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【ソーラー水素】研究と製造の最新情報を大学教授が解説!

ホワイトペーパー

本資料は、ストックマーク株式会社が主催したオンラインセミナー「太陽光と水分解光触媒から創るソーラー水素 水素社会の実現に向けた製造開発の現在地」の講演内容をまとめたものです。
講演では信州大学・ARG機構 特別栄誉教授/東京大学 特別教授の堂免一成氏が登壇し、太陽光を用いた水分解技術と次世代エネルギーとしての「ソーラー水素」 の実現可能性や研究最前線について解説しています。


◆◇◆ 本資料のポイント ◆◇◆

✔ 次世代エネルギー社会におけるソーラー水素の位置づけ
✔ 光触媒による直接水分解技術の科学的基礎
✔ 実用化に向けた技術課題と開発動向
✔ STH効率の意義と世界的競争の最前線

このカタログについて

ドキュメント名 【ソーラー水素】研究と製造の最新情報を大学教授が解説!
ドキュメント種別 ホワイトペーパー
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取り扱い企業 ストックマーク株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧)

このカタログの内容

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太陽光と光触媒が切り拓く 堂東信 免京州 大大 一学学 ソーラー水素社会 成特A 別R 氏教G 授機 室構 - 水分解研究からSTH�%達成への道 - 特特 別別 教栄 授誉 教 授 太陽光、風力、水素エネルギー。持続可能な社会の実現に向け、再生可能エネルギーの多様な技術が研究されている中で、 今あらためて注目されているのが「ソーラー水素」だ。太陽光を利用して水を分解し、二酸化炭素を排出せずに水素を生成 する技術は、化石資源に依存しない次世代のエネルギーシステムを築くうえで極めて重要な役割を担う。 その中で注目されているのが「光触媒」である。紫外光や可視光を利用した水分解の研究は近年大きく進展しており、STH効 率5%の達成を目指す取り組みは、グリーン水素の商業化に直結する挑戦だ。大面積化や耐久性、安全性といった課題を克 服できれば、ソーラー水素社会の実現は決して夢物語ではない。 本セミナーでは、信州大学 ARG機構 特別栄誉教授/東京大学 特別教授室 特別教授の堂免氏に、光触媒研究の最前線と社 会実装に向けた構想について詳しくお話しいただいた。 ※本記事は、ストックマーク株式会社が2025年8月7日に開催したオンラインセミナー『太陽光と水分解光触媒から創るソーラー水素 水素社会の実 現に向けた製造開発の現在地』の内容を中心にまとめたものです。 太陽エネルギー0.02%で人類の需要を賄う ― 資源(既に使われてしまったものをも含む)の量は、地球に約10日間 実現への道筋 降り注ぐ太陽エネルギーが変換された量にしかならない。それを急速 に消費しているのが現状である。数字を比較すれば、太陽エネルギー  まず、太陽エネルギーについて説明する。通常は太陽エネルギー量 の0.02%を利用可能な形に変換できれば人類の需要を満たせる。 をkWhで表すことが多いが、化学の分野で分かりやすいという観点か らここではジュールで示す。地球表面に毎年降り注ぐ太陽エネルギー しかし実現には大規模展開可能な技術が必要だ。仮に2050年にエ は約3.0×10²⁴ジュール、人類が使用するエネルギーは約5.6×10²⁰ ネルギー需要の約3割を太陽エネルギーで供給するとし、変換効率を ジュールである。かつて太陽エネルギーは人類消費量の約1万倍とさ 10%として、25平方キロメートルの太陽エネルギー変換プラントを構 れたが、現在は消費増加で5000倍強となっている。自然界で最も太陽 築すると仮定する。現在最大級のギガソーラーと呼ばれるUAEの太 エネルギーを利用しているのは光合成であり、年間3.0×10²¹ジュール 陽電池施設でも8平方キロメートル程度であり、最近中国西部の地方 を化学エネルギーに変換している。これは毎年地球上に降り注ぐ太陽 に建設されつつある施設でもこの面積には届かない。このようないま エネルギーの0.1%が化学エネルギーに変換されることを意味する。 だに実現していない25平方キロメートルのプラントでも、2050年の 人類の一次エネルギー源の8割以上はいまだに化石資源である。化石 約3割の需要を満たすには1万基、つまり2025年から年間400基の建 設が求められるが、これは極めて困難な数字である。ただしいくつか の企業からは「利益が出るなら可能ではないか」との意見もある。一 方、科学的にはもう一つの課題がある。太陽エネルギーを単に別のエ ネルギーに変換するだけでなく、貯蔵・輸送可能なエネルギーにする 必要があるという点だ。電気エネルギーを連想するが、バッテリー蓄 電は経済効率が非常に悪く、また長距離輸送での損失も大きい。その ため現在最も有望と考えられているのは化学エネルギーへの変換で ある。 しかし、人工的に作れる化学物質は比較的簡単な分子に限られ、水 素、メタノール、メタンなどの炭化水素、アンモニアが代表例である。 © Stockmark Inc. アンモニアは燃料利用に疑問が持たれるかもしれないが、グリーンメ タンとアンモニアの合成時の水素消費量と適切な燃焼発熱量を考慮 するとメタンと同等のエネルギー物質と考えられる。こうした研究は 「人工光合成」と呼ばれ、世界中で進められている。その中でも特別 な位置にあるのが水素である。ここで対象とするのは、水を原料に二 酸化炭素を排出せず生成する水素である。水素さえ得られれば、メタ ノールやメタンは二酸化炭素と反応させて合成でき、アンモニアも空 気中の窒素と反応させる触媒が既にある。したがって、水素製造技術 こそが鍵を握る。 水素を安価に十分な量で供給できれば、メタノールや炭化水素、アン モニアの生成はグリーン水素製造と比較して技術的には難しくない。  我々は光触媒微粒子を二つの方式で利用している。一つは一種類 太陽エネルギーを利用して水から水素をつくる方法として一般的に思 の触媒で水素と酸素を同時に発生させる一段階方式。もう一つは水素 い浮かぶのは、太陽電池と電気分解装置の組み合わせである。一見単 発生用と酸素発生用の二種類をつなぐ二段階方式で、植物の光合成 純に思えるが、電気分解装置は精巧であり、バッテリーやコンバーター に似たZスキームと呼ばれる方式である。光触媒を実用化するには、大 といった補助機器も必要となる。技術自体は実用レベルにあるが、依 面積化したシートやパネルが不可欠だ。さらに生成するのは水素と酸 然としてコストが課題である。 素の混合気体に加え水蒸気も含むため、安全に分離し純粋な水素を 得るプロセスが必要になる。その水素は燃料利用に加え、二酸化炭素 や窒素と反応させてソーラー燃料(グリーン燃料)を合成することも可 能である。ここでは必ずしも光触媒だけでなく、熱触媒を応用する場合 もある。  ヨーロッパでは2025年に1kgあたり3ユーロ、日本でも2030年に30 円、2050年に20円/Nm³と目標を掲げている。しかし2023年、欧州の 水素燃料電池協会は政府等の補助を考慮しても実際のコストは目標 の2~3倍になると試算した。2024年にブルームバーグが報じた「Why almost nobody is buying green hydrogen」では、EUや米国で再エ  一段階の水分解光触媒としてまず取り組んだのは紫外光応答型だ。 ネ由来のグリーン水素は高コストのため事業が停滞している現状が示 SrTiO₃にRhCrOXを担持した触媒で、RhCrOXの添加量は約0.1wt%。こ された。日本も同様である。 れが水素生成の活性点となる。実験では波長300nm以上の光を照射 し、当初は活性が極めて低かったが、水素と酸素が2:1で生成している そこで注目されるのが光触媒方式である。なお、この方式はまだ研究 ことを確認した。その後アルミニウムをドープすることで見かけの量子 開発段階である。粉末を水に入れて光を当てると水素と酸素の気泡 収率(AQY)は365nmで50%以上に向上し、さらに酸素生成助触媒を が発生し、その水素を分離して取り出すという、極めてシンプルな仕組 加え光電着法を適用することで90%以上に達した。紫外領域での90% みだ。大面積化は比較的容易だが、高効率化が難しいという課題があ 以上のAQYは世界最高活性である。この粉末はSrCl₂をフラックスとし る。我々の研究の目的は、太陽光を用いて純粋な水を光触媒で水素と て混合・焼成して合成し、粒径は数百nm、Alのドープ量は約0.1at%で 酸素に分解し、直接水素を生成することにある。つまり、大量かつ低コ ある。そこに水素・酸素発生用の助触媒を付与することで高性能触媒 ストでグリーン水素を製造可能な光触媒システムを開発し、早期に社 が完成する。ロジウム酸化物は還元され金属ナノ粒子となり、表面をク 会実装することが直近の目標である。 ロム酸化物で被覆して逆反応を防ぐ。一方、酸素発生助触媒にはCoOX を用い、光酸化反応で活性化する。こうして得られた触媒は365nmで 光触媒による水分解の最前線 AQY��%を記録し、他の波長でも高い効率を示した。 紫外光応答型と可視光応答型の挑戦  光触媒にはいくつかのタイプがある。紫外線のみに応答する白色、 ���nm付近まで吸収する黄色、600~700nmの長波長光を吸収する 赤~茶色の粉末などだ。広い波長を利用するには多くの課題がある。 ム・クロム酸化物の微粒子が担持され、電子は水素生成、正孔は酸化 反応に寄与することが示唆された。 ソーラー水素社会に向けて ― 光触媒シートと水分解パネル、 安全性への挑戦  紫外光応答型と可視光応答型の光触媒を紹介してきたが、最終目 標はこれらを基盤とした大面積化による安価なグリーン水素の大量製 造である。そのためには粉末をシート化し、パネルとして展開する必要 がある。固定化することで「光触媒シート」となり、大規模な水分解パネ  この高 効 率の要 因を探るため電 子 顕 微 鏡で観 察すると、粒 径 ルの実現が可能になる。 ���nmの粒子には{100}面と{110}面があり、水素発生助触媒と酸素 発生助触媒がそれぞれ選択的に配置されていた。つまり電子と正孔 が異なる面に移動しやすい性質を持っていた。  最近の研究例として、Zスキーム型光触媒シートがある。湿式法 で調製した材料を用い、比較的簡単に作製できる。水素発生側は Sm₂TiO₅S₂にPtを担持しCrOxで被覆、IrO₂を微量添加した。酸素発生 側はBiVO₄にCrOxを担持し、両者をカーボンナノチューブで接続する。  シミュレーションでも仕事関数差0.2eVを仮定すると、電子は{100} 作り方は材料を水に分散し、攪拌後ろ過して堆積させるだけである。 面、正孔は{110}面に集まりやすい電場分布が得られ、実験結果を裏 シートは均一性に欠けるが、SEM像では触媒同士が接続されているこ 付けた。 とが確認できた。可視光照射で当初は140µmolの水素と70µmolの 酸素が得られ、改良後は400µmol程度まで向上した。異なる触媒を組  次に可視光応答型触媒である。代表例はGaN:ZnOで、原子レベル み合わせられる利点があり、Ta₃N₅(O�生成)やLTCA(H₂生成)などを利 で混合した構造を持つ。窒化ガリウムと酸化亜鉛を固溶させると黄色 用した高効率化の研究も進んでいる。 みを帯び、可視光吸収が可能となる。電子顕微鏡で粒径は数百µmと 確認された。  次に、一段階の水分解パネルである。RhCrOx/SrTiO₃:Al光触媒をナ ノシリカSiO�と混合し基板に塗布して乾燥させる。これを蒸留水だけ  この触媒に400nm以上の光を照射すると水が分解し、水素と酸素 (電解質無し)をビーカーに入れて、紫外光照射すると水素と酸素が2:1 が2:1で生成された。量子収率は410nmで約5%にとどまるが、単一 で発生した。STEM観察ではナノシリカの隙間に水が浸透し、気体は過 光触媒で水を分解した世界初の成果である。観察では表面にロジウ 飽和で生成、外部に出て初めて気泡となる。 安全性試験も不可欠である。混合気体は爆発性を持つため、意図的 な点火試験を行った。内径10mm・長さ100mのチューブに混合気体を 流し点火すると爆発は起きたが、チューブは損傷せず再利用可能だっ た。爆轟は約2800m/sで伝播したが、分離膜も損傷はなく繰り返し使 用できた。福島第一原発のような大規模爆発は大量気体を閉じ込め た場合に起きるが、1気圧程度でチューブ状に保持すれば安全に扱え ることが示された。重要なのは、安全を前提とした設計である。 STH効率5%を目指す 光触媒研究の社会実装構想  生成気体回収のため25cm角のパネルを作製し、0.1mmの水層でも  こうした実験を経て、信州大学ではさらに大規模なプロジェクトへと 十分効率よく反応が進行することを確認した。この技術を基盤に、東京 展開している。文科省「J-PEAKS」に採択され、新設の「アクアリジェネ 大学柿岡教育研究施設で25cm角シート1600枚、総面積100㎡のプロ レーション機構」が水・環境・エネルギー分野の課題解決に取り組んで トタイプのグリーン水素製造システムを設置した。2020年9月の実験で おり、我々はエネルギー分野を担当している。長野県飯田市の「エス・ は、毎分3.7Lの水素を含む混合気体を得た。混合気体はUBE社製のポ バード」施設に光触媒を敷設し、水素を製造する計画を進めている。 リイミド中空糸膜を用いて分離し、快晴時には1日で約1000~1800L を生成した。  敷地面積は約5500㎡で、約3000㎡を受光面とする予定である。こ れは実機規模(約1万㎡)に近く、社会実装に向けた実証段階に入って  水素純度は午前と夕方は95%以上を維持したが、正午付近は92~ いる。旧工業高校のグラウンドにリアクターを設置するが、25cm角リ 93%に低下した。当時の回収率は73%で、爆発領域を避けるには95% アクターを並べるだけでは不十分で、大型化が不可欠である。現在は 以上が必要だった。現在は改良により98%以上を安定して得られ、酸 �m×�mのパネルを試作しており、将来的には10m以上を目指してい 素除去で99.9%以上も可能である。回収率も92%に達しており、さら る。外装材はガラスから耐候性樹脂に変更し、内部の光触媒シートも なる改善を目指している。受光面積100㎡でのエネルギー変換効率は 基材をガラスからアルミ蒸着PETに変更し、role to role方式あるいは 紫外光のみで0.8%程度であった。 インクジェット方式で大面積光触媒シートの作成を計画している。  アルミPETはやや厚めのもので強度を確保し、保護膜を施すことで 光触媒による劣化を防いでいる。今後3000㎡規模に拡張するには、さ らなる塗布方法の検討が必要である。実験ではガラス基板よりも高い 耐候性や耐温度変化性が確認されているが、幅1mで約3000mの長さ が必要であり、分割や塗布技術の課題が残る。  次に、ソーラー水素からグリーン燃料への変換である。天候や昼夜で 水素生成は不安定で、大量高圧貯蔵は効率的でなく価格的にも適切 でない。そのため小規模に貯蔵した水素をDSS運転で化学物質に変換 し、貯蔵・輸送に適した化学物質に変換する方向を目指している。候補 はメチルシクロヘキサン、メタン、アンモニア等であり、200~300℃で 作動する熱触媒システムが必要となる。 破が必須である。現在は主としてTa系触媒が開発され、BSTONで理 論値17%、BaTaO₂Nでは20%近い性能が期待される。紫外光応答型 のSrTiO�では内部量子収率はほぼ100%に達しており、可視光応答 型の光触媒でも光触媒材料の合成法の改良と助触媒の適切な選択 で到達可能と考えている。  SrTiO�光触媒は40年かけて量子収率約0.1%から10%程度まで進 展し、その後1年程度でほぼ100%に到達した。これは光触媒そのもの の性質の改良に時間がかかったことを示している。現在、可視光応答 型光触媒そのものの課題の本質は明らかになりつつあり、性能向上は 加速すると期待している。我々も数年以内に目標領域へ到達すべく研 究を続けており、その可否は挑戦を通じて確かめるしかない。  我々はEUの「Horizon Prize Contest」に東京大学・INPEXと参加し、 まとめ 22の応募の中から選定された決勝3チームの中で優勝した。構築した システムは分離膜で水素を精製し、CO₂を用いてメタンを合成するもの  「ソーラー水素」は太陽光を利用して水を分解し、二酸化炭素を排 で、2022年にイタリアJRCで3日間のコンピュータ制御によるDSS運転 出せずに生成できる次世代エネルギーである。化石資源に依存せず、 で実証実験を行った。この経験から、大面積化は現実的であると確信し 持続可能な社会を実現するうえで重要な鍵を握っている。 ている。  特に光触媒を用いた水分解研究は急速に進展しており、商業化の  さらにアンモニア合成の研究も進んでいる。東工大の原教授が開発 目安とされるSTH効率5%の達成が現実味を帯びつつある。大面積 した鉄系触媒は、従来比で約2倍の活性を示し、低圧・低温で十分な性 化や耐久性、安全性といった課題も依然残るが、克服できればエネル 能を持つ。静岡大学福原教授は光触媒とリアクターの組み合わせで圧 ギー転換の柱となる可能性は大きい。 力損失を低減し、INPEXや東大と協力して実験を行っている。新規触媒  今後の動向を把握し、研究開発や事業戦略にどう取り込むかを考え は���℃で従来触媒の���℃並みの活性を示し、���℃・�MPaでワン ることは重要ではないだろうか。 パス70%以上、200℃では85%以上のアンモニア平衡転嫁率に到達 する。  グリーン水素は通常、常温・常圧で生成するので、比較的マイルドな 条件でDSS運転に対応できることは大きな利点である。これは化石資 源を使わずに安価なグリーンアンモニア製造を可能にし、2050年以降 の主要燃料となる可能性を示している。  社会実装に向け、1ユニット1万㎡規模の光触媒システムを構想して おり、1km²規模なら100基を配置する計算である。商業化にはSTH効 率5%が最低条件であり、企業からも「5%あれば事業化可能」との声 を得ている。現在の課題は、この数値をいつ光触媒で達成できるかに ある。  我々の開発してきた光触媒の例を図に示してある。単段階型やZス キーム型の量子収率が示され、STH�%超には右上の特定領域の突 /
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太陽エネルギー0.02%で人類の需要を賄う ― 資源(既に使われてしまったものをも含む)の量は、地球に約10日間 実現への道筋 降り注ぐ太陽エネルギーが変換された量にしかならない。それを急速 に消費しているのが現状である。数字を比較すれば、太陽エネルギー  まず、太陽エネルギーについて説明する。通常は太陽エネルギー量 の0.02%を利用可能な形に変換できれば人類の需要を満たせる。 をkWhで表すことが多いが、化学の分野で分かりやすいという観点か らここではジュールで示す。地球表面に毎年降り注ぐ太陽エネルギー しかし実現には大規模展開可能な技術が必要だ。仮に2050年にエ は約3.0×10²⁴ジュール、人類が使用するエネルギーは約5.6×10²⁰ ネルギー需要の約3割を太陽エネルギーで供給するとし、変換効率を ジュールである。かつて太陽エネルギーは人類消費量の約1万倍とさ 10%として、25平方キロメートルの太陽エネルギー変換プラントを構 れたが、現在は消費増加で5000倍強となっている。自然界で最も太陽 築すると仮定する。現在最大級のギガソーラーと呼ばれるUAEの太 エネルギーを利用しているのは光合成であり、年間3.0×10²¹ジュール 陽電池施設でも8平方キロメートル程度であり、最近中国西部の地方 を化学エネルギーに変換している。これは毎年地球上に降り注ぐ太陽 に建設されつつある施設でもこの面積には届かない。このようないま エネルギーの0.1%が化学エネルギーに変換されることを意味する。 だに実現していない25平方キロメートルのプラントでも、2050年の 人類の一次エネルギー源の8割以上はいまだに化石資源である。化石 約3割の需要を満たすには1万基、つまり2025年から年間400基の建 設が求められるが、これは極めて困難な数字である。