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本カタログでは、コモンモード過渡耐圧(CMTI)の仕様と、システムにおけるその重要性を紹介します。更に、新しい絶縁型シグマ・デルタ(ΣΔ)モジュレータ・ファミリとその性能、そしてこれらのモジュレータがどのようにシステム電流の測定精度(特にオフセット誤差とオフセット誤差ドリフト)を改善するのかを説明します。そして、最後に推奨回路ソリューションを紹介します。
このカタログについて
ドキュメント名 | 次世代絶縁型シグマ・デルタ・モジュレータによるシステムレベルの電流測定改善 |
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ドキュメント種別 | 製品カタログ |
取り扱い企業 | アナログ・デバイセズ株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧) |
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このカタログの内容
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Technical Article
次世代絶縁型
シグマ・デルタ・
モジュレータによる
システムレベルの電流測定改善
Nandin Xu、製品アプリケーション・エンジニア
はじめに コモンモード過渡耐圧とは
本稿では、まずコモンモード過渡耐圧(CMTI)の仕様と、シス コモンモード過渡耐圧は、絶縁境界を越えて印加されるトラン
テムにおけるその重要性を紹介します。更に、新しい絶縁型シグ ジェント・パルスの立上がりと立下がりのレートを規定するもの
マ・デルタ(ΣΔ)モジュレータ・ファミリとその性能、そして です。これを超えると、クロックまたはデータが破損します。パ
これらのモジュレータがどのようにシステム電流の測定精度(特 ルスの変化率と絶対コモンモード電圧(VCM)の両方が記録さ
にオフセット誤差とオフセット誤差ドリフト)を改善するのかを れます。
説明します。そして、最後に推奨回路ソリューションを紹介します。
新しい絶縁型モジュレータは、静的および動的両方のCMTI条件
絶縁型モジュレータは、高精度の電流測定と電気的絶縁が必要と 下で試験されています。静的試験では、デバイスからのシングル
されるモータやインバータに広く使われています。モータ/イン ビット誤差が検出されます。動的試験では、CMTIパルスをラン
バータ・システムでは高集積化と高効率化が進んでおり、SiCお ダムに印加した際のノイズ性能の変動について、フィルタ処理さ
よびGaN FETがMOSFETやIGBTに取って代わりつつあります。 れたデータ出力がモニタされます。試験の簡略ブロック図を図1
これは、SiCおよびGaN FETの方が小型でスイッチング周波数 に示します。
も高く、熱放出も小さいといった利点を備えていることによりま
す。ただし、絶縁コンポーネントには高いCMTI能力が求められ
ます。また、より精度の高い電流測定を行う必要もあります。次
世代の絶縁型モジュレータはCMTI能力を大幅に増加させ、測定
精度自体も向上します。
VDD1 VDD2
±FS 5
AIN+ MCLK
1 Battery ADC DAQ Platform
1
AIN– MDAT
4
GND1 GND2 1
VDD2
6 Oscilloscope
3
2
VCM
図1. CMTI試験の簡略ブロック図
VISIT ANALOG.COM/JP
Isolation
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高スルー・レート(高周波数)のトランジェントは絶縁バリア越
しに伝送されるデータを破損させる可能性があるので、CMTIは
重要な指標です。これらのトランジェントからの影響の受けやす
さを理解し、それを測定することは非常に重要です。アナログ・
デバイセズの試験方法は、磁気カプラのコモンモード過渡耐圧
(CMTI)の測定方法などを定めたIEC 60747-17規格に基づいて
います。
(a) No VCM
ベンチ上で絶縁型モジュレータのCMTI特性を
評価する方法
簡易CMTI試験プラットフォームには、図1に示すように以下の
品目が含まれます。
X VDD1/VDD2用バッテリ電源。
X 高コモンモード電圧パルス発生器。 (b) 50 kV/μs
X データ・モニタ用オシロスコープ。
X データ解析に使用するデータ・アクイジション・プラット
フォームと、絶縁型モジュレータに使用する256デシメー
ションsinc3フィルタ。
X 絶縁モジュール(通常は光学絶縁を使用)。
X 絶縁型モジュレータ。
静的および動的CMTI試験には同じプラットフォームが使われま (c) Over Spec
す。異なるのは入力信号だけです。このプラットフォームは、他 図2 時間領域の動的CMTI性能
