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温度上昇によるリスク

ホワイトペーパー

安全な化製品開発の実践

多くの化学プロセスは発熱をともない、一定量のエネルギーを放出します。放出されるエネルギーを即座に除熱できないと、温度が上昇します。温度一定条件で行われるプロセスであっても、目標温度とのわずかな差異が見られます。このような温度変動は、反応速度論とプロセス安全性に対して重要となる場合があります。一時的な温度変化は物理的な変化による場合もあれば基質の添加速度、発熱速度、プロセスの動的特性、リアクタ容器によるものもあります。このような挙動の発生は、温度制御や加熱/冷却能力の制約も原因になります。これは、反応が速く強力で、発熱が冷却能力を上回る場合に起こります。この状況が発生する場合、一定量の熱が一時的に蓄熱され、再び徐々に放熱されます。結果的に、当初はリアクタ内温度が上昇しますが、反応の終了時には当初の目的温度に戻ります。

化学プロセスのスケールアップでは、温度変化とそれにともなう反応による蓄熱を把握することがプロセスの安全性を理解する上で重要になります。このホワイトペーパーでは、化学反応における温度変化を伴う反応をどのように評価するかについて解説します。研究室とパイロットプラントの両方の例を使用して、次の質問にお答えします。
1.蓄熱はなぜ、どのようなときに起きるか
2.蓄熱は重要な検討課題か、それはどの程度重要か
3.蓄熱の評価が正しくないと、どのような影響があるか

このカタログについて

ドキュメント名 温度上昇によるリスク
ドキュメント種別 ホワイトペーパー
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このカタログの内容

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反応温度上昇にともなうリスク 安全な合成プロセス開発法 著者 Urs Groth, Fabio Visentin (メトラー・トレド、スイス) 化学反応の多くが発熱反応であり、その反応固有のエネルギーを発します。放出さ れた発熱エネルギーを即座に冷却し取り除かない限り、反応温度が上昇します。ま た、それを一定温度に保とうとしても、少なからず設定温度からのずれは発生する ものであり、そのずれが反応速度やプロセスの安全性に重大な影響を及ぼすかもし れません。反応物の添加速度・発熱速度・プロセス動力学・反応容器固有の物理効 果によっても、一時的な温度変化が生じます。温度制御機構や加熱・冷却能力の限 界が原因で温度変化を生じることもあります。つまり反応が高速かつ強力で、発熱 が除熱能力を上回った場合です。このような温度上昇が起きると、一部の熱は一時 的に蓄積され(蓄熱)、時間とともに徐々に放出されます。すなわち初期に反応内 容物の温度が変化し、反応の終点で目標温度に戻ろうとするのです。化学プロセス のスケールアップにおいては、この温度変化と、反応によって生じる蓄熱の全容を 理解することが、そのプロセスの安全性を確認する上で大変重要です。 蓄熱のリスクを真に理解するためには、以下の三つの質問に答えなければなりませ ん。 1. なぜ、そしていつ蓄熱が起きるのか 2. 蓄熱が顕著である場合、どのくらいの量か 3. 蓄熱の計算が不正確だった場合及ぼされる影響は何か このホワイトペーパーでは、ラボスケールとパイロットプラント両方から データを得た例からこれら質問に答えるとともに適切な反応温度領域を検討 するための方法を示します。 もくじ 1 はじめに 2 なぜ、そしていつ蓄熱が起きるのか 3 蓄熱の重要度と程度の判定 4 蓄熱の計算が不正確だった場合及ぼさ れる影響は何か 5 ラボスケールでの検討 6 まとめ 7 付録 White Paper
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1 はじめに 強力かつ迅速な冷却能力があれば、グラムスケール程度の反応を等温条件で検討できることに異 論はありません。しかし開発がリッタースケールへと移行するにつれ、たとえ一定温度での反応 とされているものでも、多かれ少なかれ非等温の挙動が現れる度合いが増していきます。スケー ラビリティの観点からすると、反応の発熱量だけではなく、発熱速度のデータも得なければなり ません。エンタルピーすなわち熱伝達係数と反応物質の比熱がわかったとしても、必ずしも真の 発熱パターンがわかるわけではありません。特に微妙に温度変化がある場合や、温度を変化させ ながら行う反応に対しては、蓄熱を定量することが大変重要です。 プロセスが完全に等温であるように見えても、反応熱のトレンドすなわち単純にヒートフローと して計算される値は、実際には除熱の挙動を表しているだけで、化学反応による真の発熱挙動で はありません。なぜならば熱は一時的に反応器および内容物に吸収され(蓄積され)、遅れて時 間とともにジャケットへと放出され蓄熱が消失するからです。