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【報告書】アジアのインフラ市場を形成する重要な動向やメカニズム

ホワイトペーパー

最盛期を迎えるアジアのインフラ投資に伴うリスクと報酬について記載されたザ・エコノミスト・コーポレート・ネットワーク報告書をご紹介。

掲載内容
◆ 最盛期を迎えるアジアのインフラ投資に伴うリスクと報酬
1.はじめに
2.最盛期を迎えるアジアへのインフラ投資
・インフラギャップを埋める
・地域における競合と現地への利益
・リスクの焦点 機会を把握し、 リスクを低減する
3.エネルギーインフラ:地域の成長をけん引
・急拡大するアジアのエネルギー需要
・適切なエネルギー・ミックスの探求
・投資展望:エネルギー
4.輸送インフラ:人と商品を目的地へ運ぶ
・投資展望:輸送
5. 結論
◆付録 など

◆詳細はカタログをダウンロードしご覧いただくか、お気軽にお問い合わせ下さい。

このカタログについて

ドキュメント名 【報告書】アジアのインフラ市場を形成する重要な動向やメカニズム
ドキュメント種別 ホワイトペーパー
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取り扱い企業 パンドウイットコーポレーション日本支社 (この企業の取り扱いカタログ一覧)

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このカタログの内容

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最盛期を迎えるアジアの インフラ投資に伴うリスクと報酬 ザ・エコノミスト・コーポレート・ネットワーク報告書 協賛
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グローバルビジネスインテリジェンス分野の世界的リーダー ザ・エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(The Economist Intelligence Unit/EIU)は、英国エコノミスト誌の姉妹企業であ るザ・エコノミスト・グループ(The Economist Group)の調査・分析部門です。1946 年の設立以来 70 年以上にわたって、刻々 と変化する世界情勢や、その変化が創造する機会の獲得と内在するリスクの管理について、企業、金融機関、政府機関にサポー トを提供しています。 世界が直面する多くの課題が国際的(世界的ではなくとも)な側面を持つことから、EIU は速度と影響力を増すグローバリゼー ションの波において論評、解説、見通しを提供できる理想的な立場にいる組織です。 EIU の購読サービス 世界の有力機関は、EIU の定期購読サービスを利用して各種のデータ、分析、予測を入手し、世界各地で起こっている出来事 を常に把握できるようにしています。EIU は以下の分野を専門に扱っています。 • 国別分析:各国の経済および政治分野に関する定期的かつ詳細な見通し情報や、様々な市場における経営環境と規制環 境に対する評価を提供します。 • リ スク分析:EIU のリスクサービスは、世界各地で顕在化あるいは内在するリスクを特定し、それらがお客様の組織に与 える影響をお客様自身が把握できるよう支援します。 • 業界分析:主要 60 カ国の重要 6 産業に関する 5 年間予想や、重要テーマとニュースの分析を提供します。このサービス が提供する各種の予想は、最新のデータおよび綿密な業界動向分析結果に基づいて作成されています。 EIU コンサルティング EIU コンサルティングは、お客様の特定ニーズに対するソリューションの提供を目的としたカスタマイズサービスです。EIU は以 下の主要セクターに特化しています。 • EIU 消費者:消費者に直接対応する企業向けに、新市場への参入と既存市場における業績向上の達成を支援します。世 界の企業上層部経営陣を対象に、戦略的施策、M&A デュー・デリジェンス、需要予測、その他の根本的な重要経営課題 への取り組みを支援します。詳細は次のウエブサイトをご覧ください。eiu.com/consumer • 医療:この分野での専門コンサルタント企業である Bazian および Clearstate 両社と連携し、医療機関等に対して、ヘルス ケアエコシステム全体における事業の成功と持続可能性の実現・維持を支援します。詳細は次のウエブサイトをご覧くだ さい。eiu.com/healthcare • 公 共政策:EIU では世界中の公共政策に関するサービスを提供しており、この分野で大きな影響力を持つ有力なステーク ホルダーから高い信頼を得ています。透明性が高く測定可能な成果を求める政策立案者とステークホルダー向けに、根拠 に基づく調査情報をご提供しています。詳細は次のウエブサイトをご覧ください。eiu.com/publicpolicy ザ・エコノミスト・コーポレート・ネットワーク ザ・エコノミスト・コーポレート・ネットワーク(The Economist Corporate Network/ECN)は、ザ・エコノミスト・グループの アドバイザリーサービス部門です。世界市場の経済環境および事業環境に対するより深い理解を求める組織のリーダー向けにア ドバイザリーサービスを提供しています。独立した立場から示唆に富む情報コンテンツをお伝えし、お客様が適切な情報に基づ いて戦略を立て決断できるように、的確な知識、正確で詳細な情報、およびコミュニケーションをご提供しています。 ECN はザ・エコノミスト・インテリジェンス・ユニットの傘下にあり、担当する地域と市場における詳細な知識を有する専門家によっ て構成されています。事業は会員制組織によって運営され、アジア太平洋、中東、そしてアフリカを活動の対象としています。 他にはない独自の双方向型カンファレンス、特別設計イベント、経営幹部との会談、会員向け説明会、質の高い調査活動を通 じて、幅広い分野を網羅するマクロ情報(世界、地域、国、領域別)や、支配的情勢と傾向予想における対象業界に特化し た分析調査をご提供しています。
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著作権 © 2018 The Economist Intelligence Unit Limited. All rights reserved. 本報告書のいかなる部分についても、 ザ・エコノミスト・インテリジェンス・ユニット・リミテッ ドによる事前の許可なく、電子的、機械的、複写、録音、 その他の手段で複製、情報検索システムでの保存、 あるいはいかなる形式や手段により転送することは禁 止されています。 ザ・エコノミスト・インテリジェンス・ユニットは、 本報告書の記載情報の正確性を期すために最大限 の努力を払っていますが、第三者による本報告書の 情報、見解、結論への依拠に対しては一切の責任を 負いません。 表紙の画像:© aiqingwang/iStock
