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アプリケーションノート Octetプラットフォームを用いた生体分子の結合カイネティクス解析

ホワイトペーパー

バイオセンサーアッセイの開発、最適化、データ分析およびレポートに関するガイダンスとベストプラクティスを提供

生体分子間相互作用の検出と定量化は、バイオ医薬品のリードの探索と選択において重要です。

Octetシステムは、バイオレイヤー干渉法(BLI)を利用したラベルフリー解析アプローチを実装し、結合特異性、アフィニティおよびカイネティクスを正確に決定する迅速で簡便な手法で、バイオ医薬品開発における創薬の初期から製造プロセスに至るまでのあらゆる段階で有効です。

本アプリケーションノートでは、治療薬開発およびライフサイエンス研究における、Octetシステムのラベルフリー結合評価の技術、能力および利点を紹介します。

また、バイオセンサーアッセイの開発、最適化、データ分析およびレポートに関するガイダンスとベストプラクティスを提供します。

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このカタログについて

ドキュメント名 アプリケーションノート Octetプラットフォームを用いた生体分子の結合カイネティクス解析
ドキュメント種別 ホワイトペーパー
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このカタログの内容

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アプリケーションノート キーワード・フレーズ: バイオレイヤー干渉法、BLI、ラベルフリー、 バイオセンサー、生体分子間相互作用解析、 アフィニティ、カイネティックキャラクタライゼーション、 結合カイネティクス、リアルタイムカイネティクス、 アッセイ開発・最適化 Octet® プラットフォームを用いた 生体分子の結合カイネティクス解析 Renee Tobias, Sriram Kumaraswamy, David Apiyo, Sartorius, Fremont, CA お問い合わせ先 Email: ForteBioJP@sartorius.com 概要 生体分子間相互作用の検出と定量化は、バイオ医薬品のリードの探索と選択において重要です。Octet®システムは、 バイオレイヤー干渉法(BLI)を利用したラベルフリー解析アプローチを実装し、結合特異性、アフィニティおよび カイネティクスを正確に決定する迅速で簡便な手法で、バイオ医薬品開発における創薬の初期から製造プロセスに至る までのあらゆる段階で有効です。本アプリケーションノートでは、治療薬開発およびライフサイエンス研究における、 Octet®システムのラベルフリー結合評価の技術、能力および利点を紹介します。また、バイオセンサーアッセイの 開発、最適化、データ分析およびレポートに関するガイダンスとベストプラクティスを提供します。 Find out more: www.sartorius.com
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⽬次 はじめに ........................................................................................................ 3 アッセイバッファー ..................................................................... 13 Octet® シリーズ ......................................................................................... 3 ベースラインステップ ..................................................................... 14 Dip and Read バイオセンサー ............................................................ 4 結合ステップ ........................................................................................ 14 バイオレイヤー⼲渉法 ............................................................................ 6 解離ステップ ........................................................................................ 15 ラベルフリー解析の利点 ....................................................................... 6 ⾮特異的結合 ................................................................................ 15 結合カイネティクス—基本原理 .......................................................... 7 バイオセンサーの再⽣ ..................................................................... 16 結合カイネティクスの実験.............................................................. 7 結合カイネティクスアッセイの実⾏ ............................................. 19 ⽤語の定義 ........................................................................................... 8 結合カイネティクスデータの解析 ................................................ 20 Req, Rmax および KD の関係 .................................................................. 9 理想的でない結合挙動の認識 ....................................................... 21 結合カイネティクス解析の開発 ........................................................ 9 データ処理パラメータ ..................................................................... 22 バイオセンサーの正しい選択 ....................................................... 10 Analysis ウィンドウ: カイネティクス解析⽤ストレプトアビジン カーブフィッティングモデルの選択 ........................................ 22 バイオセンサー .................................................................................... 10 1:1 結合モデル ........................................................................................ 23 キャプチャー法 .................................................................................... 10 Heterogeneous Ligand モデル .................................................... 23 アッセイの配向性 ............................................................................... 10 マストランスポートモデル......................................................... 24 リガンドの固相化: Streptavidin (SA) バイオセンサー 1:2 Bivalent Analyte ............................................................................ 24 への固相化、タンパク質のビオチン化..................................... 11 ローカルフィッティング: Full vs. Partial Fit ......................... 25 Amine Reactive 2nd Generation (AR2G) バイオセンサー への固相化 グローバルフィッテイング .......................................................... 25 .............................................................................................. 11 リガンドローディング密度の最適化 平衡値解析 ............................................................................................ 25 ........................................ 12 フィッティングの質を評価する .................................................. 26 結論 ................................................................................................................ 26 2