結果としてヒートフロー曲線から 反応経路を正しい結論に導くことはできず、反応速度を決定することも不可能です。 市販の熱量計のほとんどが循環恒温槽を接続したダブルジャケット式反応容器であり、反応曲線を正 確に測定できるのは、真の等温条件に限定されます。しかし上記のような熱の蓄積は無視されたり、 推定値によって補償されたりするため反応熱の算出にあたって正確性を欠く結果となります。そのよ うな発熱曲線は反応の正確な進行と一致しませんし、反応速度の算出にも使用できません。研究者は まず前述の三点の質問に答え、開発の初期に熱の蓄積のリスクを知り、最も安全なプロセスを開発す るための判断を行うべきなのです。 2 なぜ、そしていつ蓄熱が起きるのか 化学反応の検討はラボスケールでの等温条件下で始まることが多く、その後スケールアップされて初 めて疑似的な等温条件または非等温条件で行われます。化学反応を等温条件で行おうとしても、反応 全体を見ると必ず非等温の挙動があるものであり、熱エネルギー蓄積につながっています。 蓄熱は意図されているものか否かに関わらず発生し、プロセス安全に重大な影響を及ぼしかねませ ん。このホワイトペーパーで取り上げる事例では、反応温度領域がいかに蓄熱に影響し、反応の安全 性に関係するかに着目します。 等温熱量測定とは? 反応中の反応物の温度を常に一定に保時できる時に、等温熱量測定が適用されます。ヒートフロー型 熱量計では反応器内温度(Tr)を、ジャケット内の熱媒体の温度(Tj)を変えることで制御します。 発熱反応で熱が発生すると、ジャケット内の熱媒体の温度を連続的に調整し、Trを一定に保ちます。 ジャケット温度が変化することによって反応で出たすべての熱は即座に取り除かれ、ジャケットへと 放熱されます。よって反応物の温度は正確に設定温度を追随し、熱は蓄積しません(図1)。 2 White Paper METTLER TOLEDO White Paper
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完全な等温反応の場合、反応熱は以下のよう qr に計算することができます。 qr = qflow = UA (Tr−Tj) [式1] Tr (qflow = ジャケットによる除熱量) 反応熱 現実には熱容量・制御の遅延・リアクタのジャ(qr) 反応物温度(T ) ケット温度測定温度計の設置場所と実際のリアr T ジャケット温度(T ) クタ壁の温度の差の問題により、Trの変化や蓄j j 熱が全く無い、完全な等温状態を作り出すこと Time はできません。 図1 完全な等温反応 どのような市販の反応器も、ある程度の非等温 状態にならざるをえません。 非等温熱量測定とは 反応中に反応器内温度が変化するのが、非等温熱量測定です。反応中の温度変化が意図的であるかど うかは問いません。 反応器構成物の温度が変化すると一定量の反応エネルギーを蓄積し、それを蓄熱(式2)と呼びます。 蓄 積の程度は、温度変化・反応物質(mr)および反応器構成物の熱容量[m](mx・cpx)によって決まりま す。 qaccu = dTr/dt • ∑(mr • cpr + mi • cpi) [式2] (qaccu = 反応器構成物による蓄熱) 時間という概念を含めた熱の評価が、真の反応熱であるとする時、蓄熱を考慮することは不可欠な項 目であり、熱収支全体に含めなければなりません(式3)。 qr = UA (Tr−Tj) + dTr/dt • ∑(mr • cpr + mi • cpi) [式3] (反応熱=ジャケットによって除去された熱+反応器構成物による蓄熱) 蓄熱計算の主な要素は、リアクタ内の物質収支と反応器構成物の比熱です。エネルギーの大部分はリ アクタ内反応物質(mr・cpr)に蓄えられていますが、一部は反応器壁(ガラス、金属)と挿入物(プ ローブ、撹拌翼、バッフル)により吸収されます。つまり反応容器や挿入物を加熱・冷却するに必要 なエネルギーを無視することはできず、比熱容量の計算に含めなければなりません。 (Tr−Ta) 1 cpr = (UA • − mi • cpi) • [式4] dTr/dt mr White Paper 3 METTLER TOLEDO 温度
