色を読む話
───色彩管理は「感覚」から「知覚」へ───
色を知る。色で知る。
今、あらゆる環境で
「色」が注目されています。
私達をとりまく生活環境の中には、無数の色が存在しています。色は、購買意欲
や嗜好、食欲などの感覚を左右するのはもちろん、顔の色から健康状態を知ると
いったことにいたるまで、広範囲にわたって大きな役割を担っています。ところ
が、それほど色の重要性が増しているにもかかわらず、色の知識や管理が十分で
ないために、製品色の決定や取引上のトラブルなどが、多方面で数多く起こって
いるのも事実です。色は、人間のカンや経験に頼って判定される場合が多いため、
共通に統一された基準で誰もが管理できるというものではありません。いま、色
※を正確に表現し、その色を他の人に伝え、再現してもらうためにはどんな方法
があるのか。製造業をはじめ、あらゆる分野で円滑な色彩コミュニケーションを
交すためにはどうしたらよいのか。私達は、色に関するさまざまな情報や知識を
もっと知っておく必要があるのではないでしょうか。
4 4 4
※本書では物体色についての説明を行っています。
1
目 次
PARTⅠ
なぜ、りんごは赤く見えるの ? ………P4
人間は、特定の波長を色として感じることができます。………P6
このりんごは、どんな色 ? ………P8
ふたつの赤い球。この色の違いを、誰かに正確に伝えてください。………P10
「色あい」「明るさ」「あざやかさ」。色の世界は、3 つの要素の組み合わせ。………P 12
色相、明度、彩度。色彩の世界を立体で見ると。………………P14
色相、明度、彩度に目盛りをつけると、色のモノサシ(数値化)ができます。………P16
測色計を使えば、色の数値化が簡単にできます。………P17
色の数値化には、表色系を使用します。………P18
微妙な色の違い(色差)を伝えることも、測色計は得意です。………P22
人間の目では同じように見えても、測色計で測ってみると微妙に違っていることがわかります。………P24
PARTⅡ
私たちが色を感じるプロセスと測色計の違いについて。………P28
光(色)の成分はどうなっているのか、実際に見てみましょう。………P30
測色計を使って、いろいろな色を測ってみましょう。………P32
同じ色のはずなのにどうして違って見えるの ? ………P34
光源が変わると、色の見え方はこんなに変わります。………P36
ちょっと複雑な「条件等色」(メタメリズム)の問題。………P38
対象物や環境条件が違っても、色の見え方は変わります。………P40
分光測色計を使うと、こんなに簡単に問題を解決できます。………P43
仕様表から読み取れる大切なこと………P44
特殊な色の測定 ………P52
測定に際しての注意(測定物の状態、環境条件) ………P54
PART Ⅲ
新しい色差式(CIE DE2000)について ………P55
PART Ⅳ
色の用語いろいろ ………P59
2
PARTⅠ
色について、
いっしょに
勉強してみましょう。
あたりを見回しただけでも、わたしたちの目には、いろ
いろな色が飛び込んできます。色は、わたしたちのまわ
りに無意識のうちに存在していますが、同時に、長さや
重さのようにスケールや単位をもっていませんので、だ
れもが一つの表現で共通にコミュニケーョンすることが
できません。例えば、「青い海」や「青い空」と言っても、
個人個人によって感じ方が異なるため、いろいろな青が
あるはずです。そこに、色のむずかしさがあります。
また、「りんごはなぜ赤く見えるのだろう ?」といった、
ごく当たり前のように思えることが、案外よく分からな
いものです。
では、わたしたちは色についてどのような知識をもてば
よいのでしょうか。
3
光がなければ色はない。
わたしたちが物体の色を感じるには、
「光源」「物体」「視覚」の三要素が必要です。
真っ暗闇の中では、色はわかりません。また、まぶたを
閉じてしまえば物体の色は見えなくなってしまいます。
さらに、肝心の物体がなければ、色が存在するはずはあ
りません。
「光源」「物体」「視覚」の三つが揃わないと、色を感じ
ることはできないのです。では、赤いりんご、黄色いレ
