータと解析結果を提供するリアルタイムin situ 反応解析システムです。実績豊富な中赤外分光法を用いて化学反応をモニタリングします。
反応容器に直接挿入する堅牢なATRプローブで採取する成分濃度変化は、“分子の動画”とも言えます。主要な反応物質と中間生成物の濃度変化を追跡することで、反応機構と反応経路の解明に役立ちます。

本稿で取り上げる3 つ事例では、医薬・学術・軍事それぞれの用途でReactIRTMを用い、リアルタイムに酵素触媒反応をモニタリングし、反応機構の理解、速度論的パラメーターの決定を可能としています。
ご紹介する各文献の科学的発見について詳しく説明するものではありませんので、それらはオリジナルの文献をご参照ください。今回はReactIRTMを活用した重要な研究課題の解決手段について詳細にご説明いたします。

このカタログについて

ドキュメント名 進歩する有機化学
ドキュメント種別 製品カタログ
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取り扱い企業 メトラー・トレド株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧)

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このカタログの内容

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進歩する有機化学 In Situ 分光法の最新適用例ご紹介 酵素触媒は次の時代へ Vaso Vlachos, Mettler-Toledo AutoChem, Inc. 生体触媒である酵素は、環境に優 脱ハロゲン化・エステル交換などが 本稿で取り上げる 3つ事例では、 しく、工業用重金属触媒の代替と あります。 医薬・学術・軍事それぞれの用途で しても非常に優れています。酵素触 ReactIRTMは、容易かつ迅速に化学 ReactIRTMを用い、リアルタイムに酵 媒は多くの特長を持つ「グリーンケ 反応に関する包括的なデータと 素触媒反応をモニタリングし、反 ミストリー」と言えます。生分解性 解析結果を提供するリアルタイム 応機構の理解、速度論的パラメー があり、再生可能な原料の発酵に in situ 反応解析システムです。実績 ターの決定を可能としています。 より製造可能1、または組換え技術 豊富な中赤外分光法を用いて化学 ご紹介する各文献の科学的発見に によって大量生産も可能です2。 反応をモニタリングします。 ついて詳しく説明するものではあ さらに穏やかな温度(20℃~40℃) 反応容器に直接挿入する堅牢な りませんので、それらはオリジナル ・pH条件(pH 5~ 8)で化学反応 ATRプローブで採取する成分濃 の文献をご参照ください。今回は に触媒作用を及ぼすとともに、水 度変化は、“分子の動画”とも言え ReactIRTMを活用した重要な研究課 系溶媒下でも良好に作用します1。 ます。主要な反応物質と中間生成 題の解決手段について詳細にご説 工業規模の酵素触媒を用いた有機 物の濃度変化を追跡することで、 明いたします。 反応の例としては、加水分解・酸 反応機構と反応経路の解明に役立 化・還元・付加脱離・ハロゲン化・ ちます。
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はじめに 2 官能基選択的パンクレアチン粉末触媒による 脱アセチル化反応 3 ケトンからラクトンへのバイヤービリガー生体内変換の モニタリング    7 有毒な有機リン酸エステルと 有機ホスホン酸エステルの酵素的加水分解   9 おわりに 12 はじめに  触媒は、化学・石油・農業・高分子・エレクトロニクス・製薬といった産業で、 化学反応プロセス最適化のために使用されています。化学物質の少なくと も90%が、何らかの触媒を使用して生産されていると考えられます4。 また近年では、触媒を含めたグリーンケミストリーへの注目が高まってい ます5。 酵素媒介の触媒作用は、単離された酵素、または細胞そのものを使用す ることによって利用されています。最近多く使われている固定化酵素は、 反応後に酵素を分離し再利用することでコストを低く抑えることができ ます1,6。 酵素触媒には環境上の利点に加え、工業的にも多くの重要な特長があ ります。堅牢であり、水系でも有機系でも安定に作用します。さらに化学 触媒反応と比べて低い濃度でより速い反応速度をもたらすため、非常 に効率的です。生物由来物質から非天然物質まで広範囲な物質と結合 でき、複数の酵素で連続的な生体触媒反応のカスケードを生じさせる ことも可能です。そして、酵素の工業用触媒としての最も重要な特長は、 選択性です。