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振動センシングによる状態基準保全

製品カタログ

装置の異常の検出、診断、予測などに必要な振動センシングについて説明

これらの記事をはじめとした技術紹介カタログです。
・最適な予防メンテナンス・センサーの選択
・状態監視向けのMEMSソリューション、振動検出に最適なシステムを構築する
・状態監視に最適なシングルペア・イーサネット、設備の健全性に関する知見データと電力を2線式で伝送
・予知保全に最適な加速度センサーの選択

このカタログについて

ドキュメント名 振動センシングによる状態基準保全
ドキュメント種別 製品カタログ
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取り扱い企業 アナログ・デバイセズ株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧)

この企業の関連カタログ

このカタログの内容

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振動センシングによる 状態基準保全 ANALOG.COM/JP/CBM
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目次 4 最適な予防メンテナンス・センサーの選択 11 状態監視向けのMEMSソリューション、 振動検出に最適なシステムを構築する 14 状態監視に最適なシングルペア・イーサネット、 設備の健全性に関する知見データと電力を2線式で 伝送 19 予知保全に最適な加速度センサーの選択 9 注目記事 ► MEMS加速度センサーが ► 柔軟性の高い産業用I/Oモジュー 状態基準保全(CbM) ル、ソフトウェアによって アプリケーション設計の あらゆる構成に対応 最良の選択肢になる理由 ► 状態基準保全向けソリュー ションの性能は振動センサーで 決まる 17 注目製品 ► 3軸・振動センシングシステム ► 状態基準保全開発プラット ► ±50gの高周波MEMS加速度 フォーム センサー ► ワイヤレス振動モニタリン ► ダイナミック・シグナル分析、 グ・プラットフォーム 電力スケーリングによる高精度 ► エナジー・ハーベスティング・ 24ビットADC バッテリ寿命延長回路を 内蔵したナノパワー昇降圧 DC/DCコンバータ 24 ウェブキャスト、ビデオ、製品情報 ► CbMのウェブキャスト:  ► ビデオ: 状態基準保全にむけ 振動センシングから たアルゴリズム開発を加速 アルゴリズム開発まで ► 回路ノートCN0549:  ► CN0549のビデオ: 状態基準保 IEPE対応の状態基準保全 全開発プラットフォーム 機械学習イネーブルメント・ ► ビデオ: 状態監視ソリュー プラットフォーム ション—センシングからAIが ► 製品のハイライト: Voyager 可能にする実用的なインサイト 3で状態監視を加速 まで 2 振動センシングによる状態基準保全 その他のリソース 技術記事
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CN0549評価キット 状態基準保全開発 プラットフォームの高度な 振動センシングにより機器の 寿命を延長 ► 広帯域MEMS加速度センサーのデータは IEPEフォーマットで出力。 ► センサー信号の完全性を維持しながら、機械 への取り付けが容易。 ► DAQシステムがリアルタイムデータを データ解析用のツールやアプリケー ションに提供。 analog.com/jp/cbmで詳細を見る
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最適な予防メンテナンス・センサーの選択

技術記事 最適な予防メンテナンス・ センサーの選択 Chris Murphy 、アプリケーション・エンジニア はじめに Earliest Possible Detection of Fault 状態基準保全(CbM)では、センサーを使って装置や設備資産を監視 Years し、それらの現在の健全性を計測します。予防メンテナンス(PdM)で 2/Year New Years は、CbM、機械学習、分析手法といった技術を組み合わせて使用し、将 Motor Months 来起こり得る装置や設備資産の故障を予測します。装置の健全性を Months 監視する場合は、異常の検出、診断、更に予測まで行うことができるよ う、これらの目的に最も適したセンサーを選ぶことが極めて重要です。 Months 現在、回転機械やその負荷には、計画外のダウンタイムを回避するこ Weeks とを最終目的として、異常を感知し検出するためのセンサーが数多く 使われています。これらセンサーを個々にランク付けすることは困難で す。PdM手法は数多くの回転機械(モータ、ギア、ポンプ、タービンなど) Motor や非回転機械(バルブ、サーキット・ブレーカ、ケーブルなど)に使われ Fails! ているためです。 Time to Failure 多くの工業用モータは化学工場や食品処理工場、発電施設などの継続 図1 装置の健全性の経時変化 的に生産が行われるアプリケーションで最大20年程度使用できるよう に設計されていますが、中にはその予想寿命に達しないモータもあり 予定されたメンテナンス・チェックの間に異常が生じた場合は、計画外 ます1。その理由としては、モータ運転上の問題、不十分なメンテナンス・ のダウンタイムとなる可能性があります。この場合に極めて重要なの プログラム、PdMシステムへの投資の欠如、あるいはPdMシステムが が、適切な予防メンテナンス・センサーを使用して、できるだけ早期に 全く存在しない、といったことが考えられます。PdMは、メンテナンス・ 異常の兆候を検出することです。このために、本稿では振動センサーと チームが修理計画を立てて計画外のダウンタイムを回避することを可 音響センサーに焦点を当てます。振動解析は一般に、PdMの最良の 2 能にします。PdMを通じて装置の異常を早期に予測することは、メンテナ スタート点と見なされています 。 ンス・エンジニアがモータの非効率的な動作を特定してこれを是正し、性 予防メンテナンス・センサー 能、生産性、および設備資産の可用性を向上させ、その寿命を延ばす助 けにもなります。 図1に示すように、一部のセンサーは、ベアリング異常などの特定の異 常を、他のセンサーよりはるかに早く検出することができます。この項 最良のPdM戦略は、できるだけ多くの手法とセンサーを効率的に利用 では、できるだけ早期に異常を検出するために最も一般的に使われて して、異常を早期に、なおかつ高い信頼性の下に検出することです。した いるセンサーについて述べます。具体的には、加速度センサーとマイ がって、1つのセンサーですべてをまかなうというソリューションは存在し クロフォンです。センサーの仕様一覧と、それらのセンサーが検出でき ません。この記事では、予防メンテナンス・センサーがPdMアプリケーシ る異常の例を表1に示します。ほとんどのPdMシステムでは、これらの ョンにおける異常の早期検出に不可欠な理由と、各種センサーの利点お センサーのうち一部だけが使用されます。したがって、予想し得る重大 よび欠点を明らかにしていきます。 な異常について十分に理解し、それらの異常の検出に最も適したセンサ 時系列で考えたシステム異常 ーを知ることが不可欠です。 図1は、新しいモータの設置から故障発生までのイベントを時系列で シミュレーションしたもので、推奨される予防メンテナンス・センサーの タイプも示されています。新しいモータが設置された時点で、保証が 適用されます。その保証は、その後数年間で終了し、そこから人手によ る多くの点検が頻繁に行われるようになります。 4 最適な予防メンテナンス・センサーの選択 - M a c h i n e H e a l t h + Under Warranty Ongoing Scheduled Maintenance Fault Inception Vibration Sensor/ Ultrasonic Microphone Power/Particle/Infrared Temperature Microphone
