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モデリングとシミュレーションで構成を最適化 4×4 MIMOの優位性を仮想環境で実証
次世代5G車載アンテナでは、外観・空力と無線性能の両立が大きな課題となります。本事例では、MolexがKeysight SystemVueを中心とした仮想設計環境を構築し、分散型車載アンテナ構成をモデリングとシミュレーションで検証。
電波暗室や路上試験前に構成比較を行うことで、4×4 MIMO構成が高いスループット性能を発揮することを確認しました。試作や実測の手戻りを減らし、設計効率と品質を大幅に向上させた実践的なケーススタディです。
このカタログについて
| ドキュメント名 | 電波暗室・路上試験の前に最適解を導く。 次世代5G分散型車載アンテナ設計の実践事例 |
|---|---|
| ドキュメント種別 | 事例紹介 |
| ファイルサイズ | 2.3Mb |
| 登録カテゴリ | |
| 取り扱い企業 | キーサイト・テクノロジー株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧) |
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このカタログの内容
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APPCLAICSAET SIOTNU DNYO TE
次世代5G分散型車載アンテナの
設計
電波暗室/路上試験前に構成の選択を支援するモデリング
およびシミュレーション用の仮想環境
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路上での5G性能を先取り
組織 ソリューション
• Molexコネクテッド・モビリ • Keysight SystemVueと89600 ベクトル・シグナル・ア
ティ・ソリューション(CMS) ナライザを使用した仮想5Gアンテナ設計環境をモデ
ルベースのシステムエンジニアリング手法に統合する
課題 • 電子計測器、KeysightCare、サードパーティーのコン
ポーネントモデリングなど、キーサイトエコシステム
• 「シャークフィン」パッケー の技術およびサービスを活用する
ジから、独立した4アンテナ • 3GPP 5G統計チャネルモデルと電波暗室のベースラ
を車内のさまざまな場所に イン測定を、高速で正確なシミュレーションと組み合
取り付ける方式に移行する わせる
• ガラスやカーボンファイバー
などの材料の物理的な間隔 結果
や特性に対応する
• シミュレーションを用いて360 °のスキャンを8時間で
• 異なる設計ドメイン(電磁界、 実行
RF、ベースバンド)を1つの
シミュレーション環境に統合 • 4x4 MIMO構成が最高のパフォーマンスを発揮
する • 圧縮/伸長の改善
Molexコネクテッド・モビリティ・ソリューション(CMS)は、ミシガン州のロチェスターヒルズに本社を、ドイツ全土
の拠点にエンジニアリングチームを置く企業です。Vehicle-to-Everything(V2X)アプリケーションおよび非地上系
ネットワーク(NTN)を見据えて、路上の5G通信用車載アンテナ技術を変革しています。Molexは、車両周辺に5Gアン
テナを配備し、空力に優れた見映えするアンテナの選択肢を自動車メーカーに提供するのと同時に、5Gネットワーク
の体感を実現するためにビームフォーミング性能を強化しています。
5Gアンテナセットアップ – 4x4 MIMO DLスループット[Mbps]
スループットの比較
構成1&4
構成1 構成4
Molexは2年余りの間、5人のエンジニアから成るコアチームに、組織全体の他の5人とキーサイトのカスタマー・エン
ジニアリング・チームのメンバー数人を加えて、Keysight SystemVueを中心に構築された車載アンテナ仮想設計環境
を開発し、さまざまな構成と条件にて迅速かつ正確に分散型アンテナの性能を解析できるようにしました。
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課題:見えないアンテナと性能向上の両立
最新の車載アンテナ設計は、目的の一部が重なる2つの設計陣営の緊張関係を反映しています。自動車メーカーは、
車両の空気抵抗を最小限に抑える、流線型の目立たないアンテナを望んでいます。メーカーはさらに製造性も重視し
ています。アンテナ配置の選び方によっては、確実な取り付け、信頼性の高い電気接続、修理のしやすさに影響を
与える可能性があるからです。アンテナ設計者は、自動車メーカーの制約の中で作業しながら、5Gの性能を優先して
います。複数のアンテナを物理的に離すことで、受信ダイバーシティー、MIMO(マルチ入力マルチ出力)の性能、
ビームフォーミングの潜在能力は高まりますが、接続は困難になります。
Molexは、ドライバーや自動車メーカーが期待する性能を実現するサブシステムを設計しながら、さまざまな車載ア
