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晶析のプロセス設計

ホワイトペーパー

晶析プロセス開発の最新研究

3名の世界一流の晶析研究者が、晶析のプロセス設計を大幅に向上する方法について説明します。
・ブリティッシュコロンビア大学のJason Hein教授は、ラセミ混合物からのエナンチオピュアな結晶の単離を大きく改善できる、連続晶析の適用方法を紹介します。

・ジョージア工科大学のDaniel Griffin博士は、既存のPAT技術に新しいデータ表示法と制御法を組み合わせ、結晶サイズと収率を目標値に自動制御する方法を発表します。バッチ冷却晶析によって生成される結晶を制御し、指定された実行時間内で所望の平均結晶サイズを生成できることを示す実験結果を紹介します。

・マサチューセッツ工科大学のJicong Li博士は、収率が最大となる高性能な晶析を行う上での、連続晶析の優位性を解説します。バッチ晶析から連続晶析への移行により以下のメリットがもたらされます。
・人力に頼らないプロセス
・バッチ間のばらつきがない
・スケールアップとスケールダウンが容易

晶析は、多くの業界で重要な化合物の単離や精製に使用されている単位操作です。ここで紹介する革新的な研究は、晶析のプロセス設計をさらに最適化し、向上するために役立ちます。

このカタログについて

ドキュメント名 晶析のプロセス設計
ドキュメント種別 ホワイトペーパー
ファイルサイズ 1.5Mb
登録カテゴリ
取り扱い企業 メトラー・トレド株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧)

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このカタログの内容

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晶析プロセス開発の 最新研究 著者 Jason Hein教授(ブリティッシュコロンビア大学) Daniel Griffin 博士(ジョージア工科大学) Jicong Li 博士(マサチューセッツ工科大学)Des O'Grady 博士(メトラー・トレド) 当ホワイトペーパーでは、晶析分野で世界的にご活躍されている研究者三名 の方が、新しい装置技術を活用し、これまでの常識を大きく超える晶析法を 生み出した成果をご紹介します。 ブリティッシュコロンビア大学のJason Hein教授は、ラセミ混合物からのエナ ンチオピュアな結晶の単離を大きく改善できる、連続晶析の適用方法を紹介 しました。 ジョージア工科大学のDaniel Griffin博士は、既存のPAT技術に新しいデー タ表示法と制御法を組み合わせ、結晶サイズと収率を目標値に自動制御する 方法を発表しました。 マサチューセッツ工科大学のJicong Li博士は、収率が最大となる高性能な晶析を 行う上での、連続晶析の優位性を明らかにしました。 もくじ ラセミ化合物分離のための連続優先晶出 1 Jason Hein教授 バッチ式冷却晶析の理解と制御のための 2 データ表示法の利用 Daniel Griffin博士 3 バッチ式から連続晶析への移行を可能とす るインプロセスモニタリング Jicong Li博士 4 参考文献 White Paper
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1ラセミ化合物分離のための連続優先晶出 Jason Hein 教授(ブリティッシュコロンビア大学) はじめに 晶析は通常、溶解度の違いを元に目標化合物を不純物から分離する操作です。一方、晶析の中で最 も困難な部類に入るのが、エナンチオマーつまり異なる鏡像体の分離を行う優先晶出です。 エナ ンチオマー対はほとんどの化学プロセスで同じ挙動を示すにも関わらず、タンパク質との相互作 用など、多くの生物学的反応で異なる作用を示します。この挙動の二面性から、エナンチオマー対 いわゆるラセミ混合物またはラセミ化合物の分離は、医薬有効成分(API)製造から切っても切 れない関係ですが、従来の分離手法では極めて難しい操作となっています。 ラセミ混合物の分離を可能とするのが優先晶出であり、原理として溶液中分子が結晶化する挙動 が、エナンチオマー間で異なる性質を利用しています。 過飽和状態のラセミ混合物にエナンチオ ピュアな種晶を添加すると、エナンチオピュアな結晶が成長する傾向があるのです。どのように結 晶化するかは溶質への依存性が極めて高いのですが、主に次の二つの結晶成長に分類できます。 • 溶解した分子は、配向性が同一の結晶上に優先的に結晶化します。ラセミ混合物を過飽和と し、エナンチオピュアな結晶を種晶添加すると、種晶添加されたエナンチオマーのみ結晶化す ることから、分離目的に利用できます。 • エナンチオマーの晶析では、常にエナンチオピュアな結晶が形成されるとは限りません。様々な 結晶形で成長する可能性があり、ラセミ混合物の結晶になることをはじめとして、二つのエナ ヱチオマーが交互に析出することや、層を成すこともあります。 ブリティッシュコロンビア大学のJason Hein教授は、医薬品用途のためのラセミ混合物の自動分離 の研究を行っています。以下に連続プロセス化が可能で、スケールアップが容易なエナンチオマー の分離法についてご紹介します。 2 White Paper METTLER TOLEDO White Paper
