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【アプリケーションノート】ATR法を用いた遠-中赤外スペクトルによる ポリマー中の無機フィラー材料の定性

その他

遠赤外領域と中赤外領域を同時に組み合わせて解析することで、分析に大きな価値が見出されます

今日、特定の用途のために最適化された、新たな高分子材料に対する需要が高まっています。その種類は、ホモポリマーから複数の異なるモノマーから成るコポリマー、あるいはブレンドポリマーまで多種多様です。多くのポリマー成形品には、新たな機能や物性を付与するため、あるいは加工性の向上やコスト削減のために、フィラー(充填材)や添加剤がブレンドされています。フィラーには多くの種類があり、目的に応じて最適なフィラーを充填することで、例えば、機械的特性、光学的特性、導電性、加工性、難燃性などを向上させることができます。材料を設計、開発する上で、フィラーの種類や配合比と、それにより得られる成形品の性質との関係を分析することは極めて重要です。これらの複合材料の特性評価をするためには、中赤外領域および遠赤外領域のスペクトルは欠かすことができません。

【掲載内容】
◆はじめに
◆測定および拡張ATR補正
◆結果、考察
◆結論

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このカタログについて

ドキュメント名 【アプリケーションノート】ATR法を用いた遠-中赤外スペクトルによる ポリマー中の無機フィラー材料の定性
ドキュメント種別 その他
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取り扱い企業 ブルカージャパン株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧)