ンテナ(図1に示されている機能用)を見せない科学技術を専門としています。「車載アプリケーション用の5Gアンテ
ナの設計は、スマートフォン用の5Gアンテナの設計とは異なります」と述べるのは、MolexでRF部を担当しているス
タッフエンジニア、Alexander Herold氏です。「車両アンテナ仮想設計の構想の発端は、扱いが難しく柔軟性に欠ける
実際の車載ハードウェアのプロトタイプや電波暗室です。自動車、トラック、またはSUVに合う大きさの電波暗室は、
建築や運用に費用がかかります。」
無線LAN
Bluetooth AM/FM
Low Energy WLAN/BLE
シャークフィン
フロントガラス設置型
4G
V2X 携帯電話
フロントガラス設置型 AM/FM/DAB
V2X アンプ
スポイラー
GNSS GNSS 組み込み型 Sirius XM
機器パネル TCU内蔵
アンテナ
図1. 一般的な車両の内部および周辺では、さまざまなアンテナが多くの無線通信システムをサポート
5Gの設計者は、初期のセルラー世代が慣れ親しんでいたルーフマウント型の「シャークフィン」アンテナを再検討す
る必要性に迫られています。3GPP(3rd Generation Partnership Project)の5G仕様では、大規模MIMO方式が定義され
ています。これは、良好な信号条件下で最大8個のアンテナを使用して5G UE(ユーザー機器)と5G gNodeB(かつ
ての基地局)間の実効チャネル容量を拡大させます。
「Molexでは、予測分析とシミュレーションをさらに深く追求するという戦略的な意思決定を下しました」と、Molex
で革新的輸送ソリューションの戦略マーケティングを担当しているディレクター、Ryan Price氏は述べています。
「アンテナの場合、テストのためにそれほど多くの資本を投資する必要はありません。ソフトウェアを使用して、さま
ざまな構成の定義と調査を行い、詳細を検討したら、適切なソリューションに投資できます。」またPrice氏は、自動
車メーカーにはそれぞれの好みがあるため、競争の激しい市場では構成が多い方が有効であるとも指摘しています。
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ほぼ見えないアンテナとは、コンフォーマル型または見せない設計で、周辺の材料との電磁(EM)相互作用を引き
起こす可能性があります。「従来の金属構造は言うまでもなく、金属ガラスやカーボンファイバー複合材などのより
魅力的な材料が増えています。これにより、アンテナの性能が変化する可能性があります」とHerold氏は述べます。
「分散型アンテナが送信モードで互いに干渉しないようにするためには、アンテナの間隔を数波長分空ける必要があ
りますが、間隔を空けすぎると、信号損失、ノイズの増加、位相の問題が発生します。」
複雑なシミュレーションでは、実測値との整合性がもう1つの課題になります。Herold氏のチームは、ベースラインを
形成するために、電波暗室と路上試験の結果を参考にしました。地方、都市におけるビルの谷間、その他の運転シナ
リオでのチャネル動作を再現するには、それらのユースケースを中心としたイノベーションが求められます。Herold
氏のチームは、EM、高周波RF、ベースバンドという3つのドメインを1つのシミュレーション環境に統合して、物理
的なテストと同等の結果を得るという課題に取り組みました。
ソリューション:モデルベースの統合型システム設計
車載デジタル・アンテナ・システム(VDAS)環境の構想は、Simulinkで行っていた既存のMolexのモデリングとシミュ
レーションから始まりました。Simulinkは、グラフィカルベースのモデリングとコードの自動生成を行うツールで
MATLABで使用できます。Herold氏は「MBSE(Model Based System Engineering)ツールは、頻繁にコーディングしな
いハードウェアのバックグランドがあるエンジニアにとって、容易で生産性の高いツールです」と述べています。
GNU Octaveも検討されましたが、統合機能が限定的であるために却下されました。Molexは自社のワークフローで
さらに2つのツールを使用していました。Keysight 89600 ベクトル・シグナル・アナライザ(89600 VSA)とAnsys HFSS
です。「89600 VSAは、当社のシミュレーションとテスト、テストとインテグレーションをつなぐ重要なリンクです」
とHerold氏は述べています。HFSSからシステムシミュレーション環境に直接アンテナパターンが流れるので、時間
の節約にもなります。
統合型のMBSE設計/シミュレーション環境であるKeysight SystemVueが、最良の選択肢として浮上しました
(SystemVueとMBSEの詳細については、後述のソリューション概要「Creating Digital Twins of RF Systems」を
ご覧ください)。図2に、SystemVueでのVDAS RFコ・シミュレーションの概要を示します。
Ettus TX-RFFE
ベースバンドリンクを
MATLABから制御
