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自動車業界ではADASやインフォテイ ンメント機能の開発が進んでいますが、大容量データ通信が必要なビデオ伝送システムの設計では、コスト増加をはじめとしてさまざまな課題が生じています。
本稿では、車載向け高速ビデオ伝送における解決策のひとつとして、ギガビット・マルチメディア・シリアル・リンク(GMSL) SerDes ICを紹介します。
GMSLは1本のケーブルで6Gbspの高速伝送を最長15mまで実現可能です。
ADASやインフォテインメントにおいてどのような機能向上が期待されるのか、実現のために必要とされる設計内容はなにかなどについて解説します。
このカタログについて
ドキュメント名 | ADAS・インフォテインメントの課題を解決する車載向け高速ビデオ伝送技術「GMSL」 |
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ドキュメント種別 | 製品カタログ |
取り扱い企業 | アナログ・デバイセズ株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧) |
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このカタログの内容
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Technical Article
ADAS・インフォテインメントの課題を解決
する車載向け高速ビデオ伝送技術「GMSL」
1 本のケーブルで 6Gbsp の高速伝送を最長 15m まで実現可能
著者:オートモーティブ ビジネスグループ
キャビンエクスペリエンス
プリンシパル フィールドアプリケーションエンジニア 江口 慶亮 著
はじめに
自動車業界ではADAS(先進運転支援システム)やインフォテイ
ンメント機能の開発が進んでいますが、大容量データ通信が必要
なビデオ伝送システムの設計では、コスト増加をはじめとしてさ
まざまな課題が生じています。本稿では、このような車載向け高
速ビデオ伝送における解決策のひとつとして、ギガビット・マル
チメディア・シリアル・リンク(GMSL) SerDes ICを紹介します。
ADAS・インフォテインメントのトレンド
まず、ADASやインフォテインメントにおいてどのような機能向
上が期待されるのか、実現のために必要とされる設計内容はなに
かについて解説します。 図1.自動運転レベルとカメラやユニットの配置
ADAS 図1は、自動運転レベルごとのカメラやユニットの配置を示すも
ので、ベージュ色の四角がカメラの位置を表しています。この図
ADASでは、さまざまな運転支援機能の追加が期待されていま
から、自動運転レベル2なら6個、レベル3で12個、レベル3以
す。例えばアメリカで実施されたアンケートによると、死角検知
上では18個以上のカメラが必要と分かります。
や駐車支援、降雨検知といった機能が求められています。ただ、
これらの機能を実現するためには、カメラの解像度を今まで以上
に高めなければなりません。 インフォテインメント
インフォテインメントにおいては、車載ディスプレイの大型化が
例えば死角検知や駐車支援であれば3メガピクセル、降雨検知で トレンドとなっています。
は8メガピクセルの解像度が必要になると想定され、画像伝送用
ICの伝送速度もこれらの解像度に対応しなければならなくなって
います。
また、自動運転車の自動運転レベルも向上していますが、レベル
が上がるほどADASとしてのカメラのリンク数や処理用のユニッ
ト数は増えることになります。
図2.インフォテイメントのトレンド
図2のように、2020年時点で2000×2000の解像度を持つ
ディスプレイの搭載が始まっていますが、2021年には解像度は
2000×3000に向上しており、かなりの速度で大型化が進んで
います。さらに、2025年には2000×7000といったように、
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ダッシュボード(インパネ)の左右いっぱいに広がるディスプレ そのため、デジタルデータの欠落を監視する機能や、データが正
イが登場すると予測されています。 しく送られていることを担保するデータの完全性を確保すること
が求められます。
ディスプレイサイズが大型化するのに伴い、画像を生成する
ユニットからディスプレイまでの通信も高速化する必要が生
じ ま す。 具 体 的 に は、 解 像 度2000×2000で は6Gbpsや GMSLの構成
12Gbpsの伝送速度で対応できますが、2000×3000になると このように、ADASやインフォテインメントの機能向上により、
20Gbps、2000×7000だと24Gbps以上の伝送速度が必要と 画像データ通信にはさまざまな課題が発生しますが、アナログ・
なります。 デバイセズの「GMSL」であれば、これらの課題を解決できます。