酵素は、官能基選択性・位置選択性・ジアステレオ選択性・ エナンチオ選択性を有し、基質の特定の官能基を標的にすることができ ます1,3,6。 ウェビナーのご紹介 ReactIRTM 45MおよびiC QuantTM による酵素的エステル 化の変換予測(英語版) 脂肪酸エステル生産工程へのオンライン FT-IR 分析の導入をとりあげまし た。無溶剤・高粘性条件下で、ノボザイム 435 を触媒として使用した新し いプロセスを開発し、パイロットスケールでの試験を行いました。 FT-IR を用いた操作パラメーターの最適化とプロセス制御用の分析法につ いて議論します。 無料オンラインセミナーの情報はこちら www.mt.com/esterification 2
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官能基選択的パンクレアチン 粉末触媒による脱アセチル化 反応 Application of chemoselective pancreatin powder-catalyzed deacetylation reaction in the synthesis of key statin side chain intermediate (4R,6S)-4-(tert- butyldimethylsilyloxy)-6-(hydroxymethyl)tetrahydropyran-2-one, Vincent Troiani, ek harmaceuticals社は、酢酸前駆体からラクトン化スタチン側鎖中間 体である(4R,6S)-4-(tert-but ldimeth lsil lox )-6-(h drox meth l) tetrah dro -2 H - p ran -2 - oneの合成のための官能基選択的な生体触媒 の利用法について報告しました。官能基選択的酵素による酢酸前駆体の 脱アセチル化を、水溶媒中で温和な条件下で達成し、本研究における比較 で化学試薬プロセスよりも優れていることを証明しました。ReactIRTMで反 応機構を研究し、反応条件や触媒量を最適化しました。  スタチンの年間売上高は 300億ド ルを超え、経済的に最も有用な治 療用化合物であり、多くの研究者が スーパースタチンの合成と構造: 主要ラクトン化スタチン側鎖前駆体: 関心を持っています。スタチンは、 キラル 3,5 -ジヒドロキシ - 6 -ヘプ ウィッティヒ反応 テン酸側鎖(図1.1)が結合した複 素環コアの構造を持っています。 この側鎖が主にスタチン系薬剤の アルコール 2 酢酸前駆体 1 活性をつかさどり、天然のスタチン からの構造を残した部位として、効 率的かつ経済的に合成するために 複素環のホスホニウム塩 多くの研究が行われています。  ロスバスタチン ピタバスタチン 著者らは、ウィッティヒ反応に用い る 3,5 -ジヒドロキシ - 6 -ヘプテン 図1.1 ヘプト - 6 -エン酸残基と主要なラクトン 酸側鎖のホルミル置換ラクトン体 化側鎖前駆体の構造を持つ、光学的に純粋な 3を、酢酸前駆体1とアルコール 2から合成しようとしました(図1.1)。しか スーパースタチン合成の逆合成解析 し、複数の保護基とエステル部分を持つ複雑な分子構造のため、酢酸前 駆体 1からアルコール 2への脱アセチル化は困難でした。しかし、スズク ラスタ([T-Bu2Sn H(Cl)]2)触媒による脱アセチル化反応と、官能基選択 的酵素によるアセチル基の加水分解を比較することで、この難題を克服し ました。  まず酸に鋭敏な TBS部だけでなく、塩基に鋭敏なラクトンエステル官能基 を保持したままで、酢酸前駆体の脱アセチル化に有効な13種の公知試薬 を評価しました。このうち3つの試薬でのみ一定の収率が得られ、具体的 には、収率 9%、20%、51%でした(クロマトグラフィー精製後)。この思 わしくない結果が、酢酸前駆体1の脱アセチル化のために高い官能基選択 性を持った酵素触媒を検討する動機となりました。 3
