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ビットからビームまで:ミリ波を利用する5Gに向けたRF技術の進化

製品カタログ

著者: Thomas Cameron(博士) Analog Devices, Inc.

はじめに
ワイヤレス業界が5G(第5世代移動通信システム)の企画策定に乗り出した当時、2020年ははるか先の未来であるかのように感じられました。しかし、今や2020年は着々と私たちの目前に迫っています。同年が5G時代の幕開けになることはほぼ間違いありません。現時点で、フィールド試験や予定されている5Gの商用展開についての報道が毎日のように行われています。ワイヤレス業界は、期待にあふれる時期にあると言えるでしょう。現在、5Gに関して業界で行われている取り組みの多くは、モバイル・ブロードバンドの強化を目的としています。

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ドキュメント名 ビットからビームまで:ミリ波を利用する5Gに向けたRF技術の進化
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ソート・リーダーシップ記事 Share on Twitter Facebook LinkedIn Email ビットからビームまで:ミリ波を利用する 5Gに向けたRF技術の進化  著者: Thomas Cameron(博士) Analog Devices, Inc. はじめに しかし、真のモバイル接続にミリ波帯の周波数が使われるよう になるのも、それほど先のことではないでしょう。ミリ波に対 ワイヤレス業界が5G(第5世代移動通信システム)の企画策定 応するシステムの配備に向けては、最初の規格が完成し、技術 に乗り出した当時、2020年ははるか先の未来であるかのように が急速に進化して、十分な知識が蓄積されつつあります。この 感じられました。しかし、今や2020年は着々と私たちの目前に ように、5Gについてはかなりの進歩があったと言えますが、 迫っています。同年が5G時代の幕開けになることはほぼ間違い 無線設計者はまだ数多くの課題を抱えているというのが実態で ありません。現時点で、フィールド試験や予定されている5Gの す。本稿では、そうしたいくつかの課題について解説します。 商用展開についての報道が毎日のように行われています。ワイ ヤレス業界は、期待にあふれる時期にあると言えるでしょう。 本稿は3つのセクションから成ります。最初のセクションでは、 現在、5Gに関して業界で行われている取り組みの多くは、モバ 後に続く分析の準備として、ミリ波による通信のいくつかの主 イル・ブロードバンドの強化を目的としています。ミッドバン 要なユース・ケースを紹介します。2つ目と3つ目のセクション ド帯からハイバンド帯でビームフォーミングの手法を活用する では、ミリ波に対応する基地局システムのアーキテクチャと必 ことにより、ネットワーク容量とスループットの更なる改善を 要な技術について詳しく説明します。なお、2つ目のセクショ 図るための取り組みが推し進められています。また、5Gの具体 ンでは、ビームフォーマ用の技術について、また、必要な送信 的なユース・ケースも出現しつつあります。例えば、産業用オ 電力がシステムのフロント・エンド技術の選択に及ぼす影響に ートメーションでは、5Gのネットワーク・アーキテクチャが備 ついて解説します。5Gに関する技術的な報道では、多くの場 える低遅延という特徴が活かされようとしています。 合、ビームフォーマが取り上げられます。しかし、実際の無線 においては、ビット(デジタル・データ)からミリ波帯の周波 数年前まで、ワイヤレス業界では、モバイル通信にミリ波帯を 数信号への変換を実行する部分もビームフォーマと同等に重要 使用できるのかということが議論されていました1。当時は、無 な要素となります。この部分について、システムのシグナル・ 線設計者の眼前にいくつもの課題が突きつけられている状況に チェーンの例を示すと共に、無線設計者が検討すべき選択肢と ありました。しかし、ほとんどの課題は短期間のうちに解消さ して、アナログ・デバイセズの最先端の製品をいくつか紹介し れ、業界は、初期のプロトタイプ開発からフィールド試験の成 ます。 功へと急速に歩を進めました。現在では、ミリ波を利用する5G の初の商用実装が間もなく開始されようかという段階にまで達 しています。多くの初期実装では、固定またはノマディックな 無線アプリケーションを対象とすることになります。 analog.com/jp
