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3Dプリンタはどう選ぶのが正解?低リスク・確実に選定!
ネットで調査をしても多くの情報が錯綜し、誤った情報も散見される3Dプリンタ。
何となく選定軸はあっても選定基準がわからない。そんなお悩みを解決するため、
特にデスクトップ~ベンチトップサイズの小型業務用3Dプリンタの選定時に知っておくべきポイントを体系化し、解説します。
■目次
はじめに 3
1. 精度に解像度や積層ピッチは関係ない 4
2. どんな材料が使えるのか確認する 13
3. 一度にプリントする点数やサイズは 15
4. 専用ソフトウェアの差は見落としがち 16
5. 導入後の運用を考えてみよう 18
6. マネジメント視点で導入を俯瞰してみよう 19
3Dプリンタ選定チェックリスト 22
本内容をアペルザTVで解説しております。
動画はこちらから▷https://tv.aperza.com/watch/778
このカタログについて
ドキュメント名 | 【ガイドブック】3Dプリンタ選定時に知っておくべき6つのこと【3Dプリンタ選定チェックリスト付き】 |
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ドキュメント種別 | ハンドブック |
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取り扱い企業 | Formlabs株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧) |
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このカタログの内容
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TECHNICAL GUIDE BOOK
6 Must-knows When You Choose
Your 3D Printer
3Dプリンタ選定時に知っておくべき6つのこと
2010年代初頭のブーム到来時と比較して劇的な進歩を遂げた3Dプリンタだが、企業として
3Dプリンタを選定・導入するとなれば、極力リスクを抑えて確実に有用性が認められる形
で導入したいと考えるのが自然だ。ところが現在に至っても、初の導入なのか2台目以降の
追加購入なのかに関わらず、体系化された3Dプリンタ選定方法のセオリーは見当たらない。
特に3Dプリンタ未導入層にとって、3Dプリンタという製品や技術は未知の領域であること
が多く、比較検討しようにも選定基準もわかりにくい上、イメージを持つこと自体が難しい。
そこで本書では、主にデスクトップ~ベンチトップ型の工業用の小型樹脂3Dプリンタを導
入・選定する際の選定基準や比較検討時の判断基準を体系化し、選定時に知っておくべき6
つのポイントとしてまとめた。これから3Dプリンタを初導入する、あるいは特定の用途の
ために追加購入するという方は是非参考にしていただきたい。
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Contents
はじめに 3
1. 精度に解像度や積層ピッチは関係ない 4
2. どんな材料が使えるのか確認する 13
3. 一度にプリントする点数やサイズは 15
4. 専用ソフトウェアの差は見落としがち 16
5. 導入後の運用を考えてみよう 18
6. マネジメント視点で導入を俯瞰してみよう 19
3Dプリンタ選定チェックリスト 22
FORMLABS: 業務用�Dプリンタ選定時に知っておくべき�つのこと �
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はじめに
3Dプリンタは魔法の箱ではない
企業の上層部を含めた使用経験のない方、馴染みの薄い方にとって、3Dプリンタというものは正確な
イメージを掴むのが難しく、それがために誤解されることも多い製品と言える。3Dデータさえあれば、
どんなものでも形にできる、3Dスキャナでのスキャンデータをそのままプリントできる等は、その最
たるものと言えるだろう。実際は、3Dプリンタにはそのプリンタごとに得手不得手があり、そもそも
3Dプリントだけで全てが完結できないケースもある。詳細は後述するが、3Dプリント品を切削で加工
して仕上げるといった使い方も当たり前のように存在するということを、まずはご理解いただきたい。
また、リバースエンジニアリングや歯科での印象採得(患者の歯列や口腔内の型取り)等において、
3Dスキャンは非常に有効なものであるが、スキャンデータは通常、3Dプリントする前にCAD上でデー
タを調整する必要があるのが常だ。
こうした点を含め、3Dプリンタは誤解されやすく、無条件でどんなものでもボタン1つで作れてしまう
というような、あたかも「魔法の箱」であるかのように思われることも多い。そういった誤解が生まれ
る理由の一つは、従来のように材料のカタマリから削り出してものづくりを行う「引き算のものづくり
(サブトラクティブ・マニュファクチャリング)」の感覚では、3Dプリントに代表される、何もない
ところから必要な材料だけを使ってものづくりを行う「足し算のものづくり(アディティブ・マニュ
ファクチャリング)」を理解できないことがあるためだろう。
とは言え3Dプリンタには、コストや期間の短縮、つまり効率化やアジャイル化におけるメリットの他に
も、あり得ない形状を具現化できる、すぐにその場で当日中に形にできる、とりあえずの感覚で実験的
な製作が自由に行える、現物1点しか存在しないものをリバースエンジニアリングでコピーできる等の
魅力的な利点は確かに存在する。そしてそれこそがグローバルに3Dプリントが急速に普及している理由
だ。つまり、目的に合ったものを選定し、使いこなす術を習得しさえすれば、3Dプリンタはユーザーの
アイデア次第では魔法の箱にだってなり得る。道具である以上、使い方次第というわけだ。
最小のリスクで3Dプリントを導入するには
