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測定結果が変わる理由がわかる。 ネットワーク・アナライザのダイナミックレンジ徹底解説

ハンドブック

ノイズフロア・IF帯域幅・アベレージングの関係を理解し、 VNA性能を最大限に引き出す

ネットワーク・アナライザのダイナミックレンジは、微小信号測定の成否を左右する重要な要素です。
本資料では、ダイナミックレンジの定義からノイズフロアの考え方、IF帯域幅やアベレージングによる改善方法、測定速度とのトレードオフまでを体系的に解説。
VNAを「何となく使っている」状態から一歩進み、測定性能を正しく引き出したいエンジニア必読の技術資料です。

このカタログについて

ドキュメント名 測定結果が変わる理由がわかる。 ネットワーク・アナライザのダイナミックレンジ徹底解説
ドキュメント種別 ハンドブック
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取り扱い企業 キーサイト・テクノロジー株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧)

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このカタログの内容

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A P P L I C A T I O N N O T E 正しく理解し、性能を引き出す ネットワーク・アナライザの ダイナミックレンジ
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はじめに ネットワーク・アナライザで最大のダイナミックレンジを達成することは、多くのマイクロ波デバイスの特性評 価にとってきわめて重要であり、測定性能を決める重要な要素となることもあります。ネットワーク測定システ ムで最大のダイナミックレンジを達成するためには、ダイナミックレンジを正しく理解し、ダイナミックレンジ の拡大のために何ができるかを理解することが重要です。このような知識を身に付ければ、測定速度など他の測 定パラメータに対する影響を最小限に抑えながら、最良の結果を達成する方法を選択できます。 ダイナミックレンジの定義 ネットワーク・アナライザのダイナミックレンジとは、基本的にはシステムが測定できるパワーの範囲を指しま す。具体的には次のようになります。 – Pmax:測定に許容範囲を超える誤差が生じない範囲で、システムが測定できる最高の入力パワーレベルを指 し、通常はネットワーク・アナライザのレシーバーの圧縮仕様によって決まります。 – Pref:テストポートで得られるネットワーク・アナライザの信号源の公称パワー。 – Pmin:システムが測定できる最小入力パワーレベル(システムの感度)で、レシーバーのノイズフロアによっ て決まります。Pminは、IF帯域幅、アベレージング、テストセット構成に依存します。 ダイナミックレンジの2種類の一般的な定義を次に示します。 P ––レシーバー・ダイナミック・レンジ=Pmax-Pmin max ––システム・ダイナミック・レンジ=Pref-Pmin 達成可能なダイナミックレンジは、図1に示すように測定用途 P レシーバー・ に依存します。 ref ダイナミック・ ––システム・ダイナミック・レンジ:増幅なしで実現できる レンジ ダイナミックレンジ。例えば、アッテネータやフィルター システム・ などのパッシブコンポーネントを測定する場合がこれにあ ダイナミック・ たります。 レンジ ––レシーバー・ダイナミック・レンジ:システムをレシーバー と見なした場合の真のダイナミックレンジ。レシーバーのダ イナミックレンジを十分に発揮するためには、増幅器が必要 P な場合があります。この増幅器が被試験デバイスに含まれる min こともありますし、測定システムにアナライザの外部増幅器 図1. ダイナミックレンジの定義。 として組み込まれることもあります。 www.keysight.co.jp 2
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ノイズフロアの定義 ダイナミックレンジの改善 レシーバーのノイズフロアは、ネットワーク・アナライザの重要な仕様の ネットワーク・アナライザを初期設定のままで使用するとダイナミック 1つであり、ダイナミックレンジの判定に役立ちます。しかし、「ノイズ レンジが足りない場合があります。測定器で測定できる最小パワーレベ フロア」という用語には確立した定義がなく、長年にわたってさまざまな ルはノイズフロアによって決まり、これがダイナミックレンジを制限し 定義が使われてきました。 ます。ノイズフロアを改善するためには、アベレージングを使用する か、システムIF帯域幅を狭くする方法があります。 ノイズフロアの代表的な定義をいくつか比較するための実験結果を図2に 示します。