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2 ビットからビームまで:ミリ波を利用する5Gに向けたRF技術の進化 配備のシナリオ、伝搬に関する考察 一方の図1(b)は、高密度の都市部のシナリオを表していま す。基地局は、建物の屋上や正面など、郊外のユース・ケース 技術を開発する際には、その技術が最終的にどのように配備さ よりも地上に近い高さに設置されます。将来的には街灯など、 れるのかを理解することが非常に重要です。どのような設計作 路上のレベルに設置されるようになるかもしれません。どこに 業においてもトレードオフの検討が必要であり、洞察を重ねる 設置される場合でも、この種の基地局には垂直方向の走査能力 ことによって、創造的なイノベーションが生まれる可能性があ が求められます。建物のすべての階に信号を送信しなければな ります。図1に、現在28GHz帯と39GHz帯について検討されて らないからです。また、将来的にこのユース・ケースに対応す いる2つの一般的なシナリオを示しました。 る携帯端末が登場すれば、地上にいるモバイル・ユーザやノマ ディック・ユーザ(歩行者や車両)にも信号を送信する必要が あります。一方、郊外のユース・ケースと比較すると、送信電 力はそれほど高くなくても構いません。ただ、複層ガラス(低 放射ガラス)は、屋外から屋内に信号を伝送する際の障害にな ることが明らかになっています。図からわかるように、水平方 向と垂直方向の両方について、ビームの走査範囲に更なる柔軟 性が必要になります。ここで重要なのは、すべてのケースに対 して有効な万能な解決策は存在しないということです。配備の シナリオに応じてビームフォーミング用のアーキテクチャが決 まり、そのアーキテクチャに応じてどのRF技術を選択するかが 決まります。 表1. 5Gの基地局の例 28GHz帯のリンクのバジェット(帯 ダウンリンク アップリンク 域幅は800MHz、距離は200m) (基地局) (CPE) アンテナの素子数 256 64 総伝導PA電力〔dBm〕 33 19 アンテナの利得〔dB〕 27 21 送信側EIRP〔dBm〕 60 40 (a)郊外における固定無線アクセス 経路における損失〔dB〕 135 135 受信電力〔dBm〕 –75 –95 熱によるノイズ・フロア〔dBm〕 –85 –85 受信ノイズ指数〔dB〕 5 5 受信素子あたりのS/N比〔dB〕 5 –15 受信側のアンテナの利得〔dB〕 21 27 ビームフォーミング後の受信側 S/N比〔dB〕 26 12 表1に示したのは、実用的な例を基に、ミリ波対応の基地局に おける送信電力の要件を表す簡単なリンク・バジェットを導 出した結果です。セルラ式携帯電話の周波数では存在しなか った経路における損失(Path Loss)が追加されることは、ミ (b)高密度な都市部における固定/モバイル無線アクセス リ波帯の周波数において克服しなければならない大きな課題 図1. ミリ波を利用した5Gの配備のシナリオ です。また、建物、枝葉、人間などの障害物も重要な検討項目です。ミリ波帯の周波数における伝搬については、ここ数年 図1(a)は、郊外にある各家庭に広い帯域幅でデータを供給す の間にかなり多くの取り組み結果が報告されています。その ることを目的とするユース・ケースであり、固定無線アクセス 概要について解説した文献に「Overview of Millimeter Wave (FWA:Fixed Wireless Access)を前提としています。このシ Communications for Fifth-Generation (5G) Wireless Networks ナリオでは、基地局は電柱や電波塔に設置され、高い投資対効 -with a Focus on Propagation Models(伝搬モデルに着目 果を得るために大きなエリアをカバーする必要があります。初 し、5Gの無線ネットワークにおけるミリ波通信を俯瞰する)2 期実装では、カバレッジは屋外と屋外の間であると想定されま 」 があります。この文献では、複数のモデルについて比較/解 す。顧客構内設備(CPE:Customer Premises Equipment)は 説を行い、経路における損失が環境にどのように依存するのか 屋外に配置され、リンクは最良のOTA(Over the Air)接続が確 説明しています。また、見通し内(LOS:Line-of-Sight)と見 保されるように設計される可能性があります。アンテナは下向 通し外(NLOS:Non-Line-of-Sight)のシナリオの比較も行わ きでユーザは固定であることから、垂直方向のステアリング範 れています。ここでは詳細は割愛しますが、一般にNLOSのシ 囲は大きくなくてもよいのかもしれません。ただ、カバレッジ ナリオは、検討されている通信範囲と地域から考えて、固定型 を最大化して既存のインフラを活用するために、EIRPが65dBm の無線実装を対象とすべきだと言えます。本稿の例では、通信 以上というかなり大きな送信電力が求められる可能性がありま 範囲が200mの基地局を郊外に配備するケースについて考察し す。 ました。ここでは、屋外から屋外へのNLOSリンクの場合、経路における損失は135dBであると仮定しました。屋外から屋内 へのリンクでは、経路における損失は更に最大30dB高くなる可 能性があります。一方、LOSモデルを想定する場合には、経路 における損失は110dB程度に収まると考えられます。
