手作業でのデータ管理
スタンドアロン
ソリューション
自動ワークフローの
サポート
効率的なラボデータ管理
効果的な時間節約のガイド
Lab Data Management
目次
1 はじめに 4
1.1 データの信頼性 4
1.2 このガイドの目的 4
2 手作業でのデータ管理 5
2.1 実験ノートへの記録内容 5
2.2 分析の準備 ̶ データ入力 6
2.3 測定 ̶ データ取得 6
2.4 データ評価 6
2.5 レポートとアーカイブ 7
2.6 要約とまとめ 7
3 スタンドアロンソリューション 8
3.1 分析の準備 ̶ データ入力 8
3.2 測定̶ データ取得 10
3.3 データ評価 12
3.4 レポートとアーカイブ 12
3.5 要約とまとめ 13
4 ネットワーク化された全自動のワークフローサポート 13
4.1 LabX®ソフトウェア 13
4.2 計量ワークフローへのメリット 14
4.3 要約とまとめ 15
5 対照比較 15
5.1 例:節約の実例 16
5.2 まとめと備考 17
メトラー・トレド データ管理ガイド 3
1 はじめに
あらゆる研究室での目標は、確かな分析結果と信頼性の高いデータを得ることです。なぜなら、信頼で
きるデータのみが、製造バッチの出荷や法的または科学的な証明の提供など、次の作業ステップに進む
ための基礎として頼りにできるからです。
通常は、科学的な証拠の提示や製造バッチの出荷には時間的に大きなプレッシャーがあり、しかも高ま
り続けています。実際のさまざまな分析では結果の信頼性を損なわずに時間が短縮されていますが、
データ管理自体がラボの効率性や企業全体の生産性にどれだけ影響するかを検討することは稀です。
データ取得やデータ管理のスピードについて考慮するとき企業が直面するのは、どれほどのデータ管理
上のリスクであれば正当化されるか、といった問題です。さらに、効率性を高めながらどのように規制を
遵守できるでしょうか。
ラボデータについてこれらの問題に答えるには、ガバナンスの方法を決めることが鍵になります。つまり、
社内で分析結果をどのように管理するか、ということです。そのガバナンス自体は信頼できるでしょうか。
適切な企業文化とツールが組み合わされば、信頼性の高いデータにつながります。
1.1 データの信頼性
• データ品質は、データが必要なすべての要件を満たすか否かを指します。そこには、標準作業手順書
(SOP)に準じているか、正しい測定機器を使用しているか、さらに基本としてデータを生成、処理、
収集するときにエラーがないかどうかが含まれます。データ品質が高ければ、判定を下すためにその
データ(数値)を使用できることを意味します。
• データセキュリティも重要です。これはあらゆる業種に関係しますが、特に製薬業界、金融/銀行業界、
官公庁では常に検討の対象になります。データセキュリティとは、データがハッキングなどによる窃盗
に遭わないように安全に維持し、不十分な保管やメンテナンスによる喪失から保護することです。
• データトレーサビリティはあらゆる業種で重要です。データのライフサイクルを通じてデータを
追跡できることを意味します。通常は、データのライフサイクルは天びんから始まり、他の分析機器、
分析ツール、そして保管に移行します。HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Points)や
ISO 17025など各種の規制でトレーサビリティが規定されています。
• データインテグリティは、データのライフサイクルを通じて全データがどれだけ完全に一貫して正確に
保全されているかを定義します。特にラボでは、メタデータを含む全データが転送されますが、そのとき
転送エラーが生じていないことを意味します。その場合、数値は信頼できます。
1.2 このガイドの目的
このガイドでは、データの信頼性について上述の側面を検討しながら、ラボデータの扱いに費やされる
時間の長さについて解説します。そして、データを扱う時間を短縮し、データが品質、セキュリティ、トレー
サビリティ、インテグリティの基準を満たすために有効なソリューションを提案します。また、データを