の絶縁製品のCMTI性能の試験にも使用できます。絶縁型モジュ 図3は、異なる周波数トランジェント(これはトランジェント時
レータでは、1ビットのストリーム・データにデシメーションと 間を変化させることによってVCMトランジェント・レベルを維
フィルタ処理を行い、それをモータ・コントロール・システムの 持することを意味します)におけるFFT領域の性能を示していま
制御ループに転送するので、より包括的で有効な動的CMTI試 す。図3の結果は、高調波とトランジェント周波数の間に強い関
験性能が得られます。図2と図3に、異なるCMTIレベルにおけ 連性があることを示しています。したがって、絶縁型モジュレー
る時間領域と周波数領域のCMTI動的試験性能を示します。図 タのCMTI能力が高いほど、FFT解析におけるノイズ・レベルは
2からは、同じ絶縁型モジュレータに大きいVCMトランジェン 低くなります。前世代の絶縁型モジュレータと比較して、次世代
ト信号を加えると、スプリアスが大きくなることが分かります。 のADuM770xデバイスでは、表1に詳細を示すようにCMTI能
VCMトランジェント信号が絶縁型モジュレータの仕様を超える 力が25kV/µsから150kV/µsに向上しており、それによってシ
と、時間領域で非常に大きいスプリアスが発生します(図2cを ステムの過渡耐圧が大幅に増加します。
参照)。モータ・コントロール・システム内でモジュレータを使
用する場合、これは深刻な結果をもたらし、大きいトルク・リッ
プルを発生させます。
(a) 2 kHz, 80 kV/μs
(b) 10 kHz, 50 kV/μs
図3 周波数領域の動的CMTI性能
2 次世代絶縁型シグマ・デルタ・モジュレータによるシステムレベルの電流測定改善
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システムレベルの補償およびキャリブレーション モジュレータへの入力は入力マルチプレクサで交互に反転され
手法 (チョップされ)、チョッピング(マルチプレクサを「0」または「1」
モータ・コントロール・システムやインバータ・システムでは、 の状態に切り替える)の各フェーズでADC変換が行われます。
電流データの精度が高いほどシステムの安定性と効率が向上しま モジュレータのチョッピングは、出力信号をデジタル・フィルタ
す。オフセット誤差とゲイン誤差は、ADCの一般的なDC誤差源 へ渡す前に出力マルチプレクサ内で反転されます
です。図4に、オフセット誤差とゲイン誤差がADCの伝達関数
ΣΔモジュレータのオフセットをV とすると、チョップが0の
にどのように影響するのかを示します。これらの誤差は、トルク・ OS
ときの出力は (AIN(+) − AIN(−)) + VOS、チョップが1のときの
リップルや回転数リップルとしてシステムに影響を与える可能性
出力は −[(AIN(−) − AIN(+)) + V ] となります。誤差電圧V
があります。ほとんどのシステムでは、システムに対する誤差の OS OS
はデジタル・フィルタでこれら2つの結果を平均することによっ
影響を抑えるために、室温でこれらの誤差を補正する場合があり
て除去され、(AIN (+) − AIN (−)) となります。これは、オフセッ
ます。
ト項のない差動入力電圧と同じです。
+FS +FS 最新の絶縁型モジュレータは、内部のアナログ設計を最適化して
Actual Actual 最新のチョッピング手法を使用することにより、オフセット誤差
とゲイン誤差に関係する性能を向上します。これによってシステ
Ideal Ideal
ム設計が大幅に簡略化され、キャリブレーション時間も短縮され
0 0
ます。最新のADuM770xデバイスは最も高い絶縁レベルと最良
Zero Error Zero Error
のADC性能を備えています。LDOバージョンを使用することも
With Gain Error
Offset Offset Error = 0 できるので、システム用の電源設計が容易になります。
Error No Gain Error Zero Error Results from
Zero Error = Offset Error
–FS –FS Gain Errors
図4 ADC伝達関数のオフセット誤差とゲイン誤差 表1. 主な仕様の比較
全温度範囲にわたってオフセット・ドリフト誤差とゲイン誤差を
補正するのは室温での補正より難しいので、室温以外ではこれら 主な仕様 ADuM7701/ ADuM7702/
AD7403 AD7401
ADuM7703 ADuM7704
の誤差が問題となります。システム温度が分かっている場合、ド 動作電圧(VPK) 1270 1270 1250 891
リフト・プロファイルが直線的で予測可能なコンバータであれば、 絶縁
そのオフセット誤差とゲイン誤差のドリフト補正は、プロファイ CMT(I kV/µs)
(最小値) 150 150 25 25
