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シスコが考える5G時代のエンドツーエンドアーキテクチャ

ホワイトペーパー

このカタログについて

ドキュメント名 シスコが考える5G時代のエンドツーエンドアーキテクチャ
ドキュメント種別 ホワイトペーパー
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シスコ 超高信頼無線バックホール
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シスコシステムズ合同会社

このカタログの内容

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表紙

シスコが考える 5G 時代の エンドツーエンド アーキテクチャ
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はじめに

はじめに 山田 欣樹 5G は私たちの生活のあらゆるところに進化と革新をもたらすと言われています。一般ユーザにとっては超高速通信の実現によるこ れまでにはない体験が提供され、非常にスケーラブルで低遅延対応のアプリケーションによって、様々な業界の企業にとっても新し いビジネスモデルを創造する機会となるでしょう。また、5G サービスを提供するサービスプロバイダーにとっても、これまでには ないサービスを一般ユーザや企業に提供することによって新たな収益源を確保する機会となるため、世界中のあらゆる業界で 5G の商用サービスに向けた取り組みが始まっているのです。 サービスプロバイダーにとっては、5G サービスを実現するためには課題があります。今後トラフィック需要が爆発的に増加するこ とが予測されており、eMBB(超高速)、URLLC(低遅延・高信頼)、mMTC(多数同時接続)といった 5G の厳しいサービス要件 も満たす必要があるので、ネットワーク設備を大幅に増強する必要があります。また、接続されるデバイスが増大するとともにネッ トワーク上の脅威の対象も増大するため、サイバーセキュリティへの対策もこれまで以上に考慮する必要があります。一方で、収 益性の観点から、設備投資と運用コストを抑制しつつ、サービス検討から収益化までの時間を短縮する必要性にも迫られています。 従来のネットワークアーキテクチャと運用方法では、これらの相反するニーズを同時に実現することはできません。そのため、これ までにはない技術革新が必要不可欠です。サービスプロバイダーの通信インフラは、無線アクセス、トランスポートネットワーク、 分散データセンターなど、複数のドメインがあります。各ドメインで革新的なテクノロジーを採用することはもちろん必要ですが、 それだけではドメイン毎に異なるテクノロジーが採用されて、全体として効率的で一貫性のあるサービス提供ができなくなってしま います。サービスプロバイダーが 5G サービスを実現するためには、ドメインを跨ったエンドツーエンドでのネットワークアーキテ クチャに基づいた通信インフラを構築することが重要なのです。 このブログでは、シスコが考えるエンドツーエンドでのサービスプロバイダー ネットワークアーキテクチャと、それを支える 5G を 中心としたテクノロジーについて、テーマごとに 9 章に分けてご紹介していきます。 図 0-1 エンドツーエンド ネットワークと各章のマッピング図 2
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目次

第1章 5G 時代の無線アクセス ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P4 第2章 5G におけるトランスポートテクノロジー ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P16 第3章 5G コアのクラウドネイティブアーキテクチャ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P21 第4章 5G 時代のデータセンターファブリックアーキテクチャ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P31 第5章 5G 時代のエンドツーエンド ネットワークスライシング ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P43 第6章 5G 時代のエンドツーエンドオーケストレーション ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P58 第7章 5G/Hetnet の企業向け活用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P65 第8章 5G のサービスユースケース ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P73 第9 章 5G 時代のトラスト・サイバーセキュリティ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P79 3
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第 1 章 5G 時代の無線アクセス、1.1 5G mobile 、1.1.1 Virtualized RAN

第 1 章 5G 時代の無線アクセス 5G 時代の無線アクセス 大槻 暢朗 シスコが考えるサービスプロバイダー エンドツーエンド 1.1.1 Virtualized RAN アーキテクチャ 第 1 章は、「5G 時代の無線アクセス」に 5G(第 5 世代移動通信システム)は 10 Gbpsの最高伝 ついてです。 送速度、無線区間で 1 msec 程度の遅延、100 万台 / 5G とは、正確には 3GPP において定義された 5G New ㎢ の端末収容数を特長としており[1-1]、これらを活かし Radio(NR)を用いる第 5 世代移動体通信システム(モバ た新たなビジネスやサービスの実現が期待されています。 イルコア、基地局、端末から構成されます)のことを意味 しかし、5G を実現するための投資は莫大な金額となるこ します。日本においては免許認可有りの周波数帯で運用 とが予想され、サービス プロバイダー(SP)の 5G に関 されます。 する設備投資の効率化は喫緊の課題となっています。 しかしながら 5G という言葉はすでに移動通信システム その課題に対する対処の 1 つとして、5G ではアーキテク に留まらずアンライセンス帯無線通信システムや、Multi- チャ全体が仮想化を想定した作りになっており、安価な汎 access Edge Computing(MEC)、トランスポートを巻 用サーバの活用による投資効率化が期待できます。また、 き込んだエコシステムを形成し始めています。 すべてのネットワークファンクション(NF)間のインターフェ 本章においてはその中でも無線アクセス技術に注目し、 イス(IF)は 3GPP[1-2] において標準化されており、サー 5G RAN を中心に 5G RAN とのインターワークが想定さ ビス プロバイダーは各ベンダーの製品ロードマップに縛 れる無線アクセス技術(Wi-Fi、LoRaWAN)の特徴をご紹 られることなく最適なタイミングでさまざまなベンダーの 介し、最後にそれら無線アクセス技術の適用領域につい 最新かつ最適な機能を選択して、ソフトウェアという形で て考察します。 投資することが可能となっています。 この仮想化の取り組みは 4G の時代からコア ノードを中 1.1 5G mobile 心に進められてきましたが、SP の CAPEX の 7~8 割 ここでは 5G 時代における最も代表的な無線アクセス技 が基地局機器・工事に由来するという状況を背景に、5G 術である 5G モバイルに関して、無線伝送技術ではなく では同様の検討が Radio Access Network(RAN)の領 RAN(Radio Access Network)の構成やトランスポート 域にも踏み込まれ、virtualized RAN(vRAN)の検討が進 に焦点をあててご紹介します。 められました。 Fronthaul Midhaul Backhaul RF Low – High – Low – High - Low – High –PHY PHY MAC MAC RLC RLC PDCP RRC Option 8 Option 5 Option 4 (CPRI) Option 7-2x Option 6 Option 3 Option 2 Option 1 Data Core/ IPBB RF Low – High – Low – High - Low – High –PHY PHY MAC MAC RLC RLC PDCP RRC Data RU DU CU Option 8 Option 7-2x Option 6 Option 5 Option 4 Option 3 Option 2 Option 1 Assumption 100 MHz BW DL 157.3 Gbps 22.2 Gbps 4.13 Gbps 4 Gbps 4 Gbps 4 Gbps 4.02 Gbps 4 Gbps 256/64QAM 8 MIMO 32 Tx/Rx UL 157.3 Gbps 21.6 Gbps 5.64 Gbps 3 Gbps 3 Gbps 3 Gbps 3.02 Gbps 3 Gbps 2*16 bits/Sym 1-way delay 250 µs 250 µs 250 µs n*100 µs Appx 100 µs ~10 ms ~10 ms ~10 ms 図 1-1 RAN のファンクション © 2017 Cisco and/or its affiliates. All rights reserved. Cisco Confidential 4 ANT
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1.1.2 RAN の M-plane のオープン化

