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新電元TVSダイオード製品をより安心してお使いいただくために、製品の動作説明・使用上の注意などのノウハウを技術資料にまとめました。
新電元TVSダイオード製品をご使用する際にお役立てください。
このカタログについて
ドキュメント名 | TVSダイオード技術資料 |
---|---|
ドキュメント種別 | ハンドブック |
ファイルサイズ | 1.2Mb |
登録カテゴリ | |
取り扱い企業 | 新電元工業株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧) |
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このカタログの内容
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技術資料(TVSダイオード編)
J531-1 rev.1(2019.12)
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1. TVS ダイオード
1-1. TVS ダイオードの概要
1-1-1. TVSダイオードとは
TVSダイオードは、シリコン PN接合の逆方向アバランシェ降伏現象を応用したクランプ型のサージ保護素子
です。一般の定電圧素子であるツェナーダイオードに比べ、逆方向に大きなサージ電流を流せるのが特長です。
図1に TVS ダイオードの電圧-電流特性を示します。第一象
限の特性を利用します。OFF時と ON時の顕著な非線形特性を
有していることから、サージに対する応答特性が速く、安定し
たクランプ電圧を得ることができます。
当社 TVSダイオードのチップ構造については、独自の化学
的物理的に安定したガラスパッシベーション使用しており、耐
湿性、耐熱性に優れた構造です。 図 1 電圧-電流特性
図2に TVSダイオードの使用例を示します。
被保護回路の前段に、並列に TVS ダイオードを入れます。サージ電圧が発生し、TVS ダイオードの耐圧を越
えると TVSダイオードに電流が流れ、非保護回路に印加される電圧は VCL以下に抑えられます。
なお、TVSダイオードは定電圧用途でのご使用は想定しておりませんので、ご注意下さい。また、連続サージ
印加状況でのご使用につきましては担当営業までお問合せ下さい。
IS:サージ電流、VS:サージ電圧、VCL:クランピング電圧、Z:等価サージインピーダンス
図2 サージ等価回路
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1-1-2. TVSダイオードの選定方法
1) 連続印加電圧 VRMの選定
被保護回路に定常時印加されるピーク電圧値以上の VRM定格の素子を選定して下さい。
2) せん頭サージ逆電流の選定
図2の等価回路において TVSに流れるサージ電流 ISは、IS=(VS-VCL)/Z により求められます。
求められた IS以上の IRSM定格を持つ素子を選定して下さい。
3) 動作開始電圧 VBRの選定
TVSは、素子に流れるサージ電流 ISによってクランピング電圧 VCLが変動します。せん頭サージ逆電流-
クランピング電圧特性図が素子ごとにありますので、使用回路で想定されているサージ電圧 VSと等価サ
ージインピーダンス Z にて計算された ISでの VCLが、被保護回路の許容電圧以下である素子を選定して
下さい。せん頭サージ逆電流-クランピング電圧特性図において IRSM=1mA点の VCLが動作開始電圧 VBR
となります。
(1-3-1項の「せん頭サージ逆電流‐クランピング電圧特性図」に関する説明もご参照ください)
4) 接合容量 Ctの確認
素子ごとの接合容量 f-Ct特性図、接合容量 VR-Ct特性図をご参照下さい。また、信号品質への影響がな
いかをご確認ください。
1-2. 特性用語一覧
1-2-1. 絶対最大定格(瞬時であっても超えてはならない値)
表 1 絶対最大定格
項 目 記 号 用 語 の 説 明
保存温度 Tstg 素子非動作中に超えてはならない保存周囲温度
Storage temperature
接合部温度 Tj 素子動作中に超えてはならない接合部温度
Junction temperature
せん頭サージ逆電力 PRSM 指定条件にて許容し得る逆方向電力ピーク値
Maximum surge reverse power PRSM = VCL × IRSM