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ラセミ混合物の優先晶出 2-フルオロフェニルグリシン(FPG)はラセミ混合物として合成され、様々なAPIのビルディ ングブロックとして活用されています。二つのエナンチオマーは分析とフィードバックの繰り返し による極めて厳密な制御を行うことにより、連続プロセスで分離できます。 連続プロセスの概要は次のとおりです。自動合成機(メトラートレド社製EasyMax)にラセミ体の 入ったフィーダーフラスコ1個とレシーバーフラスコ2個を装着します。プロセスを開始する前 に、FPGのラセミ体が過剰量となっており一部溶け残りのある飽和溶液の懸濁液をフィーダーフ ラスコに投入しておきます。プロセスを開始するには、2個のレシーバーフラスコにそれぞれ異な るエナンチオマーのエナンチオピュアな結晶を少量入れたところに、フィーダーフラスコの懸濁液 をフィルターを通してポンプで送液します。レシーバーフラスコの温度はフィーダーフラスコより 低温とし、その結果、溶液は過飽和状態となります。エナンチオピュアな結晶を添加しているた め、溶解している両エナンチオマーのうち一方のみ種晶上に結晶化し、結果として両方のレシー バーフラスコにエナンチオピュアな結晶が蓄積します。レシーバーフラスコの液相をポンプで フィーダーフラスコに戻すと、温度が上がり、フィーダーフラスコ内のラセミ体が溶解するという 形で循環を行います。 このプロセスにより大量のラ セミ体を連続的に晶析する ことができます。ただしレ シーバーフラスコ内で標的 とは異なるエナンチオマー が自発的に核発生する可能性 があり、不純物量の急速な フラスコB1 フラスコA フラスコB2 増加を招きます。 低温 高温 低温 そこで連続処理において一時 的にレシーバーフラスコを昇 温し、微小結晶を溶解、大き な結晶を残すと、結晶の純度 を効果的に上げることができ ます。純度が許容範囲に戻っ たら、温度を下げて晶析を再 開します。 図1.1 3個のフラスコを用いたラセミ混合物分離装置の概略図(上)と実際 の写真(下) White Paper 3 METTLER TOLEDO
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100 % 15 12.5 0 % 10 -100 % 7.5 5 10 時間(hr) 温度(℃) 純度(%) 図1.2 キラルクロマトグラフィーによるエナンチオマー過剰率の経時変化。一方のレシーバーフラスコ(緑色)の純度 低下時に純度回復処理を行った。温度 ( ) を上げると、エナンチオマー過剰率が増加している バッチ式でこれらエナンチオマーの分離を行い、同様の現象が起きた場合、レシーバーフラスコ内 を全て溶解し、プロセスを再実行するしかありません。 このプロセスを実現するために、ラセミ体の濃度をin situ IR(メトラートレド社製ReactIR)で連 続的に測定しました。またエナンチオマー過剰率をキラルクロマトグラフィーで測定するため、 定期的なサンプリングを必要としました。 エナンチオピュアなイソバリン精製のための低コスト手法 この連続晶析法の別の適用例が、イソバリンの光学分割です。イソバリンはアミノ酸の一つで、 抗けいれん作用と鎮痛作用があることで知られており、また他のAPI製造上、重要なビルディ ングブロックとなっています。イソバリンはエナンチオピュア合成と分離が可能ですが、複雑な 工程を含むためエナンチオピュアな製品の価格は一般的に㎎当り1ドル以上です。優先晶出によ るイソバリンのラセミ混合物分離は、イソバリンエナンチオマー((R)-イソバリンおよび(S)-イソ バリン)を低コストに大量生産する代替手段となります。 実験でイソバリン(図1.3)を晶析すると、 エタノール-水系においてイソバリン一水和物 NH2 NH2 が優先的に結晶化することがわかりました。前 OH OH 述の3フラスコを使用した方法では、FPGの ように目的とは異なるエナンチオマーが自発的 O O に核発生するのではなく、経時的にラセミ混合 (R) - イソバリン (S) - イソバリン 物となってしまう現象が見られました。 図1.3 イソバリンエナンチオマーの化学構造 4 White Paper METTLER TOLEDO White Paper 温度(℃)
