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オシロスコープの基礎 - 入門

ホワイトペーパー

オシロスコープの入門書として、デジタルオシロスコープに関する各種機能説明から測定手法までがまとめられています。

オシロスコープは、間違いなく、電子技術者が使用することを目的として作成された最も優れたツールの1つです。この入門書では、デジタルオシロスコープに重点を置いて説明します。デジタルオシロスコープは、非常に多くのアプリケーションにおいて旧世代のアナログに取って代わっています。 本書では、オシロスコープの原点、アナログからデジタルへの移行、デジタルオシロスコープの種類とそれらの主要なサブシステム、主要なベンチマーク仕様と測定について、わかりやすく解説しています。

このカタログについて

ドキュメント名 オシロスコープの基礎 - 入門
ドキュメント種別 ホワイトペーパー
ファイルサイズ 2.7Mb
登録カテゴリ
取り扱い企業 ローデ・シュワルツ・ジャパン株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧)

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このカタログの内容

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R&S®GERÄTENAME UND BEZEICHNUNG Subheadline Product Brochure | Version 02.00 オシロスコープの基礎 入門書
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コンテンツ 概要 3 オシロスコープのベンチマーク仕様 14 すべての原点 ...................................................................3 帯域幅 ...........................................................................14 デジタル時代の到来 ....................................................3 有効ビット数(ENOB) ....................................................14 デジタルオシロスコープの種類 ........................................4 チャネル ........................................................................15 デジタル・サンプリング・オシロスコープ ........................4 サンプリングレート .........................................................15 リアルタイム・サンプリング・オシロスコープ ..................4 メモリ長 ........................................................................15 ミックスド・シグナル・オシロスコープ ............................4 トリガの種類 ..................................................................15 デジタルオシロスコープの基本要素 .................................5 立ち上がり時間 .............................................................15 垂直軸システム ...........................................................5 周波数応答 ...................................................................15 水平軸システム ...........................................................6 利得(垂直軸)とタイムベース(水平軸)の確度 ................16 トリガシステム .............................................................6 ADC垂直軸分解能 ........................................................16 表示システムとユーザーインタフェース ........................9 垂直軸感度 ...................................................................16 ディスプレイとユーザーインタフェース ............................17 プローブ 10 通信機能 .......................................................................17 パッシブプローブ .......................................................10 アクティブプローブ .....................................................11 代表的なオシロスコープ測定 18 差動プローブ .............................................................11 電圧測定 .......................................................................18 電流プローブ .............................................................11 位相シフト測定 ..............................................................18 高電圧プローブ .........................................................11 時間測定 .......................................................................18 パルス幅/立ち上がり時間測定 .....................................18 非インターリーブ方式 ADCの利点 12 シリアルバスのデコード .................................................18 プローブの検討事項 ......................................................13 周波数解析/統計/演算機能 .......................................18 回路負荷 ...................................................................13 接地 ..........................................................................13 まとめ 20 プローブの選択プロセス ............................................13 用語集 21 2
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概要、すべての原点、デジタル時代の到来

概要 オシロスコープは、電子技術者が使用することを目的として作成された、最も優れたツールの 1つであることは間違いありません。現代のアナログオシロスコープの誕生から50年以上の間 には、アナログオシロスコープの動作原理、使用方法、アナログオシロスコープのアプリケーシ ョン固有の動作に関して、数え切れないほど多くの文書や記事が書かれてきました。そこでこ の入門書では、デジタルオシロスコープに重点を置き説明します。デジタルオシロスコープは、 非常に多くのアプリケーションにおいて旧世代のアナログオシロスコープに取って代わってい ます。本書では、オシロスコープの原点、アナログからデジタルへの移行、デジタルオシロスコ ープの種類とそれらの主要なサブシステム、主要なベンチマーク仕様と測定について、わかり やすく説明します。 すべての原点 高性能なアナログ/デジタル半導体デバイスやソフトウェアの ノーベル賞を受賞したドイツの物理学者K. F. Braun(図1)は、 急速な発展と共に、オシロスコープは長年にわたって、能力と 物理学における好奇心が研究の原動力となり、1897年にブラ 機能の両面で進化し続けています。 ウン管(CRT)オシロスコープを発明しました。同氏は、発振信 号を水平偏向板に、テスト信号を蛍光体でコーティングされた デジタル時代の到来 CRTの垂直偏向板に印加しました。それらの偏向板によって、 デジタルオシロスコープは、1980年代に普及が拡大しました 小さな蛍光面上に電気波形の過渡現象が描かれました。この が、それにはアナログ/デジタル(A/C)変換の高速化と波形を 発明が測定器へと進化し、その後50年にわたって徐々に改良 記録/表示するためのメモリが貢献していました(次ページの が加えられました。エンジニアHoward Vollumは、1947年、トリ 図2)。最初期のデジタルオシロスコープでも、トリガ、解析、表 ガによる掃引機能の制御を初めて可能にし、オシロスコープを 示の柔軟性がありましたが、アナログオシロスコープにはその 非常に有用性の高い測定器へと進化させました。 ようなものはありませんでした。半導体とソフトウェアの進化 により、ほとんどの測定器の設計がアナログからデジタルに変 トリガ機能のない初期のオシロスコープは、入力電圧波形をト わりました。デジタルドメインでの信号処理は、他の民生品、商 レースし、入力電圧が調整可能なしきい値を上回ると水平方 品、工業製品においても同じ利点がありますが、デジタルオシ 向のトレースを開始しました。トリガ機能により、同じトレース ロスコープには極めて優れたメリットがあります。一般に、信号 上に波形が複数回繰り返して描かれるため、繰り返し波形を をこれまで不可能だった方法で操作できるだけでなく、非常に CRTディスプレイ上に安定して表示できるようになりました。 詳細に解析することもできます。同時に、ますます複雑化する高 トリガ機能がない場合、オシロスコープはさまざまな場所に波 速データストリームの特別な要件に対応します。このため、 形のコピーを複数描画するため、画面上の表示が乱雑なもの 特定のパラメータに基づいてイベントを捕捉し、イベントが発 になったり、動く画像になります。 生する前の状態を時間を遡って確認できるようになりました。 さらに、ローカル・エリア・ネットワークやインターネットのお かげで、オシロスコープを自動テストシステムの一部として使 用できるようになり、結果を隣の部屋、隣の町または別の大陸 にいるユーザーに表示できるようになりました。デジタルオシ ロスコープのアーキテクチャーの1つの重要なベンチマーク が、2009年にローデ・シュワルツが導入したデジタルトリガで、 アナログタイプ固有の制限(トリガジッタなど)がなくなりまし た。これについては、後ほど詳細に説明します。 図1:ノーベル賞を受賞した物理学者K. F. Braun Rohde & Schwarz オシロスコープの基礎  3
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デジタルオシロスコープの種類、デジタル・サンプリング・オシロスコープ、リアルタイム・サンプリング・オシロスコープ、ミックスド・シグナル・オシロスコープ