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3 蓄熱の重要度と程度の判定 例1 - 非等温の挙動が少ない反応 以下に示す反応(HFCal付属のOptiMaxTM、1Lリアクタで実施)では、添加試薬をリアクタ内温度5 0℃で添加しました。図2に示すように反応物質の温度(Tr)は目標温度から0.4℃しか変動して いません。しかしqr曲線が示すように未反応物質の顕著な蓄積があり、試薬添加が終了した時点 (02:46:00)より後にも反応熱(qr)が発生している事が見てとれます。反応そのものは激しいもので はありませんし(qr max=35W)冷却機構が高速かつ強力なため、反応熱が即座に取り除かれていま す。結果として反応温度はほぼ理想的に設定した温度になっています。この反応温度の微小な変化は 意図的ではなく、通常は等温であると見なされます。 40 85 840 最大反応熱=35W q 35r 82080 30 800 75 反応熱(qr) 25 反応物質温度 (Tr) 780 70 ジャケット温度 (T 20j) 760 Tset 15 65 740 試薬添加 (Mr) 10 720 60 5 700 55 0 最大反応物質温度=50.4℃ 680 Tr -5 50 660 Tset = 50 °C -10 45 Tj 640-15 40 M -20 620 r -25 600 02:40 02:45 02:50 02:55 03:00 (hh:mm) 図2:疑似等温反応(反応温度の変化が微小な場合) 例2 - 顕著な非等温挙動を伴う反応 この例では40℃での等温反応を意図しているにも関わらず、生成された熱がジャケットの除熱能 力よりもはるかに大きく、等温を保持できなくなっています。 結果としてリアクタ内容物にエ ネルギーが残留し、反応温度(Tr)が40℃から96℃へと急上昇しています(図3)。 340 反応熱 (qr) 最大反応熱=1280W 2200 320 蓄熱 (qaccu) 1200 300 除熱 (qflow) 2000 280 反応物質温度 (Tr) 1000 1800 試薬添加 (Mr) 最大蓄熱260 800 1600 240 1400 220 600 200 最大蓄熱 1200 qr 400180 1000 160 qflow 200 800 140 120 q 600accu 0 100 最大反応物質温度 400 80 =96℃ -200Mr 200 60 Tr -400 0 40 03:25 03:30 03:35 03:40 03:45 03:50 03:55 04:00 (hh:mm) 図3:激しい発熱による意図せぬ非等温反応 4 White Paper METTLER TOLEDO White Paper Tr (°C) Tset (°C), Tj (°C), Tr (°C) qr_hf (W) qaccu (W), qr_hf (W), qflow_hf (W) Mr (g) Mr (g)
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その後、除熱能力が発熱を上回ると蓄積した熱がジャケットへ移行し消失します。Qflow曲線はリアク タ壁面を介した除熱の様子を示し、最大で430Wとなっています。この曲線は除熱能力が発熱を上回る と下降し始めます。qflow曲線下部をベースラインとした面積は反応中に発生した総熱量(ΔHr)に相 当します。前述の等温熱量測定ではqflow曲線のみを測定する事で発熱挙動を得られましたが、今回は 蓄熱(qaccu)を測定し、それをqflowに加えて初めて真の発熱曲線(qr)が得られその最大値は1280W なのです。放出されるエネルギーの総量は変わりませんから、各曲線の下部をベースラインとした面 積は同じとなります。しかし真のqr曲線に対する蓄熱の影響を明確にするには、等温と非等温、両方 を時間変化として測定し解析することで得られ、重要性を明らかにすることができました。この例で の最大ヒートフローは1L当たりに換算すると約260W/L相当です。この数値は重大な懸念材料となりえ ます。一般的なプラントの設計された除熱限界は35W/L以下であることから、このプロセスはスケー ルアップ上、安全性に問題があることを示唆しています。 意図的に非等温とする反応 前に挙げたふたつの例とは異なり、多くの反応条件では反応温度を意図的に変え、反応速度改善・副 生成物の排除・反応率および収率の改善を行っています。反応によっては昇温中に試薬の一部または すべてを添加し、反応させることが有益であることもあります。多くの場合、経済性の観点から反応 熱そのものを昇温エネルギーとして利用します。 そのような温度制御はばらつきが起きやすく、直線的(図4)にも擬似断熱的(図5)にも上昇しえま す。また場合によっては試薬添加中は温度を一定とし、プロセス後半に昇温することもあります(図 8)。以下のセミバッチ反応(図4)では、昇温中に試薬を添加しています。昇温を開始するとジャ ケット温度(Tj)が反応温度を大きく上回ります。試薬添加開始で反応が始まると、リアクタ内温度 (Tr)を設定した温度勾配に合致させるため制御システムがジャケット温度を自動的に低下させま す。リアクタ内温度が目標温度に達した後も、目標値(50℃)に制御するためジャケット温度はしば らく低くなっています。 反応熱 (qr) 22018 110 qr 反応物質温度 (Tr) 16 200 100 ジャケット温度 (Tj) 14 180 試薬添加 (Mr) 12 90 160 10 140 80 8 6 120 70 4 100 60 2 80 0 50 T 60j -2 40 40 T -4r -6 20 30 Mr -8 0 -10 20 -20 00:50 01:00 01:10 01:20 01:30 01:40 (hh:mm) 図4:昇温条件下でのセミバッチ反応 White Paper 5 METTLER TOLEDO Tr (°C), Tj (°C) qr_hf (W) Mr (g)
