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より優れたパルス・オキシメータの設計

ホワイトペーパー

新世代光学アナログフロントエンド(AFE)がもたらす効果を解説

利便性が高く、消費電力の少ない医療用機器を実現するのは従来にも増して重要なことになっています。
本稿では、まずSpO2(Peripheral Blood Oxygen Saturation:経皮的動脈血酸素飽和度)の測定方法について説明します。
その上で、優れたパルス・オキシメータを実現するために、
新世代の光学アナログ・フロント・エンド(AFE)がどのように貢献するのか解説します。

そうしたAFE製品を採用することで、設計の複雑さや機械的な設計に費やさなければならない負担を軽減し、
消費電力を低減することが可能になります。

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このカタログについて

ドキュメント名 より優れたパルス・オキシメータの設計
ドキュメント種別 ホワイトペーパー
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取り扱い企業 アナログ・デバイセズ株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧)

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このカタログの内容

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Technical Article より優れた パルス・オキシメータの設計 著者:Robert Finnerty、システム・アプリケーション・エンジニア 概要 COVID-19の患者については、入院が必要であるか否かを判断し 利便性が高く、消費電力の少ない医療用機器を実現するのは、 なければなりません。その方法の1つは、SpO2をモニタリング 従来にも増して重要なことになっています。本稿では、まず することです。SpO2のレベルが基準値を下回っている場合(通 SpO2(Peripheral Blood Oxygen Saturation:経皮的動脈 常92%未満)、その患者は緊急治療室に入る必要があります。 血酸素飽和度)の測定方法について説明します。その上で、優 れたパルス・オキシメータを実現するために、新世代の光学ア COVID-19と低酸素症の関係 ナログ・フロント・エンド(AFE)がどのように貢献するのか COVID-19についての分析が進んだ結果、患者には「静かな低 解説します。そうしたAFE製品を採用することで、設計の複雑 酸素症」として知られる潜行性の高い症状が現れることがわかり さや機械的な設計に費やさなければならない負担を軽減し、消 ました。その症状は、息切れのような呼吸器に関するCOVID-19 費電力を低減することが可能になります。 の典型的な症状が現れる前の段階で、身体に深刻なダメージを与 える可能性があります。米国立バイオテクノロジー情報センター はじめに のウェブサイトには、「COVID-19による肺炎が危険なレベルに 従来、SpO2の測定は指や耳といった身体の末梢部で行っていま 進行するのを防ぐためには、患者が息切れを感じ始める前に、無 した。最も一般的な方法は、クリップ式の機器を使ってヘモグロ 症候性の低酸素症を検出できるようにすることが非常に重要であ ビンの総量に対する酸素飽和ヘモグロビンの比を測定するという る」と記載されています1。 ものです。それによって得られる測定値は、赤血球が酸素を肺か また、SpO2のモニタリングは、睡眠時無呼吸症候群の診断を行 ら身体の他の部分にどの程度うまく運ぶことができているかとい う上でも重要な指標になります。閉塞性の症状が現れている場 うことを表します。健康な成人の場合、正常なSpO2のレベルは 合、睡眠中に気道が部分的あるいは完全に塞がれてしまいます。 95%~100%となります。 これは、呼吸が長時間休止している、あるいは呼吸が浅くなって SpO2の値が上記の値を下回る場合には、低酸素血症と呼ばれる いる期間として観測されます。その場合、一時的な低酸素症を引 状態であるということになります。これは、健康な臓器や認知機 き起こしているはずです。この症状を長期間放置していると、心 能を維持するために必要な量の酸素が身体に送り届けられていな 臓発作、脳卒中、肥満の可能性が高まることがあります。発症者 いということを意味します。低酸素血症を発症すると、めまい、 の数は、全成人人口の1%~6%に達すると推定されています。 