デジタルオシロスコープの種類 今日の多くのオシロスコープでは固有のオプションが用意され デジタルオシロスコープは、捕捉と解析の2つの基本的な機能 ており、デジタルオシロスコープをロジックアナライザの解析 を実行します。捕捉時にはサンプリングされた信号がメモリに 機能を備えたハイブリッド測定器として使用することができま 保存され、解析時には捕捉された波形が解析され、ディスプレ す。デジタルトリガ機能、高分解能、捕捉機能、解析ツールを備 イに出力されます。さまざまなデジタルオシロスコープがあり えているため、デジタル回路を短時間でデバッグするのに役立 ますが、ここでは現在最も一般的なオシロスコープについて説 ちます。 明します。 ミックスド・シグナル・オシロスコープ デジタル・サンプリング・オシロスコープ ミックスド・シグナル・オシロスコープは、デジタルオシロスコー デジタル・サンプリング・オシロスコープは、減衰や増幅などの プの機能を拡張し、ロジック解析機能とプロトコル解析機能も シグナルコンディショニングの前に信号をサンプリングします。 搭載しているため、テストベンチが簡素化され、アナログ波形、 この設計では、ダイナミックレンジが1 V(Vpp)と多少制限され デジタル信号、プロトコルの詳細を1台の測定器で同時に表示 ますが、オシロスコープの帯域幅は非常に広くなります。他の できます。ハードウェア開発者がシグナルインテグリティーの解 いくつかのタイプのデジタルオシロスコープとは異なり、デジタ 析にミックスド・シグナル・オシロスコープを使用するのに対し ル・サンプリング・オシロスコープは、オシロスコープのサンプリ て、ソフトウェア開発者は信号成分の解析に使用します。代表 ングレートをはるかに上回る周波数成分を含む信号を捕捉で 的なミックスド・シグナル・オシロスコープは、2つまたは4つの きます。このため、他のどのタイプのオシロスコープよりもはる アナログチャネルとさらに多くのデジタルチャネルを備えてい かに短時間で、繰り返し信号を測定できます。そのため、デジタ ます。アナログチャネルとデジタルチャネルが同時に捕捉され ル・サンプリング・オシロスコープは、高コストを正当化できる、 るため、両方のチャネルを1台の測定器で時間的に相関させて 光ファイバーなどの非常に広帯域のアプリケーションに使用さ 解析することができます。 れます。 リアルタイム・サンプリング・オシロスコープ 信号の周波数レンジがオシロスコープの最大サンプリングレー トの1/2未満の場合には、リアルタイムサンプリングには明らか な利点があります。この手法では、オシロスコープはシングル掃 引で非常に多数のポイントを捕捉して、高精度な表示を実現す ることができます。これは、非常に高速なシングルショットのト ランジェント信号を捕捉できる唯一の方法です。R&S®RTOシリ ーズは、このカテゴリーに分類されます。 ボードレベルのエンベディッドシステムは通常、1ビット信号、 クロック同期/クロック非同期のパラレル/シリアルバス、標 準/独自の伝送フォーマットを対象としています。これらの経路 をすべて解析する必要があるため、通常は、複雑なテストセット アップや複数の測定器が必要です。また、多くの場合、アナログ 信号とデジタル信号の両方を表示する必要があります。 アナログオシロスコープ デジタル・ストレージ・オシロスコープ デジタルオシロスコープ 1950 1980 2010 アナログ信号 デジタル信号 ミックスド 信号波形 パラレルデータ シリアルデータ/規格 信号エッジ 大規模統合 システム統合ドキュメ ンテーション コネクティビティ 高周波効果 アナログストレージ ユーザビリティー 高速クロックレート 自動測定 高度な解析 容易な操作 図2:オシロスコープ測定の課題 4 測定の課題
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デジタルオシロスコープの基本要素、垂直軸システム

デジタルオシロスコープの基本要素 8、10、またはその他の目盛りの選択は任意です。8分割よりも すべてのデジタルオシロスコープに、垂直軸システム、水平軸 10分割の方が簡単なので、便宜上、多くの場合は10分割が選 システム、トリガシステム、表示システムの4つの基本的な機能 択されます。プローブは、信号を減衰させないか(1xプローブ)、 ブロックがあります。デジタルオシロスコープ全体の機能を評 信号を10倍(10xプローブ)、最大1000倍まで減衰させるため、 価するには、各機能および各機能の重要性を理解することが 表示サイズの変更にも影響を及ぼします。プローブについて 重要です。 は、後ほど説明します。 デジタルオシロスコープのフロントパネルの大部分は、垂直 前述の入力カップリングは、プローブで捕捉された信号がケー 軸、水平軸、トリガの各機能専用です。これは、これらの機能に ブルを通ってオシロスコープに入力されるまでの経路を定義 よって必要な調整の大半が行われるためです。垂直軸セクショ します。DCカップリングでは、1 MΩまたは50 Ωの入力カップ ンでは、Volts/Divコントロールを使用して、信号が画面内に収 リングを選択できます。50 Ωを選択した場合、入力信号はオシ まるように減衰や増幅を変更して、信号の減衰や増幅を制御し ロスコープの垂直ゲインアンプに直接送られるため、非常に ます。水平軸コントロールはオシロスコープのタイムベース用 広い帯域幅を実現できます。ACまたはDCカップリングモード( で、sec/divコントロールは、ディスプレイ全体にわたって水平方 および対応する1 MΩ終端値)を選択した場合、垂直ゲインア 向に表示される1目盛りあたりの時間の長さを決定します。トリ ンプの前にアンプが配置されるため、通常、あらゆる条件下で ガシステムは信号を安定化させ、オシロスコープの捕捉をスタ 帯域幅が500 MHzに制限されます。このような高インピーダン ートさせるという基本的な機能であり、ユーザが特定のタイプ スの利点は、本質的な高電圧からの保護です。フロントパネル のトリガアクションを選択できます。さらに、表示システムには、 で"Ground"を選択すると、垂直軸システムは切断され、ディス ディスプレイ、ドライバー、および表示機能に必要なソフトウェ プレイ上に0 Vポイントと表示されます。 アが含まれます。 垂直軸システムに関連するその他の回路としては、表示波形の 垂直軸システム ノイズを低減すると同時に高周波信号成分を減衰させる帯域 このオシロスコープのサブシステム(図3)を使用することによ 幅リミッターがあります。多くのオシロスコープはまた、DSPに り、波形の縦方向の位置およびサイズを変更したり、入力カップ よる任意のイコライゼーションフィルターを使用して、オシロス リングの値を選択したり、信号特性を変更してディスプレイ上 コープチャネルの位相/振幅応答を急峻にすることにより、オ で設定することができます。ユーザーは、波形をディスプレイ上 シロスコープの帯域幅をフロントエンドの生のレスポンスを超 の正確な位置に垂直に配置し、そのサイズを増減することがで えて拡張します。ただし、これらの回路では、サンプリングレート きます。すべてのオシロスコープのディスプレイには、可視領域 がナイキストの定理を満たしている必要があります(サンプリン を8または10の垂直軸目盛りに分割するグリッドがあり、それ グレートは、信号の最大基本周波数の2倍以上でなければなり ぞれ全電圧の一部分を表します。10目盛りの表示グリッドのオ ません)。これを実現するため、オシロスコープは通常、最大サ シロスコープの場合、可視信号電圧は5 V/divで合計50 Vです。 ンプリングレートにロックされているため、フィルターを無効に しなければ、表示持続時間を長くするためにサンプリングレー トを下げることはできません。 メモリ 垂直軸システム アンプ ディスプレイ アッテネータ ADC 収集処理 後処理 トリガシステム 水平軸システム アンプ 図3:垂直軸システム Rohde & Schwarz オシロスコープの基礎  5
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水平軸システム、トリガシステム