モン…という具合に、色の違いができるのはなぜでしょ
うか。
5
人間は、特定の波長を
色として感じることができます。
6
光を波長成分に分けることを「分光」といいます。
分けた光の強弱(混ざり具合)によって、
さまざまな色ができるのです。
太陽の光をプリズムに通すと、虹のような色の帯ができ ひとつです。電磁波の中には波長が数千 km にも及ぶ
ることをご存知の方は多いでしょう。このことを発見し 電波から、十億分の 1 mm 以下のγ(ガンマ)線まで、
たのは、万有引力を発見した I. ニュートンです。この色 さまざまな種類がありますが、「可視光線」はおよそ
の帯をスペクトルと呼び、光をスペクトル(波長成分) 380 nm ~ 780 nm※ 2(ナノメートル)の範囲です。物
に分けることを「分光」といいます。 体で反射され、視覚で色として認識される光は、(単一
スペクトルが人間の目で見えるということは、この特定 波長の人工光を除いて)さまざまな波長成分の光が混じ
の波長が、人間の網膜に刺激を与えて色として感じさせ り合っています。
ているわけです。スペクトルは赤・橙・黄・緑・青・藍・
紫の順に並んでいますが、これはそれぞれの波長の長さ ※ 1:波長…光は波の性質を持っており、波の谷から谷(山から山)
が違うために生じる現象で、光の中で最も波長の長い部 までの距離を波長といいます。
分が赤く見え、短い部分が紫に見えるのです。この、人
間の目で見える領域の光を「可視光線」と呼びます。 波長
この領域からさらに波長が長くなると、赤外線域になり、
逆に波長が短くなっていくと紫外線域になりますが、こ ※ 2:nm(ナノメートル)…波長の単位として使われます。また、
μm(マイクロメートル)も使用されます。
の領域は人間の目には見えません。
● 1 nm=10- 6 mm=10- 3 μm
さて、「波長※ 1」という言葉がでてきたことでもわかる ● 1 μm=10- 3 mm=10 3 nm
ように、光は空中を飛び交っている様々な電磁波の内の
※ 虹は太陽光が空気中に浮かんだ細かな水滴を
プリズムとして通ってできたスペクトルです。
7
色の表現は、十人十色。色を伝えるって
意外にむずかしいものなんです。
4 人に、ひとつのりんごを見せて色を聞くと、
それぞれ違う答えが返ってきました。
同じりんごを見ているのに、みんなそれぞれのことばで それほど、色を言い表すということは、複雑でむずかし
色を言い表していますね。しかもずいぶん感覚的な表現 いことなのです。
です。このように、表現のしかたが人によってまちまち でも、もしここに、誰もが理解できる共通の表現方法が
では、色を伝えることは非常にむずかしく、あいまいに あれば、色のコミュニケーションはもっとスムーズにな
なってしまいます。この場にいない人が「燃えるような り、正確になるのではないでしょうか。正しく伝えあう
赤いりんご」と言われて、まちがいなくこの色を再現す ことができれば、色のトラブルもきっと解消できること
ることができるのでしょうか。 でしょう。
ことばは、どこまで色を表現できるのでしょうか。
慣用色名と系統色名。
色を言い表すことばには、昔から独特のものがあり、時 長さや重さを計るモノサシはあるのに
代によって変化しています。 いまお話ししている赤を例 色を計るモノサシはないのかな ?
にとっても、珊瑚色、紅梅色、臙脂、茜色、朱色などの
ほかに、ローズ、ストロベリー、スカーレットなどの呼
び名があり、これらを慣用色名と呼んでいます。
さらに、色の調子を分析し、あざやかな、くすんだ、濃
い…などの形容詞によって、より正確に表す方法が使わ
れています。先ほど、男性が「あざやかな赤」と言っ
たのがこれで、系統色名と呼んでいます。このように、
色をことばで伝える工夫はいろいろありますが、紅色や、
あざやかな赤、だけでは、人によって受け取り方が違い、
色の表現としてはまだまだ不十分です。では、色を誤解
のないように言い表すには、どうすればよいのでしょう
か。
9
ふたつの赤い球。
この色の違いを、誰かに
正確に伝えてください。
明るい感じ あざやかな感じ
(light) (vivid)
明るさは? 色あいは? あざやかさは?