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ロンドン 20 Cabot Square London E14 4QW United Kingdom Tel: +44 (0) 20 7576 8181 Email: london@eiu.com ニューヨーク 750 Third Avenue 5th Floor New York, NY 10017 United States Tel: +1 212 698 9717 Email: americas@eiu.com 香港 1301 Cityplaza Four 12 Taikoo Wan Road Taikoo Shing Hong Kong Tel: + 852 2802 7288 Email: asia@eiu.com
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最盛期を迎えるアジアのインフラ投資に伴うリスクと報酬 目次 序文 2 1. はじめに 3 2. 最盛期を迎えるアジアへのインフラ投資 5 3. エネルギーインフラ:地域の成長をけん引 10 4. 輸送インフラ:人と商品を目的地へ運ぶ 16 5. 結論 21 付録 22 付録 2 23 1 © The Economist Corporate Network 2018
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最盛期を迎えるアジアのインフラ投資に伴うリスクと報酬 序文 「最 盛期を迎えるアジアのインフラ投資に伴うリスクと報酬」は、パンドウィット(Panduit)社の協賛によるザ・エコノミスト・コーポレート・ネットワーク(Economist Corporate Network/ ECN)の報告書です。調査および報告書の作成は ECN が単独で実施しました。本報告書に記載さ れている調査結果および見解は ECN 独自の情報に基づくもので、協賛者の見解とは異なる場合が あります。 本報告書の執筆は Andrew Staples が担当し、調査と編集は Pamela Qiu が担当しました。また、 デザインとレイアウトは Daljeet Singh が担当しました。 2018 年 5 月 © 2018 The Economist Corporate Network. All rights reserved. 本報告書に記載されたすべての情報は、執筆者と発行 者がその能力の限りにおいて検証しました。しかし、ザ・エコノミスト・コーポレート・ネットワークは、この点への 依拠から生じる損害に対して一切の責任を負いません。なお、本報告書のいかなる部分についても、ザ・エコノミスト・ コーポレート・ネットワークによる事前の許可なく、電子的、機械的、複写、録音、その他の手段で複製、情報検 索システムでの保存、あるいはいかなる形式や手段により転送することは禁止されています。 2 © The Economist Corporate Network 2018
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最盛期を迎えるアジアのインフラ投資に伴うリスクと報酬 1. はじめに アジア 1 は、地球上で最も急速に発展している経済圏であり、世界の海外直接投資(foreign direct investment/FDI)の 3 分の 1 以上が同地域に向けられている。ザ・エコノミスト・イン テリジェンス・ユニット(The Economist Intelligence Unit/EIU)の予想によると、2018 年から 2022 年 におけるアジアとオーストラレーシアの実質 GDP は年平均 4.2%で成長し、世界全体の経済成長 率(2.8%)を大きく上回る。東南アジア諸国連合(The Association of South-East Asian Nations/ ASEAN)は一段と高い年平均成長率(4.8%)を達成する一方、世界第 2 位の経済大国である中 国の実質 GDP は、2018 年の 6.4%から 2022 年には 5.3%に減速する見込みである。対照的に、世 界で最も目覚ましい経済成長を遂げているインドは、同じ期間に一段と成長が加速し、年平均 7.7% に達すると思われる。 1 本報告書が対象とするア ジア圏は次の各国で構成 される:オーストラリア、 カンボジア、中国、香港、 インド、インドネシア、日 本、ラオス、マレーシア、 ミャンマー、ニュージーラ ンド、フィリピン、シンガ ポール、スリランカ、韓国、 台湾、タイ、ベトナム。 3 © The Economist Corporate Network 2018
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最盛期を迎えるアジアのインフラ投資に伴うリスクと報酬 経済成長に歩調を合わせ、アジア圏では、新興国および中所得国に分類される国々の社会・経 済構造変革、急速な都市化、中流階級勢力の台頭、さらに地域経済統合や、投資、貿易の急成 長などという大きな変革が進行している。上記に加え、経済発展と工業化の進捗レベル、国営施設・ 組織の成熟度と効率性、さらに国政的・社会的伝統面において各国間で著しい格差が存在し、大 きな多様性を持つこともこの地域の特徴である。 EIU による長期経済予想によると、現在世界経済の 3 分の 1 を占めるアジア圏の経済規模(GDP) は、2050 年までに最終的に 53%前後にまで拡大する。このようにアジアには明るい展望が見込ま れているが、この展望が確実に実現されるという保証はない。必要条件としてのインフラ投資額の 増加、さらに事業環境の改善が期待通りに進まない場合には、驚異的な経済発展も輝きを失う可 能性がある。 アジアの成長と多様性は複雑ではあるが、インフラ関係者や関連業界にとり非常に魅力的な 市場の形成に貢献するものでもある。製造・設計、調達、建設、その他の業界の事業機会はど こにあるのか。それに伴うリスクは何か。ザ・エコノミスト・コーポレート・ネットワーク(The Economist Corporate Network/ECN)がお届けする本報告書には、アジアで全盛期を迎えるイン フラ開発市場への参入や、市場からの収益獲得を狙う企業に関した重要課題、問題点、リスク、 および機会に対する調査結果を網羅した。 次章では、アジアのインフラ環境を形成する重要な動向やメカニズムについての調査結果を概観 し、それ以降の章ではエネルギーと輸送分野に焦点を当てて考察する。 4 © The Economist Corporate Network 2018