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温度勾配・試薬添加による持込み熱および反応熱がどのように混在しているのかを知るためには、リ アクタ壁におけるヒートフロー・蓄熱・添加試薬の持込み熱(qdos)を正確に測定する必要がありま す。 qr = UA (Tr−Tj) + dTr/dt • ∑(mr • cpr + mi • cpi) + dm/dt • cpdos • (Tr−Tdos) [式5] (反応熱=ジャケットによって除去された熱+リアクタ構成物による蓄熱+試薬添加にともなう持込み熱) これら測定結果には、リアクタ壁の体積・ジャケット温度測定温度計と実際のリアクタ壁温度の差 の補正・比熱・挿入物の比熱と重量の動的な補償が著しく影響するため、非常に正確で、高いデー タ解析能力を備えた測定装置が必要となります。 断熱制御実験 - 特殊な非等温運転 断熱または疑似断熱条件での制御実験は、特 殊な非等温反応制御であり、反応で発生する qr すべての熱がリアクタに蓄熱します。リアク タ温度は反応の反応率に比例して増加します (図5)。ここでは通常、ジャケットがリア クタ内容物との熱の移動を遮断し断熱状態の T 反応熱(qr)r ように制御します。 反応物質温度 (Tr) Tj ジャケット温度 (Tj) 時間 図5:断熱反応制御 主反応と起こり得るすべての副反応が、不明または十分に解明されていない状態での断熱制御には危 険を伴います。しかし疑似断熱制御は、反応率向上のために反応温度を上げる手段として広く行われ ていす。またラボスケールリアクタでの断熱制御実験は、ラボスケールでの安全性確認、冷却喪失シ ナリオのシミュレーション、あるいは製造スケールで冷却能が貧弱な場合のシミュレーションを目的 として行われています。 4 蓄熱の計算が不正確だった場合及ぼされる影響は何か 算出されたヒートフローの結果は、測定の正確さ・物質収支の正しさ・比熱容量の算出方法・反応 がどの程度非等温であるかなど様々な要因でその正しさが左右されます。全発熱量に占める蓄熱量 の割合が大きくなるほど、ヒートフローと蓄熱量を正確にそして優れた算出法で求めることの重要 度が増していきます。 反応が完全に等温であれば、比熱(cpr)はまったく関係しないため、cprを間違って見積もったり、 誤差があったりしても、最終結果になんの影響もありません。しかし反応が非等温となればなるほ ど、リアクタ自体とリアクタ内容物の比熱は次第に重要となっていきます。反応を温度勾配や断熱 状態、または疑似断熱状態で行う時、蓄熱は反応熱を計算し反応の安全性を見極めるために考慮す べき、核となる重要なファクターなのです。一方疑似断熱状態の場合ヒートフローはほとんどゼロ となり、無視できます。 精密な反応熱量計(付録1を参照)は、可能な限り正確な比熱を求め、挿入物とリアクタ壁におけ る蓄熱の補償を行います。 6 White Paper METTLER TOLEDO White Paper 温度
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リアクタ壁の材質と厚さを考慮するため、リアクタごとの固有モデルを用い、温度勾配中に生じる動 的な補償をすることができます。これにより熱量計算に必要なジャケット温度は、その化学反応の全 温度範囲を通じて、常に計算上補正された真のジャケット温度(リアクタスキン温度)であることが担 保されます。 事例 ―非等温反応のラボスケールからプラントへのスケールアップ 以下の産業分野における実例は、フェノールのスルホン化反応であり、実験室でのデータとパイ ロットプラントデータとの比較です。2-ヒドロキシベンゼンスルホン酸は、染料・医薬中間体・ 現像液・化粧品などに広く利用されています。 主な生成物 OH OH OH SO3H + H2SO4 + SO3H 2-ヒドロキシベンゼン - スルホン酸 4-ヒドロキシベンゼン - スルホン酸 図6:反応スキーム フェノールのスルホン化反応は、液体フェノール60℃に濃硫酸(98%)を添加して行います(図 6)。 反応は酸添加で即座に進行し、反応速度は非常に速く、大量のエネルギーを放出します。しか し反応は60℃では完結しないため、製造は疑似断熱条件で行い、反応熱によって反応温度を上昇させ ています。エンタルピーと発熱挙動が未知であったことから、まず実験室においてOptiMax HFCal  1Lリアクタを用い、異なる条件下で複数の実験を行いました。 パイロットプラントの結果 図7は製造用反応器における温度と試薬添加の曲線であり、疑似断熱条件での製造のしくみが見て 取れます。