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このカタログの内容

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Application Note AN M123 ATR法を用いた遠-中赤外スペクトルによる ポリマー中の無機フィラー材料の定性 はじめに キーワード 装置およびソフトウェア 今日、特定の用途のために最適化された、新たな高分子材料に 対する需要が高まっています。その種類は、ホモポリマーから 複数の異なるモノマーから成るコポリマー、あるいはブレンド ポリマー VERTEX, INVENIO ポリマーまで多種多様です。多くのポリマー成形品には、新たな フィラー A225/Q ATRアクセサリ 機能や物性を付与するため、あるいは加工性の向上やコスト削 無機化合物 広帯域ビームスプリッタ 減のために、フィラー(充填材)や添加剤がブレンドされていま す。フィラーには多くの種類があり、目的に応じて最適なフィラ FMオプション 広帯域検出器 ーを充填することで、例えば、機械的特性、光学的特性、導電 FM ATRライブラリ 性、加工性、難燃性などを向上させることができます。材料を 設計、開発する上で、フィラーの種類や配合比と、それにより得 られる成形品の性質との関係を分析することは極めて重要で ブルカー製のリサーチグレードFT-IR、VERTEX 70v および す。これらの複合材料の特性評価をするためには、中赤外領域 INVENIO R は、遠赤外領域(Far-infrared; FIR)から中赤外 および遠赤外領域のスペクトルは欠かすことができません。 領域(Mid-infrared; MIR)をカバーする広帯域ビームスプリ ッタと広帯域検出器を組み合わせた「FM オプション」によ 中赤外と遠赤外、それぞれの領域からは、物質の化学構造 り、光学部品を交換することなく一回の測定で遠赤外から中赤外にわたる広域赤外スペクトルの取得を可能にします。[1] を反映した情報が相補的に得られます。中赤外領域(4000 さらに真空型ハイエンドFT-IR分光計 VERTEX 80v では、自 ~400cm-1)は、基材となるポリマー材料の定性に必要な有機 動ビームスプリッタチェンジャーオプションを利用すること 化合物の組成と構造に関する貴重な情報源です。対照的に、遠 で、光学系の真空を破ることなく、遠赤外領域から可視領域 赤外およびテラヘルツ領域(< 400cm-1)は、重い原子または固 におよぶ超広帯域スペクトルを連続的に取得することが可能 体の結晶構造における格子振動等に関する重要な情報を示し となります。[2] なお、遠赤外領域には水蒸気の強い吸収バンド ます。特に後者は、フィラーとしてしばしば使用される無機化合 が現れ、スペクトルを解析する際の大きな障害となります。 物の吸収が強く現れることから極めて有用です。 この問題を解決するために、真空光学系の分光計を使用する ことが推奨されます。
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ポリマーの分析のために最もよく使用される測定手法は、迅 表1: フィラー材料の定性 速で使いやすいATR(Attenuated Total internal Reflection) 法です。ATR法は、試料調製を必要とせず、試料をATR結晶 Ammonium polyphosphate に密着させるだけで簡単に測定ができます。ATR法におい (15 % in SB) て赤外光は、ATR結晶と試料の接触界面において試料の深 さ方向に対して数µmだけ潜り込みながら反射され(潜り込 powder polymer matrix powder polymer matrix み深さはATR結晶に依存)、この過程における光吸収によ ATR cm-1 ATR cm-1 ATR cm-1 ATR cm-1 り試料の赤外スペクトルデータが得られます。ダイヤモン 62 70 882 880 ド製ATR結晶を装着するブルカーのPlatinum ATRアクセサ 124 133 リ(データ取得可能範囲:8000-10cm-1)を用いることで、 1009 1011 遠赤外領域までのATR測定が可能となります。 159 161 1058 1053 339 339 1244 1250 440 440 1422 1424 ATR法で得られたデータと透過法によるデータを、より正確 479 478 2891 に比較するためには、OPUSソフトウェアの拡張ATR補正機 546 545 3013 能を使用することが賢明です。ATR法において、試料に対す る赤外光の潜り込み深さには波長(波数)依存性があり、ス 797 798 3169 ペクトル全体の強度を補正して透過スペクトルに近付ける方 法が 補正です。また、 スペクトルの吸収バンドの位 ポリリン酸アンモニウムの粉末単体およびSBフィルム中に充填されたATR ATR 状態でのピーク位置比較。 置は屈折率にも依存するため、吸収周辺で起きる屈折率の異 常分散の影響により、透過スペクトルと比較して、必ず低波 数側へシフトします。OPUSソフトウェアの拡張ATR補正機 外スペクトルを測定する場合、一般的にはポリエチレンで希釈 能は、試料の屈折率、ATRプリズムの屈折率、入射角、反射 した試料を圧縮してペレットにして透過測定を行いますが、こ 回数を元に、赤外光の潜り込み深さの波長(波数)依存性に の過程を考慮すると、ポリマー中に充填されたフィラー材料 伴う赤外吸収強度の変化とピークシフトを補正します。文献 のバンド位置が、透過法のデータに近くなるということは妥 [3]には、様々な炭酸塩鉱物に関する解析結果を交え、拡張 当と言えます。従来、複合材料を構成する各成分の識別は、 ATR補正機能の多様性と有効性が示されています。ポリマー スペクトルライブラリデータとの照合によって行われてきま に充填された少量のフィラーに関する赤外吸収バンドのピー した。ただし、ポリマーマトリックスおよびフィラーに特徴 ク位置は、フィラー材料単体をそのままATR法で測定した場 的な情報が遠赤外領域で見られるにも関わらず、これまでは 合とは異なり、透過法で取得したデータと比較する方が好ま 中赤外領域のスペクトルデータのみで比較・分析されること しい場合があることに留意しなければなりません。