ルに補正係数を加えて、オフセット・ドリフト・プロファイルを オフセット誤差 ±0.18 ±0.18 ±0.75 ±0.6
できるだけフラットにすることにより行うことができます(ただ (mV最大値)
しコストと時間がかかります)。この補正方法の詳細は、アプリ オフセット・ドリフト ±0.25
(16ピン)
ケーション・ノートAN-1377に示されています。この方法を用 (µV/ºC最大値)、 —
50mV時 ±0.6 — —
いれば、AD7403/AD7405のデータシートに仕様規定されたド (8ピン)
リフト値を、オフセット・ドリフトについては最大30%、ゲイン オフセット・ドリフト
(µV/ºC max)、 ±0.6 — 3.8 3.5
誤差ドリフトについては最大90%減らすことができ、更にオフ 250mV時
セット誤差とゲイン誤差のドリフトをシステムレベルで改善した ゲイン誤差 ±0.2 ±0.2 ±1.2 ±0.3
い場合は、他のコンバータ・コンポーネントにもこれを適用する (%FSR最大値)
ことができます。 ゲイン・ドリフト ±15.6
性能 (ppm/ºC)、 — (typ)
50mV時 ±31.3 — —
(max)
チョッピング手法の使用法 ±12.5 65
この他にも、システム設計者がより効率的で便利に使用できる、 ゲイン・ドリフト
(ppm/ºC )、 (typ) — (typ) 36
チョッピング手法と呼ばれる着想があります。チョッピング機能 250mV時 ±28 95 (typ)
(max) (max)
は、オフセット誤差とゲイン誤差のドリフトを最小限に抑えるた 14.2
めに、シリコン自体に組み込むことも可能です。チョッピング方 ENOB(ビット)、
50mV時 — (typ)
13.1 — —
式の概要を図5に示します。この例では、1個のADCに実装され (min)
たソリューションが、アナログ・シグナル・チェーン全体をチョッ 14 14.2
ピングして、オフセット誤差と低周波数帯の誤差を除去します。 ENOB(ビット)、 (typ) (typ) 11.5
250mV時 13.3 — 13.1 (typ)
(min) (min)
Input Mux 内蔵 LDO なし あり なし なし
AIN(+) V
0 OS Output Mux
A (–) 1 – + VIN(+) 8ピン 8ピン 8ピン
IN
Sigma-Delta 0 パッケージ および および および 16ピン
Modulator –1 1 16ピン 16ピン 16ピン
0 V
1 IN(–)
Chop
図5 チョッピング
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Floating/Iso Floating/Iso Floating/Iso
Power Supply 2 Power Supply 1 Power Supply 0
400 V 400 V 400 V
GND1 GND2
Gate Gate Gate
Drive Drive Drive
Circuit Circuit Circuit
GND 1
100 nF 10 μF 10 μF 100 nF
LDO/Zener VDD1 VDD2
Gate Gate Gate Optional
Drive Drive Drive 10 Ω 82 Ω
Circuit Circuit Circuit IN– CLK
Motor R Optional
SHUNT ADuM770x-8
10 Ω 82 Ω
IN+ DATA
220 pF 220 pF 33 pF 33 pF
GND1 GND2
GND1 GND2
図6. モータ・システムの代表的電流測定回路
VDD1 VDD2
220 pF
10 Ω 10 μF 100 nF 100 nF 10 μF
82 Ω
33 pF
Shunt TBD CLK
DATA
10 Ω 82 Ω
220 pF ADuM770x-8
GND1 GND2 33 pF
図7. ADuM770x-8回路の推奨PCBレイアウト
推奨される回路およびレイアウト設計 図6に示す推奨回路セットアップの注意事項を以下に示します。
モータ・システムの代表的な電流測定回路を図6に示します。シ
X VDD1/VDD2をデカップリングするためには10µF/100nF
ステムには3つの相電流測定回路が必要ですが、ブロック図に示
のコンデンサが必要で、これらのコンデンサは対応するピン
したのは1つだけです。他の2つの相電流測定回路も同様の構成
にできるだけ近付けて配置する必要があります。
で、これらは青い破線で示されています。この相電流測定回路で
は、R X 10Ω/220pFのRCフィルタが必要です。
SHUNT抵抗の一方の側がADuM770x-8の入力に接続されて
いることが分かります。もう一方の側は、高電圧FET(IGBTまた X シャントによるノイズの影響を減らすために、オプションの
はMOSFETを使用可能)とモータに接続されます。高電圧FET 差動コンデンサを使用することを推奨します。コンデンサは
