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状態監視システムの設計時に求められる選択、その結果がシグナル・チェーンの実装に及ぼす影響とは?

製品カタログ

状態監視システムを構築するには、センサーに接続するデータ・アクイジション(DAQ)用のシグナル・チェーンを設計する必要があります。本稿では、その際に考慮すべき事柄について解説します。

最初に、システムのアーキテクチャ、センサーの種類、解析方法などに関する選択がDAQ用のシグナル・チェーンの設計にどのような影響を与えるのか明らかにします。それを通して得られた理論がどのように現実として現れるのか、シグナル・チェーンの2つの設計例を基に検討を実施します。

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ドキュメント名 状態監視システムの設計時に求められる選択、その結果がシグナル・チェーンの実装に及ぼす影響とは?
ドキュメント種別 製品カタログ
取り扱い企業 アナログ・デバイセズ株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧)

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Technical Article 状態監視システムの設計時に 求められる選択、その結果が シグナル・チェーンの実装に 及ぼす影響とは? 著者:Naiqian Ren、アプリケーション・エンジニア 概要 かもしれません。初期の障害の兆候を適切に検出して分類するに 状態監視システムを構築するには、センサーに接続するデー は、状態監視システムに様々なセンシング・モダリティに対応す タ・アクイジション(DAQ)用のシグナル・チェーンを設計 る性能の高いセンサーを設ける必要があります。そして、各セン する必要があります。本稿では、その際に考慮すべき事柄に サーの検出能力をフルに活用するために、それに見合った性能の ついて解説します。最初に、システムのアーキテクチャ、セ DAQ用シグナル・チェーンも用意しなければなりません。そう ンサーの種類、解析方法などに関する選択がDAQ用のシグナ すれば、専用のアルゴリズムを使用し、各種のデータを組み合わ ル・チェーンの設計にどのような影響を与えるのか明らかにし せて処理することで、監視の対象となるアセットの状態を判断す ます。それを通して得られた理論がどのように現実として現れ ることが可能になります。 るのか、シグナル・チェーンの2つの設計例を基に検討を実施 状態監視システムを設計する際には、多くの選択肢の中から最 します。 適なものを選ばなければなりません。また、それぞれの選択には 様々なトレードオフが伴います。いくつかの選択を行った結果、 はじめに シグナル・チェーンの設計は大きく変化する可能性があります。 状態監視の真の価値は、長期的に見てコストの削減につな がる点にあります。コストの削減は、予知保全(Predictive システム・レベルで考慮すべき事柄 Maintenance)によって保守費用を減らしつつ、予防保全 まずは、DAQ用のシグナル・チェーンを設計する際、システム (Preventative Maintenance)によって製造ラインの予期せぬ のレベルではどのようなことについて検討しなければならないの ダウンタイムを排除することで達成されます。このような価値を か確認してみましょう。 具現化できるかどうかは、状態監視システムが備える障害の検出 /識別能力にかかっています。より詳しく言えば、障害が発生し つつある初期の段階で、その兆候を検出できるかどうかが重要に システムのアーキテクチャ なります。 状態監視(Condition Monitoring。以下、CM)を担うシステム に関して最初に考慮すべきことは、システムのアーキテクチャに 致命的な障害は、おそらくその最終段階になれば容易に検出でき ついてです。センサーとDAQ用シグナル・チェーンの相対的な るでしょう。しかし、障害の初期の段階では、正常な動作状態と 位置に関連して、CMシステムのアーキテクチャにはいくつかの 比べてアセット(装置や設備)にはごくわずかな変動しか生じて 選択肢が生まれます。そして、各アーキテクチャには長所と短所 いないかもしれません。それを障害の兆候として検出するのは容 があります。以下、各アーキテクチャについて詳細に検討してい 易ではないはずです。また、発生した変動は一時的なものである きましょう。 VISIT ANALOG.COM/JP
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集中型のアーキテクチャ X 高い性能:集中型のシステムのほとんどは、複数種のセン 集中型のアーキテクチャでは、図1のように複数のDAQ用の サーに対応するように設計されます。場合によっては、汎用の チャンネルを1ヵ所にまとめて実装します。つまり、DAQ用の DAQ 計測装置として使用できるようにするためにデュアル機 シグナル・チェーンが1ヵ所に集中する形になります。通常、各 能を提供するよう設計されることもあります。そのようなニー チャンネルはボックス型/ラック型の機器にまとめられます。セ ズによって、DAQ 用のシグナル・チェーンの性能については ンサーはそこから離れた場所にあり、アナログ・ケーブルによっ 厳しい要件が課せられます。例えば、広いダイナミック・レン てDAQシステムに接続されます。 ジ、調整可能な帯域幅、直線性の高い AC 性能、高い精度の DC 性能を実現できるように仕様が定められます。 集中型のアーキテクチャ アナログ信号による通信 X 入力部の保護:集中型のシステムの場合、入力端子が外部か 変換器 出力 バッファ らアクセスされることが多くなります。そのため、配線ミス、 DAQ DSP 信号のオーバー・レンジ、ESD(Electro Static Discharge) 変換器 出力 などによる損傷を受けやすいと言えます。したがって、多くの バッファ 場合、入力部を守るための保護回路を設ける必要があります。 図1. 集中型のアーキテクチャ X エイリアスの除去:集中型のアーキテクチャを採用したシステ ムでは、そのベンダーによって、使用するセンサーや入力信 集中型のアーキテクチャは、数多くの計測ソリューションで使わ 号が常に制御されるわけではありません。そのため、DAQ シ れています。例えば、振動の監視に使用されるほとんどのベンチ ステムは、測定の対象となる帯域外の信号のエイリアスやノ トップ型機器や産業用のアナログ入力モジュールはこのアーキテ イズに対して高い堅牢性を備えている必要があります。多くの クチャを採用しています。また、集中型のアーキテクチャはCM 場合、DAQ システムはあらゆる帯域外の信号を完全に除去で 機能を内蔵するアセットの設計においても有用です。つまり、 きるだけの能力を備えていなければなりません。 モータやポンプにCM機能を組み込みたい場合に適しています。 X 消費電力と面積:集中型のアーキテクチャでは、他のアーキ 集中型のアーキテクチャには、以下のような長所があります。 テクチャと比較して、シグナル・チェーンの消費電力とサイズ に対する制約が少なくなります。ただ、より新しいシステムの X ケーブルのコストを抑えられる:センサーと DAQ システムの 中には、より高いチャンネル密度を必要とするものがあります。 間で長距離にわたって信号を伝送するためにはケーブルが必 その場合、設計時に考慮すべき事柄の中で、シグナル・チェー 要です。このアーキテクチャを採用した場合、通常は低コスト ンのサイズと熱密度がより重要な意味を持つことになります。 