ただしいくつか の企業からは「利益が出るなら可能ではないか」との意見もある。一 方、科学的にはもう一つの課題がある。太陽エネルギーを単に別のエ ネルギーに変換するだけでなく、貯蔵・輸送可能なエネルギーにする 必要があるという点だ。電気エネルギーを連想するが、バッテリー蓄 電は経済効率が非常に悪く、また長距離輸送での損失も大きい。その ため現在最も有望と考えられているのは化学エネルギーへの変換で ある。 しかし、人工的に作れる化学物質は比較的簡単な分子に限られ、水 素、メタノール、メタンなどの炭化水素、アンモニアが代表例である。 アンモニアは燃料利用に疑問が持たれるかもしれないが、グリーンメ タンとアンモニアの合成時の水素消費量と適切な燃焼発熱量を考慮 するとメタンと同等のエネルギー物質と考えられる。こうした研究は 「人工光合成」と呼ばれ、世界中で進められている。その中でも特別 な位置にあるのが水素である。ここで対象とするのは、水を原料に二 酸化炭素を排出せず生成する水素である。水素さえ得られれば、メタ ノールやメタンは二酸化炭素と反応させて合成でき、アンモニアも空 気中の窒素と反応させる触媒が既にある。したがって、水素製造技術 こそが鍵を握る。 水素を安価に十分な量で供給できれば、メタノールや炭化水素、アン モニアの生成はグリーン水素製造と比較して技術的には難しくない。  我々は光触媒微粒子を二つの方式で利用している。一つは一種類 太陽エネルギーを利用して水から水素をつくる方法として一般的に思 の触媒で水素と酸素を同時に発生させる一段階方式。もう一つは水素 い浮かぶのは、太陽電池と電気分解装置の組み合わせである。一見単 発生用と酸素発生用の二種類をつなぐ二段階方式で、植物の光合成 純に思えるが、電気分解装置は精巧であり、バッテリーやコンバーター に似たZスキームと呼ばれる方式である。光触媒を実用化するには、大 といった補助機器も必要となる。技術自体は実用レベルにあるが、依 面積化したシートやパネルが不可欠だ。さらに生成するのは水素と酸 然としてコストが課題である。 素の混合気体に加え水蒸気も含むため、安全に分離し純粋な水素を 得るプロセスが必要になる。その水素は燃料利用に加え、二酸化炭素 や窒素と反応させてソーラー燃料(グリーン燃料)を合成することも可 能である。ここでは必ずしも光触媒だけでなく、熱触媒を応用する場合 もある。  ヨーロッパでは2025年に1kgあたり3ユーロ、日本でも2030年に30 円、2050年に20円/Nm³と目標を掲げている。しかし2023年、欧州の 水素燃料電池協会は政府等の補助を考慮しても実際のコストは目標 の2~3倍になると試算した。2024年にブルームバーグが報じた「Why almost nobody is buying green hydrogen」では、EUや米国で再エ  一段階の水分解光触媒としてまず取り組んだのは紫外光応答型だ。 ネ由来のグリーン水素は高コストのため事業が停滞している現状が示 SrTiO₃にRhCrOXを担持した触媒で、RhCrOXの添加量は約0.1wt%。こ された。日本も同様である。 れが水素生成の活性点となる。実験では波長300nm以上の光を照射 し、当初は活性が極めて低かったが、水素と酸素が2:1で生成している そこで注目されるのが光触媒方式である。なお、この方式はまだ研究 ことを確認した。その後アルミニウムをドープすることで見かけの量子 開発段階である。粉末を水に入れて光を当てると水素と酸素の気泡 収率(AQY)は365nmで50%以上に向上し、さらに酸素生成助触媒を が発生し、その水素を分離して取り出すという、極めてシンプルな仕組 加え光電着法を適用することで90%以上に達した。紫外領域での90% みだ。大面積化は比較的容易だが、高効率化が難しいという課題があ 以上のAQYは世界最高活性である。この粉末はSrCl₂をフラックスとし る。我々の研究の目的は、太陽光を用いて純粋な水を光触媒で水素と て混合・焼成して合成し、粒径は数百nm、Alのドープ量は約0.1at%で 酸素に分解し、直接水素を生成することにある。つまり、大量かつ低コ ある。そこに水素・酸素発生用の助触媒を付与することで高性能触媒 ストでグリーン水素を製造可能な光触媒システムを開発し、早期に社 が完成する。ロジウム酸化物は還元され金属ナノ粒子となり、表面をク 会実装することが直近の目標である。 ロム酸化物で被覆して逆反応を防ぐ。一方、酸素発生助触媒にはCoOX を用い、光酸化反応で活性化する。こうして得られた触媒は365nmで 光触媒による水分解の最前線 AQY��%を記録し、他の波長でも高い効率を示した。 紫外光応答型と可視光応答型の挑戦  光触媒にはいくつかのタイプがある。紫外線のみに応答する白色、 ���nm付近まで吸収する黄色、600~700nmの長波長光を吸収する 赤~茶色の粉末などだ。広い波長を利用するには多くの課題がある。 © Stockmark Inc. ム・クロム酸化物の微粒子が担持され、電子は水素生成、正孔は酸化 反応に寄与することが示唆された。 ソーラー水素社会に向けて ― 光触媒シートと水分解パネル、 安全性への挑戦  紫外光応答型と可視光応答型の光触媒を紹介してきたが、最終目 標はこれらを基盤とした大面積化による安価なグリーン水素の大量製 造である。そのためには粉末をシート化し、パネルとして展開する必要 がある。固定化することで「光触媒シート」となり、大規模な水分解パネ  この高 効 率の要 因を探るため電 子 顕 微 鏡で観 察すると、粒 径 ルの実現が可能になる。 ���nmの粒子には{100}面と{110}面があり、水素発生助触媒と酸素 発生助触媒がそれぞれ選択的に配置されていた。つまり電子と正孔 が異なる面に移動しやすい性質を持っていた。  最近の研究例として、Zスキーム型光触媒シートがある。湿式法 で調製した材料を用い、比較的簡単に作製できる。水素発生側は Sm₂TiO₅S₂にPtを担持しCrOxで被覆、IrO₂を微量添加した。酸素発生 側はBiVO₄にCrOxを担持し、両者をカーボンナノチューブで接続する。  シミュレーションでも仕事関数差0.2eVを仮定すると、電子は{100} 作り方は材料を水に分散し、攪拌後ろ過して堆積させるだけである。 面、正孔は{110}面に集まりやすい電場分布が得られ、実験結果を裏 シートは均一性に欠けるが、SEM像では触媒同士が接続されているこ 付けた。 とが確認できた。可視光照射で当初は140µmolの水素と70µmolの 酸素が得られ、改良後は400µmol程度まで向上した。異なる触媒を組  次に可視光応答型触媒である。代表例はGaN:ZnOで、原子レベル み合わせられる利点があり、Ta₃N₅(O�生成)やLTCA(H₂生成)などを利 で混合した構造を持つ。窒化ガリウムと酸化亜鉛を固溶させると黄色 用した高効率化の研究も進んでいる。 みを帯び、可視光吸収が可能となる。電子顕微鏡で粒径は数百µmと 確認された。  次に、一段階の水分解パネルである。RhCrOx/SrTiO₃:Al光触媒をナ ノシリカSiO�と混合し基板に塗布して乾燥させる。これを蒸留水だけ  この触媒に400nm以上の光を照射すると水が分解し、水素と酸素 (電解質無し)をビーカーに入れて、紫外光照射すると水素と酸素が2:1 が2:1で生成された。量子収率は410nmで約5%にとどまるが、単一 で発生した。STEM観察ではナノシリカの隙間に水が浸透し、気体は過 光触媒で水を分解した世界初の成果である。観察では表面にロジウ 飽和で生成、外部に出て初めて気泡となる。 安全性試験も不可欠である。混合気体は爆発性を持つため、意図的 な点火試験を行った。内径10mm・長さ100mのチューブに混合気体を 流し点火すると爆発は起きたが、チューブは損傷せず再利用可能だっ た。爆轟は約2800m/sで伝播したが、分離膜も損傷はなく繰り返し使 用できた。福島第一原発のような大規模爆発は大量気体を閉じ込め た場合に起きるが、1気圧程度でチューブ状に保持すれば安全に扱え ることが示された。重要なのは、安全を前提とした設計である。 STH効率5%を目指す 光触媒研究の社会実装構想  生成気体回収のため25cm角のパネルを作製し、0.1mmの水層でも  こうした実験を経て、信州大学ではさらに大規模なプロジェクトへと 十分効率よく反応が進行することを確認した。この技術を基盤に、東京 展開している。文科省「J-PEAKS」に採択され、新設の「アクアリジェネ 大学柿岡教育研究施設で25cm角シート1600枚、総面積100㎡のプロ レーション機構」が水・環境・エネルギー分野の課題解決に取り組んで トタイプのグリーン水素製造システムを設置した。2020年9月の実験で おり、我々はエネルギー分野を担当している。長野県飯田市の「エス・ は、毎分3.7Lの水素を含む混合気体を得た。混合気体はUBE社製のポ バード」施設に光触媒を敷設し、水素を製造する計画を進めている。 リイミド中空糸膜を用いて分離し、快晴時には1日で約1000~1800L を生成した。  敷地面積は約5500㎡で、約3000㎡を受光面とする予定である。こ れは実機規模(約1万㎡)に近く、社会実装に向けた実証段階に入って  水素純度は午前と夕方は95%以上を維持したが、正午付近は92~ いる。旧工業高校のグラウンドにリアクターを設置するが、25cm角リ 93%に低下した。当時の回収率は73%で、爆発領域を避けるには95% アクターを並べるだけでは不十分で、大型化が不可欠である。現在は 以上が必要だった。現在は改良により98%以上を安定して得られ、酸 �m×�mのパネルを試作しており、将来的には10m以上を目指してい 素除去で99.9%以上も可能である。回収率も92%に達しており、さら る。外装材はガラスから耐候性樹脂に変更し、内部の光触媒シートも なる改善を目指している。受光面積100㎡でのエネルギー変換効率は 基材をガラスからアルミ蒸着PETに変更し、role to role方式あるいは 紫外光のみで0.8%程度であった。 インクジェット方式で大面積光触媒シートの作成を計画している。  アルミPETはやや厚めのもので強度を確保し、保護膜を施すことで 光触媒による劣化を防いでいる。今後3000㎡規模に拡張するには、さ らなる塗布方法の検討が必要である。