錯乱、息切れ、頭痛などの症状が現れます。また、何らかの病状 が原因でSpO2が低下することもあります。自宅や臨床の現場で 優れたパルス・オキシメータの実現が急務に 連続的/断続的にSpO2をモニタリングすれば、そうした事態を 患者のモニタリングについては、携帯型の機器によって行ったり、 避けることができます。 在宅で行えるようにしたりすることが求められています。言い換 えれば、ユーザが日常生活を送る上で邪魔にならないVSM(Vital SpO2は、臨床の現場で記録される非常に一般的なバイタル・サ Sign Monitoring)機器の開発が急務になっています。SpO2に インの1つです。SpO2の連続的なモニタリングを必要とする疾 ついては、指や耳以外の部位でモニタしようとすると、計測シス 患としては、喘息、心臓病、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、肺疾患、 テムの設計に多くの課題が生じます。しかし、無症候性の低酸素 肺炎、そしてCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)によって 症に注目が集まったこともあり、携帯性の高い医療グレードのパ 生じる低酸素症などが挙げられます。 ルス・オキシメータの開発がより一層切実なニーズになっていま す。 VISIT ANALOG.COM/JP
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以下では、まずSpO2の計測に使用される基本的な原理について 最も基本的なパルス・オキシメータは、反射型または透過型に構 説明します。その上で、SpO2の計測に使用される医療グレード 成にした2個のLEDと1個のPDから成ります。LEDとしては、 の機器の設計方法について解説します。特に、その種の機器の設 660nmの赤色LEDと940nmの赤外光(IR)LEDを各1個使用 計に役立つ製品として、アナログ・デバイセズが提供する光学測 します。パルス・オキシメータでは、赤色LEDを時間軸で見てパ 定向けのAFE「ADPD4100/ADPD4101」を紹介します。これ ルス状に発光させ、PDに生じた信号を測定します(図2)。また、 らの製品を利用すれば、SpO2の計測システムを設計する際の複 それと同じことを、赤外光LEDを使って行います。最後に、両 雑さを軽減することができます。例えば、周辺光を自動的に除去 LEDをオフにし、外部光源(周辺光)に対する測定を行ってベー する機能を備えていることから、機械的/電気的な設計における スラインを取得します。そのようにして、両方の波長に対応する 負担を軽減することが可能です。ADPD4100は、消費電力が少 PPGの信号を取得します。 なくダイナミック・レンジが広いことを特徴とします。そのため、 フォトダイオード(PD)の数やLEDに流す電流を削減すること HbO2 ができます。しかも、SpO2のわずかな変化を高い効率で検出可 Hb 104 MetHb 能なシステムを構築できます。また、オプションのデジタル積分 5000 器を使用すると、極めて効率が高く消費電力の少ない動作モード を選択できます。その結果、光の信号パスに存在するアナログ・ ブロックの動作を停止することにより、可搬型の光電式容積脈波 1000 記録法(PPG:Photoplethysmography)システムの稼働時間 500 を延伸することが可能になります。 100 酸素飽和度とは何か? 50 血液中のヘモグロビンの総量に対する酸素飽和ヘモグロビンの割 500 600 700 800 900 1k 合のことを酸素飽和度(Oxygen Saturation)と呼びます。酸 λ (nm) 素飽和度の絶対的な基準として使われているのは、動脈血酸素飽 図1. ヘモグロビンを通った 和度(SaO2)です。但し、SaO2を計測するには、血液のサンプ 光の吸光係数 ルを取得し、実験室においてガス分析を行わなければなりません (これについては、後ほど触れます)。 R2 SpO2は、パルス・オキシメータを使って身体の周辺部で計測し S1 た酸素飽和度の推定値です。最近まで、酸素飽和度の最も一般的 D1 + な測定方法は、指に装着したパルス・オキシメータを使用すると C1 L1 U1 R1 いうものでした。 図2. パルス・オキシメータの パルス・オキシメータの動作原理 基本的な回路構成 酸化ヘモグロビン(HbO2)と還元ヘモグロビン(RHb)とで そのPPG信号には、DC成分とAC成分が含まれています。DC は、特定の波長における光の吸収量が大きく異なります。