の同軸ケーブルやツイスト・ペア・ケーブルを使用することが できます。 エッジ・ノード型のアーキテクチャ X イ ン タ ー フ ェ ー ス の 堅 牢 性 が 高 い:IEPE(Integrated エッジ・ノード型のアーキテクチャは、集中型のアーキテクチャ Electronics Piezo Electric)や 4 ~ 20mA の電流ループなど、 と比較すると、統合レベルの範囲という面で対極にあるものだと インターフェースには数多くの標準的なプロトコルを利用でき 言えます。エッジ・ノード型のシステムでは、センサー、DAQ ます。それらは、ノイズの多い環境でも、センサー向けに堅牢 用のシグナル・チェーン、信号処理ユニットがすべて近接した位 性の高いインターフェースを実現できるように設計されていま 置に配置されます。エッジにおいて信号の検出、取得、処理を行 す。 う点が特徴です。処理済みのデータは、有線/無線の通信リンク X センサーに対する柔軟性が高い:測定の要件に応じ、単一の を使用してホスト・コンピュータに送信されます。 DAQ システムによって複数種のセンサーに対応できるように 設計することが可能です。 エッジ・ノード型のアーキテクチャ 有線/無線 X 過酷な動作環境に対応できる:動作温度が極めて高い場合や 変換器 DAQ DSP トランシーバー 極めて低い場合など、通常の電子部品が対応していない条件 下でも特定のセンサーを動作させることができます。これは、 図2. エッジ・ノード型のアーキテクチャ センサーと DAQ 用のシグナル・チェーンが物理的に分離さ 多くの場合、バッテリ駆動のスマートなCMシステムは、エッジ・ れていることから得られる長所です。 ノード型のアーキテクチャを採用して構築されます。このアーキ X DAQ 用のシグナル・チェーンをより効率的に実装できる:シ テクチャには、以下のような長所があります。 グナル・チェーンの設計においては、より多くのブロックを共 X 設置が容易:特にワイヤレスのシステムの場合、エッジ・ノー 有することができます。そのため、効率の向上とコストの削減 ド型のアーキテクチャを採用していれば、センサー・ノードの を図ることが可能になります。 間に長いケーブルを引き回す必要がなくなります。 集中型のアーキテクチャを採用したCMシステムでは、シグナ X 設計を最適化できる:システム全体が、より明確に定義され ル・チェーンの設計にどのような要件が求められるのでしょうか。 た自己完結型のものになります。そのため、シグナル・チェー 標準的な要件を以下に列挙します。 ンの設計を最適化することが容易です。 2 状態監視システムの設計時に求められる選択、その結果がシグナル・チェーンの実装に及ぼす影響とは?
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エッジ・ノード型のCMシステムの場合、DAQ用シグナル・ センサー チェーンの設計に対する標準的な要件は以下のようになります。 続いては、センサーの選択に関連する事柄について検討していき ます。 X 性能:どのようなセンサーを DAQ システムに接続する必要 があるのか正確に把握することにより、それに応じて DAQ 用 シグナル・チェーンの設計を調整し、効率を高めることができ センシング・モダリティ ます。但し、バッテリ駆動のシステムでは、電力バジェットが CMシステムでどのようなセンサーを使用するのかは、いくつか 特に限られます。そのため、センサーとシグナル・チェーンの の要因によって決まります。最も重要な要因は、どのようなセン 性能に制限が加わる可能性があります。 シング・モダリティに対応する必要があるのかということです。 例えば、医者が患者の健康についてより適切に診断するためには、 X 入力部の保護:システムが自己完結型であるため、アナログ 複数種のバイタル・サインを監視する必要があります。それと同 の DAQ 用シグナル・チェーンが外界にさらされることはあり じように、アセットの複数のパラメータを監視することで、障害 ません。そのため、シグナル・チェーンの入力部に対する保 の検出精度を高めることができます。例えば、振動の監視は、機 護の要件は緩和されます。 械的な障害の初期段階の兆候を検出するために有効な信頼性の高 X エイリアスの除去:エッジ・ノード型のシステムでは、センサー い手法だということが実証されています。また、障害には発熱が と DAQ システムの間の距離が短く、物理的な構造が自己完 伴う可能性が高いので、温度もCMにおける重要なパラメータに 結型になります。そのため、帯域外の干渉の影響を受ける可 なり得ます。CMにおける一般的なセンシング・モダリティとし 能性は低くなります。それでも、DAQ システムには、ある程 ては、音、電力品質、歪み、トルク、変位なども挙げられます。 度のフィルタ処理が必要になることがあります。センサー用の 特定のCMに必要なセンシング・モダリティは、複数種存在する クロック、電源、通信リンクなど、ノードの内部で生じる干渉 可能性があります。どのような組み合わせが適切であるかは、監 から保護しなければならないからです。とはいえ、干渉の除去 視するアセットの種類や検出する障害の種類によって異なります。 に求められるレベルは集中型のシステムと比べれば軽減され ます。 センサーの種類 X 消費電力と面積:エッジ・ノード型のシステムでは、消費電力 1つのセンシング・モダリティに対して適用可能なセンサーの種 の削減と小型化は当たり前の要件になります。バッテリ駆動 類は1つであるとは限りません。おそらくは、複数種のセンサー のシステムの場合、低消費電力であることは必須です。また、 の中からいずれかを選択することになるでしょう。センサーの種 システムのサイズは、筐体の材料費、設置の難易度に影響を 類が異なれば、特性やインターフェースの要件も異なる可能性 与えます。更に、振動検出システムでは、センサーの機械的 があります。言い換えれば、あらゆるCMシステムに適したセン な特性にも影響が及びます。 サーというものは存在しません。 分散型のアーキテクチャ 例として、振動を監視するケースを考えてみます。振動の検出 分散型のアーキテクチャは、集中型のアーキテクチャとエッジ・ に使用するセンサーには、MEMS(Micro Electro Mechanical ノード型のアーキテクチャの中間に位置づけられるものです。分 System)、圧電(ピエゾ)、ピエゾ抵抗(ダイナミック・ストレ 散型のアーキテクチャでは、DAQ用シグナル・チェーンをセン イン・ゲージ)といった種類が存在します。例えば、MEMS加速 サー側に配置します。つまり、DAQ用のシグナル・チェーンが 度センサーは、低消費電力、軽量、小型といった特徴を備えてい 分散する形になります。一方、データ処理の機能はセンサー側 ます。そのため、エッジ・ノード型のアーキテクチャを採用した には限定的にしか搭載しないか、全く搭載しません。センサーか CMシステムに最適です。一方、圧電方式の加速度センサーは非 ら取得したデータは、後処理を行うために、RS-485や10BASE- 常に広い帯域幅に対応すると共に、高いダイナミック・レンジ性 T1L(イーサネット)に対応するデジタル有線リンクを介して集 能を備えています。また、IEPEに対応するインターフェースを備 中型のホストに送信されます。 えた圧電センサーであれば、振動監視用の様々な機器に適合しま す。こうした各種の振動センサーを併用し、集中型のCMシステ 分散型のアーキテクチャ デジタル通信 ムを構築することも可能です。 