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熱分析 UserCom 47(日本語版)

ハンドブック

UserComは熱分析に関わる方のために年2回発行される技術雑誌です。

メトラートレドでは、熱分析に関わる技術者の方のための
技術雑誌UserComを年2回発行しています。

この情報誌では、熱分析のヒントとコツ、さまざまな業界での応用例
新技術や製品に関するニュース、地域イベントの開催日
トレーニングコースの案内、国際会議のお知らせなどをお届けします。

【熱分析 UserCom 47内容】
■TAのヒント
・熱重量およびガス分析、Part 3: TGA/DSC-FTIR

■ニュース
・STARe ソフトウェア V16.10 (データインテグリティ)
・カールフィッシャー
・Vsorp – マルチサンプル水蒸気収着

■アプリケーション
・データ保存用途のSe1-xTex混合物の非晶質相のFlash DSC測定
・TGA-GC/MSによる塗膜内のジメチルホルムアミドの証明
・カールフィッシャー滴定、TGAとTGAミクロGC/MSを用いた粉粒体の水分量の決定
・熱分析における研究室のデータインテグリティの理解

このカタログについて

ドキュメント名 熱分析 UserCom 47(日本語版)
ドキュメント種別 ハンドブック
ファイルサイズ 4.1Mb
登録カテゴリ
取り扱い企業 メトラー・トレド株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧)

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このカタログの内容

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47 Thermal Analysis User Information for Users Com 読者の方々へ Contents 1/2018 近年、データは最も価値のある財産の一つに数えられます。データに基づいて重大な決 TA Tip 定が下されますが、データが誤っている場合、後に重大な事態を招く恐れがあります。例 1 熱重量およびガス分析 えば、自動車業界での品質問題は、企業ブランドの評判を傷つけるだけでなく、巨額の Part 3: TGA/DSC-FTIR 損害を伴うリコール措置につながりかねません。 News したがってデータの質と安全性は、非常に大きな意味を持っています。今日重要なのは、 7 STAReソフトウェア V16.10 データを安全に保存することができ、何年もの間変わらずに判読が可能な状態であるこ (「データの完全性」) とです。 8 カールフィッシャー Bob McDowallにより、私たちは「データの完全性」というテーマへの洞察に対して掘り 9 Vsorpマルチサンプル水蒸気収着 下げてくれる専門家に出会いました。 Applications 皆様が、様々な使用領域からの興味深い記事を楽しんで読まれることを、チーム一同願 10 データ保存用途のSe1-xTex っております。 混合物の非晶質相の Flash DSC測定 熱重量およびガス分析 13 TGA-GC/MSによる塗膜内のジメチルホルムアミドの証明 Part 3: TGA/DSC-FTIR 17 カールフィッシャー滴定TGAとTGAミクロGC/MSを用いた 粉粒体の水分量の決定 Dr. Melanie Nijman 20 熱分析における研究室の データインテグリティの理解 TGAと適切なガス分析((Evolved Gas Analysis; EGA)を組み合わせた実験により、サ Dates ンプルの質量変化の定量的な情報のほかに、TGA実験の際に発生するガス状反応また は分解生成物に関する定性的な情報も得られます。この「熱重量分析とガス分析」シリ 26 展示会、セミナーのご案内 ーズの第4部では、TGA-FTIR実験の実施方法と解析方法を示します。
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はじめに のガスセルと接続されます。ガ 10K/minまたは20K/minを使用 このシリーズの第1部では、TGA スセルとトランスファーライン できます。TGA許容温度範囲全体 実験中に発生するガス状の分解 は凝集を防ぐために200℃に (1600°Cまで)を使用できます。 または反応生成物を分析するた 保持されます。TGAで発生した めのさまざまな技術を紹介しま 分解生成物は、天びんの保護 FTIR した。この記事では、TGAとフー ガスやパージもしくは反応ガス FTIR分光計で最も重要な設定( リエ赤外分光法(FTIR)の組み と共に、トランスファーライン たとえば、増幅率、フーリエ変 合わせの使用について説明し を通してガスセルに流れ込み 換、フィルタなど)については、メ ます。TGAおよびFTIRの操作に ます。TGA-FTIR測定では、通常 ーカーのデフォルト値によって おいて重要なパラメータ、サン 約20mL/minの窒素を天びん 指定されています。この値は、最 プルに関する重要なこと、収集 保護ガスとして使用します。パ 適な測定条件(ノイズなどに対 した多数のデータの解析方法 ージもしくは反応ガスは窒素、 する)を保証するものです。TGA- などを紹介します。次のセクショ 空気、または酸素です(標準流 FTIR複合測定では、ユーザーは ンで、これらのテーマおよびそ 量: 50mL/min)。 図1には、TGA/ 次のパラメータを設定する必要 の他のテーマについて説明しま DSC-FTIRセットアップの概要図 があります。 す。 が示されています。 ・干渉計のミラーが動く速度 ・ スペクトルの積算するスキャ 図1: TGAとFTIRの ン数 接続の概要図 ・ スペクトルを記録する波数の TGA Analyzer Transfer Line Gas Analyzer Purge Purge 分解能 gas gas + Gas Balance Furnace products Heater Interferometer cell この3つのパラメータにより、一 つのスペクトルを測定するため にかかる時間が決まります。この Computer 時間(これはiS™50またはiS™10 のOMNIC™ソフトウェアでも表 示されます)に昇温速度を掛け ることにより、発生するガスの組 機器のセットアップ サンプル質量とサンプルの 成に関する情報を取得する温度 TGA - F T I R測定には、通常の 準備 分解能が得られます。 TGA/DSCまたはTGA機器が使 サンプル質量は、検出したい生 用されます。メトラー・トレドで 成物が約100µgになるように選 一例として、表1のパラメータの は、FTIR分光計をTGAに接続す 択してください。たいていの場 場合: 分解能が4cm-1、1スキャン るのに必要なTGAファーネスイ 合、サンプル質量は約10mgで は約1秒かかります。8スキャン ンターフェースを提供していま 十分です。濃度が低い場合は、 の場合、1スペクトルをとるのに す。FTIR分光計には、Thermo それに応じて、サンプル質量を 約10秒かかります。昇温速度が Scientif ic™社のガスセルを搭 大きくするか、またはより感度 10K/minの場合、1.67°Cごとに1 載したiS™50またはiS™10 FTIR の高いガス分析(GC/MSまたは つのスペクトルが記録されます。 分光計を推奨します。原理的に MSのみ)を使用します。 これで150°C~750°Cの温度範 は、適切なガスセルを搭載した 囲で360スペクトルが得られま ものであれば、任意のFTIR分光 測定パラメータとデータ作成 す。 計を利用できます。1 TGA ある測定のFTIRスペクトルがど TGAは加熱されたトランスファ T G A - F T I R測定では通常の のように表示されるかという例 ーラインを使ってFTIR分光計 T G A測定、例えば昇温速度 を図2に示します。この図では、 波数をX軸とし、個々のスペクト 表1: FTIR測定パラ メータの概要 パラメータ 測定時間 作用 標準値 ルをX軸に平行してプロットして ミラー速度 ↑ ↓ ノイズ抑制の 0.4747 cm/s います。Y軸は時間、Z軸は吸光 低下 度です。時間軸に対して垂直にスペクトルが表示され、波数軸 スキャン数 ↑ ↑ ノイズ抑制の 8 に対して垂直に時間に対するそ 向上 の波数でのサンプルの吸光度が 分解能 ↑ ↑ 分解能の向上 4 cm-1 表示されます。 1 TGA装置と分光器の自動同期機能は、その他の分光器では保証できません。 2 METTLER TOLEDO UserCom 47 TA Tip