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その後の研究によって、この経時変化の原因はこの結晶形(水和物)のイソバリンが別のエナン チオマーを取り込みやすいためであることがわかりました。高純度を保ちながら結晶量を増やす にあたって温度調整が可能という点で、このプロセスは特に連続晶析に適していると言えま す。Hein教授は「普通のバッチ晶析では不可能に近いことだ。大量生産はこの連続晶析法でしか なしえない」と述べています。 まとめ 二つの晶析例を通して、エナンチオピュアな化合物を精製するための、効率的でスケールアップ 可能な手法として、連続優先晶出法の有用性を明らかにしました。In situ IR分光とキラルHPLCと いう、オンラインとオフラインの測定を取り入れることで、望ましくない核発生や目的としない 結晶の蓄積を回避するための優れた制御が可能となり、高純度を維持することができました。ま た、この晶析法では微妙なバランスの崩れが自発的核発生の可能性を格段に上昇させてしまうた め、複数のフラスコの正確な温度制御と連携を行う必要があります。自動合成機を利用すれ ば、正確な温度制御と簡単操作で、分析結果に基づく自動または手動による迅速かつ信頼できる 温度操作が可能です。 2目的の結晶サイズを得るための晶析制御 Daniel Griffin博士(ジョージア工科大学) はじめに 収率と結晶サイズは、望ましい製品とプロセスを生み出すために制御すべき、もっとも重要な特 性です。ジョージア工科大学のDaniel Griffin博士は、これらパラメータのリアルタイムモニタリ ングで収率と平均結晶サイズを精密に制御しました。 パラセタモールの晶析はエタノール溶媒中の過飽和状態から行う単純なもので、有機溶媒中の 医薬化合物の挙動を知るためのモデル化合物となっています。そのため晶析の制御法の研究 に、この化合物を選択しました。 晶析で得られる結果を制御する(例えば平均結晶サイズの制御)には、いくつかのアプローチが 取られています。第一はプロセス条件を詳細に解析することによる制御であり、最終製品の特性 を予測する、例えばポピュレーションバランスモデリング(PBM)のような数学的モデルの活 用があげられます。利点は子細な実験やインプロセス測定を減らせることです。しかしモデルに 入れるデータの質と、予測に使う数式への適合性に大きく依存しています。そこで第二のアプ ローチとして、PAT技術を用いて晶析パラメータを連続的に監視し、リアルタイムで操作条件 (冷却晶析では温度)を調整していく手法があげられます。 White Paper 5 METTLER TOLEDO
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統合的データ表示による制御 インライン測定装置から採取したデータを表示すると、通常は各測定値の時間変化曲線となり ます。簡単ですし、非常に親しみやすいデータ表示法なのですが、各数値間の関係性を明白に するという点においては、限界があります。図2.1は、Griffin博士が自動合成機(OptiMaxTM)か ら の温度、ReactIRからの過飽和度と結晶質量、ParticleTrackTM(FBRM法)からのカウント数を時間 に対してプロットしたものです。 液相 固相 時間(分) 温度(℃) 過 飽和度 カウント数 結晶質量(g) 図2.1 従来の温度・過飽和度・結晶質量・カウント数の時間変化曲線 プロセスを制御するために複数のパラメータ に関するデータが必要な場合、複数の数値を 統合し一本の曲線にしたほうが見やすいこと があります。この事例でGriffin博士は、重要 なパラメータを一つのグラフから簡単に得る ことができる、結晶質量をカウント数に対し てプロットした「質量カウント数空間」を使 いました(図2.2)。 カウント数(#) 図2.2 質量カウント数空間(図2.1と同じデータを 示している) 6 White Paper METTLER TOLEDO White Paper 結晶質量 過飽和度 結晶カウント数 温度 結晶質量(g)
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質量カウント数空間による制御法とは この斬新なデータ表示を有効活用し、新しい制御手法 を適用、検討するために、自動合成機(OptiMax)で 実験を行い、温度をマニュアルで制御し、晶析を上述 のインライン装置で連続測定しました。 ParticleTrackの総カウント数は、溶液中の結晶数の大 まかな指標となります。よって1カウント当りの結晶 質量は平均結晶サイズに相当し、質量カウント数空間 のどの領域に数値があるかで結晶サイズがわかります (図2.3)。例えば結晶質量が大きく、カウント数 が少ない時、少数の大きな結晶があるということで す。反対に結晶質量が小さく、カウント数が多ければ 開始 カウント数 小さな結晶がたくさんあるということです。 図2.3 質量コード空間での結晶サイズ区分 つまり質量カウント数空間で軌道が違えば、結果として異なる平均サイズと収率で結晶が生成しま す。