迅速に取得し正規のレポートに使用するための手法や、常に規制要件を遵守しつつ生産性を高める方法
についても検討します。
ガイドでは最初に、今も多くのラボで標準的に利用される手作業のデータ管理を取り上げます。一方で、
すでに多くの分析機器がデータ管理の生産性を強化するためのさまざまなオプションやアクセサリに
対応しており、第3章ではそれらを検証します。
ソリューションの進化にともない、業界には全自動のデータ管理に注目する明らかな傾向が見られま
す。その革新性と潜在的なメリットについて、第4章で検討します。3つのメソッドすべてを対照比較し、
ラボの生産性全体に対するそれらの潜在的な効果についての総括を、第5章で述べます。
4 メトラー・トレド データ管理ガイド
Introduction
2 手作業でのデータ管理
手書きの実験ノートは、ラボでの実験または試験の記録です。実験ノートには正確な分析プロセスとその
結果が記され、それらのプロセスと結果の分析が含まれる場合もあります。この記録により、ラボ業務の
レポートを以降の作業で作成し、例えばスーパーバイザーへの報告や論文に使用できます。
完全であることが欠かせません。実験ノートの記述に基づいて、実行した分析を繰り返せることが重要
です。実験ノートには、分析によって生じたアイディアや、スーパーバイザーまたは研究者との対話の要旨
など、フォローアップ的な要素も記録します。さらに、ラボ業務をまとめたレポートが中途半端または誤っ
た内容を含む場合には、実験ノートをトレーサビリティに役立てる場合もあります。
ガバナンスの基準は、手書きの実験ノートやそれを安全に管理する適正な手続きによっても満たされる
ことができますが、データインテグリティとセキュリティの問題が生じる可能性があります。実験ノート
がどの程度正確で細かく記載されるかは、記入者に左右されます。1箇所のみで管理されるデータは、
それが安全であっても喪失または毀損しがちです。
図 1: 伝統的な実験ノートは今も多くのラボで標準として使われています。
それでも、実験ノートは世界中で多くのラボが標準的に使い続けています。以降のセクションでは、手書
きの実験ノートの記帳を開始し、維持管理し、分析で使用して保管する方法を例を交えて解説します。
実験ノートを維持管理する方法については、組織ごとに独自のルールが定められます。
2.1 実験ノートへの記録内容
実験ノートとして許容される記録の一般的な項目には以下が含まれます。
• 実験ノートは必ず綴じられたノートを利用します(ルーズリーフ式リングバインダーは使用しないでく
ださい)。できればA4サイズを使用し、ハードカバーを付けてページが分離したり喪失しないようにし
ます。
• 記入には鉛筆でなくペンを使用し、記載が消えないようにします。
• ページは取り外さないでください。ノートは常に完全な状態を保ち、トレーサビリティと再現性を維持
します。
• カバーには自分の氏名、住所、電話番号などの個人データを記載します。
• ノートにはページ番号を付けます。
メトラー・トレド データ管理ガイド 5
2.2 分析の準備 ̶ データ入力
分析の前に、記録保管業務の標準を設定します。
• 実行するすべての新しい試験手順または実験ごとに、新しいページから記入を開始します。
• ノートの右ページを使用して、分析の目的とセットアップについて記載し、詳細の結果とともに観察
内容を記録します。
• 左ページを使用して、訂正や追加記事を記載し、ゲル/薄膜クロマトグラム/グラフなどの図版を貼付し
ます。
• 分析ごとの記述は、短い題名や日付などの見出しから始めます。
2.3 測定 ̶ データ取得
実際の結果は最も重要な記録ですが、結果データはどのような取得方法であっても、それが完全なデー
タの場合のみに有効です。手書きの実験ノートの場合、これは以下のようなデータ管理を意味します。
• 常に作業の詳しい説明を記述し、実験中または実験の直後に実施、観察したすべての重要な事項を
報告します。
• 品質管理部門での分析の場合、常に同じ構成、形式を使用して結果を記録します。常に同じ流れで
分析を行う場合、白紙の実験ノートよりも印刷済みのテンプレートを利用、または予め大枠の記載さ
