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Sパラメータ、スミスチャート、反射・伝送の考え方を 図解でわかりやすく解説
本資料は、ベクトルネットワーク解析の基本原理を体系的に解説した入門向けハンドブックです。
Sパラメータ、反射・伝送特性、インピーダンス整合、スミスチャート、群遅延など、RF/マイクロ波測定に不可欠な概念を図解付きで説明。
ネットワーク・アナライザをこれから使う方から、基礎を改めて整理したいエンジニアまで、理解を深めるための必携資料です。
このカタログについて
| ドキュメント名 | はじめてでも理解できる。 Keysight ベクトルネットワーク解析の基礎ハンドブック |
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| ドキュメント種別 | ハンドブック |
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このカタログの内容
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Keysight Technologies
ベクトルネットワーク解析の
基礎
Application Note
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はじめに
ネットワーク解析とは、デザインや製造の過程で、より複雑なシステムの一部であるコンポーネントや回路の電
気的動作を測定することです。これらのシステムでなんらかの情報を持つ信号を伝送する場合、信号を点から点へ、
できるだけ高い効率で、なるべく歪みを生じないように届けることが目標となります。ベクトルネットワーク解
析は、これらのコンポーネントの特性を正確に評価するため、周波数掃引またはパワー掃引されたテスト信号の
振幅と位相にコンポーネントが与える影響を測定する手法です。
このアプリケーションノートでは、ベクトルネットワーク解析の基本原理について説明します。この中で、一般的
な測定対象のパラメーター、特にSパラメーターの概念についても論じます。伝送線路やスミスチャートなど、RF
技術の基本についても説明します。
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03 | Keysight | ベクトルネットワーク解析の基礎 – Application Note
通信システムの測定
通信システムでは、信号歪みの影響を考慮する必要があります。一般的に考慮されるのはノンリニ
ア効果による歪み(例えば、必要な搬送波信号から生じる相互変調成分など)ですが、完全にリニア
なシステムでも信号歪みは生じることがあります。リニアなシステムでは、信号を構成するスペク
トル成分の振幅または位相の関係が変化することにより、システムを通過する信号の時間波形が変
化することがあります。
リニア動作とノンリニア動作の違いをもう少し詳しく見てみましょう。
リニアデバイスは、入力信号の振幅と位相を変化させます(図1)。入力に存在するすべての正弦波は、
出力にも同じ周波数で存在します。新しい信号が生成されることはありません。ノンリニアデバイ
スの場合は、アクティブであってもパッシブであっても、入力信号の周波数を変化させたり、高調
波やスプリアス信号などの他の周波数成分を発生させることがあります。入力信号が大きい場合、
通常はリニアなデバイスが、圧縮や飽和のためにノンリニア動作を示すことがあります。
A * Sin 360º * f (t – to)
A リニア動作
– 入力と出力の周波数は同じ
t 時間
o ( 異なる周波数が生成される
ことはない)
Sin 360º * f * t A
位相シフト=
to * 360º * f – 出力周波数には振幅と位相の
時間 変化だけが生じる
f 周波数
1
入力 DUT 出力
ノンリニア動作
f – 出力周波数に周波数シフトが
1 周波数 時間
生じることがある
(ミキサーの場合など)
– 異なる周波数が生成される
f1 周波数 (高調波、相互変調)
図1. リニア動作とノンリニア動作
リニアで歪みのない伝送を実現するには、目的の帯域幅において、被試験デバイス(DUT)の振幅応
答がフラットで、位相応答がリニアでなければなりません。例として、高周波成分を多く含む方形
波信号がバンドパスフィルターを通過する場合を考えます。目的の周波数はほとんど減衰なしで通
過し、通過帯域外の周波数はそれぞれ異なる割合で減衰します。