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3 ビットからビームまで:ミリ波を利用する5Gに向けたRF技術の進化 この例において、基地局には256の素子があり、CPEには64の この手法であれば個々のユーザを同時にサポートできますが、 素子があると仮定しています。どちらについても、出力電力 複数のMIMOレイヤを設けて対応可能なユーザ数を減らすこと に関する要件はICによる実装で満たすことができます。リンク も可能です。 については非対称であると仮定しました。これにより、アップ リンクのバジェットがやや緩和されます。リンクの質の平均値 を前提とした場合、ダウンリンクは64QAM、アップリンクは 16QAMに対応できるレベルであるとします。アップリンクは、 国/地域の法律で定められた上限値の範囲内で、必要に応じて DAC CPEの送信電力を高めることによって性能を向上することがで デジタル きます。リンクの通信範囲を500mまで拡大すると、経路にお N ADC ける損失は約150dBに増加します。これに対応することは可能 ではありますが、アップリンクとダウンリンク共に無線システ ムが更に複雑になり、消費電力が大幅に増加します。 ミリ波に対応するビームフォーミング (a)アナログ・ビームフォーミング 次に、様々なビームフォーミング方式について考察します。図2 に示すように、方式としては、アナログ、デジタル、ハイブリ ッドの3種が存在します。アナログ・ビームフォーミングの概念 DAC については、ここ数年かなり多くの文献で取り上げられていま す。そのため、よくご存じの方が多いでしょう。アナログ・ビ ームフォーミングでは、広帯域のベースバンド信号またはIF( ADC 中間周波数)信号とデジタル信号の間の変換を行うデータ・コ ンバータ(A/Dコンバータ、D/Aコンバータ)が、アップコン DAC バージョンとダウンコンバージョンを実行する無線トランシー デジタル・ビームフォーミング バーに接続されます。例えば、28GHzといったRF帯において1 ADC 本のRFパスを複数のパスに分割し、各パスの位相を制御するこ とによって、ビームフォーミングを実現します。それにより、 遠方にいる意図したユーザに向けてビームを送信します。デー タ・パスにつき1本のビームを操作可能なので、理論的には、こ DAC のアーキテクチャでは同時に1人のユーザに対応できるというこ とになります。 ADC デジタル・ビームフォーミングでは、その名のとおりの処理が (b)デジタル・ビームフォーミング 行われます。位相シフトが純粋にデジタル回路によって実現さ れ、トランシーバーのアレイを介してアンテナのアレイに供給 されます。簡単に言えば、各無線トランシーバーは1つのアンテ ナ素子に接続されることになります。ただ、実際には、求めら れるセクタの形状に応じ、複数のアンテナ素子によって1つの無 線接続が実現される場合があります。デジタル方式を採用すれ DAC ば、容量と柔軟性を最大限に高めることができます。例えば、 N ミッドバンドのシステムに似たマルチユーザMIMO(Multiple ADC Input, Multiple Output)を、将来的にはミリ波帯の周波数を使 って、実現できる可能性があります。その一方で非常に複雑で あるという欠点もあります。現時点で利用可能な技術では、RF デジタル・ 回路とデジタル回路の両方でDC電力を過剰に消費してしまいま プリコーディング す。しかし、将来的には技術の進歩に伴い、ミリ波対応の無線 においてデジタル・ビームフォーミングが台頭してくると考え られます。 DAC 近い将来、最も実用的で効果的に利用できるのは、デジタル/ N アナログのハイブリッド型ビームフォーマです。基本的な考え 方としては、デジタル・プリコーディングとアナログ・ビーム ADC フォーミングを組み合わせて、1つの空間に複数のビームを同時 に生成します(空間多重方式)。狭いビームによって意図した ユーザに電力を送信するため、基地局は同じ帯域を再利用し、 同じタイムスロットで同時に複数のユーザに対応することがで (c)デジタル/アナログのハイブリッド型ビームフォーミング きます。ハイブリッド型のビームフォーマについては、各種文 図2. 3種類のビームフォーミング方式 献で様々な手法が報告されていますが、それぞれには少しずつ 違いがあります。ただ、本稿に示したサブアレイ方式が最も実 用的な実装だと言えます。これは、基本的にアナログ・ビーム フォーマをステップ&リピート方式で拡張したものとなってい ます。現時点では、2~8本のデジタル・ストリームを実用レベ ルでサポートできるシステムの事例が報告されています。