れているノートの利用が推奨されます。
図2: 写 真や図、薄膜クロマトグラフを貼付できる点は、電子記録に比べて実験ノートの
長所ともいえます。
2.4 データ評価
分析結果を評価し再計算できるように、特定のルールに従い以下に対応できる必要があります。
• 測定からのデータは、表または図中などで一定の順序で示される必要があります。数量と該当する
単位を明確に示します。グラフには軸名を付けます。同じルールは計算、統計、グラフの評価などにも
該当します。
• 誤った所見の訂正には取消し線1本を使い、訂正前の記載が読み取れるようにします。また失敗や問
題についても記載し、可能であれば理由も加えます。失敗した試験や実験のページを削除しないでく
ださい。
• 1つの分析に複数ページが必要な場合は、必ず相互参照を使用してください。「ページへ続く」や
「ページからの続き」のような表記を添えます。
6 メトラー・トレド データ管理ガイド
Data Management
• 研究開発の場合、なぜその実験が行われるのか、何を提示または実証したいのか、などの目的を記述
します。必要に応じて説明文を追加し、後から読んでもわかりやすくします。数年後に、特定の実験の
結果が再び必要になる場合もあります。
• 品質管理では、使用するメソッドのSOPがあれば、それを印刷して実験ノートに貼り付け、該当する
注釈を加えます。それが別の場所に記述されている場合は、参照先を記載します。
2.5 レポートとアーカイブ
実験のメタデータに該当するすべての詳細情報をレポートすることが重要です。以下をお勧めします。
• 材料(化学薬品、溶液、濃度、器具など)とメソッド(構成や、温度/器具の調整/分析実行などの条件)を
記述します。
• 試験や実験の初回を実施する場合は、その内容を完全に記述するか、または文献やマニュアルに
掲載されている類似アプリケーションの説明を明確な参照先として含めます。
• 他社が実験ノートの記録に基づいて分析を繰り返せるように、細部まで記述します。例えば、溶液を
調製する場合、化学薬品の正確な重量、化学薬品の完全な識別、溶剤とその容量などを記述します。
希釈手順が含まれていることを確認します。
• アーカイブ目的では、実験ノートを社内ガイドラインの指定年数に渡り、同じ場所で年代順に保管し
ます。
2.6 要約とまとめ
このガイドで始めの検査対象である手書きの実験ノートは、データ管理のシンプルでコスト効率に優れ
た方法に見えるかもしれません。しかし次のような課題もあります。
• 分析内容の記述、データ検索、レポート作成には時間がかかり、人為的エラーが起こりがちです。
• 非常に厳格なルールに従う必要があります。
• 液こぼし、出火などによるデータ喪失の大きなリスクがあります。
• 後日、特定の実験を探すのが難しい場合があります。
• 記述が判読不能または失われたとき必要なリワークは、高コストになりかねません。
これらの明らかな短所がある一報、実験ノートには印刷物や写真、注記を添えて内容を簡単に拡充す
る柔軟性もあります。
これらの考察を踏まえまとめると、実験ノートは研究開発部門またはアカデミックな研究により適して
おり、反復的な品質管理分析にはあまり適しません。
メトラー・トレド データ管理ガイド 7
3 スタンドアロンソリューション
ラボの特定のプロセスを少し変更するだけで、データ管理の効率性を大幅に改善できます。すべての
手順のデジタル化またはラボ全体の自動化が、常に必要とは限りません。業種、ラボのタイプ、処理する
サンプル数に応じて、スタンドアロンのソリューションでも成果を得られる場合がよくあります。
デジタルでサポートされるすべての手順は、個々の分析を迅速化し、結果が出るまでの時間を短縮し、
転記ミスのリスクを低減します。
3.1 分析の準備 ̶ データ入力
3.1.1 バーコードリーダーによるサンプルIDの入力
例えばシステムにバーコードリーダーを接続することで、サンプルの自動識別機能によってデータ品質と
ラボの生産性を向上できます。サンプルIDデータは、測定のメタデータの一部として、電子的に捕捉し