この実験では、ノイズパワーが-100 dBmのガウシアンラン アベレージングやIF帯域幅調整に類似する方法として、スムージングが ダム雑音をシミュレートし、次の4種類の定義に基づいてノイズフロアを ありますが、これにはノイズフロアを下げる効果はありません。スムー 計算しました。 ジングは、ビデオフィルタリングと似ていて、フォーマットされたデー タの隣接するポイントを平均する方法です。一方、トレース間(または ––実線はノイズのRMS値を表し、-100 dBmのノイズパワーに一致し 掃引間)のアベレージングはフォーマット前のベクトルデータに対して ます。 動作するので、実際にノイズフロアを下げる効果がありま。この重要な ––破線(-101 dBm)は、ノイズのリニア振幅の平均値をdBmに換算 違いのために、スムージングにはノイズフロアを下げる効果はありませ したものです。 ん。ただし、トレース上のノイズの小さいp-p変動を低減する効果はあり ます。1 ––点線(- 102.4 dBm)は、ノイズの対数振幅の平均値です。 ––一点鎖線(-92.8 dBm)は、ノイズのリニア振幅の平均値にその標 準偏差の3倍を加算した値を、dBmに換算したものです。 キーサイト・テクノロジーのPNAシリーズやENAシリーズなどのベク トル・ネットワーク・アナライザ(VNA)では、RMS値を使用してレシー バー・ノイズ・フロアが定義されています。これは一般的に用いられて いる定義であり、レシーバーの等価入力ノイズパワーに相当するため理 解が容易です。 -100 dBmにおけるノイズフロアの定義 リニア振幅の平均値の和 ノイズのRMS値 リニア振幅の平均値 対数振幅の平均値 図2. ノイズフロアのさまざまな定義 www.keysight.co.jp 3
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アベレージング 複素共役負荷に供給されるノイズパワーは次のようになります キーサイトのVNAや他の多くのネットワーク・アナライザは、掃引間ア Pn = E2 = kTB ベレージングでは、各掃引のデータポイントの指数加重平均を取りま 4R す。データセット内のサンプルを指数加重平均することで、必要なアベ レージング係数に達した後でも、アベレージングを終了せずに続行する これはノイズパワーに関しておなじみのkTB雑音です 2。 ことができます。アベレージングは複素数データに対して実行されま す。すなわち、データはベクトル的に平均されます。 ノイズはランダムな性質を持ち、非デターミニスティック(非確定的) と見なされます。これは、ノイズが数多くの微小な現象の集合であり、 多くのシグナル・アナライザで使用されているスカラーアベレージング ガウシアン確率分布を示すからです(これは中心極限定理によって証明 できます 3 では、ノイズの分散が減少するだけで、平均ノイズレベルは変化しませ )。 ん。コヒーレント信号と非相関ノイズの両方を含むトレースをベクトル 的に平均すると、ノイズ成分は0に近づくので、結果として表示される トレースのノイズは低減されます。ネットワーク・アナライザのディス プレイに対数振幅フォーマットで表示すると、平均ノイズレベルが低下 し、ダイナミックレンジが改善されていることがわかります。 ほとんどのベクトル・ネットワーク・アナライザに備わるアベレージン グ機能を使用すると、アベレージング回数を2倍にするごとに、S/N比 が3 dB改善されます。これはノイズフロアを下げるための強力な方法で す。ただし、これによって測定速度は遅くなります。2つのトレースのア ベレージングには、測定時間が2倍かかるからです。 アベレージングが使用できるのは比測定だけであり、単一のレシーバー チャネルを使用する測定には効果がありません。比測定でなければアベ レージングを使用できない理由は、比測定でなければ位相がランダムな IF帯域幅(Hz) ので、アベレージング(複素数ドメインで実行される)を行うと、常に 図3. RMSノイズフロアとIF帯域幅の関係(n=801ポイント) 結果が0に近づくからです。 ノイズフロアとIF帯域幅の関係は正確に分かっているので、IF帯域幅を IF帯域幅を狭くする 狭くすることによるノイズフロアの低下は正確に計算できます。キーサ イトのPNAネットワーク・アナライザを使用して、実験してみました。 システムのIF帯域幅はフロントパネルまたはリモートプログラミングを ここでは、5種類の周波数(1、3、5、7、9 GHz)で、RMSノイズレベ 通じて変更でき、その値は、アナライザのレシーバーで収集されるデー ルを測定しました。掃引ポイント数は801で、IF帯域幅は1 Hz、10 Hz、 タに対して実行されるデジタルフィルタリングに影響します。IF帯域幅 100 Hz、1 kHz、10 kHzと変えながら、テストポートに信号が印加されて を狭くすると、デジタルフィルターの帯域外にあるノイズが除去される いない状態で、PNAのノイズフロアを測定しました。図3に示すノイズフ ため、ノイズフロアが下がります。 