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4 ビットからビームまで:ミリ波を利用する5Gに向けたRF技術の進化 RF対応のビームフォーマ ビットとミリ波の間の変換 Φ ADC 90º 90º Φ X X デジタル Φ DAC 90º 90º Φ PLL/VCO リファレンス・ クロックの PLL/VCO ファンアウト CMOS SiGe GaAs/GaN 図3. ハイブリッド方式で使われるアナログ・ビームフォーマのブロック図 続いて、図3に示したハイブリッド型ビームフォーマの構成要素 つまり、設計者は複数のビームフォーマの構成において同じ無 となるアナログ・ビームフォーマ向け技術の選択肢について詳 線機能を再利用することができます。この点は、現行のセルラ しく見ていきましょう。通常は、損失を抑えるために、ミリ波 方式の無線システムに似ています。セルラ方式の無線システム に対応するすべてのコンポーネントは近くに配置したいと考え では、小信号のセクションについてはプラットフォーム間で共 るはずです。ただ、ここでは説明しやすくするために、アナロ 通になりますが、フロント・エンドはユース・ケースに応じて グ・ビームフォーミング・システムを、デジタル部、ビットと 設計する必要があります。 ミリ波の間の変換部、ビームフォーマ部という3つのブロックに 分割しました。つまり、これは実際のシステムの分割方法とは 図3には、デジタルからアンテナまでのシグナル・チェーンの各 異なるわけですが、このようにした理由については、読み進め 部に適用きる半導体技術を示してあります。ご存じのとおり、 ていただくことですぐに理解できるはずです。 デジタルICやミックスド・シグナルICは、微細化されたバルクCMOSプロセスによって製造されます。基地局の要件によって ビームフォーマの機能は、セグメントの形状と範囲、電力のレ は、シグナル・チェーンの全体をCMOSで構築することも可能 ベル、経路における損失、熱に関する制約など、多数の要因に です。しかし、シグナル・チェーンで最適な性能が得られるよ よって左右されます。ミリ波対応のシステムにおいて、この部 うに、複数の技術を組み合わせる手法の方が一般的です。よ 分については、業界の成熟度合いに対応するためにある程度 くある構成例としては、CMOSのデータ・コンバータと、SiGe の柔軟性が求められます。業界が十分に成熟した後も、スモー BiCMOSをベースとする高性能のIF‐ミリ波変換器を組み合わせ ル・セルからマクロ・セルに至るまでの多様な配備のシナリオ るというものがあります。 に対応するために、様々な送信電力レベルが引き続き求められ ることになるでしょう。一方、基地局においてビットからミリ ビームフォーマは、システムの要件に応じ、複数の技術を適用 波への変換を行う無線部に求められる柔軟性は、それよりもは して実装することが可能です(詳細は後述)。アンテナの規模 るかに低くなります。その機能は、現行のRelease 15の仕様3に と送信電力の要件にもよりますが、集積度の高いシリコンで実 基づいてほぼ定めることができます。 装するか、またはシリコン・ベースのビームフォーマにディスクリートのパワー・アンプ(以下、PA)と低ノイズ・アンプを 組み合わせて実装することができます。
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5 ビットからビームまで:ミリ波を利用する5Gに向けたRF技術の進化 トランスミッタの出力電力と半導体技術の関係については、過 局(スモール・セル)とCPE(可搬型の電力)は、類似の要件 去に分析した結果を文献としてまとめてあります4、5。そのた を共有しています。そのため、CMOS(トランスミッタの出力 め、ここでは詳細は割愛しますが、その分析結果の概要を図4 電力に対する要件が緩い場合)からSiGe BiCMOS(同要件が厳 にまとめました。PA向けの半導体技術は、トランスミッタに しい場合)までの多様な技術を利用できます。一方、ミッドレ 求められる出力電力、アンテナの利得(素子数)、各半導体技 ンジに対応する基地局には、小型のフォーム・ファクタを実現可能なSiGe BiCMOS技術が最適です。ワイド・エリア向けの基 術におけるRF電力の生成能力を総合的に検討した結果に基づい 地局のハイエンドな要件に対しても、様々な半導体技術を適 て選択します。グラフに示しているように、必要なEIRPは、フ 用できます。最終的な決断は、アンテナの規模と半導体技術の ロント・エンドにII-V族の半導体技術を採用してアンテナの素 コストのトレードオフを考慮して行うことになります。SiGe 子数を減らすか(集積度の低い手法)、シリコンをベースとす BiCMOSを適用して60dBmのEIRPを達成することも可能です る集積度の高い手法を採用することによって達成できます。