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はじめに ここでは、バイオレイヤー干渉法(Bio-Layer Interferometry)を備えたSartoriusのOctet®プラット バイオ医薬品の創薬および開発において、生体分子間相 フォームによる高分子のカイネティクス解析を紹介しま 互作用の直接的な測定は重要な役割を果たします。 す。そしてカイネティクス特性解析を開発、実施、成功 SartoriusのOctet®プラットフォームをはじめとするラベ させ、結果を解釈するための選択肢、技術および注意事 ルフリー解析技術は、薬物-標的間相互作用の重要な構 項について考察していきます。低分子のカイネティクス 成要素である生体分子複合体の形成速度と複合体の安定 解析に関しては、Technical Note 16: Small Molecule 性に関して、正確な情報を得るための強力な手段です。 Binding Kineticsを参照ください。 ある相互作用のアフィニティはバイオ医薬品の有効用量 に直接的に影響を及ぼします。また、結合の機序を把握 すれば候補化合物の有効性および望ましさを予測するこ Octet® シリーズ とができます。結合相互作用の特異性、アフィニティお よびカイネティクスに関するリアルタイムのデータの取 Sartoriusは、分子間相互作用をリアルタイムで測定し、 得は、バイオ医薬品開発において創薬の初期から製造プ 検出、定量およびカイネティクス解析を行うことのでき ロセスに至るまでのあらゆる段階にメリットをもたらし るラベルフリー技術であるバイオレイヤー干渉法(BLI) ます(図 1)。 に基づく様々な多機能型プラットフォームを提供してい ます。Octet®システムでは、標準の96ウェルまたは384 開発プロセスの初期に候補化合物を効率的に選択できれ ウェルマイクロプレートによる、ハイスループットかつ ば、時間とリソースの双方を節約することができ、後期 自動化された結合解析を行うことができ、装置のメンテ のステージの失敗を予防することができます。例えば、 ナンスは最小限に抑えられ、フレキシブルなアッセイデ ハイスループットのoff-rateランキングにより、クルー ザインを実現しています。 ドサンプルの中から一次スクリーニングで最もアフィニ ティの高いクローンを選択することができます。リアル Octet®システムは、スループットの要件に応じて5機種 タイムのカイネティクス解析と、アフィニティ成熟と のシステムから選択することができます。すべてのシス いったリード化合物の最適化技術を組み合わせること テムにおいて、速い結合相互作用やタンパク質-低分子間 で、開発中のリード化合物のアフィニティおよび結合メ の結合相互作用を、分子量150 Daまでの感度で測定する カニズムに関する有用な情報が得られます。したがっ ことができます。Octet® Rシリーズ3機種は、スルー て、ダウンストリームプロセスでは、情報に基づくプロ プットの拡張性があるモジュール式の標準システムで、 セス決定を容易するため、種々の増殖またはバッファー 96ウェルマイクロプレートを1枚設置し、最大2, 4, 8チャ 条件下での特異性、選択性、安定性に関する詳細な特性 ンネルの同時測定が可能なラインアップです。Octet® 解析を行う必要があります。 RED384, HTXの2機種は、96ウェルまたは384ウェルマ イクロプレートを2枚セットすることができ、最大16, 96 ラベルフリー技術を用いた分子間相互作用のカイネティ チャンネルの同時測定が可能なハイスループットシステ クス解析がもたらす価値は明白であるとはいえ、生体サ ムです。384ウェル傾斜底マイクロプレートを用いる場 ンプルから一貫した質の高い結合カイネティクスプロ 合、必要なサンプル容量が1サンプルあたり40 µLと少量 ファイルを作成するには、実際には数多くの注意事項が です。表 1 にOctet®システム5機種の仕様、カイネティ 存在します。 クスアッセイにおけるダイナミックレンジを示します。 標的の同定 リード分子の および スクリーニング リード分子の最適化 プロセス開発 品質管理および製造 バリデーション および選択 および特性解析 バインダーの セルライン開発 作用機序 ‒ スクリーニング アフィニティ成熟 ‒ および 生体分子間相互作用 (ハイブリドーマ、 活性測定 結合カイネティクス ファージ、ライセート) 増殖培地の評価 クローンの ELISA アッセイ開発 アフィニティ/on-rate/ Fc 改変/ヒト化 ‒ FcRn 結合 FcRn 結合活性 off-rate ランキング エピトープビニング エピトープマッピング 結合カイネティクス 図 1: バイオ医薬品の研究開発プロセスにおけるOctet®シリーズによるカイネティクスアプリケーション 3
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Dip and Read バイオセンサー サンプルはアッセイごとに消費されたり廃棄したりする 必要がなく、アッセイが終了したら回収することができ Octet®システムで使用されるバイオセンサーはシングル ます。マイクロプレートに入ったサンプル間を一連のバ ユースで使い捨ても可能です。光ファイバー製のバイオ イオセンサーがパラレルで移動するため、フロー方式の センサーの各先端は、独自の生体適合性マトリックスで SPRシステムと比べて測定時間が大幅に短縮されます。 コーティングされており、先端表面への非特異的結合が マイクロ流路を使用していないため、システム部品のコ 最小限に抑えられています。またバイオセンサーには幅 ンタミネーションが問題になることはなく、未精製のク 広いラインナップの固相化分子があり、マトリックスは ルードサンプルを用いても詰まりを起こしません。シス サンプル中の標的分子に極めて特異的に結合する固相化 テムのメンテナンス、脱着プロトコール、バッファーの 分子でそれぞれコーティングされています。カイネティ 脱気、流路の詰まりの除去およびフラッシングも必要あ クスアプリケーションで利用可能なバイオセンサー固相 りません。ラベルフリー解析ではコストが問題になるこ 化分子を表 2に示します。 ともよくありますが、Octet®プラットフォームのシング ルユースのバイオセンサーはディスポーザブルで費用対 Octet®シリーズはDip and Read方式のバイオセンサーと 効果が高く、消耗品が高価で製造も難しいSPRや他のプ 組み合わせることで、他のラベルフリー技術を上回る利 ラットフォームよりも優れています。バイオセンサーは 点をもたらします。サンプル容量が一つのポイントで シングルユースで廃棄することもできますが、多くの場 す。マイクロプレート方式では40 µLのわずかなサンプ 合は再生利用が可能であるため、アッセイごとにかかる ル容量で、高度なパラレル測定が可能になります。 コストはさらに節減されます。 表 1: Octet® システムの仕様 Octet® Octet® Octet® Octet® Octet® R2 System R4 System R8 System RED384 System HTX System パフォーマンス 最大同時測定数 2 4 8 16 96 検出可能分子量 >150 Da >150 Da >150 Da >150 Da >150 Da 結合速度定数 (ka) レンジ (M-1 s-1 ) 101 – 107 101 – 107 101 – 107 101 – 107 101 – 107 解離速度定数 (kd) レンジ (s-1 ) 10-6 – 10-1 10-6 – 10-1 10-6 – 10-1 10-6 – 10-1 10-6 – 10-1 アフィニティ (KD) レンジ 1 mM – 10 pM 1 mM – 10 pM 1 mM – 10 pM 1 mM – 10 pM 1 mM – 10 pM 蒸発コントロール No No Yes No No 必要サンプル量 200 μL 200 μL 200 μL 40 μL* 40 μL* サンプリングレート (Hz) 2, 5, 10 2, 5, 10 2, 5, 10 2, 5, 10 0.3, 0.6, 2, 5, 10 仕様 分光器数 2 4 8 16 16 温度制御 15 – 40°C 15 – 40°C 15 – 40°C 室温 +4 – 40°C 室温 +4 – 40°C マイクロプレート数 1 (96-well) 1 (96-well) 1 (96-well) 2 (96- or 384-well) 2 (96- or 384-well) ロボット適応性 No No No Yes Yes 寸法 サイズ H × W × D (cm) 49 × 56 × 46 49 × 56 × 46 49 × 56 × 46 77 × 80 × 80 77 × 80 × 80 重量 (kg) 32.7 32.7 32.7 68.2 90.7 * 384-well tilted-bottom microplate (Sartorius, 品番: 18-5080) 使用時 4
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表 2: Octet® システムを用いたカイネティクスアッセイで使用可能なバイオセンサー バイオセンサー 説明 Anti-hIgG Fc Capture (AHC) ヒトFc領域に結合することにより、ヒトIgGまたは他のヒトFc領域を含むタンパク質を固相化します。カイネ ティクス解析アプリケーションには、タンパク質や抗体のカイネティクススクリーニング、アフィニティ特性 解析(ka, kd, KD)、エピトープビニングおよびヒット化合物バリデーションが含まれます。 Anti-hIgG Fc Capture ヒトIgGまたはヒトFc融合タンパク質の定量測定に使用できます。 for Quantitation (AHQ) Anti-Mouse Fc Capture (AMC) IgG1、IgG2a、IgG2bのFc領域に結合し、キャプチャー法による固相化を行います。アプリケーションには抗 体-抗原相互作用のカイネティクス解析(ka, kd, KD)およびoff-rateスクリーニングが含まれます。IgG3はケー スバイケースで評価する必要があります。 Anti-Mouse Fc Capture マウスIgGまたはマウスF(ab ’)2の定量測定に使用できます。 for Quantitation (AMQ) Anti-Human Fab-CH1 2nd ヒトIgGのCH1領域に特異的に結合することで、遊離L鎖を認識することなく、ヒトFab、F(ab')2およびIgGの generation (FAB2G) (FAB2) 定量測定とカイネティクス特性解析を行うことができます。 Protein A (ProA) 様々な動物種のIgGをキャプチャーおよび定量測定するためのProtein Aがコーティングされたバイオセンサーです。 Protein G (ProG) 様々な動物種のIgGをキャプチャーおよび定量測定するためのProtein Gがコーティングされたバイオセンサーです。 Portein L (ProL) 様々な動物種のIgGをキャプチャーおよび定量測定するためのProtein Lがコーティングされたバイオセンサーです。 Streptavidin (SA) 高い結合キャパシティを示すストレプトアビジンがコーティングされたバイオセンサーです。ビオチン化抗 体、タンパク質、および核酸を固相化して安定な表面を形成します。カイネティクス解析アプリケーションに は、タンパク質や抗体のカイネティクススクリーニング、アフィニティ特性解析(ka, kd, KD)、エピトープビ ニングおよびヒット化合物バリデーションが含まれます。 High Precision ビオチン化分子を固相化するためのストレプトアビジンがコーティングされたバイオセンサーです。厳密な Streptavidin (SAX) ロット内管理により、通常のストレプトアビジンセンサーと比較して、高精度の定量測定およびカイネティク ス測定に使用することができます。 High Precision ストレプトアビジンがコーティングされたバイオセンサーです。ビオチン-リガンド固相化の再現性をロット Streptavidin 2.0 (SAX2) 間でも確認しています。ビオチン化リガンドのローディング量のばらつきが一定値以下となるようにQCテス ト済みで、サンプルのばらつきを確実に検出します。製品リリースQC、製造における活性アッセイ、その他 の非常に正確な定量およびカイネティクスアプリケーションに適しています。 Super Streptavidin (SSA) ストレプトアビジンがコーティングされたバイオセンサーで、きわめて高密度のビオチン結合部位を有しま す。ビオチン化タンパク質、ペプチド、核酸および低分子を固相化して安定な表面を形成します。