後続の分析ステップに転送し、サンプルの混同をなくすことができます。サンプルと分析結果を自動で
照合することにより、時間も短縮できます。ソリューションはシンプルですが非常に効果的です。
図3: サンプル識別と天びんや機器へのID転送に使用するバーコードリーダー。
図4: バッチ/サンプルIDは自動で機器にリンクされます。
8 メトラー・トレド データ管理ガイド
Data Management
3.1.2 RFIDリーダー
RFID技術は、RFIDタグによるデータの読み書きを可能にすることで、優れたメリットをもたらします。
例えば、SmartSampleはサンプル重量を天びんから滴定装置に転送する非常に効率的な方法です。
滴定カップに貼付されたRFIDタグは、サンプルの情報をワイヤレスで天びんから滴定装置に転送します。
これによりデータ転記によるミスやサンプルラックでの混同がなくなります。
データのイン 計量 転送 滴定 データ出力
ポート
安全で効率的 混同のリスクなし 簡単で安全な分析 • リアルタイム表示
• 紙 なデータ入力 サンプルをどこに置 タグ上のすべての • プリンタ
• バーコード すべてのサンプル情 いても、すべての情 サンプル 情 報が • USBメモリ
• LIMS 報が重量データとと 報が常にSmartTag Excellence滴定装 • ネットワーク
もにワイヤレスで滴 にあるので、ワーク 置へ自動的に転送 • コンピュータ
定ビーカーのチップ フロー全体でサンプ されるため、簡単で
(SmartTag)へ転 ルの混同ミスを回避 安全な分析を行え
送されるので、デー できます。 ます。
タ入力にともなう転
記ミスをなくすこと
ができます。
図5: 滴定を自動化する SmartSample™計量システムではRFID技術によりサンプル識別と効率性を強化します。
3.1.3 インテリジェントセンサマネジメントを備えたpHメータ
インテリジェントセンサマネジメント(ISM®)は、半自動によるラボデータ管理のもう1つの例です。導電率、
pH、酸化還元、溶存酸素の各センサは機器によって自動で認識されるので、誤って別のセンサを使用す
ることを防ぎます。さらに、校正データはセンサに保存されます。接続と同時にこの校正データが機器に
自動で転送され、以降の作業に使用できます。手動でのセンサID入力やセンサの再校正が不要なので、
貴重な時間を節約できます。
図6: 使 用するセンサは接続と同時に認識され、直近の校正データが転送されることで、
センサが校正期限内にあるかどうかを表示によって確認できます。
メトラー・トレド データ管理ガイド 9
3.1.4 プラグ&プレイ接続による滴定周辺機器
ビュレットドライブやセンサボードの自動認識によって、切り替え時間や滴定装置の据付時間を大幅に
短縮し、不適切な据付をなくすことができます。
Titration Excellenceシリーズのプラグ&プレイ機能は、ビュレットやセンサに留まりません。別のUSB装置
(バーコードリーダー、メモリスティック、プリンタ)またはRS232装置(InMotion™サンプルチェンジャ、
メトラー・トレドの各種天びん)、ビュレットドライブ、センサボード、さらにはLabX®などのソフトウェアも、
接続と同時に自動で認識され、追加設定の必要なく直ぐに分析に利用できます。これらのリソースを設置
する際のエラーを避け、分析に即したすべてのメタデータを確保できます。
図7: す べてのビュレットドライブ、ビュレット、センサボード、センサは、Excellence滴定装置によっ
て自動で認識されます。
3.2 測定 ̶ データ取得
3.2.1 内蔵メモリ
多くの機器が内蔵メモリを備えています。直近の分析結果が機器上に保存されます。データには結果の
値が含まれる場合や、さらに多くの情報として分析状態、分析データ、ユーザー定義による計算、分析
に関する情報、統計系列データなどが含まれる場合もあります。通常は、実行した分析が時系列順に
保存、表示され、最新の分析がリストの最初に示されます。
メモリのサイズは機器ごとに異なり、メモリの空き容量がなくなった場合の対応も機器により異なります。