実験ではガラス基板よりも高い 耐候性や耐温度変化性が確認されているが、幅1mで約3000mの長さ が必要であり、分割や塗布技術の課題が残る。  次に、ソーラー水素からグリーン燃料への変換である。天候や昼夜で 水素生成は不安定で、大量高圧貯蔵は効率的でなく価格的にも適切 でない。そのため小規模に貯蔵した水素をDSS運転で化学物質に変換 し、貯蔵・輸送に適した化学物質に変換する方向を目指している。候補 はメチルシクロヘキサン、メタン、アンモニア等であり、200~300℃で 作動する熱触媒システムが必要となる。 破が必須である。現在は主としてTa系触媒が開発され、BSTONで理 論値17%、BaTaO₂Nでは20%近い性能が期待される。紫外光応答型 のSrTiO�では内部量子収率はほぼ100%に達しており、可視光応答 型の光触媒でも光触媒材料の合成法の改良と助触媒の適切な選択 で到達可能と考えている。  SrTiO�光触媒は40年かけて量子収率約0.1%から10%程度まで進 展し、その後1年程度でほぼ100%に到達した。これは光触媒そのもの の性質の改良に時間がかかったことを示している。現在、可視光応答 型光触媒そのものの課題の本質は明らかになりつつあり、性能向上は 加速すると期待している。我々も数年以内に目標領域へ到達すべく研 究を続けており、その可否は挑戦を通じて確かめるしかない。  我々はEUの「Horizon Prize Contest」に東京大学・INPEXと参加し、 まとめ 22の応募の中から選定された決勝3チームの中で優勝した。構築した システムは分離膜で水素を精製し、CO₂を用いてメタンを合成するもの  「ソーラー水素」は太陽光を利用して水を分解し、二酸化炭素を排 で、2022年にイタリアJRCで3日間のコンピュータ制御によるDSS運転 出せずに生成できる次世代エネルギーである。化石資源に依存せず、 で実証実験を行った。この経験から、大面積化は現実的であると確信し 持続可能な社会を実現するうえで重要な鍵を握っている。 ている。  特に光触媒を用いた水分解研究は急速に進展しており、商業化の  さらにアンモニア合成の研究も進んでいる。東工大の原教授が開発 目安とされるSTH効率5%の達成が現実味を帯びつつある。大面積 した鉄系触媒は、従来比で約2倍の活性を示し、低圧・低温で十分な性 化や耐久性、安全性といった課題も依然残るが、克服できればエネル 能を持つ。静岡大学福原教授は光触媒とリアクターの組み合わせで圧 ギー転換の柱となる可能性は大きい。 力損失を低減し、INPEXや東大と協力して実験を行っている。新規触媒  今後の動向を把握し、研究開発や事業戦略にどう取り込むかを考え は���℃で従来触媒の���℃並みの活性を示し、���℃・�MPaでワン ることは重要ではないだろうか。 パス70%以上、200℃では85%以上のアンモニア平衡転嫁率に到達 する。  グリーン水素は通常、常温・常圧で生成するので、比較的マイルドな 条件でDSS運転に対応できることは大きな利点である。これは化石資 源を使わずに安価なグリーンアンモニア製造を可能にし、2050年以降 の主要燃料となる可能性を示している。  社会実装に向け、1ユニット1万㎡規模の光触媒システムを構想して おり、1km²規模なら100基を配置する計算である。商業化にはSTH効 率5%が最低条件であり、企業からも「5%あれば事業化可能」との声 を得ている。現在の課題は、この数値をいつ光触媒で達成できるかに ある。  我々の開発してきた光触媒の例を図に示してある。単段階型やZス キーム型の量子収率が示され、STH�%超には右上の特定領域の突
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太陽エネルギー0.02%で人類の需要を賄う ― 資源(既に使われてしまったものをも含む)の量は、地球に約10日間 実現への道筋 降り注ぐ太陽エネルギーが変換された量にしかならない。それを急速 に消費しているのが現状である。数字を比較すれば、太陽エネルギー  まず、太陽エネルギーについて説明する。通常は太陽エネルギー量 の0.02%を利用可能な形に変換できれば人類の需要を満たせる。 をkWhで表すことが多いが、化学の分野で分かりやすいという観点か らここではジュールで示す。地球表面に毎年降り注ぐ太陽エネルギー しかし実現には大規模展開可能な技術が必要だ。仮に2050年にエ は約3.0×10²⁴ジュール、人類が使用するエネルギーは約5.6×10²⁰ ネルギー需要の約3割を太陽エネルギーで供給するとし、変換効率を ジュールである。かつて太陽エネルギーは人類消費量の約1万倍とさ 10%として、25平方キロメートルの太陽エネルギー変換プラントを構 れたが、現在は消費増加で5000倍強となっている。自然界で最も太陽 築すると仮定する。現在最大級のギガソーラーと呼ばれるUAEの太 エネルギーを利用しているのは光合成であり、年間3.0×10²¹ジュール 陽電池施設でも8平方キロメートル程度であり、最近中国西部の地方 を化学エネルギーに変換している。これは毎年地球上に降り注ぐ太陽 に建設されつつある施設でもこの面積には届かない。このようないま エネルギーの0.1%が化学エネルギーに変換されることを意味する。 だに実現していない25平方キロメートルのプラントでも、2050年の 人類の一次エネルギー源の8割以上はいまだに化石資源である。化石 約3割の需要を満たすには1万基、つまり2025年から年間400基の建 設が求められるが、これは極めて困難な数字である。ただしいくつか の企業からは「利益が出るなら可能ではないか」との意見もある。一 方、科学的にはもう一つの課題がある。太陽エネルギーを単に別のエ ネルギーに変換するだけでなく、貯蔵・輸送可能なエネルギーにする 必要があるという点だ。電気エネルギーを連想するが、バッテリー蓄 電は経済効率が非常に悪く、また長距離輸送での損失も大きい。その ため現在最も有望と考えられているのは化学エネルギーへの変換で ある。 しかし、人工的に作れる化学物質は比較的簡単な分子に限られ、水 素、メタノール、メタンなどの炭化水素、アンモニアが代表例である。 アンモニアは燃料利用に疑問が持たれるかもしれないが、グリーンメ タンとアンモニアの合成時の水素消費量と適切な燃焼発熱量を考慮 するとメタンと同等のエネルギー物質と考えられる。こうした研究は 「人工光合成」と呼ばれ、世界中で進められている。その中でも特別 な位置にあるのが水素である。ここで対象とするのは、水を原料に二 酸化炭素を排出せず生成する水素である。水素さえ得られれば、メタ ノールやメタンは二酸化炭素と反応させて合成でき、アンモニアも空 気中の窒素と反応させる触媒が既にある。したがって、水素製造技術 こそが鍵を握る。 水素を安価に十分な量で供給できれば、メタノールや炭化水素、アン モニアの生成はグリーン水素製造と比較して技術的には難しくない。  我々は光触媒微粒子を二つの方式で利用している。一つは一種類 太陽エネルギーを利用して水から水素をつくる方法として一般的に思 の触媒で水素と酸素を同時に発生させる一段階方式。もう一つは水素 い浮かぶのは、太陽電池と電気分解装置の組み合わせである。一見単 発生用と酸素発生用の二種類をつなぐ二段階方式で、植物の光合成 純に思えるが、電気分解装置は精巧であり、バッテリーやコンバーター に似たZスキームと呼ばれる方式である。光触媒を実用化するには、大 といった補助機器も必要となる。技術自体は実用レベルにあるが、依 面積化したシートやパネルが不可欠だ。さらに生成するのは水素と酸 然としてコストが課題である。 素の混合気体に加え水蒸気も含むため、安全に分離し純粋な水素を 得るプロセスが必要になる。その水素は燃料利用に加え、二酸化炭素 や窒素と反応させてソーラー燃料(グリーン燃料)を合成することも可 能である。ここでは必ずしも光触媒だけでなく、熱触媒を応用する場合 もある。  ヨーロッパでは2025年に1kgあたり3ユーロ、日本でも2030年に30 円、2050年に20円/Nm³と目標を掲げている。しかし2023年、欧州の 水素燃料電池協会は政府等の補助を考慮しても実際のコストは目標 の2~3倍になると試算した。2024年にブルームバーグが報じた「Why almost nobody is buying green hydrogen」では、EUや米国で再エ  一段階の水分解光触媒としてまず取り組んだのは紫外光応答型だ。 ネ由来のグリーン水素は高コストのため事業が停滞している現状が示 SrTiO₃にRhCrOXを担持した触媒で、RhCrOXの添加量は約0.1wt%。こ された。日本も同様である。 れが水素生成の活性点となる。実験では波長300nm以上の光を照射 し、当初は活性が極めて低かったが、水素と酸素が2:1で生成している そこで注目されるのが光触媒方式である。なお、この方式はまだ研究 ことを確認した。その後アルミニウムをドープすることで見かけの量子 開発段階である。粉末を水に入れて光を当てると水素と酸素の気泡 収率(AQY)は365nmで50%以上に向上し、さらに酸素生成助触媒を が発生し、その水素を分離して取り出すという、極めてシンプルな仕組 加え光電着法を適用することで90%以上に達した。紫外領域での90% みだ。大面積化は比較的容易だが、高効率化が難しいという課題があ 以上のAQYは世界最高活性である。この粉末はSrCl₂をフラックスとし る。我々の研究の目的は、太陽光を用いて純粋な水を光触媒で水素と て混合・焼成して合成し、粒径は数百nm、Alのドープ量は約0.1at%で 酸素に分解し、直接水素を生成することにある。つまり、大量かつ低コ ある。そこに水素・酸素発生用の助触媒を付与することで高性能触媒 ストでグリーン水素を製造可能な光触媒システムを開発し、早期に社 が完成する。ロジウム酸化物は還元され金属ナノ粒子となり、表面をク 会実装することが直近の目標である。 ロム酸化物で被覆して逆反応を防ぐ。一方、酸素発生助触媒にはCoOX を用い、光酸化反応で活性化する。こうして得られた触媒は365nmで 光触媒による水分解の最前線 AQY��%を記録し、他の波長でも高い効率を示した。 紫外光応答型と可視光応答型の挑戦  光触媒にはいくつかのタイプがある。