変換器 DAQ トランシーバー トラン MEMSセンサーと圧電センサーのインターフェースに対する要件 シーバー DSP 変換器 DAQ トランシーバー は大きく異なります。MEMSセンサーの中には、デジタル出力を 備え、マイクロプロセッサに直接接続できるものがあります。し 図3. 分散型のアーキテクチャ かし、高性能のMEMSセンサーのほとんどはアナログ出力を備 えています。そのため、DAQ用のシグナル・チェーンが必要に 分散型のアーキテクチャには次のような長所があります。まず、 なります。通常、MEMSセンサーには3.3V~5Vの単一電源か 通信用のインターフェースとして標準化された技術を利用できま ら給電します。この仕様であれば、DAQ用のシグナル・チェー す。また、より大規模なFA(Factory Automation)システム ンと電源を共有することが可能です。では、IEPEに対応するイ と容易に統合することが可能です。 ンターフェースを備えた圧電センサーの電源はどのようになるで 分散型システムのシグナル・チェーンを設計する際に考慮すべき しょうか。通常は、2線式のケーブルを介し、24Vの電源で生成 事柄は、エッジ・ノード型システムの場合と同様です。 した約4mAの定電流源によって電力を供給することになります。 VISIT ANALOG.COM/JP 3
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また、圧電センサーの出力は、DCバイアス電圧(通常は8V~ 対象となる帯域全体で平坦な応答を示すセンサーを選択しな 10V)にAC信号が重畳した形になります。したがって、得られ ければなりません。加えて、平坦な通過帯域応答が得られる たアナログ信号をA/Dコンバータ(ADC)によってデジタル値 フィルタを設計する必要があります。 に変換するためには、事前にバッファリング、減衰、レベル・シ X 帯域外の信号の除去:CM システムにとって、対象とする帯 フトを施しておく必要があります。 域外の信号は何の役にも立ちません。というよりも、貴重な 処理能力を浪費したり、対象となる本来の信号の品質低下を チャンネル数 招いたりする原因になり得る厄介な存在です。したがって、 センサーに関連してもう1つの考慮すべきことは、使用するセン DAQ 用シグナル・チェーンでは、帯域外のすべての信号を除 サーの数です。これは、DAQのチャンネル数に直接影響を及ぼ 去することが望まれます。 す可能性があります。CMシステムでは、アセットの状態をより X ノイズ:CM システムの測定系では、信号の平坦性と同様 完全に把握するために、同じ種類のセンサーを複数個所に配置す に、均一で平坦なノイズ・スペクトル密度(NSD:Noise ることがあります。例えば、1対の振動センサーを直交して配置 Spectral Density)が得られることが理想です。また、ノイズ・ すれば、アセットの振動の大きさに関する情報をより正確に取得 フロアは、対象となる最小の信号の振幅よりも低く抑える必要 することが可能になります。また、3軸の振動センサーを使用す があります。FFT 処理を行うと、処理ゲインによって、周波 る場合、任意の角度位置に取り付けても全方向の振動を完全に感 数領域の出力におけるノイズ・フロア全体を低減できるという 知することができます。ある種の障害の診断方法では、複数の信 付加的なメリットが得られます。簡単に言えば、処理するサン 号の位相差も利用して、三角測量によって障害の位置を特定しま プル・データの数が多くなるほど、ビンの幅が狭くなり、各ビ す。そのためには、CMシステムにおいて、同じ種類の複数のセ ン内のノイズの電力が低下するということです。それにより、 ンサーからの信号を同時に取得しなければなりません。その場合、 測定系のダイナミック・レンジを人為的に広げることができ DAQ用のシグナル・チェーンには、同時サンプリング、位相の ます(周波数領域でのみ)。そうすると、ノイズ・フロアを下 マッチング、チャンネル間での同期サンプリングの機能が必要に 回ってしまうような信号の解析も行えるようになります。処理 なります。 ゲインを利用する上では、大容量のメモリが必要なことと処 理時間が長くなることが制約になります。測定系のシグナル・ 解析方法 チェーンのスプリアスフリー・ダイナミック・レンジ(SFDR) DAQ用のシグナル・チェーンを設計する際には、どのような解 も、測定すべき信号の最小振幅に影響を及ぼします。 析方法を選択するのかということも重要になります。 X 動的な直線性:周波数領域の高調波解析では、高調波歪みが 抑えられていることが重要です。測定系のシグナル・チェーン 周波数領域の解析 に非直線性が存在すると、それに起因して高調波が生成され 周波数領域の解析は、動きを伴う機械を監視するために一般的に ることがあります。その場合、障害の状態に起因する高調波 使われる手法です。回転機械の場合、振動、音、電力品質などの の変動が埋もれてしまう可能性があります。 センシング・モダリティによって、基本周波数の整数倍の高調波 が検出されます。機械の動作状態を解析する上では、最初のス 時間領域の解析 テップとして、それらの高調波の振幅と周波数を特定します。 本来、周波数領域の解析は、回転機械によって生じるような周期 的な振動の監視に限定して使用されるものです。直線運動や往復 周波数領域の情報は、時間領域のサンプル・データにFFT(高速 運動などのように非周期的に動作するアセットや、油圧/空気圧 フーリエ変換)を適用することによって取得することができます。 シリンダのように特定のタイミングで動作するアセットを監視す 周波数解析を行うためには、DAQ用シグナル・チェーンを設計 るためには、時間領域の解析が必要になります。但し、回転機械 する際、以下のようなパラメータについて考慮する必要がありま を監視する場合でも、衝撃パルス法といった特定の解析方法を使 す。 用する場合には、時間領域のデータ解析が行われることがありま X 対象とする帯域幅:測定の対象とする帯域は、監視するアセッ す。 トの特性と障害の種類によって決まります。例として、ギアボッ 時間領域の情報は、サンプルリングしたデータの波形を解析する クスのベアリングを監視するケースを考えます。その場合、振 だけで得ることができます。時間領域の解析を行う場合、DAQ 動の監視に必要な帯域幅は、風力発電タワーの構造体の揺れ 用のシグナル・チェーンを設計する際には、以下のようなパラ を監視する場合よりも大幅に広くなる可能性があります。CM メータについて考慮する必要があります。 用のシグナル・チェーン全体として、対象となる最大の周波 X 数成分を十分にカバーできるだけの帯域幅が必要です。 対象とする帯域幅:測定系のシグナル・チェーンでは、対象 とする最大周波数の信号の波形が歪まないように帯域幅を十 X 振幅の平坦性:通常、周波数解析では、対象とする周波数範 分広くとらなければなりません。通常、測定に必要な帯域幅 囲全体にわたって振幅応答が平坦であることが望まれます。 を決めるのは、過渡的な現象によって発生する周波数成分で つまり、ゲインは周波数に対して一定でなければなりません。 はなく、過渡的な現象によって生じた信号の振動周波数です。 周波数に対する振幅応答の変動は、センサーの応答と、DAQ 衝撃パルス法による監視を行う場合など、過渡的な現象によっ 用シグナル・チェーンで行われるフィルタ処理の応答の両方 て誘起される信号の振動は、センサーの共振周波数によって に起因する可能性があります。良好な平坦性を得るには、まず、 決まる場合があります。 4 状態監視システムの設計時に求められる選択、その結果がシグナル・チェーンの実装に及ぼす影響とは?