第 1 章 5G 時代の無線アクセス vRAN はその名のとおり仮想化技術によって RAN のファ が[1-5][1-6]、世界のモバイル オペレータを中心に ンクションを汎用サーバ上にソフトウェアで実装することが RAN のオープン化を議論している業界団体である Open 目的ですが、仮想化が実現できたとしてもその実装がベ RAN Alliance(ORAN)において Option 7-2x(ORAN ンダ独自となってしまうとベンダロックインの状態に陥るた split)が規定され[1-7]、世界の主要オペレータは今後 め、本来の目的である投資の削減効果が薄れてしまいま ORAN split を採用していくことを宣言しています。 す。そのため仮想化の過程として、ベンダー ロックイン これまでの RAN の世界ではベンダー独自の IF の実装 を回避するため RAN のファンクション間の IF やアーキテ 方法等がネックとなり、RANは 1 つのベンダーに閉じる クチャを標準化することが重要になります。ここでは特に ことが多いのが通例でしたが、インターフェイスの標準化 RANの物理的な配置に大きな影響を与えるIFの標準化 とORAN におけるベンダ独自の設定を排除した詳細プロ に焦点を当てます。 ファイルの規定により、仮想化とともにマルチベンダ構成 図1-1 に RAN のファンクション一覧とファンクションの が可能となり、RAN のオープン化が進展しています。 分割方法 Option、ならびに要求条件を示します[1-2]。 4G の Centralized-RAN[1-3] においては Option 8 1.1.2 RAN の M-plane のオープン化 (RF と Low-PHY の間)でファンクションが2つに分けら RAN はその性質上非常に細かく膨大な量のパラメータを れ、radio frequency(RF)は remote radio head(RRH)、 持ちます。これらパラメータのチューニングがユーザ体感 RF ファンクション 以外のファンクションは base band unit に大きな差を与えますが、チューニング作業は測定と調 (BBU)という形で筐体を物理的に分けて実装されまし 整の繰り返しでありオペレータは多大な作業量を強いられ た。RRH と BBU の間の通信路はフロントホールと呼ば ます。これを解決する手段として 3GPP においても Self れ、Common Public Radio Interface(CPRI)[1-4] が Optimization Network(SON)の標準化が進められてい デファクト スタンダードとなりました。 ますが、各ベンダーでは独自の element management しかし CPRI は送信アンテナ数に比例して必要帯域が増 systems( EMS)において SON が実装されていることが 加するという特性があり、 4G と比較して送信アンテナ数 通例であったため、同一エリアにてマルチベンダの基地 が数倍に増加する 5G においては CPRI では対処が難し 局を運用することが難しいという問題がありました。また、 いという問題がありました。 オペレータの運用作業者にとっても複数 EMS のユーザイ そこで 5G では機能分割の仕方が再考され、3GPP にお ンターフェースや機能を学習する必要があり、Opex 削減 いて Option 2 での分割が規定されました。Option 2 で に向けた課題となっていました。 分割された際の RF 側のファンクション群を Distributed ORAN ではフロントホールのオープン化に加えて Unit(DU)、コア側のファンクション群を Centralized Unit M-Plane(管理プレーン)の標準化が検討されています (CU)と呼びます。しかし Option 2 ではキャリア アグリ [1-8]。フロントホールと同様にこれまでの基地局はベ ゲーション(CA)、Coordinated Multiple Point(CoMP) ンダー独自の仕様で閉じられており、上記で述べたような や enhanced Inter-cell Interference Coordination ベンダロックインの課題がありました。 (eICIC)のような DU 同士の同期要件が厳しい無線方式 そのような現状を打破するべく ORAN では RAN の機 の実装が難しいという課題もあり、それらの機能が比較的 能部を定義し、それを標準化されたモデル言語である 容易に実装可能で CPRI の課題であった必要帯域を削減 YANG 言語で記述する機構とインターフェイスを標準化し することが可能な Option 7 の検討が進められました。 ました。YANG によるモデル化はルータのドメインにおい Option 7 で区切られたファンクション群は RF 側を ては近年実装がデファクトスタンダードとなり、それを活 Radio Unit(RU)、コア側を Distributed Unit(DU)と呼 かしたベンダ共通 operation support system(OSS)や びます。Option 7 はさまざまな方式が提案されています さまざまなソリューションによるプロビジョニング等のネッ 5
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1.1.3 RAN 仮想化の現状 、1.1.4 5G RAN を収容するトランスポート

第 1 章 5G 時代の無線アクセス トワーク自動化が急速に進められています。今後は RAN り vDU についても専用の筐体は不要となりますが、他の のプロビジョニング と SON を含めたエンドツーエンドの Virtual Network Function( VNF;仮想化ネットワーク機 ネットワーク自動化が推進されると期待されています。エ 能)とのハードウェア共通化やオートヒーリング等の仮想 ンドツーエンドのネットワーク自動化については別章で取 化ならではの運用が難しくなるなど、一定の制限が加わる り上げます。 ことになります。現時点では実際に仮想化されるのは CU のみである場合が多く見られます。 1.1.3 RAN 仮想化の現状 1.1.1 項において RAN の仮想化とインターフェイスの標 1.1.4 5G RAN を収容するトランスポート 準化の動きについて紹介しました。本項では RAN 仮想 1.1.1 項において、ORAN split と Option 2 という 2 つ 化の現状について述べます。 の代表的な RAN のファンクションスプリットをご紹介しま 仮想化が進められている機能は DU と CU です。CU に した。本項ではそれぞれのスプリットの間に入る伝送路の ついては仮想化の準備が整った状態であり、実際に製品 要求条件を満たすトランスポートの観点から RAN の形態 が市場に出てきています。一方 DU については、 PHY 部、 について考察します。 特に Multiple Input Multiple Output(MIMO)の信号分 図 1-2 に 5G で想定される代表的な RAN の形態につ 離演算や Forward Error Correction(FEC)の復号演算 いて示します。ORAN splitは lower layer split (LLS)と の処理が大規模になってしまうため、現状の CPU 性能 も呼ばれます。ORAN split ではそのアーキテクチャ上 では仮想化が困難であることがわかっています。 の理由から RU-DU 間(フロントホール )の遅延を 250 そのため、DU を汎用サーバ上で動作させるために Field μsec 以内に抑える必要があります[1-2]。装置の実装 Programmable Gate Array( FPGA)を追加し、処理の にも依りますが、250 μsec の内、RU/CU/DU 内での 一部を専用ハードウェア(FPGA)にオフロードさせる手 処理遅延を考慮すると伝送遅延のマージンとされるのは 法を用いることが多くなっています。 FPGA の追加によ 100 μsec 程度と一般的に考えられており、ファイバ内 図 1-2 代表的な RAN の形態 6
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1.1.5 Time sensitive network (TSN)