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表1 CbMに使われる一般的なセンサー 計測 センサー 特徴 検出する異常 振動 ピエゾ加速度センサー 低ノイズ、最大周波数30kHz、 ベアリングの状態、ギアのかみ合い、 CbMアプリケーション用として定着 ポンプのキャビテーション、位置ずれ、アンバランス、 振動 MEMS加速度センサー ロー・コスト/低消費電力/小型、 ベアリングの状態、ギアのかみ合い、 最大周波数20kHz以上 ポンプのキャビテーション、位置ずれ、アンバランス、負荷状態 音圧 マイクロフォン ロー・コスト/低消費電力/ ベアリングの状態、ギアのかみ合い、 小型、最大周波数20kHz ポンプのキャビテーション、位置ずれ、アンバランス、負荷状態 音圧 超音波マイクロフォン ロー・コスト/低消費電力/ 圧力洩れ、ベアリングの状態、ギアのかみ合い、 小型、最大周波数100kHz ポンプのキャビテーション、位置ずれ、アンバランス モータ電流 シャント、 ロー・コスト、追加回路不要、 偏心ローター、巻線関連の問題、ローターバー関連の問題、 カレント・トランス 通常はモータ電源を計測 電源アンバランス、ベアリング関連の問題 磁界 ホール、磁気センサー、 ロー・コスト/小型、最大周波数250Hz、 サーチ・コイル 温度に対して安定 ローターバー、エンド・リング関連の問題 温度 赤外線サーモグラフィ 高価、正確、複数の設備資産/熱源を一度に計測 摩擦による熱源の場所特定、負荷変動、過度の起動/停 止、不十分な電源 温度 RTD、熱電対、デジタル ロー・コスト、小型、正確 摩擦による温度変化、負荷変化、過度の起動/停 止、不十分な電源 オイル品質 粒子モニタ 粘度、粒子、および汚れ 摩耗によるデブリを検出 センサーとシステムの異常に関する考慮事項 回転機械に発生し得る最も一般的な異常と、これに対応するPdMアプリ 工業用および商業用アプリケーション用の回転機械の90%以上が、回転 ケーション用振動センサーの条件を表2に示します。できるだけ早い時 部品用のベアリングを使用しています3。図2はモータの故障部品の内訳 期に異常を検出するためには、一般にPdMシステムには高性能センサー ですが、この図から、PdMセンサー選択時はベアリングのモニタリング が必要です。設備資産に使用する予防メンテナンス・センサーの性能レ が重要であることが分かります。異常の可能性を検出、診断、予測するに ベルは、その設備資産自体の価格ではなく、プロセス全般にわたってそ は、低ノイズで広帯域幅の振動センサーが必要です。 れらの設備資産を高い信頼性で継続的に運用することの重要性と相関 関係があります。 % Occurrences of Motor Faults 表2 装置異常と振動センサーに関する考慮事項の概要 センサーの条件 一般的な装置異常 アン ベアリング バランス 芯ずれ 異常 ギア異常 10% 低から中程度のノイズ >100μg/√Hz   低ノイズ<100μg/√Hz   27% 帯域幅:基本周波数の 5倍~10倍   41% 帯域幅:> 5kHz   多軸検出   10% 低速回転機械用の 12% 低周波数応答  高いg範囲  モータの振動や動作のエネルギー量(ピーク値、ピークtoピーク値、実 効値)を利用すれば、特に、その装置にアンバランスや位置ずれがないか Rotor Related Fault Stator Insulation Faults Other Stator Faults どうかを判定することができます。ベアリングやギアの異常といったいくつ Other Faults Bearing Fault かの異常はそれほど明確なものではなく(特に異常の早期段階にある場 合)、振動の増加だけでこれを特定したり予測したりすることはできません。 図2 故障モータ部品の内訳(%) 通常、これらの異常を検出するには、低ノイズ(<100μg/√Hz)で広帯域幅 4 (>5kHz)の高性能予防メンテナンス用振動センサーが必要で、更にこれ らを高性能のシグナル・チェーン、処理、トランシーバー、および後処理と組 み合わせる必要があります5。 ANALOG.COM/JP/CBM 5
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PdM用の振動、音響、および超音波センサー 加速度センサーは最も一般的に使われる振動センサーであり、振動解 マイクロマシン(MEMS)マイクロフォンにはPCBにMEMS素子が搭載 析は最も一般的に使われるPdM手法です。この手法は、主にタービン、 されており、これらは通常、上面または下面から内側へ音波を導くこと ポンプ、モータ、ギアボックスなどの大型回転装置に使われます。高性能 のできる金属製のケースに収められています。MEMSマイクロフォン MEMS振動センサーや音響センサーを選ぶ際に考慮すべき重要な仕様 は、ベアリングの状態、ギアのかみ合わせ、ポンプのキャビテーション、 と、最も代表的なピエゾ振動センサーを表3と表4に示します。各列のデ 位置ずれ、アンバランスといった装置異常を検出するための、ロー・コ ータは、そのカテゴリ内における最小/最大変動の代表値で、隣接する ストで小型の効果的な手段を提供します。これらの特長により、MEMS 列との間に相関関係はありません。 マイクロフォンはバッテリ駆動アプリケーション用に最適な選択肢と CbM産業は今後数年間で大幅に成長すると予想されており、更にこの なっています。これらのマイクロフォンは、ノイズからかなり離れた位置 成長のかなりの部分がワイヤレス設備で占められると予想されていま に置くことができ、取り付けに特別な加工を行う必要もありません。複 す6。ピエゾ加速度センサーは、サイズ面や消費電力、集積化機能を持た 数の設備資産が稼働している場合は、他の装置からの可聴ノイズの量、 ないといったいくつかの理由からワイヤレスCbMシステムにはあまり あるいは埃や湿気といった環境要素がマイクロフォンのポート・ホールに 向いていませんが、消費電流が代表値で0.2mA~0.5mAのソリューシ 入り込んで、マイクロフォンをベースとするセンサーの性能に悪影響を与 ョンも存在します。MEMS加速度センサーとマイクロフォンは、サイズ えるおそれがあります。ほとんどのMEMSマイクロフォンのデータシート も消費電力も小さい上に高い性能を備えているので、バッテリ駆動の に記載されているアプリケーションは、依然として、モバイル端末やラッ PdMシステムに最適です。 プトップ、ゲーミング・デバイス、カメラなど、あまり厳しくない環境向けの ものです。一部のMEMSマイクロフォンのデータシートには、考えられる すべてのセンサーは適切な帯域幅と低ノイズ性能を備えています アプリケーションとして振動検出やPdMが挙げられていますが、これら が、MEMS加速度センサーはDCまでの応答が可能な唯一のセンサー のセンサーは機械的な衝撃や不適切な取り扱いに敏感なので、恒久的な で、回転速度が非常に小さい場合のアンバランス検出や傾き検出に有 損傷を招く可能性があるという断り書きがあります。その他のMEMSマ 効です。MEMS加速度センサーはセルフテスト機能も備えており、セン イクロフォンのデータシートの中には、最大10,000gの機械的衝撃に耐 サーが100%機能することを確認できます。これは安全性が不可欠な設 えられるとしているものもありますが、これらのセンサーのいくつかが、 備に有効で、センサーがまだ機能しているかどうかを検証できるように 衝撃を受ける可能性がある非常に過酷な環境下での使用に適している することによって、システムの基準を容易に満たすことができます。 かどうかについては、やはり明確な記載がありません。 過酷で汚れの多い環境で使用するために、MEMS加速度センサーはセ MEMS超音波マイクロフォンによる解析は、大きい可聴ノイズが存在 ラミック・パッケージに、ピエゾ加速度センサーはメカニカル・パッケージ する複合施設内のモータの健全性監視を可能にします。これは、これら に、ハーメチック・シールで完全に密封することが可能です。表4では、セ のマイクロフォンが非可聴範囲の周波数(20kHz~100kHz)をモニ ンサーの物理的、機械的、および環境的性能に焦点が当てられていま タするためで、この範囲ではノイズがはるかに少なくなります。通常、 す。この表を見れば、集積機能、過酷な環境への耐性、機械的性能、回転 低周波数の可聴信号の波長は約1.7cm~17m、高周波数信号の波長 機械への取り付け、あるいはマウントなど、各センサーの主な違いを知る は約0.3cm~1.6cmの範囲です。周波数が高くなるとエネルギーも ことができます。 大きくなり、超音波の場合は指向性がより強くなります。ベアリングや ハウジング内の故障位置を正確に特定しようとする場合は、これが非 常に役立ちます。 表3 予防メンテナンス・センサーの性能仕様 センサー コスト ワイヤレスCbMに使用した (1,000個あたり単価) 3dB帯域幅 DC応答 ノイズまたはS/N比 場合の予想バッテリ寿命 セルフテスト ピエゾ加速度センサー $25~$500+ 2.5kHz~30kHz+ なし <1µg/√Hz~50µg/√Hz 短い~中程度 なし MEMS加速度センサー $10~$30* 3kHz~20kHz+ あり <25µg/√Hz~100µg/√Hz 中程度~長い あり MEMSマイクロフォン <$1~$2 20kHz なし 57dB~74dB 長い なし MEMS超音波センサー <$1~$2 100kHz なし 65dB 長い なし * MEMS加速度センサー・モジュールはコストが$30を超える場合がありますが、これらはフル・システム・ソリューションです。これに対し、他の部品はすべて単体のセン サーです。 ** 表示例: ワースト、中程度、ベスト 表4 予防メンテナンス・センサーの機械的仕様 センサー サイズ 軸数 防振メカニカル・ 業界標準 パッケージ インターフェース 集積機能 機械的取り付け 耐環境性 ピエゾ加速度センサー 中程度 1~3 あり あり なし あり 極めて良好 MEMS加速度センサー 小型/中程度* 1~3 あり あり あり あり 極めて良好 MEMSマイクロフォン 小型 1 なし なし なし 非接触式 良好 MEMS超音波センサー 小型 1 なし なし なし 非接触式 良好 * 通常、MEMSモジュールにはADC、プロセッサ、フィルタ機能が含まれており、シグナル・チェーンのスペースに関する条件を緩和します。フィルタはセンサーが最大限の 性能を発揮できるように調整されています。 ** 表示例: ワースト、中程度、ベスト 6 最適な予防メンテナンス・センサーの選択