ど が、GaAsまたはGaNをベースとするPAの方が高い出力電力を達 ちらの手法にもメリットとデメリットがあるので、実際の実装 成するという意味では実用的です。 は、サイズ、重量、DC消費電力、コストに関する設計上のトレ 図 5 は 現 時 点 で の 半 導 体 技 術 の 状 況 を 示 し た も の で す 。 業 ードオフによって決めることになります。「Architectures and 界 の 進 歩 は 目 覚 ま し く 、 技 術 は 絶 え ず 進 化 し て い ま す 。 Technologies for the 5G mmWave Radio」(5Gでミリ波無線を 「Architectures and Technologies for the 5G mmWave Radio」5 利用するためのアーキテクチャと技術)5のプレゼンテーション のプレゼンテーションでも述べたのですが、設計者にとっての では、表1の例で導出した60dBmのEIRPを達成するための最適 重要な課題の1つは、ミリ波に対応するPAのDC電力効率を改善することです。 なアンテナの素子数は128~256であると発表しました。また、 素子数を128にできるのはGaAsベースのPAを採用した場合であ 50 GaN EIRP り、256にできるのはすべてをシリコンで実現したビームフォ 65dBm ーマ用RF ICに基づく技術を採用した場合であることを明らかに 60dBm 40 55dBm しました。 50dBm ワイド・エリア 45dBm に対応するBS 40dBm 30 60 35 GaAs P1dBは高くなる アンテナの 集積度は低くなる ミッドレンジに利得 50 30 20 対応するBS GaN ローカル・エリアに PA P1dB 対応するBS/CPE SiGe/SOI 25 40 10 UE P1dBは低くなる 20 GaAs 集積度は高くなる 30 CMOS 15 0 10 100 1000 20 アンテナの素子数 10 SiGe 図5. ミリ波に対応するPAを実現可能な半導体技術。 10 BiCMOS 5 バルク トランスミッタの出力電力に応じ、いくつかの選択肢が SOI CMOS CMOS 考えられます5。 0 0 10 100 1000 アンテナの素子数 新たな技術やPAのアーキテクチャが登場し、図5のグラフは変 化して、高い出力電力を求められる基地局に対してより集積度 図4. EIRPが60dBmのアンテナを実現するための半導体技術。 の高い製品が提供されるようになるでしょう。なお、PAに関す トランスミッタに求められる出力電力と る技術の進歩については、「A Short Survey on Recent Highly アンテナの規模との関係を示しています5。 Efficient cmWave 5G Linear Power Amplifier Design(センチメ ートル波に対応する最新かつ高効率の5G向けリニア・パワー・ こ こ で 、 こ の 問 題 に つ い て 別 の 観 点 か ら 考 察 し て み ま し ょ アンプの設計に関する簡単な調査)」7に適切にまとめられてい う。60dBmのEIRPというのは、FWAの目標値として一般的に掲 ます。 げられているものです。EIRPの値は、基地局に求められる通信 ここで、ビームフォーマに関するセクションを総括すると、現 範囲と周辺環境に応じて、それより高い場合も低い場合もあり 時点ではすべてのケースに対応できる万能なアプローチという ます。現実には、木が生い茂っていたり、高層ビルが立ち並ん ものは存在しません。スモール・セルからマクロ・セルに至る でいたり、広大なオープン・スペースがあったりと、様々な配 までの様々なユース・ケースに応じ、多様なフロント・エンドを設計しなければならない可能性があることを、再度指摘して 備の実装シナリオがあり得ます。そのことを考えると、経路に おきます。 おける損失については、ケース・バイ・ケースで取り組む必要 があることがわかります。例えば、高密度な都市部でLOSが想 ビットからミリ波へ、ミリ波からビットへ 定される場合には、EIRPの目標は50dBmまで引き下げられる可 続いて、ビットとミリ波の間の変換を行う無線部について詳し 能性があります。 く説明します。システムの中で、この部分が抱える課題を洗い F C C ( 連 邦 通 信 委 員 会 ) は 、 機 器 の ク ラ ス 別 に 定 義 、 公 出してみたいと考えています。64QAMはもちろん、将来的には 開 仕 様 、 送 信 電 力 の 上 限 値 を 定 め て い ま す 3 、 6 。 こ こ で 256QAMといった高次の変調方式をサポートするには、ビット は、3GPP(Third Generation Partnership Project)が使用して からミリ波、ミリ波からビットへの変換を高い忠実度で実施す いる基地局の用語を使って解説します3。図5に示すように、PA ることが不可欠です。それにあたって主要な課題となるのは帯 向けにどの半導体技術を選択するかは、機器のクラスによって 域幅です。