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概念実証研究において7つの異なる酵素(パンクレアチン粉末、サーモミ セスラノギノサスリパーゼ、リゾープスニベウス、カンジダルゴサ、アスペ ルギルスニガー、小麦胚芽、豚の膵臓からのリパーゼ)を検討しました。 パンクレアチン粉末が最も適した触媒と判明し、収率は 77%でした(ク ロマトグラフィー精製後)。そこで研究の焦点は、触媒量検討を含めて、 パンクレアチン粉末を使った酢酸前駆体脱アセチル化の工業利用における 最適化へと移行しました。   著者らは触媒溶液に酢酸前駆体1を低速で段階的に添加することによっ て、触媒と基質の接触を増やし、基質に対する相対的な触媒量を常に高く 保つことができると仮定しました。 この理論を検証する実験において、 反応の進行状況を in situ ReactIRTM 0.005 でモニタリングしました。 Water 1640cm-1 0.004 触媒溶液( -10.2当量 w / w )をリ Acetate 1 1226cm -1 ン酸緩衝液(pH 7.0)/ジオキサン Alcohol 2 1240cm 0.003 (4 1)混合溶媒で調整し、そこに 過剰量の酢酸前駆体 1を、8時間 0.002 かけて段階的に添加しました。水 に難溶性である酢酸前駆体 1を可 0.001 溶化するためにジオキサンを用い ています。図1.2に示したReactIRTM 0.000 プロファイルの斜線部は、酢酸前 駆体 1が段階的添加の初期には、 -0.001 急速にアルコール 2に転換され、 すべての酢酸前駆体が消費された ことを示しています。アルコール濃 00:00 04:00 08:00 12:00 16:00 20:00 度は開始から2.5時間は増加しま Relative Time (hours) したが、予想に反して約 3.75時間 から 8時間後まで減少し続けまし 図1.2 インラインIRによる酢酸前駆体1からアル た。ReactIRTMデータは、酢酸前駆 コール 2への転換のモニタリング。青線は水。 体が3.75時間から8時間後まで蓄積し続けたことを示しています。リン酸 赤線は酢酸前駆体 1。緑線はアルコール 2の反応プロファイル。(赤線上の点は基質を段階的 緩衝液とジオキサン混合溶媒に長時間さらされた後、アルコールが酢酸前 に添加した時点) 駆体 1に対して特定の濃度に達したとき、触媒はアルコール 2と反応して いたことがこれらの結果より示唆されました。予期せぬ反応が起き、ラクト ン環の開環によってアルコール 2が分解してしまったのです。酢酸前駆体1 は未反応のまま、段階的添加により増え続けました。8時間後、アルコール との触媒反応は減速しましたが、酢酸前駆体との触媒反応は再開せず、酢 酸前駆体濃度に変化はありませんでした(吸光度がわずかに増加している のは溶媒の蒸発による)。このデータは、生成物または副生成物(ラクトン 部位と触媒の予期せぬ逐次反応と(または)並列反応による)により、触 媒が反応を阻害されたことを示唆しています。 アルコールの逐次反応を防ぎ、酢酸前駆体の反応を促進するためには、 生成したアルコール 2が触媒と接触しないようにする必要があります。 ジオキサン溶媒を除き、アルコールをすみやかに沈殿させれば、触媒との 反応を防ぐことが可能です。しかし酢酸前駆体1の水への溶解度が低いた め、反応量は制限されてしまいます。著者らは実験により、基質溶液に触 媒を徐々に加えることにより、初期の基質濃度を最大とし、触媒量を最 小に抑えることができると判断しました。触媒量を 2当量(w / w)から 4 Peak
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0.5当量(w / w)に減らし、基質初期濃度を 0.11Mから0.2 Mへ増加し、 プロセスのスループットを向上させることができました。この方法により、 触媒は確実に最大濃度の基質を利用することができます。ラクトン部は塩 基性に鋭敏であり、TBS保護基は酸性に鋭敏なため、pHを検討した結果、 最適 pHは 5.0±0.5であると判断しました。 in situ ReactIRTMおよび pHプローブを装備した abMax®合成装置を 用い、ラクトン部が触媒及びリン酸 緩衝液に不必要に暴露することを 避けるため、最適な反応時間を検 0.28 討しました。pH 5.6~ 5.1の間に制 0.25 00:41:53 御したリン酸緩衝液中で 35℃で 0.23 04:28:53 21時間の反応を行いました。 17:43:53 0.20 触媒は最初に 0.2当量添加し、一 0.18 時間ごとに0.1当量(w / w)ずつ追 0.15 加し、総量として0.7当量(w / w) になるまで追加しました。ReactIRTM 0.13 で反応の進行状況をモニタリング 0.10 し、酢酸前駆体1の減少を確認しま 0.08 した。アルコール 2は沈殿しますの 0.05 で、ReactIRTMではモニタリングされ 0.03 ていません。 0.00 1900 1800 1700 1600 1500 1400 1300 1200 1100 1000 900 800 700 42分、4.5時間および17.75時間で Wavenumber (cm-1) の IRスペクトルは、反応により酢酸 前駆体濃度が減少していることを 40 0.24 示しています(図 )。