水平軸システム トリガシステム 水平軸システムは、垂直軸システムより信号収集に直接関係し トリガは、詳細に解析するために信号イベントを捕捉するすべ ており、サンプリングレートやメモリ長などの性能指標や、信号 てのデジタルオシロスコープの基本要素の1つで、安定した繰 収集/変換に直接関連する他の指標に重点を置いています。 り返し波形を表示します。トリガシステムの精度と柔軟性によ サンプルポイント間の時間は、サンプルインターバルとも呼ば り、どれだけよく測定信号を表示/解析できるかが決まります。 れます。これはメモリに保存されているデジタル値を指し、この 前述のように、デジタルトリガは、測定確度、収集密度、機能性 値を使って波形が作成されます。 の点でオシロスコープユーザーに大きな利点をもたらします。 波形ポイント間の時間は、波形インターバルとも呼ばれます。1 アナログトリガ つの波形ポイントが複数のサンプルポイントで構成される場合 オシロスコープのトリガ機能(図4)により、繰り返し信号を連続 があるので、この2つは関連しており、同じ値を持つこともあり 的にモニタリングするための安定した波形表示が得られます。 ます。 特定のイベントに反応するため、到達していないラントロジッ クレベルや、クロストークによる信号の乱れ、低速エッジまたは 代表的なオシロスコープの捕捉モードメニューは、非常に限定 チャネル間の無効なエッジなど、特定の信号特性を特定して表 的です。これは、1チャネルあたり1つの波形しかないため、1つ 示するのに有用です。長年にわたり継続的に、トリガイベント数 のタイプのデシメーションまたは1つのタイプの波形演算しか とトリガの柔軟性の向上が図られてきました。 選択できないためです。ただし、一部のオシロスコープでは、1 チャネルあたり3つの波形を同時に表示できるため、波形ごと 測定信号がサンプリングされ、連続した一連のデジタル値とし にデシメーションタイプと波形演算タイプを組み合わせて使用 て保存されるため、オシロスコープはデジタルです。最近まで、 することができます。代表的なモードとしては以下があります。 トリガは元の測定信号を処理するためのアナログ回路だけで ► サンプリングモード: した。入力増幅器は、 被試験信号をコンディショニングして、信 波形ポイントは、波形インターバルごとに1つのサンプルを 号の振幅をアナログ/デジタルコンバーター(ADC)とディス 使用して作成されます。 プレイの動作範囲内に収めます。増幅器の出力からのコンディ ► 高分解能モード: ショニング済み信号は、ADCとトリガシステムに並列分配され 波形インターバル間のサンプルの平均がインターバルごと ます。 に表示されます。 ► ピーク検出モード: 一方の経路では、ADCによって測定信号がサンプリングされ、 1つの波形内のサンプルポイントの最小値と最大値がイン デジタイズされたサンプル値がデータ捕捉メモリに書き込まれ ターバルごとに表示されます。 ます。もう一方の経路では、トリガシステムによって、エッジトリ ► RMS: ガでトリガしきい値を超えるなどの有効なトリガイベントと、信 波形インターバル内のサンプルのRMS値が表示されます。 号が比較されます。有効なトリガ条件が発生するとADCサンプ これは、瞬時電力に比例します。 リングが終了し、捕捉された波形が処理され、表示されます。測 定信号がトリガレベルを超えると、有効なトリガイベントが発生 代表的な波形演算モードとしては以下があります。 します。ディスプレイ上に信号を正確に表示するためには、トリ ► エンベロープモード: ガポイントのタイミングが正確である必要があります。そうでな 2つのトリガイベントの最小値から取得した波形に基づい ければ、表示波形はトリガポイント(トリガレベルとトリガ位置 て、オシロスコープは波形の最大値と最小値を表す境界線 の交点)を通りません。 (エンベロープ)を作成します。 ► アベレージングモード: 各波形インターバルのサンプルの平均値が何回かの取込に よって求められます。 ディスプレイ メモリ 保存済みサンプル ADC サンプル サンプリングタイム 測定対象信号 タイムベ ベース トリガ ディスプレイ上の波形位置 図4:アナログトリガ 6 収集の停止
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これは、いくつかの要因によって引き起こされる可能性があり デジタルトリガ ます。まず、トリガシステムでは、コンパレーターによって信号 アナログトリガとは異なり、デジタルトリガシステム(図5) とトリガしきい値が比較されるため、コンパレーターの出力に は、ADCのサンプルに直接作用し、信号が2つの経路に分割 おけるエッジのタイミングを、タイム/デジタルコンバーター されることはありません。トリガシステムは、捕捉および表示 (TDC)を使用して高い精度で測定する必要があります。TDC される信号と同一の信号を処理します。そのため、アナログト が不正確な場合は、表示波形とトリガポイントの間にオフセッ リガシステムによく見られる不完全さはありません。デジタル トが生じます。また、このオフセットがトリガイベントごとに変化 トリガは、トリガポイントを評価するために、高精度なDSPア するためトリガジッタが発生します。 ルゴリズムを適用して有効なトリガイベントを検出し、タイム スタンプを正確に測定します。課題は、測定信号をシームレ もう1つの要因は、誤差の原因が測定信号の2つの経路内にあ スにモニタリングするためのリアルタイム信号処理の実装で ることです。信号は2つの異なる経路(ADCの捕捉経路とトリガ す。例えば、R&S®RTOシリーズ オシロスコープのデジタルト 経路)内で処理されます。どちらの経路にも、さまざまな線形歪 リガは、10 Gサンプル/秒の8ビットADCサンプリングを採用 みと非線形歪みが存在します。このため、表示される信号と決 し、80 Gビット/秒のデータを処理します。 定したトリガポイントの間にシステマティックなミスマッチが生 じます。ワーストケースのシナリオでは、有効なトリガイベント デジタルトリガは捕捉経路と同じデジタイズされたデータを使 が表示されているにも関わらず、トリガがこれらのイベントに 用するため、ADCレンジ内の信号イベントでのトリガが可能で 反応しなかったり、捕捉経路で捕捉/表示できないトリガイベ す。選択したトリガイベントの信号が、定義されているトリガし ントに対して反応することがあります。 きい値と比較されます。単純な例(エッジトリガ)では、信号が 求められる方向(立ち上がりまたは立ち下がりスロープ)でトリ 2つの経路には、さまざまなノイズレベルの増幅器が含まれて ガしきい値を超えた場合に、イベントが検出されます。デジタル います。このため、最後の要因は、2つの経路内にノイズソース システムでは、信号はサンプルで表されるため、最大信号周波 が存在していることです。このため、遅延や振幅変動が発生し、 数の2倍以上のサンプリングレートが必要です。その時初めて、 ディスプレイ上にトリガ位置のオフセット(ジッタ)として現れま 信号を完全に再現することができます。 す。デジタル実装した場合は、トリガにはこのような誤差は含ま れません。 ADCのサンプルだけに基づいてトリガを決定するのは、トリガ しきい値を超えたことを見落とす可能性があるため不十分で す。このため、補間器を使用して信号をアップサンプリングする ことによって、タイミング分解能を20 Gサンプル/秒まで上げ ます。補間器の後段で、コンパレーターがサンプル値と定義さ れているトリガしきい値を比較し、トリガイベントが検出された 場合には、コンパレーターの出力レベルが変化します。 ディスプレイ サンプリングタイム タイムベ メモリ 保存済みサンプル 測定対象信号 ADC サンプル トリガ ディスプレイ上の波形位置 図5:デジタルトリガ Rohde & Schwarz オシロスコープの基礎  7 収集の停止 サンプル
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図6は、2倍のアップサンプリングによってサンプリング分解能を パルス幅トリガは、特定のパルス幅を探し出すことを目的とす 向上させることにより、信号のブラインドエリア(検出できない るグリッチトリガと非常によく似ています。正または負の指定の エリア)が減少することを示しています。左側の波形サンプルに 幅のパルスを、トリガの水平軸位置と一緒に指定することがで は波形のオーバーシュートが含まれていないので、トリガしき きます。利点は、トリガの前後に何が発生したか確認できるた い値がADCのサンプルより大きくてもオーバーシュートは検出 め、エラーが検出された場合に、トリガが呼び出される前に何 できません。右側の波形サンプリングレートは補間によって2倍 が発生したかを観測することによって、原因を分析できることで になっているため、オーバーシュートでのトリガが可能です。最 す。水平遅延を0に設定した場合、トリガイベントは画面中央に 大周波数が3.5 GHzなので、デジタルトリガシステムは、最大10 配置され、トリガの前に発生したイベントは左側に、トリガの後 Gサンプル/秒のサンプリングレートのADCに基づいて周波数 に発生したイベントは右側に表示されます。 成分を検出することができます。 これらのトリガ以外にも、特定の状況に対応するさまざまなタ グリッチやパルス幅などの一部のトリガイベントはタイミング イプのトリガがあります。例えば、オシロスコープによっては、振 コンディションに基づくため、しきい値の交点をリアルタイムで 幅、時間(パルス幅、グリッチ、スルーレート、セットアップ/ホー 決定するデジタルトリガでは、こうしたイベントで非常に高い精 ルド、タイムアウト)、ロジックステートまたはパターンで定義し 度でトリガをかけることができます。トリガイベントのタイミン たパルスでトリガをかけることができます。この他のトリガ機能 グは1 psの分解能で設定でき、検出可能な最小パルス幅で100 としては、シリアル・パターン・トリガ、A+Bトリガ、パラレル/シ psで仕様化されています。 リアル・バス・トリガがあります。 デジタルトリガの具体的な利点を表1に示します。 デジタルオシロスコープは、単一パルスや遅延トリガイベント でトリガをかけ、イベントの探索や、トリガをリセットして特定の トリガ処理 時間、ステート、遷移後に再度シーケンスを開始する時期を制 トリガによる掃引は、選択したポイントで開始します。このた 御することができます。このため、非常に複雑な信号のイベント め、正弦波や方形波などの周期的な信号も、単一パルスや一 も捕捉できます。 定のレートで繰り返されないパルスなどの非周期的な信号も 表示できます。最も一般的なタイプのトリガはエッジトリガで、 電圧が設定値を超えた場合にオンになるように設定されます。 立ち上がりエッジと立ち下がりエッジ、またはその両方を選択 できます。グリッチトリガでは、オシロスコープは、指定の時間よ りも幅の広いまたは狭いパルスでトリガをかけることができま す。これは通常、ランダムまたは間欠的に発生する可能性があ るために、検出が非常に困難なエラーを検出する場合に用い られます。 元のサンプルのみ 補間済みサンプル ブライン ドエリア サンプル 補間済みサンプル (ADCから) 図6:ブラインドエリアの減少 8
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表示システムとユーザーインタフェース