パル 成分は、皮膚、筋肉、骨、静脈血といった反射物によって生じま ス・オキシメータは、この原理に基づいて動作します。図1に、 す。一方のAC成分は、体動(身体の動き)が少ない場合、主に HbO2、ヘモグロビン(Hb)、メトヘモグロビン(MetHb)の吸 動脈血の脈動からの反射光によって構成されます。また、AC成 光係数を示しました。吸光係数は、化学物質が特定の波長の光 分は心拍数と動脈の厚さに依存します。 をどれだけ吸収するのかを示す値です。図1の周波数スペクト ルは、可視光域と赤外光域を網羅しています。これを見ると、 Isystole = DC + AC (1) HbO2はより多くの赤色光(600nm)を吸収し、より多くの赤外 光(940nm)を透過することがわかります。一方、RHbはより Idiastole = DC (2) 多くの赤外光を吸収し、HbO2よりも多くの赤色光を透過するこ とが見てとれます。 2 より優れたパルス・オキシメータの設計 ϵext (cm–1/M)
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反射光/透過光は、拡張期(弛緩)よりも収縮期(送り出し)に 赤外光の波長と赤色光の波長におけるPIを使用すれば、PIredと 多くなります。収縮期には、心臓から血液が送り出され、動脈圧 PIirの比である比の比(RoR:Ratio of Ratios)を計算すること が上昇します。血圧が上昇すると動脈が拡張し、動脈血の体積が ができます。特定の波長における光の吸収量は、次式のRに比例 増加します。このようにして血液が増えることにより、光の吸収 します。 量が増加します。拡張期には血圧が低下するので、光の吸収量も 減少します。図3は、心臓の拍動で生じる拡張期の谷と収縮期の R = ACred/DCred/(ACir/DCir) (5) ピークを示したものです。 理論上は、RoRを次式に代入することで、SpO2を計算すること ランベルト‐ベールの法則によると、光はそれを吸収する物質中 ができます。 を通過する際に指数関数的に減衰します。この法則を利用すると、 SpO2 = − E ヘモグロビンの総量に対するHbO HbO2,red − R × ERHb,ired (EHbO2,red − εRHb,red) − 2のレベルを算出することがで R ( (6)1 EHbO2,ired − ERHb,ired) きます。 ここで、E 拡張期と収縮期に吸収される光の強度には、以下の関係がありま HbO2,redは600nmの波長におけるHbO2の吸光係数、 E す。 HbO2,iredは940nmの波長におけるHbO2の吸光係数、ERHb,iredは 940nmの波長におけるRHbの吸光係数、ERHb,redは600nmの波 Isystole = Idiastole × e–α.d2 (3) 長におけるRHbの吸光係数です。 ここで、αは動脈血中の光の吸収率、d2はPPG信号のAC成分 但し、ランベルト‐ベールの法則を直接適用することはできませ の振幅です。I ん。なぜなら、すべての光学設計には多くの変動要素があり、そ diastoleは、図3においてd1というラベルを付加した DC成分に相当します。式(3)を変形すると、以下のようになり れらがRoRとSpO2の関係に変化をもたらすからです。変動要素 ます。 としては、隔壁の機械的な設計、LEDとPDの間隔、電子的/機 械的な方法による周辺光の除去量、PDのゲイン誤差などが挙げ I –α.d2 = log systole = log AC + DC られます。 I ≈ diastole DC (4) AC PPGベースのパルス・オキシメータにおいて医療グレードの精度 DC using AC<< DC を達成するためには、RoRとSpO2の関係を表すルックアップ・ ここでは、AC << DCの関係を使っています。 テーブルまたはアルゴリズムを開発しなければなりません。 拍動性の 残りの キャリブレーション 動脈血 動脈血 拡張期 収縮期 SpO2の計測に使用する高精度のアルゴリズムを開発するために は、計測システムのキャリブレーションが必要になります。キャ AC d2 リブレーションを行うためには、次のような学習プロセスが必要 静脈血 になります。そのプロセスでは、医療の専門家によって被験者の DC d1 SpO2を医学的に低下させるということが行われます。その上で、 骨、筋肉、 結合組織など 同専門家による監視と監督が行われます。このようなプロセスは、 低酸素研究(Hypoxia Study)として知られています。 時間 SpO 図3. 