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X サンプリング・レート:周波数解析では、サンプリング定理に シグナル・チェーンの設計例(その1) 従わなければならないといった制約はありません。つまり、信 まずは1つ目のシグナル・チェーンを紹介します。 号のサンプリング・レートを、監視の対象となる最大周波数 の 2 倍より高く設定しなければならないわけではありません。 システムの要件 それとは対照的に、時間領域の解析では、対象とする信号の システムの要件は以下のように定義することにします。 最大周波数よりも、サンプリング・レートをはるかに高く設定 しなければならないことがあります。これは、監視の対象とな X エッジ・ノード型のアーキテクチャを採用。3V ~ 3.6V の電 る信号が周期的な性質ではなく過渡的な性質を備えているか 源電圧を使用するバッテリ駆動のシステム らです。過渡的な信号を高いレートでサンプリングすれば、山 X ± 50g の測定レンジで 1 軸の振動検出を実施 や谷の大きさ、変化率など、信号波形のプロファイルを容易 X 最高 10kHz の(応答が平坦な)帯域幅に対して周波数解析を に解析できるようになります。ピーク値に対する最大誤差の比 実施する 率は、1-cos( π /OS) という式に基づいて求められます。こ X 10kHz の帯域幅にわたり 80dB を超えるダイナミック・レン こで、OS はオーバーサンプリング比であり、信号の周波数に ジ 対する実効サンプリング・レートの比に相当します。例えば、 過渡的な信号の振動周波数を 10 倍でオーバーサンプリングす X 衝撃パルス法を含む時間領域の解析に対応。サンプル・レー ると、ピーク値の検出精度を± 5% 未満に抑えることができ トは 128kSPS ます(図 4)。 X フルスケールまでの全範囲にわたり、動的な非直線性が 0.1% 以下 ピーク値の検出 X ノイズの多い環境での動作が可能。電磁干渉(EMI)を除去で 過渡的な信号 きる サンプリング・ポイント センサーの選択 振動の検出には、MEMS加速度センサー「ADXL1002」を使用し ます。この製品は、求められる主要な性能を満たしています。ま た、消費電力が少なく、フォーム・ファクタが小さいので、エッ ジ・ノード型のシステムに最適です。 時間 ADXL1002では、平坦な応答が得られる帯域幅が11kHzに達し 図4. 過渡的な信号のサンプリング。時間領域で ピーク値を検出するには、オーバーサンプリングが必要です。 ます。そのため、10kHzの帯域幅にわたる周波数解析に対応でき ます。共振周波数は21kHzです。この周波数の信号をオーバー X ノイズ:各サンプル・データに含まれるノイズは、時間領域の サンプリングすることで、衝撃パルス法などの時間領域の解析に 波形の振幅の検出精度に直接影響を及ぼす可能性があります。 対応することが可能になります。 そのため、時間領域の解析では、トータルの RMS ノイズの値 が重要になります。NSD の平坦性は、実効ノイズ帯域幅全体 ADXL1002の周波数応答 におけるトータルの積分ノイズが必要な測定精度を満たして 15 いる限り、重要ではありません。また、FFT の処理ゲインなど、 デジタル信号処理によるノイズの改善手法は、時間領域の解 10 析では利用できません。 5 X ステップ応答:測定系のシグナル・チェーンでは、良好なステッ プ応答が得られるようにする必要があります。これは、過渡的 0 な信号のプロファイルを正しく再現できるようにするために必 要な要件です。このことは、DAQ 用シグナル・チェーンで使 –5 用するフィルタの設計と選択に影響を及ぼします。 DAQ用シグナル・チェーンの具体的な設計例 –10 100 1k 10k 100k ここからは、CMシステムで使用される2種類のDAQ用シグナ 周波数〔Hz〕 ル・チェーンの設計例を紹介していきます。それを通して、シス テムの要件をシグナル・チェーンの設計に落とし込む方法を示し 平坦な帯域幅に対する 共振周波数に 情報なし 周波数領域の解析 関連する ます。 時間領域の解析 図5. ADXL1002の周波数応答 VISIT ANALOG.COM/JP 5 振幅 正規化した振幅〔dB〕
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ADXL1002のノイズ密度は10kHzまでの範囲で25µg/√Hzで X 消費電力が少ない す。トータルのRMSノイズが、入力範囲が±50gで10kHzの X ソリューションのサイズが小さい 帯域幅にわたって25×√10e3 = 2.5mg rmsである場合、セン サーのダイナミック・レンジは次式によって計算できます。 このような要件を満たすソリューションの例を図7に示しまし た。この回路は、精度の高いシングルチャンネルのシグマ・デ 50 ルタ(ΣΔ) ADC「AD7768-1」とADC用のドライバ・アンプ 20 × √2 = 83 dB (1) 2.5e–3 「ADA4805-1」を使って構成しています。以下、どのような検 討/選択を行ってシグナル・チェーンを構築したのか詳細に説明 ADXL1002の出力はバッファされた電圧信号です。センサーの します。 電源電圧の1/2に相当するDC電圧にバイアスされます。その振 幅は、検出した加速度とセンサーの電源電圧の両方に比例します。 ADCの選択 電源電圧が5Vの場合、ADXL1002の感度は40mV/gです。同 AD7768-1は、汎用性の高い高精度のADCです。多くの動作 3.3Vの場合、±50gの入力範囲に対する出力信号の最大振幅は モードを備えており、消費電力、帯域幅、ノイズ性能の間のト ±50×40e-3/5×3.3 =±1.32Vとなります(図6)。その中心 レードオフに対応することができます。一般に、エイリアスの除 電圧(バイアス電圧)は次式で与えられます。 去にはプログラムが可能なデジタル・フィルタが不可欠です。 AD7768-1では、様々な種類のフィルタを使用できるので、周波 3.3 V = 1.65V [バイアス電圧] (2) 数領域の解析と時間領域の解析に対応することが可能です。 2 図7の設計では、AD7768-1を以下の設定で動作させることにし 3.3 V ました。 ADXL1002 2.97 V X REF+ ピンに対応する内蔵リファレンス・バッファはイネーブ VOUT MEMS BUF ル 1.65 V X 低消費電力モードを選択 感度:26.4mV/g 0.33 V t X ODR が 32kSPS、低リップルの広帯域フィルタ(フィルタ・ 図6. ADXL1002のフルスケール出力 オプション A) X ODR が 128kSPS の sinc5 フィルタ(フィルタ・オプション B) DAQに関する要件 AD7768-1は、リファレンス・バッファを内蔵しています。