暗い感じ くすんだ感じ
(dark) (dull)
10
色を正確に表現し、伝えるために
ちょっと色彩の世界をのぞいてみましょう。
赤い色、いろいろ。よく似ているふたつの赤は
どう違うのでしょう。
ここにふたつの赤い球があります。一見、同じ赤と言え 同じように見える赤でも、これだけ違うのです。
なくもないのですが、よく見くらべてみると、いくつか 整理をしてみると、「色あい」、「明るさ」、「あざやかさ」
の違いに気づきます。色あいはふたつとも赤ですが、上 の 3 つが、色を表現するために必要な要素だということ
の球の方が明るく、下の球は暗い感じですね。またあざ がわかります。
やかさは上の球の方がまさっています。
11
「色あい」「明るさ」「あざやかさ」。
色の世界は、3つの要素の組み合わせ。
図 1 色相環
黄 黄
赤
(A) (B)
図2 赤紫と緑の明度と彩度の変化
高
い
明
度A B
図 3 色調の呼び方
白(white)
ごくうすい ごくうすい
うすい (very pale) (very pale) うすい
(pale) (pale)
明るい 明るい灰 明るい灰 明るい
(light) (light grayish) (light grayish) (light)
あざやかな くすんだ 灰 灰 くすんだ あざやかな
A (vivid) (dull) (grayish) (grayish) (dull) (vivid) B
低
い 暗い灰 暗い灰
こい (dark grayish) (dark grayish) こい
(deep) (deep)
暗い 暗い
高い 低い 高い (dark) ごく暗い ごく暗い (dark)
(very dark) (very dark)
彩度 彩度 黒(black)
12
緑
青 黄
緑 緑
青 青
紫
赤
赤 紫 紫
色あい、明るさ、あざやかさ、
これが色彩の世界です。
し き そ う
色相 「赤」「黄」「緑」「青」……。
“色あい”は色彩の輪をつくっています。
H(Hue)
りんごの色は赤、レモンの色は黄、空の色は青…という 全く別の色相ですが、赤と黄の絵の具をまぜると黄赤が
ように、誰でもその「色あい」を思い浮かべることがで でき、黄と緑なら黄緑、緑と青なら青緑…というように
きます。 この赤、黄、青というように、それぞれ区別さ 色相は図 1 のようにつながりあって、ひとつの輪を作
れる「色あい」を色相といいます。さらに赤と黄といえば、 ります。これを色相環といいます。
め い ど
明度 明るい色と暗い色。
“明るさ”の度合いはタテに変化します。
V(Value)
色と色を比較して、明るい色とか暗い色というように、 うが明るい色ですね。このように色相に関係なく比較で
色には「明るさ」の度合いがあります。たとえばレモン きる「明るさ」の度合いを明度と呼んでいます。図2を
の黄色とグレープフルーツの黄色では、レモンの黄色の 見てください。これは図1の色相環を、緑(A)-赤紫(B)
ほうが、より明るいですね。それではレモンの黄色とあ で切った断面にあたります。明度がタテ方向に変化して
ずきの赤ではどうでしょう。やはり、レモンの黄色のほ 上へ行くほど色が明るく、下へ行くほど暗くなるのがわ
かりますね。
さ い ど
彩度 あざやかな色、くすんだ色。
“あざやかさ”の度合いは中心から広がって変化します。
C(Chroma)
同じ黄色でも、レモンと梨でくらべてみるとどうでしょ の色相で、中心からヨコ方向に彩度が変化しています。
う。「明るさ」というよりも、レモンはあざやかな黄色で、 中央へ向かうほど、くすんだ色(灰色)になっているの
梨はにぶい黄色というように、「あざやかさ」に大きな がわかりますか ?図 3には、明度と彩度を表す色調(トー
違いがあることがわかります。このように、色相や ン)に関する一般的な呼び方(修飾語)を示しています。
明度とはまた別に「あざやかさ」の度合いを示す性質を ことばにすると、どのような表現になるか、一度、図 2
彩度と呼んでいます。図2を見ると、赤紫と緑それぞれ と見くらべてください。
13
色相、明度、彩度。色彩の世界を立体
で見ると………。
色相の輪、明度のタテ軸、彩度は中心からのヨコ軸。
3つの要素を組み合わせると……。
色相、明度、彩度。この3つの要素は色の三属性と呼ばれ、
図 4 のように色相を外周、明度をタテ軸、彩度を中心
からのヨコ軸とした立体として考えることができます。
図 4 で表した、三属性でつくられる立体に実際の色を
配してみると、図 5 のような色立体になります。彩度
の段階が色相と明度ごとにそれぞれ異なるため、色立体
は複雑な形をしていますが、色相、明度、彩度が変化し
ていく様子が良くわかります。
図 4 色相、明度、彩度の立体図
白
明
度
彩度
色相
黒
14
図 5 色立体
色立体でりんごの色を見てみると、
色相、明度、彩度が交わる
赤色の部分に近いことがわかります。
15
色相、明度、彩度に目盛りをつけると、
色のモノサシ(数値化)ができます。
色の数値化の歴史
誰もがもっと簡単に、もっと確実に色を伝え合いたい。
色彩の歴史の中では、さまざまな人々が独自の方法で、
色を定量的に表そうと試みて来ました。長さや重さと
同じように色を数値で表す方法を考案したのです。
例えば、1905年米国人の画家アルパート .H. マンセル
は、「色相」、「明度」、「彩度」の異なる数多くの色紙
を作り、これを目で見比べて分類しながら色を表現
する方法を考案しました。現在は修正マンセル表色系 色の数値化が
( 一般にはマンセル表色系 )と呼ばれ、色相 (H )、明度
(V )、彩度 (C )で分類した色票 (マンセル色票 )を使って できると便利だな !