身体の組織による光の減衰 2の計測システムでは、リファレンスと同程度の精度を実現 する必要があります。リファレンスの選択肢としては、指先にク PPG信号のAC成分とDC成分を算出することで、動脈血中の光 リップを装着して計測を行う医療グレードのパルス・オキシメー の吸収量の変化である-α.d2を求めることができます。この値 タ、絶対的な基準となるCOオキシメータなどがあります。CO は、心臓から血液が送り出されることによって生じるものです。 オキシメータは、血液の酸素飽和度を測定するための侵襲的な方 その他の組織からは何も影響は受けません。 法です。高い精度が得られますが、ほとんどの場合、管理に手間 がかかります。 AC成分とDC成分の比は、灌流指標(PI:Perfusion Index)と して知られています。これは、拍動性の血流量と非拍動性の静的 キャリブレーションのプロセスでは、SpO2向けの光学的な計測 な血流量の比だとも言えます。PPGベースの心拍数の計測シス システムで算出したRoRの値の最良な近似曲線を作成します。そ テムやSpO2の計測システムを設計する際には、次式で表される の近似曲線は、COオキシメータによるSaO2の測定値を基にし AC信号とDC信号の比を大きくすることが目標になります。 て生成します。その近似曲線を使用し、SpO2を計算するための ルックアップ・テーブル(または式)を作成します。 PI = AC/DC VISIT ANALOG.COM/JP 3 組織の構成要素による 光の減衰
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キャリブレーションは、SpO2の計測システムの設計において不 センサーの装着場所とPI 可欠な要素です。RoRは、LEDの波長/強度、PDの応答特性、 手首や胸部に装着する機器を開発する場合、AFEにはより広いダ 身体の姿勢、周辺光の除去など多くの変数に依存し、設計ごとに イナミック・レンジが求められます。なぜなら、動脈は皮膚、脂 異なるからです。 肪、骨など、光を反射する要素の下の深い位置に存在するため、 DC成分が非常に大きくなるからです。 PIが高まり、赤色光/赤外光の波長におけるACのダイナミッ ク・レンジが広くなると、RoRの計算の感度が向上し、SpO2の PPGによる測定の分解能が高いほど、SpO2向けのアルゴリズム 計測結果としてより正確な値が得られるようになります。 の不確実性が低減されます。手首に装着するタイプの機器の場 合、SpO2用のセンサーの標準的なPIは1%~2%です。そのた 低酸素研究では、SpO2が100%~70%の範囲対象として一定の め、パルス・オキシメータを設計する際には、機械的な設計によっ 間隔で計200回の計測を行い、結果を記録する必要があります。 てPIを高めるかダイナミック・レンジを広げることが目標になり 被験者は、様々な人種の人を対象とし、年齢と性別が均等に分散 ます。 するように選択します。このように人種、年齢、性別に多様性を 持たせることで、PIに対する個人差の影響を軽減します。 LEDとPDの間隔は、PIに大きな影響を及ぼします。間隔が狭す ぎると、LEDからPDへのクロストークや後方散乱が増大します。 透過型のパルス・オキシメータでは、トータルの誤差を3.0%以 それらはDC成分として現れ、AFEが飽和することにつながりま 下に抑える必要があります。反射型の構成では、誤差を3.5%以 す。 下に抑えなければなりません。 LEDとPDの間隔を広げれば、クロストークと後方散乱の両方の 設計時に考慮すべき事柄 影響が減少します。しかし、LEDの出力とPDのリターン電流の 続いて、SpO2の計測システムを設計する際に考慮すべき事柄に 比である電流伝達率(CTR)も低下します。このことは、PPGベー ついて説明します。 スの計測システムの効率に影響を及ぼします。また、AFEのダイ ナミック・レンジを最大化するためには、LED用により多くの電 力が必要になります。 透過型か、反射型か LEDとPDの組み合わせ方としては、透過型の構成と反射型の構 1個または複数個のLEDを高速かつパルス状に発光させると、信 成の2つがあります(図4)。どちらの構成でも、PPG信号を取得 号に対する1/fノイズの影響を低減できるというメリットが得ら することができます。透過型の構成では、身体の一部を透過した れます。また、LEDをパルス状に発光させることにより、受信側 光(吸収されなかった光)を測定します。この構成は、指や耳た で同期変調を使用して周辺光による干渉を相殺することも可能に ぶなどで測定を行う場合に最適です。それらの部位は毛細血管の なります。加えて、複数のパルスを積分するとPD信号の振幅が 密度が高いので、計測上のメリットが得られます。