ロアとIF帯域幅の関係から、PNAのRMSノイズフロアは理論値によく一 致していることがわかります。理論からのずれは無視できる程度です。 アナライザのレシーバーチェーンに発生する低レベルのノイズは、抵抗 内の電子の熱運動から生じる熱雑音によって生じます。このため、これ アベレージングの場合と同様、ノイズフロアを下げるためにIF帯域幅を は帯域幅に正比例します。熱雑音電圧の2乗平均値は次のように与えられ 狭くすると、測定速度が低下します。理論的には、IF帯域幅を10分の1に ます。 すると、ノイズフロアが10 dB下がり、測定時間は10倍に伸びると予想 されますが、実際には必ずしもそうはなりません。これは、ネットワー ク・アナライザで用いられるデジタルフィルターの形状が、IF帯域幅 E2 = 4RkTB によって異なるからです。例えば、キーサイトのVNAでは、IF帯域幅を 10分の1にした場合、掃引時間の増加は10倍より小さくなります。この ここで ため、ノイズフロアを同じだけ低下させる場合、IF帯域幅を狭くする方 kはボルツマン定数(1.38 e-23 J/K) が、アベレージングに比べ測定速度の低下は小さくて済みます。 Tは絶対温度(K) Rは抵抗値(Ω) Bは帯域幅(Hz) www.keysight.co.jp 4 RMSノイズレベル(dBm)
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最良の方法の選択 ノイズフロアを下げるためには、アベレージング回数を増やす方法と、IF サイクルタイムの増加は掃引時間の増加とほぼ一致するので、ネット 帯域幅を狭くする方法があります。測定速度がきわめて重要な場合を除 ワーク・アナライザが高速掃引モードにある場合には、ダイナミックレ き、どちらの方法も同様に効果があります。トレースのデータを収集し ンジ拡大の方法として、測定速度への影響という観点から、IF帯域幅を て処理するために必要な時間(サイクルタイム)には、掃引時間だけで 狭くする方がアベレージングよりも有利であることが明らかです。低速 なく、リトレース時間、バンド交差時間、表示更新時間も含まれます。 掃引モードでは、測定速度への影響はどちらでも基本的に同じです。 アベレージングを行うためには、複数のトレースを取得して毎回表示を 実際の用途でダイナミックレンジを拡大する方法を選ぶとき、このほか 更新する必要があるため、一般的には、アベレージングはIF帯域幅を狭 にも考慮すべき点があります。アベレージングを使用してノイズフロア くするよりも多少長い時間がかかります。これは特に、必要なアベレー を下げれば、アベレージング中にもPNAの画面上でトレースを観察でき ジング回数が多い場合に当てはまります。重要なこととして、測定時間 ます。これは場合によっては役に立つ可能性があります。IF帯域幅を狭 への影響の違いのほとんどは、各IF帯域幅で実行されるデジタルフィル くする方法は比測定でも非比測定でも使用できます(これに対してアベ タリングから生じます。この影響が現れるのはサイクルタイムの要素の レージングは比測定にしか使用できません)。これは場合によっては決 1つである掃引時間なので、ノイズフロアを下げる2つの方法が測定時間 定的要因となります。 に与える影響を判定するためには、掃引時間のみを考慮することが適切 です。 PNAシリーズとENAシリーズのベクトル・ネットワーク・アナライザで は、IF帯域幅を細かく設定することができるので、測定速度の低下を最 PNAシリーズで10 kHzのIF帯域幅を使用する場合を例に取ります。ダイ 小限に抑えつつ所望のノイズフロアを実現することが容易になります。 ナミックレンジを10 dB改善という目標を達成するためには、10回の掃引 アベレージングとIF帯域幅調整の両方を利用してダイナミックレンジを をアベレージングするか、IF帯域幅を1 kHzに設定します。表1に、ダイ 拡大できる場合も少なくありません。 ナミックレンジを10および20 dB改善するためのそれぞれの方法が掃引時 間に与える影響を示します。 表1 高速なIF帯域幅での掃引時間への影響 ノイズフロアの 掃引時間の 低下(dB) 増加倍率 10 kHz 10回のアベレージング 10 10 1 kHz アベレージングなし 10 7.75 10 kHz 100回のアベレージング 20 100 100 Hz アベレージングなし 20 74.8 上記の例では相当高速なIF帯域幅が使用されており、ダイナミックレン ジを改善するためには、アベレージングよりもIF帯域幅を狭くする方が 有利であることがわかります。これに対し、次に低速な掃引モード(狭 いIF帯域幅)を使用する場合を考えます。PNAのIF帯域幅が100 Hzに設 定されており、ノイズフロアを10 dB改善することが目標である場合、 アベレージング回数として10を使用するか、IF帯域幅を10 Hzに狭くする 方法があります。表2に、掃引時間への影響を示します。 表2 低速なIF帯域幅での掃引時間への影響 ノイズフロアの 掃引時間の 低下(dB) 増加倍率 100 Hz 10回のアベレージング 10 10 10 Hz アベレージングなし 10 9.9 100 Hz 100回のアベレージング 20 100 1 Hz アベレージングなし 20 99.5 www.keysight.co.jp 5