第 1 章 5G 時代の無線アクセス の光の速度を 2.0×108 m/s と仮定すると、RU-DU 間 構築することが重要となります。ORAN split、Option 2 の距離は 20 km 以内という制約が出ることを意味します。 共にパケットベースのインターフェースとなっているため、 これらの遅延の制約は無線区間の再送制御である hybrid フロントホールとミッドホールはパケットベースのネット automatic repeat request (HARQ)の制約に起因しま ワークに重畳可能です。4G のフロントホールのデファク す。5Gではこの制約を緩める検討もされていますが、 トスタンダードであるCPRI は time division multiplexing 5G の特長の一つである超低遅延を実現するためには劇 (TDM)をベースとした各ベンダー独自の仕様であり、パ 的な緩和は期待できないため、この程度のマージンがリー ケット多重が不可能でした。そのため 4G のフロントホー ズナブルと考えられます。 ルでは WDM を用いてファイバを集約することが一般的 Split 2 は higher layer split(HLS)とも呼ばれます。 でしたが、5G の世界では、スイッチやルータといった HLS における DU-CU 間のネットワークはミッドホール ネットワーク機器を用いることで、より安価かつ柔軟なパ と呼ばれます。ミッドホールはフロントホールと比較して、 ケットベースのネットワークでフロントホールとミッドホー 必要帯域、遅延、双方の面から大幅に要求条件が緩和さ ルを重畳する検討が盛んになってきています。フロント れます。遅延の面については 250 μsec から 10 msec ホールのパケットネットワーク化により、(1) フロントホー へと緩和されます。こちらも伝送遅延のためのマージンは ル回線の冗長性、(2) 複数基地局のフロントホール回線 装置実装に依存しますが、仮に 10 msec のほぼ全てを を物理的に 1 つに集約、(3) 他の通常 LAN 回線(ビル 伝送遅延のマージンと考えると、約 2000 km まで DU- 内 LAN 等)との NW 共用、の実現が可能となります。こ CU 間の配置を離すことができるため、ほぼ制限はないと れも RAN のオープン化の効果ということができます。 考えることができます。HLS ではこの特徴を活かし、地理 的により NW の上位の方に CU を集約することで仮想化 1.1.5 Time sensitive network (TSN) のメリットを享受しようとする検討が増えています。 では、フロントホール、ミッドホール、通常 LAN 回線を また、フロントホールは必要帯域がミッドホール及びバッ 1 つのネットワークに重畳するにはどのようなトランスポー クホールと比べて格段に多く、ユーザ スループットを改善 ト技術が必要になるかを考えてみたいと思います。 する際のボトルネックになりやすいため、特に高スループッ ネットワーク化のためにルータ等の装置を挿入すると、そ トを期待されている mmW の(ミリ波を利用する)基地局 の装置における処理遅延が発生するため、1.1.4 項で述 は RU と DU を 1 つの筐体に収めてサイト側に設置する べた ORAN split 時におけるフロントホールの距離制限 Option 2 が選択されるケースが多くなると考えられていま 20 km が、装置での処理遅延に応じてさらに短くなって す。一方で 1.1.1 項でも述べましたがセルエッジのスルー しまうという課題が発生します。装置内遅延は主に、低優 プット改善のために CoMP や eICIC 等 Advanced 機能 先なジャンボパケットが入ってきた際に伝送自体に時間が を使用する場合は ORAN split の形が有効となります。 かかってしまい、その間に高優先な ORAN split パケット このような現状を踏まえると、ORAN split と Option 2 は がキューイングされることで発生します。 どちらがよいという議論ではなく、各サイトの状況と各 SP 一方でミッドホールの距離制限は 2000 km と長いため のエリア展開戦略に応じて使い分けつつ共存していくこと 装置の処理遅延は問題になりません。そのためフロント になると考えられます。当然 2 つの方式が 1 つのサイト ホールとミッドホールを 1 つのパケットネットワークに重 に重畳されるパターン(例えばマクロセルは ORAN split 畳するには、いかに遅延要件の厳しい ORAN split のフ でスモールセルは Option 2)も増加すると考えられます。 ロントホールのトラフィックを、遅延要件のゆるい Option このような状況において効率的にネットワークを構築する 2 のトラフィックや、その他のベストエフォートトラフィック ためには、フロントホールとミッドホールという要求条件 よりも優先することができるか、が重要となります。Time の異なる 2 つのネットワークを 1 つのトランスポートで sensitive network(TSN)はこの装置遅延の問題を緩和 7
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1.2 Wi-Fi 6 、1.2.1 OFDMA