図 5.9 pH1.3 a 1.3 b 0.22 39 5.8 Trは IRデータを濃度の時間変化グラ 0.20FTIR 0.18 フとしたものですが、pHが至適 pH 5.7 38 0.16 に達すると共に、酢酸前駆体 1が 5.6 0.14 急速に減少していることを確認で 5.537 0.12 きます。酢酸前駆体の減少は約 9 5.4 0.10 時間後に定常状態に達しています。 5.3 0.0836 0.06 この実験でのアルコール 2の歩留 5.2 0.04 まりは 66%であり、触媒及びリン 35 5.1 0.02 酸緩衝液に長時間暴露したことに 5 0.00 より、ラクトン部が分解してしまっ 34 4.9 -0.02 00:00 03:00 06:00 09:00 12:00 15:00 18:00 21:00 たことを確認しました。著者らは、 歩留まりを上げるには、約 9~10 Relative Time (hours) 時間で酢酸前駆体の反応が終了し た後、ただちに反応を停止しダウン 図1.3(a)42分、4時間 29分、17時間 44分の ストリーム分離に移すべきであると結論づけました。これを実行したとこ インライン FTIRスペクトル ろ、95%の収率でアルコール 2を単離することに成功しました。 (b)青線は溶解している酢酸前駆体 1のイン ライン FTIR1223cm -1によるモニタリング。 赤線は反応温度。緑線は pH。pHが小さく急変 しているのは、1.0 M炭酸水素ナトリウム溶液 で pH制御しているため。生成したアルコール 2 は、水溶媒に不溶なため観察されない。 5 Tr (°C) Reaction Spectra [A.U.] LabMax Thermostat_C/ln1 (pH) 1223cm-1 [A.U.]
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結論 a. 0.28 in si t u Reac t IRTMのデータにより生体触媒反応のメカニズムを解明 0.25 00:41:53 0.23 04:28:53 し、望ましくない競合反応を防ぐことができました。また反応進行 17:43:530.20 をモニタリングし、反応条件を最適化することで、((2S,4R)- 4 - 0.180.15 (tert - but ldimeth lsil lox )- 6 - oxotetrah dro- 2 H -p ran - 2 - l) 0.13 0.10 酢酸メチルのアセチル基を脱保護し、主要なラクトン化スタチン側鎖前 0.08 駆体(4 R,6 S)- 4 -(tert-but ldimeth lsil lox )- 6 -(h drox meth l)- 0.050.03 tetrah dro- 2 H -p ran - 2 - oneを製造する優れた方法を確立しました。穏 0.00 1900 1800 1700 1600 1500 1400 1300 1200 1100 1000 900 800 700 やかな条件下で使用された酵素触媒は、高い収率と経済的な優位性を有 Wavenumber (cm-1) b. することが証明されました。 40 0.24 5.9 pH 0.22 39 5.8 Tr 0.20 FTIR 5.7 0.18 38 0.16 5.6 0.14 5.5 37 0.12 5.4 0.10 5.3 0.08 36 0.06 5.2 0.04 35 5.1 0.02 5 0.00 34 4.9 -0.02 00:00 03:00 06:00 09:00 12:00 15:00 18:00 21:00 Relative Time (hours) 図 1.3. テクノロジー紹介 自動合成ワークステーション ファインケミカル・スペシャリティケミカル・バイオ医薬品における検討初期での 試作品製造には困難がつきものです。最適化されていない合成経路を使いなが ら、短納期で製品を提供しなければなりません。適切な判断と生産性向上は科 学者やエンジニア個人にゆだねられています。反応の最適化中にプロセス解析 ができれば、開発期間短縮とコスト削減につながります。 Eas MaxTMや ptiMaxTMなどの自動合成ワークステーションは、製品開発・プロセ ス開発のための基本的な実験装置として、競争の激しいグローバル市場に対応 した研究環境を実現します。 EasyMax™ OptiMax™ 詳しい情報はこちら www.mt.com/synthesis-workstations 6 Tr (°C) Reaction Spectra [A.U.] LabMax Thermostat_C/ln1 (pH) 1223cm-1 [A.U.]