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最盛期を迎えるアジアのインフラ投資に伴うリスクと報酬 2. 最盛期を迎えるアジアへのインフラ投資 インフラ整備事業はアジア圏の目覚ましい成長に大きく貢献してきた。50 年を超える調査で、インフラ整備への投資は、国の生産能力、経済成長力、生産性、地域連携力を向上させる だけでなく、商取引費用の削減や生産ネットワークと国境を超えたサプライチェーンの発展を促 進させることが分かっている。もっとも、アジアにおける国や地域別のインフラ整備と成長関係は まだら模様を呈し、市場と社会開発、市場構造、都市化、国民所得と福祉の各水準には著しい 格差が見られる。 インフラ投資ギャッ PwC、マッキンゼー・アンド・カンパニー(McKinsey & Company)、アジア開発銀行(Asian プの解消には、公 Development Bank/ADB)による最近の報告書は、現在のインフラ投資水準と 2030 年に至るまで 民両セクターから に必要な投資水準には著しいギャップ(隔たり)が存在すると指摘している。投資必要額は国家で の資金提供および 著しい相違が見られ(特にアジアの低中所得層を構成する新興国家間では巨額の投資が必要)、 新しい資金調達モ 2030 年までに年間平均で GDP の約 5.9%に相当する新規投資額が必要(インドを除く)となる。 デルが必要 中国を除いた気候変動適応コストを調整した金額ベースを見ると、現在の投資額が GDP の 3.8% であるのに対し、2016 年から 2020 年までの期間に必要な投資額は同約 5%となる。ちなみに中国 の投資額ギャップは同 1.2%と低い。これは、2001 年以降、同国が道路、エネルギー、輸送、水 資源インフラへ積極的に投資を行ってきているためである。一方、インドネシアの必要額は同 5%、 インドは推定同 5.3%と比較的厳しい水準のギャップが存在している。 図 2:地域別推定必要インフラ投資額(2016 年~ 2030 年) ( 単位:10 億米ドル、2015 年価格基準) 基準値 気候変動コスト調整後(a) 地域 必要投資額 年平均 必要投資額 必要投資額 年平均 必要投資額 対 GDP 比(%) 対 GDP 比(%) 東アジア 13,781 919 4.5 16,062 1,071 5.0 南アジア 5,477 365 7.6 6,347 423 8.8 東南アジア 2,759 184 5.0 3,147 210 5.7 注記: 東アジア:中華人民共和国、中国香港特別行政区(香港)、韓国、モンゴル、中国台北(台湾) 南アジア:アフガニスタン、バングラディッシュ、ブータン、インド、パキスタン、スリランカ、モルジブ、ネパール 東南アジア:ASEAN10 カ国 a. 気候変動コスト調整後の数字は、気候変動緩和および耐久性確保コストを含むが、海面上昇などを始めとする他の適用コストは含めない。 出典:アジア開発銀行、「Meeting Asia’s Infrastructure Needs」、2017 年 226 兆米ドルは、気候変動 ADB は、アジアの新興諸国が現在の成長傾向を維持させ、かつ貧困の根絶と気候変動への対 リスクの緩和に向けた追 加投資が織り込まれた数 応を実現するためには、2016 年から 2030 年に米ドル換算で 26 兆米ドル、年平均 1.7 兆ドルの投資 字。この分を除くと、推 額が必要になると推測している。2 ちなみに、現在の年間投資額は 8,810 億米ドルと見られている。 定額は 22.6 兆米ドル(年 2016 年から 2030 年における気候変動適応コスト調整後の必要投資額のうち、14.7 兆米ドルは電力 間 1.5 兆米ドル)に減少 インフラ、8.4 兆米ドルは輸送インフラへの投資が見込まれている。また、同期間の電気通信への する。 投資額は 2.3 兆米ドルに達し、水道・公衆衛生は 8,000 億米ドルが必要と予想されている。 5 © The Economist Corporate Network 2018
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最盛期を迎えるアジアのインフラ投資に伴うリスクと報酬 図 3:セクター別推定必要インフラ投資額(2016 年~ 2030 年) ( 単位:10 億米ドル、2015 年価格基準) 予想基準値(推定) 気候変動コスト調整後 セクター 必要投資額 年平均 対全体比 必要投資額 年平均 対全体比 電力 11,689 779 51.8 14,731 982 56.3 輸送 7,796 520 34.6 8,353 557 31.9 出典:アジア開発銀行、「Meeting Asia’s Infrastructure Needs」、2017 年 2016 年から 2030年の期間で、 インフラギャップを埋める 電力には 14.7 兆 インフラ不足が特に深刻なのはアジアの新興諸国だが、この地域が直面している大きな課題は新 米ドル、輸送は 規投資に必要な資金の調達である。ADB の試算では、不足する 5%のうちおよそ 2%分は財政改革、 8.4 兆米ドルの投 受益者負担原則、公的負債の増加、国家予算の優先事項見直しを通じて公共部門から捻出できる 資が必要 と思われる。したがって、GDP の 3%程度、つまり 2016 年から 2020 年で、年間およそ 2,500 億米 ドル分を民間投資家から調達する必要がある。こうした多額の資金が必要となることを考えると、 アジアの 2 大国(つまり中国と日本)が足元で進めている各種の先行的施策は、願ってもない投 資およびテクノロジー源泉となる。 地域における競合と現地への利益 アジアでの勢力拡大を狙う中国と日本が繰り広げる競争という形の地政学動向は、同地域のインフ ラ環境形成を促進する作用として機能している。両国の競合関係自体は昔から存在しているが、最 近の展開は互いの対抗心を掻き立てている。特に目立つ動きとして、日本の場合は 2012 年の安倍 晋三氏の首相就任であり、中国は外交重視策の強化と言える。 日本は 1970 年代から新興アジア諸国への主要投資国である。特に目立つのは東南アジア諸国で、 同地域では日本のメーカーが複雑な現地生産ネットワークを構築してきた。安倍首相が掲げる日本 経済活性化計画「アベノミクス」も、アジア新興諸国向けインフラ輸出の拡大を中核戦略に位置づ けている。