第 1 章 5G 時代の無線アクセス することができるイーサネット技術です[1-9]。TSN で が切られています。Wi-Fi 6 のシステムスループット向上 は、そのようなキューイング状況が発生した際に低優先の に資する主な特長を次に示します[1-10]。 ジャンボパケットの送出が終わるのを待つことなく中断し、 高優先パケットを優先的に送出することができるようにな 1.2.1 OFDMA ります。TSN により、ORAN split においても NW 機器 Wi-Fi 6 の最も大きな特徴は、多元接続の方式が、これ の処理遅延を抑制し、ジッタも低く抑えることが可能となり までの分散制御である Carrier Sense Multiple Access/ ます。フロントホールとミッドホールを重畳する際に TSN Collision Avoidance(CSMA/CA; 搬送波感知多重 は必須の技術といえるでしょう。 アクセス/衝突回避)から、集中制御の Orthogonal Frequency Division Multiple Access( OFDMA; 直交周 1.2 Wi-Fi 6 波数分割多元接続)ベースに変更となったことです。 従来の「Wi-Fi」という言葉は IEEE802.11 で規定された 図 1-3 に従来の CSMA/CA ベース OFDM と OFDMA 無線 LAN 規格 のベンダー相互接続性を担保するための ベースのリソース割当の概念図を示します。これまでは、 団体である Wi-Fi Alliance から取られた無線 LAN 機器 送信権を持った端末が全ての周波数リソースを使って送信 の通称でした。そのため、技術の進歩は規格名で表され し、多元接続は時間的に分割することで実現されていまし ており、主だった規格に注目すると IEEE 802.11b/a/g/ た。そのため特に音声等のショートパケットでは周波数リ n/ac と呼称されてきました。 ソースを使い切れず、無駄が生じていました。 しかし Wi-Fi という名称が一般に十分浸透したという背 Wi-Fi 6 では、 OFDMA の採用により、周波数リソースを 景と、規格名では技術の進歩が一般ユーザにわかりづら 細分化して必要な分だけを複数端末に割り当てることがで いというマーケティングの観点から、最新の規格である きるようになったため、無駄が削減されシステムスループッ IEEE802.11ax からは Wi-Fi 6 という名称が用いられる ト・遅延の改善が期待できます。また、これまでの時間 ことになり、技術の進歩が番号で分かるようになりました。 軸方向のリソース制御だけではなく、その端末にとって最 IEEE 802.11ac は Wi-Fi 5 と呼ばれます。 も適切な周波数のみを用いて通信を行う等の、時間/周 これまでの Wi-Fi の進化は、個々の端末のピークスルー 波数軸の両方にわたる細かな無線リソースの制御も可能 プットを向上させることを主に考えられてきましたが、Wi- となり、通信品質の改善も期待できます。 Fi 6 ではシステム全体のスループットの向上に向けて舵 図 1-3 多元接続方式 8
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1.2.2 MU-MIMO 、1.2.3 BSS color

第 1 章 5G 時代の無線アクセス 1.2.2 MU-MIMO 1.2.3 BSS color 集中制御型となったことにより可能となる技術に multi- Wi-Fi 6 で OFDMA が導入されたものの、OFDMA によ user multiple-input multiple-output(MU-MIMO)があ る集中制御が可能となるのは Basic Service Set(BSS) ります。MIMO 技術はアンテナの数に応じて送信するデー に所属する(同一 AP 配下の同一グループ)端末のみであ タストリーム数を増加させることが可能な技術ですが、 り、異なる BSS を持つ AP や STA との空間棲み分けを 従来の規格でも対応していたsingle-user MMO(SU- 実現する手段は listen-before-talk 方式の CSMA/CA MIMO)の場合、送受信のアンテナ数の内、少ない方のア が基本です。そのため複数の BSS が狭隘な空間にまと ンテナ数が限界となります。 まって存在するような高密度環境においてチャネル間干渉 筐体の大きさから、一般的にアクセスポイント(AP)の方 が発生しスループットが劣化してしまうという課題は解決 が端末よりもアンテナの数が多く、1 対 1 で通信を行う場 されません。 合は AP のアンテナ数を全て活かすことができませんでし しかし、実際には隣接 BSS からの信号は微弱であり、検 た。しかし MU-MIMO では、同じ周波数・同じタイムスロッ 出はされるものの、同時に自分が送信したとしても問題な トで、ビームフォーミング技術を用いて端末が空間的に棲 く受信可能となる場合が多く、現状の CSMA/CA による み分けることにより、複数の端末が AP と同時に通信を行 保護は過剰な保護と言える状態でした。 うことが可能となります(図 1-4)。 そこで Wi-Fi 6 では、BSS color と呼ばれる、BSS を識 すなわち 、AP で備えるアンテナを限界まで活用し、シス 別するための ID を物理層の Preamble に入れることに テムスループットの向上が可能となります。MU-MIMO は よって、MAC 層ではなく物理層のレベルで BSS を識別 ダウンリンクのみ Wi-Fi5 でも対応しましたが、アップリン する方式が導入されました。また、自 BSS(MYBSS)用 クは端末同士の同期が必要であり技術的な難易度が高い のシグナル検出の閾値と、他 BSS(Overlapping BSS; ため Wi-Fi5 での導入は見送られました。しかし Wi-Fi 6 OBSS)用のシグナル検出の閾値(OBSS_PD)を個別に では集中制御となったため端末同士の同期が比較的容易 設け、OBSS_PD を動的に調整することが可能となりまし となり、アップリンクの MU-MIMO に対応可能となりまし た。(Dynamic Sensitivity Control; DSC) た。 これらを組み合わせ、かつ OBSS_PD を MYBSS より高 図 1-4 SU-MIMO と MU-MIMO の比較 9
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1.3 LPWA 、1.3.1 LPWA 概要

第 1 章 5G 時代の無線アクセス 図 1-5 BSS coloring のイメージ く設定する(感度を鈍くする)ことで、どこかから信号が届 1.3.1 LPWA 概要 いた際に、自 BSS の信号は受信するが、他 BSS 多様なアプリケーションの通信ニーズを満たすため、ブ (OBSS)からの信号は無視をして、当該チャネルは使用 ロードバンド化とは逆に、通信速度を落とすことでより されていないと判断するという動作が可能となりました。 低消費電力で広いカバーエリアを低コストで実現する これにより、周波数チャネルの繰り返し利用の効率が向上 LPWA が期待されています。LPWA には上記のニー し、システム全体の効率を改善することが可能となりまし ズを満たすアクセス方式が複数提唱されています(表 た。 1-1)。 代表的なものとしては、非セルラー系の LoRaWAN、 1.3 LPWA Sigfox、セルラー系の LTE-M、 NB-IOT が挙げられます。 これまでの項では、ブロードバンド無線アクセス技術とし 特に LoRaWAN は非セルラー系では現時点で最も活用 て 5G、Wi-Fi 6 をご紹介しましたが、本項では、主に されている方式です。次の項で LoRaWAN の概要を述 Internet of things(IoT)での利用を主眼に開発された べます。 ナローバンド無線アクセス技術である Low power wide area(LPWA)についてご紹介します。 表 1-1 主な LPWA のアクセス方式 System LoRaWAN SIGFOX LTE-M NB-IoT 推進団体 LoRa Alliance SIGFOWX 3GPP 3GPP 使用周波数 920 Mhz 920 Mhz セルラと同一 セルラと同一 上り:100bps 上り/下り 上り:62kbps 通信速度 250~50kbps 下り:600bps 300kbps~1Mbps 下り:21kbps カバレッジ 数 km~十数 km 数 km~十数 km 数 km~十数 km 数 km~十数 km 10
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1.3.2 LoRa/LoRaWAN 、1.4 Multi access

