スマート・メータ向けの先進的なフィールド診断技術

Technical Article スマート・メータ向けの 先進的なフィールド診断技術 著者：Cosimo Carriero、スタッフ・フィールド・アプリケーション・エンジニア はじめに います。そのために、より高度な電力量計としてスマート・メー エネルギー輸送については、100年以上にわたって技術的にはほ タを導入し、配電ネットワークの診断をリアルタイムに行って障 とんど変化がなかったと言えるかもしれません。しかし、最近に 害を即座に検知できるようにしています。この技術は、電力会社 なって配電ネットワークの分野には劇的な変革が起きています。 と最終消費者に多くのメリットをもたらしています。本稿では、 現在は、技術の進化によって世界中に新たな変化が訪れている状 スマート・メータの基本と先進的なフィールド診断の手法につい 況にあります。そうしたなか、エネルギーの分野は、風力や太陽 て解説します。 光といった再生可能エネルギーを利用する形で進化しています。 ただ、それに伴って新たな課題が生じています。例えば、エネル スマート・メータの概要 ギーを双方向に流さなければならなかったり、再生可能エネル 電力量の測定に使用するスマート・メータは、配電ネットワーク ギーを利用した発電に中断が生じたりといったことが挙げられま の基本的な要素です。同メータを利用すれば、電力の消費量を監 す。また、配電の分野でも、送電線上のノイズの放射などが配電 視するだけでなく、供給電力の質に関するデータを収集すること ネットワークの安定性に関する潜在的な問題につながるといった ができます。例えば、無効電力量、全高調波歪み、高調波成分、 課題が生じています。送配電を担う事業者は、最終消費者に対し 電圧サージやトランジェントの発生、周波数の変化といった事象 て質の高いサービスを継続的かつ確実に提供することを目指して に関するデータです。 N A B C 三相メータ V1 ディスプレイ I1 V2 AFE マイクロ I2 V3 コントローラ I3 通信用の ノード GND 負荷 パワー・ マネージメント L1 L2 単相メータ V1 ディスプレイ AFE マイクロ I1 コントローラ 通信用の GND ノード 負荷 パワー・ マネージメント 図1. スマート・メータのブロック図。 三相、単相の場合の構成要素を示しています。 VISIT ANALOG.COM/JP

これらは、配電ネットワークの状態を表す指標として利用できま 約要因になります。コアが飽和すると、スマート・メータの動作 す。では、スマート・メータはどのように実現されているのでしょ に深刻な影響が及ぶからです。飽和を引き起こす要因としては、 うか。 AC電圧に含まれるDCオフセットや、大きなピーク電流、永久 磁石などによって生成される外部磁場などが挙げられます。この 図1に、スマート・メータ（単相／三相）のブロック図を示しま ような制約が存在することから、CTを使用するシステムにはシー した。このような構成によって、電圧と電流の測定値を基に電力 ルドが必要になります。また、悪意を持つ消費者による改ざんを 品質を表す基本的な値が導出されます。電圧／電流の測定値は、 防ぐための保護機構なども必要になります。 電力量計向けに設計されたアナログ・フロント・エンド（AFE） によって処理されます。その結果はマイクロコントローラに引き ホール・センサーは、強度の高い電流の測定に使用できます。ま 渡されます。マイクロコントローラは、それらのデータをディス た、周波数応答に優れるという特徴も備えています。しかし、高 プレイに表示するための処理を行います。あるいは、リモートの 温の環境下では、ドリフトによってそうした長所が制限されてし システムに送信するために通信用のノードにデータを引き渡す場 まいます。そのため、必要な精度を得るには、複数のポイントに 合もあります。パワー・マネージメント・ユニットも、スマート・ おけるシステム・キャリブレーションが必要になります。 メータの構成要素の1つです。 ロゴスキー・コイルは、測定対象の電流が流れる導体と磁気結合 されるインダクタです。CTやホール・センサーと同様に、本質 電圧／電流の測定に使用するセンサー 的に絶縁されているという長所を備えています。磁気結合は空芯 スマート・メータでは、電流の測定が非常に重要な意味を持ちま を介して生じるので、強磁性体が抱える飽和の問題は発生しませ す。電圧の測定については、公称値からのずれは狭い範囲にと ん。ただ、他のセンサーとは異なり、生成される信号が電流の導 どまる可能性が高いと言えます。それに対し、電流のダイナミッ 関数に比例するので、元の信号を復元するには積分器が必要にな ク・レンジは数mAから数百Aと非常に広くなります。その全範 ります。広いダイナミック・レンジと高い直線性を実現し、非常 囲にわたって最大限の精度で測定が行えるようにしなければなり に値の大きい電流を測定するには、安定した積分器を使用しなけ ません。また、電圧の測定は、まれにトランスが使用されること ればなりません。また、ロゴスキー・コイルには、外部磁場の影 もありますが、基本的にはシンプルな抵抗分圧器を使えば実施 響を特に受けやすいという性質があります。このことから、外部 できます。一方、電流の測定には様々なセンサーが使用される可 磁場を使った改ざんを防ぐための仕組みが必要になります。 能性があります。