国内需要に陰りがみられるなか、アジア圏へのインフラ投資は日本の企業にとっては海 外市場の創出機会であるとともに、同地域で支配力を強める中国を意識する日本政府にとっても、 影響力の維持を図る戦略的価値の強化になる。アジア圏におけるインフラ開発への影響力を維持 する目的で、日本は 2015 年に「質の高いインフラパートナーシップ」を発表し、2020 年までの期 間に、新興アジアで質の高いインフラ開発に約 1,100 億米ドルの資金を提供する取り組みに乗り出 した。さらに、インドネシアでのジャカルタ・バンドン間高速鉄道開発事業といった利益性のあるイ ンフラ事業競争で、中国企業に苦戦を強いられていることを受け、日本政府は国内企業を支援し、 2020 年までにインフラ関連輸出額を 30 兆円(2,800 億米ドル)にまで押し上げる目標を掲げている。 中国と日本のイン 一方、アジアのインフラ市場参加者として歴史の浅い中国は、懸命に遅れを取り戻そうとしてい フラ競争が新興国 るように思われる。2013 年に習近平国家主席は、21 世紀海上シルクロード(Maritime Silk Road) にはプラス効果 とシルクロード経済ベルト(Silk Road Economic Belt)の領域で展開する「一帯一路計画」(Belt and Road Initiative/BRI)と、アジアインフラ投資銀行(Asian Infrastructure Investment Bank/AIIB) の設立を提唱した。3 習主席が唱える BRI 計画は巨大な経済圏構想で、近隣諸国や遠方の国々を 結ぶ古代交易路(シルクロード)の再建を目指している。同構想は 60 以上の対象国を結ぶ三つの 主要交易路を開発するもので、その主要交易路とは、古代の「シルクロード」(西安を起点としパ キスタンの一部と中央アジアを抜けてイスタンブールに達する道)、「バングラディッシュ、中国、イ 6 © The Economist Corporate Network 2018
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最盛期を迎えるアジアのインフラ投資に伴うリスクと報酬 ンド、ミャンマー道」、そして中国湾岸の福建省と東南アジアや他の諸国を結ぶ「海上シルクロード」 を指す。さらに、シルクロード計画の一環として、「経済回廊」(Economic Corridor)とパキスタン 支配のカシミール地域を結ぶ計画も発表している。 この BRI 計画を通じて、中国はインフラ投資に充てる巨額の資金を提供し、自国経済とヨーロッ パ経済との結合を図る。すでに、同計画への参加を表明した 68 カ国に対して年間 1,500 億米ドル 前後の資金を投入している。同計画の中核的戦略目標は、米国が支配する大西洋経済・商業圏に 対抗する、中国を柱とした巨大経済・商業圏を構築することである。 また、国内のインフラ需要が縮小し、過剰生産能力(鉄鋼生産など)に対する懸念が高まるなか、 同計画の実施は、自国企業が外国市場を確保できる絶好の機会となる。この計画を政治視点から 考えると、中国が着々とアジアやその周辺国に対する影響力を強める状況に神経をとがらせる国(特 に日本とインド)があることは明白である。そうとはいえ、中国が進める経済圏構想は、アジア圏 諸国にとっては大望の投資資金獲得の機会となることは間違いない(インフラを切望するが資金力 がない各国政府は、中国が資金を持つことを認識している)。 3AIIB は 2015 年に、57 の 加盟国が資本金 1,000 億 米ドルを出資して発足し た。日本と米国は加盟し ていない。この背景には、 AIIB が中国の強力な主導 で発足したこと、そして日 本が後ろ盾となっている ADB や米国を核とする世 界銀行といった、既存の 金融メカニズムに正面か ら対抗する組織であると いう懸念がある。AIIB は 日本と中国が展開する戦略的主導権争いは、先に述べたインフラ投資額ギャップに苦しむ小経 自身を「アジアとその他 済規模諸国には大きなプラス効果をもたらしている。つまり、インドネシアやフィリピンといった小 の地域における、社会・ 規模経済国は、切望していたインフラ・プロジェクトの実行に向けて、豊富な資金を持った両国か 経済効果の向上を使命と ら魅力的な資金提供案を受ける幸運が訪れたと言える。また中国と日本の競合は、新興国が求め する国際開発銀行」と称 している。2018 年 3 月現 ても手が届かない可能性のある質の高いインフラ施設構築コストの引き下げにも寄与している。 在で 64 カ国が加盟してお インドネシアのジョコ・ウィドド大統領(通称 Jokowi)は、2014 年の大統領就任以来、経済成 り、20 カ国の加盟申請が 長の促進と輸送およびサービスのボトルネック緩和施策として、インフラ整備計画とその着手を優 承認されている。 先させてきた。大統領政府が 2015 年に始動した積極的なインフラ開発 5 カ年計画では、民間投資 7 © The Economist Corporate Network 2018
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最盛期を迎えるアジアのインフラ投資に伴うリスクと報酬 家から総額 2,877 兆ルピア(2,100 億米ドル)を調達し、上水道網、港湾、発電施設といったインフ ラ施設の建設を推し進める。 フィリピンも同様の取り組みに着手している。ロドリゴ・ドゥテルテ大統領は、今後 5 年間で、イ ンフラ設備への政府投資額を対 GDP 比で約 5%から 7%に引き上げ、開発「最盛期」を引き起こ す意欲を示している。同国政府は、この計画の推進を通じて現在の深刻なインンフラ不足の解消を 狙っている。この背景には、長年のインフラ不足が、周辺国に対する同国の競争不利性の要因となっ ていることがあげられる。スイスで実施される世界経済フォーラム(World Economic Forum)が発 表した直近の「国際競争力指数ランキング」(Global Competitiveness Index)を見ると、インフラ整 備面でフィリピンは 144 カ国中 90 位と振るわないが、以下のように多くの ASEAN 諸国がかなり上 位にランクインしている。ベトナム(76 位)、インドネシア(62 位)、タイ(44 位)、マレーシア(24 位)、シンガポール(2 位) 中国と日本の主導権争いに、新興諸国のインフラ整備に軸足を置いた政策と強い投資ギャップ の解消意欲が組み合わさり、この地域のインフラ投資情勢は最盛期を迎える雰囲気がある。言い 換えれば、アジアは公共インフラ財投資の大幅拡大期に入りつつあると言える。 本報告書の導入章としてアジア地域全体を対象としたインフラ投資調査はここで終了する。以降 の章では、同地域経済の持続的な成長を支える主要セクターであるエネルギーと輸送インフラ投資 に焦点を当てた議論を展開していきたい。 公共インフラ投資 要点のまとめ の大幅拡大期を迎 えるアジア  ア ジアはこれからも、豊かさの進展、都市化、有利な人口構造(国によって大きく異なる)、 地域連携の強化を原動力とした堅調な経済成長を達成すると思われる。  ア ジア地域で繰り広げられている中国と日本の主導権争いと市場シェア拡大競争は、同地域 の新興諸国にとり有利な資金提供条件を伴う質の高いインフラ整備機会となっている。  し かし、十分なペースで十分な投資の実行を怠ると、経済成長および発展の維持への重大な リスクが顕在化する。  インフラ投資では、エネルギーと輸送ネットワークが最大のセクターとなる。 8 © The Economist Corporate Network 2018