第 1 章 5G 時代の無線アクセス 1.3.2 LoRa/LoRaWAN 1.4 Multi access 図 1-6 に LoRaWAN のプロトコルスタックを示します。 先の項では 5G 時代における代表的な 3 つの無線アクセ LoRaWAN ネットワークシステムは、正確には 、LoRa ス技術のカテゴリについてご紹介してきました。ここでは、 という物理層の方式を規定した規格と LoRaWAN という それら無線アクセス技術のすみわけについて考察します。 media access(MAC)層の方式を規定した規格で構成さ 4G は、2010 年に日本で初めて NTT ドコモがサービ れています。LoRa は、端末の低消費電力化と端末価格 スを開始しました。Wi-Fi は IEEE802.11n(Wi-Fi 4)が 低減のため受信機の構成を単純にしつつ、長距離伝送を 2009 年に策定されました。同時期からモバイル端末に 実現するためチャープスペクトラム拡散方式を採用してい も Wi-Fi が実装されることが当たり前になり、同じ端末 ます。 で 2 つの無線アクセス方式を使用できるようになると、モ LoRaWAN は 、LoRa alliance によって定義されている バイルと Wi-Fi はそれぞれ、通信料はかかるもののライ MAC 層プロトコルです。スループットを犠牲にする代わ センス帯におけるマネージドサービスで屋外でもどこでも りに低消費電力通信に特化した Aloha 方式を採用してお 使える 4G と、使用場所が制限されアンライセンス帯であ り、同期型のセルラー系のシステムと比べて 3 倍以上の るため通信品質が不安定なものの 4G と比較して格安の バッテリーのもちを実現可能です。基地局をゲートウェイ Wi-Fi という棲み分けがされるようになりました。 としたスター型のネットワーク構成を採用していますが、 Wi-Fi は当時の 4G と比較してスループットが高く、4G 端末は特定の基地局ではなく複数の基地局に接続するこ のトラフィックが爆発的に伸び始めると、4G のトラフィッ とが可能となっており冗長性を実現しています。 クをオフロードさせるための技術としても注目されました。 LoRa alliance は非営利標準化団体であり、世界中から 一方で 、IoT の観点では、センサネットワーク等を中心 多くの SP、インテグレーター、アプリケーション開発会社、 に当初の 4G ではターゲットになっていなかった、「通信 センサチップセットベンダーが参加しています。アンライ 速度は低いものの低消費電力かつ安価な端末で広いカ センス帯で運用可能であるため、セルラー系と比較して比 バレッジエリア」というニーズを満たすために各種 LPWA 較的容易に運用可能であり、様々なアプリケーションへの の検討も進みました。 適用が期待されています。 しかし、モバイル技術の世代が 5G になると、使用される 図 1-6 LoRaWAN プロトコルスタック 11
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第 1 章 5G 時代の無線アクセス 周波数として mmW(ミリ波)が追加され周波数幅が Wi- なく、端末の緩やかな入れ替えを待つというマイグレーショ Fi と比べても格段に広く、5G が Wi-Fi のスループットを ン方法が可能です。また、モバイルと比較して品質が求 上回るようになります。ミリ波は電波伝搬による電力の減 められない代わりに、安価に実装できる Wi-Fi は、常に 衰量がこれまでのモバイル用の周波数帯と比較して大き モバイルよりもサービス料金そのものが安価となるため、 いため、高スループットが期待できるエリアは小さく(ス 金額面での関係性もこれまでと変わりありません。 モールセル)なる傾向があります。 ミリ波の 5G と Wi-Fi 6 を比較すると、 どちらもスモール また、同じモバイルの設備を用いて低速回線・低消費電 セルで運用されるという点では同じであるものの、Wi-Fi 力に特化した NB-IoT の検討が進み、5G 時代のモバイ 6 は周波数帯が 2.4GHz 帯および 5GHz 帯であるため、 ル技術は LPWA としても活用できるようになります。一 壁の多いオフィス内等でのサービスエリア化を想定した場 方で Wi-Fi も Wi-Fi 6 ではモバイルと同様の OFDMA 合、ミリ波よりもエリアの構築が容易となると考えられます。 を採用し、アンライセンス帯でありながら、モバイルのよ そして Wi-Fi は、アンライセンス帯であるため、周波数 うな集中制御を取り入れて品質が安定しました。 免許の取得が不要であり、特殊技能を持つ技術者を備え ブロードバンドの観点から見ると、5G と Wi-Fi 6 は技術 る必要がなく難しい申請をすることもなく誰でも構築運用 的に歩み寄りを見せており、特にミリ波の 5G と Wi-Fi 6 が可能です。 は、どちらの方式も狭いエリアで高スループットが期待で しかし、Wi-Fi は下位互換性を保つために従来の規格で きるという意味で近しいものとなってきました。 使用されていたランダムアクセスの基本思想を受け継い 日本では、ローカル 5G と呼ばれる制度が新設されたこ でいます。そのため、全ての端末及び AP が Wi-Fi 6 に とで、特定の市区町村、特定の敷地内といった地域限定 対応している場合には、安定した通信が可能となりますが、 で既存のモバイルオペレータ設備に頼らずに独自のモバ 1 つでも未対応の端末がエリア内に存在する場合に効率 イルサービスを提供できる下地が整い、多くの企業が参 は劣化してしまいます。また、アンライセンス帯であるた 入を目指す状況になっています。この結果、 5G の通信料 め、干渉波を受けて通信に支障を来す場合も考えられま 金が下がり、さまざまなサービスが創出されることが期待 す。5G はその逆で、インフラ構築運用は手間が掛かる されています。 ものの、通信は安定しており、他システムからの干渉を受 それでは、スループットは Wi-Fi を上回り、エリアの観点 ける心配もありません。 から運用方法も Wi-Fi に近づき、 Wi-Fi よりも安定した 次に、 LoRaWAN と 5G の比較を考えます。Wi-Fi と同 品質を持ち、広カバレッジで低消費電力 LPWA 通信もで 様ですが LoRaWAN はアンライセンス帯で運用を想定さ きる 5G モバイル技術があれば、 Wi-Fi も LoRaWAN も れている無線アクセスシステムです。そのため誰でも5G 不要になるのでしょうか。いえ、そうではありません。 と比べて容易に無線設備を構築運用することが可能です。 まず、ブロードバンド観点で Wi-Fi と 5G の比較を考え センサネットワークの需要があるエリアで NB-IoT に対 てみます。5G のサービスをユーザが受けるためには、 応した 5G 基地局がタイムリーに構築されるかどうかは、 基地局インフラが整備されることは当然として、併せて端 サービスプロバイダの設備計画次第になってしまうため、 末も 5G に対応した端末に替える必要があります。 NB-IoT に頼ったセンサネットワークは、迅速なサービス 現時点で Wi-Fi は、多くの企業内 LAN 等で使用されて 展開に支障を来すことが考えられます。また、バッテリー いますが、これを 5G に置き換えるためには、インフラの 寿命の観点から見ると LoRaWAN は セルラー系 LPWA 整備に加えて端末をすべてリプレースする必要があるた と比較して 3 倍以上の寿命を実現できるとされているた め、現実的とは言えないでしょう。 め、センサ端末のメンテナンスが大幅に楽になります。 一方 、Wi-Fi であれば常に下位互換性を持つため、 AP 一方で、 NB-IoT 等のセルラー系 LPWA は、サービスプ を Wi-Fi 6 に置き換えたとしても端末を取り替える必要は ロバイダが所望の地域のサービスエリア化を完了させてし 12
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第 1 章 5G 時代の無線アクセス 表 1-2 各無線アクセス技術の特徴 まえば、ユーザは、面倒なインフラ構築やメンテナンスを めです。また、スモールセルの観点からも、安定した通信、 行うことなくセンサネットワークを利用できるため、そのよ 低遅延 /低ジッタが求められる交通システム、Factory うな場合においてはセルラー系 LPWA が適していると考 Automation (FA)、Virtual Reality(VR)/Argumented えられます。 Reality(AR)システム等には 5G が適しています。 表 1-2 に 5G、Wi-Fi 6、LoRaWAN の特性をまとめ 反対に、モバイル程の高品質は不要だがブロードバンド ます。 アクセスが求められるオフィス用アクセス回線としては、安 特に Wi-Fi は、 5G が普及すると不要になると考えられ 価にインフラを整えられる Wi-Fi 6 が適していると考えら がちですが、上記の表のように、モバイルと Wi-Fi の根 れます。どちらか一方だけというものではなく、両方のア 本的な特性は 5G/Wi-Fi 6 の時代においても変わらず一 クセスを跨って、使い常に適切な回線を使い分けたいと 長一短があるため、ユーザとしてはユースケースに応じ いうユースケースも出てくると思われます。 て適切なアクセスを使い分けることが重要となります(図 5G 時代における通信インフラはよりアプリケーションセン 1-7)。 トリックなものとなるため、ユーザからはアクセス回線を 広範なサービスエリアを求められる場合には、当然 sub 6 意識させないことが重要です。今後は、複数のアクセス (6GHz 以下の周波数帯)を用いた 5G と 4G LTE が必 回線を同じポリシーの下で運用可能とするコントローラが 須となります。周波数の特性上、より周波数帯域が低い 非常に重要な位置を占めることになるでしょう。 方が電波が遠くまで飛びやすく障害物にも耐性を持つた 図 1-7 各種無線アクセス技術の使い分け 13
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用語集