GMSLの構成について図3を使って説明します。
4つの課題
このように、運転支援、インフォテインメント機能は高性能化・
高機能化しながら増えていくことが予測されています。一方で、
製品化に当たっては、設計上さまざまな課題が生じます。その中
から4つの課題を紹介します。
開発期間・コストの増加
ADASでは、運転支援機能や自動運転レベルの向上に伴ってカメ
ラ、処理ユニットの数が増えるため、通信に使うケーブルの本数
も増加します。すると、車体設計が複雑になり、開発時間が長期
化し、ケーブルのコストも上増えるという問題が生じます。
図3.GMSL SerDesリンク・アーキテクチャ
そのため、いかにケーブルを減らして設計を簡略化するかといっ
た工夫や、ケーブル自体のコストを減らす努力が必要となってき こちらはカメラの映像信号ユニットの機能ブロック図です。
ます。 GMSLには高速SerDes技術が使われており、シリアライザ(送
信器)とデシリアライザ(受信器)を組み合わせた構成です。
広帯域幅の確保 カメラの映像データがどのように通信されるか見ていきます。ま
画像伝送の広帯域化も大きな課題です。カメラ画像の高解像度化 ず、イメージセンサから出力されたビデオデータは、シリアライ
やADASにおける処理の精度を上げるためには、カメラの解像度 ザが受け取ってデジタル信号に変換し、ケーブルに出力します。
向上が欠かせません。 伝送されたデジタル信号を受信側ユニットのデシリアライザが受
現状は1.3メガピクセルのカメラが主流ですが、3メガピクセル、 信してビデオデータを復元、最後にプロセッサがデータを受け
6メガピクセルと解像度が高くなると、現状の帯域幅では通信速 取って映像に変換し、ディスプレイに表示します。この通信では
度が足りなくなります。そのため、従来よりも広帯域幅での通信 数Gbpsの非常に高速なデータ伝送を行います。
が必須となります。 一方、図3の紫の円で囲まれた部分はGPIO、SPI、I2C/UARTと
いった、相互通信が必要な通信です。こちらは先ほどとは逆方向
相互通信の複雑化 の伝送となるため、デシリアライザからシリアライザに通信する
3つ目の課題は相互通信の複雑化です。カメラ画像の通信自体は、 ことになります。信号の伝送速度は順方向通信と比べて非常に低
撮影した画像データをトランスミッターで送信し、レシーバーで 速なので、順方向通信と同じケーブルを使い、フィルタ回路で分
受信してプロセッサで処理するといったシンプルな構成で行いま 離することで通信を行っています。
す。
しかし、最近のカメラにはイメージセンサだけでなくさまざまな GMSL採用によるメリット
機能が付いているため、それらとの通信も行わなければなりませ それでは、GMSLを採用すると、具体的にどのようなメリットを
ん。また、ADASではカメラが正常に動いているか監視すること 得られるか紹介します。
も重要ですから、単純にカメラ信号を受信するだけでなく、複雑
な相互通信が必要となるのです。 配線の自由度が向上
GMSLでは、差動通信用ケーブルと同軸ケーブルのどちらを使っ
データの完全性確保が必要 ても15mまでの伝送が可能です。他のICよりケーブルを長くで
ADAS用の通信では、データの完全性確保も必須です。目視する きるため、配線の自由度が向上するほか、ケーブル長が短くても
ための映像ならばともかく、画像データが安全性に直結する場合 良い場合であれば、ケーブルの品質を下げることでコストを抑え
は、画像データの欠落が起きないよう設計しなければなりません。 られるメリットがあります。
2 ADAS・インフォテインメントの課題を解決する車載向け高速ビデオ伝送技術「GMSL」
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一般的に、数Gbpsの信号を伝送する場合、信号は大きく減衰し、 EMC耐性
ケーブル品質が低いほどその減衰幅は顕著になります。しかし EMC耐性についても、車載OEMメーカーの厳しい基準を達成可
GMSLでは減衰が大きくても高速通信に耐えられるよう設計され 能であり、実績もあります。
ていることから、低品質ケーブルであっても利用可能です。
アナログ・デバイセズではEMC耐性についても豊富なノウハ
具体的には第二世代のGMSL2は一般的な車載対応同軸ケーブル ウを持っているため、IC設計、基板設計を適切に行えば十分な
で6Gbps通信を15m達成可能です。 EMC耐性を得られます。
また、現状で差動通信用ケーブルを採用している場合は、同軸
ケーブルに変更することでコストを大きく低減できます。 競合他社との違い
ここまでGMSLの特長を紹介しましたが、同様の機能を有したビ
ピン共通化による世代間の互換性確保 デオ伝送ICは他社からもリリースされています。ただ、アナロ
グ・デバイセズは競合他社と比べ、最も早く最も高速に通信でき
各世代の製品は全てピン互換(ピンコンパチブル)設計となって
るビデオ伝送ICをマーケットにリリースしているという優位性が