最小のリスクで3Dプリントを導入する方法。それは簡単に言えば「作りたいものの要件定義をしっか
りと行う」という点に尽きる。精度は具体的な数値でどの程度の公差が許容できるのか、強度はどの
材料程度のものがあれば良いのか、耐熱性なら何℃までの温度環境下でどの程度の負荷に晒されるのか、
そして意外によくあることだが、それらの要件が本当に、必ずしも必要なのか?という点も確認して
おきたい。先述の通り、3Dプリント単体で全てを完結しなくても、現状を改善できるケースも数多く
ある。理想(ベスト)は無理でも、向上(ベター)することはできる。3Dプリントに限らず、向上を
続けるということはベストではなくベターを探求する旅であると言うこともできる。しかし現実問題
として、3Dプリントがよくわからないのに要件定義が高い確度で行えるのか?それをサポートするの
が、まさに本書の目的だ。また、最後には付録として実際の選定時に使用いただけるようROI(投資対
効果)算出時の参考資料と、3Dプリンタ選定チェックリストも掲載する。少しでも業務で役立つこと
を願う。それでは、いよいよ本題に入っていこう。
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1. 精度に解像度や積層ピッチは関係ない
実際には無関係ではないものの、「3Dプリンタの精度=プリンタの解像度/積層ピッチ」という考え
方は、3Dプリンタにまつわる誤解で最も多いものの1つだ。確かに3Dプリンタはデジタルでのものづ
くりだが、カメラとは違う。3Dプリンタの精度に最も大きく関わる要素。それは、造形方式、材料、
最後にプリンタの解像度などスペックだ。
また「精度」という言葉を用いる際に、特に技術者は「加工精度」をイメージして話すことが多いが、
既に形が確立された材料のカタマリから欲しい形状を削り出したり、型を用いて成形する際の引き算の
ものづくりの指標である加工精度と、中空の何もないところに1層ずつ形を作る足し算のものづくりの
指標である造形精度は意味が全く異なることを最初に理解する必要がある。コンマ何mm(ミクロン)
レベルの精度が必要な場合は、3Dプリント品を加工して必要な精度を得るという使い方も当たり前で
あり、それでも全て切削で製造するよりも大幅にコストも期間も短縮できるという点が重要だ。
多彩な3Dプリンタの「造形方式」
造形方式とは、読んで字の如くものを作る際の方式、やり方を指す。作り方が違えば出来栄えも変わ
ってくるのが当然で、そのため各造形方式には得手不得手が存在する。要件定義を行う際には、この
得手不得手を理解し、その用途に適した造形方式を特定する、あるいは絞り込むことが選定の第一歩
となる。
熱溶解 光造形方式 粉末焼結
積層方式 積層方式
FDM SLA DLP LCD SLS
熱で溶かした熱可塑性樹脂の 液体の光硬化性樹脂に光を照射することで 熱可塑性樹脂の粉末材料に
フィラメントをノズルから押し出し、 硬化させる。レーザー(SLA)、プロジェクタ(DLP)、 レーザーを照射し、熱で溶融
線状に積層していく。 液晶パネル(LCD)等が使用される。 させて造形。バッチ生産向け。
主流となっているのは上記3種の方式。このうちFormlabsではSLAとSLS方式を採用している。
現在主流と言われる造形方式には、ロール状のフィラメントと呼ばれる線材を熱で溶かし、ノズルか
ら押し出して積層するFDM(熱溶解積層)方式、液体のレジンと呼ばれる光硬化性樹脂をUV光で硬化
させるSLA(光造形)方式、そして粉末状の樹脂材料をレーザーで溶かす等して造形するSLS(粉末
焼結積層造形)方式の3種がある。ここからは各造形方式の特徴とメリット/デメリットを整理するが、
前提として造形方式自体には良い/悪いはない。あるのはその用途に向いているかどうかというユー
ザー個々のニーズへの適正だ。その点を念頭に、ご自身が作りたいものに合致した造形方式を選定
いただきたい。
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最も普及しているのはFDM
FDM方式は試作用途に特化した造形方式と言えるもので、大型の工業用製品では5,000万円超の価格帯
の製品も多くある一方で、デスクトップサイズの小型機であれば数万円で導入可能という初期コストの
安さが広く普及した最大の要因と考えられている。先述の通り、熱で溶かしたフィラメントをノズルか
ら押し出して積層するという造形方式の特性上、プリンタの平面(X-Y軸)解像度はノズルからの吐出
径と押出動作の細かさに依存し、高さ(Z軸)はノズル径やそこからの吐出径に依存する。押し出され
た材料は歯磨き粉やマヨネーズと同じように線状に配置され、積み重ねられていく。結果として積層痕
と呼ばれる特有の縞模様が表面に残るが、これは視覚的なものだけでなく表面に凹凸ができるのが常で、
それはSLAと比較した下の画像からも見て取れる。
同一のデータをFDMとSLAでプリントしたもの。FDMは表面に積層痕がはっきりと見える。
拡大するとSLAにも僅かに積層痕が見えるが、FDMはノズルから押し出す方式のため表面の凹凸が
できてしまうのが、際の部分に見て取れる。SLAの積層痕はFDMのそれとは性質が違っている。
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FDMはノズルから押し出して積層する方式であるため、線状の材料で形成された層の上に、次の層を物
理的に重ねて行くが、特にローエンド機ではこの際に層間のズレが発生するリスクもあり、一般的には
寸法や形状精度はそれほど高いものは望めない。一方で材料が熱可塑性樹脂であるため、成形材や実製
品同様の樹脂を使用することができ、尚且つ1つの造形品を作る際に複数の材料を使い分けることができ
るほぼ唯一の方式でもある。最も多いケースはサポート材のみを水溶性のフィラメントで造形し、水に
漬けるだけでサポート材を除去できるような使い方だろう。それほど高い精度を要さないプレゼン用の
コンセプトモデル等の初期段階の試作には有効だ。しかし試作用途でも一定以上の形状や寸法精度を要