デジタルオシロスコープにはトリガ位置コントロールがあり、 にするトリガホールドオフがあります。これは、トリガ後の調整 波形記録のトリガの水平軸位置を設定します。位置を変更する 可能な期間で、この期間は、オシロスコープはトリガをかけるこ ことにより、トリガイベント前の信号の様子を取り込むことがで とができません。オシロスコープが目的のポイントだけでトリガ きます。それによって、トリガポイント前後の可視信号の長さが するように複雑な波形形状でトリガをかける場合に有効です。 わかります。オシロスコープのスロープコントロールは、信号の どこでトリガが発生するか(立ち上がりエッジか立ち下がりエッ 表示システムとユーザーインタフェース ジか)を調整します。 その名前が示すように、表示システムは信号表示のあらゆる側 面を制御します。ディスプレイのグリッドマークは、グラチクルま トリガモード たはレチクルと呼ばれる1つのグリッドを形成します。デジタル トリガモードは、オシロスコープが波形を表示するかどうか、い オシロスコープおよびそれらの機能は複雑なので、ユーザーイ つ表示するかを決定します。すべてのオシロスコープに、ノーマ ンタフェースは広範囲でありながらも理解しやすくなければな ルモードと自動(オート)モードの2種類のトリガモードがありま りません。例えば、R&S®RTOシリーズのタッチスクリーンディス す。ノーマルモードに設定した場合、信号がその信号の特定の プレイでは、カラーコード化されたコントロールエレメント、フ 場所に到達した場合にのみ、オシロスコープはトリガをかけま ラットなメニュー構造、使用頻度の高い機能に対応するキーが す。自動モードでは、トリガが設定されていない場合でも、オシ 用いられています。R&S®RTMシリーズでは、ボタン1つでクイッ ロスコープは掃引します。 ク測定機能を開始して、アクティブ信号の値を表示することが できます。半透明のダイアログボックス、移動可能な測定ウィン トリガカップリングとホールドオフ ドウ、構成可能なツールバー、ライブ波形のプレビューアイコン 一部のオシロスコープでは、トリガ信号を選択するためのカッ が使用可能です。 プリング(ACまたはDC)が可能で、高周波除去、低周波除去、ノ イズ除去のたカップリングを備えたものもあります。トリガ信号 からノイズなどのスペクトル成分を除去することによって間違 ったトリガを防ぐための、より高度な設定もあります。オシロス コープが信号の右側部分でトリガをかけるようにすることが難 しい場合もあるため、ほとんどのオシロスコープにそれを容易 表1:デジタルトリガの利点 データ捕捉とトリガ処理の両方に同じサンプル値が使用されるため、非常に低いトリガジッタ(1 ps未満(RMS))を実現できます。ポス リアルタイムの低 トプロセッシング手法を用いて実装された「ソフトウェア強化型」のトリガシステムとは異なり、デジタルトリガでは、波形を捕捉するた ジッタ びにブラインド時間を追加する必要はありません。そのため、R&S®RTOでは、100万波形/秒の最大データ捕捉/解析速度を実現で きます。 アナログトリガ感度は、垂直軸1 divより大きい値に制限されていますが、オシロスコープの「ノイズ除去」モードでより大きなヒステリ 最適なトリガ感度 シスを選択することにより、ノイズの多い信号で安定してトリガをかけることができます。ただし、デジタルトリガでは、トリガヒステリシ スを0~5 divの範囲で個別に設定して、個々の信号特性に合わせて感度を最適化することができます。そのため、帯域幅制限なしに、1 mV/divまでの高精度なトリガを実現できます。 トリガイベントの アナログトリガでは、トリガ決定後、トリガ回路を再アーミングするまでには時間が必要です。その時間が経過しなければ、別のトリガ マスキングなし は発生しません。この期間は、オシロスコープは新しいトリガイベントに応答できません。そのため、新しいイベントはマスクされます。 デジタルトリガでは、400 ps以内のインターバル、250 fsの分解能で、個々のトリガイベントを評価することができます。 トリガ信号の柔­ 軟な R&S®RTO オシロスコープの捕捉およびトリガ用のASICにより、リアルタイム回路内のデジタルローパスフィルターのカットオフ周波数 フィルタリング を柔軟にプログラミングできます。これは、トリガ信号や測定信号にも使用できます。トリガ信号にローパスフィルターをかけると、高周 波ノイズだけが抑制され、フィルターがかけられていない測定信号が捕捉され表示されます。 オシロスコープの入力チャネル間のタイミング関係は、2つ以上の信号間の測定やトリガ条件にとって重要です。アナログトリガには、 トリガによるチャネル さまざまな入力の遅延を補正するための信号デスキュー機能があり、ADC後段の捕捉経路で処理されます。そのため、トリガシステム デスキューの認識 によって認識されず、一貫性のない信号が表示/評価されます。デジタルトリガでは同じデジタイズ/処理されたデータが使用される ため、チャネルデスキューを適用しても、ディスプレイに表示される波形とトリガユニットによって処理された信号は一致しています。 Rohde & Schwarz オシロスコープの基礎  9
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プローブ、パッシブプローブ

プローブ プローブの目的は、できるだけ高い透過性により、回路からオシロスコープに信号を通過させ ることです。これは、測定器と被測定デバイス/回路の接点になるため、単なるオシロスコープ アクセサリよりも重要です。その電気特性と接続方法、さらにオシロスコープや回路との相互 作用は、測定に大きな影響を及ぼします。 理想的なプローブは、接続が簡単で、信頼性の高い安全な接 基本の2種類は、電圧プローブとACまたはAC/DC電流プロー 点を実現し、伝送信号の劣化や歪みを生じさせません。さらに、 ブです。ただし、特定の測定専用のさまざまな種類のプローブ( 位相特性がリニアで減衰もなく、無限の帯域幅と高いノイズイ 図7)もあります。例えば、ロジックステートやデジタル回路をト ミュニティーを備え、かつ信号源に負荷をかけないものです。し ラブルシューティングするために設計されたロジックプローブ かし、これらのすべての特性は現実的に実現不可能で、実のと などがあります。環境プローブは、広い温度範囲で動作するよ ころ、多くの測定状況でここまでは求められません。実際には うに設計されています。温度プローブは、コンポーネントの温度 多くの場合、測定する信号にたどり着くのが容易ではなく、イン や、回路の中の温度が高くなりそうな位置を測定するものです。 ピーダンスが大幅に変化する可能性があります。また、セットア プロービングステーションのウエハーレベルで使用するために ップ全体がノイズの影響を受けやすく、周波数依存があったり 設計されたプローブもあります。光信号を電気信号に変換する 帯域幅が制限されたり、さらに、信号伝搬によりわずかなタイ 光プローブを使用すれば、オシロスコープに光信号を表示する ミングオフセット(スキュー)が発生したりと、さまざまな問題が ことができます。また、非常に高い電圧を測定するための専用 生じます。 プローブもあります。 オシロスコープメーカーでは、こうした課題への取り組みを日 パッシブプローブ 々重ねており、プローブに関する問題を最小限に抑え、回路へ 最もシンプルで安価なプローブタイプはパッシブプローブで、 の接続の簡素化と信頼性の向上を実現しています。例えば、 大部分の測定に対応可能です。ワイヤーとコネクタで構成され 片手でプローブを持ちながら、他方の手でオシロスコープを ており、減衰が必要な場合は抵抗とキャパシタも内蔵していま 操作することは常に困難なことでした。R&S®RTO オシロスコ す。アクティブコンポーネントは含まれていないので測定器か ープ用のアクティブプローブでは、ユーザーがプローブボタン らの電源なしで動作可能で、本質的に頑丈です。 を使用してオシロスコープ機能を切り替えることができ、ボタ ンをさまざまな機能に割り当てることができます。測定器には 1:1(等倍)プローブのダイナミックレンジは、オシロスコープと R&S®ProbeMeterと呼ばれる電圧計も内蔵されており、従来の 同じです。減衰プローブは、信号を10分の1、100分の1、あるい オシロスコープチャネルよりも正確な精密DC測定を実行する はそれ以下に減衰させることで測定器のレンジを拡張(乗算) ことができます。 します。最も汎用性の高いプローブタイプは10:1です。負荷が 少なく広い電圧レンジを提供しています。これは、多くの測定器 に付属している一般的な(標準)プローブです。 図7:さまざまな種類のプローブ/プローブアクセサリ 10
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アクティブプローブ、差動プローブ、電流プローブ、高電圧プローブ