第 1 章 5G 時代の無線アクセス 用語集 MEC(Multi-access Edge Computing):ネ ットワーク内のエッジ(物理的に UE[User Equipment] 寄りの位置)に計算機リソースを用意して 各種処理を行うシステム、概念のこと。 RAN:Radio Access Network Wi-Fi:Wi-Fi allianceの相互接続試験に合格した機器の総称および無線通信システム LoRaWAN:LoRa alliance によって策定された MAC プロトコル、およびそれをサポートする機器・システムの総称 3GPP(3rd Generation Partnership Project):3G(第 3 世代移動体通信システム)から発足したモバイル技術の標準化プロジェクト C-RAN(Centralized RAN):無 線基地局機能の内、無線機能の一部を張り出し、複数の無線機能部を 1 つの共通機能部を持つ RAN の形態の 1 つ RRH(Remote Radio Head):4G の C-RAN 構成における張り出し無線機能部 BBU(Base-Band Unit):4G の C-RAN 構成における集中制御部兼パケット-無線信号変換(ベースバンド機能)部 CA(Carrier Aggregation):複数の周波数チャネルを組み合わせてスループットを向上させる無線方式 CoMP(Coodinated Multi-Point):複数サイトから同時に同一の信号を送受信することで通信品質を向上させる無線方式 eICIC(enhanced Inter-Cell Interference Coordination):隣接サイトで連携しサイト間の干渉を低減させる無線スケジューラ D-RAN(Distributed RAN):RRH と BBU が同一ロケーションに設置される、もしくは同一筐体となっている RAN の形態 EMS(Element Management System):各装置の管理システム YANG(Yet Another Next Generation):データモデル言語の一種。NETCONF 等のネットワーク管理プロトコルと一緒に運用される。 OSS(Operation Support System):サービスプロバイダのシステム管理・運用を支援するシステムの総称 PHY(Physical):OSI 参照モデルの第1層(物理層)。物理信号の処理機能部 MIMO(Multi-Input Multi-Output):複数アンテナを用いて送受信する無線通信方式 FEC(Forward Error Correction):誤り訂正符号 FPGA(Field Programable Gate Array):プログラムで再構成可能な集積回路 VNF(Virtual Network Function):仮想化されたネットワーク機能部 LLS(lower layer split):5G のファンクションスプリットにおける Option 7 の総称 HLS(Higher Layer Split):5G のファンクションスプリットにおける Option 2 の別称 mmW(milli meter Wave):30~300GHz の周波数の電波を指すが、5G では 28GHz 帯を指して使われる。 TSN(Time Sensitive Network):標準のイーサネットを拡張し、遅延に敏感な通信と通常通信の融合を図った方式 OFDMA( Orthogonal Frequency Division Multiplexing Access):直交周波数を用いて多元接続を実現する通信方式 MU-MIMO( Multi-User MIMO):同一時間同一周波数において複数端末と同時にデータを送受信するMIMO通信方式 SU-MIMO(Single-User MIMO):同一時間同一周波数において単一端末と複数データストリームを同時に送受信するMIMO 通信方式 CSMA/CA(Carrier sense Multiplexing Access / Colision Avoidance):通信前に干渉波の状況を確認してから送信する通信プロトコル OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing):直交周波数を利用して周波数利用効率を高めるデジタル変調方式 AP(Access Point):無線 LAN の親局 BSS(Business Service Set):1つの AP とその配下の無線LAN端末とで構成されるネットワーク BSS color : BSSを物理層で識別するための ID OBSS(Overlap BSS):隣接する BSS MY BSS:当該端末が属する BSS MAC(Media Access Control):OSI 参照モデルにおける第2層。 OBSS_PD(OBSS Packet Detection):OBSS の電波を検出するための受信電力の閾値 CCA-SD(Clear Channel Assessment Energy Detection):無線 LAN 信号を検出するための受信電力の閾値 CCA-ED(Clear Channel Assessment Signal Detection):無線信号を検出するための受信電力の閾値 14
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第 1 章 5G 時代の無線アクセス RSS(I Received Signal Strength Indicator):受信電力 Sigfox:SIGFOX社が提唱するIoT向け無線通信方式 NB-IoT(Narrow Band IoT):LTE 方式で低価格低消費電力に特化した IoT向けモバイル通信技術。端末が固定されている場合に適している。 LTE-M:LTE 方式で低価格低消費電力に特化した IoT向けモバイル通信技術。ハンドオーバが可能であり端末が移動する場合に適している IoT(Internet of Things):あらゆる物がインターネットに接続されるネットワークの仕組み Sub 6:6G Hz未満の周波数帯の電波 FA( Factory Automation):工場における生産工程の自動化を図るシステム。 VR(Virtual Reality):ユーザの五感を刺激することで仮想的に物事を知覚させる技術 AR(Argumented Reality):仮想空間を重ね合わせることで人間が知覚する現実環境を拡張する技術 15
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第 2 章 5G におけるトランスポートテクノロジー、2.1 はじめに、2.2 セグメント・ルーティング