濃硫酸を添加した後、反応物の温度は反応熱によって放出されるエネルギーにより疑似 断熱的に急上昇します。ジャケット温度は制御せず、内部温度が疑似断熱的に上がるにまかせま 目す標。温度100℃に到達したところで温度制御を開始し、反応終了まで100℃を保つように制御しま す。 125 反応物質温度 (Tr) 115 ジャケット温度 (Tj) 試薬添加(Mr) 105 95 Tr = 100 °C 85 75 Tr 65 Tr = 60 °C 55 Tj 45 35 25 Mr 15 07:26:24 07:40:48 07:55:12 08:09:36 08:24:00 08:38:24 (hh:mm:ss) 図7:製造用反応器における温度および試薬添加曲線 White Paper 7 METTLER TOLEDO 温度 (°C)
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この製造条件において、蓄熱と限界温度を超過するリスクに懸念が生じたため、実験室の1Lスケール で詳細な分析を実施することになりました。OptiMax HFCalリアクタを用いて発熱挙動とプロセスパ ラメータを精査するため、等温・非等温・疑似断熱それぞれの反応条件をシミュレートする実験を行 いました。 結果としてこの反応系における温度制御や試薬添加などのプロセスパラメータの影響を理 解し、最適化することができました。 5 ラボスケールでの検討 等温条件での反応の検討 リアクタにフェノールを入れ、リアクタ内温を60℃で保持しました。濃硫酸は9.2g/minから16.6g/ minまで4段階に変化させた速度で添加しました。一回目の濃硫酸添加によって、即座に激しい反応 が観察されています。発熱パターンを見ると、この反応がほぼ試薬添加速度で制御可能なことは明ら かですが、フェノールの濃度を下げれば反応速度を遅くできます。最後の添加の後、反応が遅滞する ため、1時間40分の時点で反応温度を60℃から100℃に昇温し反応を完結させました(図8) 500 qr 反応熱(qr) 反応物質温度 80 1800 450 (Tr) ジャケット温度(T 1600j) 60 400 試薬添加(Mr) 1400 350 40 1200 300 20 1000 250 800 0 200 600 150 M Tjr -20 T = 100 °C 400r 100 T = 60 °C -40r 200 50 Tr -60 0 00:40 01:00 01:40 01:40 02:00 02:20 02:40 (hh:mm) 図8:等温反応後に昇温する条件の温度および試薬添加曲線 反応における等温保持段階で、最大の発熱挙動は約50Wに達し、これは79W/kgに相当します。昇 温すると蓄積された未反応物の反応が促進され、約90Wの発熱が見られました。これは143W/kg に相当します。製造スケールにおける最大除熱容量を30~35W/kgと考えると、これらの数値は標 準的な製造用反応器の冷却能力をはるかに上回っています。 反応の総熱量は104.3kJ(32.8kJ/mol)であり、そのほぼ60%(67kJ)が等温段階で放出されま す。つまりかなりの量の未反応物質(約40%)が蓄積されているということであり、約37kJが 100℃への昇温中に放出されていることになります。 8 White Paper METTLER TOLEDO White Paper Tj (°C), Tr (°C) qr_hf (W) Mr (g)
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この等温での反応実験により、ヒドロキシベンゼンスルホン酸の合成が高速で強力な反応であり、初 期には未反応物の蓄積がほとんどないことがわかりました。しかしフェノールの約50%反応した後、 反応が著しく遅くなり、未反応物の蓄積が起き、安全上のリスクとなっています。この条件で十分に 高い反応率を得る方法は、試薬添加終了後に反応温度を100℃にする以外ありませんでした。 非等温条件(昇温)での反応の検討 上の条件での結果を踏まえ、温度制御によって60℃から100℃に昇温し、同時に濃硫酸添加の制御を行う反 応を行いました。 400 反応熱 (qr) 50 900 qr 反応物質温度 (Tr) ジャケット温度(T ) 40 800 350 j 試薬添加(Mr) 30 700 300 20 600 250 10 500 200 0 400 -10 300 150 Mr Tr = 100 °C -20 200 100 Tr -30 100 50 TTr = 60 °C j -40 0 00:50 01:00 01:10 01:20 01:30 01:40 (hh:mm) 図9:硫酸の添加と同時に昇温を行った反応結果 前の実験と同様に、濃硫酸の添加によって反応が即座に進行し、大量の熱が放出されました。放出さ れるエネルギーが大きいため、強力な温度制御能力にも関わらず、実際の温度が理想的な昇温曲線か ら若干ずれてしまっています。