メモリサイズは、日々捕捉するデータ値の数量に応じてラボ固有の要件に合うように慎重に選ぶ必要が
あります。分析結果をメモリに残して利用できる期間についても考慮する必要があります。
分析リスト全体と個別の分析を削除できる場合がよくありますが、特に権限管理が適切でないとデータ
セキュリティの問題の原因にもなります。機器によっては系列的な統計機能を備えており、特定タイプの
分析をより簡単、迅速に実行できます。
10 メトラー・トレド データ管理ガイド
Data Management
図8: 生 成されるデータやデータ可用性の要件に対して適切なメモリサイズでなければなりません。
3.2.2 スタンドアロンPCソフトウェアによるデータ取得
測定をスピードアップし転記ミスをなくすために、天びん(または他のラボ用機器)をコンピュータに接続
することにより、データベースやMicrosoft Excelなどのプログラムを使用して直接的な単方向のデータ
捕捉が可能になります。オプションのバーコードリーダーまたはRFIDリーダーを分析機器に接続すると、
このような堅固なデータ取得に加えて、測定結果のメタデータに含まれるサンプルIDの自動転送により、
他のエラーの原因を排除できます。
図9: PCソフトウェアEasyDirectにはシンプルなデータベースがあり、結果の値、単位、時刻/日付など
が保存されます。
メトラー・トレド データ管理ガイド 11
3.3 データ評価
3.3.1 カスタマイズ可能な測定限界(許容誤差)
メトラー・トレドの多くの測定機器では、分析結果の上限値と下限値を機器本体に設定できます。これに
より、測定した製品が限界値の範囲内にあり仕様に適合するかどうかを自動で確認できるので(緑のディ
スプレイは合格、赤は不合格)、品質管理チェックを瞬時に実行できます。
図10: 値が定義済みの限界範囲内にあるか否かに応じて、ディスプレイの色が変化します。
3.3.2 スタンドアロンPCソフトウェアによるデータ評価
上述のように、メトラー・トレドのEasyDirect™やBalanceLinkなどのデータ捕捉ソフトウェアを利用して、
値と単位、日時、サンプルID(天びんに入力済みの場合)、正味/総重量、風袋重量など所定のメタデータ
とともに、データを容易に転送できます。さらに、入力マスク、検証ルール、計算によってデータをより
詳しく評価できます。
3.4 レポートとアーカイブ
レポートをより迅速に作成し転記ミスのリスクをなくす基本的な方法の1つは、印刷出力機能を天びんま
たは分析機器に追加することです。ラボ用小型プリンタまたはネットワークプリンタを利用して、データを
容易に文書化し保存できます。
図11: 計量結果の迅速で効率的な印字。
12 メトラー・トレド データ管理ガイド
Data Management
プリンタを利用する多くのラボでは、データフローは以下のようになります。
• 分析機器によって生成される結果を紙に印字します。所定のメタデータも、機器内に保存されていれ
ば印字に追加できます。
• 次に、印字した記録を使用して、Excelなどのプログラムを利用し数値をレポートに手動で転記します。
• 必要に応じて、レポートのエラーをダブルチェックし、いくつかの結果を再計算して妥当性を確認する
こともできます。記録によっては、別の担当者によるチェックも必要です(「4つの目の原則」)。
• データは、ラボ情報マネジメントシステム(LIMS)またはERPシステムにも手作業で入力できます。
図12: 印 字された記録を手書きで転記することが必要な場合もよくあります。それは時間
がかかります。
データを保存する一般的な方法にはMircrosoft Excelスプレッドシートがあり、特にEasyDirect™を介
してデータをExcelに転送済みの場合に活用します。この方法は短期的には非常に効率的に見えますが、
データの予期しない改変やタブまたはファイルの名前が系統的に整理されない場合を考えると、後か
らの取り出しが難しくなり長期的には有効とはいえません。
3.5 要約とまとめ
実用的な方法で簡単に効率性を強化するには、半自動のスタンドアロンソリューションを活用できます。