図2. デジタルベースバンド機能とトランスミッターRFフロントエンド機能のブロックをインポートしたVDASシステムモデル
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Ettus N300/N310 ソフトウェア定義無線は、物理的なVDASシステムにてトランスミッターRFフロントエンドと
パワーアンプを提供します。仮想システム内の詳細なSystemVueブロックには、Skyworks、Qorvo、その他のサード
パーティー製のRFコンポーネントのビヘイビアモデルが含まれます。
図3に、SystemVueの5G-NR PUSCH(Physical Uplink Shared Channel)入力信号のモデルを示します。CCDF(相補累
積分布関数)ブロックとノイズ密度ブロックにより、変調信号に実環境の効果が追加されます。図4は、89600 VSA上
のPUSCH信号のプロットです。
5G NRアップリンクFRC測定
ノイズ
ベースバンドリンクを
MATLABから制御
図3. 5G-NR PUSCH信号を発生させるためのSystemVueモデル
図4. 89600 VSA上の5G-NR PUSCH(64-QAM変調)のタイム・ドメイン・プロットおよび周波数ドメインプロット
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図5に、SimulinkブロックとしてSystemVueモデルにインポートされたデジタル・ベースバンド・リンクを示します。
Analog Devices社のAD9371 トランスミッターブロックをライブラリコンポーネントとして使用しています。他の
ブロックには、Molexがデジタルリンクの圧縮/伸長のために設計したVHDLが含まれています。これにより、各5Gア
ンテナに出入りするデータレートが低下します。
図5. SystemVueにインポートされた、デジタル・ベースバンド・リンクとカスタム圧縮/伸長のモデル
デジタル・ベースバンド・チェーンとRF送信信号チェーンをモデリングした後、Herold氏のチームは最後の詳細な
モデリングを開始しました。つまりさまざまな道路環境におけるチャネルの変化をシミュレートする作業です。
「チャネルシミュレーションには、3GPPが仕様化した統計モデルを当社の電波暗室測定で調整したものを使用してい
ます」とHerold氏は述べています。「私たちは5G NR CDL(Clustered Delay Line)モデルを実装しました。これには、
地方/長距離、都市部/密集市街地のシナリオに対応した構成があります。」
結果:4x4 MIMOが優れた性能を発揮(特に地方で顕著)
SystemVueのVDASシミュレーションでは、2 °間隔のスキャン角度で180個のサンプルを用いて車両を中心とした
360 °のビューを実行し、S/N比を変化させることができます。SystemVueのパラメータ掃引に並列処理オプションを
使用して、6コアのサーバーで完全な解析を約8時間で実行します。
スループット、ビットエラーレート(BER)、EVMの3つの指標が解析の大部分を占めます。「シャークフィンの2アンテ
ナのように、アンテナを近付けて配置すると、性能が劣化することがわかりました」とHerold氏は話します。「アンテ
ナの間隔を数波長分空けた4x4 MIMO構成の方がより優れた性能を発揮しました。」シミュレーションにより、デジタ
ルリンクの圧縮/伸長アルゴリズムの調整も促されます。「性能が低下する前にアンテナデータをどれだけ堅固に
圧縮できるのかを確認することもできました。これは、アンテナの配置が変わると変化します。」MolexはKeysight
Advanced Design System(ADS)とRFProを電子ハードウェアのレイアウトとEM/回路シミュレーションに使用してい
るため、ツールをSystemVueシミュレーションと統合すれば、ハードウェア設計をさらに改善できそうです。
「仮想環境により、コストも時間も大幅に減少しています。ハードウェアの構築なしで分散型車載アンテナの構成を
完全に解析できるようになったからです」とHerold氏は述べています。図6と図7は、地方シナリオと都市シナリオで
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のスループットを比較したものです。図8は、重み付きアンテナ利得に対するスループットを示しています。すべてに
おいて、分散型4x4 MIMO構成の優位性が際立っています。
DLスループット(Mbps) – 仰角2 °
DLスループットの比較
V2N地方/長距離
構成1
構成4
シャークフィン
構成 構成 シャークフィン
1 4 2x2 MIMO
図6. 地方シナリオでの5Gスループット。分散型4アンテナ、2アンテナのシャークフィン、およびハイブリッドの比較
DLスループット(Mbps) – 仰角30 °
DLスループットの比較
V2N都市/高密度の都市
構成1
構成4
シャークフィン
構成 構成 シャークフィン
1 4 2x2 MIMO
