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電力品質の監視に用いる次世代技術、産業用装置の健全性を高める

製品カタログ

米国の大規模な産業施設では、電源の変動や電圧の乱れ(disturbance)といった問題に起因して毎年1000億米ドル(約11兆円)を超える損失が発生しているといいます。

電力品質の低さは、究極的には装置のダウンタイムに伴う経済的な損失、保守作業の増加、耐用年数の短縮につながります。本稿では、電力品質の低さが産業用装置に及ぼす影響について分析し、機器の健全性を最大限に高める方法について考察します。

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ドキュメント名 電力品質の監視に用いる次世代技術、産業用装置の健全性を高める
ドキュメント種別 製品カタログ
取り扱い企業 アナログ・デバイセズ株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧)

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技術記事 | Share on Twitter | Share on LinkedIn | Email 電力品質の監視に用いる次世代技術、 産業用装置の健全性を高める 著者: Niranjan Chandrappa、Swarnab Banerjee Analog Devices, Inc. はじめに 利害関係者が技術を最大限に活用すれば、高価なインフラにク リーンな電力を供給できるようになります。結果として、イン 米国電力研究所(EPRI:Electric Power Research Institute)は、 フラの耐用年数を延長するという大きなメリットが得られま 最近1つの調査結果を公開しました。それによれば、米国の大規 す。 模な産業施設では、電源の変動や電圧の乱れ(disturbance)と いった問題に起因して毎年1000億米ドル(約11兆円)を超える ここでいう電力品質とは、消費者に供給される電力に生じる様 損失が発生しているといいます。一般家庭で照明がちらついて 々な変動のことを指します。変動の要因としては、配線の問 いるだけなら、苛立ちを覚える程度で済むでしょう。しかし、 題、接地の問題、スイッチング時のトランジェント、負荷の変 工場で電力に関する問題が発生すると、高価な装置が誤動作し 動、高調波の発生などが挙げられます。電力品質の低下が検出 たり、導入したばかりの装置に故障が生じたりする可能性があ されないまま放置されると、高価な装置が故障に至ることがあ ります。電力品質に関する小さな事象は、従来の保護機構では ります。欧州の場合、電力系統の運用者によって供給される電 検出することができません。結果として、そのまま放置されて 力の品質は、国のグリッド・コードと欧州の規格(EN 50160) しまうことがあります。その場合、時間が経過するにつれて装 によって定められたパラメータの集合によって定義されます。 置が劣化してしまうかもしれません。また、電力品質の乱れを 供給電圧に乱れが生じると、デバイスに正弦波形を成していな 引き起こす原因は、同じネットワークに接続された負荷である い電流が流れ、過熱、誤動作、早期の劣化といった多くの技術 ことが少なくありません。そうすると、隣接する施設や建物に 的な問題が生じる可能性があります。正弦波形を成していない までその乱れが伝播することになります。電力品質の課題に対 電流は、変圧器やフィーダ・ケーブルなどのネットワーク・デ 処するには、入力を監視すると共に、負荷によって生成される バイスに熱ストレスや絶縁ストレスを与えます。電力品質の低 乱れも監視する必要があります。そうすれば、装置を適切に保 さは、究極的には装置のダウンタイムに伴う経済的な損失、保 護すると共に、問題を改善するための適切な対策を見いだすこ 守作業の増加、耐用年数の短縮につながります。本稿では、電 とが可能になります。 力品質の低さが産業用装置に及ぼす影響について分析し、機器 の健全性を最大限に高める方法について考察します。 analog.com/jp
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2 電力品質の監視に用いる次世代技術、産業用装置の健全性を高める 2% 1% 1% 1% 1% 5% 電圧のディップ 6% 10% 23% 高調波 配線、接地 15% コンデンサのスイッチング 48% 5% 負荷の相互作用 29% その他 EMF/EMI 13% 22% 電力のコンディショニング 18% (a) (b) 図1. 電力品質の問題の原因。 米国(a)と欧州(b)について分析した結果です。 電力品質の乱れが生じる原因 図1(a)は、EPRIが配電系統の電力品質について調査した結果 です。米国全域の24の電力会社を対象としています。電力品 質に関するインシデントの大多数(85%)は、電圧のディップ (下降)/スウェル(上昇)、高調波、配線、接地の問題に起 フリッカ 高調波 因して生じています。一方、図1(b)は欧州で行われた電力 品質に関する調査の結果です。EU-25(2004年時点のEU加盟 国)において、電力品質の問題に起因する経済損失は、年間で 電力品質 1560億米ドル(約17兆円)以上に達すると見積もられていま す。産業環境では、大きな負荷が存在する状態でシステムを起 動/停止することによって電圧の降下や上昇が生じます。その 結果、ネットワークの電圧が標準的な動作条件の範囲から逸脱 する可能性があります。多くの装置は、一定の動作条件の範囲 内で動作することを前提として設計されています。