のステータスが変化すると、常に過電圧状態、低電圧状態、また IN+/IN–ピンの近くに配置してください(0603パッケージを
はその他の電圧不安定状態が生じます。これに応じてRSHUNT抵抗 推奨)。
の電圧変動がADuM770x-8に伝達され、これに関係するデータ X デジタル出力ラインが長い場合は、82Ω/33pFのRCフィル
がDATAピンに出力されます。レイアウトとシステム絶縁の設計 タを推奨します。良好な性能を得るには、シールドされたツ
は不安定な電圧状態を改善することもあれば悪化させることもあ イスト・ペア・ケーブルの使用を検討する必要があります。
り、その結果は位相電流の測定精度に影響します。
X より高い性能が求められる場合は、4端子シャント抵抗の使用
を検討してください。
4 次世代絶縁型シグマ・デルタ・モジュレータによるシステムレベルの電流測定改善
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最良の性能を実現するには良好なレイアウトも必要です。推奨レ
イアウトを図7に示します。同相ノイズ除去能力を向上させるた 著者について
めに、シャント抵抗からIN+/IN–入力ピンへの配線には差動ペ Nandin Xu
ア線を使うことを推奨します。10Ω/220pFフィルタは、IN+/ 中国上海のアナログ・デバイセズで製品アプリケーショ
IN–入力ピンにできるだけ近付けて配置する必要があります。 ン・エンジニアとして勤務。中国におけるRDC、絶縁型モ
10µF/100nFのデカップリング・コンデンサも、VDD1/VDD2 ジュレータ、高精度ADC/DAC製品のテクニカルサポート
電源ピンにできるだけ近付けて配置してください。パーシャル・ を担当。中国武漢の華中科技大学で制御科学と制御技術の
グランド・プレーンのGND1は、信号を安定させるために入力関 修士号を取得。同学を卒業後、2013年にアナログ・デバ
連回路の下に配置することを推奨します。電源電流の変動の影響 イセズ入社。バスケットボールとサッカーの熱心なファン。
を緩和するために、シャント抵抗からADuM770x-8 GNDピン 連絡先:nandin.xu@analog.com
へスター接続された独立のGND1ライン(差動ペア配線ラインと
並列に紫で示されたライン)が必要です。
EngineerZone®
まとめ オンライン・サポート・コミュニティ
最 新 のADuM770x絶 縁 型ΣΔモ ジ ュレ ー タで はCMTIが アナログ・デバイセズのオンライン・サポート・コミュ
150kV/µsのレベルまで向上しており、温度ドリフト性能も改善 ニティに参加すれば、各種の分野を専門とする技術者と
されています。これは、電流測定アプリケーションにとって大き の連携を図ることができます。難易度の高い設計上の問
な利点です。また、推奨される回路とレイアウトを使用すれば、 題について問い合わせを行ったり、FAQを参照したり、
設計段階の大きな助けとなります。 ディスカッションに参加したりすることが可能です。
参考資料
ADuM7704データシートアナログ・デバイセズ、2020年8月 Visit ez.analog.com
Heo, Hong-Jun; Seon-Ik Hwang; Jang-Mok Kim; and Jin-
Woo Choi.“ Compensating of Common Scaling Current- *英語版技術記事はこちらよりご覧いただけます。
Measurement Error for Permanent Magnet Synchronous
Motor Drives.” 2016 IEEE 8th International Power
Electronics and Motion Control Conference (IPEMC-ECCE
Asia), May 2016.
McCarthy, Mary“ AN-1131: Chopping on the AD7190,
AD7192, AD7193, AD7194, and AD7195.” アナログ・デバ
イセズ、2011年10月
Merino, Miguel Usach and Gerard Mora Puchalt.“ ADCの性
能を引き出す容量性PGA” アナログ・ダイアログ、Vol. 50、No.
3、2016年8月
O’Byrne, Nicola.“ MS-2652: 産業用モーション・コントロール
のための測定手法”アナログ・デバイセズ、2014年6月
VISI T A N A L O G . C O M /JP
お住いの地域の本社、販売代理店などの情報は、analog. ©2021 Analog Devices, Inc. All rights reserved.
com/jp/contact をご覧ください。 本紙記載の商標および登録商標は、各社の所有に属します。
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きます。 TA23159-12/21