図7. 都市シナリオでの5Gスループット。分散型4アンテナ、2アンテナのシャークフィン、およびハイブリッドの比較
DLスループット vs 平均CDL重み付きアンテナ利得
チャネル容量の比較
構成1 – 2 °
V2N都市/高密度の都市 構成1 – 30 °
構成4 – 2 °
構成4 – 30 °
構成1
構成4 30 °
構成 構成
1 4
平均CDL重み付きアンテナ利得[dB]
図8. スループット対重み付きアンテナ利得のグラフは、分散型4アンテナの優位性を示しています
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DLスループット[Mbps]
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「仮想環境により、コストも時間も大幅に減少しています。ハードウェアの構築なしで分散型車載アンテナの
構成を完全に解析できるようになったからです。」
Molex、RF部担当、スタッフエンジニア、Alexander Herold氏
MBSEと仮想システムシミュレーションを5G分散型車載アンテナの課題に適用することで、Molexは、自動車メーカー
が先進的な車両プロトタイプを作成するかなり前に、まだ構成を最適化できる段階で、データに基づく生産的な話し
合いができるようになります。
「ソフトウェア中心の設計、エミュレーション、テストソリューションのイノベーターであるキーサイト・
テクノロジーのソリューションとサービスを含む、さまざまなデジタルツール、モデリング、シミュレー
ションを利用して、プロトタイプを作成する前に、さまざまな構成や条件での仮想車両アンテナ設計環境を
開発しています。KeysightCareのテクニカルサポートとトレーニングは、技術革新を加速させるために
PathWave SystemVueをシミュレーションプロジェクトに結びつけた重要な理由でした。」
Molex Transportation Innovative Solutions、SVP兼社長、Scott Whicker氏
今後の展望:より多くの接続、より詳細なチャネル
VDASプロジェクトは、Molexに増分設計用のプラットフォームを提供しています。チームは、仮想空間で分散型アン
テナの動作を研究することで、V2Xと5G NTN、さらに将来的には6Gネットワークにも対応する機能を追加すること
ができます。
Molex CMSチームは、Keysightオンラインおよび対面式の5G NRやSystemVueのトレーニングコースへの参加を含む
SystemVueの初期学習に投資した後、さらに多くの可能性を発見しました。特に自動運転車が勢いを増すにつれて、
SystemVueと89600 VSAで将来的にV2X機能をサポートする必要があることがわかります。チャネルモデリングと
AIベースのチャネルモデリング(キーサイトによる研究がすでに進行中です)をレイトレーシングがサポートすれば、
これも役立つかもしれません。
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Molexとコネクテッドカー向けのアンテナソリューションの詳細:
https://www.molex.com/en-us/products/automotive-connectivity/vehicle-antenna-solutions
本書でご紹介したキーサイトのRF EDAソリューションの詳細:
PathWave System Design (SystemVue)
Creating Digital Twins of RF Systems
PathWave Advanced Design System(ADS)
PathWave RFPro
KeysightCare
Molexは、この世界をより良く、よりつながった場所にすることをコミットする世界的なエレクトロニクスリーダーです。Molexは
40か国以上に拠点を持ち、自動車、データセンター、産業用オートメーション、ヘルスケア、5G、クラウド、および民生用デバイス
の業界で、革新的な技術イノベーションを実現しています。Molexは、お客様および業界との信頼できる関係、卓越したエンジニア
リングの専門知識、製品の品質と信頼性を通じて、「Creating Connections for Life」の無限の可能性を実現します。詳細は、
(www.molex.com)をご覧ください。
すべての画像は、Molexコネクテッド・モビリティ・ソリューションのご厚意により掲載
キーサイトは、設計、エミュレーション、テストの課題を迅速に解決し、最高の製品エク
スペリエンスを生み出すことにより、技術革新の境界を押し広げることを可能にします。
( www.keys ight .co. jp )でイノベーションを始めましょう。
本書の情報は、予告なしに変更されることがあります。 © Keys ight Technologies , 2024 ,
Publ ished in Japan, February 22 , 2024 , 3123-1815 .JA