実際にどのように帯域が割り当てられるかにもより ほぼ決まります。厳密に定義されているわけではありません ますが、ミリ波を利用する5Gでは基本的には1GHzまたはそれ が、モバイル・ユーザ向けの機器(端末)にはCMOS技術が適 以上の帯域幅に対応する必要があります。1GHzの帯域幅という しており、比較的少数のアンテナを使うことで、トランスミッ のは、28GHz帯を使うことを考えれば比較的狭い(3.5%)と言 タに求められる出力電力を達成できます。 えます。しかし、例えばIFが3GHzであるとすれば、設計は非常 この場合、携帯型機器のニーズを満たすために、非常に高い集 に難しいものとなり、最先端の技術を活用しなければ高い性能 積度と電力効率が求められます。ローカル・エリア向けの基地 を得ることはできません。 PAのP1dB〔dBm〕 アレイの利得 PAのP1dB〔dBm〕
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6 ビットからビームまで:ミリ波を利用する5Gに向けたRF技術の進化 ADMV1014 AD9208 ADL5569 ADC 90º 90º 4 × ADRF5020 ビームフォーマ 4 × に対する送受信 AD9172 ADL5335 FPGA/ASIC DAC 90º 90º HMC7044 ADMV1013 PLL/VCO ADF4372 リファレンス・ クロックの PLL/VCO ファンアウト 図6. ビットからミリ波への変換を行う広帯域対応の無線部 図6に示したのは、ビットからミリ波への変換を高い性能で行 これらの周波数変換デバイスは、24.5GHz~43.5GHzに対応 う無線部の例です。アナログ・デバイセズの多様なRF製品群/ します。このように対応範囲が広いことから、単一の無線設 ミックスド・シグナル製品群の中から選択したコンポーネン 計によって、5G向けのミリ波帯として現在定義されている トを使用しています。このシグナル・チェーンは、28GHzの帯 すべての帯域(3GPPのn257、n258、n260、n261)に対応 域、100MHzの帯域幅に対応します。隣接する8つのNRキャリ 可能です。いずれのICも、6GHzまでのIF信号用インターフ アをサポートすることが可能です。実際、この条件下で卓越し ェースをサポートし、2つの周波数変換モードを備えていま たエラー・ベクトル振幅(EVM)性能が得られることが実証 す。図6に示すように、どちらのデバイスも、局部発振周波数 されています。このシグナル・チェーンの詳細と実証された性 (LO)を4逓倍する機能を備えています。LOの入力周波数範 能については、アナログ・デバイセズの動画「5G Millimeter 囲は5.4GHz~11.75GHzです。ADMV1013は、ベースバンド Wave Base Station(ミリ波を利用する5Gの基地局)」8をご覧 帯のI/Q信号からRF信号への直接変換と、IF信号から単側波帯 ください。 (SSB:Single Sideband)信号へのアップコンバージョンの両 続いては、データ・コンバータについて考察してみましょう。 方をサポートします。出力IP3(3次インターセプトポイント) 図6の例には、周波数の高いIF信号を直接送信するトランスミ は24dBmで、変換利得は14dBです。図6に示すように、SSBの ッタと、周波数の高いIF信号をサンプリングするレシーバーが 変換を実行するように実装した場合、側波帯の成分を25dB抑 含まれています。具体的には、A/Dコンバータ(ADC)とD/A 制できます。一方のADMV1014は、RF信号からベースバンド帯 コンバータ(DAC)によって、IF信号の送信と受信が行われま のI/Q信号への直接変換と、イメージ除去の処理を伴うIF信号の す。RF領域ではイメージの除去が困難なので、それを回避する ダウンコンバージョンの両方をサポートします。20dBの変換利 ためにIFを合理的な範囲でできるだけ高く設定する必要があり 得、3.5dBのノイズ指数、-4dBmの入力IP3を実現します。イメ ます。そのため、IFは3GHz以上に設定されます。幸い、図6で ージ除去モードでは、側波帯を28dB抑制できます。 使用しているような最先端のデータ・コンバータであれば、そ RFシグナル・チェーンの最後のコンポーネントは、広帯域に対 うした周波数に対応可能です。「AD9172」は、分解能が16ビ 応するSPDTシリコン・スイッチ「ADRF5020」です。同製品 ットで最高12.6GSPSのサンプル・レートに対応するデュアル は、2dBという小さな挿入損失と、30GHzにおいて60dBという DACです。8レーン、15GbpsのJESD204Bに対応するデータ入力 高いアイソレーションを実現します。 ポート、高性能のクロック逓倍器に加えて、広帯域に対応する マルチバンドのデータを最高6GHzのRF信号に直接変換すること 最後に取り上げるのは周波数源です。