しかし前の実験とは異なり、温度を一定速で昇温することによって、 試薬添加終了時点における未反応物質の蓄積はほとんど見られませんでした(約4%)。 最大発熱速度は等温後に昇温する前述の実験とほぼ同じでした(約50Wであり79W/kg相当)。反応が二相 系であり、撹拌条件に依存するマストランスファーが反応速度を限定しているのが原因と考えられます。反 応の総熱量は51.8kJ(32.6kJ/mol)です。しかし正確な昇温制御と非等温な反応条件の恩恵で、反応の制御 は良好となり、非常に効率的であり、等温プロセスよりも安全性が増しました。 White Paper 9 METTLER TOLEDO Tset (°C), Tj (°C), Tr (°C) qr_hf (W) Mr (g)
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擬似断熱条件下での反応の検討 前の2つの実験により非等温制御の方が効率的であり、未反応物の蓄積が格段に少ない点で安全性 に優れていることが明らかになりました。これら結果を踏まえ、製造現場を模した疑似断熱条件お よびその後の100℃での等温制御という方法へと検討を進めました。 反応熱(qr) 320 反応物質温度 50 900 300 q (T)r r 280 ジャケット温度(Tj) 40 800 260 試薬添加(Mr) 30 700 240 220 20 600 200 10 500 180 160 0 400 140 -10 300 120 Mr 100 -20 200Tr Tr = 100 °C 80 -30 100 60 Tr = 60 °C Tj 40 -40 0 01:00 01:10 01:20 01:30 01:40 01:50 02:00 (hh:mm) 図10:疑似断熱条件下での反応 結果を図10に示しました。前述の非等温条件とは温度勾配が主な違いですが、データは似ていま す。しかし試薬添加終了時における未反応物質の蓄積がわずかである一方、100℃到達時の蓄熱が顕 著です(約43%)。発熱が除熱能力をはるかに超えていたことが原因です。疑似断熱温度上昇中に 蓄えられたエネルギーを独立して計算し表示できるOptiMax HFCalの能力のおかげで、真の発熱パ ターン(qr)を正確に評価でき、核心となるプロセス情報を得ることができました。 ラボスケールの結果と製造データの比較 表1のまとめを見ると、非等温条件とすることで未反応物質の蓄積が減り、反応を試薬添加制御にで きることがわかります。しかし反応はマストランスファーで制限を受けており、温度領域には依存し ていません。 3つの反応条件による結果の比較 反応1   反応2 反応3 60℃で等温反応後100℃ 非等温(昇温) 非等温(擬似断 へ昇温 熱的) qr 32.8 kJ/mol 32.6 kJ/mol 35.6 kJ/mol qr max 約50W(79W / kg相当) 100℃到達時のqrに占める蓄熱量 5% 3% 41% 試薬添加終了時の未反応物質の蓄積量 40% 4% 3% 表1 実験結果まとめ OptiMaxによる実験により、もっとも適切な反応条件は現在の製造の運転条件にかなり近いこと がわかりました。 10 White Paper METTLER TOLEDO White Paper Tj (°C), Tr (°C) qr_hf (W) Mr (g)
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OptiMaxの温度曲線と製造用反応器のデータを比較すると、広範囲で非常によく一致しています(図 11)。2本の温度曲線は、製造装置の温度制御システムの影響で目標温度100℃に達するとわずかに違 いが出ます。 反応熱(q ) 120 r 実験反応器内温度(Tr lab) 60 1000 q 110 r 製造用反応器内温度(Tr Plant) 50 試薬添加 900(Mr) 100 40 T = 100 °C 800r 90 Tr plant Tr lab 30 700 80 20 600 10 500 70 0 400 60 Tr = 60 °C -10 300 50 Mr -20 200 40 -30 100 01:00 01:10 01:20 01:30 01:40 01:50 (hh:mm) 図11:製造データとラボ用反応器OptiMaxデータの比較 結論として、このスルホン化の例では試薬添加速度の調整能を備えた疑似断熱制御法が、処理時間 を最短とし、また安全性の最も高い反応条件であることがわかりました。 しかしながら、さらに攪 拌翼の型や撹拌速度が混合とマストランスファーに及ぼす影響を検討しておくことが必要と考えら れます。 6 まとめ 製造現場では未反応物の蓄積や反応熱による過剰な蓄熱を防ぎ、選択性・収率・品質を向上するため、 非等温条件での反応が頻繁に行われています。