色を記号で読み取ることができます。
また、色や光に関してのさまざまな国際的な取り決め
を行う機関として、国際照明委員会が組織されまし
た。この国際照明委員会 (Commission Internationale
de l'Eclairage、略称 :CIE) では、色を数値で表す方法
として、1931 年にXYZ(Yxy) 表色系、1976 年には
L*a*b* 色空間が制定されました。
これらの表色系※はその後いろいろと改良が加えら
れ、現在では色彩コミュニケーションのルールとして
世界共通で使用されています。
※表色系・色空間(ひょうしょくけい・いろくうかん):
一般に、物体の色や光源の色を数値や記号で表現する方法を
言います。また、色を表現する 3 つの要素で示される空間の
ことを、色空間と言います。
16
測色計を使えば、
色の数値化が簡単にできます。
色彩計を使えば、各種表色系で瞬時に答えがでます。
数値表示ですから、だれとでも共通にコミュニケーションできます。
リンゴの色を測ってみると、
次のような数値表示になりました。
エルスター・エースター・ビースター
L*a*b* 色空間
L* = 43.31
a* = 47.63
b* = 14.12
エル・シー・エッチ
L*C*h 色空間
L* = 43.31
C* = 49.68
h = 16.5
エックス・ワイ・ゼット (ワイ・エッスク・ワイ)
XYZ( Yxy) 表色系
Y = 13.37
x = 0.4832
y = 0.3045
17
色の数値化には、
表色系を使用します。
L*a*b* 色空間
L*a*b* 色空間は、物体の色を表すのに、現在あらゆる 図 6 L*a*b* 色空間色度図(色相と彩度)
分野で最もポピュラーに使用されている表色系です。
黄方向
1976 年に国際照明委員会(CIE)で規格化され、日本 +b*
でも JIS(JIS Z 8781-4)において採用されています。 60
L*a*b* 色空間では、明度をL*、色相と彩度を示す色
度をa*、b* で表します。図 6 は、L*a*b* 色空間 50
色相
色度図です。図からわかるように、a*、b* は、 40
色の方向を示しており、a* は赤方向、-a*
は緑方向、そしてb* は黄方向、-b* は青 30
方向を示しています。数値が大きくな
20
るに従って色あざやかになり、中心に
なるに従ってくすんだ色になり 10 (A)
ます。 緑
また、図 8 は、L*a*b* 色空間を 方-60 -50 -40 -30 -20 -10 10 20 30 40 50 60 赤
+a*向 方
向
立体的にイメージしたものです。
図 6 は図 8 を水平方向(緑方向-赤 -10
方向)に切った断面図に当たります。
-20
りんごの色をL*a*b* 色空間で測定する -30
と、次ぎのような数値になりました。
-40
-50
-60
青方向
L* = 43.31
a* = 47.63 図 7 L*a*b* 色調図(明度と彩度※)
b* = 14.12
明 100
この数値がどんな色をしているのかを見てみましょう。 度 ごくうすい
90 (very pale)
( L * ) うすい
まず図 6 から、a*=47.63 と、b*=14.12 が交差する(A) (pale)
80 明るい
(light)
点がこのりんごの色度になるわけです。また、 70
図 7 は色調(明度と彩度※)を示したも 60
灰 あざやかな
のです。この図から、このりんごの明度 (grayish)
50 くすんだ (vivid)
(dull)
L*=43.31 の(B)点がわかります。こと 40 (B)
ばでこのりんごの色を言い表すと、「赤方 色相 30
向の色相で、あざやかな色」というとこ 20 こい
暗い (deep)
ろでしょうか。 (dark)
10
ごく暗い
(very dark)
※彩度(C*)= √(a*)2+(b*)2 です。 00 10 20 30 40 50 60
彩度( C * )
18