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ガイド「反応熱量測定」

ホワイトペーパー

反応熱量計を用いた安全なプロセスの設計

当ガイドを通じて、正しい化学プロセスの理解そしてスケールアップの情報が得られます。 反応熱量計を用いて化学反応をラボから製造プロセスに安全にスケールアップする方法を決定し、反応熱と物性変化や撹拌の問題を特定できます。

当ガイドでは、科学者や化学エンジニアが堅牢なプロセスを作成するためのスケールアップ、プロセス安全性スクリーニング、およびプロセス安全性に関する情報を得て、堅牢なプロセスの開発と製品の安全な製造を実施する方法について説明しています。

記載されているトピックは次のとおりです。
・スケールアップ時の問題のスクリーニング
・ラボスケールからプラントスケールへの移管手法
・最大発熱速度の正しい理解

当ガイドでは、反応熱量測定をプロセスに導入する有用性およびプロセス安全性検討を最適化する方法を紹介します。

このカタログについて

ドキュメント名 ガイド「反応熱量測定」
ドキュメント種別 ホワイトペーパー
ファイルサイズ 2.3Mb
取り扱い企業 メトラー・トレド株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧)

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このカタログの内容

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安全なプロセスの構築 反応熱量計で得るべきデータとは? 新規化合物を開発し製造へとスケールアップするには、反応経路や製造法など全て のプロセスパラメーターを理解することが求められます。特にスケール変更するごと の安全性を確保するためには、スケールアップパラメータと並んで、安全性に関する 情報も重視されなければなりません。重要な要因を知るのが早ければ早いほど、プ ロセスの検討と適切な設計・稼働は容易で迅速になります。また実験結果によって は異なる製造法の選択を迫られるかもしれません。 小スケールの段階からより良い情報が得られることにより、最終的な時間と労力を省 き、開発を迅速化することができるのです。 化成品開発・プロセス開発は、単純には“有機合成”から始まり、そこで化学的・物理的 データおよび反応経路を検討します。開発を進める前段階での最終確認として、試 験用に少量製造する場合が多いでしょう。 そこにおいて従来型の機材で妥協し、最新技術ならば採取可能な情報を失ってはい ないでしょうか。必要となる全ての情報を得るために、新しい技術と手法を導入すべ き時に来ています。 もくじ 1 スケールアップリスクのスクリーニング 2 研究室から工場へのスケールアップに不可欠なデータ 3 反応熱量計の重要性とは 4 真の発熱速度曲線を得る 5 最大発熱速度と断熱温度上昇とは 6 まとめ Calorimetry Guide
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1 スケールアップリスクのスクリーニング 反応の詳細・反応物質の物性・物質量をきちんと知ることは最低限必要です。近年、自 動合成機の普及が進み、正確で再現性のある実験を行えると同時に、豊富な情報が得 られるようになりました。 EasyMaxやOptiMaxのような自動合成機からは、反応開始点と終点、並びに反応誘導期の 有無を含む詳細情報が得られます。反応進行中に沈殿や結晶化が見られた場合、そのデ ータと自動合成機の情報と合わせて解析することができます。 Tr - T(j リアクタ内温度とジャケット温度の差:図1の黄色線)は反応経過の指標であり、こ の基本的なトレンドグラフからは、反応のエネルギー量とともに未反応物の蓄積の可能 性を定性的に評価できます。さらに豊富な情報、すなわち反応開始点/終点、誘導期や 反応の持続時間などもわかります。これらは温度差であり、正確な定量値ではありませ んが、スケールアップ上のリスクをつきとめ、それを排除するために必要な多くの結論が 得られるのです。 全体像として見た場合、プロセスをあらかじめ「簡単」「ふつう」「難しい」に分けることが できます。つまり開発の初期に「やる」「やらない」の決断が可能となることにより、時間 を節約し、高価な試薬の無駄を排し、不必要な回り道を避けることができます。 図1 基本的なグラフから得られる情報 Tr: リアクタ内の温度 Tj: ジャケット温度 Tr - Tj (ΔT): リアクタ内温度とジャケット温度の温度差 Mr: リアクタ内容物量 2 Safety by Design Calorimetry Guide