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最盛期を迎えるアジアのインフラ投資に伴うリスクと報酬 リスクの焦点 機会を把握し、 Business)によると、建築認可の取得容易さで、 リスクを低減する インドは 2017 年に 190 カ国中 185 位にランクされ ている) アジアのインフラに対する需要は非常に大きな機 EIU は、このリスクを独自の業務活動リスクク 会ではあるが、必要資金を調達し、重要なプロ モデルを使って考察している。以下のヒートマッ ジェクトを理解したうえで実践しなければならな プは、アジア各地域のインフラリスク評価を示し い。これを誤ると、さまざまなボトルネック(障 たものである。予想通り、国民所得の高い国は 害)が引き起こされる。こうしたボトルネックは インフラの質に関するリスクが低いと評価されて 事業コストとして跳ね返り、結果として経済成長 いる。一方、高リスクと評価された国は、おしな への足かせとなる。インドネシアの例をあげると、 べて次の分野に関する課題を抱えている。電力 同国の物流コストは GDP の 20%以上を占め、 網、道路と鉄道網、小売流通網、情報テクノロジー アジア圏で最も高い。これは、島国である同国 (IT)インフラ。インフラリスク水準評価の全統 を縦横断する道路網と小売流通網の不整備に起 計数値については付録をご参照のこと。 因している。劣悪なインフラ整備状況に悩むイン 例えば、ASEAN で急速に拡大する消費需要か ドは、インフラ性能の改善が同国経済の潜在成 らの機会を求める消費財企業の見方として、この 長能力を引き出す重要なカギとなる。もっとも、 マップで色が濃い地域は、リスクが報酬を上回る この国が抱える最大の障害は細かい多くのプロ 厳しい事業環境下にあると考えることができる。 セスがある承認システムで、インフラ計画の開始 反対に、製造・設計、調達、建設請負企業は、 が 10 年以上待たされることもある。政府と関係 同じ地域を自社のサービス需要が最も強い市場 省庁には、認可期間の短縮化が求められる。(世 と判断して注目することになる。  界銀行の報告書「 ビジネス環境の現状」(Doing 9 © The Economist Corporate Network 2018
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最盛期を迎えるアジアのインフラ投資に伴うリスクと報酬 3. エネルギーインフラ:地域の成長をけん引 急拡大するアジアのエネルギー需要 アジアでは、堅調な経済成長と人口増を背景に、エネルギーへの需要が急速に拡大している。EIU 予想では、2017 年から 2021 年までの全世界のエネルギー需要は年平均 1.9%増だが、この増加を 主にけん引するのは同 2.7%増のアジア地域である。この需要増の主たるけん引役は、やはり中国 である。そして、米国に次ぐ世界第 2 位のエネルギー消費大国の地位も変動がないであろう。新興 国のインドも高い伸びを継続するが、伸び率では 2013 年から 2017 年の年平均を若干下回ると見ら れている。それでも、世界第 3 位の消費大国であることは変わらない。 2022 年までにア 2000 年のアジアとオーストラリアにおける国内総電力消費量は 2,894,440ktoe(石油換算キロト ジアの電力消費量 ン)で、全世界消費量の 31.5%を占めていた。同地域の消費量は年平均で約 5.9%伸び、2012 年 は世界の半分強を にはそれぞれ 5,128,339ktoe、42.1%となった。以降 2022 年までの 10 年間は、それぞれ 6,212,986ktoe、 占める 45.1%と予想されている。ただし、年平均伸び率は約 2.1%に減速する見込みである。アジアにお けるエネルギー需要の拡大は、高度経済成長率、新興諸国の工業化、所得増とそれに伴う一人当 たりエネルギー消費量増、貧困地域の送電線設置の進展を反映したものであり、いずれも電力需 要の押し上げ要因である。ちなみに、EIU が予想する 2018 年から 2022 年におけるアジア主要国の 年平均成長率は、中国 6%、インド 7.7%、インドネシア 5.1%となっている。同じ期間内に、他の ASEAN 諸国の消費量も大幅に伸びると考えられている。 12,000,000 60.0 10,000,000 50.0 8,000,000 40.0 6,000,000 30.0 4,000,000 20.0 2,000,000 10.0 0 0.0 10 © The Economist Corporate Network 2018
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最盛期を迎えるアジアのインフラ投資に伴うリスクと報酬 さらに先の見通しとして、国際エネルギー機関(International Enegry Agency)は、2040 年まで に東南アジアのエネルギー需要は約 66%伸び、世界需要の伸び幅の 10%を占めると予想している。 こうした需要を充足するには並大抵ではない努力が必要となる。とりわけ現在は、2015 年のパリ 気候変動枠組み条約締結会議(Paris Climate Change Conference、いわゆる COP21)で合意した 公約という条件が付く。 適切なエネルギー・ミックスの探求 エネルギー・ミックスの観点から、急成長するエネルギー需要の充足策を打ち出すことは、アジア 地域の政府が取り組む最重要政策課題の一つとなる。図 7 のアジア地域の発電源別割合を見ると、 2018 年は化石燃料が全体の 86.3%を占めて依然として最重要エネルギーの座にあるが、2022 年に はこの割合が 80.4%まで下がると見られている。