紫外線のみに応答する白色、 ���nm付近まで吸収する黄色、600~700nmの長波長光を吸収する 赤~茶色の粉末などだ。広い波長を利用するには多くの課題がある。 ム・クロム酸化物の微粒子が担持され、電子は水素生成、正孔は酸化 反応に寄与することが示唆された。 ソーラー水素社会に向けて ― 光触媒シートと水分解パネル、 安全性への挑戦  紫外光応答型と可視光応答型の光触媒を紹介してきたが、最終目 標はこれらを基盤とした大面積化による安価なグリーン水素の大量製 造である。そのためには粉末をシート化し、パネルとして展開する必要 がある。固定化することで「光触媒シート」となり、大規模な水分解パネ  この高 効 率の要 因を探るため電 子 顕 微 鏡で観 察すると、粒 径 ルの実現が可能になる。 ���nmの粒子には{100}面と{110}面があり、水素発生助触媒と酸素 発生助触媒がそれぞれ選択的に配置されていた。つまり電子と正孔 が異なる面に移動しやすい性質を持っていた。  最近の研究例として、Zスキーム型光触媒シートがある。湿式法 で調製した材料を用い、比較的簡単に作製できる。水素発生側は Sm₂TiO₅S₂にPtを担持しCrOxで被覆、IrO₂を微量添加した。酸素発生 側はBiVO₄にCrOxを担持し、両者をカーボンナノチューブで接続する。  シミュレーションでも仕事関数差0.2eVを仮定すると、電子は{100} 作り方は材料を水に分散し、攪拌後ろ過して堆積させるだけである。 面、正孔は{110}面に集まりやすい電場分布が得られ、実験結果を裏 シートは均一性に欠けるが、SEM像では触媒同士が接続されているこ 付けた。 とが確認できた。可視光照射で当初は140µmolの水素と70µmolの 酸素が得られ、改良後は400µmol程度まで向上した。異なる触媒を組  次に可視光応答型触媒である。代表例はGaN:ZnOで、原子レベル み合わせられる利点があり、Ta₃N₅(O�生成)やLTCA(H₂生成)などを利 で混合した構造を持つ。窒化ガリウムと酸化亜鉛を固溶させると黄色 用した高効率化の研究も進んでいる。 みを帯び、可視光吸収が可能となる。電子顕微鏡で粒径は数百µmと 確認された。  次に、一段階の水分解パネルである。RhCrOx/SrTiO₃:Al光触媒をナ ノシリカSiO�と混合し基板に塗布して乾燥させる。これを蒸留水だけ  この触媒に400nm以上の光を照射すると水が分解し、水素と酸素 (電解質無し)をビーカーに入れて、紫外光照射すると水素と酸素が2:1 が2:1で生成された。量子収率は410nmで約5%にとどまるが、単一 で発生した。STEM観察ではナノシリカの隙間に水が浸透し、気体は過 光触媒で水を分解した世界初の成果である。観察では表面にロジウ 飽和で生成、外部に出て初めて気泡となる。 © Stockmark Inc. 安全性試験も不可欠である。混合気体は爆発性を持つため、意図的 な点火試験を行った。内径10mm・長さ100mのチューブに混合気体を 流し点火すると爆発は起きたが、チューブは損傷せず再利用可能だっ た。爆轟は約2800m/sで伝播したが、分離膜も損傷はなく繰り返し使 用できた。福島第一原発のような大規模爆発は大量気体を閉じ込め た場合に起きるが、1気圧程度でチューブ状に保持すれば安全に扱え ることが示された。重要なのは、安全を前提とした設計である。 STH効率5%を目指す 光触媒研究の社会実装構想  生成気体回収のため25cm角のパネルを作製し、0.1mmの水層でも  こうした実験を経て、信州大学ではさらに大規模なプロジェクトへと 十分効率よく反応が進行することを確認した。この技術を基盤に、東京 展開している。文科省「J-PEAKS」に採択され、新設の「アクアリジェネ 大学柿岡教育研究施設で25cm角シート1600枚、総面積100㎡のプロ レーション機構」が水・環境・エネルギー分野の課題解決に取り組んで トタイプのグリーン水素製造システムを設置した。2020年9月の実験で おり、我々はエネルギー分野を担当している。長野県飯田市の「エス・ は、毎分3.7Lの水素を含む混合気体を得た。混合気体はUBE社製のポ バード」施設に光触媒を敷設し、水素を製造する計画を進めている。 リイミド中空糸膜を用いて分離し、快晴時には1日で約1000~1800L を生成した。  敷地面積は約5500㎡で、約3000㎡を受光面とする予定である。こ れは実機規模(約1万㎡)に近く、社会実装に向けた実証段階に入って  水素純度は午前と夕方は95%以上を維持したが、正午付近は92~ いる。旧工業高校のグラウンドにリアクターを設置するが、25cm角リ 93%に低下した。当時の回収率は73%で、爆発領域を避けるには95% アクターを並べるだけでは不十分で、大型化が不可欠である。現在は 以上が必要だった。現在は改良により98%以上を安定して得られ、酸 �m×�mのパネルを試作しており、将来的には10m以上を目指してい 素除去で99.9%以上も可能である。回収率も92%に達しており、さら る。外装材はガラスから耐候性樹脂に変更し、内部の光触媒シートも なる改善を目指している。受光面積100㎡でのエネルギー変換効率は 基材をガラスからアルミ蒸着PETに変更し、role to role方式あるいは 紫外光のみで0.8%程度であった。 インクジェット方式で大面積光触媒シートの作成を計画している。  アルミPETはやや厚めのもので強度を確保し、保護膜を施すことで 光触媒による劣化を防いでいる。今後3000㎡規模に拡張するには、さ らなる塗布方法の検討が必要である。実験ではガラス基板よりも高い 耐候性や耐温度変化性が確認されているが、幅1mで約3000mの長さ が必要であり、分割や塗布技術の課題が残る。  次に、ソーラー水素からグリーン燃料への変換である。天候や昼夜で 水素生成は不安定で、大量高圧貯蔵は効率的でなく価格的にも適切 でない。そのため小規模に貯蔵した水素をDSS運転で化学物質に変換 し、貯蔵・輸送に適した化学物質に変換する方向を目指している。候補 はメチルシクロヘキサン、メタン、アンモニア等であり、200~300℃で 作動する熱触媒システムが必要となる。 破が必須である。現在は主としてTa系触媒が開発され、BSTONで理 論値17%、BaTaO₂Nでは20%近い性能が期待される。紫外光応答型 のSrTiO�では内部量子収率はほぼ100%に達しており、可視光応答 型の光触媒でも光触媒材料の合成法の改良と助触媒の適切な選択 で到達可能と考えている。  SrTiO�光触媒は40年かけて量子収率約0.1%から10%程度まで進 展し、その後1年程度でほぼ100%に到達した。これは光触媒そのもの の性質の改良に時間がかかったことを示している。現在、可視光応答 型光触媒そのものの課題の本質は明らかになりつつあり、性能向上は 加速すると期待している。我々も数年以内に目標領域へ到達すべく研 究を続けており、その可否は挑戦を通じて確かめるしかない。  我々はEUの「Horizon Prize Contest」に東京大学・INPEXと参加し、 まとめ 22の応募の中から選定された決勝3チームの中で優勝した。構築した システムは分離膜で水素を精製し、CO₂を用いてメタンを合成するもの  「ソーラー水素」は太陽光を利用して水を分解し、二酸化炭素を排 で、2022年にイタリアJRCで3日間のコンピュータ制御によるDSS運転 出せずに生成できる次世代エネルギーである。化石資源に依存せず、 で実証実験を行った。この経験から、大面積化は現実的であると確信し 持続可能な社会を実現するうえで重要な鍵を握っている。 ている。  特に光触媒を用いた水分解研究は急速に進展しており、商業化の  さらにアンモニア合成の研究も進んでいる。東工大の原教授が開発 目安とされるSTH効率5%の達成が現実味を帯びつつある。大面積 した鉄系触媒は、従来比で約2倍の活性を示し、低圧・低温で十分な性 化や耐久性、安全性といった課題も依然残るが、克服できればエネル 能を持つ。静岡大学福原教授は光触媒とリアクターの組み合わせで圧 ギー転換の柱となる可能性は大きい。 力損失を低減し、INPEXや東大と協力して実験を行っている。新規触媒  今後の動向を把握し、研究開発や事業戦略にどう取り込むかを考え は���℃で従来触媒の���℃並みの活性を示し、���℃・�MPaでワン ることは重要ではないだろうか。 パス70%以上、200℃では85%以上のアンモニア平衡転嫁率に到達 する。  グリーン水素は通常、常温・常圧で生成するので、比較的マイルドな 条件でDSS運転に対応できることは大きな利点である。これは化石資 源を使わずに安価なグリーンアンモニア製造を可能にし、2050年以降 の主要燃料となる可能性を示している。  社会実装に向け、1ユニット1万㎡規模の光触媒システムを構想して おり、1km²規模なら100基を配置する計算である。商業化にはSTH効 率5%が最低条件であり、企業からも「5%あれば事業化可能」との声 を得ている。現在の課題は、この数値をいつ光触媒で達成できるかに ある。  我々の開発してきた光触媒の例を図に示してある。単段階型やZス キーム型の量子収率が示され、STH�%超には右上の特定領域の突