バッ ADXL1002に接続されるDAQ用のシグナル・チェーンは、以下 ファ・アンプを追加しなくてよいので、非常にコンパクトな設計 の要件を満たす必要があります。 を実現できます。この設計例(その1)では、センサーとADCが X センサーの全出力電圧範囲に対応しなければならない 3.3Vの電源(バッテリ)を共有します。また、その電源をADC X 11kHz にわたって平坦な周波数応答が得られる のリファレンス電圧としても使用します。ここでは、ADXL1002 の出力と電源電圧が比例関係になり、AD7768-1のリファレン X 共振周波数に対して少なくとも 5 倍のオーバーサンプリング ス・バッファがレールtoレール動作に対応することを利用してい が行える ます。DAQ用のシグナル・チェーンに専用のリファレンス電圧 X センサーの AC 性能/ DC 性能を完全に活かすことができる を生成する必要がなくなるだけでなく、時間の経過に伴うバッテ X 帯域外の信号に対し、十分なエイリアス除去性能を発揮でき リの放電など、電源電圧の変化によって測定する信号の振幅が変 る 動することもなくなります。 5 V 1 µF 3.3 V/1.8 V 7.49 kΩ 500 pF 1 µF 16.384 MHz 10 kΩ VDD 7.49 kΩ VOUT AVDD1 AVDD2 IOVDD MCLK REF+ 82.5 Ω 3.6 V ADXL1002 2 nF 3.75 kΩ IN+ AD7768-1 100 nF VSS STANDBY ST 100 pF 330 nF ADC REF– ADA4805 GPIO1 IN– VCM AVSS DGND GPIO2 10 kΩ 図7. DAQ用シグナル・チェーンの設計例(その1)。 バッテリ駆動のエッジ・ノード型システム向けに設計したものです。 加速度センサーとしてはADXL1002を使用し、1軸の振動検出を行います。 6 状態監視システムの設計時に求められる選択、その結果がシグナル・チェーンの実装に及ぼす影響とは?
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AD7768-1を低消費電力モードで動作させることにより、バッテ ADXL1002とデジタル・フィルタの周波数応答 リの寿命を最大限に延ばすことができます。このモードでは、出 15 力データ・レート(ODR:Output Data Rate)が32kSPS、平 坦(-0.1dB)な帯域幅が13kHzという低リップルのブリック・ 10 ウォール・フィルタを使用することができます(フィルタ・オプ ションA)。つまり、ADXL1002の11kHzの平坦な帯域幅をカ 5 バーして周波数領域の解析を実行することが可能です。ブリッ ク・ウォール・フィルタは、ほぼ理想的なフィルタ特性を備えて 0 いるので周波数解析に最適です。但し、高次のフィルタであるこ とから時間領域の解析にはあまり適していません。この問題に対 ブリック・ウォール・ –5 フィルタ 処したい場合には、優れたステップ応答を備えるsinc5フィルタ sinc5フィルタ を使用します。そうすれば、時間領域の解析に求められる要件を –10 満たすことができます。AD7768-1において、低消費電力モー 100 1k 10k 100k 周波数〔Hz〕 ドでsinc5フィルタを使用する場合、ODRは最高で128kSPS、 -3dB周波数は26kHzとなります(フィルタ・オプションB)。こ 図8. デジタル・フィルタの応答。 測定上の様々な要件に対応できます。 れであれば、センサーの21kHzの共振周波数を5倍以上の周波 数でオーバーサンプリングすることができます。デジタル・フィ ルタの種類とODRは、SPI(Serial Peripheral Interface)を介 AFEの設計 してレジスタにアクセスすることでプログラムすることが可能で ADXL1002はバッファ出力を備えています。ただ、その出力イ す。アプリケーションにおけるニーズに応じ、信号の帯域幅を動 ンピーダンスは、ADCのサンプリング周波数(2.048MHz)で 的に調整することができます。 はやや高くなります。そのため、サンプリング期間中にADCの 入力を完全にセトリングすることができません。そこで、セン 設計によっては、オーバーサンプリングによって得たデータに サーとADCの間には、アナログ・フロント・エンド(AFE)と フィルタ処理を施すことなく、後処理のために外部のデジタル・ して帯域幅の広いドライバ・アンプ回路を適用しています。 ホストにそのまま送信するということが行われます。そのような ADA4805-1を選択したのは、広帯域幅、低出力インピーダンス、 手法と比べた場合、AD7768-1が内蔵するデジタル・フィルタ 低ノイズ、小型、低消費電力という特徴を兼ね備えているからで を使用することで、デジタル処理の電力効率を大幅に高めること す。 ができます。では、低消費電力モードにおいて、AD7768-1の 消費電力はどのようになるのでしょうか。ここでは、AVDD1、 ADCとドライバ・アンプを組み合わせた場合のノイズは、セン AVDD2、IOVDDに3.3Vを供給し、REF+ピンに対応するリファ サーのノイズを下回ります。そのため、センサーの出力信号を増 レンス・バッファをイネーブルにした場合の値を示します。その 幅する必要はありません。ADA4805-1の出力はレールtoレール 場合の見積もり値は、ODRが128kSPSのsinc5フィルタを使用 ですが、入力はレールtoレールではありません。そこで、同アン すると10.2mWになります。32kSPSのODRで低リップルの広 プを使ってゲインが1の反転バッファを構成し、ADC用のドライ 帯域フィルタを使用した場合には12.6mWと見積もられます。 バとして使用しています。ドライバの出力ヘッドルームについて は、フルスケールの信号の振幅に対応できることを確認済みです。 この構成の場合、AD7768-1のノイズはフィルタ・オプションA を使用した場合で11.5µV rms、フィルタ・オプションBを使用 AD7768-1のデジタル・フィルタも、ADCのサンプリング周 した場合で49.5µV rmsになります。この設計では、ADCへの 波数付近の帯域に対する除去能力は有していません。そこで、 入力信号は±1.32Vの疑似差動信号になります。この入力範囲に ADA4805-1を使用してアクティブ・フィルタを構成し、アンチ 対するADCの有効ダイナミック・レンジは、フィルタ・オプショ エイリアシング(折返し誤差防止)フィルタ(以下、AAF)とし ンAを使用した場合で20×log(1.32/√2/11.5e-6 = 98dB、 て使用します。このAAFとデジタル・フィルタにより、帯域外 フィルタ・オプションBを使用した場合で85.5dBになります。 のあらゆる信号成分を十分に除去できるようにしています。AAF どちらも、センサーがノイズ性能をフルに発揮するのに十分すぎ は、複数帰還型のアーキテクチャとバタワース型に近い応答を備 るほどの値です。 えた2次のローパス・フィルタとして構成しています。-3dBの コーナー周波数は32Hz、2MHzにおける減衰量は-73dBです。 VISIT ANALOG.COM/JP 7 正規化した振幅〔dB〕