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図2: TGA測定中の 水やCO2は、赤外光を強く吸収 FTIRスペクトル。X軸は個々のスペク するので、ごくわずかでもFTIRス トルの波数、Y軸は ペクトルで検知できます。このた 0.30 各スペクトルが記 め、通常、測定したスペクトルを 録された時間、Z軸は吸光度を示し いわゆるブランクスペクトルで 0.20 ます。 補正します。 0.10 分光計には常に低濃度の水お -0.00 よびCO2があるからです。TGA- 15.0 FTIR測定中のラボ内の雰囲気は 3500 10.0 ある程度一定であるため、この 30002500 Time in minutes ブランク補正でこの2つの気体 2000 5.01500 の期待されない吸収の影響を差 Wavenumber in cm-1 1000 500 し引くことができます。ブランク スペクトルは、TGA-FTIR測定の 開始直前に行い、TGA測定中に 図3: シュウ酸カルシウム一水和物の 保存される各スペクトルの補正 TGA、DTG に用いられます。ブランクスペク (上)およびGram- トルの測定は、スペクトルの測定 Schmidtカーブ (下) と同じパラメータで行われます。 TGA-FTIR測定の解析 TGA-FT IR測定時には、TGA/ DSC測定カーブのほかに、多数 のFT IRスペクトルが得られま す。FTIRスペクトルの記録した時 間に対応して、特定のスペクトル を特定の温度への割り当てられ ます。 TGA-FTIR測定の解析は2段階 で行います。最初に、TGA/DSC のデータを解析します。たとえ ば、TGAカーブの一次微分(DTG メータは、表1に記載した標準値 Schmidtカーブが得られます。シ カーブ)からステップの解析。そ を使用しました。 ュウ酸カルシウム一水和物での の後、測定したFTIRスペクトルを TGA-FTIR実験のGram-Schmidt 解析します。FTIRスペクトルの解 TGA, DTG, and Gram-Schmidt カーブは、図3の下に示されてい 析は、通常、下記の3段階で行 curves ます。 います。 図3の上にTGAカーブ(黒)とそ 1.Gram-Schmidtカーブの作成 の一次微分(赤)を示します。シ DTGカーブは、通常、Gr am - 2.選 択した温度でのスペクトル ュウ酸カルシウム一水和物は三 Schmidtカーブの鏡像です。た の解釈 段階で質量が失われることがわ だし、DTGおよびGram-Schmidt 3.ケミグラムの作成 かります。 カーブの個別のピークの形状は 異なります。これは、すべての分 以下では、シュウ酸カルシウム 質量減少ステップ中、各分解生 解生成物で赤外吸収が同じでは 一水和物(CaC2O4·H2O)のTGA- 成物を分析するためのFTIRスペ ないためです。このことは図3か FTIR測定の方法と得られる結果 クトルが保存されます。スペクト らもわかります。 を示します。この測定は、TGA/ ルの面積はトータル赤外吸収強 DSCとiS™50 FTIRで行いました。 度に対応します。各スペクトル 個々のFTIRスペクトルからの物 昇温速度は10K/minでした。こ のトータルIR吸収強度が計算さ 質またはその置換基の同定 の測定は窒素(50mL/min)で行 れ、時間または温度に依存して 分解生成物を同定するには、個 いました。FTIR測定の測定パラ 記録されると、いわゆるGram- 々のスペクトルを正確に分析 METTLER TOLEDO UserCom 47 3 Absorbance
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する必要があります。通常、選 ーソルキーまたはマウスで簡単 の一部)を、データベースに存在 択した温度でのスペクトルを に動かすことができます。 する参照スペクトルと照合しま 見ることになります。この温度 す。ソフトウェアは測定されたス は、Gram-Schmidtカーブに基 1番目の質量減少時のスペクト ペクトルが得られるような化合 づいて選択します。カーブのシ ルは、4000~3500cm-1と2000 物のリストを提供します。図5の ョルダーまたはピークが生じて ~1200cm-1の範囲で非常に多 上に、790°Cで測定されたスペク いる所(ショルダーは重なり合う くの吸収帯を示しています。こ トルを青で示します。その下に、 分解プロセス、ピークはガス流 れらの吸収帯は、水に特徴的 測定されたスペクトルと最も条 中の分解生成物が最大濃度と なものです。1番目の質量減少 件が一致すると、データベース なる点を示す)に対応するスペ は、CaC2O4·H2Oからの結晶水の により判断されたスペクトルが クトルを分析します。この例で 放出によるもので、200°Cで発生 赤で表示されます。この場合は、 は、200°C、520°Cおよび790°C します。 二酸化炭素のスペクトルです。 で測定されたスペクトルです。 質量減少ステップ中に同時にさ データベースの検索には、使用 図4には、Thermo Scientific™社 まざまな物質が発生することが されるデータベースがガス状物 のOMNIC™ソフトウェアを使っ よくあります。それらのIRスペク 質のスペクトルを含み、データ てこれを実行する方法を示しま トルは重なり合い、測定された ベース内のスペクトルの分解能 す。図の上にGram-Schmidtカ スペクトルの解釈をかなり難し が、スペクトルを測定する分解 ーブを示します。Gram-Schmidt くしています。この場合、さまざ 能とおおよそ一致することが重 カーブの十字線は、OMNIC™ソ まなガス状化合物の何百ものス 要です。図5では測定されたス フトウェアの解析ウィンドウの下 ペクトルが含まれているデータ ペクトルの分解能が、データベ の部分に表示されるスペクトル ベースが非常に役立ちます。測 ースに保存されているスペクト を定義します。この十字線は、カ 定されたスペクトル(またはそ ルの分解能よりも高いことがわ かります。 図4: 1番目の質量 減少時のFTIRス ペクトルとGram- 2番目の質量減少ステップは、一 Schmidtカーブ 酸化炭素の生成に起因します。 発生した物質のケミグラム 放出された物質が同定される と、たいていの場合、問題となる 化合物の放出の時間的な推移 のプロファイルも気になります。 このために、まず、問題となる物 質のスペクトルの特性波数範囲 を決めます。続いて、この範囲の スペクトルの面積を、すべての測 定スペクトルについて求め、時間 図5: 3番目の質量 または温度の関数としてプロット 減少ステップ中に します。このようにして得られた 測定されたFTIR スペクトルとデー カーブはケミグラムと呼ばれま タベースからの最 す。図6には、シュウ酸カルシウム も適合するスペク 一水和物のTGA測定中のスペク トル トルを2Dプロットで示します。色 で赤外吸収強度を表しています。 個々のスペクトルは水平線に対 応しています。2本の白い線で マ ー ク さ れ た 波 数 範 囲 (2385cm-1~2350cm-1)は二酸化 炭素に特徴的な波数範囲に対応 しています。この波数範囲の対応 するケミグラムを図7に、水 (3572cm-1~3560cm-1)と一酸化 4 METTLER TOLEDO UserCom 47 TA Tip