する機能確認用の試作等では対応できないケースもあり、実際に2台目以降の3Dプリンタ追加購入を検
討するユーザーの大半はFDMユーザーだ。シンプルな用途でのエントリーモデルとして、FDMは導入の
初期コストの点から見ても非常に優れていると言える。その他の一般的なメリット/デメリットは以
下のようなものだ。
FDM
一般的な長所 一般的な短所
● 熱可塑性樹脂のため馴染みある材料が使用可 ● 積層痕(表面品質)≠精度の問題
● 1つの造形で複数材料の使い分けが可能 ● 造形品に備わる強度の異方性
● 材料の幅広さ。炭素繊維のような複合材も。 ● 材料の耐熱性の低さ
● 導入コストが安価 ● プリンタ周辺温度に影響を受けるものも
日本生まれの技術、精度に定評あるSLA
Stereolithographyの略であるSLA方式と呼ばれる光造形方式は、最古の3Dプリント方式であり、日本の
名古屋市の研究員だった小玉秀男氏が印刷で用いる「版」を立体に重ねて行けば立体形状が作れるので
はないかというアイデアを基に立体図形作成装置として発明した技術だ。熱を加えると塑性変形する
熱可塑性樹脂とは違い、紫外線光に反応して硬化する光硬化性樹脂という液体樹脂に紫外線レーザーを
照射することで固化し、一層ごとに積層する方式で、X-Y軸の平面解像度はレーザー焦点サイズとレー
ザーユニット(LPU)の動作精度に依存する。一方でZ軸の高さ方向の解像度である積層ピッチはプリ
ント時に任意の設定で変更できるものが多く、FormlabsのSLAプリンタでは材料により対応幅が異なる
ものの、25~300μmの間で選択できる。
SLAはレーザーを使用するため、「点」で造形するという特徴がある。点で造形するため、光造形の他
方式であるDLP方式やLCD方式のように「面」で造形する方式と比較した場合、スピードで劣るという
デメリットがある一方で、曲線が描けるレーザーならではの精度と表面品質に特徴があり、あらゆる
造形方式の中で最も精度と表面品質に優れた方式と言われる。FormlabsはこのSLAを、精度と表面品質、
そしてSLAの短所であるスピードを向上させる特許技術LFS(Low Force Stereolithography™)テクノロ
ジーを開発し、SLAの短所をカバーしながら長所を更に進化させた。試作用の高速造形材料「Draftレジ
ン」ではスタンダードレジンの最大4倍速で造形できるだけでなく、2022年1月の機能向上では
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プリンタ自体の造形スピードを最大40%向上させている。FDMの用途が試作に特化したものであるのに
対し、SLAはその精度と表面品質、そして材料の耐熱性(熱可塑性ではなく光硬化性樹脂であるため一般
的な樹脂よりも高耐熱な材料が使用できる)の高さから、対応できる用途の幅が非常に広い点が最大の
特徴と言える。あらゆる段階での試作はもちろん、金型(樹脂型)や各種の治具製作、実製品の部品に
まで使用されている。
FormlabsのSLAプリンタでの造形品が実製品に使用された例。このNew Balanceの
ケースのようにFormlabsは材料の開発から協業するサービスも展開する。
他方でSLAおよび光造形方式全般の知っておくべきデメリットは、プリント後の後処理工程でIPAなど
有機溶剤での洗浄工程があるという点である。特にビルテナントのオフィスでは可燃物や有機溶剤の
使用には制限があるケースもあり、事前に確認が必要だ。
SLA
一般的な長所 一般的な短所
● 光硬化性樹脂のため、耐熱性が高い ● 後処理工程がFDMより多く、溶剤を要する
● 造形精度・表面品質に最も優れた方式 ● 材料が相当材となる(熱可塑性でないため)
● 造形品に異方性がない(完全な等方性) ● 耐光性の問題。UVカットコート要の場合も
● 材料の幅広さ ● 他の光造形方式より造形速度が遅い
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高速造形に特化した光造形の別方式、DLPとLCD
DLPとLCDは、SLA同様にレジンと呼ばれる液体の光硬化性樹脂にUV光を照射して固化させることで造
形を行う。異なる点はUV光の照射方法で、DLPとLCDは共に光源としてLEDを使用するものの、DLPは
プロジェクタ、LCDは液晶パネルを用いて1層分のデジタル画像を投影し、それをフィルターとして層
ごとに「面」で造形を行うことで造形する方式となる。限界まで拡大したデジタル画像はモザイク状
に見えるが、あれはデジタル画像がピクセルと呼ばれる正方形状のグリッドで構成されているためで、
このピクセルの細かさが画像の解像度となる。DLPやLCDでは造形品の形状に応じ、ピクセルごとにUV
光を通すか遮断するかという二択で1層分のデジタル画像を構成することで、意図した形状を造形する
仕組みだ。この2方式は、その名の通り解像度はプロジェクタ(DLP)や液晶(LCD)の解像度となって
おり、解像度が高いほどピクセルが細やかになるが、SLAのように曲線を描くことはできないため造形
品にも解像度に応じた立体のピクセル(ボクセルと呼ばれる)形状が反映される。
レーザーを使用するSLAは自由なポイントに照射でき、曲線を描くことができるのに対し、
DLPやLCDはピクセル単位で描画の有無を二択で選択するため、拡大するとドット絵の状態に。
DLPやLCDでの造形品は、上画像の眉や目の下のようにアール部分でボクセルによるモアレが表面に発生する。
また、DLPではプロジェクタ焦点の関係で造形面を広げると解像度が落ちるという特徴もある。
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先述の通り、DLPとLCDの最大の長所は抜群のスピードであり、FDMと比較しても精度は高い。一方で、
アール形状を備える造形品ではボクセル形状が反映されるため、表面品質という意味でこの点が問題と
なる用途には不向きと言える。一般にSLAはDLP、LCDよりも精度や表面品質に優れる分、スピードでは