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3軸方向の振動データを検出すれば、より多くの診断情報が得られ、 図4に示すデバイスには、3個の1軸MEMS加速度センサー、3個の 異常検出能力を向上させることができます。これはすべてのPdM ADC、1個のプロセッサ、メモリ、およびアルゴリズムが組み込まれてお 設備に必要なわけではありませんが、データ品質、配線、スペース削減 り、これらはすべて、共振周波数が50kHzを超えるメカニカル・モジュー などの点に関するピエゾ加速度センサーとMEMS加速度センサーの ル内に格納されています。このデバイスはMEMS加速度センサーの能 決定的な利点です。 力が大きな特長となっており、センサー・ノードにインテリジェント機能 MEMSマイクロフォンを高湿度下に長時間置くと、最大-8dBの歪み を組み込んでセンサーを最良のシグナル・チェーンおよび処理と組み合 が生じることが分かっています7。これは決定的な欠点ではありません わせ、最大限の性能を実現できるようにしています。このモジュール が、PdMアプリケーションを湿度の高い過酷な環境下で使用する場合 は、FFTの実行、時間領域または周波数領域の様々なアラームのトリガ、 は考慮する必要があります。このような場合は、MEMSマイクロフォンよ および故障を予測するための各種のアルゴリズムや機械学習ツールに りもエレクトレット・コンデンサ・マイクロフォン(ECM)の方が適している 不可欠な時間領域の統計データの生成を行うことができます。 ことが確認されています。マイクロフォンに影響を与え得るその他の環 境条件には、風、大気圧、電磁場、機械的衝撃などがあります8。 あまり厳しくない環境条件下では、MEMSマイクロフォンはPdMアプ リケーション用として非常に優れた性能を発揮します。現時点では、過 度の振動や汚れ、湿度などに曝される過酷な環境下へのMEMSマイ クロフォンの取り付けについて、使用できる情報がありません。振動は MEMSマイクロフォンの性能に影響を与える可能性があり、これは検 討を要する領域です。しかし、MEMSマイクロフォンはECMほど振動に 図4 共振周波数が50kHzを超えるメカニカル・パッケージにADC、プロセッサ、 敏感なわけではありません9。ワイヤレスPdMソリューションにMEMS FFT、統計機能を内蔵した3軸MEMS CbMモジュール。 マイクロフォンを使用する場合は、音響信号がセンサーに届くように、取 使用するPdMソリューションに最も適した振動センサーを選ぶ際の本当 り付けボックスに穴やポートを設ける必要があるため、設計を複雑にす の課題は、保有設備資産に発生する可能性が最も高い故障モードに適し る要素が増えると同時に、他の電子機器が汚れや湿度の影響を受ける たセンサーを組み合わせる、という点です。MEMSマイクロフォンについ 可能性が出てきます。 ては、過酷な環境下で振動関連故障モードを確実に検出するための十 近年の容量性MEMS加速度センサー技術の進歩により、小型、ロー・コ 分な耐久性を有することがまだ実証されていませんが、振動検出の業界 スト、低消費電力のワイヤレスCbMソリューションを優先度の低い設備 標準である加速度センサーには、過去数十年間にわたって数多く実装さ 資産上に実装して、更に多くの診断情報を施設管理に取り入れ、重要シ れ、信頼できる性能を発揮しているという実績があります。MEMS超音 ステムのアップタイムを維持することが可能になりました。このような 波マイクロフォンについては、加速度センサーよりも早くベアリング異常 進歩は、MEMS加速度センサーをピエゾ加速度センサーの性能に近付 を検出できるという有望な性能を持つことが分かっており、この潜在的 け、より従来型の有線CbMシステムで使用できるという結果ももたらし な共生関係は、将来における設備資産の振動解析ニーズに対して最良 ました。この低ノイズで広帯域という特長と、業界標準の接続方法(ICP のPdMソリューションを提供できる可能性を秘めています。 とIEPE)を組み合わせたピエゾ加速度センサーは、これまで数十年にわ PdMシステムで使用するための振動センサーを1つ推奨することは難 たり代表的なセンサーとして振動計測に使われてきました。MEMS加速 しいですが、加速度センサーには多くの実績があり、今後も発展と改善 度センサーは、図3に示すように、IEPE標準モジュールとインターフェー が続いていくことが見込まれます。アナログ・デバイセズは、汎用、低消 スが取れるようになりました。変換回路は、Circuits from the Lab®リフ 費電力、低ノイズ、高安定性、高gの加速度センサーから、図4に示すよ ァレンス設計をベースにしています。この回路は、広い帯域幅にわたっ うなインテリジェント機能を備えたエッジ・ノード・モジュールまで、様々 て性能を発揮できるような特性を加えられた特別なPCBを使って設計 なMEMS加速度センサーを提供しています。ADcmXL3021は、専用 されており、後の段階でメカニカル・モジュールの設計にそのまま組み PdMモジュール・ソリューションの一例にすぎません。アナログ・デバイ 込むことができます。 セズは、PdM対応のMEMS加速度センサーのファミリ(20kHz以上の 帯域幅、25μg/√Hzのノイズ密度)を初めて市場に投入し、現在も、この レベルの性能を有するMEMS加速度センサーの唯一のサプライヤーと しての地位を保っています。アナログ・デバイセズは、センサー、シグナ ル・チェーン・ソリューション、メカニカル・モジュール、プラットフォーム、 機械学習アルゴリズム、人工知能ソフトウェア・プラットフォーム、そして 最も過酷な環境下における工業用回転機械の予防メンテナンスを可能 にするトータル・システム・ソリューションの供給において、業界をリード し続けています。 詳細については、 analog .com/jp/CbM にアクセスするか、 CIC.EMEA@analog.com へお問い合わせください。 図3 ADXL100xファミリのCbM加速度センサーのレトロフ ィットを可能にする MEMS加速度センサー、IEPEリファレンス、PCB設計を組み込んだIEPEメカニカ ル・モジュール 注:アナログ・デバイセズはIEPEメカニカル・モジュールを製造して いません。 ANALOG.COM/JP/CBM 7
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参照資料 7 P radeep Lall, Amrit Abrol, and David Locker. “Effects of 1 L eslie Langnau.“ Sensors Help You Get Maximum Use from Sustained Exposure to Temperature and Humidity on the Your Motors.” Machine Design, September 2000. Reliability and Performance of MEMS Microphone.” ASME 2017 International Technical Conference and Exhibition 2 Bram Corne, Bram Vervisch, Colin Debruyne, Jos Knockaert, on Packaging and Integration of Electronic and Photonic and Jan Desmet.“ Comparing MCSA with Vibration Analysis Microsystems, September 2017. in Order to Detect Bearing Faults—A Case Study.” 2015 8 IEEE International Electric Machines and Drives Conference Marcel Janda, Ondrej Vitek, and Vitezslav Hajek. Induction (IEMDC), IEEE, May 2015. Motors: Modelling and Control. InTech, November 2012. 9 3 Brian P. Graney and Ken Starry.“ Rolling Element Bearing Muhammad Ali Shah, Ibrar Ali Shah, Duck-Gyu Lee, and Shin Hur. Analysis.” Materials Evaluation, Vol. 70, No. 1, The American “Design Approaches of MEMS Microphones for Enhanced Society for Nondestructive Testing, Inc., January 2012. Performance.” Journal of Sensors, Vol. 1, March 2019. 