カイネティ クス解析アプリケーションには、抗体、タンパク質、ペプチド、低分子のカイネティクススクリーニング、ア フィニティ特性解析(ka, kd, KD)、エピトープビニングおよびヒット化合物バリデーションが含まれます。 Anti-GST (GST) 高親和性の抗GST抗体により、GSTタグ付生体分子を直接、迅速に定量可能です。また、GSTタグ付生体分子 を簡易かつ確実にキャプチャーして迅速にカイネティクス解析を行うことができます。 Anti-Penta HIS (HIS1K) ターゲットアナライトのカイネティクス解析に使用するためにHisタグ付タンパク質をキャプチャーするバイ オセンサーです。 バッファー、培地、または希釈ライセート中のHisタグ付タンパク質の定量にも使用できま す。センサーはQiagen社のPenta-His抗体でプレコートされています。 Anti-HIS (HIS2) クルードマトリックス、バッファー、またはカラム溶出液中のHISタグ付きタンパク質の定量測定に使用でき ます。 センサーはMBS社の抗His抗体でプレコートされています。 Ni-NTA (Ni-NTA) ニッケルが固相化されたTris-NTAが、HISタグ付組み換えタンパク質と強力に結合して、カイネティクス測定 および定量測定を可能にします。 Amine Reactive カルボン酸塩で官能化された第二世代のセンサー表面はEDC/s-NHSによるアミド結合によってタンパク質と Second Generation (AR2G) の共有結合を可能にします。この第二世代のセンサー表面は、大半のタンパク質に対して、従来のARバイオ センサーよりもローディング密度が向上し、ローディング条件が堅牢になり、非特異的結合が抑えられてい ます。カイネティクス解析アプリケーションには、タンパク質や抗体のカイネティクススクリーニング、ア フィニティ特性解析(ka, kd, KD)およびヒット化合物バリデーションが含まれます。使用にはAR2Gアッセイ キットが別途必要になります(品番:18-5095)。 Aminopropylsilane (APS) 疎水性部分を介してタンパク質および膜画分を吸着します。カイネティクスアプリケーションには、カイネ ティクススクリーニングおよびアフィニティ特性解析(ka, kd, KD)のための疎水性成分を介したタンパク質お よび膜画分の吸着が含まれます。 5
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バイオレイヤー干渉法 ラベルフリー解析の利点 BLIは光の波形間の干渉パターンを測定する光学的な解析 Octet®システムとBLIを用いたカイネティクス特性解析 法です。白色光が光ファイバー製のバイオセンサーを は、分子間相互作用の解析において、従来の非効率で有 通って下降し、ファイバー先端表面の薄いレイヤーで区 益ではないELISAやTR-FRETなどのラベルに依存する手 切られた2つの境界面、すなわち先端表面の生体適合性レ 法を補完し、それらに置き換わる可能性があります。生 イヤーと内部リファレンスレイヤーに向かって投射され 体分子の標識は時間と材料を浪費するばかりか、タンパ ます(図 2)。光はこの2つのレイヤーのいずれからも反 ク質の活性変化や結合部位が立体障害を受けるといっ 射され、反射光がスペクトラム内の種々の波長で増幅ま た、望ましくない結果をもたらすおそれがあります。リ たは減衰の干渉をもたらします。この干渉パターンを アルタイムのラベルフリー解析によって、従来の手法に CCDアレイ検出器が検出します。 伴うアーティファクトや問題を起こさずに、複合体形成 のカイネティクス、アフィニティおよび活性を、迅速、 高感度、正確に測定することができます。 従来のエンドポイントアッセイとは異なり、BLIでは分子 間の相互作用機序に関する詳細な情報を引き出すことが できます。平衡値解析ではアフィニティ定数(KD)を決 定することができますが、結合速度に関する情報が得ら オプティカルレイヤー れません。IC50値は至適条件下ではKDの近似値となるこ BLI バイオセンサー 生体適合性 先端表面 マトリックス とがありますが、on-rateとoff-rateが異なる組み合わせで は、実際の結合プロファイルが大幅に異なる場合であっ 固相化分子 ても、同じ解離定数が算出されることがあります。図 4 は同じアフィニティ定数(KD)をもつ2つの結合ペアのセ 図 2: Dip and Read方式のバイオセンサー。先端に位置する以下の2つの ンサーグラムですが、相互作用Aの結合プロファイルは、 光学的境界面を図示します: 内部リファレンスレイヤー(オプティカル レイヤー)と、リガンド分子が固相化されるセンサー表面の生体適合性 相互作用Bのプロファイルと比べてon-rateおよびoff-rate マトリックス。 が大幅に遅いことがわかります。この例は、リアルタイ ムの結合アッセイでは、アフィニティと結合速度の双方 のデータが提供されることで、相互作用をより完全に把 バイオセンサーの先端を96ウェルマイクロプレート内の 握することができることを示します。また、リアルタイ サンプル中に浸すと、標的分子がセンサーの二次元コー ムのカイネティクス解析では、結合が単純な1:1の化学量 ティング表面に結合します。この結合によって分子膜が 論比を示すのか、あるいはより複雑な相互作用が起こっ 形成され、センサー表面に結合する標的分子が増えるほ ているのかどうかにも光を当てることができます。結合 ど、その厚みが増します。センサー先端の厚みが増すに 相互作用の性質に関する情報を得ることで、アフィニ つれ、2つの反射レイヤーの有効距離が増加し、反射光の ティは高くても結合挙動が最適とはいえないタンパク質 干渉パターンにシフトが生じます(図 3)。したがっ を、開発プロセスの初期にリード化合物の候補から迅速 て、反射光のスペクトルパターンは、先述の分子膜の光 に除外することができます。そのうえ、ELISAや免疫沈降 学的厚み、すなわちバイオセンサー表面に結合した分子 法といった手法では洗浄が必要になり、微弱なバイン 数に応じて変化します。検出器はこのスペクトルのシフ ダーを喪失するおそれがあるのに対し、BLIでは結合ア トをモニターし、波長の変化(nm単位のシフト)として フィニティをmM範囲で高感度に測定することができま センサーグラムに反映します。リアルタイムで干渉パ す。 ターンをモニタリングすることで、分子間相互作用のカ イネティクスデータが得られます。 A 1.0 白色光 BLI シグナルプロセシング 投射 0.8 0.6 生体適合性 マトリックス表面 0.4 結合分子 0.2 B 非結合分子 Wavelength (nm) Time (sec) 図 3: BLIは2つの表面から反射される白色光の干渉パターンを解析する 図 4: 解離定数は同じであるが、結合プロファイルが異なる2つの相互 光学的解析法です。バイオセンサーに結合する分子の数が変化するこ 作用のセンサーグラム。 とで、リアルタイムで測定される干渉パターンにシフトが生じます。 6 Relative Intensity Binding (nm)
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結合カイネティクス—基本原理 リガンドを固相化した後、バイオセンサーをバッファー 溶液に浸し、アッセイのドリフトを評価し、リガンドの カイネティクス解析を用いて、ある相互作用のアフィニ ローディング量を決定します。ベースラインステップの ティを決定し、可逆性の非共有結合による結合速度定数 後、リガンドの結合パートナーであるアナライトを含む 溶液中にバイオセンサーを浸します(アソシエーショ および解離速度定数を測定します。非共有結合は、一般 ン)。このステップでアナライトと固相化されたリガン にイオン間/静電相互作用、水素結合、ファンデルワー ドとの間の結合相互作用が測定されます。アナライトの ルス力および疎水性作用からなります。抗体および他の 結合後、アナライトを含まないバッファー溶液中にバイ タンパク質による生体分子の特異的認識および結合は、 オセンサーを浸すと、結合したアナライトはリガンドか 生物学の多くのプロセスの基礎をなすものです。 ら離れることができます(ディソシエーション)。いく つかの濃度のアナライトで同時に解析を実施します 結合カイネティクスの実験 (Octet® R8システムでは最大8チャネル、Octet® RED384システムでは最大16チャネル、Octet® HTXシス バイオセンサーを用いた解析では、相互作用物質の一方 テムでは最大96チャネルでの同時測定が可能です)。次 がバイオセンサー表面に固相化され(リガンド)、もう に、試験対象の各アナライトに対して、新しくもしくは 一方は溶液中に留まります(アナライト)。Octet®プ 再生したバイオセンサーを用いて一連の解析ステップを ラットフォームでDip and Read方式のバイオセンサーを 繰り返します。結合反応はすべて測定され、リアルタイ 用いた典型的な結合カイネティクス実験を図 5Aに示し ムでセンサーグラムに反映されます。単一のサンプルの ます。測定はアッセイバッファーを用いた初期ベースラ 典型的なセンサーグラムを図 5Bに示します。 インまたは平衡化ステップから開始されます。次に、抗 体などのリガンド分子を直接的な固相化法またはキャプ チャー法によってバイオセンサー表面に固相化します (ローディング)。 A ベースライン ローディング ベースライン 結合 解離 ストレプトアビジン ビオチン 抗体 アナライト B ローディング 結合 解離 3.0 2.5 Baseline Loading Baseline Association Dissociation 2.0 1.5 1.0 0.5 0 ベースライン Streptavidin Biotin 0 Antibody 500 Analyte 1000 1500 Time (sec) 図 5: ストレプトアビジンバイオセンサーを用いた典型的な結合カイネティクス実験。A) バッファー中で1回目のベースラインステップを 実施した後、ビオチン化したリガンドを含む溶液中にバイオセンサーを浸す。この例では、リガンド分子は抗体。2回目のベースライン ステップの後、溶液中のアナライト分子の結合および解離を行う。B) カイネティクス測定の各ステップにおけるリアルタイムのデータ取 得状況を示すセンサーグラムの生データ。 7 Binding (nm)