安全上のリスクを真の意味で理解するためには、蓄熱の 度合いと影響を検討し対処しなければなりません。したがって反応熱量計ではヒートフローだけではな く、様々な温度領域における全リアクタ構成物を考慮したqrを正確に求めることが不可欠となります。 上述した一連の反応実験によって、メトラー・トレドの反応熱量計の機能・性能・正確さおよび精度 を、OptiMax HFCalのデータを通して示すことができました。また反応系における動的な影響(リアク タ特有のTaモデル)を補償し、比熱及び蓄熱を求めることで、反応熱量計によって非等温熱量測定が可 能であることを確認しました。 次にフェノールのスルホン化反応の反応熱・反応エンタルピー・温度曲線を、ラボスケールに おける3つの条件で検討し、また製造スケールの同反応とも比較しました。この事例におい て、最初に示した3つの質問に対し、メトラー・トレドの反応熱量計が明白な答えを示しまし た。また、OptiMax反応熱量計の精度が証明されるとともに、難解で問題の発生しやすい高速で 発熱量が大きな反応の、非等温条件下でのスケールアップ検討が容易であることを示しました。 White Paper 11 METTLER TOLEDO Tr (°C) qr_hf (W) Mr (g)
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一方ジャケット付ラボリアクタと循環恒温槽を組合せた一般的な熱量計では、完全に等温の反応であ れば十分良好なデータを出すことができるかもしれませんが、非等温条件では正しくなかったり適切 ではなかったりするデータを出す可能性があります。このホワイトペーパーの例で示したように、す べての熱力学情報と装置からの影響を包括的に調べることがとても重要であり、適切な装置を用いな ければ非等温条件での反応を効率的に分析し、解析することはできません。可能な限り高い精度で反 応熱を計算することで、反応速度論解析やプロセスシミュレーションへの展開も可能となります。メ トラー・トレドの反応熱量計は最高の温調設計により、速い応答性・正確な制御・迅速な冷却をお約 束します。詳細は付録1をご参照ください。 7 付録 付録1 優れた温調の必要性 メトラー・トレドの温調機器は独自の迅速な冷却方式を採用し、高速応答と正確な制御を実現してお り、最も安全で最も優れた実験条件をお約束します。「その目的のために設計された最適な機器」を 使うことが、高品質の熱量データを得るための秘訣でHすeatin。g Cooling 反応熱量計RC1e 反応熱量計RC1e®(図12)の加熱冷却システムは、高速で循環する熱媒流体(約1.2L/秒)と大量の 冷却済みオイルというコンセプトに基づいています。高Co速mpre循ssor環が温度変化への迅速な対応を確実に行 うとともに、冷却用オイル槽を備えることで、大きな発熱や緊急事態に迅速な冷却で対処します。最 Heating も高い精度での計算を実現する専用のアルゴリズムCoにnden加ser え、温調機構は反応における状況変化に迅速 に応答し、設定温度を正確に維持します。 Expansion valve Cooling RC1e リアクタ内温度を制御する オイル循環 加熱 緊急冷却− 必要に応じて冷却能を 補う冷却済みオイル槽(準備量5 L) 冷却 外部の冷媒循環(水または循環恒温 図12:反応熱量計RC1e温調機構の概念図 槽) www.mt.com/rc1 12 White Paper METTLER TOLEDO White Paper
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反応熱量計EasyMaxとOptiMax 反応熱量計EasyMaxとOptiMaxの温度制御システム(図13)は、電気ヒーターによる加熱とペルチェ 素子による冷却というコンセプトに基づいています。温調機構がコンパクトに凝縮されていることか ら、加熱も冷却も格段に高速で、循環恒温槽を使用しなくても容易に氷点下以下にすることができま す。またこの設計により装置が非常に省スペースとなっています。 EasyMaxとOptiMax 反応温度を制御するための電 熱ジャケット 緊急冷却 − 必要に応じて緊急冷 加熱 却を行うペルチェ素子 冷却 外部の冷媒循環(水または循環恒温 図13:EasyMaxとOptiMaxの半導体サーモスタット概念図 槽) Compressor 従来のジャケット付ラボリアクタによる反応熱量H測eatin定g のCo問nden題ser 点 ジャケット付リアクタを利用した反応熱量測定システム(図14)は、一般的にジャケット付リア クタと市販の循環恒温槽を、長さ・内径・形状が限定されていないホースで接続した設計となっ Expansion ています。熱媒流体の流速はRC1eに比べ非常に遅く(RC1valeveの20~60%)、加熱冷却の性能を落と しています。激しい発熱反応が起きた時の緊急冷却への応答時Cooli間ng は十分ではない可能性があり、温 度制御がきかなくなり、装置の反応が遅れます。 