そのため、 スウェル ディップ 電圧のディップやスウェルが長引くと、システム/プロセスの 停止につながります(図2)。今日のビジネス環境に鑑みて、 図2. ネットワークにおいて 多くの企業は太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギ 電圧/電流を変化させる要因 ーを利用したローカルの発電に注目しています。実際、そのた めの設備の導入を検討したり、既に導入したりしています。多 電力品質の規格 くの場合、分散型の発電設備には、電気設備としてスイッチ ング電源が必要になります。パワー・エレクトロニクスやスイ 電力品質に対処して管理するには、信頼性の高い監視方法やリ ッチング電源の利用が進むにつれ、産業装置における電力品 ポート方法を見いださなければなりません。準拠すべきものと 質の問題については、より一般的な原因として高調波が浮上し しては、IEC 61000-4-30のクラスA/クラスS、IEC61000-4-7の ます。高調波が送電線に印加されることで電力品質が低下し、 高調波測定、IEC 61000-4-15のフリッカ関連の規格が存在しま 変圧器やケーブルなど、送電ネットワークに接続されるすべて す。多くの電力会社はこれらの電力品質規格を採用し、規則を のデバイスに影響が及ぶ可能性があります。多くの場合、施 定めて運用を行っています。そうした規則を満たさない顧客に 設の管理者は、大きな高調波(電流)の影響を、ネットワーク 対しては、電力会社がペナルティを科す場合もあります。各規 のコンポーネントに対する過負荷として観測することになりま 格は、現実のアプリケーションの電力品質に対する共通理解を す。それらのコンポーネントにおけるトータルの損失が0.1% 確立する役割を果たします。また、ユーザに対しては、事象に ~0.5%増加すると、保護用のデバイスが作動する可能性があ 関連する問題を解決するための正確なデータが得られるという ります。電力品質の低下につながるその他の要因としては、 確信をもたらします。送電ネットワークでは、電圧の降下/上 位相の差動ローディング、配線や接地方法の誤り、負荷の相 昇、フリッカ、公称定格値の変動、高調波に起因する歪みが生 互作用、EMI(Electro Magnetic Interference)/EMC(Electro じます。それらすべてには、ネットワークの電気的な健全性に Magnetic Compatibility)、大きなリアクティブ・ネットワー 関する重要な情報が含まれています。電力に関連するパラメー クにおけるスイッチングなどが挙げられます。 タの測定精度は、信頼性/再現性の高い結果を得るための重要 な要素です。
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3 電力品質の監視に用いる次世代技術、産業用装置の健全性を高める ADE9000による高調波の取得 ADE9000によるフェーザの取得 位相 A THD (%) 6.9 –240 160 位相 A B C 80 VTOTAL 112.4 109.3 110.8 0 VFUNDAMENTAL 112.18 108.65 110.6 0 –80 周波数 60.12 60.2 60.15 位相 0 –122 –240 –160 0 0.02 0.04 0.06 0.08 0 VF 3 5 7 9 –120 高調波 次へ 前へ 停止 保存 05:35:02 PM 10-22-2016 次へ 前へ 停止 保存 05:32:51 PM 10-22-2016 図3. 電力品質モニタによって 取得した情報のレポート 電力品質の監視による送電網と機器の また、その種のAFEは、電圧の降下量/上昇量、RMS値、位相 健全性の向上 シーケンス誤差、力率の値を算出して出力します。加えて、入 力信号からライン周波数の高周波成分を取得して出力すること 電力品質の監視に使用されるデバイスは、システムの性能全体 も可能です。アナログ・デバイセズは、電力品質の監視用の の評価、予防保全の支援、状態と傾向の監視、ネットワークの AFEとして「ADE9000」という世界最高水準の製品を開発しま 性能とプロセス設備に対する感度の評価を通して、エネルギー した。これを採用すれば、複雑な計算のほとんどを実行してく 効率を改善するための情報を提供します。電力品質の監視シ れます。その結果、電力品質の監視システムの実装にかかる時 ステム(モニタ)に接続されるネットワークを送電システムに 間を短縮し、労力を軽減することが可能になります(図3、図4 実装し、未処理の測定データを収集して相互に関連づけること )。 により、電力品質の乱れの原因を特定することができます。ま た、電力品質モニタを設備の設計に組み込むことで、より密な 統合と制御を実現することも可能です。機器固有の電気的なシ 1.25Vの ADE9000 リファレンス グネチャを取得すれば、全体的な健全性を把握することができ デジタル・ブロック ます。データの分析と診断によって得られた結論は、電力品質 PGA ADC の改善に向けた次世代の保護アルゴリズムや製品を設計する際 同期、デシメーション に活用可能な信頼できる情報になります。 PGA ADC DSPエンジン 既に装置が工場に配備されている場合、電力品質のプロファイ 全信号と イベントの ルを使用することで、問題に対する最良の緩和策を見いだすこ 基本波 割り込み (IRMS、VRMS、 とができます。例を挙げると、インドのある産業施設について PGA ADC 有効電力、無効電力、 皮相電力、電力量)、 電力品質のプロファイリングを行ったところ、電圧と電流の波 VTHD、ITHD、 周波数、 形に深刻な歪みが生じていることが明らかになりました。