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-3 dB = 32 kHz ±13.85 kHz シグナル・チェーンの設計例(その2) アナログ・フィルタの応答 0 dB 続いて、2つ目の設計例を紹介します。 デジタル・フィルタで 除去されない領域 システムの要件 システムの要件は、以下のように定義することにします。 AD7768-1のデジタル・ X チャンネル間の絶縁を図った集中型の DAQ モジュール フィルタの応答 X 最大± 12V の疑似差動入力 -73 dB X IEPE のインターフェースに対応 X –105 dB AC/DC バイアスの入力オプションを設ける X –3 dB = 13.85 kHz 周波数 Fs = 2.048 MHz 最大± 60V の入力過電圧に対する保護機能 ODR = 32 kSPS X 1MΩ の入力インピーダンス 図9. 設計例(その1)における X 最高 100kHz の(平坦な)帯域幅に対する周波数解析に対応 シグナル・チェーン全体のフィルタ応答 X 100kHz の帯域幅にわたり 105dB を超えるダイナミック・レ ドライバ回路で使用する抵抗の値は、慎重に選択しなければな ンジ りません。消費電力、生成されるノイズ、コンデンサの大きさ、 X エイリアスを排除(帯域外の全信号を -105dB まで減衰させ ADA4805-1の入力バイアス電流によるDCオフセット誤差のバ る) ランスがとれるように設定します。 X 衝撃パルス法を含む時間領域の解析に対応 表1は、シグナル・チェーンの性能についてまとめたものです。 X 1kHz のフルスケール入力に対する全高調波歪みが -115dB 以 下 表1. 設計例(その1)の性能。センサーの性能とDAQ用 X 高い DC 精度 シグナル・チェーンの性能を対応づけて示しています。 X フィルタの帯域幅と ODR をプログラムできる センサーの DAQ用 性能 シグナル・チェーンの性能 フルスケールの ±50g 最大入力範囲 0.02V 測定範囲 (0.33V ~3.28V ~2.97V) 平坦な最大 11kHz 平坦な 13.8kHz 帯域幅(3dB) 最大帯域幅 (-3dB) 共振周波数 21kHz sinc5フィルタ 128kSPS の最高ODR (-3dB帯域幅 は26kHz) 13.8kHzの 80dB* 13.8kHzの 98dB 帯域幅にわたる 帯域幅にわたる ダイナミック・ ダイナミック・ レンジ レンジ 直線性 測定範囲全体に 直線性 測定範囲全体 わたり0.1% にわたり 0.001%以下 電源電圧が 3.3mW 消費電力 14mW 3.3Vの場合の 消費電力 パッケージの 25mm2 ICパッケージの 28mm2 サイズ トータルの サイズ * 出力ノイズのプロファイルに基づいて推定。 8 状態監視システムの設計時に求められる選択、その結果がシグナル・チェーンの実装に及ぼす影響とは? 振幅
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HV_VDD IN 5 V 励起 ADA4528 電流源 電流源 LT3092 100 pF 5 V SET OUT 高精度のリファレンス/ 1 µF REF リファレンス・バッファ 100 Ω 4.096 V 0.1 µF 1 µF 470 Ω ADR444 22 µF HV_VDD 高インピーダンスの AAFとADC用 3.9 µF 入力バッファ ドライバ 1 kΩ VDD ADG5421F 660 Ω 5 V IEPE対応の 10 Ω S1 D1 ADA4610-1 3.3 V/1.8 V 圧電加速度 470 pF 300 Ω 15 V 1 µF 16.384 MHz センサー TVS S2 D2 1 kΩ 1 kΩ 220 Ω 5 V 82.5 Ω AVDD1 AVDD2 IOVDD MCLK REF+ 1 MΩ 100 pF IN– REF– HV_VSS IN1 IN2 FF –15 V VCM 100 pF AD7768-1 VSS GND 180 pF 820 pF FDA 100 pF ADC デジタル・ 1 kΩ 1 kΩ IN+ フィルタ SPI 入力 HV_VSS 220 Ω 470 pF 82.5 Ω VCM AVSS DGND 過電圧保護 デジタル制御 2.5V VCM 220 nF ADA4945-1 660 Ω 高性能/高精度の 24ビットADC 図10. DAQ用シグナル・チェーンの設計例(その2)。 チャンネル間を絶縁した集中型のアーキテクチャに対応できます。 IEPE対応センサーと直接接続することが可能です。 図10に示したのが、これらの要件に対応可能なシグナル・ VS+ チェーンです。ADCについては、設計例(その1)と同じく 定電流源 AD7768-1を使用しています。AFEは、入力保護用のスイッ IEPE対応センサー チ「ADG5421F」、IEPE対応のセンサーに電流を供給するため OUT+ ICONSTANT 圧電 バッファ 2芯シールド・ の定電流源「LT3092」、高精度/JFET入力のバッファ・アンプ 素子 ケーブル DAQ VOUT 「ADA4610-1」、ADCの駆動用の完全差動アンプ「ADA4945- OUT– VS– 1」、AAF回路で構成されています。また、高精度のリファレンス 電圧源「ADR444」にリファレンス・バッファとして高精度のオ 図11. IEPE対応センサーのインターフェース。 ペアンプ「ADA4528-1」を適用することで、ADCにリファレン 2線式のケーブルを使って接続できます。 ス電圧を供給します。 入力の保護 センサーの電源 この設計例では、ADG5421Fを使用して、回路の入力部に対す IEPEは2線式のインターフェースであり、センサーの電源(電 る過電圧保護を施しています。入力電圧が電源電圧の範囲を超え 流)とセンサーの出力信号(電圧)が同じワイヤを共有します(図 ると、同ICが備えるスイッチがオープンになります。それによっ 11)。この例では、LT3092を使用して、30Vの電源を基に低ノ て、DAQ用シグナル・チェーンの下流の部分が保護されます。 