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炭素(2232cm-1~2146cm-1)のケ 図6: シュウ酸カル ミグラムおよびGram–Schmidt シウム一水和物の2D等高線プロッ カーブと共に示します。 ト。白い線は、CO2 を時間と温度に対 して追跡するため に用いる範囲を示 このケミグラムは、1番目の質量 します。 減少時に水分(紫色のカーブ) が放出され、2番目の質量減少 で一酸化炭素(青のカーブ)と二 酸化炭素(緑のカーブ)、3番目の 質量減少でも二酸化酸素が放出 されることを示しています。この 結果は、通常、シュウ酸カルシウ ム一水和物の分解を記述する化 学反応式(ステップ1: H2O; ステ ップ2: CO; ステップ3: CO2)で予 測される結果と一致しません。予 測に基づけば、2番目の質量減少 では、一酸化炭素のみの放出の 図7: 水(紫)、二 はずです。TGAで測定された質 酸化炭素(青)、一酸化炭素(緑) 量減少ステップは、この分解反応 のケミグラム。参 の化学量論比から予測される質 考に図の一番上に 量変化と正確に一致します[1, 2] Gram–Schmidt図を赤で示します。 。では、なぜ、FTIRのケミグラムか らは、COのほかにCO2も測定さ れたのでしょうか。実際にはこれ は、Boudouard 反応として知られ ているCOからCO2とCへの不均 化反応の結果です [3]。 ここで説明したケミグラムの解 釈は、用いられる特定の波数範 囲のスペクトルは常に同じ化学 物質によることが前提です。シュ ウ酸カルシウム一水和物の場合 もこのことが当てはまります。し (HCl)に、2番目のスペクトルは ス状物質を同定できる強力な手 かし、同じ波数範囲で異なる複 ベンゼンと同定できます。 法です。同時に多数の複合物質 数の化合物が赤外光を吸収する が放出される場合、測定された 場合もあります。 これにより、PVCの分解プロセス スペクトルの解釈には経験もし の情報が得られます。 くは適切なデータベースの利用 一例として図8にポリ塩化ビニル 同定が必要です。ケミグラムを (PVC)の分解が示されていま 1番目のステップでは高分子鎖 使用することにより、特定の物質 す。TGAカーブはPVCが2段階で の脱塩化水素が行われ、2番目 (たとえば、CO2やH2Oなど)を 分解することを示しています。青 のステップでは高分子鎖の再 温度に対して追跡できます。 のカーブは波数範囲3200cm-1 配列が生じ、ベンゼンが放出さ ~2500cm-1のケミグラムです。 れます。TGA-FTIR測定で得られ この記事では、データ分析の手 ケミグラムの2つの最大値は2 たスペクトルを異なる温度につ 順をステップバイステップで説 つの質量減少に対応していま いてより綿密に調べた場合にの 明し、数回の簡単な測定で多く す。黒のカーブは325°C~490°C み、2つの異なるプロセスを検出 の関連情報を得ることができる (ケミグラム上の最大値)で できます。 ことを示しました。 測定された赤外スペクトルで す。2つのスペクトルは大きく異 結論 なります。データベースを使用 TGA-FTIRは、サンプルの質量減 して、325°Cのスペクトルは塩酸 少を定量し、同時に発生したガ METTLER TOLEDO UserCom 47 5
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参考資料 [1] Atlas of Thermoanalytical Curves, G. Liptay (Ed.), Akadémiai Kiadó, Budapest 1973. [2] J. Paulik and F. Paulik, Comprehensive Analytical Chemistry, Vol. 12, Part A Elsevier, Amsterdam 1981, p. 83. [3] E. Charsley et al., American Laboratory, January, 1990 図8: PVCのTGA-FTIR測定から得られるTGAカーブとケミグラム、スぺクトル。二つの異 なる分解生成物を同定。その赤外吸収帯はどちらもケミグラムで用いられている波数 領域です.。 6 METTLER TOLEDO UserCom 47 News
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STAReソフトウェア V16.10(「データの完全性」) STAReソフトウェアは顧客の要望、業界からの要求、そして新しい法的要請に合わせて、さらに開発が進 められました(これに関しては、20ページの記事「データの完全性」を参照)。手入力は必要最小限に制 限される必要があります。測定に関連するものは全て、不正アクセスから安全に保護され、保存されなけ ればなりません。データベースを内蔵したSTAReソフトウェアは、他の類似製品に比べ大きな長所を特徴 としています。データベースはデータを不正アクセスから守ると同時に、不慮のデータの削除も防ぐもの です。 LabX® ソフトウェアとの接続 受けたかどうかを後から簡単に 調整と校正 バージョンV16.10で、LabXソフ 確認できます。 調整値の最大使用可能時間を予 トウェアにより管理される全て め定義づけます。これにより、誤っ の天びんを、STAReソフトウェア 自動計量 て古い調整値が使用されること からサンプル計量のために使用 TGAに内蔵された天びんによる を防ぎます。 することが可能となります。サン 自動計量が最適化されました。新 プル質量は自動的に伝達されま たに温度や雰囲気といった計量 システムメンテナンス す。LabXソフトウェアは、計量に の条件を定義づけることができ サーバーシステムでは、ソフトウ 当たる関連する天びんのデータ ます。 ェアのアップデートといったメン を全て保存します。ユーザー識別 テナンスが行われることがありま はLabXにより天びんで確認され 曲線表示 す。システム管理者は、事前に全 ます。 座標軸の表示が拡張されたことに てのユーザーに対しサーバーが よって、軸を自動的に、またはカス 使用できないという情報を伝え LabX®ソフトウェアは、自動デー タマイズした形で表示できます。 ることができます。 タ処理、高いプロセス安全性、 複数の座標系を使った評価の またシステム管理者は、メンテ 徹底したSOPユーザーガイドに 際、前もってその配置を簡単に指 ナンスの実行を可能にするため より、研究室の効率を向上させ 定することができるため、後の作 に、全てのユーザーの全てのアプ ます。包括的なステップごとの 図の際にかなりの時間短縮が可 リケーションの作動を停止するこ ユーザーガイドは、機器のタッ 能となリます。 ともできます。 チスクリーンで直接見ることが できます。LabXは現在METTLER ProUmid製湿度発生装置の制御 Pharma Library V1.0 TOLEDO製のスタンドアロン型実 STAReソフトウェアで直接湿度を リファレンスライブラリオプシ 験機器をサポートしています。該 条件づけることができるようにな ョンがPharmaceutical Library 当する実験機器は以下のとおり りました。これにより湿度が温 V1.0に追加されました。このライ です。 度または雰囲気のような実験 ブラリには米国薬局方提案の薬 • ミクロ天びんと分析天び パラメーターとなります。 剤成分が全て含まれています。私 ん STAReソフトウェアが、重量に加 たちはこれら選定された成分に、 • 計量システム (Quantos) え、サンプルがさらされていた湿 さらに他の頻繁に使用される成 • 滴定機器 度を自動的に保存します。 分をいくつか加えました。これに • 紫外線可視光分光計 より、DSCとTGAにより測定され • pHメータ たXXという成分を含む薬剤リフ • 融点測定装置 ァレンスライブラリの利用が可能 となっています。 その他の新しい機能性 文書の保存 STAReソフトウェアの新しい機 能により、方式特有のSOPや基準 を直接その方式にリンクづけ できます。研修を受けたことを 示す認定書を新しくユーザーに リンクづけることができるように なりました。これにより、ユー ザーがその分析を行うために 必要な研修を METTLER TOLEDO UserCom 47 7