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2 研究室から工場へのスケールアップに 不可欠なデータ 最適な製造法を構築するためには、製造法そのものの課題に力点を置きがちです。しか し研究室から製造へのスケールアップを担当するエンジニアは化学プロセスにおける熱 的リスクと障害の可能性をより正確に検討する重要性を認識しています。 化学反応を研究室から工場へス ケールアップすると、様々な原因 で突如問題が発生します。よく遭 遇するのは、混合の不良でヒート トランスファーやマストランスファ ーが制限され、発熱パターンが反 応槽の冷却・許容温度幅・原料供 給速度などとかみ合わなくなり、結 果として未反応物質の蓄積が起き るというケースです(図2)。 図2 ヒートフロートレンドが試薬の添加速度に対して遅れてい る(反応誘導期があり未反応物が蓄積してしまっている) さらに、晶析・沈降・付着・粘度の変化など、安全性を脅かすさらなる問題が見つかるか もしれません。 もし製造設備でこのような問題が発生したら、その解決にはプロセス開発の段階で再検 討が必要になり、解決するためのコストが大きく跳ね上がります。あらかじめ反応熱量計 を利用しておけば、反応経過の詳細がわかり、信頼性の高いデータを迅速に採取でき、 また時には迅速な対処が可能となります。 安全という面から言えば、反応熱量計を用いた正確で信頼性の高いデータによりスケー ルアップに適さない条件とリスクを数値化することは、化学プロセスの臨界点を確認し各 スケールでの安全を確保するための必須事項であると言えます。 Safety by Design 3
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3 反応熱量計の重要性とは 反応熱量計ではプロセス同様の条件下で反応プロセスまたは物理的プロセスが生成す る熱を測定することにより、反応の熱化学および反応速度に関する基礎データを得るこ とができます。 反応を一回行うだけで測定でき るデータからは、重要な情報(伝 熱係数、比熱、発熱速度、エンタ ルピー、反応率など)を導き出す ことができます。これらのデータ をさらに処理し、より具体的な詳 細情報(未反応物の蓄積量、Δ TadおよびMTSR)を求め、危険度 クラス分類と反応暴走シナリオ (図3、図4)を作成できます。 これらのデータがもたらす 知見とは? 図3 危険度クラス分類 たとえば断熱温度上昇(ΔTad) は、一般的に反応の危険性に関 わる評価に用いられます。冷却 機能喪失が発生した場合、反応 物の最高温度上昇幅のことです。 ΔTadを知ることで、主反応にお ける反応系での最高到達温度 (MTSR)を求めることができます。 したがって想定される望ましくな い二次的反応と、反応暴走誘導 時間(TMRad)が24時間となる温度 (TD24)を見積るための情報とする 事ができます。 これらのデータを結合することで、 危険性を視覚的に表す「危険度ク ラス分類」や「反応暴走シナリオ 」が作成できるのです。 図4 反応暴走シナリオ 4 Safety by Design Calorimetry Guide
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例として事故につながる未反応物の蓄積が問題となりえるプロセスを考えてみましょう。 このようなプロセスで冷却機能喪失が発生すると、反応の制御が失われ、最悪の場合、 暴走反応が導かれます。 反応熱量計によって添加速度に対するヒートフローを得ることにより、その反応が添加に よって制御できるのか(図5)、あるいは未反応物質の蓄積が顕著であり(図6)、反応暴 走のリスクが高いのかを判定できます。 図5 迅速な反応 図6 遅延のある反応 ある反応で未反応物の蓄積が見られたとき、その原因は単に反応速度が遅いだけという こともあります。反応温度を上げる、濃度を変える、または異なる溶媒や触媒の使用な どにより反応速度を上げれば未反応物の蓄積が解消できることがあります。 また、不均一反応で未反応物の蓄積が見られた場合、マストランスファーが反応を制限し ているかもしれません。この場合、攪拌速度を上げればマストランスファーが改善し、反 応速度が上昇し未反応物の蓄積を解消できるでしょう。 未反応物の蓄積を低減することと、そのスケールにおける障害の可能性を低減すること は同義です。反応の状態(例えば、ガスの発生、粘度の急激な変化、大きな発熱ピークの 観測、沈殿の発生などの有無)に応じて、プロセスはより徹底的に検討されねばなりま せん。 自動合成機から定性的でシンプルな情報が得られますが(多くの場合それで十分です が)、反応熱量計からは化学プロセスを詳細に分析した、定量的かつ正確な情報が得ら れます。すなわち反応熱量計は、スケールアップとプロセスの安全性スクリーニングさら に化学プロセス安全のための最も重要な測定装置のひとつであり、科学者や工学者にと って堅牢なプロセスを設計し、プラントの処理能力に応じた製造設備の安全性を担保す るための適切な判断に不可欠な装置であると言えます。 Safety by Design 5