局部発振器がEVMに影響 を可能にするデジタル信号処理機能を備えています。図6でレシ を及ぼす大きな要因になり得ることを考えると、ミリ波向けの ーバー用に使用しているのは、分解能が14ビットでサンプル・ LO信号の生成には、位相ノイズが非常に小さい周波数源を使用 レートが3GSPSのデュアルADC「AD9208」です。バッファとサ することが重要です。 ンプル&ホールド回路を内蔵しており、消費電力の低減、小型 「ADF4372」は、マイクロ波に対応する業界最先端のシンセ 化、使いやすさを考慮して設計されています。通信アプリケー サイザです。フェーズ・ロック・ループ(PLL)と極めて位相 ションをターゲットとしており、最大5GHzの広帯域のアナログ ノイズの小さいVCO(電圧制御発振器)を統合したものであ 信号を直接サンプリングすることが可能です。 り、62.5MHz~16GHzの信号を出力することが可能です。外付 図6の回路では、送信と受信の両方のIF段に、シングルエンド けのループ・フィルタを使用し、外部からリファレンス周波数 と差動の間の変換を行うデジタル・ゲイン・アンプを挿入する 信号を入力することで、フラクショナルNまたはインテジャーN ことによって、バランを不要にしています。具体的には、広帯 の周波数シンセサイザを実現できます。8GHzの周波数信号を生 域に対応する高性能のアンプの例として、送信チェーンには 成する際のVCOの位相ノイズ性能は素晴らしく、100kHzのオフ 「ADL5335」、受信チェーンには「ADL5569」を適用していま セット位置で-111dBc/Hz、1MHzのオフセット位置で-134dBc/ す。 Hzです。 IFとミリ波の間には、アップコンバージョンとダウンコンバー 図6のブロック図は、28GHz帯/39GHz帯を使用するミリ波対応 ジョンの機能が必要になります。それに向けては、シリコンを システムの設計について検討する際の有用な出発点となるでし ベースとする広帯域対応のアップコンバータ「ADMV1013」と ょう。広帯域対応/高性能の無線機能を必要とする多様なビー ダウンコンバータ「ADMV1014」をリリースしています。 ムフォーミング用フロント・エンドと共に適切に使用できます。
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7 ビットからビームまで:ミリ波を利用する5Gに向けたRF技術の進化 アナログ・デバイセズは「RF, Microwave, and Millimeter Wave 2 Theodore S. Rappaport、Yunchou Xing、George Products Selection Guide(RF/マイクロ波/ミリ波製品のセ R. MacCarthy, Jr.、Andreas F. Molisch、Evangelos レクション・ガイド)」を提供しています。同ガイドには、他 Melios、Jianhua Zhang「Overview of Millimeter Wave のシグナル・チェーンのアーキテクチャや類似の高周波アプリ Communications for Fifth-Generation (5G) Wireless ケーションを設計する際の選択肢となる数多くの製品群が掲載 Networks-with a Focus on Propagation Models(伝搬 されています。 モデルに着目し、5Gの無線ネットワークにおけるミリ波 まとめ 通信を俯瞰する)」 IEEE Transactions on Antennas and Propagation、Special Issue on 5G、2017年11月 ミリ波を利用する無線技術は、この数年の間に著しく進歩しま 3 Base Station (BS) Radio Transmission and Reception (Release した。研究の段階からフィールド試験へと歩を進め、数ヵ月の 15)(基地局における無線送受信 第15版)、3GPP 38.104 うちに商用展開が開始されるレベルにまで至っています。進化 technical specification するエコシステムと新たに出現するユース・ケースに対応す るには、ビームフォーミング用のフロント・エンドにある程度 4 Thomas Cameron「RF Technology for the 5G Millimeter の柔軟性が求められます。これについては、本稿で示したとお Wave Radio(5Gでミリ波無線を利用するためのRF技術)」 り、近い将来のアンテナの設計に対し、複数の選択肢の中から Analog Devices、2016年11月 適切な技術/手法を選択できる状態にあります。ビットとミリ 5 Thomas Cameron「Architectures and Technologies for the 波の間の変換を行う無線部は、本質的に広帯域に対応していな 5G mmWave Radio(5Gでミリ波無線を利用するためのア ければなりません。