フィルターがリニア位相応答を持っていても、方形波の帯域外の成分は減衰されるので、この例で
は出力信号は正弦波に近いものになります(図2)。
同じ方形波入力信号を、3次高調波の位相だけを反転し、高調波の振幅は変えないフィルターに通
した場合は、出力はよりインパルスに近いものになります(図3)。この例のフィルターではこのよ
うになりますが、一般的には、振幅と位相のノンリニアリティに応じて、出力波形にはさまざまな
歪みが現れます。
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04 | Keysight | ベクトルネットワーク解析の基礎 – Application Note
通信システムの測定(続き)
F(t) = sin wt + 1/3 sin 3wt + 1/5 sin 5wt
時間 時間
リニアネットワーク
周波数 周波数 周波数
図2. 周波数による振幅の変動
F(t) = sin wt + 1/3 sin 3wt + 1/5 sin 5wt
リニア
ネットワーク
時間 時間
周波数
0º
周波数
–180º 周波数
–360º
図3. 周波数による位相の変動
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振幅 振幅
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05 | Keysight | ベクトルネットワーク解析の基礎 – Application Note
通信システムの測定(続き)
ノンリニアネットワーク
飽和、クロスオーバー、相互変調、その他の
ノンリニア効果により、信号歪みが生じます。
時間 時間
周波数 周波数
図4. ノンリニア歪み
ノンリニアデバイスからも歪みが生じます(図4)。例えば、増幅器をオーバードライブすると、振
幅が飽和して出力信号がクリップします。出力信号は純粋な正弦波ではなくなり、入力周波数の倍
数の周波数の高調波が現れます。高いパワーレベルでは、パッシブデバイスもノンリニア特性を示
すことがあります。その良い例が、磁気コアのインダクターを使用したL-Cフィルターです。磁性
材料の多にはヒステリシス効果があり、それが大きなノンリニアリティの原因になります。
通信システムのもう1つの基本的な課題として、パワーの効率的な伝送があります。RFパワーの効
率的な伝達、送信、受信のためには、伝送ライン、アンテナ、増幅器などのデバイスが、信号源に
対して適切なインピーダンス整合を持つ必要があります。インピーダンス不整合が生じるのは、接
続された2つのデバイスの間で、入力インピーダンスと出力インピーダンスの実数部と虚数部が理
想的な関係にない場合です。
ベクトル測定の重要性
コンポーネントの振幅と位相を測定することは、いくつかの重要な理由があります。まず、リニア
ネットワークの特性を完全に把握し、歪みのない伝送を保証するためには、振幅と位相の両方の測
定が必要です。効率的な整合回路を設計するには、複素インピーダンスを測定する必要があります。
CAEの回路シミュレーションプログラムで使用するモデルを作成する場合にも、振幅と位相の両方
のデータがなければ正確なモデルが得られません。
さらに、タイムドメインの特性評価では、逆フーリエ変換を行うために振幅と位相の情報が必要で
す。ベクトル誤差補正(測定システムに内在する誤差の影響を除去することにより、測定確度を改
善する手法)でも、振幅と位相のデータがなければ有効な誤差モデルを作成できません。リターン
ロスなどのスカラー測定の場合でも、高いレベルの確度を実現するには、位相測定機能が極めて重
要です(Keysight Application Note 5965-7709E『Applying Error Correction to Vector Network
Analyzer Measurements』を参照してください)。
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06 | Keysight | ベクトルネットワーク解析の基礎 – Application Note
入射パワーと反射パワーの基礎
基本的なベクトルネットワーク解析では、伝送ライン上を伝搬する入射波、反射波、伝送波を測定
します。光に例えると、光が透明なレンズに当たると(入射エネルギー)、その一部はレンズ表面で
反射されますが、そのほとんどはレンズを透過します(伝送エネルギー)(図5)。レンズが鏡面の場