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ダイナミックレンジ、セグメント掃引、 構成変更可能なテストセット 速度とダイナミックレンジの両方を最適化することが必要なアプリケー ションでは、キーサイトのベクトル・ネットワーク・アナライザが備え ているセグメント掃引機能が有用です。この機能は特に、高いパワーレ ベルの通過帯域と、それよりはるかに低いパワーレベルの阻止帯域を同 時に評価する必要があるフィルター測定で威力を発揮します。セグメン ト掃引では、周波数掃引を複数のセグメントに分割し、それぞれに異な るストップ/スタート周波数、IF帯域幅、パワーレベル、ポイント数を 指定できます。フィルターを測定する場合、通過帯域では、レベルが高 い部分のトレースのノイズを十分小さく抑えられる限り、IF帯域幅を広 く設定して、掃引速度を上げることができます。 阻止帯域では、ノイズフロアが測定誤差に重大な影響を与えるので、IF 帯域幅を狭く設定し、平均ノイズレベルを必要なだけ下げることができ ます。セグメント掃引と構成変更可能なテストセットの組み合わせて使 用し、アナライザのダイナミックレンジをさらに拡大することができま す(図4)。この方法では、受信テストポートの方向性結合器を反転する ことで、ダイナミックレンジを12~15 dB拡大できます。 信号源 スイッチ/スプリッター/レベラー R1 基準 基準 R2 レシーバー レシーバー 70 dB 70 dB A B まとめ 36 dB 36 dB 測定 ネットワーク・アナライザのダイナミックレレンシジーはバー、多くの測定におい て最も重要なパラメータであり、これを拡大するためには、アベレージ ングを使用し、またはIF帯域幅を狭くすることでノイズフロアを下げま す。ただし、どちらの方法にも注意点があるので、状況に応じて適切か どうRか1 の判R断1 が必要です。また、A測定速A度への影響はそれB ぞれで異なり R2 R2 OUT IN Source Coupler B OUT IN IN OUT Coupler Source IN OUT ます。これら2つOUのT 方法INに加え、セグメント掃引機能と、構成変更可能なIN OUT DUT 図4. 構成変更可能なテストセットを用いてアナライザのダイナミックレンジをさらに拡大。 www.keysight.co.jp 6
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まとめ ネットワーク・アナライザのダイナミックレンジは、多くの測定におい て最も重要なパラメータであり、これを拡大するためには、アベレージ ングを使用し、またはIF帯域幅を狭くすることでノイズフロアを下げま す。ただし、どちらの方法にも注意点があるので、状況に応じて適切か どうかの判断が必要です。また、測定速度への影響はそれぞれで異なり ます。これら2つの方法に加え、セグメント掃引機能と、構成変更可能な テストセットを使用することで、測定速度を維持しながらダイナミック レンジをさらに改善することもできます。 参考資料 1. Robert A. Witte ,"Spectrum and Network Measurements," Upper Saddle River, New Jersey, Prentice Hall PTR, Inc., 1993. 2. H.L. Krauss, C.W. Bostian and F.H. Raab, "Solid State Radio Engineering," New York, NY: John Wiley & Sons, Inc. 1980, pp. 11-24. 3. Alberto Leon-Garcia, "Probability and Random Process for Electrical Engineering," 2nd ed., New York, NY: Addison-Wesley Publishing Company, Inc., 1994. www.keysight.co.jp/find/NA 詳細情報:www.keysight.co.jp キーサイト・テクノロジー株式会社 本社〒192-8550東京都八王子市高倉町9-1 計測お客様窓口 受付時間 9:00-12:00 / 13:00-18:00(土・日・祭日を除く) TEL:0120-421-345 (042-656-7832) | Email:contact_japan@keysight.com 本書の情報は、予告なしに変更されることがあります。© Keysight Technologies, 2000, 2018, Published in Japan, September 13, 2018, 5980-2778JAJP 7