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ケトンからラクトンへのバイヤー ビリガー生体内変換のモニタリ ング Pseudomonad cyclopentadecanone monooxygenase displaying an uncommon spectrum of Baeyer-Villiger oxidations of cyclic ketones Hiroaki Iwaki,1 2 Stephan Grosse,2 2 1 2 2 2 1 2 - O O NADPH NADP+ O Monitoring of Baeyer-Villiger biotransformation kinetics and fingerprinting CPDMO using ReactIR™ 4000 spectroscopy O2 H2O Cyclododecanone Lauryl lactone バイヤービリガーモノオキシゲナーゼ(BVM )のひとつであるシクロペン タデカノンモノオキシゲナーゼ(C M )は、大小の環状ケトンをラクトン 図2.1 組換え A H依存性シクロペンタモノ に生体内変換することが立証された酵素であり、高い官能基選択性、位置 オキシゲナーゼ(C M )触媒によるシクロドデカノン(C )からラウリルラクトン( )への 異性選択性、およびエナンチオ選択性を持っています。C M は天然には 生体内反応 シュードモナス属によって生産されますが、現在大腸菌で発現されていま す2,8,9。この研究では、ReactIRTMを使い、酵素触媒を用いたシクロドデカノ ン(C )からラウリルラクトン( )へのバイヤービリガー酸化反応の進 行をリアルタイムモニタリングし、反応速度を求めた方法についてご紹介 します(図2.1)。 岩木氏ら8はクローン化した配列を調べ、大腸菌で Lauryl Lactone0.017 0 min 20 min C M を過剰発現させることで、酵素特性を明らか 5 min 60 min にし、触媒としての能力を検討しました。概念実証研 10 min 究では、精製した C M (200 m )と基質 C か 0.016 ら を生成する反応の進行を、ReactIRTMにより 0 Cyclododecanone 、5、10、20、60分の時点で観測しました。ReactIRTM 0.015 スペクトルは C (1713.8 cm-1)が減少するととも に、 (1740.9 cm -1)が形成する反応の進行を明確に 示しました(図 2.2)。 0.014 an ら2,9によるその後の研究では、組換え C M 触媒を大腸菌 B 21で発現させ、細胞全体を用い 0.013 たC から へのバイヤービリガー生体内変換 の進行状況をReact IRTMでモニタリングしました。 0.012 大腸菌は 1 の培地を用い、30℃、pH 7±1で流 加培養しました。 600が 1となった時点で、基 質(C )5.0 をヘキサデカン溶媒 20 mlで溶液と 0.011 し添加しました。岩木氏らの研究と同様、ReactIRTM 1700 1720 1740 1760 スペクトル(図 2. 3 a)は、反応進行にともない基質 Wavenumber (cm-1) C (1713.8 cm -1)の吸光度が減少するとともに、生 図2.2 C M 触媒によるシクロドデカノンか 成した (1740.9cm -1)の吸光度が上昇することに らラウリルラクトンへの転換の ReactIRTM赤外ス ペクトルの経時変化 7 Absorbance
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a. b. IPTG CDD Sugar 0.05 6 0.04 30 5 0.03 4 0.02 20 0.01 3OD600 lauryl lactone concentration 0.00 CDD concentration 2 10 10 5 1 0 1760 1740 1720 1700 1680 0.0 0 1780 -1) -5 0 5 10 15 20Wavenumber (cm Time (h) 図2.3a 右図(a)は ReactIRTM 4000で採取した C から への生体内反応の典型データ。左図(b)は流加培養における細胞増殖に対する生体内反応によるシ クロドデカノン(C )変換の時間変化:大腸菌 B 21(pC 201)細胞は 3 バイオリアクター(Biobundles Applikon Biotechnolo , Foster Cit , Cali ornia)を用 い、培養液1 、30℃、pH 7. 0± 0.1で増殖させた。 600が1の時点で、細胞にイソプロピル - -チオガラクトピラノシド(I TG)0.1mMを加え誘導。ヘキサデ カン(20 ml)は、基質(5.0 C )と生成物 、両方を溶解させるために使用。 600が10に達した時点で硫酸マグネシウム(10 / )を添加したグルコース溶液 (500 / )を10 / hの速度で供給。 より、C から への変換が確認できました。C と 標準溶液に基づく定量モデリングを適用して算出し 1.25 OD600 た、反応の主要成分濃度の時間変化を示しました(図 2.0 2.50 OD600 2.3 b)。約 9時間の時点で、 の濃度は反応が完了し 5.00 OD600 たことを示す定常状態に達しました。著者らの評価で 10.00 OD600 1.5 は、生成物 の検出限界は0.2 mMでした。 