合は、光のほとんどが反射され、透過する光はごく一部です。
波長は異なりますが、RF/マイクロ波信号の場合も原則は同じです。ベクトル・ネットワーク・ア
ナライザは、入射、反射、伝送の各エネルギーを正確に測定します。例えば、伝送ラインに印加さ
れたエネルギー、伝送ライン上を信号源に向かって(インピーダンス不整合のために)反射されたエ
ネルギー、目的の終端デバイス(アンテナなど)に伝送されたエネルギーを測定します。
光による説明
入射
伝送
反射
図5. 高周波デバイスの特性評価を光に例えた例
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07 | Keysight | ベクトルネットワーク解析の基礎 – Application Note
スミスチャート
デバイスの特性評価の際に発生する反射の大きさは、入射信号から見たインピーダンスによって決
まります。すべてのインピーダンスは実数部と虚数部(R+jXまたはG+jB)で表されるので、複素
インピーダンス平面と呼ばれる長方形のグリッド上にプロットできます。しかし、オープン回路は
実数軸上の値が無限大になるので、表示できません。
インピーダンス平面全体を表現するには、極座標形式が便利です。このフォーマットでは、インピー
ダンスを直接プロットするのではなく、複素反射係数をベクトルで表示します。ベクトルの大きさ
はプロットの中心からの距離で、位相は中心と右端を結んだ水平直線を基準にした角度で表されま
す。極座標形式の欠点は、インピーダンス値を表示から直接読み取れないことです。
実数部が正である複素インピーダンス平面の半分を極座標にマッピングできます。これがスミス
チャートです。リアクタンスのすべての値と、0から無限大までのすべての正の抵抗値が、スミス
チャートの外周円の内側に存在します
(図6)。
スミスチャートでは、抵抗が一定の軌跡は円に、リアクタンスが一定の軌跡は円弧になります。ス
ミスチャート上のインピーダンスは、常に対象のコンポーネントまたはシステムの特性インピーダ
ンスに正規化されています。特性インピーダンスは、RF/マイクロ波システムでは通常50 Ω、放
送やケーブルTVのシステムでは通常75 Ωです。完全な終端はスミスチャートの中心に対応します。
+jX 90
極座標
1.0
.8
.6
0 +R∞ .4
±180º .2 0
–jX 0 ∞
直交インピーダンス
座標 –90º
Xが一定
Z L = Z O Rが一定
スミスチャートは、 Γ = 0
直交インピーダンス座標を Z Z L = ∞( オープン)
L = 0(ショート)
極座標にマッピング Γ = 1 ∠ 180º Γ = 1 ∠ 0º
したものです。 スミスチャート
図6. スミスチャート
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08 | Keysight | ベクトルネットワーク解析の基礎 – Application Note
パワー伝送の条件
信号源抵抗がRS、負荷抵抗がRLのときに、負荷への伝送パワーが最大になるには、2つのデバイス
の接続部分において完全な整合条件が満たされなければなりません。この条件は、RL = RSの場合
であり、信号源がDC電圧源でもRF正弦波信号源でも変わりません(図7)。
信号源インピーダンスが純抵抗でない場合、伝送パワーが最大になるのは、負荷インピーダンスが
信号源インピーダンスの複素共役に等しい場合です。複素共役とは、インピーダンスの虚数部の符
号を逆にしたものです。例えば、RS = 0.6 + j 0.3の場合は、複素共役はRS* = 0.6 – j 0.3です。
パワー伝送の効率を上げることが、高周波において伝送ラインを使用する主な目的の一つです。極
めて低い周波数(波長が非常に長い場合)では、単純なワイヤーでも十分にパワーを伝送できます。
ワイヤーの抵抗は比較的小さいので、低周波信号の場合はあまり影響がありません。ワイヤーのど
こで測定しても、電圧と電流は同じ値を示します。
高い周波数では、波長が高周波回路の伝送ラインの長さと同程度かそれより短くなりパワー伝送は
進行波によって表現されるようになります。負荷に対して最大のパワーが伝送されるのは、伝送ラ
インを特性インピーダンスで終端したときです。終端が特性インピーダンスと等しくない場合、信
号の一部が負荷に吸収されず、信号源に向かって反射されます。
伝送ラインが特性インピーダンスで終端されている場合、伝送パワーのすべてが負荷で吸収される