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カールフィッシャー InMotion™ カ ールフィッシャー・ 学的負荷のリスクを削減します。 研究室スペースの最大化 オーブンサンプルチェンジャー サンプルを容器に入れて計量し、 InMotion KFで、より多くの量をよ サンプルと水の混合を避けるため り少ないスペースでこなすことが 正確で効率的な水分量の決定 にすぐにねじ蓋で閉じます。 可能となります。26のサンプルを METTLER TOLEDOの新しいオー 気体流は内蔵の流量計により電 25㎝サイズのプラットフォーム上 ブンサンプルチェンジャーは、26 動で調節されます。この気体流 で同時に処理することができる サンプルまで、簡単に正確な水 は、空気ポンプ、または各研究室 ため、研究室の貴重な作業スペー 分量を決定できる理想的なソ 独自のガス供給を使用して調整 スを節約できます。さらに、より リューションです。 することができます。 多くのサンプルを一回の処理で 検査できることで、効率性が高ま InMotion KFは研究室で必要とな あなたの研究室にも ります。 る効率性を配慮し、性能の高い機 「InMotion」を 能により効果的で信頼できる結 InMotion KF Proの温度スキャン LabXソフトウェアを追加すること 果をもたらします。向上した生産 機能は、幅広い範囲のサンプル により、多数のMETTLER TOLE- 性と人間工学に基づくコンパクト の水放出の最適温度決定を可能 DO製機器をスムーズにマルチ機 な設計により、InMotion KFは毎日 にします。この際、排水量が温度 能機器、あるいはマルチパラメー のカールフィッシャー分析を加速 関数として記録されます。物質の タープラットフォームに接続する する理想的な実験機器です。 熱曲線の評価によってユーザーは ことができます。統制された作業 「水ピーク」を早急に確認でき、 工程は効率を高め、ユーザビリ インテリジェントデザイン これにより内容不明のサンプル ティを制限することなく法令遵守 I nMo t i o n K Fサンプルチェン の水分量の決定に理想的な温度 にも役立ちます。 ジャー試験管は新しいワンピース を割り出すことができます。これ 型のデザインが特徴的な製品で が僅か一回の処理で可能です。 概要 す。刷新的な蓋により簡単で迅速 InMotion KFはポリマーや医薬品 なサンプル調製が可能となり、化 有効成分、石油化学製品といった 様々なサンプルの水分量の決定 に正確で効率的、かつ多面的に 使用可能なソリューションです。 コンパクトかつ丈夫な構造、しか も簡単な操作のこの機器は、最 適な選択肢です。これで作業工 程の効率と日々のカールフィッ シャー分析におけるユーザーの 安全性を向上できます。 製品に関するページのリンク (エイリアス) www.mt.com/InmotionKF-Oven 8 METTLER TOLEDO UserCom 47 News
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Vsorpマルチサンプル水蒸気収着 Vsorpは操作が簡単な上、正確で信頼できる収着分析のための高いサンプル処理能力を備えています。 マルチサンプル機能を搭載した 図1: 収着試験シス 収着試験システムは、その高いサ テムVsorp ンプル処理能力、それに伴う貴重 な測定時間の節約、ならびに 様々な製品量や製品タイプの比 較測定が可能なため、製薬技術 や食品工学、あるいは物質科学 といった多くの分野で確実に定 着しています。 これらの用途における分析の大 部分は、保管、移送、加工に特有 の湿度および温度領域で行われ ます。極端に高い、または非常に 低い温度での収着分析はあまり 必要とされていません。そのため テムを選択でき、それによりユー 図2: 想定されるT/RHコンビネーショ Vsorpは検査対象となる物質に ザーに最大限の利益をもたらす ンの領域 周囲 対する基本的な湿度および温度 ことが可能になっています。効率 温度22°Cの場合 領域で安定した調整が可能とな 的な生産技術と革新的な設計の に適用 るように、特別に設計され最適 Vsorpは、必要最低限のメンテナ 化されました。 ンスですむため維持費を抑える ことができ、さらに高い信頼性も Vsorp収着試験システムには以下 兼ね備えています。 3つのタイプがあります • Vsorp Basic その他の情報については、下記 • Vsorp Plus ページを参照してください。 • Vsorp Enhanced これらのタイプは、使用する http://proumid.com METTLER TOLEDO製分析ロード セルの解像度、および同時に測 定するサンプルの数と最大サイ ズにおいて異なっています。わず Vsorp Enhanced Vsorp Plus Vsorp Basic 表1: Vsorpシリーズ か数ミリグラムの薬剤粉末や、シ 技術仕様サンプル数 11または23 11 5 リアルのような比較的量の多い 不均質な素材に加え、泡、繊維や 最大サンプルサイズ ∅ 50 mm/∅ ∅ 50 mm ∅ 86 mm 木材といった大きく容積の多い 33mm 素材のサンプルも分析可能となっ 最小サンプル計量 <30 mg <50 mg <500 mg ています。オプションとしてお求 最大サンプル計量 22 g/220 g 111 g/220 g 220 g めいただける浸透性用のサンプ (dual range) (dual range) ルキットは、ホイルやフィルムの 解像度 1 µg/10 µg 10 µg/100 µg 100 µg 水蒸気伝達率の決定に関して 温度領域 15 °C ~ 40 °C Vsorpの機能範囲を拡張していま す。 (±0.1 K、時間的誤差) 相対湿度 0% RH ~ 95% RH* Vsorp各タイプの様々な技術仕様 (23°C ± 5°Cで±0.6%RH (0...100%RH)) により、確実に用途に応じたシス *最大到達可能相対湿度についてはT/RHダイアグラムを参照。 METTLER TOLEDO UserCom 47 9
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データ保存用途のSe1-xTex 混合物の非晶質相のFlash DSC測定 Paul A. Vermeulen, Jamo Momand, Bart J. Kooi Zernike Institute for Advanced Materials, University of Groningen, Nijenborgh 4, 9747 AG Groningen, Netherlands ここ数十年間、カルコゲナイドガラスは、高い赤外線透過性、強い感光性、高い屈折率などの比類のない 物理特性のおかげで 熱心に研究されてきました。現在は、光ファイバー、レンズ、センサおよび相変化メ モリーおよび データキャリア(RW-CD / DVD / Blu-Ray)に使用されています。 これらの用途は、可逆的な非晶質相変化に基づいています。このような相転移をSe1-xTex合金で超高速示 差走査熱量測定(Flash DSC)で調べました。 はじめに ナイドガラスです。カルコゲン デル物質として、次の点に対応 現在、例えば、スマートフォン、 PCMの場合、非晶質相と結晶質 するために、SeTe合金が選択さ ノートパソコンおよびUSBメモ 相の変換(図1)は1011回まで可 れました。 リーなどに情報を保存するため 逆的に行われます[1]。異なる相 (i) 融解からの急冷による非晶 にFlash-EEPROMが使用されて が特定の長さと強度のインパル 質相への可逆相変換と加熱 いますが、その短所は、特に、最 スで設定されます。高いエネル による再結晶化 大書き込みサイクルが約106回 ギーインパルスを使用する場 (ii) 材料の熱履歴の正確な管理 であるために、寿命が限られて 合、サンプルは強く加熱され、結 (iii)1つのサンプルの繰り返し測 いることにあります。相変化物質 晶が融解します。このガラスの 定の実施 (Phase Change Mater ia ls、 場合、重要な冷却速度(結晶化 PCM)により、基本的にさらに長 が発生しない場合)は非常に小 これにより、この材料の相転換 い書き込みサイクルが達成され さいため、インパルス後の急速 反応速度解析の洞察が得られま ます。 な冷却時に結晶が形成されませ す。測定はメトラー・トレドの ん。材料は非晶質のままです。 Flash DSC 1を使用して行われま この場合に、さまざまな相の異 した。作業の詳細な説明は、参 なる特性が利用されます(非晶 結晶段階はエネルギーが小さ 考資料[2]と[3]にあります。 質や結晶質など)。考えられる材 く、パルス幅が広い「低エネル 料区分は、従来のガラス形成要 ギーインパルス」の使用時に発 素であるシリコンや酸素をゲル 生します。 材料および方法 マニウム、ヒ素および重カルコ 相対的に融解温度 が低いため ゲン硫黄、セレニウムおよびテ 材料は結晶化温度まで加熱さ (例えば、50 at.% Te の場合、 ルリウムに置き換えたカルコゲ れ、非晶質相が結晶質相に変換 325 °C)、Se1-x Tex 合金を x = 15、25および 50で測定しまし 図1: 細胞の単相 た。これらの材料の場合、Flash 変換。 DSC 1で実現可能な冷却速度も 非晶質相を生成するために十 分な高さです[4]。これらの材料 の場合、PCMの貯蔵には、基本 的により高い冷却速度が必要で Amorphouse phase Crystaline phase す。 High resistance Low resistance サンプル(1-2μg)として、1本 図2: Se85Te15.の昇 されます。図1に示したように、 の髪の毛をセンサ上に置いて 温速度3~10 K/sに 相変換は、十分な大きさのデー 使用しました。サンプルとセンサ よる昇温カーブ タ密度を達成するために、空間 の間の優れた熱 接触は、サンプ 的に限られた狭い領域で行われ ルの融解により達成されます。 ます。 合金の組成は、走査型電子顕微 鏡(SEM)を電子レントゲン分光 相変換は非常に迅速に超高速 計(EDXS:エネルギー分散型X線 DSCでシミュレーションされま 分析)と組み合わせて求めまし す。相変換を研究するためのモ た。サンプルで、1~1000K/sの 10 METTLER TOLEDO UserCom 47 Applications