石炭は低価格であり、石炭燃料発電所も比較的 に短時間で建設でき操業コストも低い。これは、2017 年から 2021 年までの石炭燃料発電量の伸び 率予想で、アジアとオーストラレーシア(4%)が世界(2.4%)を上回る理由の一つである。同期 間において中国とインドの石炭燃料発電量は大幅に減少する見込みだが、他のアジア市場(インド、 フィリピン、ベトナム、タイなど)は逆に急増すると思われる。 アジアの二酸化炭素排出量割合で、化石燃料 は最大の割合を占めている。したがって、今後は 低炭素成長戦略への転換が必要となる。このため には、水力発電や熱エネルギーを利用した低炭素 排出エネルギー発電、石炭に代わるガス火力発電 の導入や、化石燃料除去助成金と炭素ガス放出量 の削減に向けた移行措置を含む持続可能戦略の 構築が必要となろう。ADB が試算した、アジアに おける新興諸国全体の発電セクター向け年間予想 基準投資額は 7,790 億米ドルで、インフラ投資総 額の 51.8%を占める。ちなみに気候変動コスト調 整後の投資額は 9,820 億米ドル(同 56.3%)である。 こうした課題を国レベルで考察した場合はどう なるか。また、各国政府が、低炭素成長モデルへの移行と、エネルギーセクターへの目標投資額 の引き上げを同時に実施するなかで、どこに機会を見出すことができるのか。この疑問を踏まえ、 次章では、主要国のエネルギーセクター概要と投資展望を解説していきたい。 要点のまとめ  ア ジアではエネルギー需要が急拡大しており、2022 年までに世界電力消費の 50%強を占める と予想されている。  今後も化石燃料は最大の発電燃料となる。  C OP21 の公約を受け、アジアの各国政府は再生可能エネルギーの利用量拡大を推進している。  各国政府は、インフラ向け資金ギャップを埋めるため、官民パートナーシップ(public-private partnership/PPP)の積極的活用を探っていく方針である。 11 © The Economist Corporate Network 2018
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最盛期を迎えるアジアのインフラ投資に伴うリスクと報酬 80.0 80.0 70.0 70.0 60.0 60.0 50.0 50.0 40.0 40.0 30.0 30.0 20.0 20.0 10.0 10.0 0.0 0.0 12 © The Economist Corporate Network 2018
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最盛期を迎えるアジアのインフラ投資に伴うリスクと報酬 投資展望:エネルギー インド インドはすでに世界第 3 位のエネルギー消費大国であり、今後 5 年間のエネルギー需要は中 国を除き世界最大の伸び率を示すと思われる。同国の電力消費量が急増している要因には、 経済の成長、工業化の進展、そして人口増(2030 年までに 15 億人に達する見込み)があげ られる。 今後、エネルギーセクターは多額の投資が必要となる。発電容量は大幅に増加してきたが、 政府は価格改革、資産売却、規制改革を通じて電力セクターの活性化を図らなければならない。 現在、政府は再生可能エネルギー発電依存度を大幅に高める施策を進めている。COP21 では、2030 年までに非化石燃料発電比率を全体の 40%に引き上げる目標を設定した。また、 2022 年までに、175 ギガワット(GW)容量の再生可能エネルギー発電施設を設置する計画を 立てている。しかし、今後も、同国のエネルギー基盤に組み込まれる追加発電容量の使用燃 料の大半は石炭となる。 また、エネルギー輸入依存度の低減を目指し、次の政策を実施する方針である。炭化水 素生産量の拡大、石炭層メタンやシェールガスなどの非伝統的エネルギー資源の探査、国内 企業による海外企業買収の支援。 政府は原子力発電を強く支持しているため、原子力セクターの活性化に向けた取り組みを強化する可能性は高い。また、設置コストが低下傾向にある 太陽熱発電も今後の急成長を見込むことができる。政府側も、この発電方法を将来の重要な再生可能エネルギーに位置づけている。 インドネシア インドネシアのエネルギー消費量は、2017 年時点で 2 億 4,800 万石油換算トン(toe)だった。 今後 2018 年から 2022 年の期間で、消費量は年平均 4.5%で伸び、2022 年には 3 億 1,100 万 toe に達すると予想されている。今後は、風量発電を主体とした再生資源による発電にも着 手するが、可燃性燃料が発電燃料全体の大半を占める状況は変わらないであろう。2022 年時 点で、水力以外の再生可能エネルギーを利用する発電量は全体のわずか 10%にとどまる見込 みである。 インドネシアがエネルギー生産および輸出大国である状況は不変だが、向こう数年間の石 油・ガス生産量は小幅に減少すると見られている。主な理由は、上流の炭化水素セクターに 対する規制動向の見通し不透明感から、投資が手控えられているためである。 発電施設の建設の進捗は大幅に遅れ、これが PPP システムへの信頼感を損ねる状況が続 く。また、バタン石炭火力発電所建設も、地域住民や環境保護団体の反対を受けて進行がは かどっていない。政府は、2019 年末までに 35GW の電力容量拡大を目指しているが、現状で は計画達成の見込みは薄い。 外国からの投資誘致策の一環として、2017 年に石油・ガス 15 鉱区を対象に生産物分与契 約方式に基づく開発入札が実施された。しかし、関心を示した開発業者は少なかった。業界関係者は、インドネシアへの投資魅力が他国と比べて低い主 な理由に、利益分配までの期間が長く、政府介入リスクが高い点を指摘している。2016 年には、17 鉱区を対象に開発業者を募ったが、実際に落札したの はわずか 1 業者だった。 風力発電所開発は増加傾向にある。この背景には、次の 10 年間の中旬までに、エネルギー・ミックスに占める再生可能エネルギーの割合をより拡大す る意欲的な計画がある。2018 年から 2022 年の期間で、風力発電所設置数は 4 倍以上になり、2022 年までに発電容量は 271.5MWe(メガワット)に達する 見込みである。 13 © The Economist Corporate Network 2018