これにより手作業のプロセスに比べて最大25%の時間節約が可能になります(詳しくは第5章を参照)。
このような限定的な改善は、一部のラボではワークフローを適切にサポートするでしょう。ただし、この
ようなソリューションへの投資については、完全にネットワーク化されたソリューションと慎重に比較す
る必要があります。後者のソリューションはより高速で、しかも据付後に必要な手動操作は大幅に少な
くなります。
4 ネットワーク化された全自動のワークフローサポート
完全にデジタル化されたラボは、製薬業界の品質管理部門やテスティングラボに見られます。初期のコ
ストは高額に見えますが、多くの場合、短期で投資を回収できます。これは製薬業界のラボに限らず、
規制対象外の業種の小規模なラボにも該当します。
研究開発部門にも、短期での投資回収は当てはまるでしょうか。この章では、比較的規模の小さい一般
的な研究開発部門を主に取り上げ、生産性を高めるソリューションの例を交えて説明します。
4.1 LabX®ソフトウェア
これから取り上げるプロセスでは、上記の実験ノート、スプレッドシート、印刷出力は全てメトラー・トレド
LabX®ソフトウェアに置き換わります。
メトラー・トレド データ管理ガイド 13
LabX®は完全な電子システムによる機器制御ソフトウェアソリューションです。
• プログラムは機器上で実行し、ラボの研究者をタッチスクリーンで支援します。
• 完全なユーザーガイダンスを備えており、機器とPCの両方でSOPに即して作業できます。
• データインテグリティを確保するための技術的な管理機能を備えており、電子記録や電子署名を対象
にしたGLP/GMP規制に準拠します[参考文献3、4]。
一方で、規制対象/対象外のラボでより重要になる機能は、記録の電子署名です。規制対象外のラボでは
常にコンプライアンスを懸念しているとは限りませんが、コスト意識やラボでのプロセス改善は規制対象
外のラボでも共通のトピックです。LabXソフトウェアのご利用も可能です。
4.2 計量ワークフローへのメリット
LabXを導入すると、以下によってプロセス全体がスピードアップします。
• タスク実行に必要な時間の短縮。
• 転記ミスの原因の徹底的な排除。
• データインテグリティとデータ品質の自動保証。
構成可能なソフトウェアアプリケーションのLabXでは、標準液調製のSOPを電子プロセスに組み入れて
検証できるので、策定した測定手順に確実に従うことができます。
このプロセスでは、まず計量する比較標準物質を選択し、次に分析天びんの操作部でLabXにログイン
します。LabXにアクセスするために、別のワークステーションやPCでログインする必要はありません。
LabXで指示された場合は、天びんの点検を行う必要があります。それ以外の場合、計量容器を置いて
風袋引きを行い、比較物質を計量します。
電子的な計量プロセス
LabX 分析天びん 実験ノート
天びんからLabXにロログイン
重量をLabXデータベースに記録 標準調製手順を開始
重量をLabXデータベースに記録 天びんを確認し、容器を風袋引き
補正係数を使用して濃度を自動 分析標準物質を計量
計算
容器を外し、溶液を調製
メスフラスコ用のラベルを印字
校正レポートに分析者が電子
署名
校正レポートに別の担当者が電子 オプションのプロセス
署名 レポートを印字し実験ノートに貼付
図13: LabXソフトウェアに接続された分析天びんの各ツールによるプロセスワークフロー。
14 メトラー・トレド データ管理ガイド
Data Management
結果を記録する必要はありません。LabX®がすべての作業を行います。行った作業と計量結果がユー
ザーのID情報、時刻/日付とともにデータベースに記録されます。
このようなプロセスでは、分析者がメスフラスコで比較物質を溶解する作業や製薬な濃度を確保する
作業を行います。LabXに接続されたプリンタを使用してメスフラスコに貼付するラベルを作成し、ラベル
には品質要件、またはID、濃度、使用期限などの規制情報を記載できます。
図14: LabXには印刷オプションもありますが、現場での測定手順または作業で要求されなければ絶対に必要とは限りません。