ReactIRTMを装備したマイクロバイオリアクターシス 1.0 テムで反応速度を測定しました。複数の基質濃度お よび 4つの細胞密度における生成物の生成速度を求 0.5 めました。図 2.4の inewea er-Burkプロットは、反 応がミカエリス・メンテンモデルに従っていることを示 しています。 inewea er-Burkプロットを使用し、異 0.0 なる細胞濃度における(見かけ上の)最大生産速度 0.000 0.005 0.010 0.015 Vmax-appと mを求めました(表2.1)。 1/Cr (μM-1) さらに研究を発展し、BVM を保持する大腸菌細胞 全体の生体触媒によるバイヤービリガー生体内反応 図2.4 inewea er-Burkプロットで複数の細胞 濃度における(見かけの)最大生産速度 を用いた、水不溶性 から水不溶性 の合成の収 Vmax-C appと mを算出:V =反応速度、Cr =初期濃度 率を向上させるべく、半連続式の有機-水系二相バイ オリアクター(T B)を検討しました。ReactIRTMによ り、C の生体内変換に最適な溶媒を決定し、有機相 中の生成物 の形成をモニタリングしました9。半連続 式とすることにより、 の収率はバッチ式の2.4 から Cell concentration 10~16 へ増加しました。 0.54 1.08 2.15 4.3(g DCW/L) 結論 Vmax-app (U) 4.35 9.43 18.86 44.84 ReactIRTMは C から への酵素触媒によるバイヤー Specific Vmax-app ビリガー生体内変換を高速で 8.1 8.8 8.8 10.4in situモニタリングし、 (U/g DCW) 定量することができる有用な装置であることが証明さ Km 587 548 550 591 れました。複雑な細胞培養培地からの干渉を受けずに 最も簡単なキャリブレーションを適用できました。 表2.1 静止細胞を用いたシクロドデカノン生体 内反応の反応速度データ 8 Absorbance Time (h) 1/V (U-1) OD600 CDD and LL (g/L)
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有毒な有機リン酸エステルと 有機ホスホン酸エステルの酵 素的加水分解 Quantification of hydrolysis of toxic organophosphates and organophosphonates by diisopropyl fluorophosphatase from Loligo vulgaris by in situ Fourier transform infrared spectroscopy. a,b, Marco Melzera,c d, André Richardte, Marc-Michael Bluma Gabらは in situ ReactIRTMを用い、有毒な神 a. 経剤を含む有機リン酸エステルと有機ホス O O O ホン酸エステルの酵素的加水分解の研究を 行いました。 O P O P O P OReactIRTMを使用することで、 反応の進行を定量的にモニタリングし、反 F F F 応速度データを得ることができました。ま DFP Sarin (GB) Soman (GD) たインライン手法は、少量の化学物質での O O 研究を可能とし、二次汚染を避け、研究者 P O N P O の毒物暴露リスクを大幅に減らすことがで F CN きました。 Cyclosarin (GF) Tabun (GA) ホスホトリエステラーゼである、ジイソプ b. ロピルフルオロホスファターゼ( F ase) は、ヨーロッパヤリイカより単離され、軍 O O 民両面から今も脅威とみなされる G 型 DFPaseR1 P R2 + H2O R1 P R2 + X - + 2H+ (+HCN + 1H + for Tabun) 神経剤(図 3.1a)であるジイソプロピルフ X O- ルオロリン酸( F )・タブン(GA)・サリン (GB)・ソマン(G )・シクロサリン(GF)を R1 = Methyl or O-Alkyl (DFP) or N,N-Dimethylamino (Tabun) 効果的に加水分解します。 F aseは、大量 R2 = O-Alkyl 生産が容易で、非常に安定な酵素なため、 X = F (DFP, Sarin, Soman, Cyclosarin) or CN (Tabun) これら神経剤の除染に適しています。有機 リン化合物の無毒化は、 - 結合(または 図3.1 (a) F およびG型神経剤、サリン(GB) タブンの - C 結合)の加水分解によって行われ、その結果リン酸塩ま ソマン(G )シクロサリン(GF)タブン(GA)の たはホスホン酸塩、およびプロトンと脱離基のアニオンが生成します 化学構造 (b)酵素 F aseによって触媒される加水分解 (図3.1b)。 反応の概略 過去に報告されたこの反応のモニタリング法には、滴定 pHスタット法とイ オン選択性電極の適用がありますが、利用には制限がありました。この特 殊な加水分解ではプロトンが放出されるため、酵素の不活性化を防ぐ緩衝 液を使用する必要がありますが、時間と手間がかかる pHスタット法では それが不可能です。フッ化物イオン選択性電極は、一定のイオン強度を持 った溶液を必要とするため、タブンで使用できないのが制限となってい ます。そこでこれらの制限が無いと思われる in situ ReactIRTMFTIR分光法 を、代替技術として検討しました。ReactIRTMは、リアルタイムで反応の進行 をモニタリングし、サンプリングが不要なプローブ型装置です。 9