ため、反射信号は発生しません(図8)。RF信号のエンベロープと、伝送ラインに沿った距離との関
係を見ると、定在波が存在しないことがわかります。これは反射がない場合、エネルギーは一方向
のみに流れるからです。
RS
RL
複素インピーダンスの場合、
伝送パワーが最大になるのは
1.2 ZL = ZS*のとき(共役整合)
1
0.8 ZS = R + jX
0.6
0.4
0.2
0
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 ZL = ZS* = R – jX
RL / RS
伝送パワーが最大になるのは
RL = RSのとき
図7. パワー伝送
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負荷電力(正規化済み)
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09 | Keysight | ベクトルネットワーク解析の基礎 – Application Note
パワー伝送の条件(続き)
Zo =伝送ラインの特性インピーダンス
Zs = Zo
Zo
Vinc
Vrefl = 0(入射電力はすべて
負荷に吸収される)
反射に関しては、Zoで終端された伝送ラインは
無限長の伝送ラインと等価
図8. Z0で終端された伝送ライン
伝送ラインをショートした(電圧が発生しないのでパワーが消費されない)場合、反射波が線路上を
信号源に向かって送り返されます(図9)。反射電圧波は、入射電圧波と大きさが等しく、負荷での
位相が180°異なります。反射波と入射波は大きさは同じですが、逆方向に伝搬します。
伝送ラインをオープンにした(電流が流れない)場合、反射電流波は入射電流波と位相が180°異な
り、負荷での反射電圧波は入射電圧波と同位相になります。これにより、オープン部分での電流は
常に0になります。反射電流波と入射電流波は大きさは同じですが、逆方向に伝搬します。ショー
トとオープンのどちらの場合でも、伝送ライン上に定在波が生じます。電圧の谷は0で、電圧のピー
クは入射電圧レベルの2倍になります。
伝送ラインが例えば25 Ωの抵抗で終端されている場合、条件は完全な吸収と完全な反射の中間に
なり、入射パワーの一部が吸収され、一部が反射されます。反射電圧波の振幅は入射波の3分の1
になり、2つの波は負荷において位相が180°異なります。この場合は定在波パターンの谷は0では
なく、ピークはショートやオープンの場合よりも低くなります。ピークと谷の比は2:1です。
RFインピーダンスを求める従来の方法では、RFプローブ/ディテクター、ある長さのスロット付
き伝送ライン、VSWRメータを使用してVSWRを測定していました。プローブを伝送ラインに沿っ
て動かしながら、ピークと谷の相対的な位置と値をメータで記録します。この測定結果から、イン
ピーダンスを計算することができます。この手順をいくつかの周波数で繰り返します。最近のベク
トル・ネットワーク・アナライザは、周波数掃引を使用して入射波と反射波を直接測定し、インピー
ダンスをさまざまなフォーマット(VSWRを含む)で表示できます。
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10 | Keysight | ベクトルネットワーク解析の基礎 – Application Note
パワー伝送の条件(続き)
Zs = Zo
V inc
V オープンでは同位相(0°)
refl ショートでは逆位相(180°)
反射に関しては、ショートまたはオープンで終端された伝送ラインは
すべてのパワーを信号源に向かって反射します。
図9. ショートとオープンで終端された伝送ライン
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11 | Keysight | ベクトルネットワーク解析の基礎 – Application Note
ベクトルネットワーク解析の用語
電磁波の基本がわかったところで、今度はその測定に使用される基本的な用語について説明します。
ベクトル・ネットワーク・アナライザに関する用語では、入射波を測定するチャネルをR(基準)チャ
ネルと呼びます。反射波の測定はAチャネル、伝送波の測定はBチャネルで行われます(図10)。こ
れらの波の振幅と位相の情報を元に、DUTの反射特性と伝送特性を定量化できます。反射特性と
伝送特性は、ベクトル(振幅と位相)、スカラー(振幅のみ)、または位相のみの量で表現できます。