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用語の定義 アナライトを含まないバッファー溶液にバイオセンサー を浸すと、複合体は、解離速度定数およびリガンド―ア 「カイネティクス」とは、ある相互作用がどれだけすば ナライト複合体濃度に応じた速度で解離し始めます。解 やく起こるかを指します。「結合(アソシエーショ 離へのフィットに使用するのは以下の式です。 ン)」は一つの分子がどれだけすばやくもう一つの分子 に結合するかを測定するもので、「解離(ディソシエー Y=Y k 0+Ae– d*t ション)」はある複合体がどれだけすばやく解離するか を測定するものです。一定時間の後、平衡状態が成立 式中のY0は解離開始時の結合量、kdは解離速度定数を示 し、その際には複合体は解離するのと同じ速度で結合す します。この式は、バイオセンサー表面に結合した複合 るので、結合分子と未結合分子の数は一定のままです。 体濃度の低下に従い、解離速度が経時的に下がることを 「アフィニティ」はその複合体がどれだけ強固か、具体 反映します。「kd」は複合体の安定性、すなわち1秒あた 的には、結合の後、平衡状態に達した時点でどれだけの り解離する複合体の割合を評価するもので、sec-1 の単位 複合体が形成されているかを測定するものです。この2つ で表されます。kobsおよびkdを示す上の式を解くことによ の生体分子間の相互作用を記述するのに使用される最も り、結合速度定数kaを次の式で算出することができます: シンプルなモデルは下記の式で示されます: k kobs – kd a k A + B AB a= [Analyte] kd 式中のAはバイオセンサー表面に固相化されたリガンド分 結合速度定数(ka)は、AおよびBの1モル濃度溶液で1秒 子を、Bは溶液中のアナライトを示します。この結合モデ ごとに形成されるAB複合体の数を示します。「ka」は ルは、1個のリガンド分子が1個のアナライト分子と相互作 M-1sec-1で表されます。 用する単純な1:1の相互作用を前提にしており、すべての 結合部位において結合は独立して、かつ同じ強度で起こ 「KD」はアフィニティ定数、すなわち平衡状態の解離速 ります。このケースにおける複合体形成は、疑一次反応 度定数で、リガンドが相手のアナライトにどれだけしっ カイネティクスに従います。複合体の形成速度(AB) かりと結合しているかを測定するものです。これはoff- は、結合速度定数および未結合のリガンドとアナライト rateに対するon-rateの比を示し、kaおよびkdを用いて次 の濃度から求められます。結合フェーズのフィットに使 のように算出することができます: 用する方程式は、アナライトの結合が起こるにつれて、 [A].[B] k 未反応のリガンド分子濃度が低下することで結合速度が KD = [ A B ] = d k 変化する、微分方程式の積分です: a Y=Y 「KD」はモル(M)で表されます。「KD」は、平衡状態 0+A(1–e–kobs*t) でリガンド結合部位の50%が占拠されるアナライト濃 度、あるいはアナライトが結合したリガンド分子の数と 式中のYは結合量、Y0は結合フェーズ開始時の結合量、A は漸近線、tは時間を示します。k アナライトが結合していないリガンド分子の数が等しく obsは見かけの反応速度定 数です。 なる濃度に相当します。「K AB複合体が形成されるのと同時に、複合体はA D」とアフィニティは反比例 関係にあります。解離定数が小さいほど、相互作用が強 とBとに解離し戻ります。「kobs」は、2つの結合パート ナーの結合および解離を複合した全体的な速度を反映し 固である、すなわちリガンドに対するアナライトのア ます。 フィニティが高いということになります。 8
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「KD」および「ka」を算出するには、アナライトの濃度 が既知でなければなりません。ただし、「k る d」はアナライ >10X KDで達す 飽和状態 (Rmax) ト濃度に依存しません。「kd」が大きいほど、解離は迅速 100 に起こります。kd値と結合複合体の半減期との関係を表 3 に示します。 75 濃度とKDが等しい場合、 50%の飽和状態で 平衡状態 (R らい存在するかが既知でなく eq)が起こる 「kd」はアナライトがどれく 50 ても決定することができるため、複合体マトリックスにお ける未精製のバインダーのランキングといったスクリーニ 25 ングへの応用において有用です。 表 3: off-rate(kd)とリガンド-アナライト複合体の半減期との関係 0 Time (sec) kd 解離率/秒 50%の解離に至るまでの時間 図 6: 理想的な相互作用におけるReq, RmaxおよびKDの関係を示す図。一番 1 100 0.69 秒 上の線は10X KDで通常得られるアッセイの飽和を示します。平衡状態を 示す線は、これ以上アナライト濃度が上昇しても増加せずに重なり始め 0.1 10 6.93 秒 ます。利用可能なリガンド分子が全て結合されてしまったためです。 1 x 10-2 1 69.3 秒 KDは50%の飽和度で平衡状態に達する濃度です。 1 x 10-3 0.1 11.55 分 1 x 10-4 0.01 1.93 時間 1 x 10-5 0.001 19.25 時間 結合カイネティクス解析の開発 1 x 10-6 0.0001 8 日 BLIおよびOctet®プラットフォームを用いたカイネティク ス解析の準備は簡単かつ単純です。ただし、バイオセン Req, Rmax および K 適切に選択し、最適化された実験条件を D の関係 サー化学表面を 用いることが、正確なアフィニティおよび解離定数を求 アナライトの結合時間を十分に長くとると、最終的には めるのに必須です。適切な測定手法と最適化ならびに高 相互作用における結合と解離が等しくなる点に到達しま 品質で高活性の試薬の使用は、結合カイネティクス実験 す。この時点で、曲線は平坦となり、平衡結合シグナル で正確なデータを得るためにきわめて重要です。不安定 (R 性確認が不 eq)に達します。バイオセンサー表面のリガンド量は または不活性のタンパク質を使用したり、特 一定であるため、そこに結合できるアナライトの最大量 十分な試薬を用いたり、バッファーの条件が不適切で が存在します。最大限可能なアナライト結合量に達する あったりすれば、結果に悪影響が生じます。高活性で安 と、それは最大結合シグナル(Rmax)とみなされます。 定したリガンド表面を用いて相互作用解析を行えば、堅 R に得られます。以下に、様々な方式で maxに対するReq値は、KDに対するアナライト濃度に 牢なデータが容易 よって左右されます。例えば、アナライト濃度がK と等 カイネティクス解析法を開発する場合の注意事項と、有 D しければ、Rmaxの50%でReqが起こります。アナライト濃 効な解析法を設計し、各ステップを最適化し、非特異的 度がKDの10X 以上であれば、通常はR 合に起因するアーティファクトを最小限に抑えるため maxに達します 結 (図 6)。 の推奨事項を述べます。 9 Percentage of Rmax
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バイオセンサーの正しい選択 ビオチン化は実施が簡易で、タンパク質を傷めにくく、 中性のpHで実施されます。標的タンパク質ごとに反応液 生体分子間相互作用の解析は、バイオセンサー表面にリ に添加するビオチン分子数を調整することで、反応を容 ガンドを固相化することから始まります。バイオセン 易に制御することができ、過剰修飾による失活を予防で サーは、ストレプトアビジンやアミン反応性物質などの きます。特にペプチドなどの低分子を固相化する場合に 標準的な結合剤とともにすぐに使えるように提供される は、ビオチンタグ内に長鎖のリンカーを組み込み、立体 ため、タンパク質を不可逆的に結合させて、カスタマイ 効果を最小限に抑える必要があります。アミンカップリ ズされたバイオセンサー表面を作製することができま ング法(amine reactive process)には、固相化のたびに す。あるいは、anti-mouse IgG Fc captureやNi-NTAと 新しく試薬を調製しなければならないステップが複数含 いった捕捉分子は、未精製サンプルからでも抗体や組み まれるのに対し、ビオチン化リガンドは複数回実験での 換えタンパク質をきわめて特異的にキャプチャーするた 使用のためにバッチで調製ができ保存が可能です。 めの手段となります。バイオセンサーの選択にあたって 最もよく考えるべきは、固相化されるリガンドの構造お よび活性を最もよく維持できるフォーマットを選ぶこと キャプチャー法 です。 部位特異的なバイオセンサー(キャプチャー法によるバ Amine Reactive バイオセンサー(AR2G)は遊離リジン イオセンサー)を用いることでセンサー表面のリガンド 残基との共有結合、Streptavidinバイオセンサーはビオチ の活性を最大化することができます。キャプチャーバイ ンとの相互作用を介して、標的タンパク質をバイオセン オセンサーは、既知のモチーフやタグを介してタンパク サーに直接固相化することができます。直接的な固相化 質リガンドに結合する高親和性キャプチャー抗体または により、バイオセンサーに分子は安定かつ不可逆的に結 タンパク質で事前に固相化されており、表面での好まし 合され、バイオセンサーからの解離はごくわずかとなり い配向および均一性の改善を可能にします。例えば、抗 ます。この手法は大半のタンパク質に適用することがで ヒトおよび抗マウスIgG Fcキャプチャーバイオセンサー き、事実上あらゆるタンパク質を用いて「カスタム」な の表面は、Fc領域を介して抗体リガンドを結合させるこ バイオセンサー表面を作製することができ、通常は再生 とができ、そのキャプチャーされた抗体はFv領域にアナ しても最初に固相化されたリガンド量を再現することが ライトが容易に結合できるように配向されます。 Octet® 可能です。この手法にはいくつか制約があります。直接 プラットフォームでは、複数の配向型キャプチャーバイ 的な固相化なので精製タンパク質を用意して、バイオセ オセンサーを利用することができます(表 2参照)。こ ンサー表面またはビオチンに対して直接、結合をさせる れらの相互作用は特異度が高いため、培地などのクルー 必要があります。特にバイオセンサー表面が過度に飽和 ドサンプルからも、精製を経ずに、リガンドとなるタン した場合、共有結合または立体障害によるタンパク質の パク質を直接キャプチャーすることが可能です。キャプ 失活が起こるおそれがあります。Amine Reactiveバイオ チャーバイオセンサーではアッセイの最適化がわずかし センサーを用いて直接結合を行う場合、バイオセンサー か必要なく、一般的に再生するとキャプチャー前のバイ 表面が活性化され、タンパク質は低pH(通常はpH5.5) オセンサー表面を再現することができます。キャプ でその活性化した表面に曝されます。この種の反応を制 チャーバイオセンサーのなかには抗体を用いたものがい 御し、タンパク質がセンサー表面に過度に固相化されな くつかあり、キャプチャーされたリガンドの一定レベル いようにすることは困難です。センサー表面に結合する の解離が認められることがあります。正確なカイネティ リジンが多すぎるか、アナライトの結合部位の近傍に遊 クス定数を算出するには、アナライトを含まないリファ 離リジンが結合する場合、そのタンパク質は失活するお レンスサンプルを用いて、このバックグラウンドでの解 それがあります。 離を差し引く必要があります(リファレンスサブストラ クションに関する情報は、データ解析の章を参照)。一 般的なルールとして、アナライトの解離速度がバイオセ カイネティクス解析用 ンサーからのリガンドの解離速度よりも5倍以上遅くな ストレプトアビジンバイオセンサー ければ、アッセイは有効とは言えません。 ストレプトアビジンバイオセンサーは、ビオチン化リガ ンドを固相化するために開発されました。ストレプトア アッセイの配向性 ビジンとビオチン間の相互作用は非共有結合ではありま すが、迅速かつ安定で基本的には不可逆的です。共有結 結合ペアのどちらを固相化し、どちらを溶液中に留める 合によるアミンカップリング法の代替としてストレプト かを決定するには、いくつかの事項を考慮しなければな アビジンバイオセンサーを用いることで、いくつかの意 りません。配向性を選択する場合、タンパク質の安定 義のある利点が得られます。ビオチン-ストレプトアビジ 性、サイズおよび結合価が主要な考慮事項となります。 ンカップリング法は、共有結合と同等の安定した結合を 感受性の高いタンパク質は、アミンカップリング法によ バイオセンサー表面に作りだすことが可能で、最適化も るセンサー表面への固相化で用いられる比較的厳しい条 最小限で済みます。 件に耐えられない場合があります。 10