これは、 がほとんどでした。例えば、中赤外領域では無機材料の識別 複合系材料においては、無機フィラーがポリマーマトリック が十分にできない場合、さらに遠赤外領域のデータベースが スで希釈された状態にあるためと考えられます。物質の遠赤 必要とされます。このような問題に対して、遠赤外から中赤 外まで連続する領域をカバーする FM ATRライブラリを導入 スチレン-ブタジエンコポリマーのIRスペクトル することにより、余分な作業を行うことなく全ての情報に一度にアクセスすることが可能となり、分析効率の向上が期待 THz できます。 105 90 75 60 45 30 15 0.9 測定および拡張ATR補正 ポリマー成形品および粉末試料について、標準中赤外光源、 広帯域ビームスプリッタ、広帯域DLaTGS検出器からなる FM機能オプションを備えたVERTEX 70v真空分光計を用い て測定しました。測定パラメータについては、波数分解を 4cm-1、積算時間を1分としました。さらに、遠赤外低波数領 域のデータ品位をさらに改善するため、光源を水銀灯に切り 替え、積算時間を6分に増やした測定も行いました。全ての測 定は、ブルカー製 Platinum ATRアクセサリを用いて行いま した。ここで示すスペクトルデータは、標準中赤外光源を用 4000 3500 3000 2500 2000 1500 1000 500 30 -1 Wavenumber cm-1 いて測定したFIR-MIR広域赤外スペクトル(4000~50cm ) と、水銀灯光源を用いて測定した遠赤外スペクトル(680~ 図1: スチレン-ブタジエンコポリマーのIRスペクトル 30cm-1)とを結合したものです。無機粉末試料のATRスペク フィラーとして15%のポリリン酸アンモニウムが含まれるスチレン- トルに対して適用した拡張ATR補正では、次のパラメータを ブタジエンコポリマー(SB)のIRスペクトル。上段:ポリリン酸ア 使用しました。ATR結晶の屈折率を2.4、入射角を45度、反射 ンモニウム粉末のIRスペクトル。中段:フィラーが充填されたポリマ 回数を1.0とし、試料の平均屈折率は全ての無機フィラー材料 ーのIRスペクトル(下段、赤色)からポリマー単体のIRスペクトル について1.6と設定しました。[5] (下段、黒色)を差分した、差スペクトル。 Absorbance Units 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 3169 3013 2891 1422 1244 1058 1009 882 797 546 479 440 339 159 124 62
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ポリスチレンのIRスペクトル アクリロニトリル -ブタジエン-スチレンコポリマーのIRスペクトル THz THz 105 90 75 60 45 30 15 0.9 105 90 75 60 45 30 15 0.9 3500 3000 2500 2000 1500 1000 500 30 3500 3000 2500 2000 1500 1000 500 30 WWaavveennuumberr cm--11 Waavveennuumbbeerr ccmm-1-1 図2:フィラーとして10%のルチル型酸化チタンが含まれるポリスチ 図3:アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンコポリマーのIRスペクトル レンのIRスペクトル。上段:拡張ATR補正された酸化チタン粉末のIR フィラーとして3%の三酸化アンチモンおよび5%のヘキサブロモシク スペクトル。中段:フィラーが充填されたポリマーのIRスペクトル ロドデカン(HBCD)が含まれるアクリロニトリル-ブタジエン-ス (下段、赤色)からポリマー単体のIRスペクトル(下段、黒色)を チレンコポリマー(ABS)のIRスペクトル。上段:拡張ATR補正され 差分した、差スペクトル。 た三酸化アンチモン紛末のIRスペクトル。中段:フィラーが充填され たポリマーのIRスペクトル(下段、赤色)からポリマー単体のIRスペ クトル(下段、黒色)を差分した、差スペクトル。 表2: フィラー材料の定性 表3:フィラー材料の定性 Titanium dioxide Antimony trioxide (10 % in PS) (3 % in ABS) powder ATR polymer matrix transmission powder ATR polymer matrix transmission corrected cm-1 ATR cm-1 cm-1 [6] corrected cm-1 ATR cm-1 cm-1 [6] 341 358 359 179 181 398 424 419 234 263 514 523 558 255 277 272 589 383 386 390 604 644 653 720 736 744 954 948 976 ルチル型酸化チタンの粉末単体およびPSフィルム中に充填された状態 でのピーク位置比較。透過率データは、文献 から引用。 HBCDの粉末単体およびABSフィルム中に充填された状態でのピーク[6] 位置比較。透過率データは、文献[6]から引用。 結果、考察 ここでは、各種ポリマー中のフィラー成分に対して行った ルデータのピーク位置を併せて表2に示します。先の解析 FIR-MIR広域スペクトルによる定性分析について、3つの解 例で示したフィラーとは異なり、二酸化チタンは中赤外ス 析事例を紹介します。最初に、15wt%のポリリン酸アンモ ペクトル領域に現れる吸収が限られるため、遠赤外領域の ニウムを充填したスチレン-ブタジエンコポリマー(SB) 分析が効果的です。ここに示す測定結果では、試料とポリ をSBコポリマー純品と比較した例を紹介します。FIR-MIR マー単体との差スペクトルは、粉末のルチル型二酸化チタ 広域のスペクトルを図1に、その特徴的なピークの位置を ンのATR補正スペクトルに近いピーク位置を示したものの 表1に示します。試料(SBコポリマー+フィラー)からコ 、僅かにずれが見られます。