DLPやLCDが勝る。DLPやLCDも光造形方式である以上、溶剤や可燃性エタノール等で洗浄するという
後処理工程があるものの、それがクリアできるのであればスピードと精度のトレードオフを考慮するの
が光造形の中からどの方式が良いかを選ぶ道標になるだろう。
バッチ生産に対応する製造対応の造形方式、SLS
SLSは精度や表面品質とは違った意味で、他の造形方式とは一線を画す方式と言える。他の方式では平
面上に造形品を配置して、複数の造形品を一度にプリントすることは可能だが、SLSの場合は高さ方向
にも造形品を積み上げて、数十個単位、小さな部品なら100以上の単位でバッチ生産を行うことができ
る。また、成形とは違い様々な形状の造形品を積み重ねて多品種を一括でプリントすることもできる。
一般的にSLS方式の最大の利点は試作から製造までを一気通貫して行える点にあり、これは特に中小規
模のメーカーや受託で製品製造や試作品製作を行う企業には大きなメリットと言えるだろう。
FormlabsのFuseシリーズのようなSLS方式3Dプリンタでは、上図左のように同一品を
バッチ生産したり、上図右のように多品種をまとめてプリントすることができる。
精度の面では、SLSやPBFと呼ばれる粉末を使用する3Dプリントは、機種ごとの精度や表面品質の差異
が比較的大きい。一方で小型の部品内に複雑な流路を設けたい場合や、ヒンジ式の可動部を備えた部品
をプリント後にアセンブリすることなく一度に造形できるという特徴を備える。
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最も顕著なSLSのデメリットは、粉末飛散の問題、そして最低でも2000-3000万円と高額であることだ。
Formlabsは低コスト化が実現されていなかったSLSを、高機能かつ低コスト化することに成功。高速SLS
プリンタであるFuse 1+ 30Wや低コストSLSのFuse 1では、陰圧により粉末飛散を防止しながら粉末の再
利用を行う後処理機Fuse Siftとセットで購入しても700-900万円程度での販売を実現した。
SLSの低価格化は以前から多くのメーカーで取り組まれていたが、
技術的な課題が多く実現されていなかった。
粉体を扱う際の様々な懸念事項を解決しつつ、粉末の再利用で材料ロスも最小化するFuse Siftは、
日本国内における第三者機関の環境アセスメントでも高評価を得ている。
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精度に関係するSLSのデメリットとしては、特に垂直面でオレンジピールと呼ばれる表面の凹凸が発生
するケースがある点が挙げられる。これは当然寸法や形状面での精度、そして表面品質を毀損するだけ
でなく、その後の表面処理にも影響が出てしまう。そこでFormlabsでは、オレンジピールの発生要因で
あるレーザーの照射時と非照射時での急激な温度変化を緩和するため、材料の粉末を半溶融状にして
シェルを形成し、造形品を包み込むことでオレンジピールの発生リスクを最小化する独自技術を開発。
国内のユーザーからも、数倍の価格で販売される他社製品と比べて表面品質が抜群に高いと評される。
旧来のSLSでは上図左のように、オレンジピールと呼ばれる凹凸の表面荒れが発生する課題があるが、
Formlabsでは独自の特許技術「Surface Armor」によって上図右のように非常に高い表面品質を実現している。
結論としてSLSは、非大量生産時の実製品用の部品製造、あるいは長いラインを持つ生産/組立用の治具
を生産したい場合、または先述のように試作から製造までを一気通貫で行いたいケース、そして受託で
の製造や試作品製作事業者には特に大きな利点がある造形方式だ。中でも試作と製造を同一の技術と
材料で行える点には、開発~製造までの期間短縮や精度向上など多くのメリットがある。
材料によっても精度が変わる
そもそも「精度」とは、どの精度を指すのか非常に曖昧な言葉ではあるが、特にディテールの表現と
いう意味では材料によってどこまでの細部を表現できるかの度合いが異なる。また、Formlabsのように
自社製材料のみに対応する3Dプリンタは、材料の開発段階から自社の3Dプリント技術に最適化した
材料を提供しているため、サードパーティ製の材料を使用する場合とは細部の表現や造形品質が変わる
という面もある。
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知っておくべきプリンタのスペックによる精度の差
3Dプリンタの精度には、X-Y軸の平面解像度と、Z軸の垂直解像度(積層ピッチ)の2種があり、この
2種は全く異なるものだということをまず押さえておきたい。このうち実際の造形精度に大きく関係する
のは平面解像度の方である。意外に思う方もいるかも知れないが、積層ピッチが重視されたのは1mm
の壁を破る以前の話であり、積層ピッチを細かくする(垂直解像度を上げる)ことで造形品質が逆に
劣化してしまうケースもあるということは、あまり知られていない。イメージをしっかり持つために、
その理由の1つを説明しておきたい。
造形時に層が薄くなればなるほど、造形に要する時間が長くなるのはイメージしやすいと思う。25μm
の厚みでプリントするのは、 100μmの厚みでプリントする時よりも単純に4倍の時間を要する。ここ
からが重要なポイントとなるが、100μmであれば1回でプリントできる層を、25μmでは4回にわたり
全く同じ動きで完璧に同じ層を寸分のズレもなく重ねていかねばならない。SLAのように平面解像度が
非常に高い場合、これはさほど大きな問題にはならないが、そうでない場合はそれが如何に困難な作業
となるかは想像に難くないだろう。平面解像度がそれほど高くない場合は、当然層間で平面上のズレが
生まれるリスクがあり、それがどんどん積み上げられてしまう。こうしたケースでは垂直解像度(積層
ピッチ)を細かくするほど造形品質が劣化してしまう。
このことからもわかる通り、実際の精度に大きく影響するのは平面解像度の方である。しかしこの平面