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最盛期を迎えるアジアのインフラ投資に伴うリスクと報酬 フィリピン フィリピンの電力消費量は、2018 年から 2022 年にかけて年平均 4.4%で伸びることになる。 出力可能電力設備容量は 15,665MW で、現在の国内電力需要を満たしている。しかし、電力 の安定供給面には不安が残る。特に深刻なミンダナオ南部地域では、今後数年間にわたり多 くの石炭火力発電所が新設される予定である。政府はエネルギー供給量の拡大を目指し、中 国と日本に対して 1,350 億米ドルにのぼる発電施設プロジェクトへの支援を求めている。こう したプロジェクトに加え、2020 までに稼働する 23 カ所の新規石炭火力発電施設により、2040 年までには 43GW の電力容量を上乗せする方針である。 化石燃料がエネルギー源の主力である状況は変わらないが、代替エネルギー源の利用も 継続して追及する。EIU は、全エネルギー消費に占める再生可能エネルギー(可燃性再生資 源と廃棄物を含む)の割合は、2016 年の 38%から 2022 年には 37%に微減すると予想している。 これまで、フィリピンは代替エネルギーへ多額の資金を投入してきた。  例えば 2017 年時 点で設置済み地熱発電容量は 2,118MWe(国内総エネルギー容量の 9%)となっており、今 後もこの分野の拡大を推進していくものと思われる。2018 年 3 月には、発電容量を 12MW 増 強したマイバララ(Maibarara)地熱発電所が始動した。また、風力発電の利用にも取り組ん でいる。もっとも、この電力源の国内エネルギー生産量(2017 年で 305GWh)と消費量に占める割合は小さい。風力発電同様に、太陽熱発電事業も小規 模で、2016 年時点の発電量(推定)は 123GWh にとどまっている。太陽熱発電の利用に関しては、 改訂エネルギー計画も重視していない。ただし、再生 可能エネルギー業者には、さまざまな財政的インセンティブを提示している(7 年間の所得税免除など)。 タイ タイは、東南アジアで 2 番目のエネルギー消費大国である。EIU 推計では、2017 年の国内総 エネルギー消費量は 1 億 4,200 万 toe で、インドネシア(同 2 億 4,300 万 toe) よりは少ないが、 マレーシア(同 9,500 万 toe)やフィリピン(同 5,400 万 toe)を上回っている。 エネルギー・ミックスでは、今後も化石燃料の割合が大部分を占めることになる。また、 ガス火力発電量の割合は、2017 年の約 27.7%から 2022 年には約 28.9%に伸びると見られて いる。石炭燃料の割合は、2015 年~ 2016 年に 11%前後に落ち込んだが、2022 年までには 13.2%あたりに小幅増となる見込みである。 国内備蓄量が減少している天然ガスは輸入を増やすことになるが、同国政府はエネルギー 源の多様化を図っている。「2015 年電源開発計画」(The Power Development Plan 2015) では、 代替エネルギー源の容量を 2036 年までに少なくとも倍増する目標を立てている。特に重視す る分野は太陽熱とバイオマスで、これに加え近隣諸国からの水力電力輸入増も図る。原子力 発電利用も選択肢として残しているが、国民の反対があり着手は遅れている。 また、不燃性再生可能エネルギーは、エネルギー生産量に対し最小限の寄与にとどまって いる。再生可能エネルギーの割合では水力発電が最も高く、2016 年の国内総電力生産量の 4.3%を占めている。しかし、水力発電セクターへの主要投資が途絶える(今のところは考えられないが)と想定すると、2021 年には同セクターの割合が 2.5% にまで落ち込む。一方、太陽熱発電の割合は、2016 年の 4.8%から 2021 年には 7.2%に跳ね上がり、エネルギー源としての重要度が増す。 現在は、2035 年を目途に太陽熱発電容量を 6GW まで引き上げる計画を立てている。EIU は、2017 年末時点の太陽熱発電容量を 2.6GW と推定している。 これは 2013 年の 3 倍を超える水準である。 14 © The Economist Corporate Network 2018
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最盛期を迎えるアジアのインフラ投資に伴うリスクと報酬 ベトナム 2017 年の国内総エネルギー消費量は 8,100 万 toe に達し、2018 年から 2022 年にかけては年 平均 3.4%で上昇することになる。ベトナムは石油と天然ガスの主要生産国であるが、既存油 田からの産出量が減少しているため、原油生産量は下落傾向にある。このため、向こう数年 間は液化天然ガス(LNG)の輸入を開始し、発電需要を満たす必要がある。 2017 年 1 月、政府はガスセクターの産出量を大幅に拡大する基本計画を承認した。同計 画で、当局は 2035 年までのガス産出量を、現水準から倍増の 210 億立方メートルにする目標 を設定している。また、LNG 輸入を計画通りに実施すると、総輸入量は 2021 年から 2025 年 の期間で 10 億~ 40 億立法メートル、2026 年から 2035 年は 60 億~ 100 億立方メートルとなる。 この計画の達成には、2035 年までに推定で約 191 億米ドルのインフラ投資が必要となる。 政府は 2020 年までに、発電、送電、配電インフラ施設に 400 億米ドル近くの資金投入を 公約している。さらに、2021 年から 2030 年にも 1,080 億米ドルの予算を計上する。当局は、 資金の大半を借入によって調達するとしている。 風力発電では、2020 年、2025 年、2030 年までに、それぞれ 800MW、2,000MW、6,000MW の設備を新設する計画である。2015 年の風力発電容量が 135MW にすぎないことを考慮すると、 この計画は野心的なものに見える。しかし、十分な資金を調達できると想定した場合、ベトナムの風力発電開発はかなり有望な機会となることは間違いな い。2016 年 11 月に、GE(米)と Mainstream Renewable Power(アイルランド)は、総額 20 億米ドルを投じ、ベトナムの 3 カ所で総容量 940MW の風力 発電施設を建設する契約を締結した。2017 年 10 月には、米貿易開発局がベトナム南部で着手する 100MW の風力発電開発プロジェクトへの支援に合意した。 同プロジェクトの設計および実行可能性調査には、米国企業の DNV GL が指名された。 資金調達の焦点 ジェクトの資材購入や運営段階でも、より厳格な管 資金ギャップの補てん 理下での遂行が期待できる。