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昇温速度で250回以上の加熱/ Te濃度が高くなると、結晶化温 図3: Se70Te30.の昇 冷却サイクルが実行されま 度は下がり、融解およびガラス 温速度50~2,500 K/sによる昇温 した。冷却速度は、4000K/sで 温度は上がります。 カーブ した。 結晶化-活性化エネルギー 結果 合金の結晶化機能の特性を調 べるために、活性化エネルギー 昇温速度の影響 を求めるためのキッシンジャー 図2と図3は、初期組成Se85Te15ま 分析[5]を実施しました。この たはSe70Te30のサンプルの昇温 ために、(1/Tc)に対する値を 2 図4: UFS-1センサカーブを示しています。 ln(φ/Tc )にします。ここでΦは昇 のSEM撮影 昇温速度3、5および8K/(s 図2)の 温速度、Tcは、結晶化ピーク温 場合、T = 200°Cでは融解を常に (度図で7す)。この図の昇温カーブは、 同じ条件で測定するために、速 活性化エネルギーEaに比例して 度は10K/sに上昇しました。 います。従来のDSCでは、昇温速 度範囲は非常に限定され(最大 比較的高い昇温速度(図3)の熱 2桁)、直線的な関係しか認めら 流量カーブが昇温速度に正規化 れません。 されています。すべての測定 カーブで、昇温速度の上昇に 図7は、Flash DSC測定のキッシ 伴って結晶化ピーク温度が高く ンジャープロットおよび昇温速 晶-結晶相変化を測定しました。 なりました。Flash DSCで結晶相 度範囲1 K/s~5000 K/sのさま 15および約60 at.%のTeを含有 と非晶相の可逆変換を分析でき ざまなTe比率を示しています。 するSeTe合金の場合、非晶相と ます。 この範囲では、4 d以上でカーブ 結晶相を可逆的に切り替えるこ が曲がっています。昇温速度が とができます。 Te濃度の結晶化挙動への影響 高くなると、活性化エネルギー 合金の高い蒸気圧により、材料 が小さくなります。この非アレニ 冷却速度4000 K/sでは、SeTe合 の一部が高温で気化します。気 ウス挙動の原因は、冷却された 金のn場合、最低40at.% Te含 化した材料は、一部がセンサの SeTe合金の高い脆弱性にありま 有率まで結晶化を抑え、非晶材 低温環境で沈殿し、加熱された す[2]。結晶化のための活性化エ 料を取得することができます。 測定範囲の回りにSeTeの暈を ネルギーはTe濃度が15から30 形成します(図4)。 a t . %に上がると、約0 . 5から 超高速DSC測定は、高い昇温速 0.6 eVまで上昇します。 度で優れたS/N比を示します。ガ 質量損失に基づいて、融解ピー ラス転移温度Tg、結晶化Tcおよび クの面が昇温-冷却サイクルの 結論 融解温度Tmを非晶材料の昇温 数によって小さくなります(図 初めて、超高速DSC(Flash DSC 1) 時に確実に測定できます。 5)。Seの蒸気圧はTeよりも大き でカルコゲナイド材料の可逆非 いため、蒸発により合金のTe比 率が増えます。融解温度は組成 図5: DSC昇温カー の変化に応じて上昇します。濃度 ブ、挿入図: EDXS測定による融解 (EDXSで求める)と融解温度の 温度と原子組成 関係は、図5の挿入図に示してあ の関係 ります。青のカーブは理論値に 相当します。 図6は、昇温温度10 K/sの場合の ガラス温度Tg、結晶温度Tcおよび 融解温度TmをTe含有量の関数と して示しています。この図は、2つ の異なるサンプルを違いを識別 することなく示しています。これ は、Flash DSC測定の高い一定 性と再現可能性を示していま す。 METTLER TOLEDO UserCom 47 11
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SeTe合金はセンサから脱水し た組成とよく一致することを示し した。キッシンジャー分析で、 ます。EDXSおよびDSC測定の組 ています。遷移温度Tg、Tcおよび SeTe合金の結晶化の活性化エ み合わせは、Flash DSCで測定 Tmの場合、Te含有率が15~60 ネルギーを求めました。 された融解温度がEDXSで求め at.%の範囲で相図を作成できま 参考資料 [1] A. Sebastian, M. Le Gallo, and D. Krebs, “Crystal growth within a phase change memory cell,” Nat. Commun. (2014), 5: 4314. [2] P. A. Vermeulen, J. Momand, and B. J. Kooi, “Reversible amorphous- crystalline phase changes in a wide range of Se1-xTex alloys studied using ultrafast differential scanning calorimetry,” J. Chem. Phys. (2014), 141, 024502. [3] B. Chen, J. Momand, P.A. Vermeulen, and B.J. Kooi "Crystallization Kinetics of Supercooled Liquid Ge–Sb Based on Ultrafast Calorimetry", Cryst. Growth Des. (2016), 16, 242–248 [4] G. Ghosh, R. C. Sharma, D. T. Li, and Y. a. Chang, “The Se-Te (Selenium-Tellurium) system,” J. Phase Equilibria (1994), 15: 213–224. 図6: Te濃度の関 [5] H. E. Kissinger, “Reaction Kinetics in 数としてのTc、Tmお differential Thermal Analysis,” Anal. よびTg Chem. (1957), 29: 1702–1706. 図7: さまざまな Se-Te組成のキッ シンジャープロッ ト    12 METTLER TOLEDO UserCom 47 Applications
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TGA-GC/MSによる塗膜内の ジメチルホルムアミドの証明 Nicolas Fedelich ジメチルホルムアミドは、ポリマーファイバー、フィルムまたは塗膜の製造時によく使用される溶剤です。 また、革製品の金型作成に対する殺菌剤としても使用されます。DMFは皮膚と接触して激しいアレルギー 反応を引き起こす恐れがあります。この論文では、TGA-GC/MSを使用してDMFを証明する方法およびそ の濃度を定量化する方法を示します。 はじめに 結果 TGA-MS同時測定の結果を図 ジメチルホルムアミド(DMF) 2にまとめました。図の上半分 は、水およびたいていの有機溶 TGA-MS 測定 には、TGA曲線とDTG曲線が示 液に混ぜることができる溶剤で 不明な物質の場合、通常、TGA- されています。多数の重なる質 す。DMFは、繊維(アクリル繊維) GC/MS実験の前にTGA実験が 量損失段階がみとめられます。 の製造時の溶剤として普及し、ま 実施されます。この予備実験は 図の下半分には、一部のDMF た塗料用として使われています。 ガスサンプルをIST16に保存す に特徴的な質量のMS曲線が示 がん研究の国際機関はDMFを る相対温度を確定するために行 されています。m/z73だけは約 発がん性があると評価していま ないます。この実験の場合、TGA 160°Cのピークのみが測定され、 す。