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こうした場合は、感受性の低いバインダーのほうの固相 化をお勧めします。あるいは、ストレプトアビジンなど の別のバイオセンサーを選択することもできます。BLIで は低分子ほど生成されるシグナルが低いため、いずれの バイオセンサー 表面 分子を固相化するかを決定する際には、機器の感度も考 慮に入れなければなりません(Octet®シリーズの章を参 照)。ペプチドなどの低分子のほうをバイオセンサーに 固相化された 固相化し、分子の大きなバインダーを溶液中に留めるこ リガンド とで、アッセイシグナルを高めることができます。この 二価性のアナライト 手法を選択する場合は、キャプチャーする分子を固相化 する前にリンカーを付加すれば、立体障害を未然に防 図 7: カイネティクス解析におけるアビディティ効果。固相化されたリガ ぎ、そのパートナーとなるアナライトが結合部位に結合 ンドに溶液中の二価性のアナライトを結合させると、2個のリガンド分 しやすくなります。結合パートナーに対する分子の「ア 子に同時に結合してしまうおそれがある。これにより見かけのoff rateが 低下することになる。アッセイフォーマットの方向性を反転させるか、 フィニティ」とは、1個のリガンド結合部位と、1個のアナ バイオセンサー表面のリガンド密度を下げることによってこうした効果 ライト結合部位との間の非共有結合による結合の強度と を予防できる。 定義されるのに対し、ある分子の「アビディティ」は2つ の分子間で起こりうるすべての結合を総合した強度に よって決定されます。例えば、抗体は二価で、2つ以上の EZ-Link NHS-PEG4-Biotin (Thermo Scientific, part 抗原エピトープに結合することができます。アビディ no. 21329) , NHS-PEG12-Biotin (Thermo Scientific, part ティはKDの算出全体に影響を及ぼすため、カイネティク no. 21338) または Sulfo-NHS-LC-LC-Biotin (Thermo ス実験においては重要な検討事項となります。抗体など Scientific, part no. 21338) などの試薬をお勧めします。ペ の二価性分子はできるだけバイオセンサー表面に固相化 プチドは長いリンカーを組み込んだビオチンと結合させ して、アビディティ効果を回避する必要があります。二 ることができます。ビオチン試薬とリガンドの最適なモ 価抗体を溶液側にすると、センサー表面の抗原分子2個と ル結合比(MCR)は1:1です。過剰なビオチン化は、バイ 相互作用してしまうおそれがあります(図 7)。 オセンサーのローディング量を改善しないばかりか、ビ オチンが結合部位に取り込まれる確率が高まるため、タ アビディティ効果により理想的でない結合プロファイル ンパク質の失活が起こるおそれがあります。ストックタ が生じ、人為的に高いアフィニティが測定されるおそれ ンパク質の濃度が500 µg/mL未満であれば、より高い があります。配向性やアッセイ方式が何にせよ、いかな MCRが必要になり、このケースでは3:1または5:1を使用す るシステムでも信頼性の高いカイネティクスデータを得 ることができます。ビオチン化後、取り込まれていない るには、適切なアッセイ開発が必要となります。 余分なビオチンはストレプトアビジンバイオセンサーの 表面で結合部位をリガンドと競合するため、反応液を脱 塩してこれを取り除く必要があります。ゲル濾過スピン リガンドの固相化: カラムは迅速かつ効率的に脱塩を行える選択肢のひとつ Streptavidin (SA) バイオセンサーへの固相化、 です。あるいは、適切な分子量カットオフ値のメンブレ タンパク質のビオチン化 ンまたはカートリッジを用いたPBS緩衝液による透析法 により、高感受性タンパク質にも影響を及ぼすことなく ストレプトアビジンバイオセンサーにリガンドを固相化 バッファー交換を行うことができます(抗体にはカット するためには、まずビオチン化を行う必要があります。 オフ値100 kDa MWを使用)。タンパク質をビオチン化 注意深く選択したリガンド上の位置に1個のストレプトア し、脱塩して中性pHのバッファーにしたら、リガンドの ビジン結合部位を設けるというin vivo 部位特異的ビオチ ローディングに関する最適化実験を実施し、最適なロー ン化法が推奨されます。ただし、実験室でビオチン化を ディング濃度を決定することができます。ストレプトア 実施する場合は、以下の推奨事項に従う必要がありま ビジンバイオセンサーに使用するリガンドタンパク質の す。ビオチン化するタンパク質は、トリスまたはグリシ ビオチン化に関する詳細なプロトコールは、テクニカル ンなどの一級アミンを含まないバッファー中で、担体タ ノート28 『Biotinylation of Protein for Immobilization ンパク質を含まない状態に精製する必要があります。 onto Streptavidin Biosensors』に記載されています。 種々の官能基を標的とする様々なビオチン化試薬が市販 されており、ビオチンを抗体、タンパク質またはペプチ ドに容易かつ効率的に結合させることが可能です。最も Amine Reactive 2nd Generation (AR2G) バイオ 一般的に使用されている試薬は、タンパク質またはペプ センサーへの固相化 チド中の遊離リジン残基のアミノ基などの一級アミンを 標的とするNHS-エステルビオチンです。種々の長さのス 標準的なEDCを触媒とするアミド結合を介してAR2Gバイ オセンサーへタンパク質を固相化し、タンパク質上の反 ペーサーアームまたはリンカーがあり、立体障害を抑制 応性アミンとバイオセンサー表面のカルボキシル末端を し、効率的にビオチン化分子をキャプチャーするために 共有結合させます。 必要です。 11
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この固相化は以下の一連のステップで行われます。 リガンドローディング密度の最適化 1)まず、バイオセンサー表面のカルボン酸基をEDC(1-   エチル-3-[3-ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド StreptavidinまたはAmine Reactiveバイオセンサー表面   塩酸塩)およびsulfo-NHS(N-ヒドロキシスルホスク に、固相化するリガンドを最適な密度でローディングする   シンイミド)と反応させて活性化し、反応性の高い  ことは、質の高いカイネティクスデータを得るために不可   NHSエステルを生成します。 欠です。得られるシグナルを最大化するために大量のリガ ンドをただローディングすることは推奨されません。バイ 2)このエステルが、結合ステップにおいてリガンド生体 オセンサーに過剰なリガンドが結合すると、センサー表面   分子の一級アミンと迅速に反応し、極めて安定なアミ で密集や立体障害、場合によっては凝集が生じて、データ   ド結合を形成します。 のアーティファクトにつながることがあります。バイオセ 3)エタノールアミンを用いて余剰のsulfo-NHSエステル ンサーの過飽和は、アナライト濃度が高いときには弱い非   の反応を停止します(図 8)。 特異的相互作用が起こりやすくなり、アナライト濃度が低 いときにはアナライトの「ウォーキング」または「リバイ バイオセンサー表面でリガンドを事前濃縮しておくこと ンディング」現象が起こりやすくなります。こうしたアー は、効率的に固相化を行い、カイネティクス解析で最適 ティファクトは観察される結合カイネティクスに深刻な影 なシグナルノイズ比を得るのに不可欠です。事前濃縮で 響をもたらすおそれがあります。一方、十分量のリガンド 静電引力によってリガンドをセンサー表面上で濃縮して を固相化しなければ、アナライトの結合ステップにおける から共有結合を行います。こうした静電相互作用を起こ シグナルが低下しすぎて検出できなくなります。カイネ すには、結合用バッファーのpHが、バイオセンサー表面 ティクス解析におけるローディングでは、迅速にリガンド のpKaよりも高く、かつリガンドの等電点よりはわずかに を固相化するよりも、時間をかけてゆっくりとローディン 低くなければなりません。またバッファーのイオン強度 グを行うことが推奨されます。ローディングにおける結合 は低くなければなりません。多くのタンパク質では、pH 曲線は、シグナルが段階的に上昇していくのが理想的で、 4.5~5の10 mM酢酸ナトリウムバッファーで静電相互作 飽和状態まで結合させてはいけません。シグナルが初期か 用は起こりますが、固相化を行う最適なバッファーを特 ら急上昇すると、不規則なローディングや解析における 定するには最適化のステップ、すなわちpH探索(pH アーティファクトにつながることがあります。固相化にお scouting)を行うことを推奨します。探索にあたって けるリガンド分子の濃度は通常50~100 nMです。リガン は、pHが0.5または1単位で異なる3~4種類のバッファー ド濃度が例えば50 nM未満と低ければ、十分な固相化を得 を選択します(例: pH 4, 5, 6の10 mM酢酸ナトリウム)。 るためにローディング時間をより長く取る必要がありま 固相化プロトコール、およびアナライトの結合ステップ す。リガンド溶液中で一晩、4℃でインキュベーションを を高濃度のアナライト(10~20X KD)を用いて実施しま 行うこともできます。希釈上清や細胞培養サンプルからリ す。アッセイのアナライト結合ステップで最も高シグナ ガンド分子をキャプチャーするためにキャプチャーバイオ ルを示すバッファー条件を選択してから、ローディング センサーを使用している場合等は、一晩のインキュベー 濃度を最適化します。AR2Gバイオセンサーの固相化に関 ションを行うと成績が大幅に向上します。 する詳細なプロトコールは、テクニカルノート26『Dip and Read Amine Reactive Second-Generation (AR2G) Biosensors』に記載されています。 Immobilized Immobilized AR2G Activated Dissociation AR2G ligand ligand Association Activate with Immobilize (unquenched) Quench with (quenched) EDC/sNHS protein ethanolamine CO2H CO CO2-sNHS CO 2H O H 2H C 2 CO2-sNHS CO2-sNHS CO2-sNHS CO2-sNHS CO2-ETA NH2 図 8: AR2Gバイオセンサーを用いたカイネティクス解析のワークフロー。リガンド分子が、活性化されたアミン反応性のセンサー表面に共有結合し ます。活性化、固相化および反応停止のステップ後、固相化されたリガンドとアナライトの間の結合および解離が測定されます。 12
