超音波とファインバブルのダイナミック制御による表面改質技術
はじめに
超音波の安定したコントロールには、洗浄液の溶存気体の安定した状態が必要である。洗浄液
の溶存気体が均一な濃度で洗浄水槽内に分布をした状態では、超音波が水槽全体に均一に広が
り、超音波(音圧、周波数、変化)の制御が目的に合わせて実現出来る。しかし、超音波・フ
ァインバブルの洗浄現象には、洗浄対象物を含め、超音波振動子・水槽・治具・・・沢山の条
件(サイズ、材質、構造、製造方法、設置方法・・)があり、それぞれの影響が複雑に関連し
ている。(例:キャビテーションが、溶存気体濃度の分布を変化させている)
その中で、最も重要な事項が、音響流(非線形現象)である。
超音波の音圧データを測定・解析(バイスペクトル)・評価することで、超音波のキャビテーシ
ョンと音響流の関係性について分類を実現した。この分類に基づいて、超音波とファインバブ
ルによる洗浄・乳化・分散・加工・化学反応・表面処理・・・・を行っている。その結果、超
音波とファインバブルの制御により、
目的とする音響流(非線形現象)のダイナミック制御が実現した。
図 1:キャビテーション・音響流の分類 図 1-2 変動型の分類
特に、100kHz 以下の超音波と 1 メガヘルツ以上の超音波の組み合わせによる、ファインバ
ブル超音波シャワーの利用で、金属表面の金属組織への刺激処理は、精密洗浄をはじめ、新し
い効果に発展している。
音響流(非線形現象)のダイナミック制御
超音波プローブを利用した超音波シャワー
2.どのようにして解決するのか?
2.1 脱気ファインバブル発生液循環装置による、洗浄液(洗剤濃度、溶剤濃度、溶存酸素
濃度)の均一化により、超音波(音圧レベル、周波数分布)を安定して制御可能な状態にする。
<<脱気ファインバブル発生液循環装置>>
2.1-1)揚程の高いマグネットポンプあるいはギアポンプの吸い込み側のホースを絞るこ
とで、キャビテーションを発生させる。(禁止事項だが20年以上問題なく動作する)
2.1-2)キャビテーションにより溶存気体を含んだ気泡が発生する。
上記が脱気液循環の状態。
2.1-3)洗浄液の溶存気体濃度が低下すると、キャビテーションによる溶存気体の気泡サ
イズが小さくなる。
2.1-4)水槽内の洗浄液全体が循環する、適切な液循環の設定により、20μ以下のファイ
ンバブルが発生する。
上記が脱気ファインバブル発生液循環の状態。
2.1-5)上記の脱気ファインバブル発生液循環状態に対して
(高次の高調波を伴ったダイナミックな)超音波を照射すると、
ファインバブルを超音波が分散・粉砕して、ウルトラファインバブルが発生する。測定を行う
と、ウルトラファインバブルの分布量がファインバブルの分布量より多くなる。
上記が、超音波制御可能な液循環状態。
写真1:脱気ファインバブル発生液循環システム
2.2 均一な洗浄液と適切な液循環に基づいて、
対象物に有効な超音波
(キャビテーションと音響流のダイナミック特性)を測定・確認する。
超音波と液循環の非線形制御により、音響流をコントロールすることで、
目的に合わせた効果的な超音波のダイナミック制御が実現する。
特に、100kHz 以下の高出力(300-600W)の超音波と、
低出力(10-30W)の1-10メガヘルツの超音波を発振制御することで、
音響流(非線形現象)のコントロールが可能になる。
(上記の超音波による洗浄液は10-3000リットルが対象範囲)
図2:超音波洗浄機と音圧データ
注意事項<音圧測定解析に基づいた、音響流とキャビテーションの最適化>
1)洗浄液が淀まない洗浄水槽と液循環を採用
2)強度バランスの良い(特別に弱い部分のない)洗浄水槽構造を採用
3)洗浄液の分布を均一にする(溶存気体濃度、洗剤濃度、液温、流速 等)
4)振動子上面の洗浄液の流れを調節可能にする(流量・流速・バラツキをコントロール)
5)超音波の主要周波数の出力にあわせた液循環を設定
6)洗浄水槽の強度バランスは超音波の主要周波数の 1/2,1/4,1/8,・・周波数に対して設定
7)洗浄水槽の製造方法は、超音波の主要周波数の減衰レベルに合わせて設定
8)洗浄操作、液循環、音響流・・流体の流れに対して、洗浄水槽の特性を設定
(例 水槽のコーナー部の設計、オーバーフロー槽の構造、・・)
9)音響流のダイナミック特性により洗浄システムとしての制御構造を設定
以上のパラメータを考慮して超音波の伝搬(洗浄)状態を最適化する
超音波とファインバブルを利用した表面処理効果
サンプルアルミ部材1
注:制御によるダイナミックな変化が効果の主要因です
<ダイナミック制御>
超音波洗浄槽C 音圧レベル 200mV
超音波洗浄槽B 音圧レベル 300mV
超音波洗浄槽B 音圧レベル 1200mV
音圧解析結果(一部抜粋)
超音波洗浄槽A 自己相関(1 グラフの経過時間:5ms)
超音波洗浄槽A バイスペクトル(1 グラフの経過時間:5ms)
参考:超音波評価(詳細な評価方法は非公開)
<めっき面のなめらかさを検出>
標準品
超音波ファインバブル処理品
2.3 音圧データの測定・解析・確認
洗浄目的に最適な超音波伝搬状態(音響流)を、量産対応として実現する