解像度は、プリンタの仕様表にも記載されていなかったり記載があっても正確に精度を示す値になって
いないケースが多い。かと言って顕微鏡で観測して検証するのも現実的ではないだろう。一般論だけで
造形方式別に言うのであれば、あらゆる造形方式の中でもレーザーを使用する方式はX-Y軸の平面解像度
が高くなる傾向にある。例えばFDMの押出動作の精度は、押し出された後の材料の流動量によっても影響
を受けるのに対し、SLAのレーザーは常に直進する上、照射した箇所でそのまま固化させる。個々の機種
のレーザーユニットの動作により差は出るものの、SLAの平面解像度は極めて高くなる。DLPやLCDが超
高解像度でピクセルサイズがSLAのレーザー焦点サイズより小さくなった場合はどうか。この場合もSLA
に優位性がある。DLPやLCDのピクセルは、ピクセル全体が単一の色になってしまう(ピクセル内の右
半分だけUV光を通す等はできない)のに対し、SLAのレーザーはピクセルのように描画できるポイントが
固定されておらず、自由な場所に照射できるため造形品質はそれだけ高くなるという理由だ。もちろん
垂直面と水平面のみで構成される形状をプリントするケースであればそうとは言えない場合もあるが、
そうした用途は限定的だろう。
では、垂直解像度である積層ピッチを上げた方が良いのはどんなケースだろうか。ここでもやはり平面
解像度が高いプリンタであることが前提となるが、複雑な形状や曲面で構成されたモデル、細かなパタ
ーンやテクスチャを付けたエンボスが入ったデザイン、あるいは斜めのエッジが多くあるものは、積層
ピッチを細かくした方が造形品質は向上する。一般的なガイドラインとしては、このように明確な必要
性があるケース以外では積層ピッチを細かくするのは推奨されない。FormlabsのSLAプリンタでは無料
の造形準備ソフトウェア「PreForm」で積層ピッチを選択できるが、モデルの形状をソフトウェアが解析
し、細かな積層ピッチでプリントした方が良い箇所のみ自動で積層ピッチを変更し、造形スピードを一定
に保ちながら造形品質を向上する積層ピッチの自動調整機能を活用することも可能だ。
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2. どんな材料が使えるのか確認する
3Dプリンタ選定時には、当然どんな材料が使えるのかを確認することも非常に重要だ。例えば電子部品
や半導体チップの生産ライン等では、静電気散逸性(静電気拡散性とも呼ばれる)を持った、いわゆる
ESD対策材料で治具やツール関係を製作する場合が多い。このESD対策材料が使用できるのは、ほとんど
がFDM方式だが、Formlabsは光造形方式で唯一「ESDレジン」というESD対策材料が使用できる。そし
てFormlabsには、他に類を見ないほど幅広い生体適合性材料のラインナップが揃う。医療関係でなく
とも皮膚に接触するデバイス部品等では非常に重要な要素だ。このようにメーカーやプリンタの機種
によって使用できる材料はまちまちではあるものの、大きな枠でそのプリンタで使用する材料がどの
タイプの樹脂になるのかという点も重要だ。
FormlabsのSLA光造形プリンタでは、光造形で唯一ESD対策材料が使用できる。チップトレイやPCBボード
のホルダ等、幅広く精度が必要な治具・ツールを製作できるが、それ以外にも幅広く利用できる点が魅力だ。
そのためFormlabsのSLAプリンタはレジンをカートリッジ式にしており、数秒で別材料に切り替えられる。
主な造形方式ごとの樹脂の種類
FDM SLA DLP LCD SLS
熱可塑性樹脂 光硬化性樹脂 熱可塑性樹脂
光造形方式は、SLAやDLP、LCDすべて光硬化性樹脂を用いるのが特徴だ。そのため先述の通り溶剤での
洗浄というデメリットを孕むが、一方で熱可塑性樹脂と違い200℃を超える高温環境下でも使用できる
材料があるというメリットもある。これはSLA方式プリンタが射出成形や熱成形用の金型製作に対応
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できる理由の一つとなっており、金型試作段階での微調整からの再試作や、急な設計変更時の金型調整
も柔軟に対応でき、その場で1日以内に製作できるという非常に大きなメリットにも直結する。しかし
光硬化性樹脂は、日光等から紫外線を浴びると硬化が進み、最終的には劣化や割れが発生する恐れもあ
る。UVカットのコーティングを行うといった対策は非常によく講じられるものの、こうした長所短所を
予め把握し、目的の用途に合致するかを判断しておくのが良いだろう。
また、光硬化性樹脂は熱可塑性樹脂とは異なるタイプの樹脂であるため、一般的に用いられる熱可塑性
の樹脂と同一のものはない。例えばABSやPP、PEといった幅広く用いられる材料をイメージした場合、
光造形で用いる光硬化性樹脂にはABSライク、PPライク、PEライクといった熱可塑性樹脂に近い機械的
特性を持つ材料を使用するケースが多い。PEEK等のスーパーエンプラの相当材等もあるものの、全く
同じではないという点には留意しておきたい。
額面通りに受け取って良い?材料の物性値
検討が具体的に進むと、目的の材料も具体的に選定することになるだろう。材料選定時に参照される
情報は各材料の機械的特性となるが、例えば金属材料と樹脂材料では機械的特性を示す項目が違って
いたり、各項目に表示されている物性値をそのまま額面通りに受け取っても良いものか迷うことがある
かも知れない。その時に知っておくべき点が、規格と物性値を決定する際の試験方法だ。
樹脂材料の機械的特性は、一般的にアメリカの規格であるASTM(American Society for Testing and
Materials)規格に則って試験を行い、数値が決定される。例えば最大引張強さは金属と同様に引張試験
機にて試験片が破断するまで張力を加えて最大引張強さを測定しており、FormlabsではASTM D 638-14
に準拠した試験を用いている。特に誤解されがちなのが、HDT(Heat Deflection Temperature)、日本
語では荷重たわみ温度や熱たわみ温度と訳される耐熱性を示す物性値だ。