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固相化するリガンドの理想的な濃度を決定するには実験 アッセイバッファー が必要となります。バイオセンサー上でリガンド濃度を 検討するアッセイ開発ステップが推奨されます。Octet® Octet®システムのDip and Read方式は、SPRなどの別の プラットフォームで使用されるマイクロプレート方式で プラットフォームよりも、アッセイバッファーの選択を は、複数の実験パラメータを同時に迅速に試験すること 自由に行えます。BLI技術に基づくバイオセンサーである ができるため、アッセイ開発にかかる時間を最小限にす ため、バイオセンサー表面に結合するか、表面から解離 ることができます。ローディングの最適化実験にあたっ する分子のみが、反射光の干渉パターンをシフトさせ、 ては、いくつかの濃度のリガンドをバイオセンサーに 反応を生成することができます。未結合の分子や周囲の ローディングします。高濃度のアナライト(10~20X 溶液の屈折率の変化が干渉パターンに影響を及ぼすこと KD)を用いて、各リガンド濃度につき、結合ステップを はないため、細胞のライセートや培養上清といった未精 実施します。アナライトがバイオセンサーに非特異的に 製または複雑なサンプルに加え、グリセロールやDMSO 結合するかどうかを確認するため、リガンドを全くロー などの屈折率が高い成分を含む溶液でも測定を行うこと ディングしないバイオセンサーも、コントロールとして が可能です。 実行します。 Octet®システムでは解析法やサンプルマトリックスの選 解析で選択すべきローディング濃度は、アナライトとの 択を大幅に自由に行えるようになったとはいえ、必ずそ 結合ステップで許容可能なシグナルが得られる最低濃度 の実験系に適切な解析用バッファーを選択し、全解析に であるべきです。図 9Aは、リガンドのローディングの最 おいて同じ溶液を使用するようにしてください。例え 適化実験における生データです。ローディング段階 ば、アナライトが培養液中に存在する場合、同じ培養液 で、100 µg/mLのサンプルでは結合曲線の平坦化がみら を用いてアナライトの希釈液を作製し、この培養液を れるように、高濃度のリガンド群が結合部位を迅速に飽 ベースラインおよび解離ステップにおいても使用するよ 和する一方で、最低濃度のサンプルは飽和に達していま うにしてください。精製サンプルを用いたカイネティク せん。データを加工し、アナライトとの結合ステップを ス解析では、SartoriusのKinetics Buffer(10X 溶液)をサ ベースラインに揃えると(図 9B)、各リガンド濃度に対 ンプルバッファーとして使用することをお勧めします。 するアナライトの相対的な結合シグナルが明確に観察で このバッファーには、ブロッキング剤やウシ血清アルブ きます。10 µg/mL(67 nM)のサンプルが、望ましい ミン(BSA)のほか、センサー表面や他のタンパク質へ ローディング曲線の特徴を示しており(初期の結合が緩 の非特異的結合を阻害するための界面活性剤 やかで、飽和には達さない有意なローディングシグナ (Tween-20)が含まれています。 ル)、結合ステップでも高シグナルがみられます。この 例では、10 µg/mLを最適なローディング濃度として選択 すべきです。 A B 3.0 0.5 25 µg/mL 5 µg/mL 2.5 0.4 50 µg/mL 2.5 µg/mL 100 µg/mL 0 µg/mL 100 µg/mL 5 µg/mL 10 µg/mL 2.0 50 µg/mL 2.5 µg/mL 0.3 25 µg/mL 0 µg/mL 10 µg/mL 1.5 0.2 1.0 0.1 0.5 0 0 0 200 400 600 800 1000 1200 0 100 200 300 400 500 600 Time (sec) Time (sec) 図 9: A) Octet®によるリガンドローディング最適化実験の生センサーグラムデータ。 ビオチン化抗PSA抗体 (Fitzgerald) を、1X Kinetics Buffer (Sartorius) 中でいくつかの濃度でストレプトアビジンバイオセンサーに固相化しました。 ベースラインステップの後、PSA抗原 (Fitzgerald) を 200 nMの濃度で固相化リガンドに結合させ、続いて1X Kinetics Bufferで解離ステップを行いました。 B)ベースラインで揃えたセンサーグラムト レースの結合と解離のステップ。 各リガンド濃度でのアナライトのシグナルの違いは、データを揃えると簡単に観察できます。 13 Binding (nm) Binding (nm)
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A B C 0.5 0.16 0.4 0.4 0.12 0.3 0.3 0.08 0.2 0.2 0.04 0.1 0.1 0 0 0.0 0 150 300 450 600 750 900 0 150 300 450 600 750 900 0 150 300 450 600 750 900 Time (sec) Time (sec) Time (sec) 図 10: 種々の範囲のアナライト濃度を示したセンサーグラムデータ。A)カイネティクス試験で理想的とされるアナライトの濃度範囲。シグナルが アッセイのダイナミックレンジを網羅している。こうしたデータを用いたカーブフィッティングでは信頼性の高いカイネティクス定数が算出され る可能性が高い。B)使用されたアナライト濃度の範囲が高すぎる。おそらくは非特異的結合のため、曲線同士が近く、不均一性を示している。 低域の濃度は示されていないが、最も正確なデータをもたらす可能性があるのはこの範囲。C)ここでのアナライト濃度範囲は低すぎ、マストラ ンスポートリミテーション現象がみられる。 ベースラインステップ ただし、信頼性の高い正確なカイネティクス定数が求め られる場合は、この結合ステップでアナライトの4濃度で アナライトの結合の前に、未結合のリガンドをバイオセ の希釈系列を少なくとも作製するべきです。測定対象と ンサーから除去し、非特異的結合や、凝集またはバッ するアナライトの希釈系列は、2倍または3倍希釈で約10 ファー効果に起因するドリフトを評価するために、ベー ~20*KDから0.1*KDの濃度範囲とすることが理想です。 スラインステップを実施する必要があります。結合およ KDは、バイオセンサー表面の結合部位の50%を占めるの び解離ステップで使用するバッファーと同等のバッ に必要な平衡状態でのアナライト濃度と定義されるた ファー(または培養液)でベースラインステップを実行 め、この濃度範囲によって、上はRmaxの約90%から、下 する必要があります。多くの場合、この溶液はリガンド は検出限界に至るまでが解析対象となることが保証され の固相化ステップで使用する溶液とは異なります。異な ます。いくつかの希釈系列を測定することで、フィッ るバッファー溶液への切替えは、新しいバッファー成分 ティングした結合モデルがKD周辺の濃度に対してどれだ の非特異的結合、屈折率の大幅な変化、またはセンサー け十分に適用されるかを明らかにすることもできます。 表面(特にキャプチャーバイオセンサー)からのリガン 解析対象の相互作用のKDが実験や文献で既知になってい ド分子の解離によるドリフト(平衡化を必要とします) ない場合、最初にアナライト濃度の探索ステップを実施 に起因するマトリックス効果を生じさせることがありま することが推奨されます。この場合は、広い範囲をカ す。シグナルドリフトがわずかで安定したベースライン バーする2~3のアナライト濃度を用いたアッセイを実行 を設けたうえで、結合ステップに移ることが重要です。 しておおよそのKDを求めてから、完全な特性解析(full characterization)を実行します。 ベースラインが不安定である場合、特に解離速度に対す るベースラインのドリフトが大きいか、非線形のドリフ 図 10Aは、最適な濃度範囲のアナライトを用いた実験か トがみられる場合には、解離ステップの測定に影響が生 ら得られたカイネティクスデータです。結合シグナル じます。ベースラインのドリフトは最大結合量(Rmax) が、検出限界の近傍から飽和の直下に至るまでの解析の にも影響を及ぼします。Rmaxはカイネティクスおよび平 ダイナミックレンジをカバーしています。結合曲線間の 衡解析の双方で、速度定数およびKDを算出するうえで 間隔が等しいことは、バイオセンサー上のリガンドがま の係数であるため、結合および解離ステップを通じて、 だアナライトによって飽和していないことを示します。 Rmaxが一定していることが重要です。 カイネティクス解析におけるアナライトの測定濃度が高 すぎる場合、リガンド結合部位が飽和し、非特異的結合 または凝集に起因するアーティファクトや非理想的な挙 結合ステップ 動が生じるおそれがあります(図 10B)。低域のアナラ イト濃度が示されていませんが、それこそが最も正確な 結合ステップ(アソシエーションステップ)では、固相 データが生成される範囲です。ただしアナライト濃度が 化されたリガンドへのアナライトの結合相互作用を測定 低すぎる場合、シグナルが微弱となるか、結合速度が拡 します。用途がスクリーニングまたは定性解析であれ 散律速性となるか、もしくはその両方が起こる場合があ ば、アナライト濃度を一点で結合曲線を測定するだけで ります(図 10C)。 十分なことはよくあります。 14 Binding (nm) Binding (nm) Binding (nm)
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表 4: バイオセンサーからの分子の解離がバッファー溶液の濃度に及ぼす影響。解離ステップで複数のサンプルに対して同じウェルを使用しても、 バイオセンサーから解離する分子の数はごくわずかである。 解離の程度 溶液中に浸される 溶液中に浸される 容量/Well 溶液中の 解離終了時の 分子数 モル数 (µL) モル濃度 (M) pM 100% の解離(相互作用がきわめて微 1.00E+09 1.66E-15 200 8.30E-12 8.3 弱でないかぎりは起こりにくい) 10% の解離 1.00E+08 1.66E-16 200 8.30E-13 0.83 1% の解離 1.00E+07 1.66E-17 200 8.30E-14 0.083 実際にはKD値近傍または未満のアナライト濃度では、結 この2ステップを同じウェル内の同じバッファーで実行す 合シグナルが低値になりすぎることがしばしばありま ることにより、バッファー、ウェルの容量や形状といっ す。例えば、低濃度で高アフィニティのバインダーを測 た僅かな差によるステップアーティファクトが生じるの 定すると、観察される結合速度はきわめて低値になりま を防ぐことができます。これらのアーティファクトは補 す。この低い結合速度では、5~10分の結合ステップで観 正することもできますが、正確なデータ解析のためには 察できる結合量に影響が生じます。KD未満の結合シグナ 最小限に抑えるに越したことはありません。 ルが測定不能である場合は、100X KDから希釈系列を実 行し、2~3倍希釈を用いて、測定可能なシグナルがなく 全サンプルで同一のバッファーマトリックスを使用して なるまで力価を低下させていく手法が最良です。この手 いる限り、アッセイ内の全サンプルについて同じウェル 法を用いれば、広範囲の濃度にわたって試験を行うこと で解離ステップを実行することができます。すなわち、 ができ、この手法で測定されたカイネティクスおよび結 解離用バッファーについては、アナライトサンプルの1プ 合定数は依然として有効です。 レート毎に1列確保しておくだけでよいことになります。 これによって、より多くのサンプルを同時に解析できる 結合ステップは、出力データにある程度のカーブが認め 余地ができ、スループットと効率性が向上します。表 4 られる程度に時間を取って実行する必要がありますが、 に示すとおり、バイオセンサーが飽和し、解離速度が速 曲線が長期間にわたって平坦になるほど長く行ってはい い場合でも、バイオセンサー表面から解離する分子の数 けません。一般的には結合ステップは5~10分とすること はごくわずかであるため、各解離ステップで同じバッ が推奨されます。結合が迅速な分子では、普通、1~2分 ファーウェルにバイオセンサーを浸すことは許容可能で の結合で十分です。ただし遅い反応に対しては、より長 す。しかし、off-rateが極度に速く、分子がバイオセン 時間の結合ステップが必要になることがあります。