例えば、リターンロスは反射のスカラー測定であり、インピーダンスは反射のベクトル測定です。
比測定を用いれば、絶対パワーや信号源パワーの周波数による変動とは無関係に、反射/伝送測定
が行えます。計測器の測定チャネル名を使って、反射比をA/R、伝送比をB/Rと表します。
入射 伝送
R B
反射
A
反射 伝送
反射 = A 伝送 = B
入射 R 入射 R
SWR リターンロス
ゲイン/ロス 群遅延
Sパラメータ インピーダンス、 Sパラメータ 挿入位相
S11、S22 反射係数 アドミタンス S11、S22 伝送係数
G、r R+jX、G+jB T、t
図10. 高周波デバイスの特性評価における一般的な用語
反射比に関する最も一般的な用語は、複素反射係数Γ(ガンマ)です(図11)。Γの大きさのことをρ
(ロー)と呼びます。反射係数とは、反射信号の電圧レベルと入射信号の電圧レベルの比です。例え
ば、特性インピーダンスZoで終端された伝送ラインでは、すべてのエネルギーが負荷に伝達される
ので、Vrefl = 0、ρ = 0です。負荷インピーダンスZL が特性インピーダンスに等しくない場合、エネ
ルギーが反射され、ρは0より大きくなります。負荷インピーダンスがショートまたはオープンに
等しい場合、すべてのエネルギーが反射され、ρ = 1となります。すなわち、ρが取りうる値の範囲
は0~ 1です。
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ベクトルネットワーク解析の用語(続き)
V
Γ reflected Z L - Z
反射係数 O
= = r ∠ F =
V incident Z L + Z O
リターンロス= –20 log(ρ),ρ = Γ
電圧定在波比
Emax
Emin Emax 1 + r
VSWR = =
Emin 1 – r
反射なし 全反射
(ZL = Zo) (ZL = オープン、ショート)
0 ρ 1
∞ dB RL 0 dB
1 VSWR ∞
図11. 反射パラメーター
リターンロスは、反射係数を対数(デシベル)で表したものです。リターンロスは、反射信号が入射
信号より何dB低いかで示しています。リターンロスは常に正の値で表され、無限大(特性インピー
ダンス)から0 dB(オープンまたはショート)まで変化し、その他の場合はこれらの中間の値になり
ます。反射を表すもう1つの一般的な用語として、電圧定在波比(VSWR)があります。これは、RF
エンベロープの最大値をRFエンベロープの最小値で割った値です。これはρを使って(1 + ρ)/(1 – ρ)
と表すこともできます。VSWRの範囲は、1(反射なし)から無限大(全反射)までです。
伝送係数は、伝送電圧を入射電圧で割った値と定義されます(図12)。伝送電圧の絶対値が入射電
圧の絶対値より大きい場合、DUTまたはシステムに利得があるといいます。伝送電圧の絶対値が
入射電圧の絶対値より小さい場合、DUTまたはシステムに減衰または挿入損失があるといいます。
伝送係数の位相部分を挿入位相と呼びます。
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13 | Keysight | ベクトルネットワーク解析の基礎 – Application Note
ベクトルネットワーク解析の用語(続き)
VIncident V Transmitted
DUT
V
Transmitted
伝送係数 = T = = τ φ
VIncident
V Trans
挿入損失(dB) = –20 Log = –20 log τ
V Inc
V Trans
利得(dB) = 20 Log = 20 log τ
V Inc
図12. 伝送パラメーター
挿入位相を直接調べても、あまり役には立ちません。これは、DUTの電気長のために、挿入位相が
周波数に対して大きな(負の)傾きを持つからです。この傾きは、DUTの長さに比例します。通信シ
ステムの歪みの原因となるのはリニア位相からのずれだけなので、位相応答のリニア部分を除去し
て、残りのノンリニア部分を解析します。このためには、ベクトル・ネットワーク・アナライザの
電気遅延機能を使用して、DUTの平均電気長を数学的に打ち消します。その結果として、位相歪み(す
なわち、リニア位相からのずれ)を高分解能で表示することができます(図13)。
電気的遅延を使って
位相応答のリニア部分を除去
RFフィルター応答 リニア電気長を加算 リニア位相からの
(電気遅延機能) ずれ
+ 結果
周波数 周波数 周波数
低分解能 高分解能