すなわち、測 大きくなり、平均消費電流を下げることができます。更に、PD 定値の安定性と再現性が高くなり、姿勢の変動の影響を受けにく の総面積を増加させるとより多くの反射光を取り込むことが可能 くなります。結果として、透過型の構成ではPIが40dB~60dB になり、CTRも増加します。 向上します。 PPGをベースとする心拍数の計測システムについては、単一の大 一方、反射型の構成は、手首や胸部に装着する機器で使われます。 型PDと電力効率の高い複数の緑色LEDの組み合わせがよく使わ つまり、LEDとPDを隣り合わせで配置しなければならない場合 れます。その目的は、血流が制限される場所で計測システムを使 に選択します。 用できるようにすることです。緑色LEDを使う理由は、モーショ ン・アーティファクトの除去率が高いからです2。但し、これには 赤外光LED 消費電力の増加という代償が伴います。緑色LEDは赤色LEDや 赤外光LEDよりも順方向電圧が高く、その光は人体の組織におけ 動脈 血管通路 る吸光度が高いという特徴があります。したがって、心臓につい 静脈 て意味のある情報を得るためには、LEDでより多くの電力を費や フォトディテクタ 毛細血管、細動脈 す必要があります。 LED ディテクタ LED ディテクタ 透過型 反射型 図4. LEDとPDの構成 4 より優れたパルス・オキシメータの設計
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SpO2の計測には、複数種の波長が必要です。また、PPGによる ここでは、無限に幅の広いPD領域によって、無限に長い深部組 心拍数(HR:Heart Rate)の計測システムでは、ほとんどの場 織のサンプルをカバーすると仮定しましょう。その場合、最終的 合、効率の高い緑色LEDを採用しています。そのため、PPGベー にすべてのフォトンはPDに向かって反射されます。そうすると、 スのHR/SpO2計測システムについては、図5のような構成が最 体動によるアーティファクトは検出されません。しかし、これは も一般的なものになります。図5のシステムは、アナログ・デバ 実現不可能な話です。現実的な解決策は、容量について考慮しつ イセズが開発したVSMウォッチです。このシステムでは、緑色 つ、PDの面積を増加させることです。そうすることでAFEのゲ /赤色/赤外光LEDのアレイの周囲に複数のPDを配置していま インを下げて、モーション・アーティファクトに対するフィルタ す。PDとLEDの間隔は、後方散乱を低減するように最適化され 処理を行います。 ています。また、隔壁の設計によってLEDからPDへのクロストー 通常、PPG信号の周波数は0.5Hz~5Hzです。それに対し、モー クを低減しています。当社は、VSMウォッチの試作品を複数使 ション・アーティファクトの周波数は0.01Hz~10Hzほどです。 用し、PPGベースのHR/SpO2の計測において最も高い効率が得 そのため、単純なバンドパス・フィルタ処理では、PPG信号か られるPDとLEDの間隔を導き出しました。 らモーション・アーティファクトを除去することはできません。 体動の影響を高い精度でキャンセルするためには、適応型のフィ ルタに対して高精度の体動データを供給する必要があります。こ のような用途に向けて、アナログ・デバイセズは3軸加速度セン PD LEDアレイ サー「ADXL362」を開発しました。この製品は、最大8gの測定 範囲、1mgの分解能に対応しています。また、出力データ・レー トが100Hzの場合でわずか3.6µWしか電力を消費しません。 PD パッケージのサイズは3mm×3mmです。 ADPD4100:アナログ・デバイセズの ソリューション 図5. アナログ・デバイセズのVSMウォッチ。 HR/SpO2計測システムの最も一般的な構成を採用しています。 パルス・オキシメータを設計する際には、その装着場所に応じて いくつかの課題に直面します。手首に装着するタイプの場合、設 モーション・アーティファクトの除去 計上の課題がより多くなります。対象となるAC信号は、PDで モーション・アーティファクトは、PPGベースの計測システムを 受けた全光量のうちわずか1%~2%にすぎないからです。医療 設計する際の大きな課題の1つです。体動が生じた際には、圧力 グレードの認証を取得し、HbO2の濃度のわずかな変動を識別で によって動脈と静脈の幅が変化します。すると、PDによって吸 きるようにするためには、AC信号に対するダイナミック・レン 収される光の量も変動します。その影響がPPG信号に現れます。 ジを広げる必要があります。