いるのも特長です。GMSLは第一世代から第三世代までリリース
あります。
しており、世代を経るごとに通信速度は大きく向上しています。
アップデートに伴い、内部ではさまざまな処理の変更をしており GMSLと競合他社によるリリース状況を、図4を基に解説します。
ますが、ピン互換を保っているため使い勝手は変わりません。
そのため、利用する側としては設計を変更することなく、新世代
のGMSLに交換することで簡単に伝送速度を向上させられる強み
があります。
双方向通信が可能
GMSLならケーブル1本で相互通信が可能です。オーディオ、各
種制御信号、ギガビットイーサネットなど幅広いデータをパケッ
トに入れ込むことができるので、各種センサなどの制御やカメラ
動作の監視などを簡単に行えます。
図4. GMSLと競合他社によるビデオ伝送ICのリリース状況
広帯域幅の通信に対応 図4のうち、緑色の点と、明るい水色の点がGMSLです。赤が競
GMSLは、広帯域幅通信にも対応しています。第一世代は 合他社であるA社、濃い青がB社の製品です。グラフの横軸は年
3Gbps、第二世代は6Gbps、第三世代は12Gbpsまでの通信速 代、縦軸はデータ伝送速度となっており、左上にある点ほどいち
度を実現します。4Kディスプレイや、8メガピクセルのイメージ 早く高性能なICをリリースしていることになります。
センサなど高性能な製品にも対応しているため、今後のADASや
インフォテインメントの進化にも十分に対応できます。 このグラフを見て分かるように、データ伝送速度6Gbpsの
GMSLを2018年に市場にいち早くリリースしました。翌2019
年には第3世代GMSLも他社に先駆けてリリース済で、12Gbps
データの完全性やシステムの安全性を担保 を達成しました。
データの完全性やシステムの安全性を、GMSLなら高いレベルで
担保できます。データの完全性については、伝送信号のIパター 現在では12Gbsをさらに上回る高速な第4世代GMSLの開発を
ンを常時モニタリングすることで、信号品質を自己診断していま 進めており、アナログ・デバイセズは今後も他社より早く、最も
す。Iパターンが一定以上劣化したらエラーを出力します。ビット 高速なビデオ伝送ICのGMSLをリリースする見込みです。
欠けなどのエラーも検出でき、さらにアルゴリズムによるエラー
の訂正も可能です。 GMSL採用状況
また、シリアライザ、デシリアライザ自体に異常が発生した場合 最後に、GMSLの具体的な採用状況について解説します。まず、
でも、ICが自ら故障を検知してアラートを出す機能を備えていま GMSLは北米、ヨーロッパ、アジア、そして日本と、各地域の数
す。IC単体でASIL-B機能安全(ASIL:自動車用安全水準)に対 多くのOEMメーカーで、以下のような用途に採用されています。
応するほどの故障検出率を実現しているため、GMSLを使用する
場合は、GMSLのアラートを用いて設計することで、システム側
は高い要求のセーフティゴールを達成できます。
VISIT ANALOG.COM/JP 3
Page4
• センターインフォメーションディスプレイ(CID)
• リアシートエンタテイメント(RSE) EngineerZone®
• フォワードカメラ(FCA) オンライン・サポート・コミュニティ
• サラウンドビューモニタ(SVM) アナログ・デバイセズのオンライン・サポート・コミュ
• ドライバーモニタリングシステム(DSM) ニティに参加すれば、各種の分野を専門とする技術者と
• RADAR/レーダーセンサ ・LiDAR の連携を図ることができます。難易度の高い設計上の問
• ECU-ECU間通信 題について問い合わせを行ったり、FAQを参照したり、
ディスカッションに参加したりすることが可能です。
中でも、サラウンドビューモニタやセンターインフォメーション
ディスプレイでは、ほとんどのOEMメーカーにGMSLを採用い
ただいています。
Visit ez.analog.com
おわりに
今回は、ADAS、インフォテインメントが持つ4つの課題を解決
できるGMSL SerDesICの特長を紹介しました。GMSLは高速画
※本稿は2023年6月時点の情報に基づいています。
像データ通信を実現しており、ADASやインフォテインメントの
進化による画像信号の高速化に対応できるICです。
複雑な相互通信やデータの完全性確保に対応しつつ、高い伝送可
能距離とEMC耐性を備えており、開発工数やコスト削減に貢献
します。競合他社と比べても開発スピードが早く、世界中の車載
メーカーに採用されている実績もあり、車載ビデオデータ通信に
おいてはスタンダードなICだと言えるでしょう。
著 江口 慶亮
オートモーティブ ビジネスグループ
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プリンシパル フィールドアプリケーションエンジニア
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