その サーから完全に解離してしまうケースでは、各サンプル 際、結合ステップを長時間実行して結合曲線を平衡に達 につき別のウェルを用いて解離を行うのが有益である場 することは避けてください。相互作用が弱く検出された 合もあります。 り、非特異的な相互作用が発生する可能性があります。 解離ステップは、結合レスポンスの減少が観察できるよ 複数のアナライト濃度を用いて完全なカイネティクスプ うに、十分に長く時間を取って実行する必要がありま ロファイルを実行する場合は、同じ速度定数の一式を用 す。これは、解離ステップに必要な時間が、相互作用の い、複数のアナライト濃度における結合および解離デー アフィニティによって左右されることを意味します。高 タの双方を同時にフィットさせることで、データを総合 アフィニティの相互作用であれば、解離曲線の測定時間 的に解析します。広範囲のアナライト濃度を総合的に解 が短すぎると解析が難しいことがあります。堅牢な解析 析することで、結合定数の堅牢な解析と正確な推定が可 を行うには、5%以上の複合体が解離するのが理想的です 能になります。正確なアナライト濃度を知ることは、算 (アフィニティと複合体半減期の関係については表 3を 出される定数にもこの値が直接的な影響を及ぼすのでき 参照)。カイネティクス測定にOctet®システムを使用す わめて重要です。 ることの重要なメリットの一つは、長時間の解離ステッ プを実施し、1回ごとに1サンプルではなく、複数のアナラ 解離ステップ イト濃度を同時に解析することができ、実験の実行時間 を大幅に短縮することができる点です。 解離ステップ(ディソシエーションステップ)ではアナ ライトを含まないバッファー溶液にバイオセンサーを浸 非特異的結合 します。アナライトが存在しないため、溶液中の遊離の アナライト濃度はゼロまで急激に低下し、バイオセン 生体分子はバイオセンサー表面自体と相互作用しがちで サー表面の結合した複合体が解離します。解離ステップ す。このため、いかなるアッセイ、いかなる条件におい は全サンプルでベースラインと同じマイクロプレート ても非特異的結合は問題となります。 ウェルにて実行することが推奨されます。 15
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非特異的結合は、細胞培養液の成分、BSAや血清タンパク ただし、再生のための条件の最適化にかかるコストと慎 質、あるいはサンプルまたはバッファー中の荷電種と 重に天秤にかける必要はあります。 いった多くの原因で起こりえます。バイオセンサーの生 体適合性レイヤーによって非特異的結合は大幅に抑制さ カイネティクス解析に応用する場合、ストレプトアビジ れますが、バッファー効果を最小限に抑えるためにはい ンおよびAR2Gバイオセンサーは、再生条件下で結合アナ くつかのポイントを押さえておかなくてはなりません。 ライトを除去することによって、固相化されたリガンド まず、解析を実行する前に、バイオセンサーをあらかじ のレベルまで再生することができます。効率的に再生を め水和しておく必要があります。この水和を、対応する 行うには、リガンド活性に影響を及ぼさずに結合アナラ サンプルに適した培養液またはバッファーで10分以上実 イトを除去する必要があります。ただし、リガンド-アナ 施すれば、非特異的結合は大幅に減少します。アッセイ ライト結合を効率的に再生できる条件は、タンパク質に 中のベースライン、結合および解離ステップでは同じ 依存します。同じく、固相化されたリガンドが再生後に バッファーを必ず使用してください。 どれだけその活性を保持し続けられるかにも大きな幅が あります。特定のリガンド-アナライトのタンパク質ペア 非特異的結合が起こる場合は、適切なアッセイの最適化 における適切な再生プロトコールは、試験によって決定 とバッファーの選択によって、その影響を最小限に抑え しなければなりません。ほとんどの抗体-タンパク質間相 ることができます。アッセイバッファーを改良すること 互作用は、10 mMグリシン(pH 1.5~2.0)などの低pH でこうした結合を抑制することができます。タンパク質- バッファ(pH 1~4)で短時間インキュベーションした後 タンパク質相互作用を測定するアッセイの大半では、BSA に、アッセイバッファーで中和を行うことで再生するこ などのブロッキング剤(最大1~2%)および/または とができます。しかし、低pHバッファーでバイオセン Tween-20などの非イオン性界面活性剤(最大0.09%)を サー表面を効率よく再生できない場合は、高塩濃度、界 添加することができます。このほか、カゼイン、PEGま 面活性剤または高pHのバッファーといった他の条件を試 たはゼラチンといったブロッキング剤も代わりに使用す 験することができます。リガンド-アナライトのペアが異 ることができます。塩濃度も変更することができます。 なれば、その間に働く相互作用も、疎水効果、ファンデ 塩濃度を150~500 mM(生理学的濃度以上)に上昇させ ルワールス力およびイオン結合など様々です。有効な再 ると、アッセイの厳密性が増し、その結果、非特異的結 生プロトコールを作成するには、関与するタンパク質の 合を抑制することができます。 性状および相互作用を決定づける非共有結合の種類を把 握することが重要です。 カイネティクス試験には必ずリファレンスサンプルを使用 し、バックグラウンドシグナルおよびアッセイドリフトを 再生を成功させるには以下の条件に合致しなければなり 差し引くことができるようにしてください。結合ステップ ません。 でリガンドがローディングされたバイオセンサーを用い て、リファレンスサンプルを実行します。リファレンスサ ■ バイオセンサー表面の化学的性質が、再生条件下でも ンプルは、バッファーから標的のアナライトを除いたもの   安定であること。 でなければなりません。バックグラウンドシグナルが問題 になっているか、あるいはシグナルノイズ比がきわめて低 ■ 固相化されたリガンドが再生条件下でも安定であり、 い低分子結合アッセイの場合は、リファレンスサンプルと   複数の再生サイクルを経ても活性を保持すること。 リファレンスバイオセンサーの両方を用いたダブルリファ ■ リガンド-アナライト間のタンパク質相互作用が、再生 レンスを行うことができます。リファレンスバイオセン   中に完全に解離すること。 サーには通常、リガンドに類似した非活性タンパク質を ローディングし、リガンドがローディングされたバイオセ リガンドが耐えることのできる再生サイクル数および再 ンサーと同じアナライトサンプルを用いてアッセイを一通 生効率は、再生対象となるタンパク質に大幅に左右され り実行します。このリファレンスバイオセンサーは、バイ ます。10サイクル以上再生できるリガンドもあれば、そ オセンサーに対するアナライトの非特異的結合を差し引く れよりもはるかに少ないサイクルにしか耐えられないリ ために使用します。 ガンド、全く再生ができないリガンドもあります。バイ オセンサーと適合する再生用バッファーを表 5で提案し ます。Octet®システムのハイスループットフォーマット バイオセンサーの再生 は、再生を組み込んだアッセイ同様に、再生条件の効率 的なスクリーニングのための柔軟なプラットフォームを Dip and Readバイオセンサーは、シングルユースの場合 提供します。 は、使い捨て可能で費用対効果が高いですが、多くは再 生利用もできます。特にカイネティクススクリーニング などの場合、同じリガンドをコーティングしたバイオセ ンサーを用いて数種類のサンプルを解析するのは有益で す。これによってバイオセンサーにかかるコストを節約 することができます。 16
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表 5: バイオセンサーに適合する再生用バッファーの提案。 参照文献: *RC Chatelier, TR Gengenbach, HJ Griesser, BM Brigham, and DJ O’Shannessy. A general method to recondition and reuse BIAcore sensor chips fouled with covalently immobilized protein/peptide. Anal. Biochem.; (229): 112–118; 1995. **K Andersson, D Areskoug, and E Hardenborg. Exploring buffer space for molecular interactions. J.Mol.Recognit.; (12): 310–315; 1999. Biosensor 再生試薬 推奨される最長暴露時間 Streptavidin HCl pH 0.5–1.5 15 分 Streptavidin NaOH pH 10–11 15 分 Streptavidin 10 mM Glycine (pH 1–3) 15 分 Streptavidin, AR2G NaCl, 1–5 M 15 分 Streptavidin MgCl2, 0.1–1 M 15 分 Streptavidin Tween 20, 0.1–0.5% 15 分 Streptavidin SDS, 0.005–0.01% 15 分 Streptavidin Phosphoric acid, 50–500 mM 15 分 Streptavidin EDTA, 25–100 mM 15 分 Streptavidin Triton X-100, 0.1–0.5% 15 分 AR2G Acetate buffer, 10–100 mM (pH 0.5–3) 15 分 AR2G Citrate buffer, pH 2 15 分 AR2G KOH, pH 9–11 15 分 AR2G Phosphoric acid, pH 2 15 分 AR2G SDS, up to 0.5% 15 分 AR2G MgCl2, up to 4 M 15 分 AR2G HCl, 1 mM 15 分 AR2G Ethylene glycol 25% or 50% 15 分 AR2G 0.15 M oxalic acid, 0.15 M H3PO4, 0.15 M formic acid and 0.15 M malonic acid * 15 分 AR2G 0.2 M ethanolamine, 0.2 M Na3PO4, 0.2 M piperazine and 0.2 M glycine ** 5 分 AR2G 0.46 M KSCN, 1.83 M MgCl2, 0.92 M urea and 1.83 M guanidine-HCl 5 分 AR2G Mixture of CHAPS, zwittergent 3-12, Tween 80, Tween 20 and Triton 5 分 X-100, each at 0.3 %, 20 mM EDTA 17