4 Pratyay Konar, R. Bandyopadhyay, and Paramita Chattopadhyay.“ Bearing Fault Detection of Induction Motor 著者について Using Wavelet and Neural Networks.” Proceedings of the アイルランドのダブリンに本拠を置くEuropean Centralized 4th Indian International Conference on Artificial Intelligence, Applications Centerのアプリケーション・エンジニア。 IICAI 2009, Tumkur, Karnataka, India, December 2009. 2012年からアナログ・デバイセズに勤務。モータ制御製品と工業 用オートメーション製品の設計をサポート。電子工学の修士号と 5 P ete Sopcik and Dara O’Sullivan.“ How Sensor Performance コンピュータ・エンジニアリングの学士号を保有。 Enables Condition-Based Monitoring Solutions.” Analog Dialogue, Vol. 53, June 2019. 連絡先: christopher.murphy@analog.com 6 M otor Monitoring Market by Offering (Hardware, Software), Monitoring Process (Online, Portable), Deployment, Industry (Oil and Gas, Power Generation, Metals and Mining, Water and Wastewater, Automotive), and Region—Global Forecast to 2023. Research and Markets, February 2019. ADcmXL3021 状態基準保全アプリケーションに向けた 3軸・振動センシングシステム X 10kHzを超える振動周波数に最適化 したパッケージ。 X 振動特性の追跡を可能とする 自動演算FFT/手動演算FFT。 X 優れた分解能を実現する220kSPS デジタル出力と超低ノイズ密度。 ADcmXL3021について詳細を見る 8 最適な予防メンテナンス・センサーの選択
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注目記事、MEMS加速度センサーが状態基準保全(CbM)アプリケーション設計の最良の択肢になる理由、状態基準保全向けソリューションの性能は振動センサーで決まる、柔軟性の高い産業用I/Oモジュール、ソフトウェアによってあらゆる構成に対応

注目記事 MEMS加速度センサーが状態基準保全(CbM) アプリケーション設計の最良の選択肢になる理由 この記事では、MEMS加速度センサーと圧電型加速度センサー を比較して、MEMSセンサーがいかに短期間に大きく進化した かについて説明します。また、5つの異なるMEMSセンサーを 比較しながら、CbMアプリケーションの設計上重要な考慮事項に ついて紹介します。 詳細を見る 状態基準保全向けソリューションの性能は振動センサー で決まる 不均衡、位置ずれ、転がり軸受の欠陥、ギアの不良は、高性能振動 センサーで検出および診断できる多くの故障タイプのほんの一部で す。より高いセンサー性能と適切なシステム・レベルの考慮を組み合 わせることで、さまざまな産業機器やアプリケーションの機械的動作 についてより深いレベルの洞察が得られる『次世代の状態基準保全 ソリューション』が実現可能です。 詳細を見る 柔軟性の高い産業用I/Oモジュール、ソフトウェアに よってあらゆる構成に対応 この技術記事では、『ソフトウェアで構成可能な入出力(SWIO)IC』 が、プロセス制御および産業オートメーションの設計者が直面する 課題に向けた『究極の柔軟性を備えたシステムの設計』にどのように 役立つかを紹介します。 詳細を見る ANALOG.COM/JP/CBM 9
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ADM2867E RS-485トランシーバー 絶縁型電源+絶縁型 RS-485・トランシーバー で設計時間を短縮 ADM2867E X EMCコンプライアンスに対応した低放射エミッション。 X シンプルなPCBレイアウトと小型SOICフォーム・ファクタ。 X 最終システムへの導入と検証にかかる時間を短くする スマート機能を搭載。 analog.com/jp/ADM2867Eで詳細を見る
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技術記事 状態監視向けの MEMSソリューション、 振動検出に最適な システムを構築する Thomas Brand、 フィールド・アプリケーション・エンジニア 状態監視は、産業分野で最も大きな注目を集めている技術のひとつだ ADXL1002は、高い周波数に対応可能な1軸のMEMS加速度セン と言えます。モータやジェネレータ、ギアを使用する機械系の設備や技 サーです。その出力信号の通過帯域は、センサーの共振周波数を超え 術系のシステムの異常をいかに検出するかということが大きな課題に る広い領域となります。そのため、3dB帯域幅の外側の周波数も観測 なっているからです。的確な保守は、産業分野だけでなく、機械を使用 したいというニーズに対応できます。このような仕様を実現するため するあらゆる分野において、ダウンタイムのリスクを最小限に抑える に、ADXL1002の出力アンプは、70kHzの小信号帯域幅をサポートして ためにますます重要になっています。保守の必要性の有無を判定する います。また、同アンプは、最大100pFの容量性負荷を駆動することが ために使われているのが、機械の振動パターンを解析する手法です。 可能です。100pF以上の負荷に対応させたい場合には、8kΩ以上の直 通常、ギア・ボックスで生じる振動は、周波数領域で見ると軸速度(周波 列抵抗を追加します。 数)の倍数に当たる成分として観測されます。様々な周波数に不規則 に現れる成分は、摩耗や不均衡、部品の緩みを表します。周波数の測定 ADXL1002の出力アンプには、エイリアシング・ノイズなどを除去する には、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)をベースとする ためのフィルタを外付けする必要があります。その他のノイズの例とし 加速度センサーがよく用いられます。その種のセンサーは、圧電セン ては、ADXL1002の内部クロック(200kHz)が結合することによって生 サーよりも高い分解能、優れたドリフト性能、高い感度、良好なS/R比を じる内部ノイズが挙げられます。フィルタの帯域幅は、発生し得るノイズ 実現できるからです。また、DCに近い低周波の振動を検出できることも に応じて設定する必要があります。R1、R2、C1、C2として、図1に示す各 特徴の1つです。 値を採用した場合には、200kHzにおいて約84dBの減衰量が得られま す。また、後段のADCのサンプリング・レートは、アンプの帯域幅(例えば 本稿では、MEMS加速度センサーを使用した振動計測用のソリュー 32kHz)よりも高い値に設定するべきです。 ションを紹介します。その特徴は、広帯域に対応し、直線性が高く、ノイ ズが小さいことです。MEMS加速度センサーとしては、アナログ・デバイ ADXL1002の電源電圧とADCのリファレンスには、同じ電圧を供給し セズの「ADXL1002」を使用します。このソリューションは、ベアリング ています。ADXL1002の出力アンプは、電源電圧とレシオメトリックな (軸受)の解析やエンジンの監視のほか、最大±50gの広いダイナミック・ 関係にあるからです。また、電源電圧(通常は外部のレギュレータから レンジとDC~11kHzの周波数応答が求められる各種アプリケーション 供給)の許容誤差と電圧の温度係数は加速度センサーとADCに影響を に適用できます。 及ぼしますが、電源電圧とリファレンス電圧に関連する潜在的な誤差は 相殺されます。 図1に示したのが、その回路例です。ADXL1002のアナログ出力信号 は、2極RCフィルタを通過した後、逐次比較型(SAR)のA/Dコンバータ 周波数応答 (ADC「)AD4000」に入力されます。高度な信号処理を行うために、ア この加速度センサーの周波数応答は、システムにおける最も重要な特性 ナログ信号をデジタル・データに変換するということです。 だと言えます。図2に示すように、ADXL1002のゲインは2kHz~3kHzよ り高い周波数領域で増加します。共振周波数(11kHz)では、出力電圧に VDD 約12dB(4倍)のゲイン(ピーク値)が加わります。 0.1 µF 10 µF VDD R1 R2 REF ADXL1002 16 kΩ 32 kΩ SDI VOUT IN+ SCK AD4000 C1 C2 SDO 300 pF 300 pF IN– CNV GND VSS 図1. ADXL1002を使用して構成した回路の例 ANALOG.COM/JP/CBM 11