1:1のパッシブな高インピーダンスプローブをオシロスコープの アクティブプローブ 1 MΩ入力に接続すると、高い感度を使用できます(減衰はほ アクティブプローブ(図8)の利点は、信号ソースに対する負荷 とんどありません)。10:1のパッシブな高インピーダンスプロー が小さいこと、プローブチップのDCオフセットを調整できるの ブも、オシロスコープの1 MΩ入力に接続可能です。この場合は でDCレベルに重畳する小さなAC信号に対して高い分解能を 広いダイナミックレンジを実現でき、1:1のプローブよりも入力 得られること、測定器の自動検出により手動調整が不要になる 抵抗は高くキャパシタンスは低くなります。10:1のパッシブな低 ことです。アクティブプローブは、シングルエンドと差動の両バ インピーダンスプローブをオシロスコープの50 Ω入力に接続 ージョンを使用できます。アクティブプローブは、アクティブコン すると、周波数に対するインピーダンスの変動はわずかになり ポーネントを使用しています。例えば、電界効果トランジスタは ますが、公称インピーダンスが500 Ωになるためにソースにか 入力キャパシタンスが非常に低いので、広い周波数レンジで高 かる負荷がかなり大きくなります。 入力インピーダンスを維持できるなどの利点があります。また、 インピーダンスが未知の回路を測定することもでき、グランドリ 信号振幅が小さい場合は1:1のプローブが望ましいですが、小 ードを長くすることもできます。アクティブプローブの負荷は極 さい振幅と中程度の振幅が混在している信号の場合には、1:1 めて低いので、パッシブプローブの負荷を許容できないような と10:1の切換式プローブが便利です。パッシブプローブの帯域 高インピーダンス回路に接続する場合に不可欠です。 幅は、一般的に100 MHz~500 MHzの範囲内です。高速(高周 波)信号を扱う50 Ω環境では、50 Ωプローブが必要で、その帯 ただし、アクティブプローブの内蔵バッファーアンプが動作する 域幅は数GHz、立ち上がり時間は100 psかそれよりも高速な 電圧範囲には制限があり、アクティブプローブのインピーダン 可能性があります。 スは信号周波数に依存するという問題があります。アクティブ プローブは数千Vを扱えるようにしたとしても、結局はアクティ パッシブプローブは低周波調整制御機能を備えており、これ ブデバイスであり、パッシブプローブほどは機構的に頑丈では は、プローブをオシロスコープに接続しているときに使用しま ありません。 す。低周波補償により、プローブのキャパシタンスをオシロスコ ープの入力キャパシタンスに整合させます。高周波調整制御機 差動プローブ 能は、約50 MHzを超える動作周波数にのみ使用されます。ベ 差動信号のプロービングと測定を行うには、信号ごとに個別の ンダー固有の高周波用パッシブプローブは工場で調整されて プローブを使用することもできますが、差動プローブを使用す いるため、低周波調整のみを実行する必要があります。アクティ るのが最適な方法です。差動プローブは、内蔵差動アンプを使 ブプローブでは、このような種類の調整は必要ありません。こち 用して2つの信号を減算します。そのため、オシロスコープの1チ らの特性や補償は工場で定められています。 ャネルを使用するだけで済み、シングルエンド測定よりも広い 周波数範囲で大幅に高いコモンモード除去比(CMRR)を実現 できます。差動プローブは、シングルエンドアプリケーションに も差動アプリケーションにも使用することができます。 電流プローブ 電流プローブは、電流が導体を流れたときの電磁界強度のセ ンシングによって動作します。この電磁界は対応する電圧に変 換され、オシロスコープでの測定または解析に使用されます。 電流プローブをオシロスコープの測定や演算機能と組み合わ せて使用すれば、さまざまなパワー測定を実行することができ ます。 高電圧プローブ 汎用パッシブプローブの最大電圧は、一般的に約400 Vです。 回路の電圧範囲に20 kV程度の非常に高い電圧が含まれる場 合は、安全にそれを測定するための専用プローブがあります。 そのような高電圧を測定する場合には、明らかに安全が最優 先事項であり、多くの場合、この種のプローブはケーブル長をか なり長くすることでそれに対応しています。 図8:アクティブプローブ Rohde & Schwarz オシロスコープの基礎  11
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非インターリーブ方式­ADCの利点

非インターリーブ方式A­ DCの利点 プローブに次いで、ADCは、信号が最初に通過する主要なオシ 時間に伴って発生するランダム信号のように表示され、これが ロスコープコンポーネントです。信号に対するADCの作用によ ノイズのように見える場合があります。 って、下流の処理要素の性能が決まります。オシロスコープの ADCは一般的に、複数のコンバーターを並列にインターリーブ そのため、複数のコンバーターを使用している一部のオシロス することで構成されており、そのすべてのコンバーターがデバ コープメーカーは、それらをまとめて使用してノイズのように イス全体を構成しています。しかし、別の選択肢として単一の 見える結果を発生させ、それを識別して、ある程度軽減するよ ADCを使用することには大きな利点があります。そのため、ロ うにしています。しかし、オシロスコープに広帯域のデータ信号 ーデ・シュワルツは、R&S®RTO シリーズに単一のADCを採用し が入力されると、その信号がこれらのコンバーターから発生す ています。 るスプリアス成分とミキシングされて、追加のスプリアス成分 が発生します。すなわち、オシロスコープ全体のノイズレベル( 数個のコンバーターコアをインターリーブする場合でも、ノイ ノイズ+歪み)により、ADCから引き出される有効ビット数が制 ズ、位相、周波数応答の特性ができるだけ変化しないようにす 限されてしまいます。複数のコンバーターをインターリーブする ることが重要です。さらに、測定インターバルが数十psの場合 と、これがノイズレベルにかなり寄与します。そのため、これに にはインターリーブのタイミングがクリティカルになり、各コン 対応するために、最もわかりやすい方法として複数ではなく単 バーターに分配されるサンプリングクロックの位相特性は、デ 一のADCを使用します。 バイスの全周波数レンジにわたって極めて正確である必要が あります。これは、簡単に解決できる課題ではありません。ADC ローデ・シュワルツは、R&S®RTOシリーズでこの手法を採用し 内部の各コンバーターのタイミングは別のコンバーターと少し ています。デバイスは単一のフラッシュ型コンバーターで、8ビ ばかり異なります。そのため、5つのコンバーターをインターリ ットの分解能により10 GSa/sでサンプリングし、ENOBは7(最 ーブする場合には、わずかに異なる5つのサンプリングクロック 高8)です。これにより、システムのノイズフロアが6 dB程度低下 が存在し、その結果は、基本周波数の成分として周波数ドメイ し、S/N比とダイナミックレンジが向上するため、非常に小さな ンに表示されます。 電圧を容易に識別することができます。 このような周波数成分は、一般的にフルスケールよりも40 dB さらに、オシロスコープで発生するノイズによるスペクトラムの または50 dB低く(それにも関わらずはっきりと見える)、周期 乱れがないため、チャネルパワー、全高調波歪み、および隣接チ 的に表れるため、ノイズのようにアベレージングすることができ ャネルパワーなどの周波数ドメイン測定をより正確に実行する ません。それらが発生する原因は、タイミング、振幅の不一致、 ことができます。この性能を発揮するためにカスタムASICが採 またはその両方です。それらは周波数ドメインとタイムドメイン 用されており、これにより、測定器がADCの生の整数サンプル の両方に存在し、周波数の異なる多くの高調波が合わさると、 を処理して測定波形を表示するまでの速度が劇的に向上して います。4,000万サンプル波形の場合、一般的なオシロスコープ が収集を完了するには数分必要な場合がありますが、 R&S®RTOはこの動作を数秒で実行します。 有効ビット数(ENOB) R&S®RTO オシロスコープでは一貫してA/DコンバーターのENOBが高いた め、信号の細部まで正確に表示することができ、非常に広いダイナミッ クレンジを確保しています。 7.50 7.00 6.50 6.00 5.50 5.00 0.5 1 2 3 4 入力信号の周波数(GHz) 12 ENOB(ビット)
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プローブの検討事項、回路負荷、接地、プローブの選択プロセス