せん頭サージ逆電流 IRSM 指定条件にて許容し得る逆方向電流ピーク値
Maximum surge reverse current
連続印加電圧 VR(DC) 連続印加可能な逆電圧の最大許容電圧ピーク値
Continuous (direct) reverse voltage
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1-2-2. 電気的・熱的特性
表 2 電気的・熱的特性
項 目 記 号 用 語 の 説 明
動作開始電圧 VBR 指定条件にてダイオードに規定の逆電流を流した時の逆方向
Breakdown voltage 電圧
クランピング電圧 VCL 指定条件にてダイオードに定格値のせん頭サージ逆電流を印
加時の逆方向電圧ピーク値
逆電流 IR 規定条件にて、逆電圧を印加した時に流れる電流値
Reverse current
熱抵抗 Rth(j-x) 規定条件にて、定常状態での熱の伝導の度合いを表す数値
Thermal resistance または 1W 当たりに接合部と x 間で生じる温度差
Rth(j-a) : 接合部と周囲間の定常熱抵抗
Rth(j-l) : 接合部とリード間の定常熱抵抗
1-3. 電気的特性
表3 TVSダイオード定格表(例)
項 目 記 号 条 件 規格値 単位
保存温度 Tstg -55~175 ℃
Storage temperature
接合部温度 Tj -55~175 ℃
Operating Junction temperature
せん頭サージ逆電流 IRSM
10/1000μs 非繰り返し 10 A
Maximum surge reverse current
せん頭サージ逆電力 PRSM 10/1000μs 非繰り返し 400 W
Maximum surge reverse power
連続印加電圧 VRM 23 V
Maximum reverse voltage
動作開始電圧 VBR
IR=1mA、パルス測定 Min. 24.3 V
Breakdown voltage Typ. 27.0
Max. 29.7
逆電流 IR VR=23V、パルス測定 Max. 5 µA
Reverse current
熱抵抗 Rth(j-l)
接合部・リード間, プリント基板実装 Max. 23 ℃/W
Thermal resistance
Rth(j-a)
接合部・周囲間, プリント基板実装 Max. 157 ℃/W
1-3-1. せん頭サージ逆電流‐クランピング電圧
せん頭サージ逆電流‐クランピング電圧特性図を図 3 に示し
ます。縦軸をせん頭サージ逆電流 IRSM、横軸をクランピング電
圧 VCLとした片対数グラフで表しています。
指定波形で逆方向サージ電流印加した時、クランピング電圧
が何 Vになるかを示しています。代表値での記載になりますの
で、被保護回路を確実に保護するためには、VBR規定条件であ
る1mA点にてVBR MAX値まで特性ラインを平行移動してご確 図 3
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認ください。
また、後述の通り、温度に対する変化もありますので、図 4 の動作開始電圧特性図も参照する必要があり
ます。
指定波形は、せん頭サージ逆電力・せん頭サージ電流の条件と同じ波形となります。
上記クランピング電圧特性は、電流波形が 10/1000μs の場合の特性となります。実際に印加されるサージ
波形が上記と異なる場合がありますので、ご注意ください。
1-3-2. VBR-Tj特性
動作開始電圧の温度依存性を図 4に示します。縦軸を動作開
始電圧 VBR、横軸を接合部温度 Tj としたグラフで表していま
す。当社ラインナップ品は、温度が上がると VBR値は上昇して
いく特性となります。代表値での記載になりますので、被保護
回路を確実に保護するためには、VBR規定温度である Tj=25℃
点にて VBRMAX 値まで特性ラインを平行移動してご確認くだ
さい。
図 4
また、前述の通り、せん頭サージ逆電流に対する変化もありますので、図 3のせん頭サージ逆電流‐クラン
ピング電圧特性図も参照する必要があります。
1-3-3. IR-Tj特性
逆電流の温度依存性を図 5に示します。縦軸を逆電流 IR、横
軸を接合部温度 Tjとした片対数グラフで表しています。
逆方向特性は温度係数が正(温度が高いほど IRが大きくな
る)という特長があります。
図 5
Page6