さらに、DMFに直接触れた人 予備実験をMS測定と同時に行 その他すべての表示された質量 に激しいアレルギー反応を引き なうことを決めました。これによ (m/z15、18、30、42および44) 起こします。 り、DMFで指定される温度範囲 は160°Cのピークのほかに、より を同時に示すことができます。 高い温度での追加のピークを示 EUではこれらの理由から、2012 しています。ここから、DMFは約 年以降、製品中のDMFの濃度 同時MS測定は、いわゆるMIDモ 100°Cから230°Cの間で放出さ を0.1ppm未満しか認めてい ードで実施されました。このモー れると結論付けました。 ません。しかし、特にアジアで ドでは、ユーザーによって指定 は、DMFは以前と同じようによく されたイオンが測定されます。 160°Cにおける表示された質 使われています。製品中のDMF 今回の実験の場合、図1に従っ 量のイオン電流の比率がDMF のわずかな濃度をいかにして証 て、DMFに特徴的な質量を選択 の測定スペクトル(図1を参照) 明し、定量化できるかが問題とな しました(m/z15、18、30、42、44 に基づいて予測される比率 ります。 および73)。 に対応していないという事実 この論文では、パウダーコーティ 図1: DMFの質量 ングの例でこのことを示します。 スペクトル(引 用元: NIST化学 実験 Webブック(NIST Chemistry Web- 測定は、TGA/DSC3+をSRAのメ book , http:// モリインターフェイスIST16およ webbook.nist.gov\chemisry) びAgilentのGC/MS(7890 GCと 5975C MSD)と接続して実施さ れました。さらに予備実験用に TGA/DSC3+をPfeifferのTher- mostar MS GSD 320と接続して 使用しました。測定はサンプル 質量約100mgで60mL/minの窒 素中で行われました。酸化アルミ ニウム製の150μLサンプルパン を使用しました。 METTLER TOLEDO UserCom 47 13
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(例えば、m/z73のピーク面は 対応する概要を示します。DMF 全イオン電流を時間に依存す 100°C~200°Cの間で明らかに の放出にのみ関心があるため るように設定すると、いわゆる m/z42より大きくなければなら に、250°C以上の温度ではガス TIC(「全イオンクロマトグラム」 ない)は、この温度範囲で測定 サンプルは保存されませんでし )が求められます。例として、図3 された質量損失(1%)がDMFの た。 に190°Cの場合のTICを示しま 希薄化/蒸発にのみ起因するも す。TICの各ピークは別の結合に のではないことを示しています TGA-GC/MS測定中にガスサン 相当します。1つのTICピークに (DMFの沸点は153°Cです)。 プルが表示1に記載された温度 属する質量スペクトルに基づい でIST16のメモリループに保存 て、データベースを使用して、該 TGA-GC/MS 測定 されました。その後、各ガスサン 当する結合が識別されます。こ TGA-MS測定の結果に基づい プルは個別にGC/MSに注入さ れは、図4ではTICで約9.2分時 て、ガスサンプルを後でGC/MS れて、分析されます。その際に、 に表示されるピークで示されて 測定に使用するためにIST16メ まず、測定された各MSスペクト います。 モリインターフェイスに保存す ルで全イオン電流が計算されま る温度を設定しました。表1に す。 上の図は、TICで9.2分後に見つ かったピーク中に測定された質 量スペクトルを示しています。 このスペクトルは、データベース (NIST/EPA/NIH MS Bibliothek 2011)内の基準スペクトルと整 合されます。結果として、測定ス ペクトルはDMFの基準スぺクト ルとぴったり一致します(下の 図)。TICで9.2分後に測定された ピークもDMFに起因します。 すべてのメモリループと選択し 図2: パウダーコー た結合でこの評価を実施すると、 ティングのTGA-MS 分析 上半分: TGA 選択した結合の放出プロファイ 曲線、黒; TGA曲線 ルが作成されます。図5はDMFお の最初の導線 よび塗膜の他の2つの特徴的な (DTG曲線)、赤 下 半分: 15、18、30、 分解生成物の放出プロファイル 42、44、73のMS曲 をTGA曲線と共に示しています。 線 塗膜内のDMFの濃度をTGA- 図3: 190°Cの場合 のTIC TICの各ピー GC /M Sを使用して求めるに クは特定の結合に は、DMFの比率といずれかの 相当します。結合 GC/MS分析で計算したサイズの は、ピーク中に測 定される質量スペ 関係を記述する係数を求める必 クトルに基づいて、 要があります。このためには2つ データベースを使 の方法があります。 用して識別されま す(図4を参照)。 a) サンプル内の濃度を求める 結合から、わずかな量(通常 100μg)がTGA-GC/MSで測 定されます。TGAで測定され た質量損失と、例えば、結合の 主要微粒子のイオン電流の積 分に基づいて、感度係数が計 算され、これが次にサンプル 内の対象となる結合の濃度を 表1: TGA-GC/MS 実験中にガスサン 温度(°C) 50 70 90 110 130 150 170 190 210 230 250 プルがIST16に保 存される温度の メモリループ 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 概要 14 METTLER TOLEDO UserCom 47 Applications
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定量的に求めるために使用さ 図4: 測定された質 れます。 量スペクトル(上の図)の特定の結合 b) 多数のサンプルが定量化する への割り当ては、 結合と共にドープされます。こ データベースを使 のようにして用意されたサン 用して行われます(下の図) プルがドープされていないサ ンプルと同じ測定方法で分析 されます。そこから、サンプル 内の対処となる結合の濃度を 求めることができる校正曲線 を計算できます。 塗膜内のDMF濃度を求めるため に、「ドープ」プロセスを適用しま した(図6も参照)。これに応じて 物質の3つのサンプルが追加で 異なる数量のDMFでドープされ ます(追加のDMF比率(質量%): 0.223%、0.472%および0.944% Rank Name Ref. No. MW Qual )。対応するDMF数量(Sigma- 1 Formamide, 739 73 92 Aldrich、227056-100mL)がマ N,N-dimethyl- イクロピペット(レイニン、Pipet- 2 Formamide, 740 73 90 O Lite XLS、0.1~2µL)を使用して、 N,N-dimethyl- N サンプルに塗布されます。サンプ 3 Formamide, 741 73 90 ル数量はそれぞれ約100mgに N,N-dimethyl- なります。 図5: さまざまな 調査対象のサンプルのDMFノー 接続のTGA曲線 ドは次のようにして求めます。最 と放射プロファイル放射プロファイ 初にすべてのサンプルで(不明 ルは濃度を反映し なDMFを含有する4サンプル、そ ません のうち3つは既知の数量でドー プ)、 m/z73の放出プロファイル に基づいて表面積を計算します。 次に表面積(A(0 ドープされてい ないサンプル)とAi、i = 1、2、3(ド ープされたサンプル))がそれぞ れ計量されたサンプル質量(mi、i = 0、1、2、3)で正規化されまし た。これにより、4つの異なるDMF 濃度に対して4つの応答係数が 得られますRi = Ai/m。3つのドー プされたサンプル(i = 1、2、3)に は、ドープされた数量のDMFの ほかに、追加でサンプルに既存 の数量のDMFもあります。ドープ ると、図7に示した校正曲線が得 このようにして、ここで調べた塗 されたサンプルのDMF応答係数 られます。この曲線を直線によっ 膜のDMF濃度に値0.245%が得 がドープされていないサンプル て区別することができます。サン られます. のDMF応答係数で プル内の不明なDMF濃度が 結論 Rcorr R -ai = Ri - R0 (i = 1, 2, 3) ξ = 0b TGA-GC/MSは、例えば物質内の 損傷した結合を見つけて、その に従って補正されます。このよう 表の各部の意味は次のとおりで 濃度を求めるための感度の高い にして見つけた応答係数を Rcorri す。aおよびb図7の軸の切断と直 方法です。例では塗膜を分析し 対応するドーピングに関連付け 線の上昇。 ました。TGA-GC/MS測定により、 METTLER TOLEDO UserCom 47 15