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15 なります。その結果、実質的に加速度センサーからそれらの振動は見え なくなります。センサーの近くに基板のマウント個所が複数存在すること 12 や、基板を厚くすることも、システムの共振がセンサーによる測定結果に 10 及ぼす影響を低減することに寄与します。 5 まとめ 図1のように、MEMSベースの加速度センサーを使用する振動検出機 0 能は、比較的簡単に構成できます。このような回路を使用することで、回 転機械の状態監視でよく求められるDCから11kHzまでの振動検出が 可能になります。 –5 参考資料 –10 回路ノート CN-0303 「周波数応答補償付きのMEMS振動アナライ 100 1k 10k 11k 100k 周波数〔Hz〕 ザ」、Analog Devices、2016年9月 図2. ADXL1002の周波数応答 著者について ADXL1002は、計測範囲のオーバーシュート(オーバーレンジ)が発生し Thomas Brand( thomas.brand@analog.com )は、2015年 た場合に、そのことを示すための出力(ORピン)を備えています。また、 10月に修士課程の一環としてアナログ・デバイセズのミュンヘ 同製品が内蔵するモニタ機能は、大幅なオーバーレンジが発生した際に ン支社でキャリアをスタートさせました。2016年5月から2017 警告を発します。 年1月まで、アナログ・デバイセズにおいて、フィールド・アプリ 実装時に機械的な面で考慮すべき事柄 ケーション・エンジニアを目指す人のための研修プログラムに 参加。2017年2月にフィールド・アプリケーション・エンジニア 加速度センサーを使用する場合には、適切に配置するよう特別な注意を となり、主に産業分野の大口顧客を担当してきました。産業用 払う必要があります。加速度センサーは、基板上の固定支持位置(基板の イーサネットを専門としており、中欧における関連事業のサポート マウント個所)の近くに配置する必要があります。それによって、基板自体 にも携わっています。ドイツのモースバッハにあるUniversity of の振動を避けると共に、基板の非減衰振動によって生じる計測誤差を避 Cooperative Education(UCE)で電気工学を専攻した後、ド けなければならないということです。このように配置することで、基板の イツのコンスタンツ応用科学大学 大学院で国際営業を学び、修 すべての振動周波数は、加速度センサーの共振周波数よりも確実に高く 士号を取得しました。 CN0549 状態基準保全開発プラットフォームの 高度な振動検出により機器の寿命を 延長 X 最大20kHzのセンサー信号の完全性を 維持しながら、機械への取り付けが容易。 X 広帯域幅のMEMS加速度センサーの データはIEPEフォーマットで出力。 X DAQシステムがリアルタイムのデータ をデータ解析用のツールやアプリケー ションに提供。 CN0549 プラットフォームを見る 12 状態監視向けのMEMSソリューション、振動検出に最適なシステムを構築する 正規化した振幅〔dB〕
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ADIS16500 MEMS IMU https://www.analog.com/media/jp/news-marketing- collateral/solutions-bulletins-brochures/accelerate-your- cbm-deployment-with-ev-cbm-voyager-3_jp.pdf 高性能MEMS IMU、 工業用アプリ ケーションの 堅牢な小型パッケージに ADIS1650x X 耐衝撃・耐振動に優れたジャイロ・センサー X 優れた他軸感度 X プロセッサ接続をシンプルにするSPIインターフェース analog.com/jp/ADIS16500で今すぐ購入
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技術記事 状態監視に最適なシングル ペア・イーサネット、 設備の健全性に関する知見データと 電力を2線式で伝送 Maurice O’Brien、 戦略的マーケティング・マネージャ スマート・インダストリにおける状態監視の重要性 既存の通信技術が抱える課題 現在、製造企業やプラント事業者は、リアルタイムかつ継続的な状態 状態監視アプリケーションには1つの重要な課題があります。それは、ス 監視と予知保全を実現するための優れたソリューションを必要として マート・センサーを、その上位レベルに位置する管理システムにどのよう います。それにより、設備(資産)のメンテナンスにかかるコストの低減、 にして接続するのかということです。これまで状態監視では、最終的なア ダウンタイムの削減、スループットの向上を実現したいからです。状態監 プリケーションの要件に応じて有線または無線の接続ソリューションが使 視を適切に行えるようになれば、設備の寿命を延ばし、製造の質を高め、 われてきました。無線の接続ソリューションには、配備の容易さという点 製造プラントの安全性を向上することが可能になります。 で大きなメリットがあります。但し、帯域幅やバッテリ寿命などが課題にな 予定外のダウンタイムによって発生するコストは、全製造コストの約1/4 ることが少なくありません。一方、有線の接続ソリューションもデータの に達する可能性があります。このことを考慮すると、予知保全の導入に 帯域幅の面で制約が存在するケースがあります。また、過酷な産業環境 よって、コストの大幅な削減と生産性の向上を実現できる可能性があ において長距離にわたる接続が常に良好に維持されるとは限りません。 るはずです1。 加えて、電源用のケーブルが別途必要になるケースが多いと言えます。 状態監視と予知保全に焦点を絞った市場レポートによれば、同市場の年 平均成長率(CAGR)は2つの成長分野に牽引されて25%~40%に達 すると予想されています。2つの成長分野のうちの1つはスマート・セン サーです。設備の健全性を監視するために、スマート・センサーの設置台 数が大幅に増加しているのです。もう1つの成長分野は人工知能(AI)で す。製造分野においても、AIを活用して高度な分析を行うケースが増加 しているのです。その目的は、設備の健全性を表すデータから、予知保全 に利用可能な知見を生成することです。その結果として、新たなサービ スをベースとする予知保全のビジネス・モデルを構築することも可能に なります。以下のような多くの業界において、状態監視に関連する新たな 市場が創出/成長することが期待されています。 X 廃棄物や廃水の処理 X 製造 図1. 様々な機器を対象とした状態監視 X 紙/パルプ X 食品/飲料 既存の代表的なソリューションとしては、100BASE-TX/ 10BASE-Tをベ X 医薬品 X 金属/鉱業 ースとする産業用イーサネットが挙げられます。このソリューションでは、 X エネルギー X 石油/ガス 最高100Mbのデータ帯域幅を利用できます。また、PoE(Power over Ethernet)に対応するカテゴリ5/6eのケーブルを介して電力を供給す 従来、これらの業界ではポンプやコンプレッサ、ファンといった回転 ることも可能です。但し、ケーブルの長さは100mまでに制限されてい 機器の状態監視に注目が集まっていました。ただ、現在ではそれ以 ます。加えて、大きな電力を扱うので、危険な場所におけるユースケー 外の様々な機器を対象として状態監視が行われつつあります。例え スには対応していません。状態監視アプリケーションでは、センサーが ば、CNC(Computerized Numerical Control)機器、加工機器、エンコ 遠く離れたところに設置されることがあります。しかも、過酷な産業環境 ーダ、ベルト・コンベア、ロボット、計測機器などです(図1)。 に配備されることから、センサーのノードはスペースと電力に制約があ るIP66/IP67の筐体に収められる可能性があります。状態監視のアプリ ケーションでは、そうした条件に対応し、長距離にわたって堅牢な通信機 能を維持しなければなりません。そのためには、次のような通信ソリュー 14 状態監視に最適なシングルペア・イーサネット、設備の健全性に関する知見データと電力を2線式で伝送