荷重たわみ温度は、厚み6.4mm(ASTM規格の場合)の試験片が圧力子から所定の圧を受けた状態で
規定の変形を起こした時点での温度を計測して決定されるため、実際の対応温度帯とは異なる。
この荷重たわみ温度の試験は、ASTM規格では厚み6.4mmの試験片に対して上図のように圧力子を使用
して既定の圧力(高圧:1.8MPa、低圧:0.45MPa)を加えて油などの伝熱媒体を通して昇温させ、
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規定のたわみ量に達した時点での温度を測定するという形で行われる。この荷重たわみ温度の数値を、
例えば金属部品の対応温度帯のように、その材料が使用できる温度環境の上限と受け取る人がいるが、
実際は上記試験条件における数値であり、あくまで参考値として受け取るべきという点は他の物性値と
変わらない。
上記からもわかる通り、材料選定はペーパー上でのデータだけでは候補の絞り込みは行えても実際の選
定に至るまでにはその材料を使用して製品を製造する、あるいは試作品検証を行うメーカーにて検証が
必要だ。そのため材料選定とプリンタ選定を併せて前に進めるために是非知っておいていただきたい検
証方法が、いわゆるベンチマークテストと呼ばれるもので、手元の3Dファイルを実際に検討中の3D
プリンタとその材料で造形し、検証用に無償で提供するというものだ。これは多くの3Dプリンタメーカー
や販売会社が実施しており、可能な限り実際の用途に置いて検証することをおすすめしたい。例えば金型
用途であれば、ベンチマークサンプルが多少寸法誤差があったとしても、コンマ何mmレベルの誤差は
造形で試行錯誤を重ねて調整する必要があるため、研磨等で外寸を合わせて成形機に設置し、実際に
成形してみる等ができれば、具体的に金型1つあたり何回成形が行えるか等の検証が行える。試作用途で
あったとしても、その試作品を実際に検証する際に確認する検証項目をどれだけ満たせるか、ある程度
はベンチマークテストで実証することができるため、複数のプリンタ、複数の材料でベンチマークテスト
を行い、使える目途が立てられるかどうかを検証した上で導入できれば、リスクを最小化した導入が可能
となるはずだ。
3. 一度にプリントする点数やサイズは
造形方式ごとの特徴や材料の判断基準を把握できれば、候補の中から一次選考を行い、ある程度の絞り
込みが可能になるはずだ。次の段階で考えたい点は、1回にプリントしたい点数や造形品のサイズだ。
例えば試作用途であれば、業種や試作の目的によって1点のみの試作でも良い場合もあれば、微妙に設計
を変更して複数点試作したいケースもある。これは何を検証するための試作なのかによって異なるが、
初期段階での試作になるほど1点のみのプリントで事足りることが多いのではないだろうか。
造形点数やサイズは、実際に購入するプリンタの最大造形サイズの選定基準となる。最大造形サイズが
大きなプリンタは当然大型になり、プリンタの価格もその分上がってしまうものの、重要なのはその
対価を支払って何を得るかという点にも目を向けることだ。最大造形サイズが大きなプリンタは、大型
造形を行う以外にも、実は平面上に複数点モデルを配置して、一度にある程度の数量をプリントできる
という使い方が主流だったりする。3Dプリントで製作するのは多くの場合で部品レベルであるため、
業種にもよるが大型造形のニーズはそれほど多くない。しかし、ある程度の点数を一度に造形したいと
いうニーズは多く、それが内製で実現できればコスト的にも時間的にも、外注とは比較にならない程の
効率化が実現できるだろう。実際に3Dプリントで製作したい試作品のサイズだけを考えてプリンタを
選定しようとする方は多いが、特に試作を高頻度で行う場合は最大造形サイズが大きいものを選定し、
複数の試作品を一度に造形する効率を考慮してみるのも良いだろう。
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P.13で紹介したESDレジンで制作するICチップトレイの場合、デスクトップサイズのForm 3+では
一度に3枚、大容量機のForm 3Lでは一度に12枚がプリントできる。この効率差は一考に値する。
4. 専用ソフトウェアの差は見落としがち
多くの3Dプリンタメーカーは、専用のスライサーソフトと呼ばれる造形準備ソフトウェアを無償で提供
しており、Webサイトからダウンロードすることで事前に操作感や機能を確認することも可能だ。この
専用ソフトウェアは、造形の向き、角度、サポート材の付け方といった造形設定を行うのが基本で、
FormlabsのSLAプリンタのように積層ピッチが設定で変更できる場合は、それもこの専用ソフトウェア
で行う。
例えばFormlabsの造形準備ソフトウェアのPreFormでは、向きや角度、サポート材の付け方は誰もが簡
単に行えるよう、ソフトウェアが自動でモデルの形状や重量を分析し、向きや角度、サポート材の付け
方を自動生成するアルゴリズムが搭載されており、ワンクリックプリントボタンをクリックすれば、そ
れらの設定を全て一括で自動生成してくれる。ソフトウェアが自動生成した設定を手動で微調整するこ
ともできるため、まずはワンクリックプリントを使って各種設定を自動生成し、それをベースに調整す
れば驚くほど簡単かつ手早く造形設定が完了する。SLSで高さ方向にモデルを積み重ねて(パッキング
と呼ぶ)バッチ生産する場合も、自動で造形スペース内にモデルをコピーしてパッキングしてくれるた
め、効率的に造形するためにどうレイアウトすべきかで試行錯誤する時間はほぼ不要になるのも嬉しい
ポイントになるだろう。
こうした専用ソフトウェアは、いわゆるソフトウェアとしてコンピュータにインストールして使用する
タイプのものと、クラウドベースでコンピュータへのインストールが不要なものに大別される。自社の
IT面でのセキュリティポリシーを確認して、どちらが使いやすいかは確認しておいた方が良い。ソフト
ウェアタイプはソフトウェアのアップデートが入った際に都度アップデート版のインストールを行わな