図13. リニア位相からのずれ
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位相 45º/div
位相 1º/div
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14 | Keysight | ベクトルネットワーク解析の基礎 – Application Note
群遅延の測定
位相歪みのもう1つの有用な指標として、群遅延があります(図14)。このパラメーターは、信号が
DUTを通過する時間を周波数に対して測定するものです。群遅延は、DUTの位相応答を周波数で
微分することによって得られます。位相応答のリニア部分は定数値になり、リニア位相からのずれ
は一定値の群遅延からのずれに変換されます(これが通信システムの位相歪みの原因になります)。
平均遅延は、信号がDUTを通過する平均時間を表します。
tg 群遅延
∆ω 周波数ω 群遅延
to
∆φ
平均遅延
位相φ 周波数
–δ φ 一定の群遅延からのずれが歪みを
群遅延 (tg) = d ω 表します。
–1 d φ
=
360° * d 平均遅延は通過時間を表します。
f
φ:ラジアン ω:ラジアン/秒 φ:度 f:Hz (ω = 2πf)
図14. 群遅延とは何か
リニア位相からのずれと群遅延はともに重要なので、デバイスによってはこの両方を測定したほう
がよいこともあります。デバイスの完全な特性評価には、p-p位相リップルの最大値を知るだけで
は十分でないことがあります。この位相リップルの傾きは、単位周波数あたりに起きるリップルの
数に依存するからです。群遅延は位相応答を微分したものなので、この効果を反映しています。多
くの場合、位相ひずみの尺度としては群遅延を使うのがより理解しやすくて便利です(図15)。
f f
–dφ –dφ
dω dω
f f
同じp-p位相リップルは、異なる群遅延になる可能性があります
図15. 群遅延を測定する理由
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群遅延 位相
群遅延 位相
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15 | Keysight | ベクトルネットワーク解析の基礎 – Application Note
ネットワークの特性評価
未知のリニア2ポートデバイスを完全に特性評価するには、さまざまな条件で測定を実行し、いく
つかのパラメーターを計算する必要があります。これらのパラメーターを使用することにより、信
号源と負荷の条件が測定実行時と異なる場合でも、デバイス(またはネットワーク)の電気的挙動を
完全に記述できます。低周波デバイス/ネットワークの特性評価は、通常はH、Y、Zパラメーター
の測定に基づいて行われます。このためには、デバイスの入力/出力ポートまたはネットワークの
入力/出力ノードでの全電圧と全電流を測定する必要があります。これに加えて、オープンとショー
トの条件でも測定を行います。
高周波では全電流または全電圧の測定が困難なので、代わりにSパラメーターを測定します
(図16)。これらのパラメーターは、利得、損失、反射係数などのおなじみの測定に対応しています。
これらの測定は比較的容易であり、不要な負荷をDUTに接続する必要がありません。複数のデバ
イスのSパラメーターの測定結果をカスケード接続することにより、システム全体の性能を予測で
きます。Sパラメーターはリニアとノンリニアの両方のCAE回路シミュレーションツールで広く用
いられていて、必要な場合はH、Y、ZパラメーターをSパラメーターから導出することもできます。
デバイスのSパラメーターの数は、ポート数の2乗に等しくなります。例えば、2ポートデバイスに
は4個のSパラメーターがあります。Sパラメーターの番号付けの規則は、Sの後の1つめの番号が
エネルギーが出るポート、2つめの番号がエネルギーが入るポートを表すようになっています。す
なわち、S21は、ポート1にRF信号を入力したときにポート2から出るパワーの測定を表します。番
号が等しい場合(S11など)、は反射測定を表します。
H、Y、Zパラメーター
– 高周波のデバイスポートでは、全電圧および全電流の測定が難しい
– アクティブデバイスは、ショートまたはオープンすると発振したり自己破壊するお
それがある
Sパラメーター
– 一般的な測定(ゲイン、ロス、反射係数など)と関連付けられる
– 比較的測定しやすい