図2.4はその例で、線形冷却速度を変えると、質量カウント数空間での軌道が異なり、異な る平均サイズの結晶が生成されています。 232 µm 最終平均 30 結晶サイズ 189 µm 144 µm 45 遅い冷却 20 (! 0.04 °C/min) 適切な冷却 遅い冷却 (! 0.05 °C/min) 30 速い冷却 10 (! 1.05 °C/min) 適切な冷却 15 速い冷却 0 0 2000 4000 6000 8000 0 300 600 900 カウント数 時間(分) 図2.4 温度勾配の違いによる質量カウント数空間での異なる軌道と異 過飽和度 温度(℃) なる結晶平均サイズの生成 0.50 0.25 0.01 45 30 15 White Paper 7 METTLER TOLEDO 結晶質量(g) 温度(℃) 結晶質量
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全てのデータがリアルタイムに得られるとしても、晶析進行中の温度調整が質量カウント数空間 での「動き」をどの程度効果的に制御できるかには疑問が残ります。「この数値と持てる晶析知 識を使って、温度を調整し、結晶サイズと収率を直接的に制御できるかをまず確認することにし ました」とGriffin博士は説明しました。そして質量カウント数空間での目標軌道を維持するために マニュアルで温度を調整し、目標の結晶サイズと収率を得ることを目的とした実験を行いました (図2.5)。 ある収率と結晶サイズを目標として操作を試みた結果、単一の冷却のみでは大きな結晶サイズは得 られないことが明らかになりました(図2.5)。なぜなら種晶を用いない過飽和からの一度の晶 析現象では、大量の微小結晶が発生するからです。 大きな結晶を製造するには、平均結晶サイズを上昇させる効果がある冷却-加熱サイクルが必要で す。これは加熱で微小結晶が再溶解し、大きな結晶が残る挙動として知られています。次に温度を 下げると、溶け残った結晶が結晶成長のための場となり、平均サイズを押し上げます。Griffin博士 によれば「目標に向かって舵を切るには、何度か温度サイクルを行うことが必要」とのことで、こ のアプローチは種晶を使わない晶析で実証されていますが、種晶添加の晶析においても簡単に適用 できます。 30 50 45 25 40 20 35 15 30 25 10 20 5 15 0 10 0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 0 50 100 150 200 250 300 カウント数 時間(分) 図2.5 質量カウント数空間を利用したマニュアル制御の結果。A.温度調整による結晶状態の変化(総質量と総カ ウント数)。B.マニュアルでの温度制御の時間変化 8 White Paper METTLER TOLEDO White Paper 結晶質量(g) 温度(℃)
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データ駆動型モデリングによる自動化 図2.6のデータを見ると、特に大きな結晶を目標とした時、冷却曲線が複雑なことがわかりま す。ReactIRやParticleTrackなどの連続的に数値データを得られる測定装置を用いることで、電子計算 解析が容易となり、総結晶質量と総カウント数を用いた、冷却か加熱かを判断する完全自動インプ ロセスフィードバックループを作ることができました。 高度な予備情報とデータ駆動型モデンリングを、ReactIRとParticleTrackおよび自動合成機に導入す ることにより、質量カウント数空間を介して目的のCSDに到達するための道筋を見つける完全独 立型システムが構築できます。Griffin博士によると「測定値から直接学ぶことができるのが、この システムの利点」です。 25 45 20 40 15 35目標値 最終値 結晶サイズ指標 Run 1 目標サイズ 10 30 Run 2 終点サイズ Run 3 100 300 500 µm 5 25 0 20 0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 0 100 200 300 400 カウント数 時間(分) 図2.6 完全に自動化した装置では、設定したCSDとなるよう無人で晶析を行います。インラインモニタリング装置か らのデータは質量カウント数空間で表示できると共に(左図)、各計測値の時間変化曲線としても表示できます(右図) まとめ 平均結晶サイズと収率を制御するためのフィードバックループは、核廃棄物処理や食品製造など幅 広い産業に応用可能ですが、結晶の性状についてより正確な仕様が求められる製薬産業が主な活用 の場となるでしょう。Griffin博士は「結晶サイズの制御が重要となる理由は分離だけではなく、製 品の仕様のためでもあります。医薬有効成分は特定の結晶形であることや、特定の物理特性である ことが求められます」と述べています。ParticleTrackやReactIRなどの測定装置を使った制御法は、こ のような仕様への対策として最適です。 White Paper 9 METTLER TOLEDO 結晶質量(g) 温度(℃)