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塗膜にDMFが含まれることがわ Sample 100 mg of sample かりました。DMFの放出とサンプ ルの分解が重なるため、塗膜の 濃度をTGA曲線から求めること はできません。ただし、DMF濃度 はGC/MS分析の結果から求める DMF ことができます。このためには、 100 mg of samples まず、濃度といずれかのGC/MS + 測定で計算したサイズ(定量化 する結合の主要微粒子の放出プ ロファイルに基づく表面積)を求 める必要があります。 0.25 μL 0.5 μL 1 μL of DMF 例では、このためにドーププロ Concentration: 0.223% 0.472% 0.944% セスを使用しました。ドープされ 図6: ドーププロセス 結合の測定の比率を有するサンプルが対象となる結合の追加の ていないサンプルのほかに、追 既知の比率でドープされ、次にTGA-GC/MSと同じ測定方法で測定されます。 加で異なる(ただし既知の)量の DMFを添付した3つのサンプル を用意しました。4つのサンプル のTGA-GC/MS測定から、校正曲 線が計算され、これを使用して、 塗膜内のDMF濃度を計算するこ とができました。調査対象の塗 膜のDMF含有量が0.245%であ ることを示すことができました。 図7: 塗膜内のDMF の校正曲線 16 METTLER TOLEDO UserCom 47 Applications
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カールフィッシャー滴定TGAとTGAミクロGC/MSを用いた 粉粒体の水分量の決定 Dr. Markus Schubnell, Dr. Thomas Hitz 熱可塑性樹脂の加工において、使用された粉粒体の水分量は最終製品の品質を大きく左右します。本文 ではカールフィッシャー滴定、粉粒体内の水分量をTGAおよびTGAミクロGC/MSを用いて決定する方法 を示します。 はじめに 一定量の乾燥気体流(通常80 ~ 測定します。ここでいずれにせよ 熱可塑性樹脂(ポリエチレン、ポ 150 mL/min)で、一定の昇温速 確認される水分量は、管材料の リアミドなど)は生産者である合 度で加熱されます。サンプルから 通気性およびサンプル容器内に 成樹脂加工会社に粉粒体として 気体の生成物(水、溶剤、場合に 残っていた湿気が原因となりま 輸送されます。粉粒体の製品へ よっては分解産物など)が生じた す。 の更なる加工は、引き続き押出機 場合、乾燥気体(一般的に窒素ま (プレートやチューブなど半製品 たは合成気体)と共に滴定セル 私たちの例では、1.78 gのABSを の形)または射出成形機で行わ の中に移送され、そこで滴定され 10 mL容量のサンプル用容器に れます。どちらのプロセスでも粉 ます。 充填し、2 K /m i nで40℃ ~ 粒体はまず液状にされ、続いて 280℃、100 mL/minの窒素で加 圧力下で適当なノズルによって この際、カールフィッシャー(KF) 熱しました。 半製品として押し出されるか、型 滴定を用い、水の他にもKF試薬 に注入(射出成型法)されます。こ と反応する他の物質が検出され TGA測定は、METTLER TOLEDO の方法で合成樹脂のパーツは実 ることがあることに留意する必要 製のTG A / D S C 3 +をミクロ 質任意の型で生産することがで があります。粉粒体ではこれが特 GC/MSに連結して行われました。 きます。粉粒体の押出加工で重 に分解産物であることもありま さらにDSC測定もDSC3+によっ 要なパラメーターはその水分量 す。サンプル由来である水だけが て行われました。これらの測定 です:水分量がわずか0.1 %多い 確実に測定されるよう、測定され は、50 mL/minの窒素内におい だけでも最終製品の品質は明ら た滴定曲線はいわゆるブランク て2 K/minの昇温速度で行われ かに損なわれる恐れがあります 曲線により修正が可能です。 ました。TGAミクロGC/MS測定用 (気泡発生、表面の欠陥など)。 に計量されたサンプル量は これは空のサンプル用容器を同 446.076 mgでした。 本誌では、カールフィッシャー滴 様の測定プログラムで加熱して 定とTGAを用いたポリマー粉粒 体内の水分量の測定方法を示し 図1:ABSの滴定 ます。ここでは、水分が存在する 曲線とその一次 場合、物質を分解せずに気体流 導関数 でできる限り短時間のうちに除 去できるよう、最適な抽出温度を 決定することも重要です。例とし てABS粉粒体(ABS:アクリルニト リル・ブタジエン・スチロール)が 分析されました。 実験 滴定を用いた水分量の決定に は、METTLER TOLEDOのInMo- t i on KF P ro サンプルチェン ジャーとカールフィッシャー容積 滴定(METTLER TOLEDO製 V30S)が使用されました。この 際、水分量の不明なサンプルは、 METTLER TOLEDO UserCom 47 17
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結果 蒸気化しています。実験の開始と 抽出温度は約180 °Cと考えられ 図1でKF滴定測定の結果が温度 ともに、観察された、一見抽出率 ます(まだ分解ではなく、急速か 関数として示されています。赤い の上昇につながるこの水分量は つ完全な水の抽出)。粉粒体内の 曲線は測定中に確認された累積 滴定されます。 初期の水分量は180 °Cを上限と 水分量に一致します(滴定曲線、 して滴定された水分量(1950 ブランク曲線で修正済み)。下の 180 °Cあたりからは累積した水 µg)から発生し、初期のサンプル 曲線は滴定曲線の一次導関数で 分量が最大約200 °Cで一定とな 量(1.78 g)は0.11 %となります。 す。 ります。つまり、この温度領域では 滴定曲線の一次導関数は最初水 水分の放出がみられないことに TGAミクロGC/MS測定 分放出率の急激な減少を示して なります。その後滴定曲線は再び TGAミクロGC/MS測定の結果は います。約70 °Cから水が放出さ 著しく上昇します。この上昇は分 図2に示されています。一番上の れる割合は一定で、毎分約40マ 解が始まったためであると理解 曲線はTGA曲線を、中間にある イクログラム(または毎度20マイ することができます。 曲線はその一次導関数を示して クログラム)です。始めに高くなっ います(DTG曲線)。下はミクロ た水抽出率は、実際の測定開始 つまり質的には水分の放出(約 GCで測定した水、エチルベンゼ 前にすでにサンプルから蒸発し 180 °Cまで)と分解(約210 °Cか ン、スチロールの放出パターンを ていることが原因です。サンプル ら)の間で区別することが可能と 示しています。さらにDSC3+で測 用容器中の気体はこれにより水 なります。すなわち、最適な水分 定されたDSC曲線も書き入れら れています(黒の曲線)。 図2:TGA曲線、 その一次導関数 (DTG曲線)、DSC TGA曲線は最初からサンプル量 曲線および水、エ が継続的に減少していることを チルベンゼン、ス 示しています。DTG曲線上では チロールの放出パ ターン放出パター 様々なプロセスを確認すること ンのスケーリング ができます。室内温度と約160 °C は、測定された3 の間でDTG曲線には肩(約75 °C つの物質の実際の 濃度を反映してい 時点)が見られ、100 °C ~ 150 °C るわけではありま では顕著な「上がり下がり」を示 せん。 しています。そして約245 °Cまで 広いピークが続きます。同時に実 施されたミクロGC/MS測定によ り、室内温度と約160 °Cの間では 特に水が、160 °C以降はスチロー ルとエチルベンゼンが放出され ることがわかります。既述の「上が り下がり」は物質のガラス転移に よって説明することができます: 図3:上の座標系: ガラス転移後、物質は一緒に流 測定され滴定測 出し、これが残りの水分の緩やか 定により算出され な放出につながります。ABSサン たTGA曲線。下:  C/MSによって プル内のポリスチロールのガラ 測定された水、ス ス転移は、DSC曲線上では約 チロール、エチル 101 °Cではっきりと確認すること ベンゼンの放出パ ターン放出パター ができます。 ンのスケーリング は、測定された3 ミクロGC/MS放出パターンから つの物質の実際の 濃度を反映してい は、水、エチルベンゼン、スチロー るわけではありま ルの放出が約140 °C ~ 180 °Cで せん。 重なり合うことがわかります。こ れによりTGA曲線からABSサンプ ルの正確な水分量を決定するこ とはできません。30 °C ~ 150 °C での段階評価によって水分量は 約0.1 %であることが明らかにな ります。 18 METTLER TOLEDO UserCom 47 Applications