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再生条件のスクリーニングを構築するには多くの方法が 各サイクルのアナライト結合曲線を重ね合わせ、それ以 考えられます。Octet® R8システムのスループット能力 前の結合サイクルと比べて結合キャパシティにわずかな を利用すれば、リガンドを8つのバイオセンサーに固相化 変化しかみられなければ、再生は成功しています(図 して、最大8種類の再生溶液を同時にスクリーニングする 12B)。 ことができます。アナライト濃度を10X*KD以上とし、再 生サイクルを最大10回として、アッセイを実行します 図 12Aは、各再生ステップの後のアナライトの結合を示 (図 11)。通常1サイクル内で再生用バッファーへの数回 すシグナル反応を重ね合わせたものです。各再生サイク の短時間の反応(5秒ずつ3~5回)を行うほうが、長時 ルで、シグナルが急激に低下しています。図 12Bは、理 間の反応を1回だけ行うよりも上手くいきます。 想的な再生条件下でのアナライトの結合曲線を重ね合わ せたもので、シグナルは再生サイクルの数が増えても低 下していません。 5.0 4.5 4.0 3.5 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 0 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 1,600 1,800 2,000 2,200 2,400 2,600 2,800 3,000 3,200 3,400 3,600 3,800 4,000 4,200 Time (sec) 図 11: Octet® R8システムで実行した再生条件の探索およびバリデーション実験のリアルタイムの結果。それぞれ異なる再生溶液に対応する8 本のストレプトアビジンバイオセンサー(A1~H1)で得られたデータを示した。ビオチン化Protein Aを固相化した後、ヒトIgGへの結合を11サ イクル実行して再生を行った。 A B 1.50 1.50 1.20 1.20 0.90 0.90 0.60 0.60 0.30 0.30 0.00 0.00 0 50 100 150 120 250 0 50 100 150 120 250 Time (sec) Time (sec) 図 12: 図 11に示した実験の8種類の再生条件のうち2種類を対象に、結合および解離ステップのセンサーグラムを重ね合わせた。Aは最適ではない 再生条件(NaOH、pH11)で得られたデータ。再生サイクルを重ねるごとに結合シグナルが低下していく。Bは最適な再生条件(10 mM グリシ ン、pH2)を示す。リガンドの結合活性が全再生サイクルを通じて維持されている。 18 Binding (nm)
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初回の再生サイクル中に結合キャパシティが低下してい 通常の解析プロトコールは以下のように実行します。 るケースもいくつかありますが、その後のサイクルで安 1. バッファー、再生溶液、リガンドおよびアナライト 定化がみられます。この低下は多くの原因によるもので サンプルを調製します。 すが、そのなかの一つに再生バッファーへの初回の反応 中に固相化されたタンパク質が少量失われる場合があり 2. バイオセンサーを10分以上水和します。水和バッ ます。この初期の変化が最終データにもたらす影響を最 ファーは、アッセイ全体で使用するバッファーとで 小限にするために、アッセイ前に、再生サイクルを1回行 きるだけ一致している必要があります。 うプレコンディショニングステップを実行するのが慣例 3. ウェルの縦列に、バッファー、再生溶液、リガンド となっています。 および相互作用するタンパク質サンプルを満たし、 アッセイプレートを準備します。 Anti-human IgG Fc CaptureやAnti-mouse Fc Captureな どのキャプチャーバイオセンサーでは、当初の表面の化 4. Octet® BLI Discoveryソフトウェアでアッセイの設 定を行います。プレートのレイアウトを決定し、 学的性質のレベルにまで再生することができます。キャ アッセイステップを決定し、バイオセンサーを割り プチャーされたリガンドとアナライトの双方を再生中に 当てます。 除去します。これは通常、10 mM グリシン(pH 1.7)の 再生バッファーを用いて実施されます。再生バッファー 5. Octet®システム内で10分間、水和したバイオセン サーとアッセイプレートを平衡化します。平衡化す 内での5秒のインキュベーションと、その後のアッセイ ることで、バイオセンサーを完全に水和し、解析用 バッファー内での5秒のインキュベーションから構成され プレートの温度を一定にすることができます。 るサイクルを3~5回実行します。その後、リガンドを再 ローディングしたら、そのバイオセンサーを新たなカイ 6. アッセイを実行します。 ネティクス解析に用いることができます。ただし、キャ 7. データ処理と解析を実施します。 プチャーされるタンパク質によっては、再生バッファー の組成に最適化が必要になることがあります。特定の 典型的なサンプルプレートのレイアウトと、アッセイの キャプチャーバイオセンサーで推奨される再生条件につ まとめを図 13に示します。 いては、Sartoriusのホームページに掲載されているテク ニカルノートで確認してください。 通常の高分子のカイネティクス解析には、マイクロプ レートの縦列を用い、下に向かってサンプル希釈を行っ ていく縦列方式(column format)が推奨されます。複数 のサンプル希釈液を同時に測定できるように、各縦列の 結合カイネティクスアッセイの実行 サンプルを同時に測定します。別のアナライトを試験す る場合は、バイオセンサーを交換するか再生します。横 カイネティクスアッセイを設定するステップは、 列方式(row format)では、マイクロプレートの横列を Octet® BLI Discoveryソフトウェアとマイクロプレート 用い、横に向かってサンプル希釈を行います。この方式 フォーマットを用いればシンプルかつ簡単です。Octet® は通常、アフィニティが低い低分子のカイネティクス解 システムを用いればきわめて自由にカイネティクスアッ 析に使用され、この場合は通常、解離は迅速かつ完全な セイをデザインすることができ、使用するフォーマット ものとなるため、サンプル希釈液間でのバイオセンサー やシステムに応じて多くの選択肢があります。Octet® の再生は必要ありません。図 13Bに、典型的なカイネ BLI Discoveryソフトウェアを用いた解析の設定に関する ティクスアッセイでの設定と、推奨されるステップごと 詳細な指示は、『Octet® BLI Discoveryソフトウェアユー の実施時間を示します。ベースラインと解離ステップで ザーガイド』に記載されています。 は、同じ縦列のバッファーが使用されていることに注意 してください。 A B 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 Step # ステップ名 時間(秒) フロー サンプルプレート A (RPM) 縦列番号 B 1 平衡化 60 1000 1 C 2 ローディング 300–600 1000 2 D 3 ベースライン 180–600 1000 3 E 4 結合 300–600 1000 4 F 5 解離 300–3600 1000 3 G H Buffer Ligand Analyte Empty 図 13: A)標準的なカイネティクスアッセイのプレートレイアウト。B)標準的なカイネティクスアッセイのプロトコール。 19
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ベースライン、結合および解離ステップは連続で実行す 最適な結果を得るには、30 ℃でアッセイを実行すること る必要があります。撹拌速度とアッセイステップの実施 が推奨されます。バイオセンサーへの結合は温度の変動 時間は、相互作用の強度と速度に応じて変更することが による影響を受けやすいためです。室温から数℃上で作 できます。撹拌速度を上げることで解析の感度は上昇す 業をすることで、解析全体を通じて一定の温度を維持す るので、弱いバインダーや試薬濃度が低い場合には撹拌 ることができます。 速度を上げることが推奨されます。相互作用がきわめて 迅速であるか、使用する試薬が高濃度である場合は、撹 拌速度を落として400 RPMとすることが推奨されます。 結合カイネティクスデータの解析 相互作用が遅いかバインダーが弱い場合、結合ステップ にかける時間を延長すれば、結合シグナルを強化するこ 結合カイネティクスのセンサーグラムには、分子間相互 とができます。高アフィニティのバインダーでは、解離 作用に関する多くの情報が含まれています。センサーグ ステップにかける時間を長くする必要があります。一般 ラムは分子間の結合相互作用の有無に関するシンプルな には、ベースラインに1分、結合に5分、解離に10分が初 疑問に答えることもできれば、相互作用の特徴を完全に 期条件として用いられますが、ある程度の最適化が必要 明らかにし、結合速度や平衡結合定数をそこから求める になることもあります。結合および解離定数を正確に算 こともできます。Octet® Analysis Studioソフトウェア 出するには、少なくとも複合体の5%が解離しなければな は、カイネティクスデータを解析するための強力であり りません。KD < 1 nMといった高アフィニティの結合ペア ながら簡単に使えるプログラムです。本章では、この の場合は、30分以上と長い解離時間が必要になることが データ解析ソフトウェアの特長、データの解析ステップ あります。全体の実行時間は3時間を越えることがない および結果の解釈にあたっての注意事項を説明します。 ようにします。この時点を超えるとマイクロプレートの ウェルからサンプルの蒸発が始まり、結果に影響を及ぼ カイネティクスデータは相互作用の数理モデルに基づき すからです。 解釈します。このモデルをもとに、結合および解離速度 に基づいてカイネティクスおよび平衡結合定数を算出す カイネティクス解析を実行する際に覚えておくべき重要 ることができます。この種の解析は、単一のアナライト な注意事項がいくつかあります。 濃度に基づいてカイネティクスパラメータを決定する ■ バイオセンサーの中和、ベースラインおよび解離ス ローカルフィッティングか、全アナライト濃度から同時 テップに使用するバッファーは、アナライトサンプル に定数を求めるグローバルフィッテイングのいずれかで のマトリックスとできるだけ一致していなければなり 実施することができます。あるいは、平衡値解析を用 ません。 い、各アナライト濃度の平衡状態におけるデータから、 平衡解離定数(KD )を求めることもできます。 ■ バイオセンサーが飽和しない程度の強いアナライトシ グナルが得られるリガンドのローディング濃度を選択 してください。150 kDaの抗体であれば、ローディン カイネティクスデータを解析するための一般的な方法 グステップでのシグナルが、10分間のローディング後 は以下の通りです。 に約1.0 nmに達するのが理想的です。 1. 得られたデータをOctet® Analysis Studioソフト ■ 少なくとも4濃度のアナライトに対し、KDの> 10Xから ウェアで読み込みます。Processingウィンドウ 初めて、2倍または3倍希釈系列を実行してください。 で、リフレンスの差し引き、y軸の調整、ステップ ■ ベースラインと解離ステップでは、同じサンプルバッ 間の補正およびSavitzky-Golayフィルタリングに関 ファーのウェルを使用する必要があります。これによ する方法を決定し、データを処理します。 り、アーティファクトが最小化し、Octet® Analysis 2. Analysisウィンドウで解析方法を選択し、カーブ Studioソフトウェアに付属するステップ間補正機能を フィッティング、フィッティング方法(ローカル 使用することが可能になります。 またはグローバル)および解析範囲を選択し、 ■ アナライトを含まないバッファーから構成されるリ データを解析します。 ファレンスサンプルまたはネガティブコントロールを 3. 解析されたデータをエクスポートします。「Save 実行してください。 Report」をクリックし、Microsoft® Excel®で詳 ■ 結合ステップに移る前に、ベースラインが安定してい 細なレポートを作成します。 る(シグナルがフラットで、下方へのドリフトがごく わずかである)ことを確認してください。 20