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バッチ式から連続晶析への移行を可能とする インプロセスモニタリング Jicong Li 博士(マサチューセッツ工科大学) はじめに バッチ式プロセスか連続式プロセスかを選択するには、要求される結晶粒度分布(CS D)・スケール・収率そしてコストなど、あまりにもたくさんの要素を考慮しなければなり ません。バッチ式から連続式の晶析への移行には以下のような大きな利点があります。 • 人力に頼らないプロセス • バッチ間のばらつきが無い • スケールアップとスケールダウンが容易 しかし連続晶析を行うには、プロセス中の異常を素早く検知するための高度なインプロセスモニタ リングが必要です。 連続プロセス研究を行っているノバルティス-MITセンターのJicong Li博士は、様々な晶析法を比較 し、連続式によってバッチ式と同等の収率および純度が得られるかを検討しました。この研究成果 は、晶析をバッチ式から連続式へ移行したいと望む化学・医薬・食品製造企業にその利点を明らか とし、移行を進めるかどうかを判断するための根拠を提供しました。 排出流量(F1) オンラインCSD測定(FBRM) 液面制御 温度計 供給流量 (F0) ペリスタ 配管接続部 ポンプ テフロンチューブ フレキシブル チューブ 濾紙 バルク温度(T)晶析 真空 槽の体積(V)攪拌速 フィード(T0) 度(w) 冷却ジャケット(TC) 図3.1 シクロスポリンの連続晶析装置。左のテスト溶液を滞留時間から算出した速度で晶析槽にポンプ送液。晶析槽内 ではParticleTrack・ラマン分光計・温度計で主要なパラメータを測定。晶析された結晶を含むスラリーを右に排出し、ろ過 後、乾燥して分析 10 White Paper METTLER TOLEDO White Paper
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収率を上げるための多段階アプローチ Li博士は晶析法の比較のため、シクロスポリンのアセトン溶液に二十種の不純物を混在させた溶液 をモデルとして用いました。この冷却晶析を完全混合型(MSMPR: Mixed-Suspension Mixed-Products- Removal)晶析装置で行いました。結晶質量やCSDなどの重要なパラメータは ParticleTrackとラマン分光光度計(図3.1)でモニターしました。 晶析槽数と各処理の滞留時間(RT)が異なる三条件を検討しました。滞留時間(RT)は一つの晶 析槽に入る液量と出る液量によって決まり、晶析槽内で結晶が滞留する平均時間に相当します。条 件はそれぞれ1槽式で滞留時間9時間、3槽式で6時間ずつ、5槽式で3時間ずつとしました(図 3.2)。 結果として滞留時間と晶析槽 1 1 2 3 の数が増えると、晶析の収率 が上がることがわかりまし フィード フィード た。1槽のプロセスから複数 槽のプロセスに変更すること で、収率を30%程度向上で きますが、商業用プロセスで 9 hr 6 hr 6 hr 6 hr 最もコスト効率の良い選択を するには、複数槽のプロセス 1 2 3 4 5 にすることによる追加の時間 フィード とコストが結果に見合うかを 検討すべきでしょう。またLi 博士はバッチ式と三種の連続 プロセスから得た結晶の純度 3 hr 3 hr 3 hr 3 hr 3 hr を比較し、全ての条件で同等 の純度であることを確認しま した(97.1%~97.2%)。 85 75 65 55 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 総滞留時間(hr) 1槽MSMPR 3槽MSMPR 5槽MSMPR バッチ式(0℃で平 衡) 図3.2 多段式MSMPR連続晶析槽の概略図(a)と各槽通過後の累積収率(b) White Paper 11 METTLER TOLEDO 累積収率(%)