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太陽エネルギー0.02%で人類の需要を賄う ― 資源(既に使われてしまったものをも含む)の量は、地球に約10日間 実現への道筋 降り注ぐ太陽エネルギーが変換された量にしかならない。それを急速 に消費しているのが現状である。数字を比較すれば、太陽エネルギー  まず、太陽エネルギーについて説明する。通常は太陽エネルギー量 の0.02%を利用可能な形に変換できれば人類の需要を満たせる。 をkWhで表すことが多いが、化学の分野で分かりやすいという観点か らここではジュールで示す。地球表面に毎年降り注ぐ太陽エネルギー しかし実現には大規模展開可能な技術が必要だ。仮に2050年にエ は約3.0×10²⁴ジュール、人類が使用するエネルギーは約5.6×10²⁰ ネルギー需要の約3割を太陽エネルギーで供給するとし、変換効率を ジュールである。かつて太陽エネルギーは人類消費量の約1万倍とさ 10%として、25平方キロメートルの太陽エネルギー変換プラントを構 れたが、現在は消費増加で5000倍強となっている。自然界で最も太陽 築すると仮定する。現在最大級のギガソーラーと呼ばれるUAEの太 エネルギーを利用しているのは光合成であり、年間3.0×10²¹ジュール 陽電池施設でも8平方キロメートル程度であり、最近中国西部の地方 を化学エネルギーに変換している。これは毎年地球上に降り注ぐ太陽 に建設されつつある施設でもこの面積には届かない。このようないま エネルギーの0.1%が化学エネルギーに変換されることを意味する。 だに実現していない25平方キロメートルのプラントでも、2050年の 人類の一次エネルギー源の8割以上はいまだに化石資源である。化石 約3割の需要を満たすには1万基、つまり2025年から年間400基の建 設が求められるが、これは極めて困難な数字である。ただしいくつか の企業からは「利益が出るなら可能ではないか」との意見もある。一 方、科学的にはもう一つの課題がある。太陽エネルギーを単に別のエ ネルギーに変換するだけでなく、貯蔵・輸送可能なエネルギーにする 必要があるという点だ。電気エネルギーを連想するが、バッテリー蓄 電は経済効率が非常に悪く、また長距離輸送での損失も大きい。その ため現在最も有望と考えられているのは化学エネルギーへの変換で ある。 しかし、人工的に作れる化学物質は比較的簡単な分子に限られ、水 素、メタノール、メタンなどの炭化水素、アンモニアが代表例である。 アンモニアは燃料利用に疑問が持たれるかもしれないが、グリーンメ タンとアンモニアの合成時の水素消費量と適切な燃焼発熱量を考慮 するとメタンと同等のエネルギー物質と考えられる。こうした研究は 「人工光合成」と呼ばれ、世界中で進められている。その中でも特別 な位置にあるのが水素である。ここで対象とするのは、水を原料に二 酸化炭素を排出せず生成する水素である。水素さえ得られれば、メタ ノールやメタンは二酸化炭素と反応させて合成でき、アンモニアも空 気中の窒素と反応させる触媒が既にある。したがって、水素製造技術 こそが鍵を握る。 水素を安価に十分な量で供給できれば、メタノールや炭化水素、アン モニアの生成はグリーン水素製造と比較して技術的には難しくない。  我々は光触媒微粒子を二つの方式で利用している。一つは一種類 太陽エネルギーを利用して水から水素をつくる方法として一般的に思 の触媒で水素と酸素を同時に発生させる一段階方式。もう一つは水素 い浮かぶのは、太陽電池と電気分解装置の組み合わせである。一見単 発生用と酸素発生用の二種類をつなぐ二段階方式で、植物の光合成 純に思えるが、電気分解装置は精巧であり、バッテリーやコンバーター に似たZスキームと呼ばれる方式である。光触媒を実用化するには、大 といった補助機器も必要となる。技術自体は実用レベルにあるが、依 面積化したシートやパネルが不可欠だ。さらに生成するのは水素と酸 然としてコストが課題である。 素の混合気体に加え水蒸気も含むため、安全に分離し純粋な水素を 得るプロセスが必要になる。その水素は燃料利用に加え、二酸化炭素 や窒素と反応させてソーラー燃料(グリーン燃料)を合成することも可 能である。ここでは必ずしも光触媒だけでなく、熱触媒を応用する場合 もある。  ヨーロッパでは2025年に1kgあたり3ユーロ、日本でも2030年に30 円、2050年に20円/Nm³と目標を掲げている。しかし2023年、欧州の 水素燃料電池協会は政府等の補助を考慮しても実際のコストは目標 の2~3倍になると試算した。2024年にブルームバーグが報じた「Why almost nobody is buying green hydrogen」では、EUや米国で再エ  一段階の水分解光触媒としてまず取り組んだのは紫外光応答型だ。 ネ由来のグリーン水素は高コストのため事業が停滞している現状が示 SrTiO₃にRhCrOXを担持した触媒で、RhCrOXの添加量は約0.1wt%。こ された。日本も同様である。 れが水素生成の活性点となる。実験では波長300nm以上の光を照射 し、当初は活性が極めて低かったが、水素と酸素が2:1で生成している そこで注目されるのが光触媒方式である。なお、この方式はまだ研究 ことを確認した。その後アルミニウムをドープすることで見かけの量子 開発段階である。粉末を水に入れて光を当てると水素と酸素の気泡 収率(AQY)は365nmで50%以上に向上し、さらに酸素生成助触媒を が発生し、その水素を分離して取り出すという、極めてシンプルな仕組 加え光電着法を適用することで90%以上に達した。紫外領域での90% みだ。大面積化は比較的容易だが、高効率化が難しいという課題があ 以上のAQYは世界最高活性である。この粉末はSrCl₂をフラックスとし る。我々の研究の目的は、太陽光を用いて純粋な水を光触媒で水素と て混合・焼成して合成し、粒径は数百nm、Alのドープ量は約0.1at%で 酸素に分解し、直接水素を生成することにある。つまり、大量かつ低コ ある。そこに水素・酸素発生用の助触媒を付与することで高性能触媒 ストでグリーン水素を製造可能な光触媒システムを開発し、早期に社 が完成する。ロジウム酸化物は還元され金属ナノ粒子となり、表面をク 会実装することが直近の目標である。 ロム酸化物で被覆して逆反応を防ぐ。一方、酸素発生助触媒にはCoOX を用い、光酸化反応で活性化する。こうして得られた触媒は365nmで 光触媒による水分解の最前線 AQY��%を記録し、他の波長でも高い効率を示した。 紫外光応答型と可視光応答型の挑戦  光触媒にはいくつかのタイプがある。紫外線のみに応答する白色、 ���nm付近まで吸収する黄色、600~700nmの長波長光を吸収する 赤~茶色の粉末などだ。広い波長を利用するには多くの課題がある。 ム・クロム酸化物の微粒子が担持され、電子は水素生成、正孔は酸化 反応に寄与することが示唆された。 ソーラー水素社会に向けて ― 光触媒シートと水分解パネル、 安全性への挑戦  紫外光応答型と可視光応答型の光触媒を紹介してきたが、最終目 標はこれらを基盤とした大面積化による安価なグリーン水素の大量製 造である。そのためには粉末をシート化し、パネルとして展開する必要 がある。固定化することで「光触媒シート」となり、大規模な水分解パネ  この高 効 率の要 因を探るため電 子 顕 微 鏡で観 察すると、粒 径 ルの実現が可能になる。 ���nmの粒子には{100}面と{110}面があり、水素発生助触媒と酸素 発生助触媒がそれぞれ選択的に配置されていた。つまり電子と正孔 が異なる面に移動しやすい性質を持っていた。  最近の研究例として、Zスキーム型光触媒シートがある。湿式法 で調製した材料を用い、比較的簡単に作製できる。水素発生側は Sm₂TiO₅S₂にPtを担持しCrOxで被覆、IrO₂を微量添加した。酸素発生 側はBiVO₄にCrOxを担持し、両者をカーボンナノチューブで接続する。  シミュレーションでも仕事関数差0.2eVを仮定すると、電子は{100} 作り方は材料を水に分散し、攪拌後ろ過して堆積させるだけである。 面、正孔は{110}面に集まりやすい電場分布が得られ、実験結果を裏 シートは均一性に欠けるが、SEM像では触媒同士が接続されているこ 付けた。 とが確認できた。可視光照射で当初は140µmolの水素と70µmolの 酸素が得られ、改良後は400µmol程度まで向上した。異なる触媒を組  次に可視光応答型触媒である。代表例はGaN:ZnOで、原子レベル み合わせられる利点があり、Ta₃N₅(O�生成)やLTCA(H₂生成)などを利 で混合した構造を持つ。窒化ガリウムと酸化亜鉛を固溶させると黄色 用した高効率化の研究も進んでいる。 みを帯び、可視光吸収が可能となる。電子顕微鏡で粒径は数百µmと 確認された。  次に、一段階の水分解パネルである。RhCrOx/SrTiO₃:Al光触媒をナ ノシリカSiO�と混合し基板に塗布して乾燥させる。これを蒸留水だけ  この触媒に400nm以上の光を照射すると水が分解し、水素と酸素 (電解質無し)をビーカーに入れて、紫外光照射すると水素と酸素が2:1 が2:1で生成された。量子収率は410nmで約5%にとどまるが、単一 で発生した。STEM観察ではナノシリカの隙間に水が浸透し、気体は過 光触媒で水を分解した世界初の成果である。観察では表面にロジウ 飽和で生成、外部に出て初めて気泡となる。 安全性試験も不可欠である。混合気体は爆発性を持つため、意図的 な点火試験を行った。内径10mm・長さ100mのチューブに混合気体を 流し点火すると爆発は起きたが、チューブは損傷せず再利用可能だっ た。爆轟は約2800m/sで伝播したが、分離膜も損傷はなく繰り返し使 用できた。福島第一原発のような大規模爆発は大量気体を閉じ込め た場合に起きるが、1気圧程度でチューブ状に保持すれば安全に扱え ることが示された。重要なのは、安全を前提とした設計である。 STH効率5%を目指す 光触媒研究の社会実装構想  生成気体回収のため25cm角のパネルを作製し、0.1mmの水層でも  こうした実験を経て、信州大学ではさらに大規模なプロジェクトへと 十分効率よく反応が進行することを確認した。この技術を基盤に、東京 展開している。文科省「J-PEAKS」に採択され、新設の「アクアリジェネ 大学柿岡教育研究施設で25cm角シート1600枚、総面積100㎡のプロ レーション機構」が水・環境・エネルギー分野の課題解決に取り組んで トタイプのグリーン水素製造システムを設置した。2020年9月の実験で おり、我々はエネルギー分野を担当している。長野県飯田市の「エス・ は、毎分3.7Lの水素を含む混合気体を得た。混合気体はUBE社製のポ バード」施設に光触媒を敷設し、水素を製造する計画を進めている。 リイミド中空糸膜を用いて分離し、快晴時には1日で約1000~1800L を生成した。  敷地面積は約5500㎡で、約3000㎡を受光面とする予定である。こ れは実機規模(約1万㎡)に近く、社会実装に向けた実証段階に入って  水素純度は午前と夕方は95%以上を維持したが、正午付近は92~ いる。旧工業高校のグラウンドにリアクターを設置するが、25cm角リ 93%に低下した。当時の回収率は73%で、爆発領域を避けるには95% アクターを並べるだけでは不十分で、大型化が不可欠である。