これは、周辺光からの干渉を抑え、 身体が静止しているときと比べて、フォトンの吸収量や反射量が LEDドライバとAFEのノイズを低減することによって実現できま 変化するということです。 す。ADPD4100は、そうした問題に対処可能な製品です(図6)。 AVDD LED4B DVDD1 ADPD4100/ADPD4101 LED3B DVDD2 LED2B LEDのレベルと IOVDD LED1B マルチプレクサの LED 制御 AGND LED4A ドライバ DGND LED3A IOGND LED2A LED1A 高周波/ CS 低周波の発振器 SCLK LGND 積分器の MOSI タイミング デジタル処理 MISO インターフェース、 IN1 チャンネル1の タイミング制御、FIFO、 SCL IN2 シグナル・ プログラム/データ用の SDA IN3 コンディショニング ADC レジスタ、通信 IN4 TIA_VREF GPIO0 IN5 GPIO1 IN6 チャンネル2の GPIO2 IN7 シグナル・ GPIO3 IN8 コンディショニング 積分器の VREF VC1 タイミング VC1 VC2 電圧リファレンス VREF VC2 TIA_VREF VICM 図6. ADPD410Xのブロック図 VISIT ANALOG.COM/JP 5
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ADPD4100/ADPD4101は、最大100dBのS/N比を達成しま ア ナ ロ グ・ デ バ イ セ ズ は、ADPD4100の 評 価 作 業 を サ す。それによって得られるダイナミック・レンジの向上は、PIの ポートするものとして、ウェアラブル評価キット「EVAL- 低い状況においてSpO2を計測する上で不可欠です。これらの ADPD4100-4101」と学習用のVSMウォッチを提供しています。 AFEは、低ノイズの電流源とPD入力をそれぞれ8つ備えていま これらは、アナログ・デバイセズの「Wavetool」というアプリ す。デジタル・タイミング・コントローラは、プログラムが可能 ケーションとシームレスに接続することが可能です。それにより、 な12のタイム・スロットに対応しています。これを使うことで、 生体インピーダンス、心電図、心拍数、SpO2を、複数の波長に 特定のLED電流、アナログ/デジタルのフィルタ処理、積分オプ 対応するPPGベースの手法で測定するシステムの開発を加速す ション、タイミング上の制約を考慮しつつ、PDとLEDに関する ることができます(図7)。 一連のシーケンスを定義することができます。 学習用のVSMウォッチには、ADPD4100向けの自動ゲイン制御 ADPD4100の特徴の1つは、消費電力あたりのS/N比が高いこ (AGC)のアルゴリズムが組み込まれています。それにより、ト とです。これは、バッテリ駆動の機器によって連続的にモニタリ ランスインピーダンス・アンプのゲインとLEDの電流を調整し、 ングを実施したい場合に重要なパラメータになります。このよう 使用するすべてのLEDの波長に対応した最適なAC信号のダイナ な用途を想定し、ADPD4100ではダイナミック・レンジを高め ミック・レンジを得ることができます。 つつ、消費電流を抑えています。ADPD4100は、25Hzの周波 数でPPGによる測定を連続的に行う場合、LEDへの給電を含め アナログ・デバイセズの別のソリューション てわずか30µWの消費電力で75dBのS/N比を達成します。サ 指先や耳たぶに機器を装着してSpO2を計測する場合、手首や胸 ンプルあたりのパルス数(n)を増やせばS/N比(√n)は向上 部に装着する場合よりもS/N比が高くなります。また、指先や耳 します。また、LEDの駆動電流を増やすと、それに比例してS/N たぶには骨や組織が少なく、DC成分の影響が減少します。その 比が高まります。システムの総消費電力が1µW、LEDの電源が ため、計測システムの設計は容易だと言えます。このようなアプ 4Vという条件でPPGによる測定を連続的に行う場合、93dBの リケーションには、光学センサー・モジュール「ADPD144RI」 S/N比が得られます。 や測光用フロント・エンド「ADPD1080」が適しています。 ADPD4100は、周辺光を自動的に除去する機能を備えています。 ADPD144RIは、波長が660nmの赤色LED、同880nmの赤外 それにより、60dBの周辺光除去性能が得られます。また、ホス 光LED、4個のPDを2.8mm×5.0mmのパッケージに統合した トとなるマイクロプロセッサの負担を軽減することが可能になり 完全なモジュール製品です。