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プライベート・サーバー クラウド SPE/10BASE-T1L MQTT 1対のツイスト・ペアで電力とデータを伝送 エッジ・デバイス用のメッセージング・プロトコル 最長1kmの距離 低消費電力のエッジ・デバイスに適した少ないメモリ消費量 10Mbのデータ帯域幅 クラウド/プライベート・サーバーに直接接続 ゲートウェイを使うことなく上位レベルの オープンソースの実装を利用可能 イーサネット・ネットワークに接続可能 OT/IT イーサネット・ネットワーク OPC UAに対する相互運用性 10BASE-T1L/MQTT 状態基準保全の 対象となる設備 図2. 状態監視システムの構成。IT/OTのコンバージド・ネットワークを介して 設備の健全性に関する知見を取得します。 ションが必要になります。まず、センサー・ノードの接続に使用するケー 10BASE-T1Lベースのイーサネット接続がもたらす ブル・コネクタは小型化されていなければなりません。また、低コストで メリット 敷設の容易なケーブルにより、電力とデータの両方を伝送できる必要が あります。更に、消費電力が少なく、広いデータ帯域幅に対応していなけ 10BASE-T1Lを導入した場合、旧来の通信方法において制御/管理 ればなりません。 ネットワークに接続するために必要だった複雑で消費電力の多いゲート ウェイが不要になります。ゲートウェイを使うことなく、IT(情報技術)ネッ シングルペア・イーサネットによる新たな接続ソリュ トワークとOT(運用技術)ネットワークの両方にまたがるコンバージド・ ーション イーサネット・ネットワークを実現できるのです。このコンバージド・ネッ トワークにより、配備の簡素化、デバイスの交換の容易化が図れます。ま IEEEは、新たなシングルペア・イーサネット(SPE:Single -pair た、ネットワークのコミッショニングと構成を迅速に実行可能になります。 Ethernet)の物理層に関する規格を策定しました。その規格は、状態監 視アプリケーションにおいて設備の健全性に関する知見を取得するた その結果、問題が生じた場合の根本原因の分析や、設備のメンテナンス めの新たな接続ソリューションとなります。10BASE-T1Lは、2019年11 に伴う作業が簡素化されると共に、ソフトウェアをより迅速に更新できる 月7日にIEEEの承認を得たイーサネット向けの新たな物理層規格(IEEE ようになります。10BASE-T1Lの物理層とメッセージ転送プロトコルの 802.3cg-2019)です。現場に配備された設備がイーサネットによって MQTT(Message Queue Telemetry Transport)を組み合わせれ シームレスに接続できるようになると、工場の運用効率が大幅に向上し ば、設備において低消費電力のスマート・センサーに適した少ないメモ ます。そうすると、オートメーション業界には劇的な変化がもたらされ リ消費量でメッセージ・プロトコルを利用できます。また、MQTTにより、 ます。10BASE-T1Lを導入することにより、これまで現場の設備にイーサ クラウド/プライベート・サーバーに直接接続して設備の健全性に関す ネットを適用するのを阻んでいた課題を解決することができます。代表 る知見を伝送し、予知保全のための高度なデータ解析を実行することが 的な課題としては、電力、帯域幅、ケーブル配線、距離、データ・アイラン 可能になります。 ドが挙げられます。また、本質安全(Intrinsically Safe)のゾーン0でア 10BA S E - T 1 Lに対応した現場の設備との間で通信を行うに プリケーションを稼働させることも課題の1つでした。10BASE-T1Lによ は、MAC(Medium Access Control)機能を備えるホスト・プロセッサ、 り、ブラウンフィールドのアップグレードを行う場合でもグリーンフィー ルドの新規導入を行う場合でも、そうした課題を解決することができま パッシブ・メディア・コンバータ、または10BASE-T1Lのポートを備えたス す。その結果、以前は入手できなかった設備の健全性に関する知見が得 イッチが必要です。追加のソフトウェア、特別なドライバ、カスタマイズさ られるようになります。また、それらの知見に対応するデータを制御層 れたTCP/IPスタックは必要ありません(図3)。10BASE-T1Lに対応する やクラウド/プライベート・サーバーにシームレスに伝送することが可能 機器には、以下に示すような明確なメリットがあります。 になります。現場の設備からクラウド/プライベート・サーバーまでのコ X 10BASE-T1Lは非常に消費電力が少ない物理層の技術です。これ ンバージド・イーサネット・ネットワークを介して新たな知見を活用する を採用すれば、データ帯域幅が広い接続ソリューションを使って、 ことにより、データの分析、運用向けの知見の抽出、生産性の向上に役 非常に消費電力の少ないスマート・センサーを配備できることにな 立つ新たな可能性を創出することができます(図2)。 ります。 現場の設備を10BASE-T1Lで接続 MEMS振動 10BASE-T1Lの物理層 センサー プロセッサ 1対のツイスト・ペア・ケーブル MAC 電力とデータを伝送、 低ノイズ、 最長1kmまで 広帯域幅 低消費電力の 低消費電力の プロセッサ 物理層 図3. 現場の設備とスマート・センサーの接続。10BASE-T1Lに対応する物理層を使って接続します。 ANALOG.COM/JP/CBM 15
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センシング・ データ・ エッジでの 有線/無線の パワー・ 設備の監視用 エッジで クラウド・サービスと モダリティ アクイジション 処理 接続 マネージメント ソリューション 稼働するAI 知見 状態監視のためのエンドtoエンドのソリューション 図4. アナログ・デバイセズが提供する状態監視用の機能 X 10BASE-T1Lで接続されたスマート・センサーには、ネットワークを る機能に加え、状態監視の専門家とのやり取りを通じて学習する機能 介してアクセスすることができます。そのため、いつでもどこからで や、設備の故障を特定するのに役立つデジタル・フィンガープリントを も更新を実施することが可能です。より高度かつ複雑なセンサーを 作成する機能も備えています。それらを利用すれば、コストがかかるダ 使用する場合、ソフトウェアの更新が必要になる可能性が高くなりま ウンタイム、損傷、致命的な障害が発生する前に故障を予測することが す。その場合にも、高速なイーサネット接続を介して現実的な時間内 可能になります。 で更新を実施できます。 センシング、信号処理、接続、機械的なパッケージング、エッジに適用でき X 問題が起きた際には、イーサネットをベースとするネットワーク向 るAIといった技術が進化することにより、新たな状態監視ソリューション けの高度な診断ツールにアクセスし、根本原因を容易に分析する や予知保全サービスを実現することができます。その結果、コストの削減 ことができます。 や生産性の向上を図ることが可能になります。 X 最長1kmを超える1対のツイスト・ペア・ケーブルによって、電力とデ 状態監視アプリケーション向けに提供される新たなシステム・レベルの ータの両方を伝送することが可能です。そのため、スマート・センサー ソリューションは、次のような要素で構成されます。振動や衝撃を検出す の配備において高い柔軟性を得ることができます。 るためのMEMS(Micro Electro MechanicalSystems)センサー、デ X 現場の設備上で稼働しているウェブ・サーバーを介して、設備の健全 ータ・アクイジションに使用する高精度のコンバータ、設備の健全性を 性に関する知見をリモートで入手することができます。メンテナンス 表す質の良いデータをエッジで生成するためのプロセッサなどです。ま を担当する技術者が設備の健全性を監視するために頻繁に歩き回る た、そうしたソリューションは、消費電力が少なく堅牢な有線/無線の通 必要がなくなるので、大幅なコスト削減につながります。 信機能によって設備の健全性を表すデータにアクセスできるよう構成さ れます。そうした無線通信ソリューションの例としては、SmartMesh®や 10BASE-T1Lにおける2線式の電力/データ伝送 Wireless HART®などが挙げられます。一方、有線の通信ソリューション アナログ・デバイセズは、10BASE-T1Lに対応する物理層デバイス には、RS-485や、2線式で電力とデータを供給できる10BASE-T1Lの 「ADIN1100」を提供しています。これを使用すれば、わずか39mW SPEなどがあります。設備の監視に使用するソリューション(OtoSense の消費電力で、1kmを超える1対のツイスト・ペア・ケーブルを使って など)には、これらの技術と高性能のパワー・マネージメント技術が統合 イーサネット接続を行うことが可能になります。SPoE(Single-pair されます。このようにして、完全なハードウェアと、AIによる分析機能を Power over Ethernet)または特別に設計された電源ソリューションを 備えた監視ソリューションが実現されます。そうしたソリューションは、予 10BASE-T1Lの物理層と組み合わせることで、1対のツイスト・ペア・ケ 知保全を実施するために設備に取り付けることが可能です(図4)。 ーブルによって電力とデータの両方を供給することが可能になります。 データ帯域幅が10Mbの通信リンクでは、同じケーブルによって大きな 設備の健全性に関する知見の質が向上し、高速な通信が行えるように 電力容量を実現できます。その電源と接続帯域幅により、スマート・セン なれば、設備の寿命の延伸、メンテナンス費用の削減、予定外のダウン サーを新たな状態監視アプリケーションに対応させることが可能にな タイムの回避を実現できるようになります。