現在は 以上が必要だった。現在は改良により98%以上を安定して得られ、酸 �m×�mのパネルを試作しており、将来的には10m以上を目指してい 素除去で99.9%以上も可能である。回収率も92%に達しており、さら る。外装材はガラスから耐候性樹脂に変更し、内部の光触媒シートも なる改善を目指している。受光面積100㎡でのエネルギー変換効率は 基材をガラスからアルミ蒸着PETに変更し、role to role方式あるいは 紫外光のみで0.8%程度であった。 インクジェット方式で大面積光触媒シートの作成を計画している。  アルミPETはやや厚めのもので強度を確保し、保護膜を施すことで 光触媒による劣化を防いでいる。今後3000㎡規模に拡張するには、さ らなる塗布方法の検討が必要である。実験ではガラス基板よりも高い 耐候性や耐温度変化性が確認されているが、幅1mで約3000mの長さ が必要であり、分割や塗布技術の課題が残る。  次に、ソーラー水素からグリーン燃料への変換である。天候や昼夜で 水素生成は不安定で、大量高圧貯蔵は効率的でなく価格的にも適切 でない。そのため小規模に貯蔵した水素をDSS運転で化学物質に変換 し、貯蔵・輸送に適した化学物質に変換する方向を目指している。候補 はメチルシクロヘキサン、メタン、アンモニア等であり、200~300℃で 作動する熱触媒システムが必要となる。 © Stockmark Inc. 破が必須である。現在は主としてTa系触媒が開発され、BSTONで理 論値17%、BaTaO₂Nでは20%近い性能が期待される。紫外光応答型 のSrTiO�では内部量子収率はほぼ100%に達しており、可視光応答 型の光触媒でも光触媒材料の合成法の改良と助触媒の適切な選択 で到達可能と考えている。  SrTiO�光触媒は40年かけて量子収率約0.1%から10%程度まで進 展し、その後1年程度でほぼ100%に到達した。これは光触媒そのもの の性質の改良に時間がかかったことを示している。現在、可視光応答 型光触媒そのものの課題の本質は明らかになりつつあり、性能向上は 加速すると期待している。我々も数年以内に目標領域へ到達すべく研 究を続けており、その可否は挑戦を通じて確かめるしかない。  我々はEUの「Horizon Prize Contest」に東京大学・INPEXと参加し、 まとめ 22の応募の中から選定された決勝3チームの中で優勝した。構築した システムは分離膜で水素を精製し、CO₂を用いてメタンを合成するもの  「ソーラー水素」は太陽光を利用して水を分解し、二酸化炭素を排 で、2022年にイタリアJRCで3日間のコンピュータ制御によるDSS運転 出せずに生成できる次世代エネルギーである。化石資源に依存せず、 で実証実験を行った。この経験から、大面積化は現実的であると確信し 持続可能な社会を実現するうえで重要な鍵を握っている。 ている。  特に光触媒を用いた水分解研究は急速に進展しており、商業化の  さらにアンモニア合成の研究も進んでいる。東工大の原教授が開発 目安とされるSTH効率5%の達成が現実味を帯びつつある。大面積 した鉄系触媒は、従来比で約2倍の活性を示し、低圧・低温で十分な性 化や耐久性、安全性といった課題も依然残るが、克服できればエネル 能を持つ。静岡大学福原教授は光触媒とリアクターの組み合わせで圧 ギー転換の柱となる可能性は大きい。 力損失を低減し、INPEXや東大と協力して実験を行っている。新規触媒  今後の動向を把握し、研究開発や事業戦略にどう取り込むかを考え は���℃で従来触媒の���℃並みの活性を示し、���℃・�MPaでワン ることは重要ではないだろうか。 パス70%以上、200℃では85%以上のアンモニア平衡転嫁率に到達 する。  グリーン水素は通常、常温・常圧で生成するので、比較的マイルドな 条件でDSS運転に対応できることは大きな利点である。これは化石資 源を使わずに安価なグリーンアンモニア製造を可能にし、2050年以降 の主要燃料となる可能性を示している。  社会実装に向け、1ユニット1万㎡規模の光触媒システムを構想して おり、1km²規模なら100基を配置する計算である。商業化にはSTH効 率5%が最低条件であり、企業からも「5%あれば事業化可能」との声 を得ている。現在の課題は、この数値をいつ光触媒で達成できるかに ある。  我々の開発してきた光触媒の例を図に示してある。単段階型やZス キーム型の量子収率が示され、STH�%超には右上の特定領域の突
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太陽エネルギー0.02%で人類の需要を賄う ― 資源(既に使われてしまったものをも含む)の量は、地球に約10日間 実現への道筋 降り注ぐ太陽エネルギーが変換された量にしかならない。それを急速 に消費しているのが現状である。数字を比較すれば、太陽エネルギー  まず、太陽エネルギーについて説明する。通常は太陽エネルギー量 の0.02%を利用可能な形に変換できれば人類の需要を満たせる。 をkWhで表すことが多いが、化学の分野で分かりやすいという観点か らここではジュールで示す。地球表面に毎年降り注ぐ太陽エネルギー しかし実現には大規模展開可能な技術が必要だ。仮に2050年にエ は約3.0×10²⁴ジュール、人類が使用するエネルギーは約5.6×10²⁰ ネルギー需要の約3割を太陽エネルギーで供給するとし、変換効率を ジュールである。かつて太陽エネルギーは人類消費量の約1万倍とさ 10%として、25平方キロメートルの太陽エネルギー変換プラントを構 れたが、現在は消費増加で5000倍強となっている。自然界で最も太陽 築すると仮定する。現在最大級のギガソーラーと呼ばれるUAEの太 エネルギーを利用しているのは光合成であり、年間3.0×10²¹ジュール 陽電池施設でも8平方キロメートル程度であり、最近中国西部の地方 を化学エネルギーに変換している。これは毎年地球上に降り注ぐ太陽 に建設されつつある施設でもこの面積には届かない。このようないま エネルギーの0.1%が化学エネルギーに変換されることを意味する。 だに実現していない25平方キロメートルのプラントでも、2050年の 人類の一次エネルギー源の8割以上はいまだに化石資源である。化石 約3割の需要を満たすには1万基、つまり2025年から年間400基の建 設が求められるが、これは極めて困難な数字である。ただしいくつか の企業からは「利益が出るなら可能ではないか」との意見もある。一 方、科学的にはもう一つの課題がある。太陽エネルギーを単に別のエ ネルギーに変換するだけでなく、貯蔵・輸送可能なエネルギーにする 必要があるという点だ。電気エネルギーを連想するが、バッテリー蓄 電は経済効率が非常に悪く、また長距離輸送での損失も大きい。その ため現在最も有望と考えられているのは化学エネルギーへの変換で ある。 しかし、人工的に作れる化学物質は比較的簡単な分子に限られ、水 素、メタノール、メタンなどの炭化水素、アンモニアが代表例である。 アンモニアは燃料利用に疑問が持たれるかもしれないが、グリーンメ タンとアンモニアの合成時の水素消費量と適切な燃焼発熱量を考慮 するとメタンと同等のエネルギー物質と考えられる。こうした研究は 「人工光合成」と呼ばれ、世界中で進められている。その中でも特別 な位置にあるのが水素である。ここで対象とするのは、水を原料に二 酸化炭素を排出せず生成する水素である。水素さえ得られれば、メタ ノールやメタンは二酸化炭素と反応させて合成でき、アンモニアも空 気中の窒素と反応させる触媒が既にある。したがって、水素製造技術 こそが鍵を握る。 水素を安価に十分な量で供給できれば、メタノールや炭化水素、アン モニアの生成はグリーン水素製造と比較して技術的には難しくない。  我々は光触媒微粒子を二つの方式で利用している。一つは一種類 太陽エネルギーを利用して水から水素をつくる方法として一般的に思 の触媒で水素と酸素を同時に発生させる一段階方式。もう一つは水素 い浮かぶのは、太陽電池と電気分解装置の組み合わせである。一見単 発生用と酸素発生用の二種類をつなぐ二段階方式で、植物の光合成 純に思えるが、電気分解装置は精巧であり、バッテリーやコンバーター に似たZスキームと呼ばれる方式である。光触媒を実用化するには、大 といった補助機器も必要となる。技術自体は実用レベルにあるが、依 面積化したシートやパネルが不可欠だ。さらに生成するのは水素と酸 然としてコストが課題である。 素の混合気体に加え水蒸気も含むため、安全に分離し純粋な水素を 得るプロセスが必要になる。その水素は燃料利用に加え、二酸化炭素 や窒素と反応させてソーラー燃料(グリーン燃料)を合成することも可 能である。ここでは必ずしも光触媒だけでなく、熱触媒を応用する場合 もある。  ヨーロッパでは2025年に1kgあたり3ユーロ、日本でも2030年に30 円、2050年に20円/Nm³と目標を掲げている。しかし2023年、欧州の 水素燃料電池協会は政府等の補助を考慮しても実際のコストは目標 の2~3倍になると試算した。2024年にブルームバーグが報じた「Why almost nobody is buying green hydrogen」では、EUや米国で再エ  一段階の水分解光触媒としてまず取り組んだのは紫外光応答型だ。 ネ由来のグリーン水素は高コストのため事業が停滞している現状が示 SrTiO₃にRhCrOXを担持した触媒で、RhCrOXの添加量は約0.1wt%。こ された。日本も同様である。 れが水素生成の活性点となる。実験では波長300nm以上の光を照射 し、当初は活性が極めて低かったが、水素と酸素が2:1で生成している そこで注目されるのが光触媒方式である。なお、この方式はまだ研究 ことを確認した。その後アルミニウムをドープすることで見かけの量子 開発段階である。粉末を水に入れて光を当てると水素と酸素の気泡 収率(AQY)は365nmで50%以上に向上し、さらに酸素生成助触媒を が発生し、その水素を分離して取り出すという、極めてシンプルな仕組 加え光電着法を適用することで90%以上に達した。紫外領域での90% みだ。大面積化は比較的容易だが、高効率化が難しいという課題があ 以上のAQYは世界最高活性である。