FIR領域における両スペクト ポリマー純品を差分したスペクトルは、標準のポリリン酸 ル間のピーク位置のずれは、ダイヤモンドATR結晶の屈 アンモニウム単体のスペクトルとほぼ一致し、この情報か 折率(n = 2.4)を超えるルチル型二酸化チタンのもつ特 らフィラーの成分を容易に同定することができました。SB 異的に高い屈折率(多形に応じて>2)によって引き起こさ コポリマー中にフィラーとして存在するポリリン酸アンモ れます。ポリマー中の二酸化チタンのピーク位置を粉末の ニウムのピーク位置は、単品粉末のATR測定のピーク位置 二酸化チタンのピーク位置へより近づけるためには、拡張 と非常によく一致しています。次に、フィラーとして10% ATR補正のパラメータを調整することで最適化することが のルチル型二酸化チタンが充填されたポリスチレンポリマ できます。その結果、ライブラリデータを用いて定性分析 ーの例について紹介します。FIR-MIRスペクトルを図2に、 を行った場合、二酸化チタンがヒットしました。 試料成分に特徴的なピークの位置と文献[6]の透過スペクト Absorbance Units 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 602 514 398 341 Absorbance Units 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 954 720 383 255 234 179
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最後に、2種類のフィラー、3%の三酸化アンチモン(無機化 結論 合物)および5%のヘキサブロモシクロドデカン(HBCD、 遠赤外領域と中赤外領域を同時に組み合わせて解析すること 有機化合物)が充填されたアクリロニトリル-ブタジエン- で、分析に大きな価値が見出されます。ここでは、ポリマー スチレンコポリマー(ABS)の例について紹介します。 中の無機フィラーに関する定性分析が、新たな測定手法と拡 FIR-MIR全領域のスペクトルを図3に、その特徴的なピーク 張ATR補正機能の組み合わせによって、より効率的に行える の位置と文献[6]の透過スペクトルデータのピーク位置を併 ことを示しました。 せて表3に示します。有機化合物のHBCDは濃度が低いため VERTEX 70vとINVENIO Rに用意されたFMオプションは、 か、残念ながら赤外スペクトルにおいて差スペクトル法を用 ひとつの試料に対して一度のスペクトル測定を行うだけで、 いても、その存在を捉えることができませんでした。対照的 遠赤外と中赤外、ふたつの領域にまたがる連続したスペクト に、三酸化アンチモンの吸収は強く、FIR-MIRの全領域おい ルを簡単に得ることが可能で、それぞれ個別の測定では困難 てピーク位置は三酸化アンチモン粉末試料のATR補正スペク であった広範な情報を一気に取得することができます。 トルとよく一致しており、この手法による同定が可能である さらに、FM ATRライブラリを用いることで、化合物の定性 ことが確認できました。ここに示す全てのスペクトル例は、 分析をよりシンプルに、なおかつ効率的に行うことが可能と ブルカー製 のFM ATRライブラリ[4]に収録されています。 なります。 参考文献 [1] Bruker Application Note AN118: BRUKER FM: Far and Mid IR Spectral Range Spectroscopy in One Step. [2] A. Simon, G. Zachmann, Vibrational Spectroscopy 60 (2010), 98-101. [3] Bruker Application Note AN122: Carbonate Minerals and Other Samples Studied by Far IR ATR Spectroscopy. [4] Bruker Product Note S39: BRUKER FM ATR library. [5] Advanced ATR-Transformation, Koichi Nishikida, N & K Spectroscopy, LLC, Honorary Associate/Fellow, Materials Science and Engineering, University of Wisconsin. [6] S.E. Stein, director ,“Infrared Spectra” in NIST Chemistry WebBook, NIST Standard Reference Database Number 69, Eds. P.J. Linstrom and W.G. Mallard, National Institute of Standards and Technology, Gaithersburg MD, 20899, http://webbook.nist. gov, (retrieved September 30, 2014). Bruker Optik GmbH ブルカージャパン株式会社 オプティクス事業部 Ettlingen ·Germany 〒221-0022 神奈川県横浜市 [大阪オフィス] 〒532-0004 Phone +49 (7243) 504-2000 神奈川区守屋町 3-9 大阪府大阪市淀川区西宮原1-8-29 Phone 045-450-1601 テラサキ第2ビル Fax +49 (7243) 504-2050 Fax 045-450-1602 Phone 06-6394-8118 info.bopt.de@bruker.com info.bopt.jp@bruker.com Fax 06-6394-9003 www.bruker.com/optics Bruker Optics is continually improving its products and reserves the right to change specifications without notice. © 2018 Bruker Optics BOPT-4001217-01