一般的に使われるのは、シャント抵抗、変流器 （CT：Current Transformer）、ロゴスキー・コイル、ホール・ 次世代のスマート・メータに最適なmSure技術 センサー（ホール効果センサー）の4つです。それぞれのセンサー スマート・メータには、長期間にわたって正常に動作することが には異なる長所と短所があります。例えば、米国の場合、スマー 求められます。その連続稼働期間は10年以上に及ぶ可能性があ ト・メータではシャント抵抗がよく使用されています。そのメリッ ります。安定性の高いICを採用して優れた設計を行うことで、そ トはコストの面にあり、現実的な選択だと言えます。その一方で、 のような期間にわたって高いレベルの精度を維持することが可能 シャント抵抗はジュール熱による自己加熱という大きな欠点を抱 になります。ただ、センサーの性能は、雷、電流スパイク、電圧 えています。このことが理由で、値の大きな電流に対しては使用 トランジェントなどの環境的な事象の影響で永続的に変化してし することができません。 まう可能性があります。そのような変化は、高度な診断システム CTの場合、最大電流についてシャント抵抗のような制約はあり を使用しなければ検出することができません。この課題の解決に ません。CTは、本質的に絶縁型のデバイスだからです。このこ 向けて、アナログ・デバイセズはスマート・メータ用の新たな診 とが、CTの大きなメリットになります。CTの形は環状（トロイ 断技術であるmSure®を開発しました。この技術を活用すれば、 ド）であり、導体から成る1次巻線には測定の対象となる電流が 測定システムの状態をリアルタイムに確認し、環境要因の影響 流れます。2次巻線では、コアとして強磁性材料が使用されます。 がセンサーに及ばないよう保護する機能を提供することができま 2次巻線の巻数によってトランスの巻数比が決まります。CTの す。また、改ざんを検出するための診断機能を実現することも可 欠点は、シャント抵抗よりもコストが高く、占有面積が大きくな 能です。 ることです。また、CTでは、強磁性体から成るコアが大きな制 2 スマート・メータ向けの先進的なフィールド診断技術

図2は、mSureの動作原理を説明するためのものです。まず、図 mSureは非侵襲性の技術であり、スマート・メータが通常の動作 2（上）に示した標準的な電力量計について説明しておきます。 を行っているときに機能させられます。また、電力の測定結果と このタイプの電力量計は、帰還パスのないオープンループ・シス して正確な値を得るために、測定値に対するmSureの寄与分を テムとして動作します。センサーによって取得された電流／電圧 検出し、その値を差し引くブロックが設けられています。このよ の信号にはゲインが与えられ、デジタル・データへの変換が行わ うな仕組みであることから、スマート・メータの精度はリファレ れます。つまり、このシステムからはデジタル領域のデータが抽 ンス・ブロックの精度に依存することになります。そのため、リ 出されます。トータルの誤差には各コンポーネントが寄与します。 ファレンス・ブロックは、システムで使用されるセンサーよりも 最後にキャリブレーションによって初期誤差を補正することで、 高い精度を達成するように設計されています。 電力量計の精度が仕様の範囲内にあることが保証されます。 mSureにおいて、自動キャリブレーション機能はいつでも作動さ 標準的な電力量計をフィールドに設置した後、その精度を確認す せられます。キャリブレーション・データは、測定用シグナル・ るにはどうすればよいでしょうか。実は、電力量計を取り外して チェーンのゲインに基づいて生成されます。キャリブレーション 実験室で評価する以外に現実的な方法はありません。より非侵襲 用の高価な評価システムを使用することなく、このデータを高い 的な代替策は生産バッチの性能を検証することですが、それには 精度で抽出することが可能です。スマート・メータを電源に接続 コストがかかります。 すると、セルフキャリブレーションが始まります。負荷はあって もなくても構いません。 一方、図2（下）は、mSureを適用したスマート・メータのブ ロック図です。こちらは、より複雑なクローズドループ・システ mSureを適用したスマート・メータの場合、フィールドに設置 ムとして実現されています。それにより、フィールドにおいてリ した後も、連続的に、あるいは設定した時間間隔で、その精度 アルタイムに精度を検証することができます。このクローズド を確認することができます。精度にドリフトが生じた場合には、 ループ・システムは、センサーにリファレンスを供給するための 電力量の測定結果として正確な値が得られるようにキャリブレー リファレンス・ブロックを備えています。同ブロックは、非常に ション・データを修正することが可能です。現時点では、政府の 高精度で安定したリファレンス信号を生成します。この信号は測 規制により、標準的な電力量計のキャリブレーション・データを 定用のシグナル・チェーン全体を通過した後、検出ブロックで再 フィールドで変更することは許されていません。しかし、mSure 取得されます。このような構成により、シグナル・チェーン全体 を採用すれば、電力会社は必要に応じて即座にこの仕組みを導入 をリアルタイムで監視し、ゲインやドリフトのような誤差を検出 することができます。より広範にわたってキャリブレーションの することが可能になります。それらの誤差は、連続的なキャリブ 仕組みを導入すれば、電力量の差を正確に見積もれるようになる レーションによって調整されます。