イズで2.5mA出力の電流源を構成しています。この電流源から ADG5421Fは、最大±60Vの入力電圧に耐えることができま の電流をセンサーに供給します。なお、この電流値は、長いケー す。オン抵抗が小さく安定しているので、信号の歪みを最小限に ブル長、大きなケーブル容量に対応できるように、抵抗値によっ 抑えることが可能です。 てプログラムすることが可能です。 また、ADG5421Fは、シグナル・チェーンの入力部の構成をプ IEPE対応センサーの中には、ケースが絶縁されていないものがあ ログラムできるようにするためにも使われています。シグナル・ ります。これは、OUT-ピンをローカル・グラウンドに接続でき チェーンの入力部は、スイッチの設定に応じてAC結合とDC結 るということを意味します。センサーに接続されるDAQ用のシ 合のうちどちらかを選択できるように構成しています。また、電 グナル・チェーンも絶縁されていない場合、同シグナル・チェー 流源の接続/遮断も独立して切り替えられます。 ンもグラウンド基準で構成する必要があります。この設計例(そ 加 え て、値 の 小 さ い(10Ω)直 列 抵 抗 にTVS(Transient の2)では、シグナル・チェーンのチャンネルは絶縁されていま Voltage Suppressor)を追加しています。これにより、入力ノー す。そのため、グラウンドと電源のレベルに関する制約が排除さ ドのESD保護性能を高めています。 れます。バイポーラ電源を使用する形でシグナル・チェーンを設 計することができ、より対称性の高いバイポーラ入力の信号に対 応できるようになります。 VISIT ANALOG.COM/JP 9 120 kΩ
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ADCの選択 チャンネル間を絶縁するという要件を満たすためには、DAQ用 5 V 4.096 V シグナル・チェーンをシングルチャンネルで構成する必要があり IN+ VDD REF 入力 完全差動 ます。 バッファ アンプ ADC IN– 本稿で示した2つの設計例は、AD7768-1の汎用性を示して いると言えます。このADCを高速モードで動作させる場合、 5 V IN+ デジタル・フィルタをブリック・ウォール・フィルタ(ODRは 12 V 256kSPS)として機能させて110kHzの平坦な帯域幅を実現でき VREF 0 V 2.5 V 4.096 V ます。同時に、108dBのダイナミック・レンジ(リファレンス電 t IN– 圧が4.096Vの場合)を達成することが可能です。sinc5フィル –12 V 0 V タにも対応しており、1.024MSPSの最高ODRで時間領域の波形 図12. AFEにおける を取得できます。 シグナル・コンディショニング また、AD7768-1は動的直線性とDC性能の面でも業界トップ この回路では、センサーからの信号が0.33倍に減衰されます。 のレベルにあります。例えば、フルスケールに近い1kHzの正弦 ADCのリファレンス電圧が4.096Vの場合、±4.096/0.33 = 波を入力した場合、標準で-120dBの全高調波歪み(THD)、 ±12.41Vのフルスケール入力に対応可能になります。減衰され 300nV/℃のオフセット・ドリフト、0.25ppmのゲイン・ドリフ た信号は振幅が±4.096Vの完全差動信号に変換され、2.5V(電 トを達成できます。 源電圧の1/2)のコモンモード電圧にレベル・シフトされます。 それによって、完全差動アンプの出力とADCの入力の要件を満 なお、チャンネル間の絶縁を必要としないマルチチャンネルの たすことができます。 DAQシステムでは、クワッド・バージョンの「AD7768-4」や オクタル・バージョンの「AD7768」を使用するとよいでしょう。 設計例(その1)で説明したように、AD7768-1のデジタル・ フィルタも、ADCのサンプリング周波数付近の帯域に対する除 AFEの設計 去能力は備えていません。同ADCを高速モードで動作させた 入力信号には、必要なインピーダンスを得るためにバッファを適 場合、実効サンプリング周波数は16.384MHzです。そこで、 用する必要があります。バッファ・アンプは、入力バイアス電流 ADA4945-1を使って構成したAAFを適用することで、デジタ が少なく、ノイズが小さく、動的直線性に優れ、DC精度が高く、 ル・フィルタによって帯域外のあらゆる信号を十分に除去でき 十分に帯域幅が広くなければなりません。これらの要件に基づい るようにしています。AAFとしては、複数帰還型のアーキテク て、この設計例ではJFET入力のオペアンプであるADA4610-1 チャとバタワース型に近い応答を備える3次のローパス・フィ を使用しています。同オペアンプには±15Vの電源を供給し、ユ ルタを構成/使用しています。また、バッファ・アンプである ニティ・ゲインのバッファとして構成/使用します。 ADA4610-1の入力部にはRC回路を付加しています。これに よって、ローパス・フィルタの極がもう1つ追加されるので、サ センサーからの信号には、ADCの入力範囲に収まるように、減 ンプリング周波数付近におけるエイリアスの除去能力が更に高ま 衰やレベル・シフトを適用する必要があります。また、理想的に ります。シグナル・チェーン全体の周波数応答としては、-3dB は疑似差動信号を完全差動信号に変換するべきです。この変換 のコーナー周波数が440kHzになります。そのため、帯域内の応 を行えば、測定ダイナミック・レンジが6dB向上し、2次高調波 答における振幅と位相の歪みを最小限に抑えることができます。 歪みを大幅に低減することができます。その後、信号にはエイリ AAFに起因する振幅のドループは、100kHzにおいて10mdB未 アス除去のためのフィルタ処理を適用します。また、ADCの入 満です。また、16.3MHzにおける振幅応答は約-108dBとなり 力部で適切にセトリングが行えるようにするために、帯域幅が広 ます。AD7768-1のブリック・ウォール・フィルタとAAFを組 く出力インピーダンスが低いADC用のドライバ・アンプでバッ み合わせることにより、帯域外全体にわたる周波数成分を少なく ファします。こうしたすべての要件は、完全差動型のADC用ド とも105dB減衰することができます。つまり、エイリアスが生 ライバ・アンプであるADA4945-1を1個使用するだけで満たす じないシグナル・チェーンを実現することが可能です。 ことができます。このアンプを採用すれば、優れたDC精度を維 持しつつ、歪みと付加ノイズを最小限に抑えることが可能です。 10 状態監視システムの設計時に求められる選択、その結果がシグナル・チェーンの実装に及ぼす影響とは?