LEDとPDの間隔は、PPGによる ます。この機能では、1マイクロ秒という高速のLEDパルスをバ SpO2の高精度な計測に向けて最高のS/N比が得られるように最 ンドパス・フィルタと共に使用して干渉を除去します。同ICは、 適化されています。このモジュールを採用すれば、LEDとPDの 特定の動作モードにおいて、LEDがオフの状態におけるPDの暗 配置や間隔に伴う設計上の課題が解消され、最適な電力対ノイズ 電流を自動的に算出します。A/Dコンバータで変換を行う前に、 比を達成することができます。また同モジュールは、光学的なク LEDがオンの状態の値から暗電流の算出結果を差し引くことに ロストークを可能な限り低減するよう機械的に最適化されていま よって、周辺光の成分、PDのゲイン誤差/ドリフトを除去する す。そのため、1枚のガラス窓の裏側にセンサーを配置した場合 ことができます。 でも、強固なソリューションを実現することができます。 図7. ADPD4100によるPPGベースの測定結果。 赤色LED(右)、赤外光LED(左)を対象として同時測定を行った結果です。 6 より優れたパルス・オキシメータの設計
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一方のADPD1080は、LEDの駆動用チャンネルを3つ、PDの 電流入力用チャンネルを2つ搭載したAFEです。パッケージは 著者について 2.5mm×1.4mmの17ピンWLCSPを採用しています。この Robert Finnerty(rob.finnerty@analog.com)は、アナロ AFEは、基板面積が重視されるチャンネル数の少ないカスタム設 グ・デバイセズのシステム・アプリケーション・エンジニ 計のPPGシステムに適しています。 アです。デジタル・ヘルスケア・グループ(アイルランド、 リメリック)に所属しています。バイタル・サイン・モニタ 参考資料 リング・グループと密に連携し、主に光学/インピーダン 1 ス測定ソリューションを担当。入社は2012年で、高精度コ T o s h i y o T a m u r a「 C u r r e n t P r o g r e s s o f ンバータ・グループにおいて狭帯域幅の高精度計測に関す Photoplethysmography and SpO2 for Health Monitoring(ヘ る業務に携わっていました。アイルランド国立大学ゴール ルス・モニタリング分野におけるPPG/SpO2計測の最近の進化)」 ウェイ校で電子/電気工学の学士号を取得しています。 Biomedical Engineering Letters、2019年2月 2 Jihyoung Lee、Kenta Matsumura、Ken-Ichi Yamakoshi、 Peter Rolfe、Shinobu Tanaka、Takehiro Yamakoshi EngineerZone® 「Comparison Between Red Green and Blue Light Reflection オンライン・サポート・コミュニティ Photoplethysmography for Heart Rate Monitoring During アナログ・デバイセズのオンライン・サポート・コミュ Motion(体動中の心拍数監視における赤色/緑色/青色光ベー ニティに参加すれば、各種の分野を専門とする技術者と スの反射型PPGの比較)」2013 35th Annual International の連携を図ることができます。難易度の高い設計上の問 Conference of the IEEE Engineering in Medicine and 題について問い合わせを行ったり、FAQを参照したり、 Biology Society (EMBC)、2013年7月 ディスカッションに参加したりすることが可能です。 Visit ez.analog.com *英語版技術記事はこちらよりご覧いただけます。 VISI T A N A L O G . C O M /JP お住いの地域の本社、販売代理店などの情報は、analog. ©2021 Analog Devices, Inc. All rights reserved. com/jp/contact をご覧ください。 本紙記載の商標および登録商標は、各社の所有に属します。 Ahead of What’s Possibleはアナログ・デバイセズの商標です。 オンラインサポートコミュニティEngineerZoneでは、アナ ログ・デバイセズのエキスパートへの質問、FAQの閲覧がで きます。 TA22871-6/21