また、mSureがもたらす非常 でしょう。 に大きなメリットの1つは、不正行為を検出できることです。改 「ADE9153B」、「ADE9322B」は、mSure®を適用した電力量 ざんが行われる場合、ほとんどのケースでは測定用のシグナル・ 計ICです。次世代のスマート・メータに最適な製品であり、セン チェーンのゲインを改変するということが行われます。オープン サーの監視機能とセルフキャリブレーション機能を提供します。 ループ・システムとは異なり、mSureでは、そうした改変を即座 に検出することが可能です。 オープンループ・システム Serror Gerror ADCerror I/V 電力のデータ センサー ゲイン ADC ［トータルの誤差］ = Serror × Gerror × ADCerror mSureのクローズドループ・システム Serror Gerror ADCerror I/V 電力のデータ センサー ゲイン ADC 除去 キャリブレーション・データ リファレンス 検出 REFerror Derror 図2. mSureのクローズドループ・システム。 オープンループ・システムとの比較を示しています。 VISIT ANALOG.COM/JP 3

Analog Devices 電力会社向けのエッジtoクラウドのソリューション メータの状態の監視機能：  メータの寿命の延伸  メータに関するアセット計画 　 の最適化 mSureのデータ：  コストのかかるサンプル・ 01234 高度検針インフラストラクチャ テストの削減 （AMI：Advanced Metering  センサーの故障の検出 Infrastructure）ネットワーク  消費者からの信頼感の向上 を介してEASに送信 Analog Devices 測定用のフロ 収益を保護するための機能： センサー ント・エンド 測定した電力のデータ： AMIネットワークを介して  最適な手法で損失を低減 電力会社のデータ・センター  改ざんの対象に優先度を設定 に送信  調査プロセスの効率化  電力損失の見積もり  将来にわたる電力の窃盗の回避 図3. 電力会社向けの エッジtoクラウドのソリューション 「Energy Analytics Studio」による クラウド・ベースの分析 著者について mSureに関連するものとして「、Energy Analytics Studio（EAS）」 Cosimo Carriero（cosimo.carriero@analog.com）は、 も提供しています。EASは、mSureをサポートするクラウド・ アナログ・デバイセズのフィールド・アプリケーション・ ベースの分析サービスです。各メータの状態を確認し（ヘルス・ エンジニアです。戦略面で重要な位置づけにある顧客に対 モニタリング）、最終的には電力会社の収益を保護することに貢 し、技術サポートを提供しています。2006年の入社以前 献します。スマート・メータが備えるマイクロコントローラでは、 は、イタリア国立核物理学研究所（INFN）などにおける核 mSure Managerというソフトウェアが実行されます。それによ 物理学用計測器の定義と開発、小規模企業との連携、FA用 り、スマート・メータのパラメータに関連するデータの報告が行 のセンサーやシステムの開発、Thales Alenia Spaceにお われます。報告の頻度はオペレータが指定することが可能です。 ける業務などに従事。衛星用の電源管理システムを担当す mSure Managerを使用すれば、単一のメータはもちろん、特定 るシニア設計エンジニアを務めていたこともあります。イ の地域（何らかの異常気象の影響を受けた地域など）に配備され タリアのミラノ大学で物理学の修士号を取得しています。 たすべてのメータ、特定の生産バッチに属するすべてのメータと いった条件でそれぞれの状態を確認することができます。 EngineerZone® まとめ オンライン・サポート・コミュニティ mSureは、フィールドにおけるスマート・メータのリアルタイム アナログ・デバイセズのオンライン・サポート・コミュ 診断を可能にする革新的な技術です。また、EASと組み合わせる ニティに参加すれば、各種の分野を専門とする技術者と ことにより、メータの状態を遠隔で監視することもできます。障 の連携を図ることができます。難易度の高い設計上の問 害が発生した場合の介入の必要性を低減したり、不正行為を防止 題について問い合わせを行ったり、FAQを参照したり、 したりすることも可能です。その結果、メータの平均耐用年数を ディスカッションに参加したりすることが可能です。 延伸しつつ、最適なメータ管理によって損失を抑え、電力会社に 経済的なメリットをもたらすことが可能になります。 Visit ez.analog.com ＊英語版技術記事はこちらよりご覧いただけます。 VISIT A N A L O G . C O M / J P お住いの地域の本社、販売代理店などの情報は、analog. ©2021 Analog Devices, Inc. All rights reserved. com/jp/contact をご覧ください。 本紙記載の商標および登録商標は、各社の所有に属します。 Ahead of What’s Possibleはアナログ・デバイセズの商標です。 オンラインサポートコミュニティEngineerZoneでは、アナ ログ・デバイセズのエキスパートへの質問、FAQの閲覧がで きます。 TA23231-10/21