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R e a c t I R T Mには A Xファイバーコンジットと iCompTMATRプローブを装着し、 F および 4種の P-O-R 0.008 神経毒を F aseで酵素的加水分解し、その進行を定 DFP 量的にモニタリングしました。基質濃度は1~ 8 mM Diisopropylphosphate で、反応液量は1m 未満でした。 F aseは大腸菌で 0.006 発現させました。 0.004 図 3.2の ReactIRTMスペクトル上に F の減少とリン酸 ジイソプロピルの増加に対応する変化を矢印で示しま した。リン酸ジイソプロピルの形成に伴い -1 0.0021030 cm の強い吸収が 1065 cm-1にシフトしますが、これは - - R伸縮振動の変化によるものです。 0 定量データを得るためのキャリブレーションは、ほか 1300 1200 1100 1000 の成分は全て一定なまま、 F の濃度を7段階に変え、 Wavenumber (cm-1) 完全に加水分解することで行いました。1~8mMの濃 度範囲で滴定pHスタット法により正確な F 濃度を求 図3.2 F とリン酸ジイソプロピルのReactIRTM め、ReactIRTMでは吸光度を測定しました。濃度に対す スペクトル。反応中の吸収の増減を矢印で示し る吸光度をプロットすると、データは直線となり、直線 た。使用したピーク定義を網掛けの帯(ピーク 的な相関が得られました(図3.3)。 面積)と垂直線(一点ベースライン対ピーク高さ)で示した。 ReactIRTMにより酵素活性を測定し、pHスタット法の 結果と比較し検証しました。活性の測定は、1.1mMか ら 8.3 mMの濃度範囲の F サンプルに、規定量の F aseを添加することにより反応を開始した後に行 いました。検量線を用いて、三回の測定値の平均勾配 から、酵素活性や反応速度(速度定数を決定するた め)を換算しました。日内変動の検証(連続した 3実 験を平均)と日間変動の検証(異なる日に採取した 3 0.14 実験を平均)では、ReactIRTMと pHスタット法の値は 同等であり、日内と日間の値に有意な差は見られませ 0.12 んでした(図 3.4)。ReactIRTMの測定結果は pHスタッ 0.10 ト法よりわずかに低くなっていますが、これは異なる反 応条件によるものと思われます(pHスタット法の実験 0.08 は緩衝液を使わずに行うため、混合液のイオン強度が 0.06 変化しています)。 r2 = 0.9995 0.04 反応速度定数は、複数の F 濃度における反応 速度を、React IRTMで測定することにより求めまし 0.02 た。 inewea er-Burkプロット(図 3.5)では、傾きと各 1 2 3 4 5 6 7 データが良好に重なっています。 F に対して得られ c (DFP) [mmol/L] た値は、 M = 3.7 mMおよび kcat = 2.11 s -1でした。 図3.3 7段階の濃度の F サンプルを完全に加 水分解して決定した F の検量線例 10 Absorbance
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結論 この論文において F および有 250 機リン系神経剤の酵素分解を定 量する新規な方法として In S i t u FTIR 200 ReactIRTMの利用法が報告されまし た。ReactIRTMの測定値を滴定 pH スタット法で検証し、反応速度デー 150 タ Mと kcatを求めました。 In Situ ReactIRTMの利点として、反 100 応の進行状況をリアルタイムでモ ニタリングできること、測定法が反 応の化学成分に対し非侵襲的か 50 つ非破壊的であること、交差汚染 の排除、少量のサンプルで実験で 0 きることなどが確認されました。 DFP GB GD GF DFP GB GD GF 重要なのはこの特殊な研究におい て、In Situ ReactIRTMの使用により 反応の進行をモニタリングし反応 速度の情報を得ると同時に、研究 図3.4  F および3神経剤(GBサリン;G ソ 者の神経剤サンプルへの毒物暴露 マン;GFシクロサリン)に対する FTIRおよび リスクを低減できたことです。 pHスタット法によって求めた酵素活性の日中変 動、日間変動の比較。1 =1μmol / min 60 50 40 30 20 10 -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1/[DFP (mM)] 図3.5  F 基質を使用した F ase反応速度 の i n ewea e r-Bu r kプロット。データポイン トは、3回の実験からの平均値であり、エラー バーは標準偏差を示す。 11 1/[v(μM/min)]