(各種の相互作用を解析確認)
2.3-1)超音波専用水槽に対して、超音波とファインバブルで表面処理を行う
2.3-2)水槽の設置
1:ダイナミックな振動変化に対して(共振・干渉の少ない)専用部材を使用
2:水槽の音響特性に合わせた主要超音波周波数・出力の最適化
2.3-3)超音波振動子の設置は専用部材を利用して、音響流を目的の状態にする
2.3-4)目的の超音波状態を音圧測定解析(超音波テスター)で確認する。
ポイント
適切な超音波(周波数・出力)と液循環のバランスが重要。
液循環の適切な流量・流速と超音波キャビテーションの設定により
超音波による音響流のダイナミックな変化をコントロールする。
ファインバブルの効果として、均一に広がる超音波伝搬状態が
水槽サイズや液量の拡大による超音波の減衰問題を解決する。
水槽内の液体全体の液循環と液体の均一化により、超音波の伝搬効率が高くなる。
(10Wの超音波出力でも
1000リットルの洗浄液全体にキャビテーションを発生させることができる。
200Wの超音波出力で
4000リットルの洗浄液全体にキャビテーションを発生させることができる。)
写真2:水槽の検査、水槽の表面処理
2.3-5<< 超音波の音圧測定・解析 >>
2.3-5-1)音圧の時系列データに関して、多変量自己回帰モデルによるフィードバック解
析で、測定データの統計的な性質(超音波の安定性・変化)を解析評価
2.3-5-2)超音波発振による影響を、インパルス応答特性・自己相関の解析により対象物
表面への超音波振動応答特性として解析評価
2.3-5-3)発振と対象物(洗浄物、洗浄液、水槽・・)の相互作用を、パワー寄与率の解
析により評価
2.3-5-4)超音波の利用目的(洗浄・加工・攪拌・・)に関して、超音波効果の主要因で
ある対象物(表面弾性波の伝搬)あるいは対象液に伝搬する非線形振動(バイスペクトル解析
結果)現象を、超音波のダイナミック特性として解析評価
図4:音圧データの解析結果(自己相関・バイスペクトル・パワースペクトル・パワー寄与率)
この解析方法は、複雑な超音波振動の音圧データを、時系列データの解析手法に適応させる、
これまでの経験と実績に基づいて実現している。
注:解析には下記ツールを利用
注:OML(Open Market License)
注:TIMSAC(TIMe Series Analysis and Control program)
注:「R」フリーな統計処理言語かつ環境
2.4<上記の問題に対する実用的な対応>
ファインバブル・超音波・液循環について、実用的な制御・管理を行うために、以下の技術を
利用。
2.4.1 超音波伝搬状態の測定・解析技術
<< 超音波測定解析システム(超音波テスター)>>
特徴(100MHz仕様の場合)
*測定(解析)周波数の範囲 0.1Hz から 100MHz
*表面の振動計測が可能 *24時間の連続測定が可能
*任意の2点を同時測定 *測定結果をグラフで表示
*時系列データの解析ソフトを添付
超音波プローブを利用して、様々な測定
(洗浄液の音圧、洗浄物・洗浄水槽・治工具の表面振動・・)を行う。
測定した音圧データについて、位置や状態・弾性波動を考慮した解析で、
各種の振動・相互作用・・・を音響特性として検出・評価する。
写真3:超音波測定解析システム
2.4.2 超音波専用水槽の設計・製造技術
水槽構造を適正に設計(例 汚れの流れを考慮したオーバーフロー構造)。溶接や加工に対して
超音波の減衰要因を小さくする製造方法(溶接位置や加工方法)を採用。
水槽や超音波振動子の表面は、ファインバブルと超音波による、表面改質(表面残留応力の緩
和処理)を行う。
2.4.3 液循環技術
脱気・ファインバブル発生液循環(水槽内に溶存している気体を一定レベルに脱気して、脱気
できないレベルの気体の一部をファインバブルにする)
写真4:オーバーフローによる流れで、空気が大量に水槽に入り、超音波が大きく減衰すると
いう現象が起きないファインバブル発生液循環の状態。
ポイント:適切な超音波とファインバブル発生液循環のバランス。ファインバブル発生液循環
の適切な流量・流速と超音波(出力・周波数のダイナミックな変化)の設定により、超音波(キ
ャビテーション・音響流の効果)をコントロール。
ファインバブル発生液循環により、以下の自動対応が実現。
1)溶存気体は、水槽内に分布を発生させ、レンズ効果・・・により、超音波が減衰。
2)適切な超音波照射時は、大量の空気(気体)が液面から水槽内に取り入れられても、キャ
ビテーションによる、大きな気泡となり、水槽の液面から出ていく。
(従って、超音波照射を行っていない状態で、大量にオーバーフローの液循環を行い続けると
水槽内に、不均一な濃度分布が発生する。)しかし、この空気を取り入れる操作は必要。液循環
の無い水槽で、長時間超音波照射を行い続け、溶存気体の濃度が大きく低下する部分が発生す
ると、一時的には高い音圧が実現するが、継続して音圧を測定解析すると、音圧も超音波周波
数も大きく低下して、キャビテーションや音響流の効果も小さくなる(不安定な超音波の状態
を繰り返しながら超音波の効果が小さくなっていく)。この濃度分布の解決には、ファインバブ