ければいけない点がデメリットとなるが、オフライン環境でも使用できる点、そして急ぎの作業や
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重要な作業に入る前ならアップデートを保留することで、思いがけないアップデートで混乱したりバ
グが原因のエラーを回避できる点にメリットがある。対してクラウドタイプの場合はコンピュータに
インストールする必要がない点はメリットとなるが、造形設定後のプリント用ファイルをクラウド上
に保存するものが多く、コンピュータ上にダウンロードして保存できないものも存在する。この場合
は第三者が管理するクラウド上に自社の3Dデータが保存されることとなるが、アクセスできる人数に
よって料金が変動したり、クラウド上に保存するデータ容量に応じて料金が発生するケースもある。
サブスクリプション形式での利用ということになるが、事実上のランニングコストとなるため事前に
確認しておくべきポイントだ。また、第三者が保有・管理するクラウド上にデータを保管するという
点を、ITポリシーや機密保持ポリシー上許容できないケースもあり、サイバーセキュリティ面を含め
て自社の考え方を事前に把握しておく方が良い。
Formlabsの造形準備ソフトウェアPreFormはコンピュータにインストールするタイプのソフトウェア
で、これまで挙げたメリット以外に、向き、角度、サポート材や造形スペース内での配置等の造形
設定を全て含めて「.form」という独自のファイル形式で保存できる点に大きな優位性がある。他拠点
や取引先でFormlabs製品を導入していれば、全く同じ造形設定でプリントできるため、データを各所
に展開すれば同時多発的に一貫した品質でプリントが行え、各種の検証を格段に効率化することが
できる。例えば最終製品メーカーの開発部門が試作したものを、瞬時に海外を含めた他拠点やサプラ
イヤー各社に展開し、同一の品質でプリントされた試作品の実物を確認しながらオンラインミーティ
ングで細部を詰めていく、といった組織や系列単位での活用もサポートする。
FormlabsのPreForm画面。画面右ではプリント時間やボリューム(材料消費量)も事前確認できる。
造形が上手く行かない可能性がある際にはエラーで警告が出るが、エラーを無視しても成功するケースもある。
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5. 導入後の運用を考えてみよう
ここまで来れば、要件定義はほぼ固まっているはずだが、ディテールを詰めておくという意味で導入
後の運用を具体的に想定しておくことはコスト面に限らず重要だ。ここでは導入前に確認しておくべ
き点として、3Dプリンタの操作・運用方法、消耗品とそのコスト、購入後のサポート体制の3つを挙げ
ておきたい。
3Dプリンタの操作・運用方法
2Dの、いわゆる書類を印刷する複合機等の場合はコンピュータの設定さえしておけば、誰もが印刷し
たりコピーを取ったりできる。3Dプリンタにおいても理想の形は同様だろう。用途や3Dプリンタの
種類・方式を問わず、3Dプリンタを使用する際のワークフロー(作業手順)は以下のようになる。
1. 3Dファイルの制作 ‒ 設計/デザイン
2. 専用ソフトウェア上での造形準備→プリンタへのファイルアップロード
3. プリント
4. 後処理
このうち、1の設計については3D CADで設計を行うスキルや部門内での役割も関係するため、自ずか
ら担当する人は限定される。多くの3Dプリンタメーカーは、2で使用する専用ソフトウェアを無償で
提供しているが、これについても先ほど触れた通り誰もが簡単に扱えるものか等は一考に値する。2
の造形準備はデータ制作を行った本人が行うのが効率的であるケースが多い。3についてはプリンタ側
の操作やプリント後のメンテナンス、消耗品の交換作業等が事前チェック項目となるだろう。4の後
処理はメーカーや機種よりも造形方式によって異なるが、多くの3Dプリンタメーカーは上の作業手順
で言う3のプリントだけにフォーカスしているところが多い。FormlabsのようにSLAにおける自動後処
理機(Form WashおよびForm Cure)やSLSでの粉末飛散防止+材料再利用を行う後処理装置(Fuse Sift)
までを網羅して首尾一貫した効率化を提供しているメーカーは少ないが、装置の有無に限らず作業自
体が誰でも効率的に行えるか、また誰が作業しても同じ品質で仕上げることが可能かという点は事前
確認しておきたい。
消耗品とそのコスト
ランニングコストを可能な限り具体的にしておくため、当然ながら材料や各種の消耗品も確認しよう。
一般的に、3Dプリンタの消耗品は造形方式によってほぼ決まってくる。各造形方式ごとの一般的な
消耗品は、以下のようなものだ。ある程度候補を絞り込んだら、これらの価格も確認しておこう。
FDM方式 材料(フィラメント)、押出ノズル、プラットフォーム(造形面)
SLA方式 材料(レジン)、レジンタンク、プラットフォーム(造形面)
DLP方式 材料(レジン)、レジンタンク、プラットフォーム
LCD方式 材料(レジン)、レジンタンク、プラットフォーム、LCDパネル、FEPフィルム
SLS方式 材料(パウダー) ※メーカー、機種ごとで消耗品項目が異なる
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上記はある程度定期的に交換を要する文字通りの消耗品となる。例えば光造形の中でも液晶パネルを
使用するLCD方式は一般的に導入コストが安価ではあるものの、LCDパネルに貼り付けるFEPフィルム
等、消耗品の項目が他方式よりも多い。またLCDパネル自体も寿命があるため高頻度ではないが交換
時の費用や作業の複雑さは知っておきたい。またSLS等の粉末を使用する3Dプリンタは、メーカーに
よって消耗品も異なるため、いわゆるPBFタイプを検討する際にはチェックしておこう。
アフターサービスについての考え方
3Dプリンタに関する情報収集をしているうちに多くの方が気付くように、メーカーはほぼ海外企業