1-3-4. せん頭サージ逆電流耐量
パルス幅 tp に対するせん頭サージ逆電流耐量 IRSMの依存性
を図 6に示します。縦軸に IRSM、横軸にパルス幅 tpとした両
対数グラフで示しています。定格表に示される 10/1000μs時
の耐量は 10A です。図 6 から 10/1000μs 波形は 1ms の tp
と近似できるので 1ms 時の耐量は同様に 10A となっていま
す。
図 6
1-3-5. 接合容量 f-Ct
周波数 f に対する接合容量 Ct の依存性を図 7 に示します。
縦軸に接合容量 Ct、横軸に周波数 fとした両対数グラフで示し
ています。
連続印加電圧定格 VRM値での接合容量 Ct の周波数 f の依存
性を示しています。後述のように Ctは VRに対する依存性もあ
りますので、図 8の接合容量 VR-Ct 特性図も参照する必要が
あります。
図 7
1-3-6. 接合容量 VR-Ct
逆電圧 VRに対する接合容量 Ctの依存性を図 8に示します。
縦軸に Ct、横軸に逆電圧 VRとした両対数グラフで示していま
す。
基本的に f=100kHzの条件でCtの逆電圧VRに対する依存性
を示しています。前述のように Ct は周波数 f に対する依存性
もありますので、図 7の接合容量 f-Ct 特性図も参照する必要
があります。
図 8
Page7
1-3-7. 過渡熱抵抗
基本的な熱計算の考え方はダイオードと同様、損失 Pave(W)
を求め、Tj MAXを超えないように設計してください。
ただし、PRSM・IRSMは熱計算対象外です。判断が難しい場合
は、担当営業までお問い合わせ下さい。
図 9
1-4. 接合部温度の推定
1-4-1. 熱抵抗
素子の動作時に発生する電力損失は、全て熱に変換され、接合部温度を上昇させます。設計された放熱系
(放熱フィンなど)で、カタログ規格表に指定される Tj MAX以下に接合部温度が抑えられているかを確認
し、Tj MAXを超える場合は、放熱フィンや周囲温度条件の見直しを行わなければなりません。
モールド樹脂などで密閉されたTVSダイオードチップの接合部温度を直接測定することはできませんので、
外部温度より接合部の温度を推定する必要があります。この推定に使われるのが熱抵抗 Rthで、ダイオード
の消費電力(電力損失)に対する熱伝導の抵抗度合いを表します。この接合部から周囲(外気)への熱の伝
導経路は、図 10 のような電気的等価回路で表されます。カタログ定格表や特性図に出てくる温度および熱
抵抗は、添字によりどの位置なのかを表します。
Cjc CS Cc
(ダイオードチップ) 放熱系
接合部 (放熱フィンなど)
Rth(j-c) ケース Rth(S) Rth(c)
(パッケージ外面)
Rth(c-f)
C R
ca th(f-a) Cfa
Rth(c-a)
周囲温度
図 10 熱抵抗等価回路
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それぞれの添字は、下記のような位置を表します。
Rth(j-c):接合部-ケース間の熱抵抗 Cjc:接合部-ケース間の熱容量
Rth(S):絶縁板の熱抵抗 Cs:絶縁板の熱容量
Rth(c):ケース-放熱フィンの接触熱抵抗 Cc:ケースの接触熱容量
Rth(c-f):ケース-放熱フィン間の接触熱抵抗 Cfa:放熱フィン-周囲間の熱容量
Rth(f-a):放熱フィン-周囲間の熱抵抗 Cca:ケース-周囲間の熱容量
Rth(c-a):ケース-周囲間の熱抵抗
Tjは TVSダイオードの接合部の温度のことであり、Rth(j-c)は接合部とケースの間の熱抵抗のことです。
実際に TVSダイオードに印加される電圧・電流より、順方向損失・逆方向損失を求めます。両損失を足し
た値が、TVSダイオードトータル損失となります。トータル損失に熱抵抗 Rth(j-□)を掛けた値が、TVSダ
イオードの接合部と対象箇所(位置)間の温度差となります。
1-4-2. 付記
当社では 2017 年度より、JEITA ED4511B に従って、従来使用していた特性記号を一部変更いたしまし
た。読み替えの際は、下表を参照して下さい。
新 表 記 旧 表 記 備 考
熱抵抗 Rth(j-x) 熱抵抗θjx 同義
Thermal resistance Thermal Resistance 過渡熱抵抗は Zth(j-x)で表す
接合容量 Ct 接合容量 Cj 同義
Total capacitance Junction Capacitance