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4 真の発熱速度曲線を得る スケールアップという観点から言うと、どれだけの発熱が有るのかだけではなく、いつど のように熱が放出されるのかも問題です。エンタルピー、伝熱係数、反応物の比熱などは 知られていても、現時点で、発熱速度曲線の重要性が必ずしも周知されていません。 例 反応物A(過剰量)を40℃一定温とした反応容器に仕込み、反応物Bを15分間で添加しま す(緑線)。添加が完了した後、触媒を添加しました。 ΔT(青線)を見ると、添加中に少 しだけ反応が進行していることがわかります。 触媒を添加した後、反応は急激に 進行しています(ΔT:青線)。発 熱が冷却システムの除熱能力を 超え、リアクタ内温度が上昇する ことにより、未反応物として蓄積 していた物質が反応しはじめます。 よってリアクタ内温度(赤線)が 40℃から最大96℃まで上昇して います(図7)。 反応が収束するにつれ、発熱速 度は鈍化し、除熱能力が発熱量 を上回ることになります。その結 図7 反応経過 果、リアクタ内容物の温度はジャ ケットへと放熱し、リアクタ内温度は設定値である40℃に戻ります。しかし潜在的な問題 や脅威があることを物語るこのような情報は、定性的なものにすぎません。定量的なヒー トフローを、そのすべての副次的効果とともに、より正確に知る必要があります(図8)。 ΔTをヒートフローに変換し、試薬添加による持込み熱(試薬添加により冷却された内容 物を設定温度まで戻すために消 費されるエネルギー)を補正する ことにより、時間を関数とした除 熱量(オレンジ線)が得られます。 反応開始点と終点の間のこの曲 線を積分することにより、反応エ ンタルピー(ΔHr =-123.1 KJ /モル) を算出します。図8 は、反応槽の 壁に対し最大400W超のエネルギ ーが負荷されることを示していま す。ヒートフローの曲線(オレンジ 線)をたどると、触媒添加は反応 に全く影響を与えていなかったこ とと、反応自体がかなり長い誘導 期と莫大な蓄積を抱えていること 図8 リアクタ壁に対するヒートフロー が明らかになります。 6 Safety by Design Calorimetry Guide
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図8により、ジャケットの冷却でエネルギーが除去される状況や、総括的なエネルギー収 支についての情報が得られました。ではこの曲線が化学反応による発熱量にあたると考 えてよいのでしょうか? 化学反応からの発熱量を正確に知るためには、熱の蓄積(未反応物質の蓄積と同一では ありません!)に由来する全反応物質の温度変化を解析する必要があります。 前述のように熱発生が除熱を上 回ると、リアクタ内温度が上昇し 始めます。結果としての顕熱量は、 qaccu曲線(オレンジ)の最初の部 分に表されています。除熱が熱発 生より大きくなると、顕熱は減少 し、蓄積されたエネルギーは、再 び最終的にゼロになるようにジャ ケットに放熱されます(図9)。 ヒートフローと顕熱を足したもの が、真の発熱速度曲線(図10)で あり、以下のことを示しています。 1 この反応には誘導期がある 図9 反応経過中の蓄熱曲線 2 試薬添加後に加えた触媒は、 反応自体への効果がなかった 3 このプロセスには、87% 以上 の非常に危険な未反応物の蓄 積がある 4 真の発熱速度曲線が反応率の 曲線に匹敵する 5 最大発熱速度は、除熱量から 得た400 Wではなく、約1300 W である 前半に示した温度計のみから得 られたデータと後半の反応熱量 計を用いたデータは大きく異なっ ており、反応熱量計が他では採取 ・解析が難しい現象をいかに解 明できるかを示す好例となってい ます。 図10 真の発熱速度曲線 Safety by Design 7
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5 最大発熱速度と断熱温度上昇とは ある反応を最適に制御する方法 は反応スケールに依存する場合 があります。小スケールか大スケ ールかで異なることがありえま す。小スケールでは、撹拌してい る溶液に、紛体基質を投入するの も容易です。大スケールとなった 場合は、はじめに紛体を懸濁液と し加えていくのが最善の方法でし ょう。 例としてエタノール溶媒中のメチ ル - イソニコチン酸をNaBH4で還 元する反応を示します。固体の NaBH4を加えることにより、直ちに 急激な反応が始まり、63 W(119 W / L相当)の発熱ピークを示しま 図11 メチルイソニコチン酸の還元反応におけるヒートフロー曲線 した(図11)。 反応熱量計による一回の実験で メチルイソニコチン酸 25.9 g (0.1851 mol) (通常の実験法に比べ、きわめて 積分値 46.19 kJ 短時間で)反応の過程だけでな エンタルピー -249.54 kJ/mole – High く、安全性やスケールアップにも 63.2 W = 119 W/L – Too High 観点を置いた、豊富な情報を得る qmax (プラントの設備の能力は通常30 W/L) ことができます。データの抜粋を 未反応物の蓄積量 44.65 kJ = 96.7 % – 危険 表1に示しました。 ∆Tad 53 K MTSR 83 °C – 溶媒の沸点を超えている 反応熱量計のデータから得られ 表1 実験評価のためのデータ一覧 る結論とは? • 一般的に、バッチ式は半バッチ式または連続プロセスよりも問題が発生しやすいものである。 • 固形物を添加する場合、撹拌 • この反応は約119 W / Lであり、 まとめると、バッチ式からセミバ 性の良否について検討が必要 明らかに通常の製造設備が扱 ッチ式へ変更し、最大発熱量・原 である。 える発熱量(約30 W / L) を超 料物質の蓄積・バッチ時間それ えている。 ぞれを抑制することが、この規模 • この反応はバッチ式であり、潜 • 総括伝熱係数(青線)は約5% の工程の安全性を改善するため 在的な危険性を示す90%以上 だけ変化しており、顕著ではない。 の指針であるとわかりました。 の多量な未反応物の蓄積が見 られる。 • 反応時間は3時間であり1バッ • すべてのNaBH4を添加した時点 チが非常に長く、コスト上の問 での冷却機能喪失を仮定する 題となりえる。 と、断熱温度上昇は約53 Kとな る。したがって、反応系での最 高到達温度(MTSR)は、約83℃ であり、溶媒の沸点を超えている。 8 Safety by Design Calorimetry Guide
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6 まとめ 反応を研究室から製造工程へ、いかに安全に移行するかの判断に際し、反応熱量計の データはその要となります。化成品開発のワークフローに沿って、各開発段階に適した基 本データが得られるとともに、プロセスの危険性・スケールアップの問題・反応が暴走し た際の評価をするためのデータに換算できます。反応熱量計により、ヒートトランスファ ー・マストランスファー・撹拌が関与する問題が明白になり、適切な温度・撹拌・添加条 件を実データに基づいて決定できます。また予期せぬ挙動、例えば一時的な粘度変化、 沈殿、結晶化なども明らかにでき、様々なスケールアップ上の問題(たとえば未反応物の 蓄積)が可視化され数値化されます。 お客様が必要とする情報は、開発段階によって内容と質が異なります。メトラー・トレド は、様々な反応容器容量・温度範囲・機能・オプションアクセサリーで、ご要望に合った反 応熱量測定装置をご提案いたします。 自動合成機 プロセス安全 化学的・物理的事象の スケールアップ スケールアップ上リスクの プロセス安全 観測 ラボからプラントへ スクリーニング 安全性検討全般 EasyMax® HFCal はスケールアップ上の問題点を抽出する反応熱量スクリーニングに、 OptiMax™ HFCal はスケールアップと安全性の検討に最適です。 RC1eは業界標準機であり、プロセス安全性の総合的な検討に最適。比類のない正確さと 精度が特長です。 Safety by Design 9
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参考文献 [1] F. Stoessel, Thermal Safety of Chemical Processes, Wiley-VCH, Weinheim, (2008) [2] H. Fierz, P. Finck, G. Giger, R. Gygax, The Chemical Engineer 400, 9, (1984) [3] F. Brogli, P. Grimm, M. Meyer, H. Zubler, Prep. 3rd Int. Symp. Safety Promotion and Loss Prevention, Basle, 665, (1980) [4] P. Hugo, J. Steinbach, F. Stoessel, Chemical Engineering Science, 43, 2147, (1988) 他の資料 ウェビナー - Francis Stoessel: Avoiding Incidents at Scale-up: Is Your Process Resistant Towards Maloperation? - Stephen Rowe: Safe Scale-up of Chemical Processes: Holistic Strategies Supported by Modern Tools ウェビナー一覧はホームページをご覧ください:www.mt.com/ac-webinars カタログ - Process Safety Brochure To download brochures or datasheets, please visit: www.mt.com/process-safety ホームページ - プロセス安全性の応用例ウェブサイト (www.mt.com/process-safety) - 反応熱量計製品のページ (www.mt.com/hfcal) 筆者へのコンタクト - Urs Groth, autochem@mt.com メトラー・トレド株式会社 オートケムチーム www.mt.com/HFCal TEL:03-5815-5515 FAX:03-5815-5525 For more information © 04/2014 Mettler-Toledo K.K. ●製品の仕様は予告なく変更することがありますので、あらかじめご了承ください