詳細 位相角、 PGA ADC 力率、 な分析を経て、その工場にはハイブリッド型の力率補正システ VPEAK、IPEAK、 デジタル値から ディップ、スウェル、 周波数値への変換 ムが実装されました。その新たなシステムによって高調波歪み 過電流、高速rms、 (CF ) 10/12サイクルrms、 は50%改善され、力率は-0.5から0.9に向上しました。 位相シーケンス誤差 PGA ADC 最新の電力品質アナライザ ユーザがアクセス 可能なレジスタ PGA ADC 従来、高精度な電力品質アナライザを設計するには高度な技術 リサンプリング・ 的スキルが必要でした。多くの場合、ディスクリート部品を使 エンジン SPI 用すると共に、電力品質を測定するための独自のアルゴリズム PGA ADC を開発しなければなりませんでした。それに対し、現在では電 力品質アナライザ向けに、新たなアナログ・フロント・エン 温度 SAR 波形のバッファ センサー (ADCによる32kSPS/8kSPSの ド(AFE:Analog Front End)が提供されるようになっていま サンプルまたはリサンプル・データ) す。そうしたAFEには、全体的なゲインのドリフトが小さい複 数のA/Dコンバータ(ADC)と1つのDSPコアが集積されます。 図4. ADE9000の機能ブロック図。 このような統合型のAFEは、ディスクリート部品を使用した設 集積度の高い多相電力/電力品質の監視用ICです。 計とカスタムのアルゴリズムの開発に伴う複雑さを緩和し、コ ストの削減に貢献します。 振幅
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トワーク内で複数のノードからのリアルタイム・データを活用 B することにより、電源の乱れを検出して負荷を隔離することが 可能になります。機器の診断や予防保全、問題の原因となって ADE9000 I いる負荷の隔離を行うためには、データの分析が非常に有効で アクイジション プロセッサ インターフェース す。そうした分析によって、プロセスの中断回数を低減し、装 置の耐用年数を延長してアップタイムを改善することが可能に 電力の監視システム なります。 図5. 電力品質の監視システムの まとめ 一般的なシグナル・チェーン 世界のエネルギー需要は、年に約5%のペースで増加すると予想 ビッグ・データの分析で、 されています。また、送電網に接続されている装置の規模と複 エネルギー関連のインテリジェンスを高める 雑さは増大し、それに比例して電力品質の問題も増えていくと 考えられます。現代の企業は、クリーンで信頼性が高く、常時 現 在 は 、 産 業 環 境 に お け る 個 々 の デ バ イ ス の 接 続 性 が 高 ま 利用可能な電気エネルギーにより強く依存するようになってい り、IoTの導入が加速している状況にあります。それにつれて、 ます。電力品質を監視するための次世代技術を活用することに 分散型設備からの電力品質の情報が新たな形で収集/活用され より、産業用装置の早期の故障や疲弊などが生じる確率を低減 るようになりました。例えば、履歴の傾向を分析すれば、生じ し、クリーンな電力がもたらすメリットを享受することが可能 つつある問題を早期に検出することができます。また、ネッ になります。 著者について オンライン・ Niranjan Chandrappa(niranjan.chandrappa@analog. サポート・ com)は、アナログ・デバイセズのプロダクト・アプリ コミュニティ ケーション・エンジニアです。エネルギー・マネージメ ント製品グループに所属しています。以前は、WiTricity アナログ・デバイセズのオンライン・サポート・コミュ とユタ州立大学 パワー・エレクトロニクス研究所で、ハ ニティに参加すれば、各種の分野を専門とする技術者 ードウェアやファームウェアに関するエンジニアリング との連携を図ることができます。難易度の高い設計上 職に従事。ワイヤレス電力伝送システムの設計経験も有 の問題について問い合わせを行ったり、FAQ を参照し しています。2014年にユタ州立大学で電気工学の修士号 たり、ディスカッションに参加したりすることが可能 を取得しました。 です。 Swarnab Banerjee(swarnab.banerjee@analog.com) は、アナログ・デバイセズのシステム・エンジニアリ ez.analog.com にアクセス ング・マネージャです。エネルギー・マネージメント 製品グループに所属で、スマート・グリッド向けの電 * 力供給/電力変換に関して高まる技術的なニーズに対応 英語版技術記事はこちらよりご覧いただけます。 しています。以前は、Core Innovation、Boulder Wind Power、Princeton Power Systemsで技術管理職に従 事。様々な送電/配電システムを開発した経験を持ちま す。2件の特許を取得済みで、3件の特許を申請中。電気 工学の学士号を取得しています。 本    社 〒105-6891 東京都港区海岸1-16-1 ニューピア竹芝サウスタワービル 10F 大阪営業所 〒532-0003 大阪府大阪市淀川区宮原3-5-36 新大阪トラストタワー 10F 名古屋営業所 〒451-6038 愛知県名古屋市西区牛島町6-1 名古屋ルーセントタワー 38F ©2021 Analog Devices, Inc. All rights reserved. 本紙記載の商標および登録商標は、 各社の所有に属します。 Ahead of What’s Possible は アナログ・デバイセズの商標です。 www.analog.com/jp TA15610-0-2/17(A)