この粉末はSrCl₂をフラックスとし る。我々の研究の目的は、太陽光を用いて純粋な水を光触媒で水素と て混合・焼成して合成し、粒径は数百nm、Alのドープ量は約0.1at%で 酸素に分解し、直接水素を生成することにある。つまり、大量かつ低コ ある。そこに水素・酸素発生用の助触媒を付与することで高性能触媒 ストでグリーン水素を製造可能な光触媒システムを開発し、早期に社 が完成する。ロジウム酸化物は還元され金属ナノ粒子となり、表面をク 会実装することが直近の目標である。 ロム酸化物で被覆して逆反応を防ぐ。一方、酸素発生助触媒にはCoOX を用い、光酸化反応で活性化する。こうして得られた触媒は365nmで 光触媒による水分解の最前線 AQY��%を記録し、他の波長でも高い効率を示した。 紫外光応答型と可視光応答型の挑戦  光触媒にはいくつかのタイプがある。紫外線のみに応答する白色、 ���nm付近まで吸収する黄色、600~700nmの長波長光を吸収する 赤~茶色の粉末などだ。広い波長を利用するには多くの課題がある。 ム・クロム酸化物の微粒子が担持され、電子は水素生成、正孔は酸化 反応に寄与することが示唆された。 ソーラー水素社会に向けて ― 光触媒シートと水分解パネル、 安全性への挑戦  紫外光応答型と可視光応答型の光触媒を紹介してきたが、最終目 標はこれらを基盤とした大面積化による安価なグリーン水素の大量製 造である。そのためには粉末をシート化し、パネルとして展開する必要 がある。固定化することで「光触媒シート」となり、大規模な水分解パネ  この高 効 率の要 因を探るため電 子 顕 微 鏡で観 察すると、粒 径 ルの実現が可能になる。 ���nmの粒子には{100}面と{110}面があり、水素発生助触媒と酸素 発生助触媒がそれぞれ選択的に配置されていた。つまり電子と正孔 が異なる面に移動しやすい性質を持っていた。  最近の研究例として、Zスキーム型光触媒シートがある。湿式法 で調製した材料を用い、比較的簡単に作製できる。水素発生側は Sm₂TiO₅S₂にPtを担持しCrOxで被覆、IrO₂を微量添加した。酸素発生 側はBiVO₄にCrOxを担持し、両者をカーボンナノチューブで接続する。  シミュレーションでも仕事関数差0.2eVを仮定すると、電子は{100} 作り方は材料を水に分散し、攪拌後ろ過して堆積させるだけである。 面、正孔は{110}面に集まりやすい電場分布が得られ、実験結果を裏 シートは均一性に欠けるが、SEM像では触媒同士が接続されているこ 付けた。 とが確認できた。可視光照射で当初は140µmolの水素と70µmolの 酸素が得られ、改良後は400µmol程度まで向上した。異なる触媒を組  次に可視光応答型触媒である。代表例はGaN:ZnOで、原子レベル み合わせられる利点があり、Ta₃N₅(O�生成)やLTCA(H₂生成)などを利 で混合した構造を持つ。窒化ガリウムと酸化亜鉛を固溶させると黄色 用した高効率化の研究も進んでいる。 みを帯び、可視光吸収が可能となる。電子顕微鏡で粒径は数百µmと 確認された。  次に、一段階の水分解パネルである。RhCrOx/SrTiO₃:Al光触媒をナ ノシリカSiO�と混合し基板に塗布して乾燥させる。これを蒸留水だけ  この触媒に400nm以上の光を照射すると水が分解し、水素と酸素 (電解質無し)をビーカーに入れて、紫外光照射すると水素と酸素が2:1 が2:1で生成された。量子収率は410nmで約5%にとどまるが、単一 で発生した。STEM観察ではナノシリカの隙間に水が浸透し、気体は過 光触媒で水を分解した世界初の成果である。観察では表面にロジウ 飽和で生成、外部に出て初めて気泡となる。 安全性試験も不可欠である。混合気体は爆発性を持つため、意図的 な点火試験を行った。内径10mm・長さ100mのチューブに混合気体を 流し点火すると爆発は起きたが、チューブは損傷せず再利用可能だっ た。爆轟は約2800m/sで伝播したが、分離膜も損傷はなく繰り返し使 用できた。福島第一原発のような大規模爆発は大量気体を閉じ込め た場合に起きるが、1気圧程度でチューブ状に保持すれば安全に扱え ることが示された。重要なのは、安全を前提とした設計である。 STH効率5%を目指す 光触媒研究の社会実装構想  生成気体回収のため25cm角のパネルを作製し、0.1mmの水層でも  こうした実験を経て、信州大学ではさらに大規模なプロジェクトへと 十分効率よく反応が進行することを確認した。この技術を基盤に、東京 展開している。文科省「J-PEAKS」に採択され、新設の「アクアリジェネ 大学柿岡教育研究施設で25cm角シート1600枚、総面積100㎡のプロ レーション機構」が水・環境・エネルギー分野の課題解決に取り組んで トタイプのグリーン水素製造システムを設置した。2020年9月の実験で おり、我々はエネルギー分野を担当している。長野県飯田市の「エス・ は、毎分3.7Lの水素を含む混合気体を得た。混合気体はUBE社製のポ バード」施設に光触媒を敷設し、水素を製造する計画を進めている。 リイミド中空糸膜を用いて分離し、快晴時には1日で約1000~1800L を生成した。  敷地面積は約5500㎡で、約3000㎡を受光面とする予定である。こ れは実機規模(約1万㎡)に近く、社会実装に向けた実証段階に入って  水素純度は午前と夕方は95%以上を維持したが、正午付近は92~ いる。旧工業高校のグラウンドにリアクターを設置するが、25cm角リ 93%に低下した。当時の回収率は73%で、爆発領域を避けるには95% アクターを並べるだけでは不十分で、大型化が不可欠である。現在は 以上が必要だった。現在は改良により98%以上を安定して得られ、酸 �m×�mのパネルを試作しており、将来的には10m以上を目指してい 素除去で99.9%以上も可能である。回収率も92%に達しており、さら る。外装材はガラスから耐候性樹脂に変更し、内部の光触媒シートも なる改善を目指している。受光面積100㎡でのエネルギー変換効率は 基材をガラスからアルミ蒸着PETに変更し、role to role方式あるいは 紫外光のみで0.8%程度であった。 インクジェット方式で大面積光触媒シートの作成を計画している。  アルミPETはやや厚めのもので強度を確保し、保護膜を施すことで 光触媒による劣化を防いでいる。今後3000㎡規模に拡張するには、さ らなる塗布方法の検討が必要である。実験ではガラス基板よりも高い 耐候性や耐温度変化性が確認されているが、幅1mで約3000mの長さ が必要であり、分割や塗布技術の課題が残る。  次に、ソーラー水素からグリーン燃料への変換である。天候や昼夜で 水素生成は不安定で、大量高圧貯蔵は効率的でなく価格的にも適切 でない。そのため小規模に貯蔵した水素をDSS運転で化学物質に変換 し、貯蔵・輸送に適した化学物質に変換する方向を目指している。候補 はメチルシクロヘキサン、メタン、アンモニア等であり、200~300℃で 作動する熱触媒システムが必要となる。 破が必須である。現在は主としてTa系触媒が開発され、BSTONで理 論値17%、BaTaO₂Nでは20%近い性能が期待される。紫外光応答型 のSrTiO�では内部量子収率はほぼ100%に達しており、可視光応答 型の光触媒でも光触媒材料の合成法の改良と助触媒の適切な選択 で到達可能と考えている。  SrTiO�光触媒は40年かけて量子収率約0.1%から10%程度まで進 展し、その後1年程度でほぼ100%に到達した。これは光触媒そのもの の性質の改良に時間がかかったことを示している。現在、可視光応答 型光触媒そのものの課題の本質は明らかになりつつあり、性能向上は 加速すると期待している。我々も数年以内に目標領域へ到達すべく研 究を続けており、その可否は挑戦を通じて確かめるしかない。  我々はEUの「Horizon Prize Contest」に東京大学・INPEXと参加し、 まとめ 22の応募の中から選定された決勝3チームの中で優勝した。構築した システムは分離膜で水素を精製し、CO₂を用いてメタンを合成するもの  「ソーラー水素」は太陽光を利用して水を分解し、二酸化炭素を排 で、2022年にイタリアJRCで3日間のコンピュータ制御によるDSS運転 出せずに生成できる次世代エネルギーである。化石資源に依存せず、 で実証実験を行った。この経験から、大面積化は現実的であると確信し 持続可能な社会を実現するうえで重要な鍵を握っている。 ている。  特に光触媒を用いた水分解研究は急速に進展しており、商業化の  さらにアンモニア合成の研究も進んでいる。東工大の原教授が開発 目安とされるSTH効率5%の達成が現実味を帯びつつある。大面積 した鉄系触媒は、従来比で約2倍の活性を示し、低圧・低温で十分な性 化や耐久性、安全性といった課題も依然残るが、克服できればエネル 能を持つ。静岡大学福原教授は光触媒とリアクターの組み合わせで圧 ギー転換の柱となる可能性は大きい。 力損失を低減し、INPEXや東大と協力して実験を行っている。新規触媒  今後の動向を把握し、研究開発や事業戦略にどう取り込むかを考え は���℃で従来触媒の���℃並みの活性を示し、���℃・�MPaでワン ることは重要ではないだろうか。 パス70%以上、200℃では85%以上のアンモニア平衡転嫁率に到達 する。 ※記事内容および、ご所属等はセミナー開催当時のものです。  グリーン水素は通常、常温・常圧で生成するので、比較的マイルドな 条件でDSS運転に対応できることは大きな利点である。これは化石資 源を使わずに安価なグリーンアンモニア製造を可能にし、2050年以降 の主要燃料となる可能性を示している。  社会実装に向け、1ユニット1万㎡規模の光触媒システムを構想して おり、1km²規模なら100基を配置する計算である。商業化にはSTH効 率5%が最低条件であり、企業からも「5%あれば事業化可能」との声 を得ている。現在の課題は、この数値をいつ光触媒で達成できるかに ある。  我々の開発してきた光触媒の例を図に示してある。単段階型やZス キーム型の量子収率が示され、STH�%超には右上の特定領域の突 © Stockmark Inc.
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