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収率をさらに向上するための 固形分リサイクル バッチ式から連続式プロセスに MSMPR MSMPR 清澄液晶析槽1 晶析槽2 移行した時、収率向上のため使 用できる付加的手法が、最終晶 フィード 沈降分離 析槽下流への沈降分離の導入で す。結晶を分離槽の底に濃縮 し、ただし結晶は分散状態を維 持します。この濃縮した懸濁液 製品 の一部を晶析槽に戻すことがで きます。この固形分リサイクル は晶析槽での結晶成長を助ける 固形分リサイクル 効果があり、また分離槽におけ 図3.3 2槽式MSMPR晶析と沈降分離装置。結晶の多い分画(右下)を二つに る結晶の無い清澄な分画はリサ 分け、「製品液」はろ過・分析し、「固形分リサイクル液」は第二の晶析槽に戻 イクルに用いないため、不純物 す の蓄積にはつながりません(図 3.3)。 晶析プロセスに固形分リサイ 90 クル処理を加えることによ り、晶析槽の定常状態パラ 80 75.3 77.472.6 75.2 メータが大きく変わります。 つまり収率を最大とするに 70 65.0 63.1 は、新しい定常状態でパラ 60 メータの最適化を再度行わな ければなりません。例えば結 50 晶懸濁液が一つまたは複数の 40 晶析槽に戻し入れられた時、 それら槽内の晶析における最 30 適温度が影響を受けます。Li博 士は温度の影響を確認するた 20 め、2槽式での温度を3条件 10 に変え、固形分リサイクルあ り、なしで収率を比較しまし 0 た(図3.4)。 T1=0°C T1=15°C T1=25°C T2=0°C T2=0°C T2=0°C 固形分リサイクルなし 固形分リサイクルあり 図3.4 連続MSMPR晶析の収率に及ぼす温度プロファイルおよび固形分リサ イクルの影響 その結果、固形分リサイクルを加えることで、どの温度条件でも収率が5~20%向上しました。 各晶析槽の温度を最適化すると収率が向上する可能性も示されましたが、収率に対する温度の効果 は顕著ではありませんでした。Li博士は「結晶成長は、温度を下げる、次に温度依存の定数が下が るという、二つの機序で温度制御されています。しかし温度を下げると溶解度が下がって過飽和度 が上がります。つまり成長速度は最適な温度で最大になるということです」と述べました。 12 White Paper METTLER TOLEDO White Paper 最終収率(%)
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まとめ Li博士はこの研究で、バッチ式から連続式への移行に際して必要となる作業と、考慮すべき パラメータを明確にしました。また多段式の晶析と固形分リサイクル処理を活用すれば、純 度を高く保ちながら、収率向上が期待できることを示しました。 晶析を連続で行うにあたっては、ParticleTrackやラマン分光などのインプロセス測定装置を使用 し、定常状態のパラメータをつきとめることが不可欠です。ある定常状態を最小限の変動内に 維持することは、連続式MSMPR晶析で安定した製品を供給する上で不可欠な要件であり、ま たインライン式測定装置は、定常状態が崩れた時に損害を大きくしないための重要な安全対策 ともなります。 4参考文献 1. "Pushing the Solubility Envelope: Resolution of Challenging Compounds Using Continuous Preferential Crystallization," Jason Hein PhD, http://www.mt.com/global/en/home/library/on-demand-webinars/ automated-reactors/Continuous-Preferential-Crystallization.html 2. "Batch Crystallization Control," Daniel Griffin PhD, http://www.mt.com/global/en/home/library/on-demand- webinars/automated-reactors/Batch-Cooling-Crystallization-Using-Data-Driven-Modeling-and-Dynamic- Programming.html 3. "Novel Continuous Crystallization Configurations for Improved Yield, Purity and Controlled Crystal Size Distribution," Jicong Li PhD, http://www.mt.com/global/en/home/library/on-demand-webinars/automated- reactors/Novel-Continuous-Crystallization-Configurations.html 晶析プロセス開発に関する 様々な技術情報にアクセスで きるサイトはこちらから www.mt.com/crystallization www.mt.com/Crystallization For more information メトラー・トレド株式会社 ラボインスツルメンツ事業部 オートケムチーム TEL: 03-5815-5515 FAX: 03-5815-5525 ●製品の仕様・価格は予告なく変更することがありますので、あらかじめご了承ください © 12/2017 MettlerToledoAutoChem, Inc. White Paper