4.3 要約とまとめ
上記セクションの説明や図4に見られる電子プロセスには多くのメリットがあります。
1. 迅速で効率的なプロセス。電子プロセスは用紙に基づくプロセスより高速なので、ラボの作業時間と
労力を節約できます。
2. 手動でのデータ入力の解消。手動のデータ入力はありません。すべてのデータがLabXで捕捉されます。
3. 転記ミスの解消。これは図2(手書きの実験ノート)と図3(スタンドアロンの機器ソリューション)に
みられる2つのプロセスに比べて、大幅に優れたメリットです。LabXで管理される単一プロセスによって、
手作業のデータ記録をなくすことができます。
またLabXの場合、1つのシステムにログインするのみとなります。分析天びんをLabXに接続すると、
天びんのディスプレイがソフトウェア操作のための指示部になります。ユーザーは別のワークステーション
ではなく天びんのディスプレイからシステムにログインするので、別の指示計は不要です。
分析者は事務的な作業ではなく、化学的な作業に集中できるので、あらゆるエラー要因、余計なワーク
フローの時間、やり直しを避けることができます。
5 対照比較
表1では、セクション4.1の例に基づいて、3つのプロセスで行われる作業と各作業の所要時間の比較を
表示しています。この表では、天びんプリンタまたはLabXを使用したプロセス最適化のメリットが示さ
れており、エラーを減らしデータインテグリティを確保できます。
表1に見られるように、時間も大幅に短縮されます。完全な手動プロセスからプリンタで作業を記録する
プロセスに移行すると、生産性は25%向上します。一方、手動プロセスから電子プロセスに移行すると、
計量ごとに生産性が194%向上します。研究室でプリンタを導入済みの場合も、LabXを使用した電子
プロセスへの移行により、生産性が135%向上しています。
メトラー・トレド データ管理ガイド 15
5.1 例:節約の実例
これらの数字は実際に何を意味するでしょうか? 計量はごく一般的な作業ですが、ここでは分析者10名
が作業する比較的小規模な研究室について検討します。
分析者1名あたり年間1000回の計量(比較標準物質、サンプル、対象サンプル、緩衝液と移動相の調整)を
行う場合は、1日あたり4、5回の計量作業に相当し、ラボ全体では年間延べ10,000回の計量作業が行われ
ます。表1の所要時間の値を使用すると、この研究室が計量作業に費やす合計時間を表2のように計算する
ことができます。
表2の1行目は、研究室で計量作業に費やす合計時間を表します。これは、表1の作業時間を掛け、日数
に変換し、ラボの一般的な年間業務日数である220日間で割り算して算出します。この計算の結果を
FTE(Full Time Equivalent: 常勤換算)で表します。FTEが測定単位として選定された理由としては、どの
研究室でも節約の時間を考えた際、一番理解しやすい数値になるからです。
1. 手動、 2. 手動、 3. 電子的プロセス、
実施した作業 プリンタなし プリンタあり LabX®を使用
業務記録用の実験ノートを用意 • •
天びんの画面からログイン •
天びんの機能をチェック、容器の風袋引きを実施 • • •
状態を実験ノートに記録 •
標準物質を計量 • • •
値を実験ノートに記録 •
容器を外し、天びんを片付ける • • •
プリントアウトを実験ノートに添付 •
濃度を手計算する •
結果をスプレッドシートに入力 •
スプレッドシートで結果を計算し印刷 •
スプレッドシートのプリントアウトを実験ノート •
に添付
作業をチェックし、オペレーターが実験ノート • •
に署名
2人目が作業をチェック • •
間違いを修正 • •
2人目が実験ノートに署名 • •
結果の自動計算 •
オペレーターが報告書を電子署名 •
2人目が作業をチェック •
2人目が報告書を電子署名 •
プロセスの合計所要時間* 25分 20分 8.5分
備考: *社内ラボ試験で検証
表 1: 3つのプロセスの所要時間の比較。
1. 手動、 2. 手動、 3. 電子的プロセス、
プリンタなし プリンタあり LabXを使用