第 2 章 5G におけるトランスポートテクノロジー 5G におけるトランスポート テクノロジー 鎌田 徹平 2.1 はじめに 2.2 セグメント・ルーティング 本章では 、5G におけるトランスポート ネットワークにつ 現在の IP ネットワークには、多くの構成技術 /プロトコル いて考えます。 が存在しており、複雑化の一途をたどっています。セグメ 5G のネットワークでは 、Edge computing への対応や ント ルーティング は、このようなネットワークの複雑性の 遅延に敏感なトラフィックへ対応するためにエンドツーエ 解決、これまでと同様の SLA 要件の提供、次世代のトラ ンドでの IP による接続性が必要だと言われています。こ ンスポート基盤となりうる柔軟性の実現といった特徴を兼 れは、 Any-to-Any での接続を考慮した際に柔軟なサー ね備えた IP ネットワークの基盤技術です。この技術は多 ビス提供を行うための経路制御に必須のものであり、ネッ くのネットワーク ベンダーとキャリアの参画により Internet トワークを構成する要素を減らし、フラットな IP ネットワー Engineering Task Force(IETF)で標準化が進められ、 クで構築することによってネットワークがシンプルに構成 ベースとなるアーキテクチャは RFC8402[ 2-1]として公 でき、オペレーションの簡素化、さらには迅速なサービス 開されています。 展開につながります。 セグメント ルーティングでは、ネットワークの転送情報や また、エンドツーエンド IP での構成により、アクセス ネッ サービス情報をセグメントと呼ばれる単位で表現し、シン トワークの統合による効率化を進めることができます。従 プルかつ柔軟なルーティング制御を実現します。この概 来はさまざまなサービス タイプに応じて個別のアクセス 念をもとにさまざまな付加機能を提供できるため、キャリ ネットワークを持つことが必要とされてきましたが、IP で ア網に代表される高可用性(高 SLA)が求められる大規 統合することによって物理的にも一本の Fiber 上に重畳で 模 VPN ネットワーク基盤としての適用が可能です。セグ きるようになります。これをシスコでは、 IP over Ethernet メント ルーティングでは、IGP(OSPF/IS-IS)のみで、こ over Fiber と呼んでいます。 れまでの LDP、RSVP-TE といったプロコトルやそのス しかし、5G の要件も含めさまざまな要件が重畳されるネッ テート情報を排除したステートレスなネットワークを実現 トワークでは ネットワークをスライシングする技術が必要 できます。またセグメント ルーティングにより実現される になるケースがあります。シスコでは従来、IP ネットワー Topology Independent Loop Free Alternative(TI-LFA) クの簡素化に対してセグメント ルーティングと呼ばれる技 [2-2]では、IGP のみで障害時の迂回路を自動計算して 術を提唱してきました。セグメント ルーティングは、ネッ 高可用性ネットワークが構築可能となり、運用負荷を大幅 トワーク スライシングとも親和性の高い技術です。次項 に低減できます。 ではこのセグメント ルーティングについて解説します。 Software Dened Network(SDN)との高い親和性も大 きな特徴です。送信元ノードがパスを選択し宛先までの 図 2-1 IP over Ethernet over Fiber 概要図 16
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2.3 Label & IPv6 データ プレーン

第 2 章 5G におけるトランスポートテクノロジー 経路を規定できるソース ルーティング アーキテクチャを用 送信元のルータがパケットの転送経路情報、パケットへ い、PCEP といったプロトコルへの対応により、オーケスト 適用するサービス情報を付与します。この情報はセグメン レータからのパス制御やサービス追加も容易になります。 ト ID(SID)と呼ばれ、SR-MPLS の場合は 20 ビットの 迅速なサービス提供、ネットワークの運用コスト低減など Label として、SRv6 の場合は 128 ビットの IPv6 アドレ の観点から、これらのプログラマビリティ特性は次世代の スとして定義されています[2-5]。 ネットワークには必須の要件と考えられています。 SR-MPLS では、1 Label に 1 つの情報を持ちます。 転送情報とサービス情報を付与する場合、複数の Label 2.3 Label & IPv6 データ プレーン をスタックすることでこれが表現されます。一方で 、 セグメント ルーティング(SR)は、データプレーン非依存 SRv6 では、1 つの 128 ビット SRv6 SID に宛先ノード の技術です。現在 2 つのデータ プレーンに対応し、最 情報を示す「Locator」、サービス情報を示す「Function」、 初に実装が進んできたのは、多くのキャリア網で展開され オプション情報を示す「Argument」の 3 つの情報を埋め ている MPLS ベースの SR-MPLS[ 2-3]です。さらに、 込むことが可能です。 Label 環境以外への適用が可能となる、現在まさに実装 これら 3 つのビット長を選択可能にすることで、適用する が進んでいるのが、 IPv6 ベースの Segment Routing ネットワークのユース ケースに合わせて柔軟に SID を選 IPv6(SRv6)[2-4]です。これは多くの既存ネットワー 択できます。また 1SID の空間サイズ自体が大きくなるた ク インフラを有効活用しつつ同じネットワーク上にセグメ め、たとえばモバイル 5G ネットワークに求められる多数 ント ルーティングが展開できることを意味します。セグメ 同時接続要件等へも十分な対応が可能です。 ントルーティング未対応機器との後方互換性を持つため、 前述したとおり、セグメント ルーティングは SDN との親 セグメント ルーティング ベースの次世代ネットワークに 和性も高く、サービス チェイニング要件にも対応します。 シームレスに移行できます。 SR-MPLS では、サービス識別子を Label として積み重 セグメント ルーティングは、ソース ルーティングのため、 ねることで、SRv6 では SID の「Function」にサービス識 図 2-2 セグメント ルーティング構成要素 17
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2.4 ネットワークスライシング