プローブの検討事項 プローブの選択プロセス 適切な(電圧)プローブを選択するためには、2つの要素が重要 回路負荷 です。それは、歪みなしで波形を捕捉するために必要な帯域幅 プローブが回路に加える最も基本的で重要な特性は、抵抗性、 と、回路負荷を最小限に抑えるために必要な最小インピーダン 容量性、または誘導性のいずれかの負荷です。抵抗性負荷があ スです。仕様に記載されているオシロスコープ帯域幅が有効な ると振幅が減衰し、DCオフセットのシフトと回路バイアスの変 のは、50 Ωの入力インピーダンスと制限された電圧入力レンジ 化が生じます。プローブの入力抵抗がプロービング対象信号の のみです。高調波とその波形インテグリティーを保持するため 抵抗と同じだと、回路を流れる電流の一部がプローブに流れ には、測定器帯域幅が、測定するパルスに含まれる最高周波数 込むため、抵抗性負荷が大きくなります。これにより、回路にプ の5倍以上である必要があります。 ローブが当たる位置の電圧が低下し、動作不良のある回路が 適切に動作する場合があるばかりか、それ以上に多く、動作不 仕様のDCインピーダンスは、AC測定に対してはほとんど意味 良が発生するようになります。抵抗性負荷の効果を削減するに がありません。周波数が高くなるとインピーダンスは低下しま は、被試験回路の抵抗の10倍以上の抵抗を備えたプローブを す。これは、パッシブプローブの場合かなり顕著です。信号の最 使用します。 高周波数において、入力インピーダンスがソースインピーダン スの10倍以上を保持できるようにすることが、アクティブプロー 容量性負荷は、立ち上がり時間の速度の低下、帯域幅の削減、 ブ、またはパッシブプローブを簡単に選択するための目安です。 伝搬遅延の増加をもたらします。これは、プローブチップのキャ これにより、測定セットアップの要件を最も満たせそうなプロ パシタンスによって発生します。容量性負荷は、周波数依存測 ーブを、1つ、または2つに絞り込むことができます。マイクロ波 定の誤差を発生させ、遅延測定や立ち上がり時間測定の最大 領域のオシロスコープ帯域幅をフル活用するには、アクティブ の問題になります。容量性負荷は、プローブのキャパシタンスが プローブが必須です。 高周波でローパスフィルターとして働くことで発生します。これ により、高周波の情報がグランドに短絡され、高周波でのプロ 低周波インピーダンスが最も高いのは10:1パッシブプローブで ーブ入力インピーダンスが大幅に低下します。理想的なのは、 す。そのため、一般的にパッシブプローブではDCオフセットやノ チップのキャパシタンスが低いプローブです。 イズが発生することはありません。アクティブプローブは、数百 kHzの周波数で定インピーダンスを、最大数百MHzで最高イン 誘導性負荷では、測定信号に歪みが発生します。この負荷は、 ピーダンスを提供します。低インピーダンスプローブは、最大1 プローブチップとプローブグランドリード間のループで構成さ GHzまで定インピーダンスです。場合によっては1つの周波数に れるインダクタンスによって発生します。グランドリードの容量 て定インピーダンスであることが望ましいのですが、インピーダ 性負荷とプローブ・チップ・キャパシタンスとの結合によって生 ンスが低いほど信号の高調波歪みを防止することができます。 じる信号のリンギングは、効果的な接地によって軽減すること ができます。接地により、リンギング周波数が測定器帯域幅の すなわち、アクティブプローブは、100 MHzを超える周波数成 周波数よりも上になります。ループのサイズを狭めてインダクタ 分を含む信号に推奨され、入力キャパシタンスが低ければ共 ンスを最小にするために、常にグランドリードの長さをできるだ 振周波数が高くなります。使用可能な帯域幅を高くするために け短くする必要があります。インダクタンスを低くすれば、測定 は、アクティブプローブへの接続をできるだけ短くする必要があ 波形の上部でのリンギングを最小限に抑えることができます。 ります。さらに、グランドレベルが不安定に見える場合は、差動 プローブが必要になる場合があります。 接地 確度とオペレーターの安全を確保してオシロスコープ測定を パッシブプローブの場合は、たとえプローブの仕様帯域幅が必 実行するためには、適切な接地が不可欠です。これは特に高電 要以上に高くても、使用する特定の測定器向けに推奨されるモ 圧を扱う場合に重要です。測定器は電源コードを介して必ず接 デルを使用することが重要です。入力キャパシタンスが低けれ 地する必要があり、保護アースが外れた状態で操作してはいけ ば、共振周波数が高くなります。グランドリードのインダクタンス ません。DUTの信号グランドが別の場所にある主電源を介して を最小限に抑えるには、グランドリードを短くする必要がありま グランドに接続されていると、不要な低周波ハムが生じる可能 す。急峻な立ち上がり時間を測定する場合、共振周波数がシス 性があり、グランドループが構成されます。一般的な方法として テム帯域幅よりもかなり低い可能性があるので注意が必要で は、信号グランドを主電源グランドから絶縁して、信号ピンに近 す。回路に過剰な負荷がかからないようにするために、プロー い信号グランドへの接続を構成します。 ブのインピーダンスは、回路のテストポイントでのインピーダン スの10倍程度にする必要があります。 Rohde & Schwarz オシロスコープの基礎  13
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オシロスコープのベンチマーク仕様、帯域幅、有効ビット数(ENOB)

オシロスコープのベンチマーク仕様 すべての電子計測器と同様に、デジタルオシロスコープには主要な仕様が多くあります。一部 は単純ですが、メーカーによってさまざまな方法で仕様化されているものや、わかりにくい方法 で仕様化されているものがあります。そのため、以下では、広く一般的な定義を示します。 帯域幅 対的な立ち上がり時間が30 %程度のシリアルデータ信号など 最大帯域幅がすべてのデジタルオシロスコープ・メーカーにと です。このケースでは、基本周波数の5倍に満たない帯域幅で って最も重要な仕様である理由は、これによってオシロスコー も正確な測定を実行することができます。 プで正確に測定できる周波数レンジが決まるからです。測定器 帯域幅が特定のアプリケーションに対して不十分だと、その測 プローブも、実現可能な帯域幅に直接的な影響を及ぼします。 定器は信号を表示するために十分な成分を取得できないた プローブは理想的なデバイスではないため、独自の帯域幅を め、正確で有用な測定機器にはなりえません。オシロスコープ 備えており、これを考慮する必要があります。プローブ帯域幅 帯域幅は、入力信号が3 dBだけ減衰する下限周波数として定 は、常にオシロスコープ帯域幅の1.5倍程度、広い必要があり 義されています。これは、すなわち、正弦波信号が真の振幅の ます。オシロスコープの性能をフルに活用するには、帯域幅が 70.7 %まで減衰する周波数です。 1.5 GHzのプローブが求められます。プローブの周波数応答が フラットな領域で確実にテスト信号を測定するためには、より 所定のアプリケーションに対して、適切な帯域幅を選択するこ 広いプローブ帯域幅を使用することが重要になります。帯域幅 とが困難な場合があります。この要件を満たすには、最大の帯 が1 GHzの一般的なオシロスコープでは、この領域は通常、プ 域幅を備えた測定器を選ぶのが最も簡単であることは明らか ローブの最大帯域幅仕様の3分の1(300 MHz)になります。 です。しかし、帯域幅が非常に広いオシロスコープはかなり高 価です。さらに、帯域幅が広くなると、ノイズレベルは上昇し、ダ より具体的には、多くのテスト信号は単純な正弦波よりも複雑 イナミックレンジは大幅に狭まります。これは、帯域幅が不十 で、高調波のようなさまざまなスペクトラム成分を含んでいま 分な場合と同じくらい測定の不確かさを増加させる可能性が す。デジタル信号を表示するには、オシロスコープの帯域幅が、 あります。取り扱う可能性のあるアプリケーションや信号に最 クロック周波数の約5倍である必要があります。アナログ信号 低限必要な帯域幅を備えたオシロスコープを選択するのが最 の場合、オシロスコープが接続されるデバイスの最高周波数に 適です。 よって、必要なオシロスコープ帯域幅が決まります。 オシロスコープは主にデジタルパルスを測定するもので、方 有効ビット数(ENOB) 形波は無限の帯域幅を備えた理想的なパルスです。その信号 有効ビット数(ENOB)は、ADCによって達成可能な分解能ビッ の周波数スペクトラムは、基本周波数と奇数次の高調波の信 ト数だけでなく、測定器全体の一部として達成可能な有効ビ 号で構成されます。高調波の振幅は、周波数に応じてsin(x)/x ット数の合計を表すことがあるため、混乱しやすい仕様です。 関数に従うので、3次高調波は基本周波数よりも約13.5 dB低 前者の方が後者よりも常に大きい値ですが、オシロスコープ く、5次高調波は27 dB低くなります。次の7次高調波は54 dB低 のデータシートにはどちらの仕様も掲載されていません。しか 下し、多くのオシロスコープのノイズフロアよりも低くなります。 し、ENOBは、知っておくべき略称です。ENOBは多くの要素か オシロスコープ帯域幅を選択するための目安には5次高調波 ら影響を受け、周波数、フロントエンドノイズ、高調波歪み、イン の法則と呼ばれるものがあり、これは方形波スペクトラムに基 ターリーブ歪みによって変化します。オシロスコープメーカー づいています。この法則を適用すると、多くの場合、過剰な帯域 は、ENOBが生の値(例:R&S®RTOの場合、8ビット中7ビット)に 幅を選択することになります。 近いことを誇りますが、これは容易なことではありません(非イ ンターリーブ方式ADCの利点オンページ12を参照)。 上に述べたスペクトラムは完全な方形波に当てはまるもので すが、あらゆるデジタル信号の立ち上がり時間は有限なので高 次高調波の振幅は縮小し、これにより理想的な方形波スペクト ラムも変化します。多くのケースで、5次高調波のレベルはオシ ロスコープのノイズフロアよりも十分に低くなるので、より狭い 帯域幅で十分です。これは、一般的に帯域幅が3 Gbit/s以上の 信号に当てはまります。例えば、ビットインターバルに対する相 14
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チャネル、サンプリングレート、メモリ長、トリガの種類、立ち上がり時間、周波数応答