2016 年から 2030 年の 期間で、民間セクターからの資金を 630 億米ドルか ら 2,500 億米ドル(GDP の 3%)まで拡大させる必 この地域が克服すべき大きな課題は、新規投資 要がある。民間セクターの参加を拡大するためには、 に必要な資金の調達方法を見出すことである。こ 各国政府は制度および規制環境の改善を通じて民 れまで、さまざまな国際開発機関や国際通貨基金 間投資を呼び込む必要がある。こうした投資環境改 (International Monetary Fund/IMF)が、数点の政 善施策には、長期間のインフラ計画策定、ファイナ 府主導政策を提唱している。こうした施策案には、 ンスが可能なプロジェクト案件の創出、最適リスク 優先支払い計画の見直し、不適切な対象への助成 分担、採算性ギャップ資金支援、そして透明度の高 金打ち切り、課税基準の拡充による財政余地の確 いプロジェクト入札プロセスがあげられる。 保、税務行政の効率性改善改革があげられる。さ PPP 方式は多額の民間投資を呼び込む可能性は らに、アジアの一部の国には、受益者負担料金の 高いが、すべてのインフラ・プロジェクトにとって最 適用範囲拡大や、公共料金の引き上げで生産コス 適な資金調達方法とは言い難い。PPP 投資案件は トの全額を埋める機会が存在する。こうした施策の リスクが高く、規模の経済性が必要であり、さらに 導入は検討の価値がある一方で、インフラ投資ギャッ 取引コストが短期間で大きく上昇する。また、長期 プの規模を考えると、民間セクターからの資金調達 不完備契約ゆえに、論争の早期解決メカニズムと の必要性が一段と高まっていると考えられる。 状況変化への対応選択肢を盛り込む必要がある。 インフラ計画への民間参加 その他に PPP 活用で考えられる限界としては、アジ 国によって大きく異なるものの、アジアにおけるイ アで実施されるプロジェクトの大半はエネルギー生 ンフラ投資に対する民間セクターの参加割合は平均 産、輸送、石油・ガス、不動産の各セクターに関 10%しかない。民間資金の導入は、国のインフラ 連するため、長期の資金調達や魅力のある投資案 投資向け資金プールを拡充させるだけでなく、プロ 件の構築が必要となる。 15 © The Economist Corporate Network 2018
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最盛期を迎えるアジアのインフラ投資に伴うリスクと報酬 4. 輸送インフラ:人と商品を目的地へ運ぶ 輸送インフラは、アジアの高度経済成長で重要な役割を果たしてきた。道路、鉄道網、港湾は、この地域が展開する輸出本位の経済開発モデルが依存する原材料、半製品、完成品の 移動を円滑にする。また、ごく最近の動きとして、地域連携の深化、世界貿易機関(World Trade Organisation)ルールあるいは二国間や地域間の通商協定に基づいた貿易体制の自由化、さらに 中国の急速な経済発展は、地域内貿易の拡大をもたらし、これが輸送インフラに対する需要を一 段と刺激している。さらに、数十年におよぶ経済成長は、より裕福な社会の構築に貢献してきた。 こうした社会で暮らす新しいタイプの消費者は、商品やサービス需要をかき立て、これが物流や運 行インフラへの投資需要を一段と強める方向に作用している。 商業および消費者 こうした状況を踏まえると、アジアの輸送インフラ整備は甚大かつ多面的な課題と言える。正し 需要の高まりを起 い対策を取れば、この地域の経済成長と発展の継続が保証される。逆に適度な速度で投資ができ 因として、輸送関 ない場合には、ボトルネックがコストを押し上げることになり、競争力と生産性が下落し、経済成 連インフラ投資額 長の行き詰まりという結末を迎えるだろう。課題の重要さを認識している ADB は、これまで 40 年 は急増する方向に 間にわたって輸送セクターを重点的に支援してきた。同セクターへの融資額は全体の32%を占める。 ある。 すでに規模では世界水準をはるかに上回っているアジアの輸送関連インフラだが、今後も成長の勢 いが衰える兆候はない。PwC は、アジア太平洋地域の輸送インフラ投資額は 2025 年に約 9,000 億 米ドルに達すると予想している。 アジアで見られるエネルギーと輸送需要の急拡大は表裏一体である。つまり、導入章で解説し たように、いずれも経済成長をけん引する大きな潮流を反映した動きということだ。例えば、豊か さの進展は空の旅行ブームを生み出したが、エアアジア(AirAsia、「誰でも空の旅を楽しめる(Now Everyone Can Fly)」というキャッチフレーズ)などのローコストキャリアの台頭はこのブームに拍車 をかけている。国際航空運送協会(International Air Transport Association/IATA)は、今後の 20 年間で、世界の新規航空利用者数の半分以上はアジア太平洋地域の人々になるだろうと予想して いる。  同協会は、今後 2036 年までに、アジア地域の年間航空利用者数は 21 億人増えて(年平 均 4.6%増)35 億人になると見ている。この期間内で、2022 年までに、中国の航空市場は米国を 抜いて世界最大となり、その後英国はインド(2025 年)、インドネシア(2030 年)に順位を奪われ ることになる。アジア各国政府は、こうした航空旅客数の急増に対応する関連インフラの構築とい う課題を抱える。しかし、公的資金のみでこの課題に対処することは不可能だ。最近になって、イ ンドは国内の空港数を、現在の 100 前後から 2035 年までに 150 ~ 200 まで増やす計画を発表した。 インタビューに対して、スレシュ・プラブー民間航空大臣は、空港増設コストを最低で 600 億米ド ルと見込み、投資額の大半は民間セクターから調達する方針だと述べている。 豊かさの進展を背 都市化の進展は高密度集中型消費者層を生み出し、この新勢力が e コマース(電子商取引) 景とし、2036 年 や m コマース(携帯端末を使う商取引)革命を加速させている。こうした動きのなか、消費者へ までに年間航空旅 安定的に商品を配送するために、物流インフラおよびサプライチェーンの再設計、港湾機能の整備、 客者数は 21 億人 さらに道路や鉄道インフラの改善が不可避となっている。また、都市人口の増加は、大量輸送シ 増となる。 ステムへの需要を刺激するだけでなく、都市の輸送問題や公害に対する効果的かつ持続可能なソ リューションの必要性も高める。2016 年時点で、ベトナムの商業ハブ(中心地)であるホー・チ・ ミン市には 750 万台以上の車両が登録されていたが、この車両数は前年比で 7%近い伸び率(同 16 © The Economist Corporate Network 2018