だ。市場には日本の国内メーカーもいるが、海外メーカーに牽引される市場であるためか、アフター
サービス分野においては海外メーカーの考え方に寄っている企業が多いようだ。欧米でのアフター
サービスは、日本のそれとは違い、ユーザー自身がメンテナンスを行うという文化だ。そのため3D
プリンタも交換する可能性がある部品は比較的簡単な作業で交換できるよう設計されていることが
多い。とは言えアフターサービスのサービスプランの中には、定期的な機器の状態確認サービスが
付帯しているものもある。選定時のリサーチで確認しておきたい点は、この有料サービスプランの
価格とその内容、そして保証期間だ。
保証期間については法定通り、最低でも1年間の製品保証は付帯しているはずだが、メーカーによっ
ては保証期間の延長サービスを用意している企業もある。不安がある場合はそれも含めて考慮する
のが良いだろう。サービスプランの選択時には、どの程度の頻度で使用することになるか、どの程
度の緊急度をもって3Dプリントを行うかという点が判断材料となる。特に初期段階での試作用途で
使用する場合と、実製品の部品を製造する場合とでは、万が一のトラブル発生時に想定される損失
が全く違うからだ。また、メーカーのサポートサイトが充実しているかどうかも重要だ。
6. マネジメント視点で導入を俯瞰してみよう
ここまでの情報が確認できれば、3Dプリンタ選定時に確認しておくべき項目は一般的にはほぼ網羅で
きているだろう。最後に、本項目では上層部に稟申する際に添付しておくべき情報を判断するために、
上層部のマネジメント視点で3Dプリンタ導入を俯瞰することも社内提案前に実施しておきたい。上層
部の方々にとって、馴染みがないものを導入する場合は特にこの点が重要になるかも知れない。
導入の初期コストと導入後の運用コスト
ここまでの選定時に、コスト面はほぼ把握できているだろう。一方で、今現在のやり方でどの程度の
コストが発生しているのかを把握し、比較するという作業はどうだろうか。試作にせよ製造にせよ、
現在外注を行っている場合は金額的なコストだけでなく、期間というコスト、そして社外の委託先に
対する要件説明の労力というコミュニケーションコストも考慮しておくべきだろう。3Dプリンタを
導入するということは、多くの場合で内製比率を向上することを意味する。自身の部門内で行う業務
のうち、最大で何パーセントを内製化できるのか、最低では何パーセントか。この割合を最高と
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最低の2種のラインを設定して現実的に見積もることができれば、かなり具体的に現状からの向上幅
を割り出せるはずだ。当然すべての業務を3Dプリントで賄うことは難しいが、現状よりどの程度の
向上が見込めるのかという点は、企業としては重要だろう。
コスト視点だけでなくベネフィット視点も加味する
コストを計算するうちに、自ずと考えるのが新たなものを導入することで得られる利点だ。例えば
外注による試作分の最低3割を3Dプリントで内製化すると仮定した場合、ほとんどのケースで試作品
製作は24時間以内に完了する。外注時は1-2週間を要するのが常だが、それだけの期間があれば内製で
試作したものを検証し、検証結果を基に設計を調整して再試作・再検証を行うというサイクルを
2-3度は回せる可能性がある。この反復検証サイクルを平均して4回行っていたとして、外注時には
試作品製作だけで1か月を費やしていた計算になる。ところがこれを3Dプリントで内製化できれば、
検証項目によっては1週間以内に4回の試作検証を完了できるかも知れない。この場合の利益は3週間
という期間になるわけだが、重要なのはその期間が他のことに再投資できるいう点だ。これは各企業
が置かれた状況によって異なるが、品質向上のために更にディテールを追求することもできれば、
単純に開発期間を短縮してアジャイル開発を実現することもできる。避けて通れないプロセスを短縮
できるということは、想定外の事態が起こった場合にも柔軟に対応できる余地が生まれるため、短縮
した期間の再投資から得られる利益はアイデア次第で非常に大きなものとなる。
また、内製比率の向上はコロナ禍で浮き彫りとなったサプライチェーンリスクへの対策、そして非常
時のBCP(事業継続計画)の一環にもなり得る。ここ数年のコロナ禍や半導体不足等の影響で起こっ
たことの中には、内製化による代替策で損害を抑制できるものもあるだろう。コロナ禍やロシア危機
からもわかる通り、異変は1つ発生すると多角的に波及する。今後何かが起こった際にコロナ禍と同様
の停止や遅延を露呈してしまった場合、取引先からの信用失墜にも繋がりかねないという点も、リスク
マネジメントという点では重要だろう。
企業内での新規設備導入時に起こること
ここまでは3Dプリンタの選定・導入という軸のみで論じてきたが、実際には多くの企業は複数の新規
設備の導入候補を持っており、緊急度や必要性、導入コスト等の指標から優先順位を付けて検討する
という流れになる。ここまでの検討を進めてきた方であれば、3Dプリンタ導入の必要性を強く感じて
いるに違いないが、組織内では様々な事情から他を優先させたい人も存在するのが常だ。この点に
対する予防線を意識して社内提案が行えるかどうかという点が、案外その提案が通るかペンディング
となるかの分水嶺になるケースは多い。もちろん他に社として、または部門として明らかに優先すべ
き投資先があればそうすべきだ。しかしその判断材料は社内提案を行う前の段階で明確にしておけば、
上層部によりフェアな判断が下せる材料を提供することができる。例えば以下のような項目は社内
提案の背景として、上層部に提供すべき判断材料と言えるだろう。
● 取引先や競合他社での3Dプリンタ普及率 ● 現状 vs 導入後のコストと期間の差異
● 導入によるベネフィット面 ● 上記から想定される初期コスト回収の期間(最長・最短)
● 導入した際のリスク/見送った際のリスク ● 想定通り運用可能になるまでの習熟コストとその対策
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