つまり、スマート・ファクトリ ります。10BASE-T1Lで接続すれば、設備の健全性に関する知見をIT/ によって、最高レベルの製造品質と安全性を維持することが可能になる OTのコンバージド・イーサネット・ネットワーク上で利用でき、そのデー ということです。 タへのアクセスがより容易になります。10BASET1Lは、プロセス・オート 状態監視アプリケーション向けに開発された完全なシステム・レベルの メーションの設備を問題なく配備できるようにするために、危険な場所 ソリューションとAI製品の詳細については、 analog. com/jp/cbm をご (本質安全のゾーン0)で稼働するアプリケーションにも対応していま 覧ください。アナログ・デバイセズは、お客様やパートナー企業が、監 す。また、10BASE-T1(L Ethernet-APLと呼ばれることもあります)を 採用すれば、低消費電力のソリューションを実現可能です。加えて、設備 視/予知保全サービスをベースとするエンドtoエンドのソリューションを の健全性を監視するスマート・センサーを上位レベルのデータ管理シス 迅速に開発/配備できるよう支援します。 テムに接続することができます。その結果、AIや高度な解析システムを 参考資料 使って設備の健全性に関するデータから利用可能な知見を抽出し、新た な予知保全サービスを展開できるようになります。 1「 The Costs and Benefits of Advanced Maintenance in Manufacturing(製造設備の先進的なメンテナンスにかかるコスト、得 状態監視の展開を加速するシステム・レベルのソリュ られるメリット)」、U.S. Department of Commerce、2018年4月 ーション、AI対応のプラットフォーム 状態監視アプリケーションの成否は、システム・レベルの完全なソ 著者について リューションにかかっています。そのようなソリューションがあれば、 より質の高いデータと知見によって、製造プロセスを大幅に改善する Maurice O’Brien ( maurice.obrien@analog.com )は、アナロ ことができます。例えば、アナログ・デバイセズはAIを活用したリアル グ・デバイセズの戦略的マーケティング・マネージャです。産業用 タイム対応のセンシング技術であるOtoSense™を提供しています。こ オートメーションに焦点を絞ったシステム・レベルのソリューション れを10BASE-T1Lと組み合わせれば、お客様のシステムのあらゆるレ 提供を担当しています。現職に就く前は産業用イーサネットに関す ベルでAIを統合できることになります。OtoSenseは、様々な音や振 る業務に3年間従事し、電源管理部門で15年にわたってアプリケー 動、圧力、電流、温度を検出して解釈する機能を備えたプラットフォー ション/マーケティングに関する業務に携わっていました。アイルラ ムです。これを活用すれば、継続的な状態基準保全やオンデマンドの ンドのリムリック大学で電子工学の学士号を取得しています。. 診断を実現することができます。OtoSenseは、エッジの設備におい てオンライン/オフラインでリアルタイムに動作します。異常を検知す 16 状態監視に最適なシングルペア・イーサネット、設備の健全性に関する知見データと電力を2線式で伝送
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注目製品、3軸・振動センシングシステム、±50gの高周波MEMS加速度センサー、ダイナミック・シグナル分析、電力スケーリングによる高精度24ビットADC

注目製品 アナログ・デバイセズは、最も革新的なセンシング、計測、接続、解釈、電源、 セキュリティを製品に乗せて提供することによって、最も困難な設計上の 課題を解決し、想像を超える可能性をもたらすソリューションの実現を支援 します。世界最高の設計者による最新の状態基準保全(CbM)製品とソリュー ションをご紹介します。 3軸・振動センシングシステム ADcmXL3021は、完全な振動センシングシステムです。高性能のMEMS振動 センシングと豊富な信号処理機能を提供し、状態基準保全システムにおける スマート・センサー・ノードの開発をシンプルにします。 製品ページにアクセス サンプル&購入 データシートをダウンロード EngineerZone®のディス ビデオを見る カッションに参加 ±50gの高周波MEMS加速度センサー ADXL1001/ADXL1002は、状態基準保全に最適化したMEMS加速度 センサーです。2つのフルスケール・レンジ・オプションを提供し、広い周波数 範囲での超低ノイズ密度(µg/√Hz)を実現します。どちらの加速度センサー・ デバイスも、感度に安定性と再現性があり、最大10,000gの外部衝撃にも 耐えます。 ADXL1001:±100g、30µg/√Hz ADXL1002:±50g、25µg/√Hz 製品ページにアクセス EVAL-ADXL100xを評価 データシートをダウンロード サンプル&購入 ダイナミック・シグナル分析、電力スケーリングによる 高精度24ビットADC AD7768-1は、低消費電力、高性能のシグマ・デルタ(Σ-Δ)A/Dコンバータ (ADC)です。Σ-Δ変調器とデジタル・フィルタにより、AC信号とDC信号の どちらも正確に変換します。AD7768-1は、AD7768(8チャンネル、同時 サンプリング、Σ-Δ ADC)のシングル・チャンネル・バージョンです。 製品ページにアクセス EVAL-AD7768-1を評価 データシートをダウンロード サンプル&購入 ANALOG.COM/JP/CBM 17
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状態基準保全開発プラットフォーム、ワイヤレス振動モニタリング・プラットフォーム、エナジー・ハーベスティング・バッテリ寿命延長回路を内蔵したナノパワー昇降圧DC/DCコンバータ

注目製品 状態基準保全開発プラットフォーム 電圧出力型圧電方式(IEPE)は、今日の工業分野の主流となっているハイエンドの MEMSセンサーや圧電センサー用に広く使われているシグナリング・インター フェース規格です。CN0549のシステム・ブロックには以下が含まれます。 X CN0532:広帯域MEMS加速度 X XLMount1:機械的に最適化された センサー用のIEPE互換 MEMS加速度センサー・ボード用 インターフェース マウンティング・ブロック X CN0540:IEPEセンサー用の24ビット データ収集・システム 製品ページにアクセス ビデオを見る 回路ノートをダウンロード サンプル&購入 ワイヤレス振動モニタリング・プラットフォーム ワイヤレス振動モニタリング・プラットフォームは、MEMS加速度センサーによる 振動モニタリング用ワイヤレス・シグナル・チェーン向けのシステム評価用ソリュー ションです。このシステム・ソリューションは、機械式アタッチ機能、ハードウェア、 ファームウェア、PCソフトウェアを組み合わせて、3軸振動モニタリング・ソリュー ションの迅速な開発と評価を実現します。モータまたは固定具に¼-28スタッドで このモジュールを直接取り付けることができます。また、同じワイヤレス・メッシュ・ ネットワーク上の他のモジュールと組み合わせることで、状態基準保全システムの 一環として複数のセンサー・ノードに基づく全体像を提供できます。 製品ページにアクセス プラットフォームを購入 ユーザ・ガイドをダウンロード エナジー・ハーベスティング・バッテリ寿命延長回路を 内蔵したナノパワー昇降圧DC/DCコンバータ LTC3330は、高電圧のエナジー・ハーベスト電源と、一次電池バッテリで駆動する DC/DCコンバータを一体化して、代替エネルギー・アプリケーション向けの単一 出力電源を構築します。内蔵の全波ブリッジ整流器と高電圧の降圧コンバータで 構成されているエナジー・ハーベスト電源は、圧電、太陽光、または磁気の各エネル ギー源からエネルギーを収集します。 製品ページにアクセス DC2048Aを評価 データシートをダウンロード サンプル&購入 18 注目製品