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KF TGA TGAミクロGC/MS 表1:KF滴定、熱重量測定(TGA)、TGA H20の検出 定量的 (*) 半定量的/定性的 定量的;水放出の正確な過程(放出 ミクロGC/MSを用 (重複する質量消失段階あり/なし) パターン) いた水とその他分解産物検出の可能 その他の質量消失 定性的 (**); 半定量的/定性的 定量的;放出産物と放出パターン 性についての概要 (分解など) 特定なし (重複する質量消失段階あり/な の特定 し);特定なし 温度領域 40°C ~ 280 °C 25°C~1100°C/1600°C 25°C~1100°C/1600°C (設備による) (設備による) (*) 前提:KF試薬により反応する他の物質は放出されません。 (**) 前提:放出される気体の分解産物とKF試薬の間には反応が起こります。 原則的に正確な水分量は水の  線を比較することができるよう 定により測定された)により、滴 C/MS放出パターンから求められ に、測定曲線は(式)にしたがって 定を用いた水分量の決定はより ます。ただし、これに加えて適切 正確です。しかしTGA測定と滴定 な校正測定が予め行われる必要 TGATitration [%] = ( 1– T i t r a t io n c u r v e ) ∙ 100 測定の結果は微々たる違いにす があります。 m0 ぎません(0.1 %(TGA)に対し0.11 TGAミクロGC/MS測定は、滴定測 (滴定))。 定から算出された抽出温度(180 TGA曲線に換算されました。ここ °C)でエチルベンゼンとスチロー でm0は滴定測定のために計量さ さらにTGAミクロGC/MS測定で ルが放出されていることを示して れたサンプル量を意味します(こ は、約140 °C以降で水の他に微 います。微量(約0.024 %、図2を こでは1.78 g)。 量のモノマーの残り(スチロー 参照)であることを考慮すれば、 ル)ならびにエチルベンゼンも放 この温度もTGAミクロGC/MS測 両TGA曲線の比較は、滴定係数 出されることが明らかになってい 定結果の根拠として適切な選択 から構成されたTGA曲線の質量 ます。 であると言えます。 が約180 °C ~ 約200 °Cで一定で あることを示しています。これに 表1ではKF滴定、熱重量測定 反してTGA曲線はこの温度領域 (TGA)とTGAミクロGC/MS測定 概要およびまとめ で引き続き継続的に減少してい を用いた水とその他の分解産物 図3では、滴定測定、TGA測定、ミ ます。滴定測定の選択性( 約200 の検出の可能性がまとめられて クロGC/MS測定の結果がまとめ °Cまでの温度領域ではサンプル います。 られています。滴定曲線とTGA曲 中に含まれていた水分のみが滴 METTLER TOLEDO UserCom 47 19
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熱分析における研究室の データインテグリティの理解 R D McDowall Director, R D McDowall Limited, Bromley, UK 規制検査によって貧弱なデータ管理方法から記録の改ざんまで各種の問題が明るみになることを背景 に、製薬業界の中ではデータインテグリティが主要な課題の1つになっています。この記事では規制の背 景について検討し、さらにシステムアーキテクチャの問題や規制検査で疑問視されるのを避ける方法に ついて取り上げます。この記事で説明する原則は、医療機器や食品、環境、さらに研究分野で類似の規制 や品質標準に取り組む研究室にも関係します。 話題のデータインテグリティ 規制と警告書 特別検査では、会社ぐるみの不 とは GMP研究室の業務は、次のうち1 正が発覚し、合格データのコピー 今、Good Manufacturing Practice つ以上の規制に従って作業する &ペースト、不合格データを合格 (GMP)の規制対象となる製薬業 可能性があります。 に見せかける操作、分析の繰返 界の研究室や関連する支援組織 • 最終医薬製品を対象とする米 しなどが見つかりました。FDAに で関心が高い話題は、データイン 国の現行GMP(21 CFR 211)[2] とって主な問題には、同局の検査 テグリティです。この記事では主 • それぞれ医療製品および医薬 が紙の記録を主な対象にしてお に規制対象の研究室について考 品有効成分を対象とする欧州 り、研究室が使用しているコン 察しますが、データインテグリ GMP Part 1とPart 2[3、4] ピュータ化されたシステムから生 ティは幅広い分野に影響力を持 • 米国の電子記録・電子署名の 成された電子記録に目配りして ちます。ほぼすべての学術研究機 最終規則(21 CFR 11)[5] いないことがありました。 関では、科学的な不正を防いで • コンピュータ化されたシステム 組織自体や上層機関が悪評を受 を対象とするEU GMP Annex これを契機に、現在ではコン けないように、科学者向けの倫理 11[6] ピュータ化されたシステムを検 規定を導入しています。 査する際にFDAや他のあらゆる 最初の2つの規制はあらゆる分 規制当局が使う手法が変わりま 環境分野の研究室には各種要件 析業務に適用されますが、コン した。今では、アプリケーションか を規定した研究室向けの標準が ピュータ化されたシステムを使 ら生成された電子記録と関連す あり、上層管理部門の関与により 用する場合に限り最後の2つの るメタデータが重視されており、 データインテグリティの指針や手 規制が関係します。この記事は熱 紙に印刷されたデータはそのプ 順を文書化しスタッフにデータ 分析を対象としているため、制 ロセスの付随資料として扱われ の正しい扱いや記録方法を周知 御、データ取得、データ処理にコ ています。実際に、あらゆる規制 徹底するトレーニングを実施す ンピュータ化されたシステムを 当局は、コンピュータ化されたシ るために役立てられています。 使用する熱分析機器について検 ステムを使用する場合、電子記録 討します。 が基データ(raw data)として定 この記事は製薬業界に所属する 義されていることを想定していま GMP規制対象の研究室を主な対 研究室でのデータインテグリ す。 象としていますが、ここで述べる ティの課題 原則は厳しい品質標準や類似の データインテグリティは、Able データインテグリティを対象と 規制の対象にあるあらゆる業界 Laboratories社の不正問題の事 する規制ガイダンス文書 や研究室にも通用します。データ 例を受けて、2005年以降に米国 2015年以降、FDA(食品医薬品 インテグリティは、データ改ざん 食品医薬品局(FDA)が最も注視 局)[8]、MHRA(医薬品・医療製品 のスキャンダルにも見られるよう する課題となっています[7]。Able 規制庁)[9-11]、WHO(世界保健 に研究開発ラボでも課題となっ Laboratories社はジェネリック製 機関)[12]、PIC/S(医薬品査察協 ており、例えば2002年のJ a n 薬会社で、FDAの検査を複数回 同スキーム)[13]、EMA(Europe- Schönの事例では結果的に20を 受けましたが、地域の管轄官庁 an Medicines Agency)[14]など 超える論文がScienceやNatureな への内部告発があるまでは大き の規制当局によって、データイン どの科学誌から撤回されました な問題は見出されていませんで テグリティに関する規制ガイダン [1]。 した。告発を受けて行なわれた ス文書が提供されています。この 20 METTLER TOLEDO UserCom 47 Applications