したがって、最先端の技術が必要になりま ーキテクチャと技術)」 ISSCC 2018、Session 4、mmWave す。シリコンをベースとする技術は、ミックスド・シグナルや Radios for 5G and Beyond、2018年2月 小信号の領域の要件に対応すべく、急速に進歩しています。本 稿では、現在利用可能なコンポーネントに基づく高性能の無線 6 Fact Sheet: Spectrum Frontiers Proposal to Identify, Open 部の設計例も紹介しました。 up Vast Amounts of New High Band Spectrum for Next- Generation (5G) Wireless Broadband(ファクトシート:5Gに アナログ・デバイセズは、5Gのエコシステムの更なる進化に追 よる無線ブロードバンド向けに新たな大量の高周波数帯を特 従して、引き続き最先端の技術とシグナル・チェーン向けソリ 定/開放するための周波数フロンティアの提案書) ューションの創出に注力します。ミリ波を利用する5Gの新たな 市場において、お客様が差別化を図ったシステムを開発できる 7 Donald C. Lie、Jill Mayeda、Jota Lopez「A Short Survey on ようにサポートしていきます。 Recent Highly Efficient cm-Wave 5G Linear Power Amplifier Design(センチメートル波に対応する最新かつ高効率の5G 参考資料 向けリニア・パワー・アンプの設計に関する簡単な調査) 1 Thomas Cameron「5G Opportunities and Challenges for the 」 2017 IEEE 60th International Midwest Symposium on Microwave Industry(マイクロ波の業界に5Gがもたらす機会 Circuits and Systems (MWSCAS)、マサチューセッツ州ボスト と課題)」 Microwave Journal、2016年2月 ン、2017年8月 8 「5G Millimeter Wave Base Station(ミリ波を利用する5Gの 基地局)」 Analog Devices
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著者について オンライン・ Thomas Cameron(thomas.cameron@analog.com) サポート・ (博士)は、アナログ・デバイセズのワイヤレス技術担 コミュニティ 当ディレクタです。セルラ式携帯電話システムの基地局 用ICの分野で、業界をリードするイノベーションの実現 アナログ・デバイセズのオンライン・サポート・コミュ に注力しています。現在は、セルラとマイクロ波の両方 ニティに参加すれば、各種の分野を専門とする技術者 の周波数帯を対象とし、5Gに対応するシステム向けの無 との連携を図ることができます。難易度の高い設計上 線技術の研究開発に取り組んでいます。以前は、通信事 の問題について問い合わせを行ったり、FAQ を参照し 業部門でシステム・エンジニアリング担当ディレクタを たり、ディスカッションに参加したりすることが可能 務めていました。 です。 セルラの基地局、マイクロ波を使用する無線システム、 ez.analog.com にアクセス ケーブル・システムなど、30年以上にわたって通信ネッ トワーク技術の研究と開発に従事してきました。2006年 にアナログ・デバイセズに入社する前は、Bell Northern Research、Nortel Networks、Sirenza Microdevices、WJ *英語版ソート・リーダーシップ記事はこちらよりご覧い Communicationsで、多様なRFシステムの構築や技術開 発を統括した経験を有しています。 ただけます。 ジョージア工科大学で電気工学の博士号を取得してい ます。ワイヤレス技術に関する7件の特許を保有するほ か、数多くの技術論文や記事を執筆しています。 本    社 〒105-6891 東京都港区海岸1-16-1 ニューピア竹芝サウスタワービル10F 大阪営業所 〒532-0003 大阪府大阪市淀川区宮原3-5-36 新大阪トラストタワー10F 名古屋営業所 〒451-6040 愛知県名古屋市西区牛島町6-1 名古屋ルーセントタワー38F ©2018 Analog Devices, Inc. All rights reserved. 本紙記載の商標および登録商標は、 各社の所有に属します。 Ahead of What’s Possible は アナログ・デバイセズの商標です。 www.analog.com/jp T20877-0-12/18