第 2 章 5G におけるトランスポートテクノロジー 図 2-3 SRv6 パケットの構成 別子を埋め込み Segment Routing Header(SRH)と呼 スを最大限有効化したスライシングが実現できます。 2 ばれる IPv6 拡張ヘッダーに SID をスタックすることで(図 種類の技術がネットワーク スライシング実現に適用可 2-3)、適用するサービス群を送信元ノードから定義しま 能であり、1 つは SR-TE[2-7]、もう 1 つが Flexible す。SDN コントローラにより送信元ノードへチェイニング Algorithm(Flex-Algo)[2-8] と呼ばれるセグメント ルー 情報を書き込むことにより、ユーザごとのサービスチェイ ティングとともに開発が進む新たな提案です(図 2-4)。 ニングもセグメント ルーティング ネットワーク上で実現が SR-TE は、従来の MPLS-TE と同様のコンセプトで、 可能です。 SID の積み重ねにより任意の経路でパケット転送を行うこ とができます。適用例としては、ユーザ単位でのパス制 2.4 ネットワークスライシング 御などが想定されます(例:ユーザ 1 : 高品質回線、ユー ネットワーク スライシングは、次世代ネットワークに期待 ザ 2 : 低遅延回線)。 される機能要件の 1 つとして VPN や QoS、トラフィック Flex-Algo は、 IGP の拡張機能により実現されるマルチト エンジニアリングなどさまざまな手法による実現が議論さ ポロジ ルーティング技術です。各ルータはアルゴリズム れています[2-6]。セグメント ルーティングでは、トラフィッ ごとの IGP トポロジ データベースを持ち、それぞれのア ク エンジニアリングの技術を活用し、ネットワーク リソー ルゴリズムで IGP パス計算が行われます。適用例として 図 2-4 セグメント ルーティングによるネットワーク スライス 18
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2.5 時刻同期

第 2 章 5G におけるトランスポートテクノロジー は、サービス単位でのパス制御などが想定されます(例: そこで、Precision Time Protocol(PTP)[2-10] を始 Algo-0: ベスト エフォート トポロジ、Algo-128: 低遅延 めとしたパケットを通して同期を行う技術に注目が集まっ トポロジ)。 ています。PTP では、Grand Master Clock(GMC)とな SR-TE と Flex-Algo を柔軟に組み合わせることで、さま る装置が GNSS と時刻同期を行ったあと、配下の装置で ざまな要件に対応するネットワーク スライシングが実現で ある Boundary Clock(BC)やSlave に対して PTP によ きます。 りパケットを通して時刻同期を行うことで、ネットワーク全 体に対して単一の GTP ソースから IP を用いて同期を行 2.5 時刻同期 うことができます。また、表 2-1 に記した精度を達成す 5G のトランスポートに対する重要な要件の 1 つに時刻 るために各構成要素に関してもさまざまな提案がなされ 同期があります。時刻同期は、主に周波数同期と時刻/位 ています。 相同期に分類されますが、LTE や 5G で提供する時分割 GMC について G.8272[2-11] では最大時刻誤差 多重通信にこの時刻/位相同期が利用されており、基地局 100ns を定義しており、高精度なレシーバを搭載するこ において時刻同期を実現することで周波数帯域の利用効 とが求められます。また、GNSS と時刻同期ができなくなっ 率を向上させることができます。 た際に、高精度な時刻を維持するために周波数同期を利 特に 5G ではさらなる帯域利用効率の向上や通信品質の 用する手法として G.8272.1 が策定されています。 向上のための高度な通信方式が求められており、非常に 周波数同期技術としては Sync-E があり、PTP と並行し 高精度の時刻同期が要求されます。 て動作させるという検討も必要と考えられます。物理要件 表 2-1 に各アプリケーションにおける時刻同期精度の要 によっては GNSS 信号を受信できない、または品質を担 件を記します。[2-9] 保することができない可能性もあるため、いかに高精度 これらの要件を満たすために、従来、Global Navigation な時刻情報を取得するかについては、今後も非常に重要 Satellite System(GNSS; 主に GPS )から受信する時刻 なトピックの 1 つとして検討を重ねていく必要があります。 情報に同期することで対応してきましたが、GPS では屋 次に、 BC についても時刻誤差を低減するための要件が 内や信号が弱い場所などでは利用が困難である、設置す あります。BC において時刻誤差を起こす要因としては主 るのにコストがかかるといった物理環境に由来する問題点 に 2 つあります。 がありました。 1 つ目は装置内の処理遅延です。PTP ではパケットに対 表 2-1 各アプリケーションと時刻同期精度要件 Level of Typical Application Maximum Relative Accuracy (for information) Time error requirement Intra-band non-contiguous carrier aggregation, with or without 6A MIMO or TX diversity, and Inter-band carrier aggregation, 260ns with or without MIMO or TX diversity Intra-band contiguous carrier aggregation, 6B 130 ns with or without MIMO or TX diversity 6C MIMO or TX diversity transmissions, at each carrier frequency 65ns 19
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2.6 まとめ

第 2 章 5G におけるトランスポートテクノロジー してタイムスタンプを打刻して隣の装置に対して時刻情報 2.6 まとめ を広告し、隣の装置も時刻情報を打刻した PTP パケット 2 章では、5G におけるトランスポートテクノロジーに を戻すことで双方向の伝送遅延を考慮した時刻同期を行 ついて解説しました。5G のネットワークでは Edge います。 computing への対応や遅延に敏感なトラフィックへ対応す このタイムスタンプを打刻する際の処理遅延は、PTP の るためにエンドツーエンドでの IP による柔軟な制御が必 時刻同期精度に非常に大きな影響を与えるため、高精度 須の要件となり、様々なサービスを重畳するケースも検討 なハードウェア タイムスタンプを打刻できる装置が必須と する必要があります。本章ではこの要件を満たす技術とし なります。 てセグメントルーティングの紹介を行い、また、もう一つ また、装置内で打刻したあと PTP パケットを送信するま 重要な要件となる時刻同期についても解説いたしました。 での処理遅延についても検討が必要です。この処理遅延 は装置の実装に依存し、標準化された方法での対処が困 難であるため、あらかじめ注意が必要です。 2 つ目の要因としては装置間の伝送遅延です。特に双方 向の伝送遅延が非対称となる場合には注意が必要であり、 遅延変動を除去するための手法も議論されています。 上記のように時刻同期に関する要件は、ハードウェアに依 存する要素が非常に大きいですが、5G のネットワーク要 件としては必須要件となるため、念頭においてネットワー ク設計を行う必要があります。 20