チャネル トリガの種類 多くのデジタルオシロスコープは、かつては2チャネルまたは4 オシロスコープの購入者にとって幸いなことに、多くのオシロ チャネルを備えていましたが、今日では、アナログ信号と複雑 スコープは従来からのさまざまなトリガ機能だけでなく、一般 なデジタル信号を測定するニーズに対応するために20チャネ 的なアプリケーション専用のトリガ機能も備えています。これが ルを備えることもできます。オシロスコープを購入する場合は、 重要な理由は、多くの種類のトリガを実行できるということだ 外部トリガハードウェアを構築するという選択肢があるため、 けでなく、それらを使用しないと十分に対応できないアプリケ 使用する可能性のあるチャネル数を適正に見積もることが重 ーションがあるからです。事実上すべてのデジタルオシロスコー 要です。ミックスド・シグナル・オシロスコープを組み込みデバッ プが、エッジトリガとパターントリガを備えています。ミックスド・ グアプリケーションで使用する場合は、従来の2チャネル、また シグナル・オシロスコープを使用すれば、ロジックチャネルとオ は4チャネルに加えて16個のロジックタイミングチャネルをイン シロスコープチャネルにまたがってトリガをかけることができま ターリーブすることになります。 す。一般的なシリアル・インタフェース・バスを扱っているエンジ ニアは、SPI、UART/RS-232、CAN/LIN, USB、I2C、FlexRay™な サンプリングレート どのプロトコルトリガが必要なため、将来性のあるトリガ要件 オシロスコープのサンプリングレートは1秒間で収集されるサ がオシロスコープ仕様の一部になっています。 ンプル数で、オシロスコープ帯域幅の2.5倍以上である必要が あります。最新のデジタルオシロスコープのサンプリングレート 立ち上がり時間 は極めて高速で帯域幅は6 GHzを超えており、高速なシングル 今日の多くのアプリケーションでは、立ち上がり時間の測定が ショットの過渡現象に対応するように設計されています。オシロ 求められます。特に、デジタル信号を測定するときには非常に スコープはこれを実現するために、規定帯域幅の5倍以上のレ 高速な立ち上がり時間の測定が要求されるので、この指標は ートでオーバーサンプリングしています。オシロスコープメーカ 今まで以上に重要になっています。オシロスコープの立ち上が ーは自社の測定器の最大サンプリングレートを仕様化していま り時間により、達成可能な、実際に使用できる周波数レンジが すが、これは1チャネルまたは2チャネルを使用しているときの 決まります。立ち上がり時間が高速なオシロスコープは、高速 み実現可能な値です。より多くのチャネルを同時に使用すると、 な遷移の細部をより正確に表現することができます。これをプ サンプリングレートは低下する可能性があります。そのため、測 ローブに適用すると、ステップ関数に対するその応答は、プロー 定器の最大サンプリングレートを維持しながら何チャネルを使 ブがオシロスコープ入力に伝送できる最速の時間を示します。 用できるのかが重要な判断指標になります。アナログ信号をデ これに関する一般則として、パルスの立ち上がり/立ち下がり ジタル信号に変換するあらゆるシステムと同様に、サンプリン 時間を正確に測定するには、システム全体(オシロスコープや グレートが高いほど分解能が向上し、デジタルオシロスコープ プローブ)の立ち上がり時間は最も速い遷移の3倍から5倍で の場合はより詳細に結果を表示できるようになります。 ある必要があります。 メモリ長 周波数応答 サンプリングレートが高速になるほど、捕捉信号を保存するた 周波数応答は、デジタルオシロスコープの性能を決定する多く めに必要なメモリ容量も増加するため、この仕様は重要です。 の特性の中の1つですが、オシロスコープメーカーのデータシ 測定器のメモリが大きいほど、最大サンプリングレートで多くの ートには記載されていません。それにも関わらず重要な特性で 波形を捕捉することができます。一般的に、長時間を捕捉する す。ガウシアン周波数応答の形状は、常にオシロスコープと信 にはかなりのメモリ長が必要になりますが、オシロスコープで 号がアナログの場合を想定しているため、多くの場合、周波数 は、最大メモリ長の設定を選択すると更新速度が大幅に低下 応答は公表されません。デジタルオシロスコープの周波数応 する場合があります。 答曲線には、最大平坦特性、チェビシェフ、バターワース、ガウ スなどがあり、各タイプが、振幅および立ち上がり時間の誤差 従来のオシロスコープは信号収集を実行しながら、連続的に の原因となるオーバーシュートやリンギングに及ぼす影響は異 データの保存、処理、および表示を行います。このすべてが実行 なります。そのため、このわかりにくい仕様を理解することが重 されている間、測定器に本質的なデッドタイムが生じて測定信 要です。 号の特性を捕捉できなくなります。最大サンプリングレートで は、実際にブラインドタイムが全収集時間の99.5 %を超える可 すべての信号は、周波数ドメインにスペクトル線として現れる、 能性があり、その場合は収集時間の0.5 %未満しか測定されな さまざまな周波数と位相の正弦波を合成したものです。オシロ いため、信号の異常が見落とされる場合があります。おそらく、 スコープの周波数応答は、各々の正弦波に個別の重み付けを 十分な信号捕捉メモリが必要になる最もクリティカルな場合 追加します。各信号成分に対する周波数応答の重み付けを理 は、イベントがランダムに発生する場合か、非常に希にしか発 解することは有益ですが、3 dB帯域幅と立ち上がり時間の仕様 生しない場合です。メモリが小さすぎると、イベントを捕捉でき しかデータシートに掲載されていないので、ユーザーは推測し ない可能性が劇的に高まります。R&S®RTOシリーズ オシロス かできません。 コープでは、高速メモリに加えてASICを採用しています。これ は、複数の処理をパラレルに実行することで、ブラインドタイム を大幅に短縮して、別の測定器よりも20倍も高速な100万波 形/秒に迫る解析速度を実現しています。 Rohde & Schwarz オシロスコープの基礎  15
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利得(垂直軸)とタイムベース(水平軸)の確度、ADC垂直軸分解能、垂直軸感度

すべてのメーカーは、理想とする独自の周波数応答曲線を有し 利得(垂直軸)とタイムベース(水平 ています。最大平坦特性は測定器のカットオフ周波数まで偏差 軸)の確度 がなく、その後急激に低下します。そのため、一部のメーカーは これが最高の結果を提供すると信じています。測定器の周波数 オシロスコープの利得確度によって、垂直軸システムが入力信 レンジを拡張すれば、非常に急峻なロールオフ特性を実現する 号の振幅を変化させる精度が決まります。水平軸確度は、水平 こともできます。 軸システムが信号タイミングを視覚化できる能力を定義するも のです。 しかし、最大平坦特性の周波数応答には、かなりのトレードオ フが求められます。例えば、応答を完全にフラットにする方法は ADC垂直軸分解能 なく、周波数が高くなると応答に段差のない遷移もありえませ 垂直軸分解能は、ADCがアナログ電圧をデジタルビットに変換 ん。そのため、遷移周波数にて代償が生じます。バターワースや する確度の指標です。例えば、8ビットADCは信号を256個の離 チェビシェフなどの特性応答を適用した場合も、現時点で最先 散的な電圧レベルに変換して、選択されたV/div設定に割り振 端のデジタルフィルターを利用したとしても、通過帯域に多少 ります。1 mV/divの場合、最下位ビットは39 μVです。これは有 の不規則性が発生します。 効ビット数とは異なります。なぜならば、ADCやオシロスコープ のフロントエンド内部の理想的でない特性が考慮されていな ローデ・シュワルツは、従来のガウシアン応答を使用すれば、相 いからです。 反する仕様の間で最適なトレードオフを実現して、全体として 最高の確度を達成してリンギングおよびオーバーシュートを最 垂直軸感度 小限にできると考えています。特徴的なのは、これを周波数ドメ 垂直増幅器が信号強度を増幅する能力を垂直軸感度と呼びま インとタイムドメインの両方で実現でき、どちらにおいてもリン す。通常は画面の垂直軸1 div当たり約1 mV(1 mV/div)です。 ギングが発生することがないことです。R&S®RTO 2 GHzオシロ すべてのオシロスコープ感度は1 mV/divほど大きいことはな スコープの周波数応答と4 GHzオシロスコープの最大平坦特 く、多くはソフトウェアによる補正を利用しています。オシロスコ 性応答を比較すると(図9)、R&S®RTOの応答の形状が教科書 ープの有効ビット数が減少するのはそのためです。このような のガウシアンに近いことがわかります。図10は、両方のオシロ 短所に対応するために、特に1 div当たりの設定電圧が低いと スコープのステップ応答を比較したものです。R&S®RTOのオー きは、帯域幅制限が使用される場合もあります。 バーシュートは1 %ですが、最大平坦特性応答を備えたオシロ スコープのオーバーシュートは8 %もあります。ガウシアン応答 を採用すると応答のロールオフが急峻でないため、3 dB帯域 幅が狭くなるというトレードオフが求められます。しかし、確度 は最高(特に信号エッジにて)で、リンギングを除去することが でき、オーバーシュートは1 %以内に抑えられます。業界の平均 は5 %から10 %を超えることもあるので、それよりもはるかに 低い値です。オーバーシュート(最終的な振幅に対する最大振 幅の変位(%))の低減は極めて重要です。これが低減されない と、被試験デバイスの特性が不明瞭になり、正確な振幅測定が できなくなるからです。 図9:R&S®RTO1024のガウシアン周波数応答曲線(青)と、別のオシロスコー プの最大平坦特性応答(緑)を理想的なガウシアン応答(紫)に重ねると、 前者の方が理想的な応答にかなり近いことがわかります。 16
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ディスプレイとユーザーインタフェース、通信機能