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おわりに ReactIRTMは、生体内反応の進行状況と速度を in situでリアルタイムにモ ニタリングし、定性的な情報と定量的な情報、両方を得られる効果的な装 置です。ReactIRTMは、反応機構の解析を可能とし、プロセス最適化による 大幅な収率向上に寄与します。in situ中赤外システムはプロセスに対し非 破壊で、反応成分に対し非侵襲的です。全細胞触媒反応プロセスにおいて は、複雑な培養培地からの干渉を受けずに最も簡単なキャリブレーション モードを適用することができます。ReactIRTMは、水系・緩衝液系・イオン 系・有機系などさまざまな条件における酵素触媒反応の主要成分をモニ タリングできます。 本当の反応条件で本当の化学反応を測定 H C、 MR、GCなどの従来のオフラインで化学反応を解析する方法 では、共通の問題、すなわち分析のためのサンプリングで、試料が変化 したり損なわれたりし、大きな分析誤差となる可能性をはらんでいま す。ReactIRTMはそのような問題を解決するために開発されました。遅延時 間やサンプリング分析からくる誤差を排除し、反応器中あるがままの状態 で反応を研究できる理想的な装置です。 in situ FT-IR分析なら解決できるオフライン分析の難題 - 重要な中間体:サンプリングにより、分解しているかもしれません - 大気:サンプリング時に大気に触れることで成分が変化してしまう ことがあります - 反応毒性:暴露防止はきわめて重要です - 圧力と温度:サンプリング自体が危険なことや、オフライン分析で 成分が変化してしまうことがあります ReactIRTM in situ プローブ - 使用温度範囲  120℃~400℃ - 圧力範囲 真空~350気圧 - 強酸~強アルカリまで - スラリー中、粒子・気泡が混在しても溶液のみを測定可能 - 強い酸化条件に対応 - ミリモル濃度以下でも可 - 正確な反応温度モニタリングと IRモニタリングの結合 - 連続フローケミストリー対応 - 温度センサ内蔵-反応温度とスペクトル同時採取 ReactIR™ 45m 詳しい情報はこちら www.mt.com/ReactIR 12
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文 献 1. Biotransformations in Organic Chemistry: A textbook (6th Edition), 2. Monitoring of Baeyer-Villiger biotrans- formation kinetics and fingerprinting using ReactIR 4000 spectroscopy. Industrial 3. Practical Methods for Biocatalysis and Biotransformations, 4. The Growing www.mt.com/biocatalysis Impact of Catalysis in the Pharmaceutical Industry 5. Green Polymer Chemistry: Biocatalysis and Biomaterials メトラートレドについて bk-2010-1043.ch001 メトラートレドは技術コンサルタント 6. Biocatalysis for pharmaceutical intermediates: の世界的ネットワークを持ち、バイオ the future is now テクノロジー、生体触媒、有機合成を tibtech.2006.12.005 サポートします。 7. Application of Chemoselective Pancreatin Powder-Catalyzed Deacetylation Reaction in the Synthesis of Key Statin Side Chain Intermediate (4R,6S)-4-(tert-Butyldimethylsilyloxy)-6-(hydroxymethyl) tetrahydropyran-2-one ブログ 630. Chemical Research , e elopment 8. and Scale-upでは、最新の文献情報 Pseudomonad cyclopentadecanone や、弊社技術者および官学民の研究 monooxygenase displaying an uncommon spectrum of Baeyer-Villiger oxidations of cyclic ketones 者による専門的なコメントを掲載して います。 9. Bioproduction of lauryl lactone and 4-vinyl guaiacol as value-added chemicals in two-phase bio- transformation systems カスタマーコミュニティ カスタマーコミュニティサイトでは、弊 10. Quantification of hydrolysis 社装置をお持ちのお客様が文献リスト of toxic organophosphates and organophosphonates by diisopropyl fluorophos- phatase from Loligo vulgaris by in situ Fourier transform infrared spectroscopy. やアプリケーションレポート、実例集、 トレーニング資料に自由にアクセスし ていただけます。こちらからオンデマ ンドのウェビナーにもアクセスでき ます。 ソーシャルメディア FacebookとTwitterでも化学合成、化 学工学、スケールアップに関する最新 情報をアップデートしています。 メトラー・トレド株式会社 オートケム事業部 TE 03-5815-5515 FAX 03-5815-5525 ©04/2013 Mettler-Toledo . .,