ラボの計量に費やした合計時間 0.79FTE 0.63FTE 0.27FTE
プロセス変更による節約(年間) 0 0.16FTE 0.52FTE
基準プロセスに対するプロセス 改善率 基準値 25%
基準値 194%
基準値 134%
表 2: 研究室の計量作業に費やされた時間の算出。
16 メトラー・トレド データ管理ガイド
Data Management
表2に示されているように、プリンタの追加により生産性を多少向上できますが、生産性を最も
向上するのは電子プロセスへの移行です。この例では、電子プロセスによる作業時間の節約は、
プリンタなしの手動プロセスに比べて、年間半人分の時間に相当し継続的に節約できます。これ
らの向上は、上述のようなエラーの低減によるメリットに加えて得られるものです。
5.2 まとめと備考
このガイドでは、比較的小規模な研究室を例に、生産性の向上と時間短縮を取り上げて示してい
ます。スタッフ総数や1人あたりの計量タスクがより多い比較的大規模な研究室では、時間の節約
と生産性の向上はさらに大きくなります。
GMP規制対象の研究室では、使用前にソフトウェアを検証する必要があります。検証コストは、
総コストと投資回収の計算に組み入れて考慮する必要があります。
1. 手動、プリンタなし、 2. 手 動、 3. 電 子的プロセス、
ポケット電卓あり プリンタあり LabXを使用
• 最も時間を要しエラーが起こりやす • プロセス1よりも迅速。印字によりミ • 3つの例中で最も迅速なプロセス
いプロセス スを削減 • 署名済み最終レポートの印刷出力
• データを手書きで2回転記した後、 • GxP査察官により承認されるアプ はオプション
転記ミスを2回確認 ローチ • データ転記がないので転記チェッ
• スプレッドシートに手動で転送 • 検証済みスプレッドシート クが不要
• 計量値の独自の証拠がないため、 • データインテグリティの向上 • 自動でデータの取得 ̶ 手書きは
GxP査察官にそのアプローチが承認 • 一連のデータの転記とそのチェッ 不要
されない クを解消 • 検証済みのソフトウェアとプロセス
• 天びん測定値の独自のチェック • 計量結果の印字とデータの全工程 • 全面的な電子化によるプロセス
がない でのレビューが可能
• 天びんのディスプレイから実験ノー
トへの結果転記は、転記ミスの原因
になる
表 3: 3 つのプロセスにおけるエラーの低減、品質向上、データインテグリティの比較
表3では、手動プロセスとLabXを用いた電子プロセスでの時間節約、エラーの低減、品質向上を
比較しています。以下にその要点を示します。
• 手作業のプロセスは、当初はコスト効率的に見えますが、実際には最も時間がかかりエラーが
起こりがちなデータ管理プロセスです。また、唯一のデータソースとなる実験ノートは喪失また
は毀損しがちでもあるので、データセキュリテイも低くなります。
• プリンタ/スプレッドシートを使用したデータ管理プロトコルによるプロセス- 一般的にはスタン
ドアロンの機器によるソリューション-は、手作業の実験ノートを維持するよりも高速に処理
できます。この半自動ソリューションでは、転記ミスのさまざまな要因も解消できます。
• 全面的に電子化、ネットワーク化されたプロセスは最速で最も安全なプロセスとして、3つの例
ではこれらの面で最上位です。実験ノートへの記載や転記、転記の際のダブルチェックが不要に
なります。データ取得と計算は自動で行われるので、人為的エラーのリスクはほぼなくなります。
小規模なラボでは、これにより分析スタッフ半人分以上に相当するFTEの作業量を削減できます。
リワークのコスト削減も期待できます。
基本的に、ラボで半自動ソリューションを使用しながらも、手作業による転記や実験ノートへの
紙片の貼り付けを続けているのであれば、SOPにより特に禁じられていない限り、ネットワーク化
による手法を検討すべきです。
メトラー・トレド データ管理ガイド 17
LabXソフトウェアソリューションによる
データとワークフローの管理
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