– 複数デバイスのSパラメーターをカスケード接続して、システム全体の動作を予測できる
– 解析に便利
– CADプログラム
– フローグラフ解析
– 必要に応じてSパラメーターからH、Y、Zパラメーターを計算できる
入射 S 21 伝送
a
1 S 11 b 2
反射 DUT
S 22
b ポート1 ポート2
1 反射
a 2
伝送 S 12 入射
b 1 = S 11 a 1 + S 12 a 2
b 2 = S 21 a 1 + S 22 a 2
図16. H、Y、Zパラメーターの限界(Sパラメーターを使用する理由)
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16 | Keysight | ベクトルネットワーク解析の基礎 – Application Note
ネットワークの特性評価(続き)
b
入射 S 2
a 21 伝送
1
順方向 S 11 Z0
b 反射 DUT 負荷
1 a2 = 0
b 反射 b
S 11 = 反射
= 1
入 a a
射 2 = 0 S = 2
22 =
a a
入射 = 0
2 1
1
伝送 b
S 21 = = 2 伝送 b 1
入射 a a 2 = 0 S 12 = = a
入射 a 1 = 0
1 2
a 1= 0 b
S 2
Z0 22
DUT 逆方向
負荷 反射
a 2
伝送 S 12 入射
b1
図17. Sパラメーターの測定
順方向Sパラメーターを求めるには、出力ポートをテストシステムの特性インピーダンスで終端し、
入射信号、反射信号、および伝送信号の振幅と位相を測定します。単純な2ポートネットワークの
場合、S11 は入力複素反射係数(すなわち、DUTのインピーダンス)に等しく、S21は順方向複素伝
送係数にあたります。他の2つの(逆方向)Sパラメーターを測定するには、DUTの出力ポートに信
号源を接続し、入力ポートを完全負荷で終端します。パラメーター S22は出力複素反射係数(すな
わち、DUTの出力インピーダンス)に等しく、S12は逆方向複素伝送係数にあたります(図17)。
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Page17
17 | Keysight | ベクトルネットワーク解析の基礎 – Application Note
関連カタログ
ネットワーク・アナライザのアーキテクチャ、Application Note、
カタログ番号 5965-7708J
ネットワーク・アナライザ測定に対する誤差補正の適用、Application Note、
カタログ番号 5965-7709J
ネットワーク・アナライザ測定:フィルタとアンプ、Application Note、カタログ番号 5965-7710J
Webリソース
ベクトル・ネットワーク・アナライザ:www.keysight.co.jp/find/na
PNAシリーズ・ベクトル・ネットワーク・アナライザ:www.keysight.co.jp/find/pna
ENAシリーズ・ベクトル・ネットワーク・アナライザ:www.keysight.co.jp/find/ena
PXIベクトル・ネットワーク・アナライザ:www.keysight.co.jp/find/pxivna
校正キットとECalモジュール:www.keysight.co.jp/find/ecal
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18 | Keysight | ベクトルネットワーク解析の基礎 – Application Note
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予想外のコストが発生せず、最長で10年間の保護があることから、
測定器が仕様に従って動作することが保証され、正確な測定が
確実に行えます。 キーサイト・テクノロジー株式会社
本社〒192-8550 東京都八王子市高倉町9-1
契約販売店
www.keysight.co.jp/find/channelpartners
キーサイト契約販売店からもご購入頂けます。 受付時間 9:00-12:00 / 13:00-18:00( 土・日・祭日を除く)
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Published in Japan, December 14, 2017
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