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もう1つの設計例 -3 dB = 440 kHz ±110 kHz IEPE対応センサーを接続するDAQ用シグナル・チェーンについ 0 dB アナログ・フィルタの応答 ては、別の設計例も存在します。これについては、リファレンス デジタル・フィルタで 除去されない領域 設計「CN0540」として提供されています。 CN0540の設計は、0V~24Vのユニポーラ入力に対応していま す。これは、ケースが絶縁されていないIEPE対応センサーにチャ AD7768-1のデジタル・ フィルタの応答 ンネル絶縁型ではないDAQ用シグナル・チェーンを接続する場 合に適しています。その場合、IEPE対応センサーとDAQ用シ - グナル・チェーンがグラウンドを共有します。また、この設計は IEPE対応センサーに対してDC結合されます。圧電センサーは、 –105 dB 108 dB DCまでの応答には対応していません。ただ、DC結合を採用す –3 dB = 110 kHz 周波数 Fs = 16.384 MHz ることで、このシグナル・チェーンでは、狭帯域幅のAC結合回 ODR = 256 kSPS 路によって起動時に遅延が生じることなく、周波数の低い振動を 図13. 設計例(その2)における 抽出できるというメリットが生まれます。 シグナル・チェーン全体のフィルタ応答 なお、設計例(その2)のシグナル・チェーンはバイポーラの入 絶縁とパワー・マネージメント 力信号に対応しています。そのため、IEPE対応センサーに接続す 本稿では、デジタル信号/電源の絶縁やパワー・マネージメント るには、AC結合モードで動作させる必要があります。一方で、 のソリューションについての詳細は割愛します。ただ、アナログ・ ±12.4Vの入力範囲と高い入力インピーダンスを備えていること デバイセズは、デジタル・アイソレータを備えるパワー・マネー から、多目的型のDAQシステムには非常に適しています。 ジメント・ユニット「ADP1031」などのソリューションを提供 しています。そうした製品を使うことにより、SPIに絶縁を施し まとめ たり、±15Vと5Vの供給電圧を生成したりすることが可能にな 本稿では、CMシステム向けのDAQ用シグナル・チェーンの設 ります。また、高速デジタル・アイソレータの「ADuM140D」 計について解説しました。システムのアーキテクチャ、センサー を使用すると、絶縁バリアを介してMCLKとSYNC_INを供給し、 の種類、解析方法の選択が、シグナル・チェーンの設計にいかに チャンネル間におけるサンプルの同期を実現することができます。 大きな影響を及ぼすのかご理解いただけたはずです。CMシステ ムを設計する際には、本稿で説明した内容やリファレンス設計を 表2. 設計例(その2)の性能 ぜひお役立てください。 DAQ用シグナル・チェーンの性能 状態基準保全に向けたシステム・レベルのソリューションについ 最大入力範囲 ±12.4Vの疑似差動入力 ては、analog.com/jp/CbMをご覧ください。 平坦な最大帯域幅(-3dB) 110kHz sinc5フィルタの最高ODR 1024kSPS (-3dB帯域幅は209kHz) 110kHzの帯域幅にわたる 105dB以上 ダイナミック・レンジ フルスケールに近い1kHzの信号を -105dB以下 入力した場合のTHD ゲイン・ドリフト* 10ppm/℃ オフセット・ドリフト* 5µV/℃ sinc5フィルタ使用時の消費電力 110mW ブリック・ウォール・フィルタ 130mW 使用時の消費電力 * 抵抗のマッチング誤差による影響は除外しています。 VISIT ANALOG.COM/JP 11 振幅
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著者について EngineerZone® Naiqian Ren(naiqian.ren@analog.com)は、アナログ・ オンライン・サポート・コミュニティ デバイセズのアプリケーション・エンジニアです。入社は アナログ・デバイセズのオンライン・サポート・コミュ 2007年で、現在は高精度コンバータ技術グループ(アイル ニティに参加すれば、各種の分野を専門とする技術者と ランド リムリック)に所属しています。ダブリン・シティ の連携を図ることができます。難易度の高い設計上の問 大学で電気工学の学士号、リムリック大学でVLSIシステム 題について問い合わせを行ったり、FAQを参照したり、 に関する修士号を取得しています。 ディスカッションに参加したりすることが可能です。 Visit ez.analog.com *英語版技術記事はこちらよりご覧いただけます。 VISIT A N A L O G . C O M / J P お住いの地域の本社、販売代理店などの情報は、analog. ©2021 Analog Devices, Inc. All rights reserved. com/jp/contact をご覧ください。 本紙記載の商標および登録商標は、各社の所有に属します。 Ahead of What’s Possibleはアナログ・デバイセズの商標です。 オンラインサポートコミュニティEngineerZoneでは、アナ ログ・デバイセズのエキスパートへの質問、FAQの閲覧がで きます。 TA23090-10/21