Heating Cooling ジャケット付きラボリアクタ を利用した反応熱量計(循環恒 圧縮機 Heating 温槽利用) 加熱 コンデンサ ジャケットへのオイルの循環 冷却時に全てのオイル(オレン 拡張バルブ ジ)を冷却する必要がある冷却 Cooling 冷却 システム(冷凍システム)を用 図14:ジャケット付きラボ用反応器を利用した反応熱量計の概念図 いた外部冷却 システムのコンセプトに加え、リアクタ自体の熱力学的特性が正確に把握されていないため、非等 温での熱量測定に関わるパラメータの特定は困難かつ不正確となります。完璧な等温条件ならば問 題ないと言えますが、反応に非等温な状況が発生すると、反応熱の計算に齟齬が生じます。反応中 の温度変化を完全に制御できないのが普通でHあeatinりg 、等温条件での反応は事実上不可能と考えると、 リアクタ内容物の熱的挙動およびリアクタ自体の熱量測定用の情報が必要となります。 Cooling White Paper 13 METTLER TOLEDO
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付録2 参考文献 1. Becker F., 1968, Thermokinetische Messmethoden, Chemie Ingenieur Technik, Vol. 19, pp. 933 – 980. 2. Blackmond D.G., Rosner T., Pfaltz A., 1999, Comprehensive Kinetic Screening of Catalysts Using Reaction Calorimetry, Organic Process Research & Development, 3, pp. 275 – 280 3. Gigante L., Lunghi A., Martinelli S., Cardillo P., 2003, Calorimetric Approach and Simulation for Scale-Up of a Friedel-Crafts Reaction, Organic Process Research & Development, 7, pp. 1079 – 1082. 4. Regenass W., 1997, The Development of Stirred-Tank Heat Flow Calorimetry as a Tool for Process Optimization and Process Safety, Chimia, Vol. 51, No. 5, pp. 189 – 200. 5. Stoessel F., 2008, Thermal Safety of Chemical Processes, Wiley-VCH, Weinheim 6. Stoessel F., 1997, Applications of Reaction Calorimetry in Chemical Engineering, Journal of Thermal Analysis, Vol. 49, pp. 1677 – 1688. 7. Stoessel F.; Ubrich O., 2001, Safety Assessment and Optimization of Semibatch Reactions by Calorimetry, Journal of Thermal Analysis and Calorimetry, Vol. 64, 61.74 8. Visentin F., Puxty G., Kut O.M., Hungerbühler K., 2006, Study of the Hydrogenation of Selected Nitro Compounds by Simultaneous Measurements of Calorimetric, FT-IR, and Gas-Uptake Signals, Ind. Eng. Chem. Res. 2006, 45, pp. 4544 – 4553. 9. Groth U., Mettler-Toledo GmbH, 08/2012, Understanding the Risks (White Paper) 10. Groth U., Mettler-Toledo GmbH, 11/2013, Safety by Design (White Paper) メトラー・トレド株式会社 オートケム事業部 www.mt.com/HFCal 〒110-0008 東京都台東区池之端2-9-7 For more information 池之端日殖ビル6F TEL: 03-5815-5515 FAX: 03-5815-5525 ●製品の仕様・価格は予告なく変更することが ありますので、あらかじめご了承ください ©4/2017 Mettler-Toledo K.K. White Paper