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技術記事 予知保全に最適な加速度 センサーの選択 Bertrand Campagnie, Analog Devices, Inc. 従来、保守は主に予防保全(Preventive Maintenance)または事後保全 加速度センサーによる振動の測定 (Corrective Maintenance)の形で行われてきました。通常、この保守 一般に、振動の測定は、監視の対象となる要素の近くに配置された加 作業は、製造コストの中でも大きな割合を占める要素となります。現在で 速度センサーによって行います。加速度センサーとしては圧電式の は、IIoT(Industrial Internet of Things)を活用して機械の健全性を監視 ものを使用しても構いませんが、MEMS(MicroElectro Mechanical することにより、予知保全(Predictive Maintenance)を実現できるよう Systems)ベースのものであればより効果的です。MEMSセンサーは、 になりました。この手法により、障害の発生を予測することで、運用コスト 低い周波数帯における応答に優れているだけでなく、小型のデバイスと を大幅に削減することができます。 して実現されるからです。 インダストリ4.0は、産業用装置のデジタル化とコネクティビティ(接続 転がり軸受が故障した場合、ボールが内輪/外輪の亀裂や欠陥と接触 性)の普遍化によって現実のものとなりました。現在、製造ツールの変革 する度に衝撃が生じます。その結果、回転軸の振動や微小な位置ずれが は、順調に進行している状況にあります。そうした大きな進化によって、 引き起こされます。衝撃の頻度は、回転速度とボールの数/直径に 柔軟性を向上させた製造工程を実現できるようになります。また、収益性 依存します。 を維持しながら、カスタマイズされた製品を製造することも可能になりま す。IIoTのデジタル化とコネクティビティは、保守に対してもメリットをも 故障の兆候である衝撃が生じている状況下では、可聴ノイズとして顕在 たらします。従来は、摩耗する可能性のある部品は、固定の周期で交換す 化することもあり得る衝撃波が生成されます。衝撃波は、低レベルのス るということが行われていました。一方、センサー(特に加速度センサー) ペクトル成分と比較的高い特定周波数の成分という形で現れます。後者 を使用して、機械が稼働している状態を解析する仕組みを構築すれば、 は、5kHz以上といった具合に、必ず基本となる回転周波数を大きく上回 より適切なタイミングで部品を交換できるようになります。予知保全の る周波数になります。故障の最初の兆候に対応するスペクトルの測定に 枠組みの中で、オペレータの介入が必要になるのは、完全な故障に至る 使用できるのは、低ノイズで広帯域幅の加速度センサーのみです。アナ までの過程のうち初期段階に相当する時期に特定の兆候が現れて警告 ログ・デバイセズの製品であれば「ADXL100xシリーズ」などが該当しま が発せられたときだけです。機械の健全性を解析する方法は、状態基準 す。それらの製品を使用すれば、低速なセンサーやノイズの大きいセン 保全(CBM: Conditional Based Maintenance)として知られていま サーでは全く検出できない貴重な情報を得ることができます。故障の症 す。従来のシステマティックな保守システムは、固定かつ、往々にして安 状が悪化することに伴い、低い周波数成分のレベルが増大します。症状 全サイドに振ったスケジュールに基づいて運用されます。それと比較す が進行して振動が大きくなれば、エントリ・レベルの製品でもそれを検出 ると、CBMを適用した予知保全を導入すれば、保守にかかるコストを大 できるようになります。しかし、その段階まで進むということは、差し迫っ きく抑えることが可能になります。初期の段階で問題が検出されること た状況にあるということを意味します。つまり、保守チームが対処に費や から、保守作業において切迫した状況の発生が抑えられることに加え、機 せる時間はほとんどありません。不意を突かれるような事態を避けるた 械のダウンタイムを計画的に設定できるようになります。予期せぬタイ めには、低ノイズで広帯域幅の加速度センサーにより、異常の最初の兆 ミングで製造ラインを停止しなければならなくなるよりも、ダウンタイム 候を検出することが重要です。 が計画的に訪れる方が好ましいことは言うまでもありません。 アナログ・デバイセズは、ADXL100xシリーズ(ADXL1001/ADXL1002/ 振動は故障の兆候 ADXL1003/ADXL1004/ADXL1005)以外にも、機械の状態の解析に 使用できる加速度センサーを数多く製品化しています(表1)。より限ら 一般に、保守作業を行う適切な時期を判断するためには、振動やノイズ、 れた帯域幅を対象とした計測には、ノイズを20μg/√Hzに抑えたことを 温度などの測定値をパラメータとして使用します。測定が可能な物理量 特徴とする「ADXL35xシリーズ」 (ADXL354/ADXL355/ADXL356/ のうち、振動は、回転機械(エンジンや発電機)における問題の発生源に ADXL357)が適しています(帯域幅は1500Hz)。ADXL100xシリーズ 関して最大の情報を提供します。振動を周波数軸で観測した際に異常が とは異なり、ADXL35xシリーズの製品は、アナログ出力ではなくデジ 認められる場合には、転がり軸受(ボール・ベアリング)の故障、軸の位置 タル出力に対応しています。そのため、マイクロコントローラとのインタ ずれ、不均衡、過度の遊びなどの存在が示唆されます。これらの問題は、 フェースが簡素化されます。 回転機械における振動といった特異性のある兆候(シグネチャ)として表 面化するということです(図1)。 ANALOG.COM/JP/CBM 19
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機械を監視し、突発的な衝撃のみを測定したいケースもあるでしょう。 不均衡、位置ずれ、遊びなどが 高周波のイベントが生じる ( 領域、軸受に生じた その場合には「ADXL37xシリーズ」ADXL372/ADXL375/ADXL377) 原因と考えられる低周波の イベントが生じる領域 故障の初期の兆候 が最適です。衝撃が検出された場合には、装置の精度または動作に変 化が生じたことが想定できます。そこで、その衝撃を事後保全的な保守 作業のトリガとし、欠陥が発生した可能性のある部位を改修するという 基本周波数 ことが行えます。 高調波 コンポーネントから完全なモジュールまで 拡散されたスペクトル成分、 周波数が高く 上述したように、ADXL100xシリーズは、広い帯域幅と低いノイズ・レベ 振幅の小さい振動 ルを特徴とします。但し、同シリーズの製品は1軸センサーです。また、 演算などの処理を行うためのデバイスを必要とします。そこで、アナロ グ・デバイセズは、設計フェーズを簡素化するために「、ADcmXL3021」 というモジュール製品を提供することにしました(図2)。これは、3軸測 振動の周波数 定用のターンキー・ソリューションとなります。3.3Vの電源電圧で動作 図1. 障害の種類に応じて生じるシグネチャの例。転がり軸受における故障の最初 し、ADXL1002をベースとする3つの測定チェーンに加え、温度センサ の兆候は、高い周波数領域で発生します。 ー、プロセッサ、FIFO(First In, First Out)を搭載しています。それら 「ADXL34x」(ADXL343/ADXL344/ADXL345/ADXL346)や超低消 すべてが、回転機械にそのまま設置できるアルミニウム・パッケージ 費電力の「ADXL36x」(ADXL362/ADXL363)などは、民生分野を対象と (23.7mm×26.7mm×12mm)に収容されています。また、±50gの測 したエントリ・レベルの製品です。そのため、予知保全に求められる要件を 定範囲、25μg/√Hzという非常に低いノイズ・レベル、10kHzの帯域幅を 満たすほどの帯域幅やノイズ性能は備えていません。これら製品を適用 達成しています。この製品を使用すれば、多様なアプリケーションにおい した場合、既存の装置の診断機能が限定されることになります。また、将 て、振動のシグネチャをキャプチャすることが可能になります。 来の診断ソリューションを開発するために、既存の装置における測定結果 ADcmXL3021の信号処理ブロックは、構成が可能なFIRフィルタ(係 を活用したいケースがあるはずです。 数32個)を備えています。また、振動のスペクトル解析を実行するため しかし、測定結果であるデータの有用性という点でも、かなりの制約が加 のFFT関数(1軸当たり2048ポイント)を使用できるようになっていま わります。一方で、機械の稼働時間を測定し、必要に応じてそれを保守作 す。計算結果として得られた各周波数のレベルは、アラームの閾値(1軸 業(予知保全ではなく予防保全のみ)のトリガにしたいといったケースに 当たり6個、構成が可能)と比較されます。周波数成分が大きすぎる場 対しては、適切な選択肢となります。これらの製品は、消費電力が非常に 合には、アラームが生成されます。また、ADcmXL3021は、SP(I Serial 少ないので、バッテリやエナジー・ハーベストを電力源とするシステムに Peripheral Interface)ポートを介してホスト・プロセッサと通信できるよ も適用できます。 うになっています。それにより、内部のレジスタやユーザが構成可能な 関数セットにアクセスできます。その関数セットには、平均値、標準偏差、 最大値、クレスト・ファクタ、尖度(振動の激しさを測定可能な4次運動 モーメント)などを求めるための高度な算術関数が含まれています。 GND VDD ADcmXL3021 アラーム パワー・ マネージメント Y ADC TRIGGER X アナログ・ ADC デジタル・ CPU BUSY Z フィルタ フィルタ RST 3軸加速度 センサー ADC CS 温度 ADC FIFO シリアル SCLK センサー I/O DIN DOUT 図2. ADcmXL3021の外観とブロック図。予知保全のアプリケーションに理想的な製品です。 20 予知保全に最適な加速度センサーの選択 振動の振幅