ディスプレイとユーザーインタフェース 通信機能 オシロスコープの性能は個々の仕様によって決まりますが、オ 今日のデジタルオシロスコープは、従来のGPIBやRS-232から シロスコープの使いやすさと結果の表示性能はディスプレイ イーサネット、およびUSBまで、幅広い通信インタフェースを備 とユーザーインタフェースによって決まります。一般的にオシロ えています。かつてはCD-RWドライブを使用してデータを転送 スコープメーカーは、ディスプレイには一貫して高解像度TFT していましたが、今日はシンプルなUSBフラッシュメモリを使用 LCD(液晶ディスプレイ)を採用しており、機種によりLEDバック して簡単に作業でき、インターネット接続を使用して、より多く ライトを搭載しています。しかし、インタフェース自体はメーカ のリモート転送を処理することができます。ファームウェアアッ ーごとに異なり、新世代のオシロスコープが登場するたびに絶 プデート、オプション、その他の機能をダウンロードすることも えず改良されています。測定の実行しやすさとそれを解釈する できます。また、イーサネットを使用すると、インターネットが接 速度および確度は主観的なものなので、候補となる各測定器 続されている場所であればどこでも測定器の制御とデータ転 をできるだけ徹底的に評価することが賢明です。 送を行うことができます。これにより、オシロスコープを大規模 なATEシステムの一部として使用することが可能になります。 図10:2つのオシロスコープのステップ応答。R&S®RTO1024には1 %のオーバーシュートがあり、最大平坦特性を備えたオシロスコープでは8 %のオーバーシ ュートが発生していることがわかります。 Rohde & Schwarz オシロスコープの基礎  17
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代表的なオシロスコープ測定 、電圧測定、位相シフト測定、時間測定、パルス幅/立ち上がり時間測定、シリアルバスのデコード、周波数解析/統計/演算機能

代表的なオシロスコープ測定 対象がアナログであろうとデジタルであろうと、オシロスコープは汎用性の高い測定器です。 基本機能は電圧の測定と表示ですが、それ以外にもさらに多くの作業を行うことができます。 以下に示す測定に加えて、特定のアプリケーション向けにさらに多くの測定を利用することが できます。その詳細については、インターネットで広く入手できるアプリケーションノートなどの ドキュメントを参照してください。これらのドキュメントでは、測定の自動化から、商用/防衛シ ステムでの信号検出および解析に至るまで、幅広く解説されています。 電圧測定 パルス幅/立ち上がり時間測定 基本的な電圧測定は、実は、別の多くの計算を実行するため パルスの幅と立ち上がり時間の重要な特性に欠陥があると、デ の基礎的な手順に過ぎません。例えば、ピークツーピーク電 ジタル回路で劣化や故障が引き起こされます。そのため、これ 圧(Vpp)の測定は、波形の上部と下部の電圧差を計算するた を評価することが多くのアプリケーションで重要になります。パ めに使用されます。測定では、パワーレベルを決定するために ルス幅は、波形がピークツーピーク電圧の50 %から最大電圧 RMS電圧を使用することもできます。 まで立ち上がって、その後元の電圧に戻るまでに必要な時間と して定義されています。負パルス幅を測定すれば、波形がピー 位相シフト測定 クツーピーク値の50 %から最小ポイントまで低下して、その後 オシロスコープは、XYモードと呼ばれる機能を用いて位相シフ 元の電圧に戻るまでに必要な時間がわかります。パルスド信号 トを測定する便利な方法を提供しています。この機能では、垂 に関連する別のパラメータに立ち上がり時間があります。これ 直軸システムに一方の信号を入力し、水平軸システムに他方の は、パルスが全電圧の10 %から90 %に立ち上がるまでに必要 信号を入力します。交流電圧の相対的な位相と周波数を示す な時間として定義されています。この業界標準を用いて、パルス リサージュ図形が結果として表示されます。形状により、2つの 遷移の端の変動を確実に排除することができます。 信号の位相差と周波数比がわかります。 シリアルバスのデコード 時間測定 シリアルプロトコルには、I2C、SPI、UART/RS-232、CAN, LIN、 オシロスコープを使用して、水平軸スケールで時間を測定する およびFlexRay™などがあり、これらのデコードも、オシロスコ ことができます。これは、パルス特性の評価に有効です。周波数 ープで頻繁に実行される測定の共通セットです。これらの測定 は周期の逆数なので、周期がわかれば、1を周期で除算するこ 機能は、通常はオシロスコープに搭載されるソフトウェアオプ とで周波数を求められます。信号の必要な部分を拡大すれば、 ションの一部で、必要に応じて追加することができます。 情報をより鮮明に表示することができます。 周波数解析/統計/演算機能 ヒストグラムや平均値などの統計機能やアベレージングに加 えて、ユーザーは演算機能を測定信号に適用することができま す。これにより、ユーザーは有意義な結果を表示できるようにな るので、波形解析が容易になります。元の波形や他のデータを 結合したり変形したりして演算波形にすることで、ユーザーは アプリケーションに必要なデータ表示を得ることができます。 多くのオシロスコープは演算機能を備えており、異なるチャネ ルの信号を加算、減算、乗算、および除算することができます。 それ以外の基本演算機能には、フーリエ変換があります。これ は、信号の周波数成分をディスプレイ上に表示するための演算 で、波形の電圧値を表示するための絶対値を決定します。 18
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演算子、マスク試験、ヒストグラム、スペクトラム表示、および自 高速なFFT機能と収集速度により、ライブスペクトラムを表示す 動測定は、ソフトウェアのコンピューティングリソースを消費す ることができます。信号の急速な変化や干渉、さらに微弱な重 るので、ブラインドタイムが長くなり、測定器の応答が遅くなり 畳信号もクリアに表示されます。 ます。ローデ・シュワルツは、スペクトラム解析ハードウェアの専 門知識を活用して、これらの機能をハードウェアで実行した上 R&S®RTOオシロスコープでは、ハードウェアにマスク試験も実 で、低ノイズのフロントエンドやA/Dの高い有効ビット数を合わ 装されています。これにより、高い収集速度を維持しながら十 せて利用し、パワフルなFFTベースのスペクトラム解析を実現し 分な数の波形を記録して、統計的に適切なデータを生成するこ ています。 とができます。保存された波形は解析に使用することができる ので、高い信頼性ですぐに信号の異常を検出して、その原因を 特定することができます。 Rohde & Schwarz オシロスコープの基礎  19
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まとめ

まとめ オシロスコープは、非常に汎用性の高い測定器で、幅広いエン 先に述べたように、デジタルオシロスコープには多くのアプリ ジニアリング環境で使用されます。一般的に、水平軸/垂直軸 ケーションがあり、各メーカーはそれを説明するために、アプリ システムが効果的に実装されているほど、信号再現性は高くな ケーションノートなどの有益なドキュメントを提供しています。 ります。さらに、トリガに柔軟性があれば、ユーザーはオシロス さらに、場合によっては、このようなドキュメントに説明されて コープをセットアップする際にそのトリガ手法を利用して、ラン いる各トピックに役立つかもしれない多くの情報があります。そ ダムに発生する信号や希にしか発生しない信号を捕捉するこ のため、オシロスコープを購入したら、次のステップの1つは、扱 とができます。適切なプローブやプローブセットは、被試験信号 う可能性のある具体的なアプリケーションに関する情報をでき を測定システムに入力するために不可欠です。 るだけ多く収集することです。 20